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瀉血

 男にとって、自分という存在は完全であった。間違っているのは周りであると思っていた。己が間違いであると実感した時、男は涙した。俺の事を世の中はどんな滑稽な道化師であると思ってみていたのだろうか。それを考えると悔しくて涙が止まらなかった。

 男は本質的には、臆病で、それを塗りたくるように傲慢をかぶっていた。己は孤高であると無意識下にすら刷り込みそれをひたすらに隠し続けた。男の中に残ったのは、かすれた感性と、多大な承認欲求。分厚い仮面が公衆の面前で割られることなど、なかった。

 続けてきたすべてを否定された彼は、声を殺し、黙って涙を流した。空っぽになった大部屋で、彼は紙とペンを前に、涙を流しながら、黙って執筆をつづけた。タネが割れ、だれも見向きもしない薄っぺらい小説を。

(泣く暇があるなら、書け)

 仮面のかけらが語り掛ける。男は流れる涙をぬぐうこともせず、書き続けた。薄っぺらな小説が展開されていく様を、男は泣きながら書き続けていった。やがて、それが終わりに近づいたとき、男は鼻をすすりながら、一人で泣いた。それを慰めるものはおろか、見る者すらいなかった。男は、一人だった。

 男には、何もなかった。

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