三人目の四年生襲来!
少し気分が落ち着いてきたので、先輩たちと雑談をしていると、居室にあった掛け時計が鳴り、午前9時を知らせた。
それとほぼ同じタイミングで白髪のよく似合う年配の男性がやってきた。
この方はもちろん覚えている。
私たちの有機化学の授業を担当していた御堂筋教授だ。
授業はとても分かりやすかったものの、言葉に重みというか威厳があり、少し怖かったイメージを持っていた。
「君達がウチの研究室に配属になった4年生か?」
私はなんとなく緊張しながら、はい。そうです。と答えた。
「なるほど。私が聞いた話では今年は3人が配属されるんだがもう一人については何か聞いていないか?」
私とアルミちゃんは交互に顔を見合わせ、互いに首を傾げた。
「あと一人は江坂 鈴ちゃんです。
特に遅れるとか、休むとかの話は聞いてないですけど…。」
そう私が答えた瞬間呼び出し音が鳴る音が聞こえた。我孫子先輩が立ち上がって扉を開けに行った。
「すいません!!!!遅れました!!!!」
部屋の向こうからでもよく通る声が聞こえる。足音が近づいてきて、居室のドアがガチャリと開いた。
息を切らし、額の汗を拭いながらもう一度先程より大きな声で江坂さんは謝罪した。
「すいません!!!!!!遅れました!!!!!!」
そして、沈黙。
沈黙に耐えきれず口を開いたのは江坂さんだった。
「あの…すいません…。研究棟が広くて…ここ、来たことなくて…。それでえっとその…。どこか分からなくて…。」
見るからに動揺している。拭うたびに汗が流れている。お手本のような冷や汗だ。
なんとなくこっちも緊張してしまう。
「今日が初めてだろうし場所が分からないのは仕方がないことだが、早目にきて場所を確認することは可能であったはずだ。そして数分であっても遅刻は遅刻。以後気をつけるように。」
御堂筋教授が低い声でピシャリと江坂さんを叱る。江坂さんは小さくなりながらすみませんでした…。ともう一度呟くような声で謝罪した。
「それでは、全員揃ったので会議室に集合しよう。
そこで簡単な顔合わせと研究テーマの紹介を行う。」
教授がそう告げるとみんなぞろぞろと会議室に向かう。
向かう途中、西九条先輩が江坂さんにドンマイ、と励ましているのが見えた。
西九条先輩、案外優しいのかもしれない。