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8話 魔王とお土産交換しました


 それからアンリは爪に魔法に、その他さまざまなスキルを使いソニアを攻略しようとしたが、それらすべてをソニアは受けきり、着実に反撃を重ねていった。


「たぁっ!」


 またソニアの一撃がアンリの身体を切り裂いた。

 最初は当たっていたアンリの攻撃も、今はすべて見切られまともにダメージを与えられていない。

 アンリは肩で息をしながら、だらりと両腕を下げた。

 また新しい攻撃かとソニアは身構える。

 しかしアンリはこわばっていた表情を崩し、力の抜けた様子で座り込んだ。


「あーもう辞め、こりゃ勝てない、降参」


 そう言ってアンリは鉤爪をシュッと引っ込めると、女の子らしい手を頭の上へ掲げた。

 雰囲気が変わったアンリにソニアは唖然としてしまう。


「えっと、この戦いって降参ありなの?」

「アリかナシかはあたしらで決めることよ、どう? 降参を受け入れてくれる?」

「でもいつかまた挑んで来るんでしょ?」

「まぁねー、300年は先かな」


 アンリは生死の瀬戸際にあるというのに、あっけらかんとした様子で笑っている。

 ソニアは少し迷ったが、アンリの様子を見ていたら殺し合いをする気分では無くなっていた。


「うん、わかった。降参を受け入れる」

「ありがと!」


 ソニアの言葉に、アンリは笑ってお礼を言うと座り込んだ。


「最初は行けると思ったんだけどなぁ。思ったとおりに高レベルスキル連発してきたし」

「最初の態度って、もしかして挑発だったの?」

「うん。ああいう感じでやれば全力でぶっ潰してやろーって気になって私の予想通りの戦い方をしてくれると思って」


 最初の魔王っぽい雰囲気は完全に消え、今のアンリはコロコロと笑う気まぐれな少女そのものだ。

 ソニアは、高校生だった頃に仲の良かった友達を思い出し、ちょっとだけアンリに親近感をおぼえていた。


「今回の終のものラストワンは強いねー。前回のは初戦だと右腕一本持っていけたのに」

「え、前にも戦ったことがあるの?」

「私、ここの常連なの」

「常連って……」


 アンリは白銀の指輪を1つ見せた。

 ソニアのスキルがそれが何なのかすぐに解析する。


「リングオブミラクル。奇跡の指輪」


 身に着けていれば殺された時に一度だけ身代わりとなって砕け、あらかじめ記録しておいた本拠地まで脱出する、極めて希少な魔法の指輪だ。


「もし降参が受け入れられなくてもこれで逃げられるってわけ」

「なんだ」

「でもこれ1つ作るのにドラゴンの心臓が3つも必要なんだから、壊されなくてよかったよ。おかげで私はドラゴン達のお尋ね者」


 アンリはカラカラと爽やかに笑った。


終のものラストワンになったばかりのヤツはとにかく強力な攻撃手段を連発するのが普通なんだ。そこを狙って対策していけばいけると思ったんだけどね」

「確かに。最初の方はそれで結構苦戦しちゃった。何やっても対策されてるんじゃないかって」

「実際は高レベルスキルに絞ってたんだ。無数に存在するスキルをすべて対策してたら、それだけで魔力が枯渇しちゃうよ」

「すっかり策にはまっちゃってたのね」

「でもすぐに戦い方を修正したでしょ? ああされちゃったらお手上げ」


 アンリはじっとソニアを見つめる。


「見事な戦い方だった、完敗よ」

「でへへ」


 褒められ慣れていないソニアは、アンリの真っ直ぐな賞賛に照れてしまう。

 アンリはますます興味深そうにソニアを見つめた。


「前の2人はもっと自分の力に酔いしれてる感じだったのに、なんだかあなたは自然体ね」

「そうだ! その前終のものラストワンってどういうことなの?」

「ありゃ、まだ聞いてなかったんだ」


 アンリはパンパンと手をたたく。

 するとガネットが光の柱から降りてきた。


「私はあなたに仕えているわけではないのですが」


 微妙に不満そうな表情をしているのはアンリに呼ばれたためか。

 ガネットは第一印象の冷たさとは裏腹に、やっぱり表情豊かだとソニアは笑ってしまった。


「いいじゃん。それに説明もなしに戦わせるなんて酷いなー」

「誰のせいで説明できなかったと思っているのですか。このタイミングを狙ってきたのでしょう?」


 ガネットはアンリとじろりと睨んだあと、コホンと咳払いしてソニアへと向き直る。


「おめでとうございます、鮮やかな勝利でした」

「ありがとう」


 ガネットはシルクのタオルと赤いブドウジュースの入ったグラスを差し出した。

 ソニアは大鎌を折りたたんで背中に背負い、タオルとグラスを受け取る。

 タオルはふかふかで、ブドウジュースはよく冷えていた。

 ジュースを飲んでみると、これも上品な甘さでとても美味しい。


 ソニアとガネットの様子を見て、アンリは立ち上がる。


「それじゃ私は修行のし直ししてくるよ」

「あ、もう帰るの?」

「そりゃ私は降参したし、もうここにいる資格もないでしょ」

「じゃあちょっと待って」


 ソニアは空になったグラスとタオルをガネットにわたすと、大急ぎで上の部屋へと移動する。

 無駄に時間のかかる光の柱のせいであんまり急いでいるようには見えないが……。


 ソニアは上の部屋に戻ると、さっき飲んだオレンジジュースと同じ瓶を手にし、また下へと移動する。


「一体何を……」

「これお土産」


 ソニアはアンリにオレンジジュースの瓶を差し出した。


「お、お土産?」


 アンリとガネットは唖然としている。


(あれ?)


 ソニアとしては、特に深い考えがあったわけでもない。

 ただアンリに、ここまで苦労して来たのだから何か渡したかっただけだった。


「く、くく……」


 アンリは右手で口を覆い、漏れる笑いをこらえている。


「この魔王アンリと戦い、勝利し、お土産とは」


 堪えきれなくなったのかアンリは口を大きく開けて、大声で笑い始めた。

 溢れる魔力がビリビリと大気を震わせた。


「お、怒った?」


 急に笑いだしたアンリにソニアは不安そうに尋ねる。

 アンリは笑い声をピタリと止めると、人懐っこい笑みを見せた。


「いや遠慮なくいただくよ。ありがとう今代の終のものラストワン

「あ、私の名前はソニア・カルヴァリって言うの。ソニアでいいよ。終のものラストワンってなんだか仰々しくて、しっくりこないし」

「くく、仰々しくてか……わかった、ありがとうソニア」


(良かった、喜んでもらえた)


 ソニアはお土産を喜んでもらえたと無邪気に安心している。


「あたしからもお土産ってやつだ」


 アンリは白銀の指輪を自分の指から外すと、ソニアに差し出す。

 リングオブミラクルだ。


「これだけは、ここ巨人の夢跡ティタンズドリームにもないはずでしょ?」

「え、いや、そんなすごい物をもらうわけには」


 オレンジジュースとは明らかに不釣り合いな希少品である。

 だがアンリはソニアの手のひらの中に指輪を無理やり握らせた。


「要らない心配だとは思うけど、私がまたここに来るまで誰にも負けないでよ」

「う、うん」

「今回の挑戦は楽しかったよ。またねソニア」


 アンリは言葉通り、実に楽しそうに手を振って祭壇の部屋を出ていった。

 ソニアはなんだか有名人と仲良くなれたようで、ちょっとテンションが上がっていた。

 とはいっても、ソニアは魔王の事情などよくは知らないのだが。

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