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4話 残業・レベル上げなしです


 ソニアは屋敷の2階にある応接室へと案内された。

 ここも床一面に絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリアが輝き、透き通るような透明度のガラスがはめ込まれた窓からは日差しが差し込んでいた。

 その部屋でソニアとメイドはテーブルに向かい合って座っている。

 テーブルも木の種類はソニアも分からないが、手触りもよく高級品だとひと目で分かるものだった。

 呑気なソニアも、いい加減なにやらただならぬお屋敷であると理解してきたところだ。


「そ、それで私のお仕事って」


 メイドは鋭い視線をソニアに向ける。


「我々の所有する施設の管理人になって欲しいのです」

「管理人ですか?」


 レベル不問の管理人。となれば恐ろしい危険や高度な技術は要求されないはずだ。


(じゃあお掃除とかメンテナンスかな?)


 前世で読んだマンガに寮の管理人が出てくるものがあったことをソニアは思い出す。

 あれなら楽しくできそうだ。アットホームっぽいし。

 実際は寮の管理人は楽な仕事でもないのだろうが、前世で社会人になってから職場とアパートの往復しかしていないソニアは、他の仕事の知識をマンガや小説などからしか得ていなかった。


「仕事内容を詳しく聞いてみてから決めようとは思っていますが、すごく興味あります!」


 とりあえずやる気アピールしておく。

 ソニアの前のめりの姿勢に、メイドはまたニコリと微笑んだ。


「申し遅れましたが、私はガネットと申します」

「ガネットさん……ですね。よろしくお願いします」


 ガネットは、テーブルの引き出しから2枚の書類を取り出し並べる。

 1枚は説明資料で、もう1枚は契約書のようだ。

 ガネットは2枚ともソニアへと差し出した。


「具体的な仕事と致しましては、施設に侵入してくる敵を排除することです」

「モンスターがでるんですか? 私レベル11しかないので、あんまり強い相手は難しいのですけれど」

「大丈夫です、相手は格下ですので」


 大ネズミやブルースライムくらいなのだろうか? それくらいなら問題ないかとソニアは安心した。


「侵入される頻度は多くありません。ですので普段は監視業務となりますが、魔法による監視網を設置しておりますので、基本的に自由に待機して下さって構いません。何か本など持ち込んでも結構ですし、施設には図書館もありますのでそちらから本を持ち出すこともできます」

「残業なしというのは」

「はい、敵が侵入できる時間というのが正午から日没までと決まっていまして、業務に当たっていただくのはこの時間のみとなります。それ以外の時間はレオポートに戻っていただいても、そもまま施設に滞在していただいても構いません。一応、食事や洗面など生活に必要な設備はすべて整えております」

「お休みもいただけるのでしょうか」

「週に1日。安息日は施設自体も休業ということになりますので、すべての扉が封鎖されます。むしろ働けなくなると言ってもいいでしょう」


 ソニアは聞いた話を整理する。どうやら、本当に楽な仕事のようだ。

 それに“雑魚専”としてソニアが身につけてきたスキルが役立ちそうに思える。


(うん、良さげだよね)


 手元の資料に目を通すと、“巨人の夢跡ティタンズドリーム”という施設の管理人をやるらしい。

 資料には今ガネットが説明したようなことが書いてある。


「残業なし、固定休、レベル上げなし」


 なぜかレベル上げなしだけ、赤い太字で目立つように書いてあった。

 契約書にも目を通すと、同じように“レベル上げなし”をやたら協調している。


「確認しますが」


 書類を見ていたソニアにガネットが真剣な表情で言った。


「我々の仕事はレベル上げができなくなります。この点をご注意を」

「うんうん、大丈夫」


 レベル上げの苦労が無いならそれに越したことはない。

 ソニアはどうやら本当にホワイトな仕事っぽいとペンを手に取った。


「あ、でも」

「どうしました?」

「ついサインしようとしちゃいましたけど、ガネットさんは私で大丈夫なんですか?」

「この仕事はレベルやスキルが関係ありませんので、人格面に問題がなければ大丈夫です。ソニア様にならこの仕事をお任せしても良いと私は考えています」


 要求されるのは人格面のみ。レベルやスキルが重視されるこの世界ではありえないほど条件が緩いと言えるだろう。

 となれば、ここで迷えばいつ別の人がこの仕事を持っていってしまうかも知れない。

 契約書を読む限りレベル上げなしを強調する以外は特に変な部分はない。


「よし」


 ソニアは今度こそ健康で文化的な生活を送るんだという決意を込めて契約書にサインをした。

 ガネットは、ソニアのサインが入った契約書を受け取ると、自分のサインも加える。

 それからソニアの目を見て、ゆっくりと口を開いた。


「最後に確認します。ソニア・カルヴァリ、あなたは巨人の夢跡ティタンズドリームを司る終のものラストワンとなる契約を受け入れますか?」

「はい(なんか新しい単語が出てきたような?)」


 ちょっとだけ困惑しつつも、ソニアはもうサインもしちゃったしと気楽に答えた。

 次の瞬間、ソニアの身体に残っていた疲労や微かな頭痛などがすべて消える。


「おお!?」


 まるで身体が新品になったかのような軽さだ。

 ソニアの口から思わず感嘆の声が漏れた。


「では早速ですが巨人の夢跡ティタンズドリームへ移動しましょう」


 困惑するソニアへガネットはそう告げる。


「あ、はい。ここから近いんですか?」

「最も偉大なドラゴンの翼でも一ヶ月はかかるでしょう」

「はい?」


 さらにソニアは困惑した。

 レオポートから1分という話ではなかったのか?


「ではソニア様。移動をお願いします」

「いや、移動って言われても……」


 高レベルの魔法にはディメンジョンゲートという瞬間移動の魔法もあるが、宮廷魔術師のようなレベル40を超える最高位の魔法使い達ですら、魔力をすべてつぎ込んでも半径1キロ圏内への瞬間移動が限界だとされている。

 なのに世界最速の種族であるドラゴンですら1ヶ月かかる場所へ、どうやったら1分で移動できるのか。


「今のソニア様なら容易いことです」

「そんなこと言われても」

「できるようなっているのです。今のソニア様は、世界の果てだろうか手を伸ばせば届きます」

「あー、ええっと……」


 ガネットの話しぶりにもしかしてと、ソニアは自分のレベルを確認する。


 ソニア・カルヴァリ レベル9999

 クラス:終のものラストワン


「わぉ……」


 ソニアはそう呟くしか無かった。


「ワールドゲート……これかな?」


 数え切れないほどの魔法が使えるようになったようで、ソニアはその膨大な魔法のリストから目当ての魔法を選ぶ。


「ワールドゲート!」


 それは未だ人類には発見されていない究極の移動魔法。

 距離無制限かつ運べる質量も無制限。悪用すればどれほどの大災害を引き起こせるかも分からない大魔法だ。

 大魔法を使うときには大掛かりな儀式による魔力ブーストが必要なはずだが、今のソニアはそれを通常の魔法と同じように短い発声だけで発動した。

 世界最高峰の魔法使い達が泣いて謝るほどの偉業なのだが、ソニアは魔法を使わないタイプの戦闘スタイルだった為にその規格外さをあまり理解できていなかった。


(これなら買い物にくのも楽ちんだね)


 ソニアはそんなことを気楽に考えながら、ガネットと一緒にプツンと部屋から姿を消した。


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