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12/14

12話 1ヶ月経ちましたが楽しく裏ボスしています


 1ヶ月後。

 ソニアは今日も変わらず裏ボスをやっていた。

 とはいえ、今日も巨人の夢跡ティタンズドリームは平和だ。

 この1ヶ月の間、初日にアンリと戦って以来誰一人として侵入者はいなかった。


「来ない時は1年こないこともあるねぇ」

「そうなんですかぁ」


 ソニアは巨人の夢跡ティタンズドリームにある大浴場でお風呂に入っていた。

 レオポートにも公衆浴場はあるのだが、サウナが主流で浴場は小さい。

 入る時は大体知らない人と肩が触れ合うほど窮屈で、それがいいという人もいるかもしれないが、ソニアとしてはあんまり気が休まらない。あと結構、お湯が汚れている。

 それと比べればこの大浴場は、大型モンスター達でも利用できるほど広く水も豪華にかけ流しで清潔。


「いい湯だなぁ」


 ソニアは両足をピンと伸ばしソニアはお風呂を満喫している。

 そしてその隣でくつろいでいるのは、青い鱗のドラゴン。

 真青竜トゥルーブルー・ドラゴンのサスールルは、ソニアがよく話すお風呂友達だ。


「でしょぅー」


 サスールルは巨人の夢跡ティタンズドリームのライフライン管理者だ。

 水や空調などのシステムを魔法で動かしており、どこかが破損すれば部下のドラゴン達か、酷い破損ならガネットに報告して修理を行う。

 性格は穏やかで怠け者。

 大体この大浴場か、持ち場の第三階層の扉の前で昼寝をしている。


「今度の終のものラストワンは趣味が合う人で良かった」

「私もサスールルみたいな素敵なドラゴンさんと仲良くなれて嬉しい!」


 ドラゴン!

 この世界でもドラゴンは強大な種族として知られているが、大半の冒険者はドラゴンにかかわることなく引退する。

 生後10歳まで程度の、まだ馬ほどの大きさしかない子供のドラゴンなどと出会い、戦ったり、利害の一致から共闘したり、極稀だが友情を結びその背に冒険者を乗せるという話もある。

 だがそうした機会に恵まれるのは、一つの町に留まることなく未踏の世界を冒険し続けるような、クランに属さない冒険者達だけなのだ。


(私も今はクランには所属していないけどね。その前に冒険者でもないけど)


 ソニアがこうしてドラゴンと一緒にお風呂に入っているのも、クランを辞めたお陰だ。

 青く輝く美しい鱗は、触れてみるとよく磨いた金属のような肌触りだ。


「いつ見ても綺麗な鱗よね」

「ふふん♪」


 ガネットによれば、ドラゴンはみんな自分の鱗を世界一美しいと思っているらしい。

 なのでこうして鱗を褒めると、ドラゴンは嬉しそうに鼻を鳴らすのだ。

 それにソニアはお世辞を抜きにしてもサスールルの鱗を、どんな美術品にも負けないくらい美しいと思っている。

 別に機嫌を取ろうと思っているわけではなく、感じたことを口にしているだけだ。

 サスールルも気持ちよさそうに湯船に浸かりながら、新しい終のものラストワンとの会話を楽しんでいたのだった。


☆☆


 ダークナイトのエーギルと、フェンリルのスコールはこのダンジョンの警備主任といった役割だ。

 配置された全モンスターの管理を行っている。

 ソニアはいつも一緒にいる騎士と狼のコンビに真面目そうな第一印象を持っていたが、どうやらそうではないらしい。


「ソニア様」


 ソニアが図書室で本を選んでいるところに、ぬっとスコールが顔を出した。

 スコールは馬ほどもある巨大な狼の姿をしており、14歳のソニアだと完全に見下される形になる。

 スコールの後ろには部下のフロストウルフ達がずらりと並んでいた。

 精悍なフェンリルとフロストウルフ達からじっと見つめられるのはなかなか威圧感があるのだが……その口にくわえているフリスビーが台無しにしていた。


「訓練です」


 ソニアの視線にスコールはフリスビーをくわえたまま、キリッとした表情で言った。

 このフリスビーはソニアが魔法で作ったものだ。


(人懐っこいフロストウルフが一頭いて、その子と遊ぶために思い出して作ってみたんだけど、みんなハマるとは思わなかった)


 ソニアとフロストウルフがフリスビーで遊んでいたところに、ヌッとスコールが現れたのだ。

 さすがに怒られるかなとソニアとフロストウルフはビクビクしていたのだが。


「訓練ですな。私も参加してもよろしいかな?」


 と、スコールは尻尾をゆっくりと左右に振りながら言ってきたのだった。

 それからスコールとフロストウルフ達は訓練という名目で、毎日のようにソニアにフリスビー遊びをせがむようになったのだった。


 ソニアとスコール達は施設で一番広い王座の部屋へと移動する。


「いくよー」


 ソニアはフリスビーを持って振りかぶると。


 パァァン!


 腕を振るスピードが、音速を超えて衝撃派を発生させるほどの速度でフリスビーを投げた。

 スコール達がマッハで飛ぶフリスビー目掛けて、白い矢のように飛び出す。


「ワォン!!」

「ギャウギャウ!」


 フロストウルフ達は我先にフリスビーに飛びつくが、お互いに足を引っ張りあい何頭もコケて脱落していく。

 その中では群を抜くのはやはりフェンリルのスコール。

 まとわりつくフロストウルフを物ともせず、空中でぐるりと身体を回転させてフロストウルフ達を弾き飛ばしフリスビーをキャッチする。

 悠々とソニアの元に戻り、フリスビーをソニアに渡すと、嬉しそうに吠えた。

 フロストウルフ達のリーダーなのに実に大人げない。

 フロストウルフ達は「ワンワン」とブーイングを送っている。


「ええい黙れ、勝負に上司も部下もあるか!」

「ワンワン!!」


 毎回こうしてギャーギャーを言い争いをするスコール達を見て笑いつつ、ソニアは両手に10枚のフリスビーを持つ。


「じゃあ次は連続で行くよ」


 これならスコールが取れるのは1枚か2枚だけで、残りは他のフロストウルフ達が取り合える。

 ソニア360度あらゆる方向に、フリスビーをまた音速を超える速度で投げる。

 どのフリスビーを追うかフロストウルフ達は瞬時に判断……というほど深い駆け引きがあるわけでもなくそれぞれ追いかけていく。

 やはり真っ先に戻ってきたのはスコールだった。

 その尻尾は激しく振られていた。


☆☆


「スコールにも困ったものだ」


 ソニアに向かい合って座るエーギルは溜め息をついた。


「ソニア様のお手を煩わせてしまって面目次第も無い」


 パチ。


「いやまぁ」


 パチ。


「私からも自重するよう言い聞かせておくゆえ」


 パチ。


「でもエーギルさんもあんまりスコールのこととやかく言えないような」


 パチ。


「む、むむ……ちょ、ちょっと待った」

「待ったはなしだよ」

「むむむ」


 ソニアとエーギルは将棋を指していた。

 これもソニアが思い出して作ったもので、指揮官タイプのモンスター達に流行中だ。


☆☆


 ソニアはエーギルとの将棋に無事勝利し、その後祭壇の部屋に向かった。

 そこではガネットとゴブリンナイトのカルンが何か相談しているところだった。

 ゴブリンナイトは、ゴブリンの一種で、この巨人の夢跡ティタンズドリームで一番の下っ端だ。カルンはそんなゴブリンナイト達の指揮官で、人手が必要なところに部下を配置するような仕事をしている。

 彼の役割はマネージャーと言ったところか。


「これはソニア様、お勤めお疲れ様です」

「うん、2人ともお疲れ様。何を話し合ってるの?」


 カルンは、耳をピクリと動かした。


「ほぅほぅ、今上の終のものラストワン様は、私の仕事などに興味をお持ちか」


 カルンは言葉を少しおどけさせ、ソニアの気まぐれをからかっているようだった。

 だがソニアとしては気まぐれではなく、本当に2人の仕事に興味があった。


「うん、興味あるよ」


 ソニアの真面目な様子に気が付きカルンは驚いている。


「珍しい! いやこれは失礼を。そのように仰ってくださった終のものラストワンは初めてでしてな」



(仲間がどんな仕事をしているのか、興味を持つのは普通だと思うけどなぁ)


 ソニアは薄々理解し始めてきた。

 どうもこのダンジョンの住人達は、これまでの終のものラストワンと、あまり親密な関係を持っていなかったらしい。

 話してみると、みんなも気のいいモンスター達だ。フロストウルフ達のように喋れないのもいるが、一番下っ端のゴブリンナイト達からドラゴンまで楽しい性格をしている者ばかりだ。

 カルンの説明を聞いてうなずきながら、ソニアはどうして前の人達は、彼らと交流しなかったのかと不思議に思っていた。


「というわけで、この祭壇が戦いの度に余波で壊れてしまうので、壊さずに戦いになったら収納することはできないかと話し合っているのですよ」

「なるほど、だったら私が降りてくると同時に祭壇が上にすーって上がっていくとかどうかな?」

「ふむふむ、そうなると、これまでは祭壇の向こう側にソニア様が降臨される形でしたが、祭壇の前になるよう調整しないとなりませんね」

「難しいの?」

「いえ、この施設の基幹となる魔法自体は神が作ったものですので触れられないのですが、祭壇の配置なら調整できます」


 それからソニアはカルンとガネットと一緒に、祭壇を無事に回収する方法を色々話し合ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 爪の魔王が、降りてくるソニアと上がっていく祭壇に か………………かっこいい(*´>ω<`*) とか感動したりして(笑)
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