11話 ハーラは激昂する
数時間後。ペガサスオーダー事務所。
「どういうことだ!!」
ヴァンスの怒鳴り声が今日も事務所の中で響いた。
怒鳴られているのは今年ペガサスオーダーに入った新人冒険者3人。
ソニアが今日向かうはずだった依頼は彼らが代わり向かったのだが、最初のリザードマンに奪われた荷物の奪還依頼に失敗し3人が怪我、次の農地の草刈りの依頼は怪我のためまともに対応することができず、3つ目の依頼のゴブリン退治には「無事」だった1人で向かったが……彼は帰ってこなかった。
「なんで1人で行きやがった! お前らみたいなのが1人でゴブリン退治なんてできるわけないだろうが!!」
3人とも痛々しい傷が残ったまま肩を震わせて泣いている。
もちろん、彼らだって1人でゴブリン退治は危険だとは分かっていた。
だが、もしヴァンスに3つとも依頼を失敗したと報告することになっていれば、どれだけ怒鳴られるか分からない。
彼らはヴァンスが怖かったのだ。
なので、彼らは残った1人でなんとかしようとしたのだった。
「怒鳴っていても仕方ないでしょう。すぐに救出チームを組んで向かわないと」
依頼が戻ったばかりのハーラは静かな口調で言った。
「そんな人手がどこにある! お前にも次の依頼があるだろうが!」
「それは断って」
「は? そんなこと出来るわけがないだろう! 次の依頼の依頼人はレオポート当局だぞ? うちの信用を下げる気かお前は!」
「仲間の命には変えられないでしょ」
淡々と言うハーラに、ヴァンスは顔を真赤にしながら椅子に座ってギリリと歯を噛みしめる。
「……ソニア」
ヴァンスの口からボソリとソニアの名前がつぶやかれた。
「はい?」
ハーラはここにはもういない名を聞いて、何かの間違いかと聞き返す。
「ソニアのやつに頼めないか? あいつなら……」
淡々としていたハーラの表情が変わった。
ハーラはヴァンスの前まで詰め寄ると、ヴァンス以上に鋭い声で怒鳴った。
「ソニアは私達に愛想尽かして出ていったのよ! それを今更助けてくれって泣きつくつもりなの!? この恥知らず! よくそんなこと言えたわね!!」
ハーラがここまで激昂するのは珍しい。
ヴァンスは何も言い返せず、口をパクパクさせるだけだ。
「……だったら他のクランに頼みましょう」
ハーラは怒りを抑えて言った。
抑揚のない声が余計にハーラの怒りが深いことを示しているようで、隣りにいる新人冒険者達は震え上がった。
「なんだと、そんなみっともない真似……」
「今日と明日の依頼のいくつかを断るか、それとも別のクランに頭を下げるか、どちらかよ」
「……クソが! クランへの依頼料は」
「この子達の給料から引くとか言うなら、私も辞めるわよ」
ハーラの顔を見て、さすがのヴァンスも反論することができず目を泳がせる。
「っち! 勝手にしろ! どいつもこいつも……!」
ヴァンスは机の上の物をなぎ倒し、割れたコップを踏みつけながら次の自分の依頼へと出かけていった。
ハーラも怒りが収まらない様子だったが、泣いている新人冒険者達を見てヴァンスへの怒りを抑え込んだ。
「大丈夫よ、すぐに他のクランに頼むから。もし受けてもらえないようなら私が救出に向かうわ」
「はい……」
だがもうこの新人達は冒険者を続けられないだろう。
ハーラの心はますます暗く、重くなっていったのだった。