星新一によろしく ~岡目八目~
男は完全に詰んでしまった。
男は目の前に敵軍の兵がいながら、動けないのであった。
「くそっ!王はこの状況を知らないのか!」
男は嘆いた。その男を見ながら目の前の敵兵は笑いながら言った。
「ハッハッハ!王手だな、右手に逃げれば長槍兵、動かなければ私の間合い、貴様はもう投降必至!貴様は貴様らの王に捨て駒にされたのよ!」
「そんなことはない!」
男は必死に打開策を頭から絞りだそうとしたが、何も思いつかなかった。
思いついたにはついたのだが、それをしてしまうと将棋倒しのように味方が捕虜となってしまうものであったため、男はおとなしく投降することにした。
「分かった、おとなしく投降する」
「賢明な判断だ。貴様には生きる権利がある。我々は条約により貴様を処刑、拷問にはかけん、しかし、情報を聞く、取引を提示する権利はある。良いか?死にたいなら戦場にいるうちに言ってくれ」
「おとなしく捕虜になるよ。クニで息子が待ってるんだ」
「良かろう。武器を捨てて、まじないをとけ」
敵兵がそう言うと、男は武器を捨て、竜になる変身魔法をとき、投降した。
それからしばらくすると、男は敵国の王の前にいた。どちらの王も自ら戦場に赴いていたのだ。
王は男に語りかけた。
「貴様のように無策なやつは初めてだ、敵陣に単身乗り込むとは。それは勇敢などではなくただの蛮勇だ。しかし、なかなかの腕だ、我が軍は竜と化した貴様のため二人も兵を失ったんだからな。その貴様の腕を見込んでの取引をしたい。貴様を我らの仲間に引き入れようではないか。」
それに男はこう返す。
「見返りはなんだ?」
その言葉を聞き、王は笑いながらこう言った。
「なんて高飛車な男だ。貴様、自分の立場も戦況も分かっていないようだな。良かろう、教えてやろう。今、戦況は我が軍が圧倒的に優勢、もし貴様は我が持ち駒になるのであれば、貴様は戦勝国の兵となるのだ、これ以上の褒美はあるまい。貴様は生きてまた戦場に赴ける、加え戦勝国の兵として英雄となれる。この二つの両取りができるのだ断る理由はあるまい。断っても良いが貴様の家族の居場所を探すなど我には造作も無いことだぞ」
男は王の言葉に笑みを浮かべながら答えた。
「その必要は無い。良いだろう、勝てば官軍負ければ賊軍。裏切りものでも何でもいい。俺は国ではなく俺の家族のために戦う。のった!あなたの駒となろう!」
「よくぞ言った!こちらもその答え以外は聞きたくなかった。さぁ、こやつに剣を持たせるのだ!」
その王の言葉に兵は少しおびえながらこう言った。
「しかし、わが君主。さっきまで敵兵だったのですよ」
その言葉に王は興奮気味にこう返す。
「馬鹿者が。貴様は聾か。こいつは己の家族のために戦っているのだ。いま、刃を振るうなど馬鹿なまねはせぬだろう。」
「は、はい」
兵は納得がいかないという様子で剣を持ってきて男に渡した。
「さぁ、我が兵よ己がため、国がため勇ましく戦うのだ!」
王は大きな声で兵を鼓舞した。
男は獣がごとく大声で叫び、自らが剣を日の光に当て輝かせた。
「我こそは、玉軍!飛車!今こそ巨鳥がごとく空を誇り高く、勇ましく征くこの車で敵を蹂躙して見せよう!」
すると空から巨大な手が洗われ男の車をつかんだ。
そしてその男を運び、戦場のど真ん中において空に消えた。
その手の持ち主はこう言った。
「お前からもらった飛車を使わせてもらうよ、はい王手、俺の勝ち。千円くれよ」
巨大な手の持ち主の向かいに座った男はこう言った。
「きったねぇ~」
「汚くねぇよ、ジュースでもおごってやるから機嫌直せ」
「この成金が~」
全ては将棋の盤の上の出来事だったのだ。
どうでしたか?将棋をやっているときに思いついて、題材としているのでできるだけ将棋に関する言葉を使っています。
相手の駒にとられた駒はどのようにして敵に寝返るのかという想像を膨らませました。