王様の顔 (箱物語22)
地球から遠く離れたアルファ星。
今、この星は重大な危機のさなかにあった。
王様が家臣たちに命令する。
「ヒック、あの計画を実行に移すことにした。さっそく、ヒック、準備にとりかかるのだ。ヒック」
ヒックというのはシャックリである。で、重大な危機というのはこのシャックリであった。
アルファ星にシャックリ病が流行し始めて、すでに三年。老人から赤ちゃんまで、今やシャックリをしないですむ者はいない。
その間。
あらゆる薬と医療が試みられたが、なにひとつ効果はみられなかった。シャックリはひとときも止まらなかったのである。
だが、このシャックリ病で死に至ることもない。食事をするにも、会話をするにも、仕事をするにも、ただわずらわしいだけだ。
「王様、ヒック、どうかおやめください。今回の計画は、ヒック、あまりにも非科学的であります。かならずや失敗する、ヒック、そう思われます」
科学者のひとりが反対する。
「ヒック、そんな迷信じみたことで、ヒック、この病気が治るとは、ヒック、とても思えません」
医者も反対する。
「方法が、ヒツク、あまりにもバカげております。こんなことを、ヒック、民が知ったら笑いますぞ」
「そのとおり、ヒック、でございます。ヒック、王様の威厳に、ヒック、キズがおつきになります」
医者や科学者たちは口をそろえ、王様の計画にこぞって異議をとなえた。
「だがな、ヒック……。ワシは民を、ヒック、救う義務があるのだ。でなくて、ヒック、なんのための王なのだ。たとえ、ヒック、王としての権威が地に落ちようとも、ヒック、民を救う。それが王としての、ヒック、ワシのつとめではないか」
家臣たちを前に、王様は八の字の立派なヒゲをなでながら続ける。
「それに、ヒック、それになにより、ワシは子どものころ、ヒック、先代の王から、ヒック、この方法で治してもらった、ヒック、ことがあるのだ」
「それは、ヒック、たまたまのこと。ヒック、すべての民に、ヒック、効果があるとは思えませぬが」
「では、ヒック、ほかに方法、ヒック、良い方法でもあるというのか」
「残念ながら、ヒック、今のところは……」
「ならワシの、ヒック、計画をやってみるのも、ひとつの、ヒック、方法ではないか」
「そこまで、ヒック、王様がおおせなら……。ただしひとつ、ヒック、お願いがあります。ヒック、このアルファ星で行う前に、どこかほかの星で、ヒック、効果のほどを、ヒック、試していただけませぬか」
家臣の一人が提言する。
「事前に実験をする、ヒック、というのだな」
「はい。失敗した場合は、ヒック、王様にはあきらめて、ヒック、いただきたいと思います。それで、ヒック、よろしければ……」
「わかった。ヒック、そのときは、ヒック、この計画は中止しよう」
王様は家臣たちを前に大きくうなずいた。
ところ変わって、ここは地球。
あらゆる国のだれもが、これまでにない病気にかかっていた。
シャックリが止まらないのだ。
「本日、ヒック、歌手協会が、ヒック、ついに活動を断念し、休業宣言を発表いたしました。今やシャックリ病は、ヒック、全世界に大きな、ヒック、このうえない悪影響をおよぼしています」
シャックリをしながら話しているのはテレビ局のアナウンサーである。
「最近、シャックリを原因とした、ヒック、自動車事故が多発、ヒック、しております。ヒック」
これはゲストの解説者である。
今ではみなが、こうしたしゃべり方をする。
シャックリ病で寝込むようなことはないが、これを原因とした事故が世界各地で多発していた。
そうしたことから地球規模での治療の研究が始まった。……が、治療方法は見つからなかった。
最先端医療の技術をもってしても、シャックリ病は治らなかったのである。
そうしたなか。
新たな危機が地球に迫りつつあった。未知の小惑星が急接近していることがわかり、近いうちに衝突することが予想されたのだ。
小惑星は一辺が百メートルほどのサイコロ状の形をしていた。その程度の大きさでも、地球に衝突すれば甚大な被害が発生する。
全世界が大パニックとなった。
ところが予想に反し、小惑星は地球に衝突することなく、周囲をまわる軌道に乗った。
ただちに小惑星を追跡したスペースシャトルによって、鮮明な画像が地上に送信される。
その画像から……。
小惑星は星のカケラなどではなく、箱型のUFOであることがわかった。上部にはハッチらしきものがついているが、窓ひとつなく光も発しない。
その間。
UFOに新たな動きはなかった。
攻撃をしかけてくるようすもない。
UFOの映像は地上に送り続けられ、だれもがテレビの前に釘づけとなっていた。
と、そんなとき。
突然、想像だにしなかったことが起きた。UFOの上部のハッチが開いて、あるモノがいきおいよく飛び出したのである。
これにはテレビの前のだれしもがおどろいた。
みなが腰をぬかすほどびっくりした。
まさにいきなりだったからだ。
あるモノとは顔で、首から下はクルクルまいた長いバネである。このバネにより、顔は大きく上下左右にゆれた。
「たった今、UFOの中から王様の顔なるモノが飛び出しました。それはまさに、トランプのキングの顔です。うん?」
アナウンサーは首をかしげてから、ふたたび実況を続けた。
「これは宇宙人からの、なんらかのメッセージだと思われます。ですが、この王様の顔、これが何を意味するものか……。うん?」
ただちに――。
この地球のようすは、UFOからアルファ星へと報告された。
「王様の、ヒック、びっくり箱計画は、ヒック、成功いた、ヒック、いたしました」