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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女とその弟子

#魔女集会で会いましょう というTwitterタグを見つけ、尊いと喜んでいたら『あ、これ書けるわ』と気づく。

で、この手のは速さが命なので、己の作品である『昨日宰相今日JK明日悪役令嬢』の設定を流用。

その後本編にこの話がないのはおかしいと指摘されて本編に追加しておく。

 時というのは残酷なものだ。

 変わらない者たちを容赦なく置いていってしまう。

 それでも、人というのは繋がりを求めてしまう。

 それは何故なのだろう?


「こんにちは。小さな妖精さん。

 帰る家を忘れたのかしら?」


 そんな言葉で私をこの道に誘った師匠は既におらず、色々あって私は師匠と似たような道を辿った。

 師匠は占い師。

 私は魔女である。


「あんたを倒して、俺が一番になる」


 そんな事をほざいた少年がいた。

 少年と青年の中間を情熱を私に叩きつけながら、そいつは私に魔法をかける。


「約束します。

 あんたを倒して、俺が一番になる。

 そして、貴方が探しているものをきっと見つけてみせると」


 王国軍随一の魔術師の私にまさか王都騎士団の入団式で私にそんな暴言を吐く無礼者がいるとは思わなかった。

 その糞度胸にまず度肝を抜かれる、それを言った男に興味をひかれる。

 見つけられるのだろうが?

 私が失った何かを。

 私が諦めた何かをこいつは見つけられるのだろうか?

 顔がニヤけるのが分かった。


「まずはその言葉遣いを直さないとね。

 こんなご時世だから容赦なく戦場に連れて行くわよ。

 いい?」


 それが、この弟子との最初の出会い。

 今は遠き魔女とその弟子の物語である。




「我が師よ。

 失礼ですが、今日は集会のあった日ではありませんでしたか?」


 ベッドから起き上がって、裸で背伸びをする。

 弟子との間でこんな姿を見せたり見られたりする関係になったのは何時だっただろうか?


「……だるい」


「お願いですから、主催する首席魔術師が欠席なんて見苦しい事はしないでくださいね」

「だって、お茶会なのに、みんな政治的な足の引っ張り合いしかしないのよ。

 嫌になっちゃう」


 魔女たちのお茶会と呼ばれるそれは、オークラム統合王国王室の非公式行事の一つである。

 魔女である私が主催したから魔女たちのお茶会なのだが、王室主席魔術師の兼業でやっている宰相位がこれに政治色を派手にぶっかけたのである。

 その結果、私に対する陳情の場へと変質したのを誰が責められようか。


「我が師をそれだけ皆が頼っているという事です。

 弟子の私からすれば、誇らしい限りですな」


 なお、段々面倒になった私に代わって準備等ではりきっているのがこの弟子である。

 公私に渡って私を支え、今では王室次席魔術師として魔法関係で辣腕を振るっていた。


「きゅー!?」


 まだ頭が寝ている私はそのままベッドに倒れ込み目を閉じる。

 ペットのドラゴンであるぽちがぺしぺしと私の頭を叩くが、私は目を閉じたまま動かない。


「ほら。

 我が師よ。

 起きてください!

 本当にお茶会に遅れてしまいますよ!!」


 こいついつの間にかおかん属性なんか持ちやがって。

 私を起こして、メイド達が私に服を着せつけてゆく。


「『あんたを倒して、俺が一番になる』って言っていた昔の貴方は何処に行ったのよ?

 そのまま私を倒して一番になって、お茶会に出て頂戴な」


「……我が師よ。

 それもやぶさかではございませんが、『魔女たちのお茶会』に私が女装して出ろと?」


「……ぶっ!!!」  


 耐えきれずに私が吹き出し、同じくメイドも我慢できずに笑い出す。

 さすがに身長で私を越える優男ではあるが、体格がしっかり男のそれで女装はきつい。

 想像してしまった私の負けで、眠気なんて吹き飛んでしまった。


「はいはい。

 負けよ。負け。

 起きます。起きればいいんでしょう?」


「素直に起きてくれれば私もそんな我が師が笑うような怪しげな妄想の材料にされなかったんですけどね」


 文句を言いながら弟子はメイドに混じって私の衣装の着付けを手伝ってくれる。

 服とかでは無くて、装飾品のたぐいの飾り付けである。

 この国にかつてあった世界樹をモチーフにした緑のドレス。

 この色のドレスを着ることができるのは、この国の最上級階級に属している事を証明する。

 そんなドレスに、弟子の手で飾り付けがなされてゆく。


「じっとしていください。我が師よ」

「それぐらい自分でできます」

「そう言って、この間執政官章を落として大騒ぎ……」

「わかった。

 私が悪かったからこの話はやめやめ」


 メイドたちが私の黒髪に櫛を当てている間に、弟子が私の胸元に執政官章をつける。

 正式名称はオークラム統合王国執政官勲章、別名宰相勲章と呼ばれるそれはこの国におけるNO2の証であり、行政・立法・司法の三権が分離していないこの国の全権者の証でもある。

 この勲章をつけた者の意思決定を翻すことができるのは国王陛下しか居ない。


「そうだ。

 今日のお茶会にはいくつかの騎士団より団長がやってくるとの事です。

 また活発化している東方騎馬民族への対処への確認をという事で」


「ほら。

 お茶会なのに厄介事じゃない」


 呻く私の胸に弟子が更に一つ勲章をつける。

 五枚葉従軍章。

 この国の軍団長に与えられる勲章で、その気になれば万の兵を動員指揮できる権限を持つこの勲章を持つ人間はこの国では私を除いて三人しか居ない。

 国王陛下に、王妃兼近衛騎士団長、建国の支援をしてくれた国王側室の北部諸侯のドン、アンセンシア大公妃である。

 かつてはこれに傭兵将軍と呼ばれた男が居た。

 

「詳細はこちらに。

 後は我が師の裁可のみとなっております」


 細々と書かれた書類と共に、美しい深緑琥珀のネックレスが差し出される。

 大勲位世界樹章と呼ばれ、国家及び王室に多大な貢献をした者にしか与えられないこのネックレスを首につけながら、魔法で羽ペンを浮かせて隣の書類に私のサインを書く。


「ありがとうございます。我が師」

「それはこっちの台詞。

 面倒事を片付けてくれて感謝しているわ……

 そうね。

 せっかくだからあれを持ってきて頂戴」


 一礼する弟子を横目で見ながら、私はメイドに命じて小箱を持ってこさせる。

 この国における飾りは三つまでと決められているから四つ以上持つ場合、それをつけない決まりとなっている。

 私にとってその四つ目の飾りの入った小箱を私は弟子の目の前で開けた。


「我が師よ。

 これは?」


「見て分かるでしょう?

 銀時計。

 この国の上級文官の証。

 この間試験合格したでしょう。

 そのお祝い」


 私の銀時計と瓜二つのそれを私は手にとって弟子のローブのポケットにつけてあげる。

 その時の弟子の顔は見なかったことにしてあげよう。


「おめてとう。

 これでまた私に一歩近づいたわね」

「五枚葉従軍勲章が遠いんですがね」 


 私の祝辞に弟子が照れ隠しの皮肉で返す。

 軍団長が出るような大戦争は現在のこの国では発生していない。

 だからこそ、騎士団長が持つ三枚葉が軍人キャリアの終点と呼ばれ、騎士団を束ねる軍を指揮する四枚葉の将軍たちは狭き門となっている。

 なお、こいつ私の知らない間に辺境の山賊退治とかで、きっちりと三枚葉従軍章を持っていたりする。


「三枚葉従軍勲章を持って何を言っているのやら。

 遠くない内に、四枚葉も手に入るわよ。

 私の弟子なんだから♪」

「……ええ。

 我が師の名を落とさぬように更に精進する所存にて」


 私は己の銀時計をドレスのポケットに入れる。

 この銀時計の鎖を見せるのが正式な飾り方なのだが、既に私は三つの飾りをつけているのでと言うわけだ。


「おそろい。

 中々悪くないわね♪」


「言わないでくださいよ。

 近づけは近づくほど我が師の偉大さを思い知るんですから」


 そう言って弟子は私に私の杖を差し出す。

 かつてこの国にあった世界樹で作られた世界樹の杖を私は手に持ち、ペットのドラゴンのポチを肩に乗せるとメイド達がドアを開ける。

 私の後ろを賢者の杖を持った弟子がついてくる。


「そういえば、『あんたを倒して、俺が一番になる』って言葉。

 何時ぐらいでできそう?」


 オークラム統合王国王都王宮『花宮殿』。

 そこを守備する近衛騎士や宮廷メイド達が通路端に控えて頭を下げてゆく。

 魔女。

 魔法使いというのは単独で行動できる歩く戦略兵器である。

 その為、私の前に味方はおらず、私の後ろにも味方は居ない。

 この弟子を除いて。


「まだまだですな。

 貴方の偉業は計り知れないが、いつか貴方を越えたい」


 その後の台詞をこいつがどんな表情で言ったのか私は知りたい。



「そして、私は我が師を守りたいと思っております」



 私が言葉を紡ぐまで、数歩の沈黙を要した。

 その言葉が嬉しくて、その感情に戸惑い、その感情を与えてくれた人が居ないことが悲しくて。

 それでも顔は笑えていたと思う。


「そうか。

 がんばりなさい。

 そして、いつか私を超えて、私を守ってちょうだいね♪」


「はっ。

 我が命尽きても、その願い果たして見せましょう」


 その言葉に返事をする前に私達は目的地に着く。

 控えていた衛兵達が一礼して私の入室を告げたからだ。




「オークラム統合王国宰相にして主席宮廷魔術師かつ神竜を従えし者 エリー・ヘインワーズ侯爵の入室です!」




 その場に居た紳士淑女、騎士に魔術師、貴族に文官、後ろにいる弟子やメイドたちが一斉に頭を下げる。

 さぁ。政治を始めよう。


「楽にして頂戴。

 さぁ。

 お茶会を始めましょう♪」

#魔女集会で会いましょう 字数制限でキーワード設定できないでやんのorz

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― 新着の感想 ―
[良い点] 始めまして。作品を拝読しました。 お茶会の規模が国家レベルなのですね。 「強さ」の指標は色々あると思うのですが、勲章で魔女の偉大さを表現するというのはうまい手法ですね。魔女はどちらかという…
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