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異世界迷宮物語 ~剣聖少女はハーレムを夢見る~  作者: 綾女
二章 大魔王迷宮 その1
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第?話 ~ちょこっと外伝『サキュバスの娼館』ヘタレ剣士編~①

 『サキュバスの娼館』


 それは男の桃源郷、全世界の童貞男子、否!! 全世界の男性が憧れるパラダイス!!


 歓楽街の外れにあるその館は、ちょっとした大学のキャンパス程の広さがある。


 館の造りは瀟洒な西洋のお屋敷風。館とは名ばかりの広大な建物は、昼間見ると、お洒落な学校にような施設では無いかとの疑念も湧く。


 ……だが、その雰囲気は夜になると一変する。


 ピンクに輝く魔光石が妖しく屋敷を彩り。何故かサーチライトが夜空に向かって放たれている。


 夜の街を妖しく照らし出す。そんな見るからに如何わしい屋敷が、夜の街に妖しいピンクの光を放って聳え立つ。


 元のお屋敷の雰囲気が台無しだ……


 まあ『娼館』なので、直ぐにそうと分かるように演出しているのかも知れない。だがしかし、何て余計な事をするのだろう。


 夜のその館は如何にも過ぎて、そこに入ったが最後……


「いや~何か別のお店と思って間違えて入ったんだよね……」


 知り合いに入ったところを見られた際に、そんな言い訳も通じない様な、そんな外観のお屋敷に夜は様変わりする。


 ……日本のラブホテルもそうだが、この入るのが恥ずかしく成る様な外観は如何にかならないのだろうか?


 最近は大人し目の外観のラブホテルも多いが、それでもやはりそう言ったお店や建物は一目でそれとわかる。やはり言い訳をさせない為なのか?


『何をする為に、そのお屋敷に入るのか?』


 そんなもの決まっている! SEXをする為に入る! そう誤魔化す必要は無い。男子としては当然の性欲を満たし、解消するために入るのだ。


 そして今、その娼館の前に、三人組の男子が、期待に胸を膨らませ、ついでに下半身も膨らませて立っていた。何のために? 童貞を卒業する為だっ!!



 俺の名前は森村 琢也。東京生まれの東京育ち……なんだが、別段バリバリの江戸っ子じゃあ無い。


 両親は東北出身の田舎者だ。


 二人とも田舎から東京の大学に入学する為に上京して、そのまま東京で就職して、偶々東京で知り合って結婚した。


 そんな二人の間に出来たのが俺だ。


 だが両親の出身は関係ない。東京なんて大半が似たような上京組だ。俺は東京の高校に通って、青春を謳歌していた。


(……まあ、もう東京とか関係ないけどな……)


 言ってはなんだけど、俺は顔は良い。イケメンだと自分でも思う。


 まっ、背はそれほど高くないし、身体も細身だが、デブのキモオタよりもよっぽどマシだ。


 大体、身体鍛えて何しようってんだ? 平和な日本で何か役に立つのか?


 スポーツとか汗臭い、泥臭い、面倒臭い、所謂3Kだろ? それに部活? 縦社会とか、先輩、後輩とかマジでうぜぇ!


 ってなわけで俺は合コンに精を出して、女子と夜の部活動を自主的にしてたわけだ。あっ、俺、今上手い事言った!


 まあ俺のこの顔で、女子にモテない訳ないからな。顔が広いっての? 女の子との交遊関係も広かったから、良く合コンの幹事を任されて遊びまくってた。


 親から貰う小遣いだけじゃ足らなくてバイトもしたけど。そこでも女子と知り合って、更に合コンの輪が広がる。まさにこの世の春だ! シンゴに言わせればリア充って奴だな。


 彼女も何人かいた。合コンの無い時なんかは良くデートに行っていた……いたんだが……まだ経験は無い……


(イヤ違うよ? モテてたんだよ? 不細工共と一緒にするなよ!)


 どうも俺は真面目系の女性が好きなんだよな……遊んでそうなチャラい、尻軽女とは遊びでもなぁ……


良く友人に、


「タクヤは自分がチャラい遊び人なのに、何で狙う女がお堅い系や地味系なんだ? しかも二股、三股は当たり前って……」


そう言って呆れられた。


 けど、こればっかりは好みなんだ、仕方ないだろ?


 でだ。そんなお堅い地味な彼女達はガードが堅い。何とかキスまでは出来るんだが、その後が続かない。


(服を脱がそうとしたり、下着に手を入れると泣きそうになるんだよな……)


 そもそもキスをするのも一苦労だ。映画に行ったり、遊園地に行ったりと、デートを楽しんで。その後、雰囲気のいい場所で、やっとこっそりキス。


 そのままいい雰囲気で抱きしめて、良しっ!! と胸やお尻に手を伸ばす。


(うん、ここまでは大体良い感じに進むんだ。が、いざここからって時に……)


「イヤ……私、怖い……それにタクヤ本気? 本当に私だけなの? 私、遊びでこんな事する女じゃないの。したくない」


 いつも決まってこのセリフ。


 一人じゃない、全員だ。多少言い方が違うだけで内容は一緒……


(なんでだよっ?! 意味がわからねぇ!)


 そんなこんなであと一歩及ばずが繰り返され……けどまあ時間の問題だろ? 回数を重ねればその内、俺の誠意が伝わっていつかきっとっ!…………そう思ってた……思ってたんだが……


 気が付いたら俺は異世界にいた。



 意味が分からないだろ? 俺だって意味が分からない!


 最近『異世界転生モノ』ってのが流行ってるって聞いたことは有ったが、マンガだっけ? アニメだっけ?


 まあ所謂オタクが対象だろ? 何でイケメンなモテ男の俺が異世界に転生してんだ?


 タク、タク、と呼ばれて『オタクじゃねえんだからタクって呼ぶなタクヤって呼べよ!』と仲間内で冗談を言い合ったことも有る。


(って、もしかして、それで神様が間違えちゃった?)


 けど俺をこの異世界に召喚したのは悪魔? いや違うか、魔族って奴らしい。


 その所為か、普通なら漏れなく付いてくる神様から貰えるチート能力も無いんだそうだ。


 何のことだが分からないが、この世界に来てから知り合ったシンゴがそう言っていた。


 そう、この異世界に召喚されているのは俺だけじゃなかった。


 俺だけどころか、滅茶苦茶多い。何せ異世界に召喚された連中の街が出来るほどだ。


(意味が分からねえよな本当に……)


 でもって、元の世界、東京には帰れないんだそうだ。


(何だよそれ、俺の彼女ちゃん達にはもう会えないってか? 冗談じゃねえよなったくよぉ!)


 えっ? 嘆くな? 嘆いてたって仕方ないのは確かだけど、普通嘆くだろ? 異世界とかマジふざけるなよ!!


 一応召喚者はこの異世界で生きて行けるように訓練や教育をしてくれるんだそうだ。


(戦闘訓練だの、勉強だの……全くっ、有難くて涙が出るね!)


『そんな事より、もっと役に立つモノくれよ! すっごい聖剣や魔剣とかあるだろ!』


 そう戦闘訓練の教官に言ったら……


『そんなモノお前に使いこなせるか! 命を吸われて死ぬぞ!!』


 って言い返された……マジかよ?!


 で、やる気も無くダラダラ過ごしてたんだが、この異世界でも友人が出来た。


 俺と同じで何となくこの異世界に馴染めずにいた同期の召喚者のゴロウとシンゴだ。



 ゴロウは、日本ではサッカー部のキャプテンをやっていて、ポジションはキーパーだったそうだ。


 俺より一つ年上だが、偉そうなところが無いので話しやすい。


 運動部に多い熱血馬鹿じゃなくて、大人しい森のクマさんタイプ。運動部のキャプテンらしくないんだが……良い奴だからな、人柄で纏めてたのかね?


 ただゴロウは良い奴過ぎる。召喚者は魔物と戦わないとダメらしいんだが、ゴロウはその戦いが苦手だ。


 優しいからか、例え魔物でも相手を傷つけるのが嫌なんだそうだ。そんな理由で積極的に戦おうとしないから、同期の見習い冒険者の中であぶれていた。


 背も高いし体もゴツイ。サッカーで鍛えていたから、俺達三人の中じゃあ一番戦う才能は有る。……んだが、その性格の所為で、ちっともその才能が生かせない。



 シンゴは元引き籠りのオタクで、中二病って奴らしい。今は肉体改造で体を鍛えるのが趣味なんだそうだ……まあちょっと? いや大分変わった奴だ。


 言動が偶に痛いが、まあ悪い奴じゃない。


 シンゴは異世界に来てからも、秘めた力やら、チート能力やらを探していたんだそうだ。


 だけど、その変わった言動で周囲から存在が浮いてしまい。同じく同期の見習い冒険者の中であぶれていた。


 体を鍛えるのが趣味だけあって、背は余り高くないのに結構良いガタイをしてる。そう見掛けだけは強そうなんだが……


 元オタクだからか、陰キャだからかわからねえがビビりだ。散々大口は叩くんだが、いざ魔物との戦いになると腰が完全に引けてる。へっぴり腰も良い所だ。


(それにゲームの知識なのか分からねえが、シンゴは変な事ばかり言いやがる)


 ……内政チートだ、知識チートだと言って、色々やろうとしてたみたいなんだが……まあこれだけ日本人が召喚されてたら、そんな日本の知識でチートとか出来るわけがない。


 俺達が知ってる程度の知識なんざ、他の奴だって知ってる。当然その知識を元に出来る事は、様々な事が既に実行されている。今更俺達に何か出来るわけがない。


(なにせ十万人以上召喚されてるんだぜ? なんだよ十万人って! もうねアホかと)


 この街は日本食完備でトイレは洗浄機能付き、畳まである。最近は日本でもめったに見ねえよ畳とか!


 で、シンゴは悉く出鼻を挫かれて、意気消沈していた。



 俺? 俺もそうだ。いきなり魔物と戦えとか何言ってんだって奴だ。なんでそんな危ない事を俺がしなきゃならねえんだ?


 アホらしいとダラダラ過ごしてたら、周りから置いていかれた。


(皆おかしくねえか? なんでこんな異常な状況に直ぐに馴染んでんだ? 普通あり得ないだろ? 異世界だぜ?)


 剣と魔法の世界とかファンタジーだろ。受け入れられる方がどうかしてる。


 で、そんなあぶれ者の三人でなんとなくつるんでいたら、何となくパーティーになった。


 幾ら馴染めないからと言っても、働かないと食べて行けない。


 なんとも世知辛い世の中だが、この世界には俺の両親が居ない。養ってくれないのだから自分で食い扶持を稼がないとダメだ。


(けど、稼ごうにも、俺達には手に職なんて無いからな……)


 店屋は沢山あるからアルバイトでも、と思ったけど、この世界にはコンビニは無かった。


 食い物屋も商店も個人経営が多いし、単純な肉体労働はゴーレムが居るから必要ないんだそうだ……


(ロボットに職を奪われるって、こういう事か?)


 本気で職人や商人になりたいのなら、先ずは見習い・丁稚からって世界らしい……要するに見習い冒険者をやる以外に生きる術がない。


 そうなると魔物を討伐しないとダメだ。一応の装備は支給されたから、俺だって戦えない訳じゃあない。


(まあ、やる気は無かったけど戦闘訓練もしていたからな)


 けどイザ魔物と闘うとなると、一人、そうボッチじゃあ辛い。


 魔物はタイマンなんてしてくれない。複数の魔物相手は一人じゃあ対処のしようが無い。


 そこであぶれ三人組でパーティを組んで魔物を討伐する事にした。


 そう討伐出来ていた。思ったよりも魔物は強くない。中には俺でも倒せるような魔物もいた。


(調子に乗って迷宮に行った時は、そこの魔物が強くて、ズタボロにされて逃げ出したんだけどね……)


 でもまあ、地上の魔物はそれほど強くなかった。



 それにこんな俺でも戦っていると徐々に強くなっている実感が有った。


「これがレベルが上がってるって奴なのか?」


「さあな、能力の強さは測定してレベル表示してくれるが、この世界はレベル制じゃなからなぁ……どちらかと言うとスキル制?」


 俺の呟きにシンゴが答える。


(うん、意味不明だな。スキル制って何だよっ!)


 ここで細かく突っ込んだら負けだ。シンゴの解説が延々と続く。オタクって自分の得意分野では饒舌だよなぁ……


「けどこっちも『ステータス』の魔法で一応確認できるだけ。あまり役に立たないし、大体隠し能力は表示すらされない……糞ゲーだな」


「隠し能力? 何だそれは?」


 ヤバイ、つい突っ込んじまった!


「タクヤ、シンゴの何時ものヤツだから気にするな」


 ゴロウ、ナイスフォロー!


「何時ものヤツってなんだ! 絶対何処かにチート能力が隠されている筈なんだ! だってそうじゃなきゃおかしいだろ」


「シンゴ、もう諦めろ。アニメやゲームじゃねえんだぜ?」


「クッ……けどそういうタクヤだって二刀流じゃねえか」


「カッコ良いだろ。こう二刀流でバシバシ魔物を狩っていけたら最高だろ? 練習したら出来るようになるって話だからな」


「…………はぁぁ~、まっ、良いけどな。二人がそれで良いなら」


「何だよゴロウ、文句でもあるのかよ」


 カッコいいは正義! 異論は認めない!


「俺はゴロウが呆れるのも分かるがな。フッ、やはり戦いの基本はCQCだ。カッコつけの二刀流よりナイフだろ常考」


 シンゴがやれやれと呆れている。


(けどなシンゴ、ゴロウはお前にも呆れてんだぞ? そもそも話の流れ的に、よりお前に呆れている方だろ?)


「CQC? 何だそれ?」


 なんのこっちゃサッパリだな。アルファベット三文字は色々ありすぎて訳がわからん。日本語でOK?


「『CLOSE QUARTERS COMBAT』略して『CQC』、近接格闘の事だ、知らないのか?」


(知るかそんなもん! 大体クローズでクウォーターがなんで近接? 意味がわからん!)


「知らねえよっ!」


「『金属歯車』だぞ? やったこと無いのか?」


「何だそれ?」


「ゲームだ」


「ゲームかよっ!!」


 全く、シンゴは悪い奴じゃねえんだが、ゲーム脳で困る。


 大体バーチャルよりも現実リアルだろ? 可愛い女の子と遊ぶ為にはバイトとか色々大変なんだよ。ゲームやる暇なんてねぇ!



 とまあ何とかこの異世界で三人でパーティ組んで戦ってたんだが、この世界に来てから俺は悩みを抱えていた。そう…………


(モテない、なんでだ? 何故イケメンな俺がモテない?)


 モテなかった、何故か女子にモテない。


 だがまあ何となく理由は分かってる。見習い冒険者の女子も魔物と戦っている。そう皆戦っていた。


 ……そうなるとやはり体格の良い、スポーツ男子がモテる。まっ、当然なんだろな、この世界幾ら顔が良くても、ひ弱じゃあどうにもならない。


「一生お前を護ってやる!」


 なんて決め顔でいっても、実際に護るには魔物と戦って勝たないとダメだ。見栄えじゃない。実が伴っていないとどんなセリフも意味がねえ。


(クソッ! ハードモード過ぎるだろっ! 何て世界だ……シンゴの言うチート能力(?)でもなけりゃやってられないだろ!!)


 パーティ募集広場でイケメンの俺が女の子に声かけても、断られるんだぜ?


 スポーツで鍛えたりしてねえから細マッチョとは言わねえ。けどな、背は低いがスタイルは良い! 確かにナヨっちいかも知れねえ、けど今時の男子なんてこんなもんだろ?


 なのに!! 日本だとゴリマッチョよりよっぽどモテてたのに、この世界じゃあゴリマッチョの方がモテやがる! 全く理不尽だぜ!


 だが転機が訪れた……俺達は聖女に出会い。そして師匠を見つけた!



 ノリコ様マジ天使!! もうね超絶美形! アイドルとか目じゃない! 同じ人類じゃねえ。まさに女神!


 でもって胸がモリモリでマジ爆乳!


(……異世界だ、やっぱり異世界だろ! あんなの絶対、元の世界には居ない!!)


 って思ったらノリコ様は、俺達と同じ召喚者らしい……


 あんな美人が居たら普通もっと大騒ぎになってそうなのに、俺はそんな噂、全く知らねえ……何でだろ?


 俺が見かけたら絶対写メ取ってSNSに上げる。なら他の奴が上げて話題にならない訳が無い。


(……ってアレか流石に個人情報って奴でマズイのか? けど芸能人のスカウトって奴がほっとかねえだろ? 絶世の美女だぜ? ……まあお嬢様らしいからそれでか? 箱入りで護られてたのかなぁ?)


 でもってメグミの姉御はマジスゲー、マジツエー、いやその時、同じく知り合ったアキヒロさんとかもう中級だぜ?


 そんな先輩が、


「アレは規格外だ。あれはちょっとあり得ない。上級にも何人か知り合いがいるが、見習い冒険者の段階であの強さは無い。間違いなく上級に上がる!! 間違いなくヒヒイロカネまで上がる!!」


と大絶賛だ。


 イヤ女の子としても背が低くて、どっちかっていうと華奢な方だと思うんだけど、鬼神の様に強い。


 メグミの姉御がアレだけ強いって事は、俺位の体格でも強く成れるって事だろ? マジ希望が湧いてきた。


 シンゴに、


「アレがシンゴが言ってたチートって奴か? あれどんなチート貰ったんだろうな?」


そう尋ねたんだが、シンゴは首を捻る。


「チート? ああ、チートか……いやあれチートか?」


 アレだけ強くてもシンゴの考えているチート能力とは違うらしい。


「技をチートと言ってよければチートだろうな。一番最初、鉱山の地下一階のコボルトを倒したとき。あの時の戦いを覚えているか?」


 ゴロウがそう言って尋ねてくる。


「覚えてる。忘れられるわけがない」


 シンゴはノリコ様に心酔しているが、同時にメグミの姉御を崇拝している。


『相手が女子だろうと歳下だろうと、尊敬すべきは尊敬すべき!』


 って考えらしい。


 俺も全く同意見だ。歳下だろうとメグミの姉御はメグミの姉御だ!


「ビックリしたよな。あの数のコボルトを瞬殺だものな」


 今になって見れば、あの程度のコボルト相手に、散々手古摺った俺達が弱過ぎたんだが、それでもメグミの姉御は別格だ。


 今の俺に同じことが出来るかと問われれば、答えは『ノー』だ。


 今戦えば地下一階のコボルトなら、あの数が居ても勝てる。でもメグミの姉御の様な倒し方は出来ない。


(流れるように連続して倒すとかマジ無理!)


「けど目で追えただろ? あの時はまだ普通に倒してた。それに斬る度に武技を使って……」


「…………言われてみるとそうだな。地下二階のコボルトソルジャーなんか、何やったかもわからないうちに首が飛んでたのに、それより遥かに弱い地下一階のコボルトの時は、普通に見えてたな」


 コボルトソルジャーを倒した時、メグミの姉御は一瞬マジで消えた。


 動きが速過ぎて、目で追えなくなったからだと、アキヒロさんに教えて貰った。


 子供の頃見たアニメで、そんな動きをしてたのが有る。けど、アレはアニメだ。現実じゃあ無い。


 それを現実にやって見せるメグミの姉御は、マジで化け物だ。


「もしかして……手本を見せてたのか?」


(……その発想は無かったわ、シンゴの奴は偶に鋭いんだよな……でも、言われてみるとしっくりくる)


「アキヒロさん達にも確認したけど、多分そうだって事だ。余りに使えない俺達に、こうやって倒せと、手本を見せていたんだろうって言われた」


(すいません! レベルが高過ぎて、イヤ、俺達のレベルが低過ぎて、手本に成りませんでした!)


「そうなのか……けどそれとチートじゃないってのがどう関係するんだ? 技?」


「メグミちゃんの戦い方ってのは、あの時見せてくれた戦い方が基本なんだ。兎に角、相手に接近して、相手の懐に入り込む」


 メグミの姉御は驚く程相手に接近するんだよね。躊躇い無く相手の懐に飛び込む。


 見てる方はハラハラするんだけど……本人は平気な顔してるんだよね……頭のネジが全部外れてる。


「何せメグミちゃんは、得物がショートソードだから間合いが近い。多分、俺達の腰が引けてたのをみて『怖がって無いで飛び込め、ヘタレ野郎!!』って感じで手本を見せてくれたんだろうな」


(ハイすいません。ヘタレ野郎です)


 ……って言い訳させてくれ! マジ硬くて攻撃しても弾かれるし、仕方無かったんだって!


 コボルトは内側の白い毛の部分は柔らかいんだけど、その時は知らなかったんだ!


「戦う魔物の情報くらい、事前に仕入れてから戦うのが常識だろ! 甘えるな! その甘えで人が死ぬ!」


 って後日アキヒロさんに怒られたけどな……


「それに剣を振る時のコツを教えてくれただろ? あの動作を限りなく速く、淀みなくやっているだけ。アキヒロさんが言うには、繰り返し繰り返し練習して、一瞬でそれを繰り出している。だからチートの様に強いが、その何処にもチートは無い。アレは単に技だと、剣術だと言ってた」


 余りに優れた技術は魔法と区別がつかないって事だけど、余りに優れた技もチートと区別がつかないって事なのか?


「剣の達人って奴か……けどメグミ師匠は凄いよな。アレだけ強いのに、その上、鍛冶まで名人級だ」


 シンゴの言う通り、メグミの姉御は鍛冶まで出来る。しかも独自のやり方だ。


 そもそも鍛冶は肉体労働で重労働だ。重いハンマーで延々と熱い鉄を叩く、どう考えても女の子向きの職業じゃない。


 けどメグミの姉御はそれを魔法で解決した。


 制御が難しいって理由で、開発されたけど使用者が殆ど居なかった『鍛冶魔法』と『鍛錬空間』を使いこなして、『巨匠』って呼ばれている、この世界でもトップクラスの鍛冶師の『愛弟子』になった。


 見習い冒険者では弟子にすらなれない。


 それどころか弟子の弟子、孫弟子にすらなった者が居ないってのに、見習いの段階で『愛弟子』になったそうだ。快挙だってその世界じゃあ超有名人らしい。


「そうだな、メグミちゃん達に作って貰ったこの剣! この剣のお陰で俺達強く成れたんだよな」


 そうゴロウの言う通りだ。


 あの時、偶然あの三人に出会って、剣を造って貰えた。そこからだ。そこから全て変わった。全部良い方向に転がり出した。



 その時貰った剣『斬月』は、驚くほど良く切れた。それまでの苦労が何だったのかって程だ。


 あの後、アキヒロさん達に誘われて、オークの討伐演習にも参加したけど、もうね全然余裕!


 あのぶっといオークをザクザク切り裂く。それどころか、オークのあの太い棍棒をスッパリ両断だぜ?


 別にいきなり俺が強くなったわけじゃない。下手っぴいなのは変わらない。


 そりゃあの後、


「暇だから訓練に付き合ってやる」


ってアキヒロさん達に言われて、めっちゃシゴかれた。


 けど、修行したって急にバカみたいに強く成れる訳じゃあ無い。


 アキヒロさんのパーティメンバーのマサオさんにも忠告された。


「全く凄まじい切れ味だな、上級の連中まで欲しがる理由が良く分かる。その剣に負けない位強く成らねえと剣が勿体ないぞ? 振りを見てれば分かるが、その剣はお前に合わせて、お前専用に造られてる」


 マサオさんによると、見ただけでわかる程、俺の体格や手の大きさ、腕の長さにピッタリなのだそうだ。


「良いか? まだ見習いのお前が、上級が欲しがるような出来の、しかもオーダーメイドの剣を持ってるんだ。情けない戦いをしてると、事故に見せかけて殺されて、剣を奪われ兼ねんぞ?」


 『事故に見せかけて殺す』


 有名なのでMPKというのが有るらしい。


「MPKか? 魔物の大軍を押し付けて他の冒険者を殺すやり方だ」


(自分で殺した訳じゃあないから殺人じゃないって言い訳らしい……マジか! 冒険者って怖えぇ)


「まあこのやり方は、この地域では最近聞かないがな」


「何故ですか?」


「『光と太陽の神』の加護に嘘を見抜く『看破』と言う物がある。ワザとMPKをしたかどうかは一発でバレるからな。この地域では意味がない」


 それにこの地域では、理由はどうあれ相手の装備を奪った段階でアウトだそうだ。


「あと、どっちにしろ奪った装備は人前では使えん。この地域では装備は一点物ばっかりで規格品が無いから、持ち主を知っていれば誰の物か一発で分かる」


 逆にいえば大量生産品の多い外国では、そんな行為が今でも有るそうだ。


「まあこの地域にいる間は心配ない。初心者の内は外国に行く事も無いだろう」


「この地域ではですか?」


「この地域では盗品、ましてや強奪した装備を鍛冶師がメンテナンスすることは絶対に無いからな」


 この地域の鍛冶師は、マジでプライドが異常に高い。


「自分の仕事に誇りを持ってるから、盗品は絶対に扱わない」


 何せ客に鍛冶師を選ぶ権利がない。鍛冶師の方が客を選ぶ。


 これは鍛冶師だけじゃ無い。武器屋も防具屋もそうだ。客を客とも思って無い……


「それに、この地域の武具は、この地域の鍛冶師以外ではメンテナンスも碌に出来ない特殊な物ばかりだ。奪ってもメンテナンス出来ん」


 メンテナンスしないと本来の性能の半分も発揮出来ないから、強奪した段階でほぼ詰んでるそうだ。


「裏組織がそう言った装備を扱うんじゃ?」


 闇市場とか有りそうじゃん?


「ふっ、そうだな。裏組織が仮にあったら、この街の冒険者連中は、嬉々としてその組織を潰しに行く。だからこの地域にそんな物は無い」


 お陰で表立って行動している裏組織は全滅したらしい。


(裏組織なのに表立って行動って、意味わかんねえ)


「要するに、この地域ではゴロツキ連中は、冒険者になるか、冒険者に〆られてるかで、そんな連中が全く居ない」


「けどそれってタチの悪い冒険者が居るってことじゃあ?」


「まあお前らも薄々感じてると思うが……この地域の冒険者は血の気が多い奴が多くて、正義漢が多い。特に主力となっている召喚者はそんなのばっかりだ」


「ああ……召喚者って、一応勇者候補でしたっけ?」


 自分じゃあ全く自覚は無いし……俺に限っては何かの間違いだと思うけどね。


「そういう事だ。まあ例外は居るが、少数だな。後な、一応でも勇者候補なわけで、しかもファンタジーな世界に召喚されている。英雄に憧れる馬鹿が多いとくればな……」


 まあそれで更に強いとなったら、確かに正義の味方しに行きそうだ。


「それにこの街の武具は精霊の宿った『生きている武具』が多い。武具に宿った精霊に名前を付けるから、調べられたら誤魔化す事も出来ん」


 精霊の名前を他人が勝手に変えたり出来ない。


「精霊がそれを認めんからな。奪った剣など、精霊に嫌われてナマクラ同然だ」


「なら安心なのでは?」


「それでも『蛇の道は蛇』だ。他にも色々相手の装備を奪うやり方は有る。それに少数だがタチの悪い冒険者が居る」


 そんなタチの悪い冒険者は、単に嫉みで嫌がらせをしたりするのだそうで。分不相応に出来の良い剣を持っていると、色々危険なのだそうだ。


「やっぱり、そんなに良い出来なんですね『斬月』は……」


(いやホントにビックリするくらい手に馴染む。こう振りたい軌道にピタッと乗る感覚。自分の剣の腕が上がったように錯覚する程だよ……)


 重さも長さも柄の握りも全部丁度良い。意味不明な位に嵌る感覚が有る……


 俺は細かな要望とか全くしてない。そもそも細かな要望するだけの知識も腕も無い。


 我らの聖女! ノリコ様が大雑把な武器の種類を決めて、メグミの姉御が設計して製造した。


(なのにまるで俺が事細かに要望して造って貰ったみたいに要望通りなんだよね……要望してないのになぁ……)


「ああ、良い出来だ。だからこそ猫に小判にならんように鍛えねばな。なに任せておけ。筋肉だ。筋肉は裏切らん! ミッチリ鍛えてマッスルな肉体にしてやるから大丈夫だ!」


「いや……俺は背が余り高くないから、どっちかって言うと、スピード重視で行こうと思ってるんですけど……」


「背なんて関係ない。シノブを見てみろ。な? 大丈夫だ」


 何が大丈夫なのかサッパリだ。


 同じくアキヒロさんの所のパーティメンバーのシノブさんは、他のメンバーに比べると若干背が低い。


 でも俺よりも高いし、身体のゴツさが全く違う。具体的にはゴリマッチョだ。


 俺としては細身のノブヒコさんみたいな、斥候寄りの軽戦士が向いていると思ってるんだけど……


(ノブヒコさんはシンゴの練習に付き合って手が空いてないんだよな……)


「…………」


 マサオさんは良い先輩なんだけど……


(ちょっと……うん、まあ筋肉の信者というか、筋肉の信奉者というか……)


 アキヒロさんもゴロウの練習の相手が有るから、必然的に俺の相手は筋肉三人組になるんだよね……


 筋肉三人組ってのはマサオさんにシノブさん、それにヒトシさんを加えたゴリゴリマッチョの三人組の先輩方の事だ。


 マジ筋肉! ムッキムッキでマッソーでパワフルな先輩達だ。


 あんなのに成れる気がしない。顔まで筋肉みたいな人達だぜ? 主食がプロテイン……


 もっと美味しいモノが食べたいので遠慮します。


 まあなんにしてもオーク討伐演習が終わってもまだ、俺達は剣に助けられて戦えるようになった『見習い冒険者』だった。


 うんまあ、それは分かってんだ。


 けど戦えるようになった事実は変わらない。俺達三人は俺の『斬月』、ゴロウの『デュランダル』、シンゴの『虎徹』を得て、魔物と戦える様になっていた。



 でだ、戦えるようになった俺達は、積極的に女の子に声を掛けてパーティに誘っていたんだ……


「なあタクヤ、なんで女の子ばかり誘ってるんだ? 何をそんなにガッツいている? 剣の腕を鍛える心算なら地下六階の『ゴブリンの草原』か地下八階の『オークの集落』の方が良いぞ? ただあそこは女の子は入れないからな。男を誘え」


「けどアキヒロさん、可愛い彼女が欲しいとか思うでしょ? 普通そうでしょ? 俺はこっちに来てからちっともモテない! やっと少しは戦えるように成ったんだから、女の子とパーティを組みたいって思うのは当然でしょ?」


 そうやっと普通にパーティに誘って貰えるほど戦えるようになったのに、野郎とパーティなんて組みたくはない。


 しかも相手の魔物はゴブリンやオーク。もうね男くさくてウンザリだ。女性のパーティメンバーを求めるのは当然だと思う。


「他の二人も同意見か? はぁ~ったくもしかしてお前ら溜まってるのか?」


「うっっ……そうですよ! 仕方ないでしょ? 思春期男子なんだから! なんだよ自分は最近ユキコさん達と仲が良いからって……余裕ぶっこいて」


 そう溜まってる。いやこの異世界、何のかんのと可愛い子が多いのよ。レベルがマジで高い。


(ノリコ様は別格だけど、カズミってちょっと有名な美人の神官戦士や、他にも色々とね)


 召喚者は何故か美人が多い。それに冒険者組合の受付嬢とか美人揃いだ。


 そんなカワイ子ちゃんたちが周りに大勢いる。


(そりゃ欲求不満だって溜まるわ!)


 ムッツリスケベなシンゴは当然としても、余り性欲が無さそうなゴロウでさえ、溜まってる!


(皆、思春期男子だからな。まっ当然だろ?)


 アキヒロさん達は例外、ユキコさん達は可愛いからね。



 オークの討伐演習の時、何故か棍棒以外の武器を持ったオークが沢山いて、そのオークとの戦闘で怪我人が多数出た。


 その時、治療の為に救援に駆け付けてくれた神官達。そのメンバーの中にユキコさん達が居た。


 アキヒロさん達は当然、怪我なんてしなかった。けど、運悪くゴロウが武器を持ったオークと戦って、ちょっと怪我をした。


 相手のオークは鉄の棍棒を装備してたんだ。


 盾で攻撃を防いだんだけど、盾の耐久値が既に限界だったのか、その時の衝撃の所為か、攻撃を受けた盾を粉砕されて、腕が折れた。


 腕が折れたのを『ちょっとした怪我』ってのも違和感が有るんだけど、この世界ではその程度なんだよ。


 腕を斬り飛ばされたり、喰われても、生やす事が出来る世界だぜ? 骨折程度は簡単に治るから、その程度扱いなんだよね……


 まっ、治るってだけで痛みは一切変化無いから、メッチャ痛いんだけどね!


 その治療に付き添った際に、アキヒロさん達はユキコさん達と知り合った。


 ユキコさん達は既に『鋼鉄』の冒険者で、後衛、全員神官だ。



 女の子パーティのリーダーのユキコさんは『大地母神』の神官戦士。


 装備は盾にメイスの正統派スタイル。だけど、武器も含めて攻撃の為じゃ無い、主に防御の為だ。パーティでは回復役をメインにしている。


 スラリとした細身でスタイルの良い、長い黒髪をポニテにしたお姉さんで、スッキリとした美人だ。


 サバサバした性格でとても話しやすい。面倒見も良く、パーティのお姉さん役だ。前に「お母さんでは?』と言ったら叩かれた。


「誰がお母さんよ! せめて『お姉さん』って呼びなさい!」


「ユキコさんって癒し系だからつい……」


「癒し系? 回復系だけど……?」


「イヤ、そっちじゃ無くて、見た目が癒し系でしょ?」


「……ほぉ、せっかく訂正のチャンスをあげたのに、それを棒に振るとは良い度胸だわ。タクヤ君」


「何故っ!? 褒めてるのに!」


「男性の言う『癒し系』は、顔はそれなりって意味でしょ! 美人なら美人って言うし、可愛かったら可愛い系よね?」


「あっ……って違うっ……ユキコさんは癒し系美人です!」


「後ね、見た目が癒し系ってのには、ちょっとぽっちゃり系って意味が含まれてるのよね?」


「ユキコさんの何処がぽっちゃりですか? 細身じゃ無いですか!」


「うるさいわね、どうせ胸は小さいわよ!」


「そんな……スタイル良いですよ!」


「フム、じゃあもう一度。私はこのパーティの何?」


「美人のお姉さんです!」


「よろしい! 合格!」


 とまあノリが良い。


 『劣化ノリコ様』と俺達三人は影で呼んでいる。酷い? だって見た目がね……


 少し背が高くて美人な所が、なんとなく似ている。それに口よりも先に手が出る辺りもソックリ。


 ただ胸は圧倒的に負けているし、背もノリコ様程高くは無い。それに美人度も劣る。


 ねっ、劣化だろ?


 まあノリコ様と美人度を比べるのが間違ってるんだけどね。勝てる人類なんて居ない。


 けど、ユキコさんくらいの美人の方が緊張しなくて良いかも知れないな。とても話し易い。


(ユキコさんなら、本当に癒し系アイドルになれるんじゃないかな?)



 ユメさんは『青き月の女神』の神官で攻撃魔法が得意。


 装備は盾にフレイル? うーん二節棍って呼んだ方が良いのかヌンチャクって呼べば良いのか迷う武器を装備している。


 本人の言い分は、


「重い武器は無理、だけど攻撃力も欲しい。それでいて攻撃を受け流して防御もしたいの」


って事らしい。


「他で見た事が無いんだけど、オリジナルですか? 棒を鎖で繋いでいるだけですよね?」


「軽くしたいから中空だけど、魔鋼製なの。基本はヌンチャクに近いかなぁ」


「ヌンチャクよりも棒部分が長い?」


「そうなのっ! この長さが重要なの。この長さと鎖による連結がミソ! それだけでムチのようなシナリを利用出来るの!」


「成る程、間合いも稼げるし、遠心力も利用出来る。考えましたね」


「ふっふん! スゴイでしょ。だから棒で殴るよりも威力が高いの。それにそこまで重くない。手に衝撃も返って来ない」


「相手の攻撃を受け流すのにも、武器の長さは重要ですよね」


「そうなの! スッゴイ便利なの! なんで流行らないかなぁ?」


 これ程、人によって得手不得手がハッキリした武器も珍しい。


「『扱いの難しさ』じゃ無いですか? 上手く使うには慣れも有るんでしょうけど、器用さが必要ですよね? ってユメさんって結構器用ですよね?」


「まあね。腕力は無いから他でカバーしないと」


 本当に使い熟すのは難しそうな武器で、誰にでも気軽に扱える武器じゃあ無い。だから流行らないのは仕方がない……


 ただ、ユメさんは本当にアイデアマンなので、色々装備を工夫して、自分の欠点を補ってる。


 武器も変わっているけど、一番特徴的なのは額のサークレットだ。


 魔法の補助に使う魔法触媒なのだそうだけど、大きな楕円の魔法球が額に付いて居て、第三の眼と言うかこう……カッコいい。


 ユメさんは外見は細くて華奢な、ちょっと痩せ過ぎな気もするお姉さんで、色白ってより青白い感じがする。


 けど本人は至って健康で元気が良い。


「クゥ、我が額の邪眼がっ……」


「邪眼って邪悪なんですかそれ?」


「ノリが悪いなぁ。額の眼は邪悪じゃ無くても邪眼なの!」


「んな無茶な……」


「無茶なもんですかっ! こっちの世界はね。大体ノリで出来てるのよ。ノリと勢いが大事!」


「ユメさんって見た目、知的な感じなのに結構大雑把だよね」


「インドア派の文学少女が、無理矢理アウトドアで殺し合いさせられてるのよ。吹っ切らないとやってられない!」


 ダメな方向に吹っ切っちゃたのか……


「文学少女……ああ、でも見た目的には、厨二セリフ吐くより、物静かに本を読んでる方が似合ってますよね」


「何故、文学少女に引っかかる!?」


「どっちかって言うと、オタク少女かと……」


「何故バレたし!」


「邪眼なんて言う人が、何故バレないと思ったのかそっちが不思議です!」


「黙ってれば、華奢な知的美少女に見えるでしょ?」


「黙ってればね! でもユメさん細いよね……結構食べるのに」


「昔から太らないの、体質でね。その代わり鍛えても筋肉が付かないんだけどね」


「色白だし、肌真っ白……美白?」


「言ったでしょ? 本を読むのが好きでインドア派なの。日本にいた時は、肌を日差しで焼いた事の無い箱入り娘よ」


「引き篭り!?」


「ちっ……ちがうわっ! ちゃんと学校に行ってたからっ! 本当にお嬢様なだけだから!」


「自分でお嬢様って言っちゃたよ、この人」


「事実だし!」


 元から色白なのに、日に当たらないから余計に白い。


 それに話しを聞いたら本当にお嬢様だった。しかもノリコ様と同じ女子校で一年先輩だった。


「ノリコ様って昔からあんな感じなの?」


「『様』って……昔から絶世の美女よ。学校中で知らない人が居ないんじゃ無い?」


「まあ当然か」


「当然でしょ? アレだけ目立てばね……けど、コッチに召喚されて、あんなに楽しそうにしてるのは意外だった」


「意外?」


「学校じゃあ高嶺の花よ。お嬢様学校の中でも飛び抜けてたわ。だからかな? 周りに人は居るけど、何時も物憂げで。それが返ってアンニュイな感じで良いって、みんなキャーキャー言ってた」


「女子校内のアイドル?」


「ん~ん? ちょっと違う……そうね『お姉様』って感じ? 歳下なのに『お姉様』になって欲しいって言ってる同級生がいたよ」


「はぁ? お姉様……女子校独特のノリ?」


「男が居ないからね。それにお嬢様学校だから百合っぽい娘もいるの」


 百合か……ノリコ様って若干百合っぽい。


 けどまあ何処にしても、メグミの姉御がロックオンしてる時点で、百合ルートしか選べないよね。


「ユメさんはノリコ様と面識はあるの?」


「いいえ無いわ。こっちが一方的に見かけただけ。学年が違ったし」


「物憂げか……想像が付かないな」


 俺にはメグミの姉御達とニコニコと嬉しそうにお喋りしてるか、良い笑顔でポールハンマー振り回して、俺達に御説教している場面しか思い浮かばない。


「こっちだとメグミちゃんが引っ張り回してるもの。物憂げにしてる暇なんて、ないんじゃ無い」


「強引だからね。メグミの姉御は」


「でも、楽しそう。それに今の方が綺麗よ。美人には笑顔が似合う……花が咲いたみたい」


「ユメさんも百合?!」


「歩く姿はね! って違うから! 私はマッチョが良いの!」


「何故? ユメさんマッチョと対極だよね?」


「だからよ。自分に無いモノを人は求めるの」


 変わった趣味のお嬢様。それがユメさん。


 でも、本当にお嬢様だと思う。口調はこんなんだけど、所作が洗練されてて、上品で綺麗なんだよね。


 それにボブカットと本人は言っているけど『オカッパだろ』って思うぱっつんカットの黒髪。これもなんだかお嬢様っぽい。


 美人ってよりは可愛い感じの明るいお姉さんだ。


(見た目は隠キャなのに、話すと外見と全く違って明るいんだよな)



 トモコさんは『海王神』の神官戦士。


 盾にトライデント装備で、積極的に前に出る前衛寄りの中衛。


 大柄なお姉さんで元水泳部らしい。俺よりも背が高い。ノブヒコさんくらい有るんじゃないか? シンゴよりも高いし……


 健康的に日に焼けた肌がユメさんと対照的だ。


 『海王神』の加護に『力の奔流』というのがあるそうで、元からの筋力に加護が加わって、見た目の数倍腕力がある。


 水泳部だった事もあり見事な逆三角形のスタイルで肩幅が凄い。


 こんな見た目なのに中身は乙女だ。


 とっても恥ずかしがり屋で大人しく、趣味が編み物や裁縫。お菓子作りも得意で色々と作っては皆んなに振舞ってくれる。


 顔は……男前な美人って、自分で言っていても意味不明なんだけど、女性なのに女性にモテそうなお姉さんだ。


 女性にモテるって言っても男装の麗人って呼べる程、華麗じゃあ無い。


「トモコさんのお菓子って美味しい!」


「ん……」


 笑顔で嬉しそう。


「このラッピングもトモコさんが?」


「ん……」


 ちょっと恥ずかしがってる。


「もしかして……そのサマーセーターも手編みですか?」


「ん……」


 なんだか自慢気。


 無口ってのか、会話はちゃんと成立するんだけどセリフがとても省エネなお姉さんだ。


 けど、何故か庇護欲をくすぐられる放って置けないタイプ。


(こんな見た目なのに、何処か可愛く感じるんだよね。内面の乙女な部分が滲み出しているんだろうか?)


 髪はこの世界に来てから伸ばし始めたらしく元ショートだった髪の毛がミディアムロング位になっている。


(カチューシャで纏めて居るのがゴツい外見とアンバランスで非常に良い!)



 最後のエレナさんだけは日本からの召喚者じゃない。


 こちらの世界の『戦兎人』という種族の女性。ハーフではなく純粋な『戦兎人』がこの地域に居るのは珍しいらしい。


 真っ白な髪に真っ白な肌、赤い瞳に兎耳、正に白兎って外見だ。


 『白き月の女神』の僧兵で格闘術『舞踏神拳』の使い手。パーティでの役割は斥候及び遊撃だ。


 武装も変わっている。日本ではカタールって呼ばれている武器によく似ていて、籠手の握り込んだ拳の先にナイフ位の長さの刃の付いた武器だ。


 格闘家が対魔物用に拳の代わりに装備する武器らしく、主に『舞踏神拳』で用いられる。


 刃の付いた武器を僧兵が使うのはどうかと思うけど……


「はぁ?! 刃物? 違うわコレは祭器。神に捧げる舞を踊る際に用いる祭器。だから武器じゃない」


 と訳の分からない事を言っていた。


「全くコレだからナヨナヨした男はダメなのよっ!」


「それとコレは無関係では……」


「あ゛あ゛っ!」


 しかし、その言い訳で実際に問題ないらしい。


 そもそも『舞踏神拳』は『白き月の女神』に捧げられていた舞踏が発祥だそうだ。


「だから問題無いと言われても……コレってバッチリ刃物なんだけどそれってどうなの!?」


「あ゛あ゛っ!」


 でもって、戦兎人は『白き月の女神』の使徒の部族と言われるほど、『白き月の女神』の信徒が多く、白き月の住人だとの伝承が残っている種族らしい。


「月にウサギってそんなベタな……」


「あ゛あ゛っ!」


 戦兎人はウサギ扱いするとキレる。


 エレナさんだけじゃ無いよ。種族全員でウサギ扱いを断固拒否してるって話し……


「戦兎人って種族名にウサギが入ってるんですけどそれは?!」


「あ゛あ゛っ!」


 そこは突っ込んではダメらしい。


「そもそもウサミミなのになんで?」


「あ゛あ゛っ!」


 それでも断固拒否する。


「冷たい視線ありがとうございます!」


「キモッ!」


 そこは『あ゛あ゛っ!』じゃ無いんだ……


 エレナさんはモデルの様なスタイルで、細いのに出るところは出て、手足が長く顔が小さい。


 ユメさんみたいにガリガリって感じじゃなく、新体操やフィギュアスケートの選手みたいに、しなやかな筋肉の付いた引き締まった細さだ。


(まあスタイルにウサギっぽい弱々しさは全く無いよね)


 顔はキツイタイプの美人で、性格もキツイ。ユキコさん達、他の女子メンバーが言うには『ツンデレ』なのだそうだけど、俺達にはツンしか無い、デレが全く無い。


 『ツンドラ』じゃ無いかとシンゴが言っていた。デレの全く無いツンツンした女の子の事だそうだけど、正にその通りだと思う。



 ユキコさん達はそんな女の子だ。


 皆神官としての能力も高く加護が強い。回復役のユキコさんだけでなく、全員が治療師の資格も持っている優秀な先輩女子だ。


 そして彼女達は全員マッチョに拒否感が無かった。


 そう……みんな普通に美人揃いなのにマサオさん、ヒトシさん、シノブさんとマッスルでパワフルな筋肉三人組に対して拒否感が無い。


 それどころかそう言った逞しい男性が好みのタイプ……筋肉フェチだった……


「あの筋肉三人組を受け入れてくれる女子……マッチョ好きな女子って貴重だよなぁ」


「ナヨナヨしたのが嫌いって事だぜ」


「俺は、結構ゴツいんだけど」


「ゴロウは、性格がなぁ……」


「……」


「なら俺は?」


「シンゴは、その痛さが女々しいってさ」


「クゥッ! けどユメさんは同じオタクだろっ!」


「オタクがオタクに優しいとは限らないだろ? 俺は取り敢えずエレナさん以外は普通に話せてるよ」


「エレナさんはな……」


「アレは無理だろ?」


「でもマサオさんとは普通に話してるんだよな。ってかアキヒロさん含めて先輩達とは普通」


「でもやっぱりマサオさんか?」


「だね」


「ユキコさんはアキヒロさんかな? アキヒロさんの方が、あのタイプが好みなんだろうな」


「だな、アキヒロ殿は癒し系美人のお姉さんが好みらしい」


「だね」


「ユメさんはヒトシさん? 俺達との違い……抱擁力の差か?」


「ヒトシ殿は、ユメさんの理不尽に余裕で付き合えるからな」


「理不尽って……あのノリを往なせるのが良いのかな?」


「トモコさんはシノブさんだろ? 凸凹コンビ!」


「一緒に居て疲れないんだと」


「良いよなぁ」


 そんな理由でアキヒロさん達と意気投合した。


 ノブヒコさん? あの人は別格! 元々彼女が三人だっけ? 四人だっけ? そんなにいる別世界の住人。


 話が逸れた!


 ってな訳で、アキヒロさんは、ユキコさん達と俺達も加えたギルド『昴』を立ち上げた。


 パーティは大体最大で8人なんだけど、アキヒロさん達5人、俺達3人、ユキコさん達4人を加えると12人になる。


 そこでギルドにして、全員で行動する時は、6人のパーティを二つ作って行動出来るようにしたって訳。


 まあ俺達3人はまだ見習いだから、ギルドでの練習時以外は、同じ見習い冒険者と臨時のパーティを組んで修行してるんだけど……その際に一緒に組む相手はやっぱり女の子が良い。


 アキヒロさん達は気にしてないのかもしれないけど、野郎ばかりで組んでいると、男ばかりのパーティでずっと過ごす事になり兼ねない。


 そりゃ戦闘だとそっちの方が断然楽だし、気も使わないでいいから、下手をしなくても男ばかりのパーティになる可能性が高い。


 悪い先例としてアキヒロさん達を見ているから、ああならない様に積極的に女の子とパーティを組もうとしていた。


(……何が悪い! アキヒロさん達は5年目にしてやっと女子メンバーをゲットしたけど、俺はそんなに待てない!)


「別にユキコちゃん達とはそんな関係じゃないぞ? それに溜まってるんならなんで『サキュバスの娼館』に行かないんだ? あそこで取り敢えず抜いて来れば良いだろ?」


「『サキュバスの娼館』? なんですかそれ?」


(娼館って事は女の子とエッチする風俗店? まあそんな所なんだろうけど……サキュバス?)


「お前らなぁ……少しは情報収集もしろ! この街に住んでいて、あそこを知らない男とか普通いないぞ?」


「サキュバス? サキュバスって言ったら綺麗な女悪魔で、SEXをして男の精を搾り取るって奴だな」


「そうなのかシンゴ? サキュバス? 女悪魔? 魔族って奴か? でも綺麗なんだろ? それでSEXまでしてくれるとか天使じゃねえか?」


「なっ!! タクヤ、サキュバスを知らないのかっ!」


(えっ? なにそれ? 常識見たいに語られても困るんだけど? 俺の周りでは一度もサキュバスの事なんて話題に上がらな無かったぞ? 大体、普通悪魔の話とかするか? 俺が知ってるのはサタンとルシファーだっけ? それ位だよ?)


「知らないな……有名なのかそれ? ゴロウは知ってるか?」


「俺も初耳だな、ゲームか何かのキャラクターなのか?」


 ゴロウも知らなかったようだ。


「だよな、普通そんなの知らないよな?」


「お前ら本当に少しは情報収集をした方が良いぞ? シンゴの言っているサキュバスは元の世界の伝承に残っている悪魔の一種で、淫魔と呼ばれている女性型悪魔の事だろ?」


「違うのですか?」


「こっちのサキュバスは少し違う。まあ魔族の一種で淫魔なのは変わらないんだが、元の世界のサキュバスみたいに角や尻尾は無いし、コウモリの翼も生えてない」


「それじゃ見た目普通の人間と一緒? 特徴とか無いんですか?」


「見た目は人間とほとんど変わらない。そもそもメグミちゃんのパーティメンバーにサキュバスが居るだろ? お前達も会ってる筈だぞ?」


「それっぽい娘、居たかな?」


 剣のメンテナンスで訪れるメグミの姉御の家で、最近良く見かける娘は何人か居るけど、その内の誰がサキュバスか俺には分からない。


(みんな美少女だって事しか分からないな)


「まあ古参のサキュバスは姿形を自由に変えられるらしいから。もしかしたらシンゴの言うようなそれっぽい角や尻尾、翼なんかも生やせるのかもしれないけど、俺は見たことが無いな。だからメグミちゃんの所のサキュバスも普通の娘だぞ」


「へえ、元の世界でも有名なのか……で? 『サキュバスの娼館』って事はこっちでもSEX出来るって事ですか?」


「そうだ、しかも安い! あと美人揃いだ。何だろうな……ちょっと人間とはレベルが違う綺麗さだな」


「そんなに? って、でもノリコ様やサアヤちゃんもスッゲー綺麗でしたけどあれ以上? ちょっと想像がつかないな」


 メグミの姉御の家に居た娘達も全員美少女だった。けど、あの二人以上ではなかったと思う。


「んっ?! ああ、ノリコちゃんはちょっと別格だ。アレは普通の人間と一緒にしちゃダメだろ? 絶世の美女って奴だろあれは!」


「まあ確かにそうですよね。あんな美人はテレビでも見たことが無いもんな」


(ノリコ様の種族は聖女だ。間違いない!)


 あれは同じ人間とは思えない。


 テレビに出ているアイドルが、霞んで見えるほどの美人だ。あれ程綺麗な女性は見たことが無い。日本人とか外国人とか超越している。


「それにサアヤちゃんはエルフだ。あれも別格だ」


「ああ、そうか。サアヤちゃんは人間じゃなかったんでしたね」


 サアヤちゃんも本当に綺麗だ。


 こう明らかに人間じゃない美しさだ。口調は結構きつめで、弱々しい所は全く無いんだけど、見た目は儚げで、正に妖精の様な幻想的な美しさだ。


 金髪美少女好きの変態日本人なら一目でノックアウトされる! 間違いない。俺でも少しやばい、あれでもう少し胸が大きかったらマジでヤバかった……


「そうだよな、お前らあの三人を知ってるから……中々説明し辛いが、まあメグミちゃんレベルの美人さんが勢揃いって所かな?」


「メグミの姉御が美人? えっ? 美人……どうなんだそれ?」


 メグミの姉御ほど美人って言葉の似合わない女の子もそうは居ない。年下なのに俺が姉御って呼ぶような娘だぜ?


「あのなタクヤ、落ち着いてよく思い出せ。メグミちゃんも普通にそこら辺に居るレベルの美人じゃないぞ? 色々他が酷すぎて、雰囲気で大分損をしてるが、あの子も早々居るような美人じゃない」


「うーーん、まあ確かに顔は整ってますよね……ただ、怖さというか、こう雰囲気があれなんで、美人って感じじゃない様な……整った顔の所為で返って凄みが増しているよね……」


 美人かどうかと言えば、間違いなく美人だろう。


(けど……綺麗ってより乱暴な、凶暴な印象の方が強いんだよな)


 どちらかと言えば『漢』って感じだ。あれで性別が男だったら『兄貴』って呼びたくなるほど男前な性格をしている。


「服というか格好もなぁ……なんでメグミちゃんは、あんなにボロボロな格好なんだろうな?」


 ゴロウもやっぱり美人って印象じゃないらしい。


(まあ、あのボロボロ服も確かにそうだよな……こう色々繕っているのは分かるんだけどね……普通女の子があんな服を着るかな?)


 でもって本人がそんな服や鎧の事を一切気にしてないんだよね。


 そんなボロボロの服を着ているのに、卑屈さが欠片も無い。堂々と何時も胸を張ってるってより、姿勢が良いんだよな……


「ダメージファッション? 我が女神のノリコ様やサアヤちゃん、他の二人は普通だ。なのに一人だけってボロボロって事はワザとだろ?

 でなければノリコ様が放置するわけがない」


 シンゴの言う通り、もしかしてファッションなのかと疑いたくなるくらい、本人は平然としている。


「アレはな……魔物の攻撃をギリギリで避けるのを楽しんでいる風だった。恐らくその所為だろ。メグミちゃんは服や鎧を攻撃が掠めてもへっちゃらだ。その所為で傷んでいるんだろうけどな」


「ギリギリで避けるのを楽しむって、なんでそんな事を?」


「余裕過ぎるんだろ。そうでもしなきゃ余裕過ぎて戦ってる気がしないんじゃないか? 低階層の魔物とか、メグミちゃんにとっては雑魚だろうからな」


(メグミの姉御の行動を思い返すと、アキヒロさんの言ってる事が正解なんだろうなぁ)


 面倒くさがりで、無駄な事をしたがらない。一見、命懸けでスリルを楽しむ様な、そんな無駄な事を嫌う合理主義タイプにみえる。


(それでもアキヒロさんの見解が多分正解。納得できるんだよな……)


 メグミの姉御は合理主義に誤解され易いけど違う……アレは男に対してだけだ。口が悪く、男に対して当たりが超キツい。


(男に労力を割こうって気が丸で無いだけ何だよなあ……)


 女の子相手と男相手で、まるで態度が違う。


(女性ならおばあちゃん相手でも親切な辺り徹底してるよね)


 まあ女性相手でもお気に入りと、そうじゃ無い相手じゃ態度が違う。


(メグミの姉御は己の欲望にとても素直なんだよね)


 自分の欲望の為なら手間暇を惜しまない。


(男に対してだけ、面倒くさがりで、無駄を嫌う……興味が無いんだよな)



 メグミの姉御は男に一切興味がない。


 エレナさんみたいな『ツンドラ』ですらなく、そもそも男が視界に入っていない。


(なにせ未だに俺達の顔を覚えてくれない! イヤ、マジで顔を全く覚えて無い!)


 造って貰った剣を見せて、ようやく個人を認識してくれる。


(そんなバカなと思うだろうけどマジだ)


 街中ですれ違っても当然の様にスルーされる。


 ノリコ様やサアヤちゃんは挨拶してくれるんだけど、メグミの姉御はそれを不思議そうに眺めるんだぞ?


 剣のメンテナンスとかで、もう何回も顔を突き合わせてるのに、一切覚えて無い。


 不思議に思ってメグミの姉御に尋ねてたら……


「そんなに不思議かしら? アンタは路傍の石ころを一々覚えているの?」


「えっと、それは俺達はその程度の存在って事?」


「違うわよ。そう見えてるだけって事よ」


「??」


「メグミちゃんは実際に男性の区別がついていないってだけですよ」


「サアヤちゃん、それってどういう事なのかな?」


「言葉通りの意味ですよ。メグミちゃんには男性の区別が付きません。人にサルの個体差の判別がし難い様に、メグミちゃんには男性の個体差の判別がし難いって事です」


「人間扱いされて無い!?」


 有り得る! メグミの姉御なら有り得る……


「そんな訳ないでしょ! 一応人間カテゴリーとして認識はしてるわよ!」


「えっ! じゃあサアヤちゃんの……」


「声や体格で、人だって事は分かるわよ! 言葉だって通じるもの」


「???」


「言い方が悪かったですね。メグミちゃんには男性の顔の区別がつきません」


「でも見えてるよね?」


「メグミちゃんの認識している世界では女性と、男性が別種族として認識されてるんです。人は人でも別種族って事です」


「冗談だよね?」


「本当よ。男なんて、その程度で十分じゃない?」


「いやいや、例えそう思っても。そう認識されないよね?」


「よね? って言われてもねえ。私には生まれた時からそんな世界よ?」


「えっ?!」


「冗談でも、何でも無くて。メグミちゃんにはそう認識されてるんですよ……」


 メグミの姉御は、男を視界に入れていないと嘯いていたそうなのだけど。


 相手が男の場合、面と向かって顔を突き合わせても、全く相手の顔を覚えていなかった……


 で、ノリコ様とサアヤちゃんは、流石に変だと思って検査したんだそうだ。


 結果、本当に男性の顔の区別がついていなかったらしい……


「けど区別のついてる男も居るよね?」


 例えばメグミの姉御のパーティメンバーのタツオは一番親しい男性だと思う。


 それにウチのギルドマスターのアキヒロさんや副ギルドマスターのノブヒコさんとかどうなんだろう? 


 ウチのギルドとは普通に付き合いがあるから、それなりに親しく会話してるよね?


 後は冒険者組合の副会長のアツヒトさんかなぁ? 初心者講習でお世話になるし、色々あって、良く会話してるでしょ?


 この辺の男性は区別がついてる様に見えるんだけど……


「親しい男、そうね……パパや弟は声と体格、それに何となくの特徴で区別してたわ」


 自信満々で答えてるけど、肉親でさえそれって酷く無い?!


「サルの種類程度の認識ですけどね」


 サアヤちゃんから追い討ちが掛かる。


「例えばタツオはどう見えてるの?」


「サルに例えるなら眼付きの悪いでっかいゴリラかしら?」


 眼付きと大きさ?! タツオは泣いて良いと思う。同じパーティのメンバーなのに、この扱い……哀れ過ぎる。


「アキヒロさんは?」


「優しそうなゴリラ」


 それでもゴリラなんだ……


「ノブヒコさんは?」


「中性的なチンパンジー」


 ノブヒコさんをチンパンジー呼ばわりする女子は、恐らくメグミの姉御だけだ。


「アツヒトさんは?」


「イケメン風なゴリラ」


 筋肉質な男性は全部ゴリラなのか?


「俺は?」


「サル」


 泣いて良いかな!?


「他との差はなんなんだ……」


「差は危険度かしら? 危なそうなのは何か特徴を掴んで区別しないと」


「そうなのか……」


 って事は俺って安全って思われてる?


(いや……そもそも眼中に無い程の雑魚って線が濃厚かなぁ)


「顔とか言われてもね。男の顔はよく分からないわ。だから何となくの模様で覚えるようにしてるの。一応、目だとか鼻だとか区別はつくのよ」


「集中すれば、ある程度は認識出来るんですよね」


 男の顔が毛皮の模様程度の認識って事?


「サアヤちゃんはよく分かるね? メグミの姉御と生活するに当たって勉強したの?」


「私もエルフですから……人族の区別は普通の人ほどはついて無いんですよ。メグミちゃん程酷くないから、細かく特徴を覚えて区別してますけどね」


「えっ……サアヤちゃんもそうなの?!」


 まあ言われてみるとエルフの女性は全員美人で、俺達からするとちょっと個人差が分かり難い?


(ん? イヤ、それでも区別は余裕でつくよ?)


 エルフにとって人族ってサル程度の認識なのかな?


「それにノリコお姉さまも、程度の差は有りますけど、多少その気が有りますよ?」


「なっ! ノリコ様まで!」


「大丈夫よ。私は一応区別は付いてるもの」


「ノリコ様、一応って……」


「違うの……今までの生活で周囲に男性が、お父様と御爺様位しかいなかったから、沢山いて戸惑ってるだけなの、信じて」


 ええ、信じますとも!


「ノリネエは女子校育ちだからね」


 ヤレヤレってジェスチャーしてるけど、メグミの姉御が一番重症だからね?


「メグミの姉御は?」


「私はずっと共学よ」


「それだと大変じゃあ?」


「別に、特に困らなかったわよ?」


「けど普通に学校生活送ってれば、男と接点が有るよね?」


 共同生活? まあ授業中は常に一緒にいるわけで、どうやって暮らしてたの?


「普通に会話は出来るし、普段は男を相手にしなきゃ良いだけでしょ」


「そうなの?」


「今アンタとも普通に会話してるでしょ? 困らないのよ意外とね」


 メグミの姉御は男に興味がないだけで、嫌っている訳じゃない。普通に会話は成立するんだよね。


「街中ですれ違っても、全く認識出来ませんけどね」


「普段から無視してれば、関係無いわよ。男を無視する女って立場さえ構築しておけば大丈夫!」


 それは普通大丈夫って言わない!


「要らない恨みを買いそうだけど……」


「喧嘩は買うわよ? 二度と手を出そうと思わない様にボコっとけば、後は大人しいものよ」


 メグミの姉御は戦闘狂な所がある。ってか、売られた喧嘩は全て買う。


(どれだけお転婆な少女時代だったんだ?!)


 こんな調子なので、戦闘が物足りなければ、自分の欲望のままに危険な事をしそうだ。


 服や鎧がその度に傷つくけど、メグミの姉御の事だ。修復したり、繕っていれば機能上問題なしとして、見た目とかハナから問題にしていないんだろう……


「本当にメグミの姉御は戦闘狂だよな……」


「アレはチョットな……」


「喧嘩は売らないけど、売られた喧嘩は絶対買うよね。メグミちゃんって」


「他人に売られた喧嘩も、それに女の子が絡んでいたら買うらしいぞ」


 アキヒロさんから追加情報が入った。


(何かやらかしたのかな?)


「「「…………」」」


「っと話が逸れたが……でだ、そんな美人揃いのサキュバスが格安でエッチなサービスをしてくれるのが『サキュバスの娼館』ってやつだ」


「しかしアキヒロ殿、サキュバスは男の精を吸って命を奪う……危険すぎでは?」


「あのなぁシンゴ、俺が命の危険があるところを紹介すると思うか? 言ったろ? 元の世界の伝承のサキュバスとは違うんだ。命なんて奪わない。彼女達は精気を吸うだけだ。大体お前らだって自分でしたりするだろ? 死ぬかそれで?」


 オナニーして死んだって話は聞いた事がない。所でシンゴの言う男の精って精液の事か?


「この世界のサキュバスは男性とSEXして、性欲って奴かな? 男性の精気を吸収して、食事しているが、その所為で死ぬようなことは無い。そもそも魔族は人間を殺さないって初期講習で習ったろ?」


 ん~ん? そんな事を言ってたような?


「殺したらそれ以降食べられないだろ? 彼女達が食事をするには男性が必要だからな、殺したりはしない」


 良く魂を代価に、人の欲望を叶える悪魔の話が有るけど、この世界の魔族はそういった元の世界の悪魔とは違うらしい。


「って事は……単に美人とSEXして気持ちよく成れる天国って事ですか?」


「そうだ! あそこは男にとって楽園。そう天国みたいなものだ」


「うっぉぉぉ! スッゲー、それ良いな!」


(なにそれ凄ぇ! ヤバイ! テンション上がるわ!)


「待てタクヤ、喜ぶのはまだ早い! アキヒロさんには小金でも、俺達には大金って事もある。安いっていっても幾らか金額によるぞ? 借金も有るから余り高いと……」


「うっ……」


 ゴロウに指摘されてそれを思い出す。


 そう俺達には借金がある。オークを狩り始めて金銭的な余裕は出来てきた。


 けど、防具を整えるのに稼いだ金が消えていき、未だにメグミの姉御に剣の代金が払えていなかった。


(期日まで、まだ余裕が有るから忘れてたっ! そう言えばソロソロ返済の代金を準備しないと不味い……)


「それに…………サキュバスって事は処女ではない。幾ら美人でもビッチ相手か……大丈夫なのか病気は、俺はエイズとか嫌だぜ?」


 確かに一理ある。シンゴが指摘する通り、そういった風俗店の利用はリスクもある。


 まあ風俗店に限らず、自由にSEXを楽しめないのは性病や妊娠のリスクが伴うからだ。俺が遊び人の尻軽女が嫌いな理由もこれだ。


 簡単にやれる女ってのは、誰でも簡単にやれる女な場合が多い。誰彼構わずやってれば性病にだってなる。


 複数の相手とやるのは良いが、特定の複数と不特定の複数ではリスクが段違いだ。


 治療できる性病ならまだ良い。けど、エイズとか最悪だ……最近は薬も良いのが出来ていて発症を遅らせられるらしい。でも根治治療じゃない。


(そもそもこの世界にそんな薬が有るのかも分からない……)


 っと、ここで気がついた事がある。


(二股・三股してた俺は、彼女達に性病のリスクがある危険な尻軽男だと思われてた? だからエッチはさせて貰えなかった?)


 ……童貞だからそんな危険は皆無だけど、彼女達に童貞だと告白した事は無い。だから勘違いされていた……


(あり得る! 十分あり得る! マジか! だからか!)


 自分がイヤな事は相手だってイヤだ。その視点が、今までの俺には抜けていた……うん、もう終わった話だ深く考えるのはよそう。


「病気か……それは確かに嫌だな……って違う、もっと根本的な問題があった……俺達まだ未成年だぜ……大丈夫なのか?」


 そう根本的に、俺達はまだ未成年だ、風俗店なんか利用できないじゃないか!


「あっ……」


 ゴロウが絶句している。余り乗り気じゃない様子だったけど、実はノリノリだったのか? 何だか落ち込んでいる様に見える。


「くっ……そうか、ぬかった! そんな落とし穴が!」


「ってシンゴは乗り気じゃないんだろ? 別に構わねえだろ」


「ふっ、モノは試しだ。何事も経験だろ? しかし、そうか……そういったところは未成年禁止か」


(このムッツリスケベは!! ビッチは嫌いなんだろこの処女厨が!! まあ俺も少しそうだけどな……)


 そりゃ男なら誰でも好きな子の初めての相手になりたいと思ってる筈だ。


(まっ好きになったら関係ないかもしれねえけど、この辺は相手次第だな)


「こっちの成人年齢って18歳なのか? 20歳? 18歳なら俺は大丈夫だな」


「ゴロウ!! 裏切る心算か!」


「クッ! 卑怯な!」


 ゴロウは俺達よりも一つ上だ。日本でそのまま過ごしていれば今頃、大学一年生だ。


「ああそうか、タクヤとシンゴはまだ17歳だったか。けど大丈夫だ、この世界では15歳で成人扱いだからな。風俗関係も15歳以上で利用できる」


「そうなんですか? やった!!」


 後で聞いたら、風俗関係は15歳で解禁されるけど、一応法律上の成人は20歳なんだそうだ。


 この世界の連中は結婚が早い。他国の貴族や王族に至っては10歳前後でも平気で結婚する。


 一般市民も殆どが10代で結婚する、20歳超えたら『行き遅れ』と言われるんだそうだ。


(こっちの世界の女の子は大変だよな……)


 ただ、この地域は日本人が多いことも有り、一応法律上の成人は20歳となっているらしい。


 こう地元民と召喚者の妥協の産物というか、日本人召喚者は20歳が成人、地元民は15歳で成人。結婚に関しては年齢制限なしみたいな感じ。


 ただ性犯罪抑制の観点から『日本人召喚者も、性風俗に関しては15歳以上で利用可能』だそうで嬉しい限りだ。


「あとな、病気に付いても問題ない。なにせその辺厳しいからな」


「問題ない……厳しい?」


「娼館に行くとな、先ずは医者の診断を受ける様になる。専属医師が居てな、そこを受診して性病で無い事を証明してから利用するんだ」


 病気の心配の有る『不特定多数』ではなくて、病気の心配の無い『特定多数』にする工夫だそうだ。


「男性だけじゃないぞ、娼館で働く女性達も全員、毎日受診している。万が一性病に掛かっていたら完治するまで男性も女性も娼館利用禁止だ」


 性犯罪抑止とサキュバスの食事の為に、娼館は公に認められたサービスの提供の場だそうだ。


(コッチの世界には面倒なフェミニストが居ないのかな?)


 日本だったら、職業の貴賎も何も無く。ババア共が大反対して潰しそうな公共サービスだけど……


(サキュバスには必要な食事って話だし……それでだろうか?)


 しかし……


「それは、そこまでやってるのに格安?」


「そうだ。一応、保証金と利用料合わせて10万円程掛かる。だがこの内、保証金の9万円は利用後返却される」


 保証金制度? 保証金って何?


「このお金は女性に怪我をさせたり、嫌がる事をしたりすると返却されない。まあ無茶をしなければ大体返却される」


 何か問題を起こした際に没収されるお金って事らしい。


「10万円払って9万円返却される……実質1万円って事ですか?」


「そういう事だ。それで時間無制限で気が済むまで何回でも利用できる。良いか? 娼館を出ない限り、途中で女性を替えたりしながら何度でもOKだ」


 時間無制限で、やり放題!?


「まあ食事や飲み物は別料金だが、中には一ヵ月間ずっと娼館に居る猛者もいるらしい。ただこれは特殊な例だな。……そこまでは普通精力が続かない」


「何回でも? しかもチェンジ有り? マジですか!」


 日本ではちょっと考えられないシステムだ。


 しかも一万円! 見習い冒険者にとって、安いと言える金額じゃあないけど、高くも無い。


「それって……女性達には儲けが無いのでは?」


「流石に安すぎて不安だな」


 娼館で働いでいる女性の生活が、心配になる金額だ。


 アルバイトじゃない、それで食べて行かなくてはならない。途中でチェンジして複数人とした場合、1万円が分割して支払われるようになると思うんだが……


(必要経費もあるだろうし、それだと儲けが殆ど無い状態にならないだろうか?)


 それどころか赤字では無いだろうか?


「まあサキュバスにとっては食事だ。それに娼館にはサキュバス以外の種族の女性もいて、そっちは別料金を払って利用するようになる」


 サキュバスとしては、お金を出して、食事を提供して貰っても良いのに、料金まで払って貰えるからお得。


 ウィンウィンの関係なのだそうだ。


 それに普通の女性の場合は、別途一回利用毎に別料金が掛かるらしい。


(ちょっと安心した。安過ぎると逆に不安になるよね)


「普通に楽しむだけじゃなくて色々オプションもあるから、それを利用する客も多い。オプション料金で稼いだりもしているから、まあ損は無いらしい」


 様々なオプションサービスがあって色々楽しめる様になっているとの事だ。


「それってトータルだと結構お高いパターンでは?」


「ああ、心配しなくても、追加料金が発生する時にはちゃんと幾ら追加になるか金額を知らせてくれる。ボッタクられる事はないから安心しろ」


 ベっ、別に変なサービスを頼む気は無いよ!? 誤解だ!


「普通に楽しめばいいんだ。よっぽど特殊な事をしたがらない限り、追加料金なんて発生しない。良心価格の安全なお店だ」


(なる程オプションで稼いでいるのか! そう言えば飲食物も有料だったっけ?)


 スポーツと同じで水分補給は重要だろう。


(まあ一回終われば何か飲むだろうし、飲食店に性風俗が付いてくるようなお店? そっちがメイン? まっ行けば分かるさ!)


「注意点は他に何かありますか?」


「うーーん、どうせ受付で説明されるからな。一度行ってみろ。最近は魔物討伐で大分稼いでいるだろ? メグミちゃん達への借金の返済分を引いても、余裕はあるんじゃないか?」


 アキヒロさんも同意見らしい。


(これもう行くっきゃないよね!!)


「アキヒロさん達にお世話になってから、大分余裕が出来ましたからね。オーク狩りは儲かるから」


「だな、肉が良い値で売れるし、魔結晶の買取や、討伐報酬も高い」


 本当はもっと強い魔物なのかも知れないけど、俺達の場合、先生として良い先輩達が居てくれるのと、装備が良い。


(楽に儲けさせて貰ってるよな。オークの場合攻撃力が高いから、一発当たると瀕死だけど、彼奴ら太ってて鈍い)


 俺達だけじゃ無理だけど、アキヒロさん達と一緒なら屁チャラだ。


 それに最悪、全力で走れば逃げ切れる。足が遅いのも良い。


「アキヒロ殿の言いつけ通り、防具の購入を優先して、メグミ様への借金返済を遅らせているからな。余裕はある」


 本当は借金をサクサク払うべきなんだろうけど、アキヒロさん曰く。


「借金を返すよりも、先ず装備を整えろ! 装備さえ整えば、直ぐに魔物を討伐して返せる金額だ」


 実際にオークを狩にいく様になってよく分かった事だけど、まあ50万円位の借金は端金に近い。


 だからと言って別に冒険者が凄く儲かるって訳でも無い。


 冒険者は動く金額が大きいだけだ。


 例えば俺達の場合、月に200万円稼いで、装備品のメンテナンスと消耗品の購入で月に180万円程消えていく。


 純粋な儲けは月に20万円。


 高校生だった頃からすれば、20万円でも大金。でも良く考えて欲しい。命を張って月に20万円……少ないと思う。


 まあ俺達が弱いから必要経費が嵩んでいる部分が大きい。


 これは装備が揃って、俺達がもっと強くなれば、必要経費の180万円が減って、もっと儲かる様になる。


(初心者の儲けが少ないだけじゃなくて、初期投資が大きいのも冒険者のデメリットだよな)


 オークを狩って月に200万円稼ぐ為には、それ以上の金額を初期投資しないとダメ。


 儲かり始めたら、初期投資は直ぐに回収出来るけど。先ず初期投資分の資金が無いとお話にならない。


「まったくお前らは運が良い。俺もラッキーボーイって言われたが、お前らはそれ以上だな。俺の剣を打った時よりも、更に腕を上げている今の状態の剣を、殆ど捨て値に近い金額で手に入れるとか……」


 そう言って、アキヒロさんは防具を揃える方を優先するようにアドバイスをくれた。


 実際、装備を整えてオークを狩り始めてから収入が安定した。


 武器の分の初期投資が少なく済んだ俺達は運が良い。


「なら行ってこい! ただ一つ忠告だ。余り搾り取られ過ぎないように加減しろ。向こうはプロだから加減してくれるだろうが、偶にな、止めるのも聞かずに気絶するまでやる馬鹿が居るらしい。迷惑を掛けると保証金の返金が減るからな? そこだけは気を付けろ」


 俺は大丈夫……だと思いたい。サキュバスか……一体どんな美人さんが居るのか期待に胸が高まるぜ!

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