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異世界迷宮物語 ~剣聖少女はハーレムを夢見る~  作者: 綾女
二章 大魔王迷宮 その1
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第119話ちょこっと外伝『少年はモノから人に成れるのか』騎士見習い編①-08

「しかし、これほど戦力が足らないのに、この国は今まで維持できてますよね? 何故ですか?」


 これはニトで無くても疑問だろう。国の規模に対して戦力が大幅に不足している。


 国が広ければ防衛すべき国土も広い。当然だが相対さねばならない魔物も多い。


 騎士見習いの死亡率が高いのも納得の戦力不足……今まで維持出来ているのが不思議な程だ。


「七年ほど前までは、召喚者が大勢居たからな。彼等が冒険者として魔物を狩っていたから維持出来ていた」


 この国でも、魔族が異世界から勇者候補を召喚して、魔物を討伐していた。


 国としても魔物討伐に役に立つ召喚者を拒絶する理由は無い。


 ある程度の金銭的、また教育と訓練の支援を冒険者組合を通して行なっていた。


 しかし七年前に突然、状況が変わった。


「七年? 今は殆ど召喚者が居ませんよね?」


 現在でも技術者を中心に召喚者がこの国に残っては居る。


 だがその人数が非常に少ない。


「今でも召喚をしてはいるのだがな……召喚者達が自分達で自分達の国を作って移住した。だから召喚された者も、直ぐにそちらに移動して訓練をする。一応迷宮に魔物討伐に出張して来てくれて居るが人数が少ない」


 先に述べた六千人の出稼ぎ冒険者の内、五千人はこの移住した召喚者とその仲間達だ。


 それまでの長年の付き合いや、縁もあって、籍は移したが、昔馴染みを見捨てられない。


 それで出張して来て、付き合いのあった者達の住む地方の依頼を熟していた。


「ああ、あの噂の『L・L』でしたっけ? 移住……何人位移住したんですか?」


「召喚者を中心に、その仲間の冒険者や関係者が約六万人程だな」


 内訳は召喚者が約一万人、仲間の冒険者が約四万人、召喚者や冒険者の家族が約一万人程だ。


 約一割ほど、五千人は今でもこの国に出張して来ているが、残り九割、四万五千人も冒険者が減った事になる。


「六万! ……現在、冒険者が異常に少ない原因はそれですか?」


 大規模な魔物の群れに対して、騎士団が討伐に出向くのは何処の国でも有る事だ。


 しかし、現在この国は小規模な魔物討伐まで騎士団が出向いて行なっている。


 騎士見習い達が連日、首都近郊の南の草原に魔物討伐に出向く程だ。


 ……冒険者の多い筈の首都でさえこの有様、当然の様に地方の魔物討伐の手が足りていない。


 一重にこれは冒険者不足が原因。冒険者で有った召喚者の移住が原因だった。


「そうだ。召喚者は冒険者が多い……それが集団で移住した。当然の結果だな」


「国はそれを座視して見てたんですか?」


 普通なら引き止める。


 普通の国なら当然、どんな手を使っても、少々無理な条件を提示されてもそれを飲んで引き止める。


 ただ……この国は普通の国では無かった。


「この国は、それまで召喚者を重視していなかった。何せこの国では何よりも眉目秀麗で有る事が重視されるからな」


 この国の貴族達は、そもそも魔物討伐に興味がない。領地運営に興味がないからだ。


 高級性奴隷の売買で利益を得ている為、魔物討伐も領地運営も、何方の必要性も感じていなかった。


 異世界の技術で、より美しい高級性奴隷を生み出せるかも知れないとの期待から、技術者の確保にはある程度熱心であったが……


 この国の狂った育成システム、高級性奴隷の人身売買のシステムを、殆どの召喚者が拒絶した。


 以来、極一部の狂った科学者を除いて、この国の貴族と召喚者達は静かな敵対関係にあった。


「ですよね……って事は彼等は冷遇されていた?」


 半分とはいえ、自分の血を分けた子供さえ商品として売買する貴族達だ。


 召喚されただけの他所者。しかも自分達に敵対的な者達を厚遇する筈がなかった。


「戦闘騎士になる者は居たが、中々騎士にはなれん。文系分野もどんなに優秀でも技術者止まり。貴族共は彼等に興味無し。そんな調子だからな、一応彼等も国内に彼等の自治領をと要望していたが叶う筈も無しだ」


 ただの冒険者となる召喚者には、貴族達は興味が無い。彼等の研究に否定的な科学者や技術者にも興味が無い。


 よって魔物討伐をするから、ある程度支援するに留まり、彼等召喚者を冷遇し、その功績に準じた権利を与える事は無かった。


「異世界から召喚されてそれでは……彼等も嫌になりそうですね」


 自分達も魔物と戦っているからこそ、その苦労が良くわかる。


 任務で無ければ、それしか生きる道が無いのでなければ、決して戦おうとは思わない。


 魔物は、普通の人間が真面に太刀打ちできる様な相手では無いことは、身に染みて理解した。


 人とはそもそもの筋力が、大きさが、基本性能が違う。


 魔法や武技、加護をフル活用して、罠に嵌めて討伐出来ているだけ……それを理解する程度には戦ってきた。


 そんな役割を押し付けられて、更に冷遇されたのでは、召喚者もたまったものでは無いだろう。


「そんな所に、良い話が舞い込んで来て、即建国、即移住の流れだ。まあ当然だな」


 冷遇されて数十年。それでもこの国に残って居たが、とうとう愛想を尽かした。


 彼等自身の国が出来たのに、冷遇する国に残っている理由が無かった。


「にしても建国ですか? 建国して直ぐに移住……可能なものなのですか?」


「丁度良い居抜きの物件があったからな」


「居抜き?」


「王族や貴族が居なくなった国がな、丁度出来た。国土や街はそこまま、国民もそのまま。しかも都合の良い事に迷宮付きだ。迷宮のお陰で資源は豊富。更に農耕地に向いた肥沃な平野がほぼ手付かずで広がっていて、気候は温暖。ここまで好条件だとな」


「支配階級だけが居なくなった国? そんな事が……でも有ったんですよね」


 病気や事故でそんな状態が引き起こされる事などあり得ない。誰かが故意にそれを引き起こした。どこかの国が、別の国の支配階級だけを滅ぼした。


 そこまでは分かるのだが、その国を召喚者に譲り渡す理由がニトにはわからない。


 もしかしたら、この国に居た召喚者達が、それをやったのかもしれないが、ギャンの話だとそれも違う。


「あの国の国民は働き者だ。更に温厚で陽気で明るい性格。そして彼等は支配者は誰でも良かった。税が安くて魔物から護ってくれさえすれば誰でも良いんだ」


「優秀な冒険者は、その条件にピッタリだったと?」


「まあ、そういう事だな」


「しかし、国の運営は素人で出来るものでは無いと思うのですが?」


「召喚者ってのは異世界の知識や技術を持っている。ここよりもある意味進んだ文化や技術を持っているらしい」


 異世界とこの世界では技術体系が違う。科学の発展した異世界と魔法学が発展したこの世界では根本が違う。


 ただ、この世界で科学知識が通用しない訳では無い。


 元の世界の科学知識と、この世界での魔法学の知識を融合して、更に発展をさせている召喚者は大勢いた。


「当然、社会システムの知識やインフラの整備の知識もある。更に魔物を狩って資金も蓄えていたからな。建国後の『L・L』の発展はちょっと信じられない程だ。国力が数年で十数倍になっている」


「十数倍! この国はそれをみすみす見逃したって事ですか?」


 ニトの知るこの国の歴史で、ここ数十年で劇的に国力が増した事実は無い。


 召喚者の齎らした技術や文化は多数有るが、どれもそこまで革新的な変化を起こしてはいない。


 しかし、その召喚者が他国に移住して数年で劇的な変化を、革新を起こしている。


 どう考えても、この国が召喚者を冷遇し、その技術に興味を示さず、意見も聞こうとしなかった所為だ。


「そうだ。彼等を丁重に扱って、彼等の要望を聞き入れていればこの国も発展出来た筈だ」


「しかし十数倍は……労働力はそこまで急激に増えませんよね?」


「ニトはそれに気がつくか……この国は本当に人財の活用に難があり過ぎるな」


「何かカラクリが有るんですね?」


「まあな。彼等は冒険者だろ? 魔結晶が幾らでも手に入る。なら、単純労働を全てゴーレムに置き換えて、大規模に農場を運営すれば良い。工業製品も大規模工場で量産する。その為のエネルギーや資源は有るからな」


 大型のゴーレムを製作して、一気に開墾を進め農地を増やす。


 作付けも刈入れも全てゴーレム任せだ。


 大きな工場を建て、ゴーレムを使って生産ラインを自動化し、大量生産する。


 その為のエネルギーや資源は、迷宮から幾らでも回収出来る。


「それで一気に国力を増したと、元の国民との間に軋轢は生まれないのですか?」


「労働力として活用し、賃金を払っている。税金を払うどころかお金が貰える。仕事は楽になって、生活が豊かになって、魔物に脅かされる事もない。随分と歓迎されている様だな」


 ゴーレムに出来る事はゴーレムに任せ。ゴーレムに出来ない事は人を教育して任せる。


 この国に居た召喚者達は、自分達が自由に出来る環境を手に入れて、その発想を、その工夫を爆発させていた。


「はぁ、何故この国ではそれが出来ないのでしょうか?」


 この世界に特許はない。


 故に他で成功したなら真似れば良い。それを誰も咎めはしない。


 なのにそれが真似出来ない。


「冒険者の人数が圧倒的に足りていないからだ。何にしても先ず、魔物を倒さねば話にならん。その為の戦力を増強する。それがこの世界で発展する為の必須条件だ」


 資源もエネルギーも全て魔物が、迷宮が齎す。だがそれも魔物を討伐せねば手に入らない。


 その戦力が今、この国には不足している。


 発展どころか、この国はこのままでは衰退する事が確定していた。


「それを『L・L』の発展が証明したという事ですか?」


「事実として証明して見せたからな。それを否定した所で『では何故か?』の疑問に誰も答えられん」


「魔物の討伐はそれだけ大事だということですか……」


「地上の魔物討伐は、農地を広げ牧草地を広げる為、農業、畜産業の発達に必須だ。それは理解出来るだろ?」


「農作物や家畜への害魔物の被害が抑えられますからね。しかし城壁は例えゴーレムを使っても建設に時間が掛かると思うのですが?」


 城壁の建設は、普通は石を切り出し、石を積む。


 例え石の代わりに煉瓦を使用しても、その煉瓦の加工時間と、石に比べて小さな煉瓦を積む分、建設時間や労力が増える。


 では何故城壁が必要か? それはこの国の農地が普通城壁内に有るからだ。


 街の結界が強力なここ『バーキン』では、街の外、城壁外にも結界の影響が及んでいる。


 その為、城壁の外にも農地は有る。だがそれでも城壁の周囲に少しだけだ。


 強力な結界でも、その結界に引っかからない低位の魔物はすり抜ける。


 結界柵などで防御しているが余り役には立っていない。結界柵程度なら、結界の及ばない地下に穴を掘ってそれを突破してしまう。


 だが、これでも結界柵はマシな方だ。もっと酷い所はただの柵を設置している。


 しかしただの柵では『ワイルドバニー』の突進にすら耐えられない。


 その為、城壁外の農地は害魔物の被害が大きく人気が無かった。


「『L・L』では元からある城壁以外は新たに城壁を設ける事をしていない。結界石で囲んだだけでどんどん農地を広げている」


「しかし、それでは強力な魔物に突破されてしまいますよね」


 魔物に対する結界は、魔結晶に対して網を掛けている様なものだ。


 低位の魔物は結界の網の目をすり抜け、高位の魔物は結界の網を破り突破する。


 それ故に、この国では結界だけに頼らず城壁で人々はその身と農作物を守っている。


「突破されたら討伐すれば良いとの考えだな。規模の拡張を最優先して、少々の被害は規模でカバーするやり方が採用されているな」


「なんて強引な……それって力技に近いですよね? 可能なのですか?」


「結界石だけで無く、『案山子』代わりにゴーレムを多数配置している。被害を抑える工夫もされているからな。可能なのだろう」


 冒険者が侵入した魔物を討伐に出向く迄、多数配置したゴーレムに時間稼ぎをさせていた。


「そこまで大量にゴーレムを量産ですか? 例え資源や労働力が有っても、製作に相当時間が掛かりそうですけど?」


「大型の耕作用ゴーレム以外は、ゴーレムも迷宮産だ。だから量産も簡単だな。何せ幾らでも沸いてくるからな」


「迷宮産って、それ魔物じゃないですか!」


「まあ魔物でもゴーレムだからな。魔結晶が核に組み込まれている事以外、ただのゴーレムと変わらん」


「えっ……そうなんですか? そもそもゴーレムの魔物とか居るんですか?」


「割とメジャーな魔物だぞ?」


 『ロックゴーレム』は比較的低階層にも居るメジャーな魔物だ。


 硬い岩石を身体にしているこのゴーレムは、武器を傷めやすい為、冒険者に人気が無い魔物としても有名だ。


「魔物ってなんなんでしょうね?」


 そもそもゴーレムは人工物の筈だ。それが魔物……意味が分からない。


「アンデットな魔物が居るくらいだからゴーレムが魔物でも良いんだろ。それに迷宮の魔物ってのはな……理不尽で意味不明なのが多い。ゴーレム程度は可愛いものだぞ」


 迷宮の魔物は魔素から発生する。


 死体など無いのにゾンビやスケルトンが発生する。そこには系統や因果関係すら不要だ。


 アンデットが発生する様に、魔素から発生する魔物はそもそも生物で有る必要すら無い。


 誰が創造したのか、出鱈目な形状の、巫山戯た生態の魔物が多数存在する。


「そうなんですか?」


「六角柱なクリスタルの魔物がフヨフヨと漂っていたり、ガスの塊が魔物だったりとどう見ても生物系じゃ無いのが居る。俺が見た中で一番酷いのはただの発光体だな。実体が何も無いのに光ってる魔物だ」


 兎に角、その魔物の行動パターン。攻撃方法や防御方法さえ判明すれば良い。倒し方が分かればそれで良い。


 それ以外は、深く突っ込んではいけない魔物が存在する。


「それも魔物ですか?」


「迷宮に居て、倒したら魔結晶を落としたから魔物だろうな」


 ただ光球が宙に浮いていて、近寄ると光線で攻撃してくる。判明している事はそれだけだ。そもそも何なのかが分からない。


 しかし……魔結晶を持っていたから魔物。そう判断されていた。


「実体が無いのに倒せたんですか?」


「ゴーストだって実体は無いだろ? この手の魔物は精神体か亜空間に本体がある場合が多い。コイツは亜空間の方だったから、そっちを攻撃すれば脆かったな」


 亜空間に居た為、結局実体は確認出来なかったが、魔結晶だけは落ちてきた。


「はぁ……まあ突っ込んだら負けですかね?」


「あのなニト、何を呆れているのか知らんが、そのうちお前も対戦するかも知れんし、亜空間に居ようと攻撃出来る様になる」


「うぅ……想像が付きませんけど……ところで迷宮のゴーレムって人を襲うのでしょ? それをどうやって?」


「迷宮産のゴーレムに命令を上書きするんだ。その方法が見つかっている。それでゴーレムの支配権を握っているから問題無い」


 ゴーレムは魔力を動力にしたロボットに近い存在、定められた命令に従って動くただの人形だ。


 人を襲うのは、そう命令が設定されているから……そこにゴーレムの意思は無い。人工物で有るから魂も存在しない。


 その為、命令さえ書き換える事が出来れば、自由に操ることが可能になる。


 とある国が迷宮のゴーレムを捕らえ、その構造や仕組みを解析し、命令を上書きする方法を見つけ出していた。


「その方法はこの国でも使えませんか?」


 この国でもゴーレムは利用されている。だが、用途は限定的で普及とは程遠い。


 核となる演算魔法球のスペック不足の為だ。


 ゴーレムには先ず、命令を理解出来るだけの知能と、命令を実行出来るだけの自在に動く身体が必要になる。


 それらを低スペックながら今の魔法技術で満足させると、その演算魔法球を含んだ核の大きさが巨大になる。


 その核に合わせてゴーレムを制作するとゴーレムも巨大になる。


 巨大なゴーレムは動力となるエネルギーが大量に必要となり、なのに稼働時間が極めて短い。


 そんな事情から、この国で良く利用されているゴーレムは、特殊なフィールド内のみで稼働するタイプだ。


 そのフィールドの外に大きな演算魔法球の組み込まれた装置を置き、それに状況判断から命令の理解までの頭脳となる部分を担当させる。


 そしてゴーレム本体にはリモート出来る受信魔法球と動作制御魔法球のみを組み込み、遠隔で動作させる。


 この分離方式でゴーレムの小型化に成功した。


 稼働場所が限られる為、魔物討伐には使えないが、訓練用や護衛警護用としてはそれで十分だった。


 それにエネルギーもフィールドから供給する事で連続稼働時間を伸ばす事にも成功していた。


 たが今現在、何処でも自由に動かせる高性能な核を持つ『ロックゴーレム』をこの国で人工的に再現する事は難しい。


 そんな『ロックゴーレム』を幾らでも量産可能な、この迷宮の『ロックゴーレム』に対する命令の上書き方法は画期的だった。


 『ロックゴーレム』が居れば、魔物討伐で壁役として大活躍間違い無しだ。戦力の増強としても、利用出来るなら是非利用したい。


「うーむ、無理だろうな。ゴーレムの命令の上書きには魔結晶が大量に必要だが、そんな余分な魔結晶がこの国には無い」


 ゴーレムの魔法抵抗を突破して、更に強制的に命令を書き換えるには膨大な魔力が必要になる。


 書き換え作業自体は魔道具化されている為、手間は掛らない。しかしその魔道具が消費する魔結晶を、準備する為の手間は省けない。


 魔結晶をエネルギー源として様々な魔道具が開発され、人々の生活を豊かにしている。


 だが、この国は今、魔物討伐の戦力不足が原因で、迷宮が有るにも関わらず、魔結晶の供給が不足している。


 消費出来る魔結晶に余裕がなかった。


「ああ、成る程」


「それにゴーレムはエネルギー補給にも魔結晶が必要になる」


 魔素の濃い迷宮内なら、それを補給して動力源を賄える。だが魔素の薄い地上に連れ出して使役するには、別途動力源の補給、魔結晶による補給が必要だ。


「維持するにも必要ですか……」


 命令の書き換えだけなら、まだ可能だろう。しかし、維持するにも魔結晶が必要となると難しい。


 現状ではコストが掛かり過ぎる。


「しかも、ゴーレムだけで無く、ゴーレムだと言い張っているが、どう見てもスケルトンが大量に居るからな、この国では一般市民の拒絶反応も強いだろう……同じ方法を使うのはおそらく無理だな」


 ゴーレムと同様に支配権を確保出来てしまった為、『L・L』では、より手頃で省燃費な労働力として、迷宮産のスケルトンを数多く使役していた。


 スケルトンは『ロックゴーレム』より弱い魔物だ。


 力も、防御力も弱い低級のアンデット……


 そもそもアンデットで有るスケルトンはゴーレムと違い、弱いが意思があり、魂を持っている。


 なのに何故かゴーレムの様に支配権が確保出来、自由に命令出来てしまっていた。


 とある国で解析した結果、迷宮で発生するスケルトンは、ゴーレムに似た魔法機構に、制御系として魂が組み込まれた様な構造になっていた。


 その基本的なゴーレムに似た魔法機構に、試しに命令を上書きすると、弱い意思しか持たない魂の制御から、制御権を奪い取れてしまった。


 更に、意思の弱さ故か、魂さえ命令に従う様になってしまった。


 ゴーレムとして見た場合、魔物であり、アンデットでも有るスケルトンには欠点も存在する。


 人が制御下に置いたスケルトンも進化する事が有り、極端に進化した場合、制御不能になる危険性があった。


 『スケルトンナイト』位までなら不安定ながらギリギリ制御出来るが、『デスナイト』まで進化すると、暴走する可能性が高い。


 そうなれば、もう一度、強制的に命令を書き換え、その魂も『誓約』で縛る必要がある。


 だが、スケルトンにはその危険性を考慮しても、それを補えるだけの利点が有る。


 その弱さと魂の存在故か、『ロックゴーレム』に比べ非常に燃費が良い。


 地上でも自然に周囲から魔力を吸収するだけで、ただ案山子の様に立って居るだけなら補給の必要が無いほどだ。


 それに弱さも武器を持たせれば、ある程度補える。


 人と同じく自由に動かせる腕がある為、槍を持たせて突く動作だけなら、スケルトンの核のスペックでも可能だった。


 相手がゴブリンなら、アンデットの利点の通常攻撃に対する耐性と、その武器の攻撃力で十分対応可能だ。


 その為、『L・L』では大量にスケルトンを案山子として農場に配置していた。


「うっわぁぁ……それ良く『L・L』の市民は受け入れましたね」


 『L・L』は元は『バーハリー王国』と呼ばれる小さな国だった。


 『バーハリー王国』の人口は約六十万人、この『大ディオーレ王国』の地方都市程の人口でしかない。


 王侯貴族が居なくなったこの国を、北の隣国『ガーバイン王国』に居た召喚者達が譲り受けた。


 そして建国したのが『L・L』だ。


 その建国の噂を聞き付け、世界中の同郷の召喚者や、その仲間が『L・L』に移住した。


 『大ディオーレ王国』から六万人、『ガーバイン王国』から五万人、その他、世界中から四万人。


 元々六十万人しか国民が居ない国に、併せて十五万人の圧倒的な武力を持った移住者達。


 少々強引でも反発する市民は少ない。


「服を着せて仮面を被せたら、一応『案山子』に見えたそうだ。それで誤魔化して慣れさせて、途中から面倒になってそのままって事らしい」


 当初は安いボロ古着を着せていたが、そんな古着でもコストが掛かる。


 しかも、着せる手間も掛かると、段々とコストダウンした結果。


 スケルトンをそのまま案山子にする様になっていた。


「……強引過ぎませんか?」


「徐々に誤魔化すのが雑になっていったから、スケルトンまんまになった頃には市民に文句を言う気力がなかったそうだ」


「気力が無い?」


「『この案山子、服の中が骨っぽいんだが?』『人体に似せただけだ。少し凝り過ぎたな、ハハハッ』ってな感じで、強引に笑って誤魔化すから、一般市民も途中から突っ込む気力が無くなったんだと」



 当初は完全に覆っていた服も、靴を省き、徐々に上半身だけや、下半身だけになっていった。


『この案山子、やっぱり身体が骨なんだが?』


『こんなデザインなんだ。製作者の拘りでね。この方が軽量で頑丈らしい、ハハハッ』


 それでも被せていた仮面も、コストダウンで外してしまった。


『この案山子、顔が骸骨なんだが?』


『リアルだろう? 似せるのに苦労したって言ってたよ、ハハハッ』


 案山子の役目以外にもちょっとした草むしりや荷物運びもさせ始めると、命令に従ってカタカタとアゴを鳴らして返事をする。


『この案山子、どう見てもスケルトンなんだが?』


『スケルトン? まさかまさか、スケルトンがオレ達の言う事を聞く筈無いじゃないか、ハハハッ』


 スケルトンがあちこちに居る田園。夜中はちょっとした心霊スポット。畑なのに墓地のよう……


『なあやっぱり……』


『なーに、何も問題無い。今迄も問題無かっただろ? 大丈夫さ、ハハハッ』



「成る程……って、良くそれで納得しましたね?」


「あそこの国民の国民性だろうな。細かい事は気にしない、極端におおらかな人が多くてな」


「明るくて陽気でしたっけ? それにしたって……」


「そこに強引な召喚者って組み合わせがドンピシャだったんだな。何方も大雑把なんだよ。上手くいっていればそれでヨシって感じだな」


 使役しているスケルトンも、長く付き合うと愛着が湧くらしい。


 村人から衣装や帽子を貰って喜んで着たり被っているスケルトンも多い。


 スケルトンは意思が弱いだけで、意思がない訳では無い。


 段々と村人に馴染んで懐いているとの報告も上がっていた。



「よう! スケさん今日も精が出るね」


 スケさんはちょうど用水路の土手で草むしりをしていた。


 スケさんは細く小柄だが、白い長袖シャツにオーバーオール。長靴に軍手と野良仕事仕様の格好がよく似合う。


 お気に入りの麦わら帽子は赤色のリボンがチャームポイントだ。


「カタカタ!」


 顎を鳴らして返事をする。


 そう……スケさんはこの畑で使役されているスケルトン。


 正式には『カント村タメ吉の畑のスケルトン三号』……略して『スケさん』だ。


「ふむ、今日は草むしりか。って、でも泥んこじゃ無いか?」


 スケさんは魔物に対する『案山子』が主任務な為、草むしりを無理にする必要はない。


 ただ眠る必要も、休憩も必要無いスケさんは魔物が侵入して来ないと暇だった。


 そこで暇潰しに草むしりをしている。草むしりは以前やった事が有るから要領は分かる。


 これでも一桁番台、この畑の古参のスケルトン。スケさんは優秀だった。


「カタカタ?」


「汚れるのは仕方ないって? でも少し休んで井戸に行って洗ってきたらどうかな? ブラシと洗剤を用意してるよ」


「カタカタ♪」


 骨な身体は汗をかかない。だがそれでも汚れはする。綺麗な白い骨はスケさんの自慢。


 水浴びは素直に嬉しい。


「なーに、気にする事はないよ。何時も世話になってるお礼だから。ボディソープは中性がお気に入りだったろ? 補充しといたぜ」


 骨の表面を痛めないのでボディーソープは中性が良い。普段からざっとブラシで洗い流して、タオルで艶々に磨いてる。


「カタッ! カタ♪」


「ふむ、服もそろそろ洗濯だな、そこに着替えが有るから着替えちまいな。こっちか? これはほつれてるから洗濯して修繕だな」


 お気に入りの服だが、どうしても作業をしていると傷む。ほぼ野外で過ごしているから尚更だ。


「カタカタ……」


「なに、一緒に働く仲間じゃねえか。今俺たちも待遇改善を求めてやってるから、そのうちスケさんだって給料を貰えるさ。そん時に何か一杯……って、スケさん飲めないのか?」


 口から飲んでもダダ漏れだ。


 しかし、スケルトンには弱いが意思が有る。


 人に使役されているうちに、その意思も強くなり、スケさんは今では自主的に草むしりをするほどだ。


 身振り手振りでコミュニケーションも可能と、喋れないながらも意思疎通も出来る。


 それを感じ取った村人達は、同じ働く仲間としてスケルトン達を受け入れ、待遇改善を訴えてくれていた。


「カタッカタ」


「おっ! 酒は香りだけでもいける? そうなのか? ヘ~御供物感覚で行けるのか。なら明日は弁当作って持って来てやるよ」


 鼻は無いが何故か香りは感じる。


 核に組み込まれた魂がそれを感じているのか、核にそんな感覚器が組み込まれているのか不明だが、香りを嗅ぐ事が出来た。


 ちょうど昼飯時、手に持った弁当箱を掲げてそう言ってくれる。


 食べれはしないが香りは感じる。それを聞いてそう言ってくれるのが嬉しい。


「カタカタ……」


「オイオイ、泣く奴が有るかよ。この位の事で。全くスケさんは涙脆くていけねえな」


「……カタカタ」


「おーい、タメ吉。ちょっとこっち来い」


 因みに今までスケさんと話していた、この村人は『タメ吉』と言う。


 だが別段、召喚者でも日本人でも無い。


 隣国から伝わった日本語の名前が、何故か田舎の村で流行って、両親がそんな名前をつけただけの、この世界の田舎の青年だ。


 タメ吉なのに金髪碧眼で、名前の違和感が半端無い。


「何だ与作。おまえも昼飯か?」


 タメ吉に話しかけた青年は『与作』


 こちらも赤い髪に紫色の瞳の村人……日本人では無い。


「違う違う、スケさん水浴びだろ? おまえがそこに居たらダメなんだよ」


「ダメ? 何でだ? 準備は出来てるぞ?」


「良いから、タメ吉はこっちにこい。おまえは本当……スケさんは女の子なんだから気を使えよ!」


「スケさんが女の子! マジか!」


 マジだった。


「見たら分かるだろ。どう見ても若い娘さんの骨格だろが!」


「分かるかっそんなもん! 他と比べて小さかったのは単なるスケルトンの種類の差だとおもってたわ!」


 田舎の純朴な青年のタメ吉は、そもそも男女の骨格の違いなど分からない。


 単に小柄で華奢な種類のスケルトンだと思っていた。


 何となく歩き方や仕草が可愛らしいとは思っていたが、女の子なのは初めて知った。


「はぁぁ、まあ、お前に気付けってのは無理か……お前に期待した俺がバカだったよ」


「ううぅ……あっ……しまった……」


「どうした? まだ何かやらかしたのか?」


「スケさんの着替えの服! 男物持って来ちまった」


「ガキの頃の服か? まあサイズは大丈夫じゃないか?」


「けどよ女の子なんだろ? 男物は嫌じゃないか?」


「まあ今はスケルトンだからなぁ。今度俺も嫁の古着を探してみるさ」


 因みに二人とも既婚者だ。まだ二人とも十代だが、田舎は結婚するのが早い。


「ウチも探してみるか……そういや聞いたか? 隣り村の勘吉の話?」


「ああ、相棒が『レヴァナント』に進化したって話だな」


 この二人は結婚はしているが、まだ子供はいない。


 娯楽の少ない田舎の農村で、若い彼等は娯楽に飢えていた。


 最近、スケルトンの育成が近隣の村の男性を中心に流行っていた……この村でもリアル育成ゲームのノリで流行している。


「そのまま『ヴァンパイア』を目指すらしいぞ」


 ただアンデットの魔物が殆どいない地上の片田舎。


 アンデットの育成情報や種類には村人達も詳しくなってきていたが、それがどれ程恐ろしい魔物か全く理解していなかった。


「ヘェ~勘吉の野郎は見た目優先とか言ってたけど、『レヴァナント』の段階でほぼ見た目は人と変わらないんだろ?」


 『レヴァナント』は吸血鬼の様なアンデットで、肉体的にはほぼ不死身。


 肉体の傷は、それがどれほど重傷だろうと自然に治る。


 だが吸血鬼と違って吸血しない。血の代わりに生肉を食べる、人と殆ど区別がつかないアンデットだ。


 動く死体の様なアンデットには他にゾンビもいるが、『レヴァナント』はゾンビと違って身体が腐っておらず、肉体をフレッシュなまま維持している。


 その為、死んでいるにも関わらず、食事が必要で、それによって栄養補給をして、肉体を維持する必要がある。


「勘吉の相棒は美人だったそうだぞ。このまま美しさを極めるって本人もやる気らしい」


 女性の『レヴァナント』は進化して『ヴァンパイア』になると、更に美人度が上がると言われていた。


「って事は、スケさんも『レヴァナント』に進化したら……美人っぽいなぁ」


「分かるのか与作?」


「女の子骨格のスケルトンの中でも、スケさん綺麗だぜ? 骨格でアレなら、肉が付いたら相当美人だろ」


「タダなあぁ、スケさん戦う力が欲しいって『スケルトンウォーリア』を目指すって言ってたぞ」


「そりゃまた何でだ?」


「この間、ゴブリンに遅れを取ったのが悔しいんだと」


 お気に入りの服がほつれたのもその所為だ。


 数匹のゴブリンに襲われ、押し倒された。


 直ぐに仲間のスケルトンが駆けつけ、ゴブリン自体は撃退したが、その事がスケさんのプライドを甚く傷付けた。


 『スケルトンウォーリア』は比較的簡単にスケルトンから進化出来る為、そこそこ人気だ。


 スケルトンと違い、最初から武器を扱える様に核が強化され、仮初の魔法の筋肉も強化される。簡単に戦闘能力がアップするのが魅力だ。


 ただ知能や魔力の成長率が低く、『レヴァナント』を目指すなら『スケルトンウォーリア』から『スケルトンナイト』に進化して、そこで知能と魔力を上げ。


 更に『スケルトンマジックナイト』に進化してからと二つの進化を挟まなければならない。


「頑張り屋だなぁ。けどよ勿体無いな。折角美人なのに」


 『デスナイト』や『スケルトンロード』を目指す戦士系の進化もあるが人気が無い。


 人と共に暮らすには、見た目が人に近い方が良いとの考えから、魔法系で『リッチ』を目指す進化系と、見た目重視で『ヴァンパイア』を目指す進化系が人気だった。


「『レヴァナント』も相当強いんだろ? ソッチを薦めるか?」


「途中で進路変更も出来るみたいだから、取り敢えずは『マミー』を目指せば良いんじゃ無いか?」


 『スケルトン』からだと、いきなり『レヴァナント』には進化出来ない。


 途中に『マミー』か『キョンシー』を挟む必要がある。


 スケルトンから『キョンシー』に進化するのは難易度が高く、一般的には『マミー』を間に挟んだ方が育成が楽だと言われていた。


「カタカタ!」


 そんな話で盛り上がって居ると、水浴びを終えて着替えたスケさんが戻ってきた。


 洗うのも磨くのも肉が無いので結構簡単だ。


 タオルで拭けば一瞬で乾くのもスケルトンの長所だった。


「おっ! スケさん着替えたのか……ふむ、良いんじゃ無いか? 心配してたけどサイズはピッタリだな」


「おおっ! デザインがシンプルだからスケさんにも似合うな」


 タメ吉が子供の頃着ていた、ワイシャツにジーンズはスケさんにピッタリサイズだった。


 スケさんお気に入りの麦わら帽子との相性も良い。


「カタカタ……」


「恥ずかしいって、スケさんは可愛いなぁ」


「そうだスケさん、今、タメ吉とも話してたんだが、スケさん女の子なんだから、スケルトンのままファイター系に行かずに、一旦『マミー』になって『レヴァナント』目指さないか?」


「最終的に『ヴァンパイア』に成れるみたいだからお薦めだぜ?」


「カタカタ?」


「不安? 大丈夫だろ。血は献血パックも有るって話だし、夜間警戒の任務なら日の光は関係無いそうだぞ」


 一般的な『ヴァンパイア』は太陽光に弱く、昼間の『案山子』業務に付けない。


 だが逆に夜は強く。オークが集団で襲って来ても撃退出来る。


 一長一短だが、仮に『ヴァンパイア』まで進化出来れば長所の方が多い。


「何でも下から進化した魔物の『ヴァンパイア』は、そのまま進化して最終的に『真祖』に近くなって日の光も平気になるって話があるな」


「『純潔』種って奴だな」


 吸血鬼にも種類が有る。


 『ヴァンパイア』に血を吸われて眷属の吸血鬼になる『奴隷』『スレイブヴァンパイア』


 同じく『ヴァンパイア』に血を吸われて眷属になるが、『ヴァンパイア』から特に力を分けて貰った『花嫁』『ヴァンパイアブライド』


 『ヴァンパイア』同士の子供で生まれながらの吸血鬼の『純血』『ピュアヴァンパイア』


 『ヴァンパイア』が能力を高めて更に進化した上位種『純潔』『ヴァージン』


 自らの力で人から吸血鬼と成った『真祖』


 他にも色々種類があり、歳を経た『エルダー』や『ロード』等居るが、スケルトンなどのアンデットから進化して、頂点に位置するのは『純潔』だ。


「カタカタ」


「詳しいって? そりゃ調べたからな」


「ここはスケさんだけじゃ無い。働いてくれてるスケルトンの娘達が多いだろ? 情報収集は万全にってね」


「ん? 与作、娘達?」


「なんだタメ吉、お前本当にダメダメだな。この畑周りに居るスケルトンは殆ど女性骨格だぞ?」


「なっ……なんだと! ……なんでそんな事に?」


「男性骨格のスケルトンは畑の外で周囲の警戒に巡回してるだろ? 女性骨格のスケルトンが内部で畑仕事の手伝いをしてんだ」


 適性に合わせた結果だった。


 大きな男性骨格のスケルトンは筋力や戦闘技能が育ち易く、パワーファイター型で前衛に向いている。


 一方、女性骨格のスケルトンは育つと魔力や知能が高くなり、『スケルトンメイジ』など後衛に向いている。


 この知能の高さが、畑仕事の助手に向いていた為、女性骨格のスケルトンはそちらの仕事に主に廻されている。


「そうなのか?」


「そもそも骨格の大きさ、体格が違うからなぁ。武器を持たせて戦うのは大きい方が向いてるってんで、別けてるって話だ」


「カタカタ」


「ん~? でもスケさんも害魔虫は倒してるだろ? 『マミー』になったら包帯で拘束技も使えるし、魔法も使えるようになるそうだから、ゴブリン相手なら『スケルトンウォーリア』より良いんじゃ無いか?」


「だなぁ、女性骨格の娘達は、スケルトンのまま進化するより『マミー』か『キョンシー』に進化して『ヴァンパイア』を目指すのが良いみたいだぞ」


 スケさん達、古参のスケルトンは既に進化出来るだけの能力が有る。


 だが進化は慎重にしなければならない。


 何故か? ここが地上の畑だからだ。


 これには暴走の危険性も有るが、最大の要因はその後の育成だ。


 移住して来た召喚者の立ち会いで進化を行えば、ほぼ暴走の危険は無い。


 しかし、進化後『マミー』など強い魔物に成ってしまうと、その後の育成で苦労する。


 弱い魔物しか居ない地上では、例え魔物を倒しても能力の成長が極端に遅くなる。


 雑魚を幾ら倒しても雑魚でしか無い。そこに成長が伴わない。


 昔は沢山いたオークも、最近ではめっきり数が減っていた。大物の魔物は殆ど駆逐され、育成に向いた獲物はゴブリン程度しか残って居ない。


 その為、今はギリギリまでスケルトンで能力を育て、その後進化する方法が良いとされていた。


 魔物の進化は、高めた能力はそのまま残り、そこに新たな進化先の魔物の能力をプラスする形になる。


 弱い魔物相手でも能力が成長する内は、進化しない方がお得だった。


 先程話題になった隣村の勘吉は、それを知らずにサクサク『マミー』に進化させてしまった。


 その結果、畑の案山子任務では成長が遅く、『レヴァナント』に進化するのが難しくなってしまっていた。


 それに責任を感じた勘吉は、その『マミー』を成長させる為に、自らも冒険者になって、『マミー』を相棒に迷宮で魔物討伐をしていた。


 独身の勘吉は、そんな無茶な方法も取れるが、既に既婚者の二人には無理だ。


 一応、育成の為に、畑仕事をしながら、村の周囲の魔物を狩る自警団には所属しているが、それが限界だった。


 進化のタイミングは慎重に決めなければならない。


「カタカタ」


「ん~、他の娘達とも相談してみる? うん、他の娘達にも伝えておいて」


「カタカタ!」


「そうだよ、その意気だスケさん。応援しかできねえけど、手は貸すから一緒に頑張ろうぜ」


 その後、進化する前の検査で判明したのだが、タメ吉や与作の担当のスケルトン達は、成長し過ぎて亜種に変化していた。


 慎重過ぎてノーマルの『スケルトン』の成長限界を超えてしまっていたらしい。


 殆どのスケルトンが『ホワイトスケルトン』に変化。スケさんに至っては『スケルトンブライト』に変化していた。


「ウチのスケルトンって綺麗な白色なのは知ってたけど……綺麗好きで水浴びしてたからじゃ無かったんだな」


「スケさんの『ブライト』って輝くって意味だよな? ん~っ……確かに輝く白さだなぁ」


「カタカタ♪」


「だよなぁ、自慢だったものな」



 この様に一部で村人によるスケルトンの育成が流行る程の馴染みっぷりだ。


「この国の貴族達と相性が悪かった理由が分かる気がします」


 美しい高級性奴隷の育成に熱心な貴族達と、スケルトンの様な魔物の育成をする召喚者。


 同じ育成でも、決して両者は分かり合えないだろう。


「この国の貴族連中は根暗で陰気だからな。しかも細かい所に拘る。相性としては最悪だろうな」


「何故、魔族は態々そんな異世界人を? 異世界人にも色々居るのですよね?」


「この国の魔族は意地が悪い。負の感情がその方が発生し易いと思って、ワザと相性が悪い連中を召喚したのかも知れんな」


「成る程……」


「まあそれに、そもそもこの国の貴族と相性の良い連中ってのが想像出来んだろ? そんな奴は居なかった可能性も高い。中途半端に相性が悪いよりは、いっそ振り切ってしまえっで召喚した可能性もある」


「しかし、下手をしたら召喚した事が無駄になりませんか?」


「魔物を討伐してさえくれれば、一応の役に立つ。貴族連中は直接相手をするわけで無し。なら殺しはしないだろ。貴族ってのは損得勘定だけは出来るからな」


「無駄になる可能性も低いと……何方も相当ですね」


「何方も性格が悪い。そう言う意味ではこの国の魔族と貴族は相性が良いな」

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