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異世界迷宮物語 ~剣聖少女はハーレムを夢見る~  作者: 綾女
二章 大魔王迷宮 その1
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第119話ちょこっと外伝『少年はモノから人に成れるのか』騎士見習い編①-05

「あ゛あぁっ! 頭が爆発する!」


 ハチが頭を抱えて叫んだ。


「何だか施設にいた時より勉強してる気がするんだけど……気の所為かな?」


「気の所為じゃねえよイチゴ! 確実に覚える事の量が増えてるだろ!」


「だよなぁ。『殺菌』に『水質浄化』か、なんでこんなに複雑なんだ……効果は地味なのに」


「けどね、イチゴ、ハチ。僕たちは温室育ちだよね。だから特に水には気を付けた方がいいよ」


「くそぅぅ、ニトは余裕そうだな」


「俺達とは頭の出来が違うからな。こんな魔法陣をサクサク覚えられるってどうなってるんだ?」


「あのねえ、一応僕だって苦労してるんだよ? 魔力制御や魔法制御はやっぱり難しいよ」


「苦労の次元が違うだろっ! 俺達はその前段階で苦労してんだよ!」


「ハチ、違うぞ。ニトの場合は『一応』が付くんだ。その後の段階でも差がある」


「うぅ、これだから頭のいい奴はっ!」


「でも武技は二人の方が上達が早いじゃないか。人それぞれ得手不得手が有るんだよ」


「武技は感覚だからなぁ。覚えるより慣れろだろ」


「気の操作に魔法陣は要らねえからな。よっぽど楽だぜ」


「アレを楽だって言える二人の方がどうかしてると僕は思うんだけど……すっごい体力使うよね?」


「そうか? 普通だろ?」


「ん~年少組はちょっと辛そうかな? サティはバテバテで、トゥエも少しそんな感じだな」


「騎士見習いには僕やサティみたいなタイプは少ないからね。でもね、僕でも一般人よりは体力が有るからね? この隊の他の皆んなが異常なだけだからね?」


 騎士見習い達は皆身体が大きい。


 華奢なニトやサティも男性としては背が低いが、女性なら長身な方だろう。


 その分、皆体力がある。


 毎日往復十数キロ、重い鎧を着たまま、街から草原に走って移動する。


 そして移動だけでは終わらない。そのまま魔物との戦闘、その後に解体作業と重労働が続く。


 一般人には無理な運動量だ。


「うーむ、よく分からん。ただアレだな武技の訓練するとやたらと腹が減るぜ」


 最初は皆それなりに苦労していたこの移動も、脳筋組は既に慣れ、余裕で熟す様になっていた。


 魔物との戦闘や解体作業で、宿舎に戻る頃には疲れ果てていたのが、その後、近所の食堂を飲み歩く余裕すら生まれている。


 武技を鍛え肉体を活性化し、更に魔法を覚えて補助しているからコソだ。


「ああぁ、それは有る。なんでだろうな?」


 ハチほど脳筋では無いが、イチゴも最近は余裕がある。だからその理由に思い至らない。


「武技は気力、自分の活力を使うよね? 気力の操作は全身運動と同じだよ。気を練るって隊長は言ってたけど、気を体内で循環させて肉体を活性化してるから、その分カロリーの消費が激しいんだよ」


「そうなのか? ただまあ身体が軽い感じはするな」


「ニトの言う様に活性化してるからかなぁ?」


「カロリー消費……武技の訓練だけじゃなくて、魔力制御も結構カロリーを使うから、最近は皆んな良く食べるよね」


「あれ不思議だよな。『内功気』ってのが今訓練してる奴だろ? で『外功気』ってのがあるって言われて、そっちは魔力の事だと思ってたら別物だってんだから」


「『外功気』は周囲の気を分けて貰う、周囲の気を吸収して利用するだっけ? 魔力とは違うんだよな?」


「違うよ。魔力は地脈に代表される様な完全に外部の力。元々生物が持っている生命力とは別の力だからね。魔法を使える人は、この魔力を体内に導いて事象に干渉する力として利用しているって事だね」


「別物の筈なのに、気も魔力も両方ともカロリーを消費するんだな? どう言った理屈だろ?」


「不思議だぜ」


「武技で使う気力は肉体を活性化させるからカロリーを消費する。これは分かりやすいよね。けど魔法も魔力制御に魔法制御で頭脳を酷使するんだよ。脳は活動するのに糖分を消費するだろ」


「ああ、それで腹が減るのか、成る程なぁ」


「現に今、酷使しまくって、脳が焼き切れそうなんだが……これで腹が減るのか?」


「脳の休息には糖分補給が良いよハチ」


「うっ、いやニト……甘い物も良いけど……こう連続だと胸焼けがしてくる……」


 先ほど皆んなでモンブランを食べたばかりだ。


 ハチも甘い物は嫌いでは無い。


 モンブランは素材の栗の甘味を活かしたあっさり系でとても美味しかった。


 しかし、連続して食べると流石に胸焼けしそうになる。


 ニトに付き合って食べ物を選ぶと、甘味が多くなり過ぎるのが欠点だ。


「ニトは本当に何で甘い物ばかりで平気なんだ? ハチどうする? 屋台で何か買ってくるか?」


 イチゴも今回は甘味以外が食べたい。出来れば屋台で売っている塩味系の軽食が良い。


「もうじき夕食だろ? 屋台のは保存が効かないのがなぁ」


「屋台の食事は二人共、もういい加減懲りたら?」


「スイーツ系や揚げ物系は結構平気だぜ?」


「小麦粉を焼いた系も結構平気かも……屋台も選び様だよなぁ……ハズレが多いけど」


「はぁ~、でも今だにお腹下すよね?」


 イチゴとハチは、何度も懲りずに屋台での買い食いに挑戦した。


 しかし、ニトの言うように大体失敗している。


 他の街の住人は平気な顔をして食べているのに、イチゴ達は何故かお腹を下すのだ。


「何がダメなんだろうな? 『浄化』の加護がどんどん上達していくぜ」


 食あたりにも『浄化』は効く。


 ハチの『浄化』は度重なる食あたりの所為で、驚くほど上達していた。


「『毒消し』の加護も得意になっていくな……」


 一度細菌が生み出した毒素は『浄化』では消えない。


 『浄化』は毒素を生み出す細菌を死滅させるだけ、食あたりも酷くなれば、その毒素を消すために『毒消し』の加護も同時に使用する必要がある。


「加護の訓練にはなってる気がするけど、コレってどうなんだろう?」


 こんな下らない事に神の奇跡を使うのは、罰当たりな気がしないでも無い。


 ただ連日、魔物討伐がある為、お腹の調子が悪いのは、かなりの緊急事態……野外活動が多い騎士見習いにとって死活問題だった。


 兎に角、使わざるを得ない。


「信仰心よりも集中力だって隊長はいってたね」



 加護は神から授かる奇跡。


 ならば信仰心の方が大事な気がする。だが、実際に使う際に重要なのは集中力だ。


 加護は授けられた段階で、常に自分と共に有る。ただ、有るだけでは効果がほとんど無い。


 その加護を活性化させる為、精神集中し神の加護を通して、神の力を、神聖力を感じ取り、その力を引き出す。


 効果は如何にその神聖力を引き出せたかによって増減する。


 神聖力を感じる事は精神的な負荷が大きい。様々な心乱す感情が自分の中に流れ込む。


 怒り、悲しみ、憎しみ、嘆き、苦痛……激しい感情の奔流に耐え、その感情に惑わされる事なく、集中する必要がある。


 ほんの少し集中が乱れるだけで、神聖力はプツリと切れて引き出せない。


「集中力だ。そこに信仰心の出番は無い」


 それがギャンの教えだ。実際、ギャンは加護は強く無いが、その効果は高い。


「隊長、加護の強さと効果って比例しないんですか?」


「比例しない訳では無い。加護の強さは効率の良さと思えばいい。少ない神聖力で強い効果を生み出せる」


「では加護ってのはどうやったら強くなるんですか?」


「知らん! 分かっていたら苦労はせん!」


 ギャンも余り加護は得意では無いらしい。


「まあ信仰心やら本人の素質か? それに神に気に入られている奴の方が加護が強い傾向に有る。その辺を何とかすれば強くなるんじゃ無いか?」


「はぁ? 信仰心……って具体的に何なんでしょうか?」


「俺に聞くなっ! ……まあ、一般的には神様を信じる心か? 俺は信仰心が薄いからな、それ以上は分からん」


「神様の何を信じたら良いんでしょうね? 僕はこれでも存在自体は疑ってませんよ? なのに余り加護は強く無いんですよね……」


「ニトは強い方だと思うがな……サティと比べるなよ? あれは例外だからな」


「例外ですか?」


「まあ加護は神様との相性がある」


 これがギャンの弁だ。



「何だっけ? 高度な加護を授かるには徳を積む必要があるけど、実際の使用には集中力の方がより大事だっけ?」


「精神的に疲れるけど、使っていると慣れるのか上達はしてるぜ」


「加護はそれ自体は若干魔法と似たところがあるよなぁ」


 加護には自分を中心とした、魔法陣の様な物が存在している。


 加護の効果は同一でも、個々人で其々形状が違う為、覚えるだけで使える魔法と違い、神からその加護の奇跡を授かる必要がある点が違う。


 そして使用する力も魔力ではなく、神を通して送られてくる神聖力。


 これを神から引き出すのに、精神集中を必要とする為、使用すると精神的に疲れる。


「けどまあ加護を授かるのに、寄付が要らないってのは助かるぜ」


 これはギャンに教わって初めて知った。


 加護を授かるには寄付が必要だと教えられて育って来たのだが、実は全く必要が無かったらしい。


「その奇跡を授かる様に祈るだけでOKって……」


『聖句を唱えて、神に祈れ。それまでの善行やら何やら勘案して神が授けてくれる』


 これが加護の基本的な授かり方で、そこに金銭が介在する余地が無い。


 この国で信じられている寄付による加護の伝授は、寄付が善行と見做されて授かる事が有るだけで、喜ぶのは神ではなく、神殿の神官だけだ。


「まあ善行が足りないのか、簡単には授から無いけどね。ただ一度授けられた奇跡は、余程でないと無くならないらしいから。便利では有るんだよね」


「人助けやら徳を積むと授かり易くなるんだったか? これって仲間内で加護を掛けあっても徳にカウントされるんだっけ?」


 たかが食あたり、されど食あたり。


 騎士見習いの任務に休日は無い。明日の任務に支障をきたさない為には神の奇跡も使わざるを得ない。


 まあ屋台での買い食いを止めれば良いだけの話なのだが……


「どうだ調子は? 魔法の訓練は順調か?」


 そう言って、ひょっこりギャンが部屋に訪れた。


「あっ隊長。順調……うーん、二人は苦戦気味ですね」


 現在騎士見習い達は、班に分かれて魔法の個別訓練中だ。


 ハジメ達三班の所にはミツが、フィフ達四班の所にはココノツ、サンジ達二班の所にサティが其々指導に行っていた。


 三班は特に魔法が苦手なハジメとジュウゾウが居るのでミツが徹底指導中。


 四班はテンが教えても良い……のだが、性急なフィフをのんびり屋のテンでは上手く指導出来ない為、ココノツがフィフとトゥエを指導している。


 二班は、ああ見えて皆、物覚えが良く、魔法もそれなりに使えるので、取り敢えずサティを派遣していた。


 サティも魔法は得意なのだが……指導に向いていない。


 サンジやイロクはサティの扱いにも慣れ始めているし、ヨトはサティと歳が近く仲が良い。


 サティのお世話を押し付ける格好になっているが、仲良く一緒に魔法の訓練をしていた。


 そしてイチゴ達の一班はニトが講師役だ。


 他の二人に比べ、圧倒的に物覚えが良く、魔法が得意。任せて安心と丸投げされていた。


「隊長ぅ! ノルマを減らそうぜ? 覚える魔法が多過ぎだって」


「『毒消し』に加護を授かったんだから、『解毒』の魔法は要らないのでは?」


「『殺菌』もそうだろ。『浄化』があるんだぜ? 少し減らそうぜ」


「はぁ? ノルマの期間に余裕があるだろ。ブツブツ言ってねえで覚えろ。訓練も業務、仕事だ」


「うがぁ、でもどっちも魔法陣が複雑過ぎだろ、頭が爆発しそうだぜ」


「似たような効果なのに何故……?」


「納得がいかんか?」


「そりゃなぁ?」


「この二つの加護は色々あって得意になってますよ?」


「だから加護だからだよ。加護は使える回数に限りがあるだろ? そして回復系の加護は効果が高い。イザという時に備えて加護は可能な限り残すのが基本だ」


 加護は使用する度に精神的に疲れる。一般にこれを『精神力が減る』と言う。


 その為、加護を使用する度にヤル気が失われていく。余り使用すると何もヤル気が起きなくなり、無気力状態になってしまう。


 大体この状態になると人は寝てしまう。


 戦闘中であろうと、魔物の目の前でも、恐怖すら感じず、寝てしまう事がある為、加護の乱用は避けるように教えられる。


「ンン~? 効果が高いから使わない?」


「加護を残すのが基本ですか?」


「当然だろ。加護の『回復』は『手当』の魔法より便利で効果が高い。『治癒』加護の効果と利便性は説明するまでも無い。これを大怪我をした時用に残すのは当然だ」


 因みに魔力も使い過ぎると気絶する。


 ただ精神力と違い、魔力は常に補給されている為、回復が早く、ポーションによる補給も比較的容易だ。


「あっ……」


「そっちか」


「『解毒』で代替出来る『毒消し』で加護を使ってどうする? 『治癒』の代わりになる魔法を覚えるのか? 『解毒』どころの複雑さでは無いぞ?」


「うぅ……」


「無理、それは絶対無理!」


「同じ様に『殺菌』で代替出来る『浄化』は安全な街中以外では可能な限り使うな。魔物との戦闘では加護は可能な限り残すのが基本だ」


「はぁ~覚えるしか無いって事か……」


「うぅ~頭がぁ~」


「序でに確認しておくが、『収納魔法』に毒消しポーションと消毒薬は備えているな? 回復ポーションも忘れて無いだろうな?」


「ちょいと値が張ったけど買ったぜ、隊長」


「ポーション類は結構高いよなぁ」


「そうだろ? だからポーションも余り使うな。可能な限り魔法で済ませて、それで足りない所をポーションで補い、加護を残す。分かったな?」


「隊長、街に戻ってからなら加護を使っても良いのですよね?」


「当然だ。その日に負った傷は、その日の内に加護を使って癒しておけ。どうせ寝て起きれば精神力はリフレッシュされて回復している。就寝前に使い切るつもりで積極的に使え。良い修行になる」


「防御系の加護も戦闘の際に使わない方が良いんですか?」


「防御系は効果時間も長い。それ程、消費も多くないからな、怪我の防止に防御系だけは積極的に使え。いざとなったら精神力を回復させるポーションが有るだろ? あれを備えておけば問題なかろう」


「なら隊長、そのポーションを使えば良いのでは?」


「だよな! 冴えてるぞイチゴ!」


 本当に二人は魔法陣の暗記に苦戦しているらしい。


「ふぅぅ~、この二人は飲んだ事が無いか……ニトは飲んだ事があるか?」


「二度と飲みたく無いですけど……あれはもう味はどうにもなりませんか?」


 飲んだ経験のある者は、決してイチゴやハチの様な発想はしない。苦くて渋い、飲んだ事を後悔させる様な味だった。


「最近買ったのだろ? あれでも以前より改良されている。あとハチ、イチゴ。ポーションは一回分で精神力の回復効果も『治癒』一回分程度だ。あれに頼る気とは……」


 魔力は魔力回復ポーションで容易に回復出来る。


 これはそのポーションに魔力そのものを込め、ポーションの成分でその魔力を保存しているからだ。


 一方の精神力は、例え精神力回復ポーションを飲んでも容易に回復しない。


 ヤル気は魔力の様なエネルギーとは違う。直接補給する様な物では無い。


 その為、アッパー系の麻薬の様な作用を疑似的に起こさせているのが精神力回復ポーションだ。


 ヤル気の元になる脳内伝達物質を、付与された魔法が大量に分泌する様に促し、強制的に気分をハイにさせる。


 麻薬と違うのは中毒症状が起きない、常習性が無い様に魔法的に配慮されている事位だ。


 更に脳への栄養補給や分泌される物質の元になる栄養素が含まれ、後遺症や副作用を抑えたモノ。それが精神力回復ポーションだ。


 味もそうだが余り推奨されるポーションでは無い。用法や用量に制限が有る。


「ゲロマズなのか?」


「マジかよ」


「知り合いが今、更に改良中だが難しいらしい。甘い物が出来そうだと言っていたが今度は甘過ぎて胸焼けがすると言っていたな」


「あれよりは甘い方が良いと思います! 手に入りませんかそれ?」


 甘党なニトは、苦いよりは魅力的に感じた。


「そうか……甘党なら……まあ分量の問題もある。ポーションに頼り過ぎるのは止めておけ」


 精神力回復ポーションそのものの問題も大きいが、糖尿病一直線な甘さでは副作用が大き過ぎだろう。


「今の物は、飲んだら逆に精神力が削られる様な味なんですけど」


 『良薬口に苦し』と言うが、苦過ぎだった。


「口に含んだ瞬間吐きたくなりました。苦いより甘ったるい方がよっぽどマシです」


「今のはサラサラだろ? 昔のはドロドロで、飲み干しても口の中に苦味が残る最悪の飲み物だったぞ」


 飲んだ後、口を濯ぐのが常識だった。


「うわぁ、それは嫌過ぎますね」


「まあ、その新しいポーションが出来るのを待つしか無いな。一応ちょいと変わり種で、錠剤もあるぞ」


「錠剤タイプですか? そっちの方が飲み易そうですね」


「飲み易いが、その後、胃から苦味が昇ってくる。吐く息が苦い。後味が最悪だが試してみるか?」


 飲み下して仕舞えば味は関係ないだろうと、味を一切考慮せずに錠剤としたため、大変な味の錠剤が出来上がっていた。


「遠慮します! 断固拒否します!」


「なあ隊長、それは本当にポーションなのか? 毒薬じゃ無いのか?」


「ポーションだよ。飲んで暫くしたら効き目が実感出来るぞ」


 そんな味でも効果は確かだ。そんな味だからこそ効果だけはある。


「大体、今のポーションはどれも飲み易くなった方なんだぞ? 昔のポーションはどれもクソ不味くて、命の危険が無い限り飲みたく無いシロモノばかりだった」


「他も? 僕の買った回復ポーションは割と飲み易かったですよ。毒消しもそれ程不味くはなかったですね」


 試せるモノは一通り試すのがニト流だ。


「最近のポーションは、効能よりも飲み易さに重点が置かれているからな。死にそうな病人でさえ飲むのを拒否する物は、幾ら効能が良くてもと見直されているそうだ」


「どれだけ極端に効能に極振りしたんだ?」


「死んだ方がマシとかもう薬じゃねえな」


 事実、飲み込め無くて死者が出る程だった。


「ふむ、研究者ってのはどうしても極限を追求したくなるものらしい。お陰で効能に関してはそれまでよりは遥かに高まったと聞いたぞ」


「今の時代に生まれて、本当に良かったと思います」


 今は高まった効能を出来るだけ下げずに飲み易さを追求中だ。


「けど精神力回復ポーション以外はまともなのか……なんでそれだけ取り残されたんだ?」


「主に飲むのが神官だからだぞ。クソ苦いポーションを『これも修行』『これも試練』とか言って飲んでたからなぁ。ユーザーがこんなだから改良が進まなかったんだ」


 加護を使うのは主に神官だ。


 特にポーションを飲んでまで治療に当たる神官は、信仰心が篤く。修行に熱心な者が多い。


 こう書くと真面そうだが、その実、マゾが多い。


 『この苦さが堪らないっ』

 『もっと、もっとだ!』

 『ああぁ、苦さで昇天してしまいそう!』

 『はぅっ……神が見えるっ!』


 色々篤い変態に好評で、味の改良が遅れた経緯があった。


「容赦ありませんね隊長は……」


「隊長って結構神官に辛辣だよな。他に比べて加護は苦手だし」


「神もその加護も有用なのは否定せん。だが苦手なのは仕方なかろう? 子供の頃のイメージってのはそうそう消えんだろ?」


「まあ神官って感じの良いやつの方が珍しい……イヤ、皆無か」


 イチゴは感じの良い神官に会った事が無い。


「偉そうってか、こっちを見下した感じだよな」


「お金にがめつい印象だね。『聖水』とか個人で買う気にならないよ」


 元はタダの井戸水。それが法外な値段で売り出されている。


 『聖水』を買うより、消毒薬を買った方が効果は劣るが遥かに安い。


「全部が高いんだよなぁ。それに何するにしても寄付がいるだろ?」


 神殿で神に祈りを捧げるだけで寄付が必要になる。


「だろ? 印象が最悪だからな。それに俺はどうも『光と太陽の神』と相性が悪い。ただ、もうこの国の騎士だからな。今更他に宗旨替えする訳にもいかん。面倒だってのもある」


 この国、大ディオーレ王国では主に『光と太陽の神』が信奉されている。


 田舎の農村では、こっそり『大地母神』が信仰されていることもあるが、特に首都の『バーキン』では『光と太陽の神』以外の神殿はない。


 『光と太陽の神』


 この神は光と正義を象徴し、不浄を払うとされている。


 声高に正義を叫ぶ、この国の神官が胡散臭く。ギャンはそれが嫌いで、その所為でこの神様自体が苦手だ。


(この腐った国のどこに正義がある? 神の権能が正しいのなら、こんな国は真っ先に滅んでいるだろ!)


 そうギャンは思っていた。


 ただそれはギャン個人の思想、信条でこの国の思想、信条とは別だ。


 こんな国でも治世者は己の正義を声高に叫びたいのだろう。


 『光と太陽の神』は国教として推奨され、その神殿はこの国で磐石の地位を得ていた。


 イチゴ達も貴族に仕える者として、ほぼ強制的に『光と太陽の神』の信徒となっていた。


 他に選択肢が与えられていない、イチゴ達の知る神はそれ以外にいなかった。


「隊長ってこんなんでも加護はそれなりってのが不思議だぜ」


「はっきり自分で相性が悪いって言っても加護が無くなったりしないんだものな」


「流石神様だよね。心が広い」


「お前ら言いたい放題だな!」


「けど、隊長に教えて貰って感謝もしてるぜ」


「祈る場所は何処でも良いとか知らなかった」


「神殿以外で祈るのは不敬だって教えられてたものね」


「その辺はこっそりやれよ。この国の神官共に見つかると面倒だ」


「何故なんでしょうね? 実際、部屋で祈っても加護を授けられました」


「普通に加護が使えてるんだよなぁ」


「隊長に聞いた教えと、この国の神官の教えが違いすぎて、同じ『光と太陽の神』の教えとは思えないんだけど」


「だなぁ。けど実際に隊長の方の教えで加護を授かって、加護も強くなってるんだよなぁ」


「この国の神官の教えは、もしかして歪んでますか?」


「ふむ……余り騒ぐなよ? この国の神官の教えは、この国の神官が得をする様に出来ている。実際に神の声を聞ける者は少ない。ならその教えを歪める事は容易だ」


「ああ、やっぱりそうなんですね」


「うわぁ」


「道理で神様の割に守銭奴な訳だぜ」


「まあ……あれだ、真面な神官も中には居るのかも知れんが、この国の場合、主流派が守銭奴だ。揉めん様に大人しくしていろ」


 立場的に弱い騎士見習いが、神殿と揉めるのはギャンとしては避けたい。


「……ん? サティは主流派の守銭奴じゃないのに元から加護が強いですよね?」


 サティは我が儘で自由だが、お金に関しても自由だ。他の騎士見習いの様に、お金に関して執着が無い。


 ミツが色々買い与えているからかも知れないが、守銭奴とは程遠いお金の使い方をしている。


 屋台でお菓子を買って、そのまま近所の子供と一緒に食べたり、ジュウゾウと一緒に近所の犬に餌を買い与えたりしているのをよく見かける。


「相性の問題だろう。そもそもがサティの場合、教えられて加護が強くなった訳じゃ無い。あれは元々強いんだ」


「教えられた訳じゃ無い?」


「ミツが教えたんじゃ無いのか?」


「俺もそう思ってた」


「サティは、元々神の声が聞こえる。何時聞いたのかは分からん。そもそも本人が神の声だと認識していない節も有るが……」


「それって神の神託や啓示ですか? ……サティなら気の所為で聞き流しそうだね」


「ハッキリ聞こえても、煩いって聞く耳が最初から無い可能性もありだな」


「お前ら言いたい放題だな」


「あれ? ハチは違うと思うのかな?」


「流石に神様の声だろ? 他とは違うんじゃねえか?」


「うーん、倒した魔物相手でも祈りを捧げたり、意外と優しい所は有るんだけど……」


「サティが神様の言葉に素直に従ってるとは思えないんだよね」


「……ん~それもそうだな。神様の声に従ってあれな訳ないか」


 自由奔放で我が儘、そうする様に唆しているとしたらそれは神様では無いだろう。


「ふ~む、まあ弁護のしようがないな。サティの場合は、一方的に気に入られて居るだけだろう。あれで素直に神の言葉に従っていれば『聖人』に成れる位の素質がある」


「隊長、良くそんな事が分かりますね?」


「だな? 何でそんな事が分かるんだ?」


「根拠が有るのか?」


「有るぞ、そもそもサティは一度も神殿に行った事が無い。加護を授かって使って居るが、どの神官からも教わっていない。サティは『光と太陽の神』の信徒ですら無いからな」


「えっ……ええぇぇ!」


「サティの加護は『光と太陽の神』の加護だろ?」


「『光の加護』まで使えてる。他じゃない筈だぜ?」


 加護にはどの神様でも授けている共通の加護と、その神だけの独自の加護が有る。『光の加護』は『光と太陽の神』独自の加護だ。


「サティの出身貴族家は魔法特化でな。神官嫌いで有名な貴族だ」


 故にサティは礼拝自体した事が無い。


「それにミツは医療魔法まで使えるのに、加護に関してはダメダメだ。だからミツが教えた訳じゃあ無い。ミツは知識はあっても加護が弱い。サティの方が加護が強く、授かっている加護が多い。加護に関してはサティが圧倒的に上回ってるんだ」


 サティは神官との接触が無く、ミツですら教えていない。


「魔法があれだけ使えるから、当然加護も使えるんだとばっかり……」


「サティが使えるから当然使えると思ってた」


「あれ? ココノツはどうなんだ?」


「ココノツは独学で多少使える程度で、こちらも加護が弱い。サティだけが異常に加護が強いんだ」


 ミツは、加護に関してはココノツや指導係の誰かがサティに教えているのだろうと思い込み、サティが誰から教わっているのか気にしていなかった。


 一方のココノツは、当然ミツが教えているのだろうと、サティの加護が強い事を特に不自然に思っていなかった。


「良くそれで今まで怪しまれませんでしたね?」


「下手したら神殿に睨まれてるよなぁ」


「普通に加護使ってるものな」


 神殿は権威に拘る。信徒ですらない者が加護を使うことは決して許さないだろう。


「ミツは過保護だろ? 怪しいと思ってもサティに直接、問い質したりは出来んよ。ミツが絶対間に入る。それにミツやココノツは医療系の魔法が使えるだろ? 当然この二人が加護も教えて居るんだと周りは思う。丁度お前らの様にな」


「成る程、それは納得かも」


「ならサティは誰に加護を習ったんだ?」


「だよな?」


「だからそれが神って訳だ。サティは全く不思議に思っていない。当人は加護を教えてくれる優しいおじさん程度の認識だ」


「隊長……それもう啓示とか神託じゃないですよね? 神の声どころか降臨してませんか?」


「気に入られ過ぎだろ!」


「凄いなサティ」


「ただなぁ、本人に自覚が無い。施設の教育係程度の認識だ。この話も三人から話を聞いて、サティの話から推測した。恐らく程度の話だ」


「神様だろ? その程度って……何でだろ?」


「神威じゃねえけど何か人と違うって感じないのか?」


「神様って結構普通?」


「ん~何せ、サティだからな。ミツを見慣れて育ったサティからしたら、神様ほどのイケメンでも、まあ普通って感じるのかもしれん。それにそもそもサティには神様に対する畏敬の念が薄い。だから普通のおじさんに見えるのかも知れん」


「それで加護が強いってのが理不尽ですよね」


「気に入られるかどうかで違うのかよ」


「何だかなぁ」


「ん~それは違うな。気に入られるだけの理由がサティにはある。俺から言わせればお前らだって気に入られている方だろ? 自覚が無いみたいだが」


「そう……なのか?」


「ふむ、さっぱりだな」


「もしかして『浄化』や『毒消し』ですか?」


「もしかしなくてもそれだ。大して修行した訳じゃ無い。善行をそれ程積んだ訳でも、熱心に神に祈った訳でも無い。なのにサクサク加護を授かってるだろ? 周りを良く見ろ。『回復』でさえ授かっている奴の方が少ない」


「隊の他の皆んなも授かっていたから……普通だと思ってました」


「そういえばそうか。一般に広く普及してれば、ここまでポーションが重要視される訳がないか」


「『回復』の有る無しで大分違うものな」


「お前ら騎士見習いは自覚が無いだけで神に結構気に入られて居る。サティも同じだ。程度に差が有るがサティもそれが普通だと思っているだけだな」


「でも隊長、サティが気に入られて居る理由は何でしょうか?」


「それが分かればもっと加護が強くなる?」


「って事だよな?」


「ふむ、そうだなそれが全てでは無いかも知れんが、サティは優しいだろ? あの境遇で、あの環境で育っているのに、決して他者を傷つける事を良しとしない。競争相手であろうと、他者に傷つけられても、他者を傷つける事を嫌う」


 我が儘で自由奔放なのに、決して暴力を振るわない。


 それは言葉の暴力でもだ。


 他者を貶めたりはしない。他者が傷つく事を言わない。


 他の騎士見習い達が仕方がないと諦めても、サティは魔物相手でも、それを嫌う。


「得難い素質だな。歳が離れたお兄ちゃんが甘やかした所為も有る……甘えと優しさの区別が曖昧だが、サティのあれは他者を思いやる優しさが根底有るのだろう。それが気に入られて居る一因だな」


 理不尽に慣れて育ってきた騎士見習い達だ。


 兄弟だと分かっていても、それは競争相手。勝ち残る為には勝たなければならない。


 競争に負けた兄弟が酷い目に遭っていても、それに目を閉じて育ってきた。


 認めた訳では決して無い……ただどうにもならないと諦めただけだ。


 そこがサティと他の騎士見習いとの決定的な違い。


 サティは決して諦めない。


 目を閉じず、それを見つめ。その感情のまま泣き叫ぶ。


 我が儘に自由奔放に、決して理不尽に屈しない。


「ああ、成る程。それは僕には無理かも」


「だなぁ、それは……」


「はぁ~まあ、今更無理だよなぁ」


 ギャンの説明に三人が落ち込む。


「そうでもないだろ? お前らも気に入られて居る。って事は内心諦め切れてない。理不尽な事を理不尽だと思う心は死んでいない」


 諦めざるを得なかった。だがそれを認めたわけではない。


「なら、これから幾らでも挽回は出来る。過ぎた過去は取り戻せない。だがこれからの未来はどうにでもなる。加護を授けるから、どうにかして見せろと言われているのだと俺は思うがな」


「……隊長って、神様と相性が悪いって言ってる割に、良く理解してますよね?」


「だよなぁ。何だか神官よりも神官っぽい」


「隊長ってもしかしなくても神官に向いて無いか?」


「はぁぁ、んな訳無いだろ! だったら今、ここにいねえよ。加護だってもっと強くなってるだろうさ」


 ギャンは未だに『蘇生』が使えない。その加護を幾ら願っても授かれない。


「俺はな理不尽に負けないんじゃ無い。それを殺し、壊し、滅する。原因を破壊する方に思考が動く。底に優しさよりも怒りが有る。だから相性が悪い」


「そうなのですか?」


「意外と合ってる気がする」


「だよなぁ? だって怒る理由がなあ。そもそも優しく無い奴は怒らねえと思うぜ?」


「くっ、言いたい放題言いやがる。結果が全てだろ。未だに『蘇生』が使えない段階で相性が悪いんだよ。『炎と戦いの女神』を信仰してりゃ今頃は絶対使えてた筈だ」


「『炎と戦いの女神』って『武神』でしたっけ?」


「『武神』? それは確かに見た目との相性はバッチリだな」


「ハチ、『武神』ってのは見た目じゃなくて、戦闘向きの加護が多い事からだよ。見た目は赤毛の綺麗な女神様って言われてる」


「他の神様は施設じゃ教えてくれないから、けどそうか綺麗な女神様か」


 イチゴは、自分に試練ばかり与える『光と太陽の神』よりも、綺麗な女神に心惹かれる。


「詳しいなニト。けど綺麗ってんなら相性はそれ程でも無いって事か?」


「ハチ、それは隊長に失礼だよ」


「まあ気にするな。見た目が女神って柄じゃねえのは承知だよ。だがハチ、戦闘向きの加護は魅力だろ?」


「だなぁ、『光と太陽の神』の加護も悪くはねえけど、嘘が見抜けてもなぁ」


 『光と太陽の神』独自の加護では『看破』の加護が有名だが、戦闘向きでは無い。


「全くっ、ハチも隊長も加護が弱くなっても知らないからね? けど隊長、『蘇生』が使えないから相性が悪いって、そもそも『蘇生』は使える人が滅多に居ませんよね?」


「ニト、それはこの国ではだ。俺の元いたパーティでは俺以外は全員『蘇生』が使えた。他では珍しく無い加護だ」


「それは……でも隊長には『光と太陽の神』が合ってると思いますよ」


「何処がだ?!」


「だって隊長って色々甘いでしょ?」


「うっ……」


「それにこれは隊長が教えてくれた事ですけど、加護はその人の特性や必要性を神様が考慮して授けられるんですよね?」


「そうだな」


「だから難易度順じゃなくて、授かる加護は個々人で結構ランダムなんですよね?」


「その通りだ」


「隊長って『蘇生』以外の加護はほぼ使えますよね?」


「『復活』も使えんが、まあそれ以外はほぼ使えるな」


「しかも加護の効果は結構強い。『守護の盾』や『守護の鎧』で殆どの攻撃を無効化してますよね?」


「何年使っていると思ってる。お前らとは熟練度が違うだろ? 大した事じゃ無い」


「僕は『光と太陽の神』様がワザと『蘇生』と『復活』だけ授けないんだと思うけどなぁ」


「ほうっ、ニトも嫌がらせだと思うか?」


 ギャンは最近嫌がらせだと思う様になっていた。それ位不自然に『蘇生』の加護が授かれない。


「いえ、嫌がらせでは無く、安全性の問題では? 精神力回復ポーションを飲み慣れるほど無茶をする隊長には『蘇生』は危なくて授けられないのだと思いますよ?」


「なっ……」


「成る程、隊長でも他人の事は良く分かっても、自分の事はそれ程って事があるんだな」


「納得の理由だと思いますよ隊長」


「だよね。あっ隊長、顔が赤い」


「真っ赤だな」


「ニト、ハチ、言い過ぎだ。って隊長?」


「ふむふむ、やはり俺は加護と相性が悪いらしい。って事でよく分かっている相性の良いお前らに課題だ」


「あっ……」


「ヤバッ!」


「ああ~ぁ……」


「『守護の鎧』それに『治癒』をサクサク授かる様に! 当然だが魔法の課題も忘れるなよ」


「隊長、それは無茶振り過ぎます!」


「『守護の盾』を漸く授かったばかりだぜ!」


「『治癒』は無理では?」


「流石に俺も鬼じゃあ無い。期間は半年やる。どうせ何時かは使える様になるべき加護だ。サクサク授かる様に努力しろ。そこまで使えたら加護は暫くそれだけで良い」


「ホッとして良いのか?」


「騎士見習いの先輩でも、授かっている人の方が少ないよ」


「ウゲェ、マジかよ。って隊長『光の加護』は良いのか?」


「何で課題を増やそうとするのかなハチはっ!」


「ハチィーー!」


「だってカッコいいだろ『光の加護』はっ!」


「ああぁ~もうハチはこれだからっ!」


「サティ、光ってたな。アレはアレで有りか?」


「イチゴォォ~君まで何言ってるの?」


「まあニト、落ち着け。授かりたいなら好きにすれば良い強制はせん。『光の加護』はアンデットには効果絶大だが、兎に角派手で目立つ。アンデットを相手にする予定は今は無いから後回しで良い」


「防御効果と攻撃効果の複合効果でしたよね?」


「何方もアンデット特化の特防、特攻だ。一般の魔物相手では役に立たんからな」


「身体能力も上がるんですよね?」


 サティの『光の加護』を使う主目的がこれだ。『身体強化』の魔法と合わせて使って、移動の疲労を軽減している。


「目立つデメリットの方がデカイ。待ち伏せでは使えんし、そもそも光って敵を引き寄せる」


 ギャンは帰路以外でサティにこの加護の使用を許可していない。


 更に街中でも使用を禁止していた。


 目立つのと敵を引き寄せるデメリットは可なり大きい。


「墓地のアンデット退治とか任務になりませんか?」


「この街の墓地はアンデットが沸かない様に処置してある。この街でアンデットだと偶に住宅街でゴーストが沸く程度だな。其方は冒険者の良い獲物だ。騎士団が出向く案件では無いな」


「余りアンデットって居ないのですね。メジャーなイメージでしたが……」


「迷宮に行けばそれこそ腐るほど居るぞ。ゾンビからスケルトンまで選り取り見取りだ。だが地上には余り居ないな」



 地上ではゼリースライムを始めとした掃除屋の魔物に死体は骨まで残さず食べられてしまう。


 アンデット化する元の死体が残らない為、街の外にアンデットが沸かない。


 唯一、アンデットが沸きそうな墓地は神殿が管理しており、此方も処置のお陰でアンデット化する事が無い。


 貴族の墓はそれこそ厳重に魔物避けとアンデット化防止措置が取られている。


 また一般人の方は埋葬スペースの問題もあり、火葬が一般的だ。骨すら砕けた小さな破片になるまで焼き尽くすので、処置はそれ程でも無いがアンデットになり難い。


 他に怨念などからごく稀にゴーストになる者が現れるが、数も少なく、冒険者に直ぐに狩られてしまう。


 一方、迷宮ではアンデットが魔物として発生する為、元になる死体が必要ない。


 その為、数多くのアンデットが沸いていた。


 そうゾンビが何故かゾンビとして発生する。スケルトンが何故かスケルトンとして発生する。


 それらのアンデットに生前は無い。発生直後から動く死体で、動くガイコツだ。


 一応、スケルトンはガイコツ型のゴーレムの様なモノと考えられて居る。


 ただしゴーレムと違い対アンデット特攻が効果がある為、単なるゴーレムでは無いらしい。


 そしてゾンビは未だ謎が多い。その腐肉の意味が判明しないのだ。


 『最初から腐っている身体に何の意味があるのだろう?』研究者の長年の謎だ。


 腐肉型の鎧説や、視覚効果による精神攻撃用説など様々な説は有るが結論に至っていない。


 一応グールがその腐肉を食べるので、生物の腐肉と同様のモノである事は判明している。


 ただその腐肉からはDNAが検出されない。生き返らせる事も出来ない。ただただ最初からゾンビとして存在している。


 更に腐った身体の機能も謎を呼ぶ。


 ある程度原型を留めた機関は一応それらしい動きをする。


 眼球が動いて、舌も動く。生者を襲って肉を食らって飲み込む。ただし、臓器が腐り落ちていると食道からその肉がそのまま体外に排出される。


 意味不明だった。


 そして全ての腐肉が腐り落ちるとスケルトンになるのでは無く、消滅する。


 訳が分からない。


 魔結晶を与えるとそれを取り込んで進化するのはスケルトンもゾンビも他の魔物と同様だ。


 これらのアンデットに触れられた魔結晶は、魔結晶炉で魔力を取り出した時と同様、白く白化してしまう。


 そしてそれを繰り返すと他の魔物と同様に進化する。


 だが完全受肉はしない。


 アンデットは触れた物質を分解して取りこむ。それによって部分的に受肉し強化はするが、完全受肉はしない。


 その為、幼生体もいない。そもそも繁殖出来るとも思えない。


 何せ最初から死んでいる。


「そもそもアンデットってどうやったら殺せるんですか? 最初から死んでますよね?」


「ん~? ニトはスケルトンが何故動けるか分かるか?」


「えっ!? スケルトンは動くガイコツでしょ? 動ける理由?」


「スケルトンには通常では見えない、触れられないだけで全身に筋肉が付いている」


「はっ? そうなんですか?」


「ゾンビも同じで腐肉で動いている訳では無い。魔力によって生成された擬似筋肉で動いている。これが透明だから、スケルトンの場合は骨格だけが動いている様に見える」


 そうゾンビの腐肉に機能らしい機能はない。敢えて言うならその腐肉で動いていると勘違いさせる錯誤効果が有る程度だ。


「そう……なのですか? 僕はてっきり骨そのものが動いているのかと……」


「骨が基本である事は同じだが、骨そのものを浮遊させて動かしている訳では無い。そんな攻撃をしてくるアンデットもいるが、攻撃時のみだな。恐らくそうするには魔力を多く消費するのだろう」


「通常は消費を抑える為に擬似筋肉で動いてるって訳ですか?」


「骨格は有るからな、宙に浮かせて相対位置を変化させて操るより、処理もその方が楽なのかもな」


「処理能力の問題ですか?」


「特に低級なアンデットは処理能力が低いのだろうな。動きが鈍い。攻撃もパターンが決まっている場合が多いのは処理能力が低い所為だろう」


「処理能力……脳の役割を果たすモノが有るって事ですか?」


「魔結晶周辺に擬似魔法球の様なモノが形成されている。これがアンデットの核だな」


「ではその核を破壊すれば『アンデットは死ぬ』ですか?」


「最初から死んでいるから、この場合『活動を停止する』が正しいのかも知れんな」


「その核は何処に有るんですか?」


「大体、頭か心臓だな。偶に二つ持っている奴もいる。数は決まって無いのかも知れんな」


「でもその核を破壊すれば倒せるんですよね?」


「その通りだが、普通に攻撃しても倒せんぞ」


「えっ!? それは何故?」


「アンデットの擬似筋肉や擬似魔法球は通常の武器や攻撃はすり抜ける。何せ魔力で作られた擬似的なモノだ。攻撃が当たらんから壊せん」


 骨格を破壊すれば動きを阻害する事は出来る。しかし核の破壊が出来ない為、いずれ修復される。


「そうなんですかっ? えっ……だったらどうやって倒したら?」


「武器に魔力を付与する。若しくは魔法で倒す。『聖水』を武器に掛けても良いな。それにそれこそ『光の加護』の様な加護は良く効く」


 擬似筋肉や擬似魔法球は魔力で作られているので、それに影響を及ぼせるモノで有れば何でも良い。


 加護は特にアンデットの擬似魔法球や擬似筋肉に影響が大きい。近寄るだけでそれらを分解していくほどだ。


「あぁ、成る程。しかし、一般人では倒すのが難しそうですね」


「武器を銀やミスリル製にするのも手だが、何方も一般人には入手し辛いな。武技で気力を込めて攻撃しても良いが、これも一般人には難しい」


 兎に角、影響しさえすれば良いので、魔力を伝達し易い銀やミスリルは素材そのものがアンデットに対して有効だ。


 武技も同じで、攻撃に込められた気力が魔力に作用して効果がある。


「……もしかしなくても、僕達にとっては雑魚ですか?」


 一般人には手も足も出ないアンデットであっても、その攻撃手段が豊富な騎士見習いとっては脅威たり得ない。


「通常のゾンビやスケルトンなど雑魚だな。『光の加護』がなくても『武器強化』の魔法だけで普通に倒せる」


「成る程、それで『光の加護』は後回しで良いか……」


「これから魔法の付与された武器を手に入れるようになれば、それこそ攻撃するだけで良い。『光の加護』には防御効果や身体強化もあるから、授かっておけば便利では有るが、優先順位は低い」


「武器……そろそろ買いに行かないとダメですかね?」


「メイン武器が替え時だろ? 最初に買ったサブも合わせて予備武器に回して、通常の武器は何方も魔鋼製の魔法が付与されたモノが良いだろうな」


「うげぇぇマジかよ……」


「はぁぁ、またお金が飛んで行く……」


「アレッ? 二人とも聞いてたの?」


「ここに居ただろ?」


「黙ってただけだよ?」


「そうなんだ。大人しいから暗記に集中しているんだとばかり……」


「いやいや、嬉々としてゾンビやらスケルトンの話をしてるニトが変だからな?」


「スケルトンはまだしもゾンビは嫌だよな」


「腐った死体だぜ? 何故平然と話せるのか意味が分からねえ」


「絶対、臭い、汚いだよな」


「因みにアンデットには『浄化』の加護が良く効く。効果を弱めて数を放つやり方も有るが、戦闘後に自分に『浄化』を放ってスッキリする分は残しておいた方が良いな」


「迷宮の魔物なら、魔素に分解するんですよね?」


「受肉していることが有る。スケルトンはまあ骨だからまだマシだが、ゾンビは内臓、心臓やら肝臓が受肉していたりするから、後悔したく無ければ『浄化』出来る様に加護は残せ」


「そんなドロップアイテム要らねえっ!」


「嫌がらせか?」


「意味が分からないね」


「魔法触媒として使えるんだそうだ。詳しくは知らない方が良いと言っていたな」


「……なにに混ぜ込まれているんでしょうね?」


「混ぜ込まれている?」


「どう言う意味だニト!」


「だって魔法触媒だよ? ポーションの原料には魔法触媒も含まれてるんだよ」


「んんっ、まあ魔法触媒は種類が多い。何が何に使われているかは知らない方が幸せだぞ?」


「俺達は一体何を飲まされてるんだ……」


「ゾンビの腐肉が原料だったりするのか……」


「ううぅちょっと吐きそう」


「ちゃんと処置して殺菌してある。気にするな」


「魔法だな! 魔法しかねえな!」


「二度とポーションなんて飲みたく無いな!」


「頑張ろう! 僕ももうポーションは試さない事にしたよ」


「ふむ、ヤル気も出た様だし結果オーライか?」

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