第119話ちょこっと外伝『少年はモノから人に成れるのか』騎士見習い編①-01
入団式とその後の先輩見習い騎士達との歓迎会を済ませ、同じ部隊の者との顔合わせと挨拶も済ませた。
そして専用宿舎の部屋に少ない荷物を納めて、引っ越しの片付けの終わったイチゴ・アーバインはその夜、同じ施設で育ったハチ・サーバイン、ニト・ツバインと共に専用宿舎の近くの食堂で机を囲んでいた。
騎士団への入団に当たって三人はそれぞれ名前と家名を与えられていた。
名前は自分達で好きに付けられる。イチゴ達は其々女性陣と相談の上、施設で使っていた渾名を名前にした。他の名前を付けてもそれが自分の名前だと思えなかったからだ。
そして家名は、ダイン伯爵家の者であるという証明の為に、代々騎士団に入団した者に与えられる家名だ。
だが三人は晴れて騎士団に入団したのに、手に其々手紙を持ち、暗い顔で項垂れて椅子に腰かける。
見ると周りにはイチゴ達と同じように手紙を手に持ち、同じように項垂れた、見め麗しい美少年たちが、それぞれに机を囲んでいた。
「はぁ、悪い予感程よく当たるな……周りの奴らの面を見る限り、他の貴族家の奴等も同じか? この国の伝統って事か?」
「僕が仕入れた情報だと、どうもそうらしいよ。先輩たちも同様だったみたいだ。色々聞いて判明したんだけど、そもそもこれには人質的な意味もあるみたいだね」
ニトの情報収集能力は高い。愛らしい容姿で、更に愛嬌が有る。
騎士見習いの先輩達から既にマスコットの様に可愛がられていた。
「騎士団は国のものでしょ? そしてそこに入った僕達も建前状、貴族家の所有から解放されて国に仕える騎士見習い。けど各貴族家は将来、僕達が騎士になったら、自分達の貴族家に家臣として呼び戻したいんだよ。その為の首輪なんだって」
国に使える騎士は、大体貴族家出身者以外の騎士がなっている。国の施設で育てられた者達だ。
しかし、貴族家出身者であろうと国に使える騎士に成れないわけではない。寧ろ国は全ての騎士に国に仕えるように勧めている。
それでも各貴族家は、騎士に成れるような優秀な騎士見習いを手放す気はない。解放している以上命令はできないが、騎士自らが貴族に仕えたいと望むのを、邪魔する権利は国にはない。
「その為の? けどなんで?」
「そうだぜ、それなら別に家族で有る必要がないだろ! 恋人で良いだろ? 何故だ……なんだって血のつながった!」
ハチの嘆きは、人として当然のもの。
「そうさ血が繋がってるのは分かっていたさ。最初から半分繋がってるのは分かっていた。半分は伯爵の血だ。そこは分かってた……けど母親まで一緒だと! しかもその母親が初体験の相手っ!」
「ハチ! 声が大きいよ!」
「うっ、すまねえ。だがよ周りにいる連中を見ろよ……恐らく全員同じだぜ?」
そうハチの相手、リムルはハチの実の母親で、ミクはリムルの娘。
ハチとミクは腹違いの兄妹ではなく、父親も母親も一緒の本当の兄妹だ。
それはニトも一緒、ララはニトの実の母親で、ナナはララの娘。ニトとナナは実の姉弟。
(ロアナが俺のお母さん……イヨが実の妹……俺は母親を……それに実の妹を……)
元々腹違いの兄妹、その位血が濃い。そんな相手なのは知っていた。だが、流石に実の妹は血が濃いどころの騒ぎではない。
結婚する前から家族、そう知らなかっただけで、ロアナもイヨもイチゴの家族だったのだ。
(狂ってる、この国は狂ってる……)
分かっていたことだ……この国は狂っている。
とっくの昔に淀み腐り膿んでいた。この狂気の様な行いを、この場に居る騎士見習い全員に課すほどに、それを伝統とする程に……
「ただの腹違いの兄妹で恋人、初体験の相手。それだけじゃあ裏切るかもしれない。自分の実の母親と実の姉弟、本物の家族を人質に、しかもその家族をお前たちは嫁に、家族に迎えようとするほど愛している。裏切れないだろ? って事らしいよ」
「人質か……」
「女官は結婚するまでは貴族家にも半分所属が残ってる。愛人に囲われる場合も、相手の貴族は、女官が所属する貴族にも対価を支払わないとダメなんだよ」
騎士見習い同様に、優秀な女官で有る彼女達を貴族は手放す気がない。
「要するに、騎士になっても女官である彼女達と結婚するには、僕達の場合はダイン伯爵家の許可が必要になる。
騎士にさせて、箔を付けたら呼び戻して、そのまま伯爵家の家臣として飼われる。それが女官と結婚するための対価なんだよ……」
女官は国に仕えている。しかし、各貴族家から宮廷に上げる女官の人数に制限が有る。その制限を受ける代わりに、各貴族は女官の所属権を半分有しているのだ。
「そんな事の為にこんな狂った事をしやがるのか?」
「ハチ、僕らはそんな程度だと思われてるんだよ……それに実際に騎士になったら彼女達と結婚させて貰えるし、その対価、お金さえ稼げばお母さんたちも身請けさせて貰える。
そんな風に姉や妹と結婚して、高級性奴隷の母親を身請けして、一緒に暮らしている騎士の先輩が大勢いるそうだよ」
「この事はあいつ等も知っているのか?」
「男子にだけ知らされるらしいよ。なにせ男子は誘惑が多いからね。何時別の女にコロっといくか分かったものじゃないって事で、初日にこうしてしっかり首輪を嵌めるらしいね」
「けど実の兄妹じゃあ子供が……」
「イチゴ最初から分かってるでしょ? 腹違いでもそこは一緒さ、人工授精で他の誰かの子種を……大体同じ部隊の連中見たいだけどね」
「子供か……結婚しても子供を作らなきゃ良いだけだろ?」
「ハチ、これは義務だよ。子供を作らないことは許されない。強制的に何かされる前に、自分達でやった方が良い。見知らぬ誰かにミクちゃんが犯されるのを許せるのかいハチ?」
「……クソが! そこまでするのか!! あいつらはどの位産まないとダメなんだ?」
「跡取りは絶対、それ以外に後三人。それ以上は任意って事になってるね」
「多いな……生まれた子は騎士の子だろ? 性奴隷に落とされるわけじゃないよな?」
「その点は大丈夫だよ。将来は男の子は騎士見習いなる……まあ僕達みたいな騎士見習いじゃない。近衛の騎士見習いだけどね。女の子は女官だけど、こちらも彼女達みたいな女官じゃない。侍女として貴族や王族に仕えるようになるからね」
「何が違う? 大差ないだろ?」
「近衛の騎士見習いは魔物退治なんてしないよ。近衛騎士の役目は王宮の警護。護るべき相手の居る場所は王宮で、更に想定される護衛対象に危害を加える相手が人だからね。近衛の騎士見習いは近衛騎士と成るべく対人戦の訓練だけなんだそうだよ」
この国で王族が暴漢に襲われる事は、ここ百年一度も無い。
よって近衛騎士は実戦で戦った事が無い。
その為、常に魔物討伐で実戦を繰り返す、他の騎士団の騎士見習いとは、危険度や生存率が全く違う。
「女の子の方も侍女になる前に同じ騎士階級の家にお嫁に行くことが多いから、女官を目指すしかない彼女達とは全く違うよ」
「随分と温くないかそれ? 無理やり子供を作らせる割にそんな程度で良いのか? なら俺達の子供は優秀である必要は無いって事か?」
「近衛騎士見習いになるには厳しい試験を突破する必要がある。それは侍女になるのも一緒で厳しい試験が有る。
騎士の子供専用の学校が有ってね。そこでは相当厳しい訓練が行われているそうだよ」
ここで女官と侍女の差だが、女官の主な仕事は下働きと公文書の書記官などで国に仕えている。勤務時間も大体決まっており、待遇は全く違うが国という会社に勤めるOL近い感覚だ。
だが侍女は貴族や王族など、高貴な身分の者、個人に仕えている。それぞれの家臣団の騎士階級の子女から特に優れた者達が選抜される。
生まれた時から騎士階級で有る彼女達は、主人に対する忠誠心を、生まれた時から叩き込まれる。
貴族や王族にとって最も身近で接する最側近の役目を負う為だ。仕事内容は多岐に渡り、交代制で一日中、24時間、主人に仕えてサポートする。
特に主人が女性である場合は護衛もその任務の一つであり、頭脳だけでなく戦闘能力も求められる。又、主人が幼い場合、その教育も侍女の役目となる。
その為、侍女となる為には女官以上の厳しい試験を突破せねばならない。ボディガードとメイドと家庭教師、それら全てを熟せる様なスーパーウーマン。それがこの国の侍女だ。
「その訓練について行けなかった者はどうなるんだ? 騎士の子供でそれに落第した場合は……」
「騎士階級は騎士や女官の為の階級だよ? 騎士や女官に成れない者は、例え親が騎士でも騎士階級とは見なされない。
男子の場合、市井の一般人扱いだね。女子の場合はまだ商家に嫁に行くとか有るみたいだけど……けどね裏で色々とあってそこから高級性奴隷に落ちる者もいるらしい」
「騎士になってもそれかっ!」
「まあそれは極端な例だけどね。大体男子は近衛の見習い試験に規定年齢までに合格できなかった場合、僕達と同じ一般の騎士見習いに回る。不名誉だとされてるみたいだけどね……
これは女子も同じだね、一般の女官として宮廷に上がる場合が多い」
「じゃあこの回りの奴等の中にも騎士の息子が紛れているのか?」
「ハチ、それはないよ。近衛騎士見習いに成れなかった彼らは、言ってみれば落ちこぼれなんだよ。普通の騎士見習いとは区別される。
これでも僕らは厳しい競争を勝ち残ってきているからね。才能の有り無しで言うなら騎士見習いに成れている段階で有るんだ」
「区別? どう言う事だ? 同じ騎士見習いだろ?」
「騎士見習いと言っても所属する騎士団は他にもあるんだよ。首都近郊が任務地のここ『白盾騎士団』は僕達の様な各貴族家から優秀とされた騎士見習いが集められる騎士団」
『白盾騎士団』の主な任務地は首都と旧首都。それと各地の魔物討伐の為の増援、遊撃が主な任務となる。
「そして辺境方面巡回が任務の『黒剣騎士団』はそう言った近衛騎士見習いに成れなかった騎士見習いが集められる騎士団だよ。
彼らの任務地は辺境……分かるだろ? 魔物の多さが段違いだ」
「『青槍騎士団』や『赤弩騎士団』もあるだろ? そっちには配属されないのか?」
「『青槍騎士団』や『赤弩騎士団』は東部と西部の地方都市の駐留騎士団だよ。両騎士団共に各貴族家の家臣となった騎士が所属する騎士団だから、騎士見習いは居ない」
「近衛が『聖銀騎士団』だっけ? そこの見習いに成れなかっただけで一気に『黒剣騎士団』なのか……」
「彼らに才能が有って強ければ『黒剣騎士団』でも、騎士に成れる……いや寧ろ、手柄を挙げるチャンスが多い分、強ければ騎士に早く成れる。戦闘騎士なんかも『黒剣騎士団』所属が多いよ」
「『強ければ』か……『白盾騎士団』の騎士見習いの死亡率が70%だろ? なら……」
「『黒剣騎士団』の騎士見習いの死亡率は95%だよハチ……過酷だと聞いたよ……なにせ彼らは騎士階級の恥だ……辺境の砦で延々と魔物と戦闘、そんな部隊が多いみたいだね」
元々騎士としての才能に劣る者達を、最も厳しい環境に放り込む。死亡率が高くなるのは当然だ。
「生き残って強く成ればそれはそれで良し、例え死んでも戦死、無様な恥を晒し続けるよりは良いとされてる」
「なら騎士なんか目指さずに一般市民として暮らせば良いじゃないか、商人になっても良いんだろ?」
「イチゴ、文官や研究職方面に進む学業優秀な子はいるし、技術士官を目指す子も居る。けど商人なんかの市井を目指す者はいないよ」
イチゴの意見にニトは否定的だ。
「騎士階級から落ちる……そんな者が生きていけるほど商人の世界も楽じゃない。騎士に成るべく育てられた子供が、商人を目指して商家に丁稚に入る……そんな過酷な状況に耐えられるわけがない」
「親が支援は……」
「出来ると思う? 『黒剣騎士団』の騎士見習いでさえ騎士階級の恥、ならそれ以下の者とはね……実の親子であっても会う事さえ許されない。騎士階級の住む区画には、市井の者は立ち入ることさえ許されないんだ」
騎士区間に入る事の出来る下働きの者は、大商人などが身分を保証した者に限られる。
何か問題を起こすと保証した大商人まで罰せられる為、騎士階級から落ちてきた問題児の保証人になる者は居ない。
「そこまでなのか?」
「それに商人だって元騎士階級の者の扱いに困る……生きて行くことさえ困難だよ。中には冒険者になる者もいるみたいだけど、大成した者はいないね」
そもそも冒険者は魔物と戦う事を選んだ者達だ。真面に魔物と戦う実力のある者は、態々騎士階級から落ちてまで冒険者にはならない。
近衛騎士見習いに成れなくても、『黒剣騎士団』の騎士見習いには成れる。魔物と戦う実力が有るなら、そこで騎士に成れば良い。
市井に下って冒険者になる元騎士階級の者は、魔物と戦う実力もなく、他に才能も無い者達。そんな彼等が大成する筈も無かった。
「職人は? 職人を目指せばいいんじゃないか?」
「職人はそれこそ才能が物を言う世界だよ? 職人に成れる才能があるなら技術士官を目指すよ。技術士官は国に仕える職人だからね。
騎士ではないけど技術士官にはそれに準じた身分が保証される。
まあこの国は『養殖』関連の技術に特に力を入れているから、その他の分野は余り厚遇されないけどね……」
「男子でそうなら女子は……」
「うん、だから女官の方も一緒で……その過酷な職場が多いみたいだ……キワドイ格好をさせられて夜会の給仕とかね。当然そんな場所だから何をされるか……そんなことも有って、ならいっそ高級性奴隷にってね。自分からなる場合が多いみたいだよ」
「女子の方は商家に嫁に行くことも出来るんだろ?」
「出来るけど……人気はないよ。なにせ市井に下ることになる。男子と一緒で親には会えない……それに余程の豪商でなければ市井の暮らしは楽じゃない。
そして豪商は騎士階級の落ちこぼれよりも、美しく賢い性奴隷を買う。高級性奴隷でなくても、普通の性奴隷だって綺麗で賢い者は居るんだよ」
高級性奴隷は貴族の相手をする為に、生まれた時から選別されて育てられた性奴隷の事。一般の性奴隷は、何らかの理由で性奴隷に落ちた市井の者達だ。
没落した大商人の娘が、借金の返済の為に奴隷となる事もある。そんな彼女らは、才能も美貌も有している。下手な高級性奴隷よりも高値で取り引きされる事もある程だ。
「高級性奴隷ほどでなくても美しく賢い者は市井にだって居るからね。次世代を期待して高値で取引されているよ。
そう言った才能あふれる性奴隷の方が落ちこぼれた騎士階級の者よりも優秀な場合が多いから……」
この国は色々と腐っているが、優秀で有ればそれなりに評価される。
例え奴隷であろうとそれは変わらない。
「見た目だけでも優秀なら騎士階級同士で婚姻できる。それすら無いって事は、選別はクリアしているけど、その程度までって場合が多いんだよ」
そして眉目秀麗で有る事は、あらゆる事に優先する。この国は美しい奴隷を売る国。それが基幹産業となっている国だ。
「なら商人だって一般の性奴隷の綺麗な者を買って、なんなら奴隷から解放して跡取りを生ませた方が良い。この国では眉目秀麗であるだけで厚遇される。それは商人でも一緒だよ。商人が貴族に取りいる為に美しい娘を差し出す場合は多いからね」
「娘を差し出す? 貴族とは結婚できないだろ? 愛人にでもするのか?」
「貴族の愛人になれるのは騎士階級の者だけだよ。市井の者を愛人には出来ない。この場合は単なる慰み者、妾だよ。それでも生まれた子供が選別を乗り越えれば僕達と同じ立場にはなれる。貴族に取りいるにはそれで十分だ」
「けど結局、女官に成れなかった女の子は、苦労するのが分かった上でも市井に結婚相手を求めるしかないんだろ?」
「いやだから、『高級性奴隷』になる場合が多いんだよ。少なくともある一定以上の基準はクリアしているからね。この国の貴族が買わなくても、他国の貴族が買ってくれる。
この国ではそれほどでも無くても、他国からすれば凄い美姫、しかも手ごろな値段ならね。小国なんかはそんな高級性奴隷しか買えないし……」
「騎士の娘でもそれかよ! 結局騎士階級でも俺達と大差ねえじゃねえか……」
「この国ではそれが国是だよ。それが国是なんだ。僕達は奴隷って肩書からは解放されたけど、この国から解放されたわけじゃあない。
競い合って優秀な者、美しい者だけを上に挙げていく社会構造なんだ。家族の幸せを考えるなら、大人しく従うしかない」
これは何もイチゴ達に限られた事ではない。貴族の子弟で後継者に成れなかった者も一緒だ。
彼らは大体騎士に成る。それは近衛騎士にはなれなかったという事だ。近衛騎士にも貴族の子弟であればなれる……なる資格はある。だが試験に合格しない……
後継者に成れなくても優秀な者は居る。そうした者は当然近衛騎士となり、多くの者は実力を示して準男爵、男爵の爵位を手に入れる。
だが大半の者は、その厳しい試験に合格出来ずに、そのまま一般の騎士団に騎士として入団する。
騎士階級の子弟のように、騎士見習いの段階から厳しい環境に叩き込まれることはない。しかし、騎士に成っても実力の無い者にこの国は甘くない。
度々開催される武術大会で何らかの実績を残さねば『黄珠騎士団』任務地を持たぬこの騎士団に追いやられ、そこで燻って余生を過ごすことになる。
「にしてもニトは物知りだな?」
「はぁ? イチゴやハチが物を知らなすぎるんだよ。君達は勉強や武道ばかりで、雑学に全く興味を示さなかったよね? それに施設の職員と雑談したことも無いでしょ?
知ろうとしなかっただけで、色々な所に情報はあったんだよ? それこそ施設の図書館には色々な書物が有ったじゃないか?」
「……それは否定しないけど、そんな余裕が無かっただろ? 試験、試験、試験で油断してると……よくそんな余裕が有ったなニト」
「全くだぜ。講義に訓練、訓練、訓練でそんな余裕が全く無かったろ?」
「僕の場合は、勉強はそれほど苦労しなかったし、武術の方はね……体を鍛えるよりも、魔法で強化していった方が早かったから……そうだね、二人に比べたら余裕が有ったかな」
「全く頭の良いやつはこれだからな、まるで俺達が脳筋みたいじゃないか」
「ハチ、別に脳筋とは言ってないよ、それに脳筋じゃあここにこうして居ないよ。武術だけではね……」
「ハチ、俺達とニトでは元の頭の出来が違う。あの勉強を苦労しなかったと言ってのける奴だぜ? 張り合うだけ無駄だよ」
「イチゴはまだいいだろ、俺なんて何度……思い出しただけで頭痛がしてきやがる」
「ハチは何方かと言えば脳筋気味だものね」
「やっぱりそれ脳筋だって言ってるだろ?」
「程度の問題だよ。優秀でない者が騎士見習いになることはないよハチ」
「騎士見習いか……なったんだな俺達は。けどまだ騎士じゃない……ニトの話は参考になったし、騎士に成っても苦労しそうなのは分かった。だがそれもこれも無事に騎士になれたらの話だな、俺達はその騎士ですらない」
「まあ今から思い悩んでも仕方ねえよな、何せ死亡率70%だ。先ずは生き残って騎士に成るのが先決だな」
「イチゴ、君の場合、騎士になったら凄そうだよね……」
「何がだ? ニト」
「良いかい? 君の容姿で騎士になれるほどの才能を示したら、種馬として色々な所から引っ張りダコになるよ?」
「種馬?」
「そう種馬、そうとしか表現のしようがないね」
「やっぱり俺達はモノなんだな……」
「まあね……そうでなくても僕達みたいな騎士見習いは、騎士になって無くても、一年生き延びただけで優秀だって、種馬として彼方此方からお呼びが掛かるみたいだよ。
そしてこれには拒否権が無い、義務だからね。大体高級性奴隷との間に子供を作るために呼び出されるみたいだね」
「眉目秀麗で優秀な子供を作る為か……」
「けど騎士見習いはこれでも気楽なんだそうだよ。相手は元々その為に居る性奴隷だからね。彼女達だって慣れてる。貴族は不摂生が祟って、ぶくぶく肥え太った人や、それこそご老人も居るだろ?
若い美形の騎士見習いは、嫌がられるどころか寧ろ歓迎されている様だよ。楽しんで義務を熟している騎士見習いも多いって」
「後腐れなく一晩楽しむだけの関係か……相手はこっちに回されるんだ、年嵩なんだろうけど。高級性奴隷だから美人ばかりなんだろうな……一年か……」
「ハチ? 浮気したらミクちゃんに殺されるよ?」
「浮気じゃねえし! 義務だし! ……けどその義務を楽しんだって罰は当たらないだろ?」
「どうなっても知らないよ? あと一般的に一年ってだけで、活躍したらもっと早くお呼びが掛かるみたいだよ?
今は『黒剣騎士団』の団長を務めてる『双刀』のデルン準男爵は、騎士見習いになって3か月でオークをソロで倒したって話題になったそうで、その時は直後からお呼びがバンバンかかったそうだよ」
「ソロで? オークってあれだろ? 俺も先輩から噂に聞いたぜ。でっかい豚人間って話だが、腕力がスゲエって。棍棒で粉砕された騎士見習いの数は、数える気にもならねえ位多いんだろ? それをソロでか、スゲエな……太ってるのと大きいからか脚が遅いのが救いだそうだが……歓迎会で先輩の騎士見習いに『ヤバく成ったら全力で逃げろ!』って言われたよ」
「オーク相手だと、騎士見習いは通常4・5人掛かりで仕留めるそうだよ。相手の注意を分散させながら死角に回り込んで攻撃するそうだけど、正面に立った運の悪い騎士見習いは……ただ戦闘騎士はソロで仕留めるらしいね。というかソロでオークを仕留めれないと戦闘騎士に成れないんだそうだよ。
まあデルン準男爵はその後、騎士になってからオーガをソロで仕留めたって言われてるから、当時から才能が有ったんだね」
「オーガってこの間、何処かの部隊が全滅させられた奴だろ? それをソロで?」
「騎士見習い出身の出世頭だからね。僕達と同じ立場で貴族にまで上り詰めた生きた伝説だね。市井から準男爵にまで上り詰めた『麗人』カルロス準男爵と並んで黒剣騎士団の双璧だよ」
「って事はこの二人はそれこそバンバンお呼びが掛かってるってところか? 全く羨ましいねぇ」
「ハチ、君ねえ……本当にミクちゃんに殺されるよ? あの子は義務だろうが何だろうが関係ないと思うな……だけどねハチ、騎士になると高級性奴隷相手ほど気楽にはいかないらしいよ」
「気楽じゃねえって、なんでだ」
「それはね。彼女達に加えて、騎士の夫を亡くした若い未亡人がその相手に加わるからだよ」
「それは……」
「後、僕達と同じような立場で女官になった娘で、そのパートナーが亡くなった場合、貴族に囲われなかったら子供を作るために……分かるだろ?」
「……」
「僕達が騎士に成れずに途中で死んだ場合、残されたナナさんやミクちゃん、それにイヨちゃんはどうなると思う? 良い結婚相手が見つかれば良いけど、そうじゃなかったら強制的に騎士と子供を作らされる。
それにさっきも言ったけど、子供を作ろうとしない騎士の夫婦は強制的に作らされる。その相手役も大体同じ騎士らしいよ」
「そんな役、断りたいな」
「出来ねえだろ、そんな相手とは!」
「イチゴ、ハチ、今更なんだよ。実の家族相手に出来て、出来ない訳がないだろってねそう言われる。それにこれは義務なんだよ……」
「……」
「……」
「女に慣れるため、最初にそう言われたろ? それにね、イチゴ、君は絶倫ぶりを如何なく発揮してる。引く手数多だろうね」
「うぅ……」
「だからこそだよ。そんな大勢の美しい女性を相手することが決まっているからこその首輪なんだよ。幾ら他の女性に魅かれても決して裏切ることの無い様にする為の首輪なんだよ」
「クソッ! 落ち込んでても始まらねえ! 少なくても家族は取り戻す! そうだろ? 俺は先ずは生き延びて、給金貯めてリムルさんを身請けする。お前らも金額が書いてあったろ?」
「ハチの言う通り、何にしても先ずはそれからだね」
「なあ、みんな幾らだった? ロアナ……高すぎる気がするんだけど……」
「イチゴ、相手役に呼ばれたら特別手当が付くからそれを貯めようね」
「がんばれイチゴ! ロアナさんなら仕方がない、あれは仕方がないぜ」
「なあ皆は幾らだったんだよ?」
「どれ? ロアナさんって幾ら…………ゲッ!」
「わぁ……これはやっぱりそうだよね。大丈夫だよイチゴ、魔物を退治したら魔結晶やその他にもドロップアイテムなんかが出るだろ?
あれは倒した者が好きにして良いらしい。売れば副収入が得られるから、給金以外にもお金を入手することは出来るから。
こっちの副収入だけで給金の数倍稼いでいる騎士見習いも多いらしいよ?」
「なっ……リムルさんの3倍……ララさんの2倍!?」
「リムルさんとララさんの金額の差は年齢の差だろうね、けどロアナさんは……やっぱり別格だよね……
リムルさんが350万ゴールド、ララさんで500万ゴールド、ロアナさんは1000万ゴールドか、桁が違うよね」
「給金だけだと、一年何も使わずに貯めても無理だな、三年位掛かるんじゃねえか?」
「給金って……」
「騎士見習いは一月35万ゴールドだよイチゴ。年間で420万ゴールドだね」
騎士見習い達は無料の宿舎住まいで、食事も指定の食堂で有れば無料なので、それを考慮すれば中々に高給だ。
「その子供を作るために呼ばれて相手を務めたら幾らもらえるんだ?」
「騎士見習いの相場は一回5万ゴールドだね。まあこれはあくまで一般的な相場だから、相手が他の貴族家で、先方が是非にと望んだ場合は金額が上がる。それに実際に子供が生まれることになったら成功報酬が追加されたりするから、その辺を貯めて行けば結構な金額になる筈だよ」
「それにニトも言ってたろ? 魔物のドロップアイテムは倒した俺達の収入になる。部隊で倒すから全部倒した者の取り分にはならないみたいだが、倒した奴には優先して分配される。これを貯めりゃあいい。
それに中にはお宝を貯め込んでいる魔物もいるそうだぜ? まあお宝の場合は部隊長に分配の権利があるそうだから山分けって訳じゃあねえんだろうけど、それでも幾らかは分配される」
「けど……幾ら何でも高すぎないか? 下手したら若い性奴隷が買える値段だよね?」
「普通の性奴隷ならな、高級性奴隷で若い美姫は桁が更に違うぜ? リムルさんは13歳の時、3億で伯爵に買われたそうだぜ?」
「そうだねその位の値段だね、ララさんも同じくらいだったかな? けどララさん達は特に高い部類の高級性奴隷で、一般的な高級性奴隷は1億ゴールドくらいだよ」
「一般的な高級性奴隷でもそんなに高いのか?」
「そうだよ、もし仮にナナさん達三人を高級性奴隷として売りに出せば、それ以上の値段になるだろうね。女官に成れるような女の子はね、その位価値が有るんだよ。だから子供を作ることが義務なんだよ。それだけの価値のある子供が生まれることになるからね」
「けど3億か……伯爵家には何人くらい高級性奴隷が居るんだろうな……」
「現役が20人位だったかな? ララさん達みたいに伯爵様の相手を引退している人が後10名程だね。次期当主様用に買い足しているみたいだしそっちを入れるともっとかな?」
「そんなに?」
「損は絶対にしないからね。例えば高級性奴隷を13歳の時に1億ゴールドで買うだろ? 翌年から子供が生まれる。25歳位までに大体12人かな? 幼い時に売り出しても高級性奴隷の子供なら5000万ゴールドはするだろうね。これだけで最低6憶ゴールドが確定してる」
これが高級性奴隷は金を産むと言われる由縁だ。
「元の1億ゴールドを引いても5億ゴールドの利益だ。優秀で綺麗な子は更に値段が上がる。ナナさんクラスの娘が一人でも居れば更にって感じだろうね。子供を作れば作るだけ儲かる仕組みが出来上がってるんだよ」
「だから俺達みたいなのがこんなに居るって訳か……俺達の施設だけで最初は65人だったか?」
「そうだねダイン伯爵家の施設は大体年齢別に1番から5番までで、各施設60人~70人だそうだよ。それで最終的に男子は3名、女子は5・6名まで絞り込まれる。
その他の者は売られてるから施設にいた子達だけでも最低125億ゴールドだね」
「もう金額が大きすぎて訳が分かんないな……5番以降はどうなってるんだ? 伯爵様は相変わらずなんだろ?」
「5番以降は子供が出来ても育成しないで、そのまま国の施設に売られているそうだよ。次期後当主様の子供達の育成が始まっているそうだからね」
「国にも俺達の居た所みたいな施設が有るんだっけ?」
「そうだよ、そこでも同じく育成が行われている」
「同じか……」
「でね、伯爵様は25歳位まで相手をして、それ以降は、それこそ騎士や美形の男の高級性奴隷と子供を作らせてるようだね。まあ優秀で美形な子の方が高く売れるから騎士の場合が多いね」
商品として売る子供は、父親が誰かなどどうでも良い。要は眉目秀麗で有るがどうか? それだけが問題となる。
「それと女の子ばかり選別して産ませる場合なんかは高級性奴隷の場合が多いらしいね。ただ国としては優秀な男の子も多く欲しいから、このやり方は推奨されていないね」
女子の場合、高級性奴隷として売るなら、優秀さよりも、その容姿によって値段が変わる。
より美しい女子が生まれる様に、それに適した容姿の男子の高級性奴隷が選ばれる事も多い。
「これが高級性奴隷の女性が30歳になる位まで続くそうだよ。年に一人として更に追加で5人だ。
国の施設で育てられた子供も、優秀なら騎士見習い、女官になる。そんな子供を売った貴族の家には、その子が騎士見習い、女官に成った時点で5000万ゴールド、更に騎士に成ったり、女官が騎士の所に嫁げば追加で5000万ゴールドの特別報酬が出る」
「成る程な、要するに貴族様には俺達みたいな子供がお金に見えてるわけか……」
「けどニト、そう考えると今度はロアナだって安すぎる様に感じるんだけど?」
「イチゴ、彼女達はね、もう……子供は出来るかも知れない、けど母体として可成り無茶をしてる。選別をしながら平均一年に一人生むんだよ? 値段が安いって事は、子供をもう作れないかもしれない、若しくは妊娠中に死ぬ危険性が高いと判断されているってことだよ」
「うっ……」
「人工子宮といっても母体が死ねば子供も死ぬ。魔法的に繋がっていることは知ってるよね?
ララさんは自分では後1人くらい産めるって言ってたけど、値段だけ見るともう無理かもしれないと判断されているんだろうね。
ロアナさんもそうだよ、あの人は別格に綺麗だからあの値段だけど、子供を安全に産めると判断されてたらもっと高いと思うな」
人工子宮は万能ではない。母体と切り離して人工子宮だけで育てる試みも未だに試されているが上手く行かないらしい。
生まれはするが、免疫力が弱く、病弱な子供が多い。商品として売れる年齢に達する前に病気で死亡する者が多く、歩留まりが悪化する。
その為、今でも魔法的に母体と繋げている方式の人工子宮が使われている。
ただその場合、母体が死ねば、子供も死ぬ場合が多い。母体の死に早く気が付ければ切り離して子供だけで生まれる場合もあるが、その場合も障害が発生する確率が高い。
その為、妊娠期間中の母体は大事に保護される場合が多く、また母体が最初から弱っている場合は人工子宮での育成そのものが断念される場合が多い。
人工子宮での育成はそれなりに費用が掛かる。例え母体が健康であっても、その子供がその対価に見合わないと判断される場合には容赦なく育成が打ち切られる……それが選別だ。
「ってことはリムルさんは子供も産めない位弱ってるって事か? あれでか?」
「そこなんだよね……他の高級性奴隷の人達と彼女達は立場が大分違うでしょ? もしかしたらまだ子供は産めるけど、人質や褒美として騎士見習いが身請けられる金額に設定されているだけっという可能性もあるんだ」
騎士見習いは国から給金を貰い、それが主な収入になる。
各貴族家も給金の額は分かっているので、それに合わせて母親の身請け額を設定している可能性は高い。
無理な金額を設定しても、騎士見習いが身請けを諦め、人質、首輪の役目を果たせなくなってしまう。
「それにハチだってリムルさんに子供が出来るような事を色々やったよね? その結果妊娠しないとも限らない。そうなった場合、人質や褒美になる筈の人が死んでしまうことになるだろ?」
「そうかそれもあるな……けどよそう考えると、ミクもその……価値がスゲーあるって事だろ? それが女官に成って俺達の嫁に成ったら、伯爵様は大損じゃないのか?」
「だからその為の人質だよ。良いかい、騎士と結婚して、その騎士が伯爵様の家臣になる。その家臣の子供は伯爵家の家臣の騎士階級の子供に成るんだ」
「ん? それはそうだけど……」
「家臣団ってのはね、言ってみれば伯爵家専用の養殖場なんだよ。ワザワザ糞高い高級性奴隷を買わなくても、家臣の子供の美しい女子を愛人として囲えば、その愛人の産んだ子供は売れるでしょ?」
「えっ! あぁ……そうなのか……愛人って自分のところの家臣も対象か……」
「貴族として認めて貰えるのは正室や側室の方々のお子様達だけだからね。例え騎士階級で有っても愛人との間の子供は僕らと立場が変わらない」
騎士見習いや女官となった段階で、イチゴ達は解放されて奴隷では無い。
それどころか騎士階級としての身分を手に入れている。
「女官に成れるような女の子を家臣の騎士に与えるのはね。その子供を愛人として囲う為の先行投資なんだよ。目先の利益ではなく、後々の利益を見据えて、優秀で美しい血筋を自分達の手元に置くための先行投資なんだ」
「要するに俺達の娘を愛人にする為に、逃げられないように首輪をかけてるって事か?」
「跡取りの男子、それ以外に三人。三人産めばその内一人くらいは女の子でしょ? 一人は確実に伯爵家に愛人として差し出す様になると思った方が良いね」
「どこまで行っても結局俺達はモノなんだな……」
「けどこの制度にはもう一つ意味が有る。良いかい? この国の主な対外向けの商品は性奴隷、中でも高級性奴隷は目玉商品だ。
けどね、輸出した先の国で、この国のように養殖を始めたら? 養殖まで行かなくても他の国にある程度美しい高級性奴隷が集まって、そこで子供が生まれる。そうなるとワザワザ高いお金を出してこの国から高級性奴隷を買うと思うかい?」
「けどこの国は延々この高級性奴隷の取引で財を成してきたんだろ? 何でだ?」
「質だよ、圧倒的な質の良さだよ。この国には色々と他の国にはないノウハウがある。『選別』や『人工子宮』なんかもそう。他の国にはないノウハウと技術なんだよ。そして僕達の様な騎士見習い、女官制度。これによってこの国は他の国では真似のできない圧倒的な質の高さを維持しているんだよ」
「ノウハウや技術は分かるけど、何でこの騎士見習い制度や女官制度が? 何方かと言えば優秀で綺麗な者が高級性奴隷にならないから質が低下してないか?」
「イチゴ、確かに美しく優秀な者を高級性奴隷として売ればその時は儲かる。けどねその国でも指折りの美姫をどんどん他国に売りに出していたら、この国で養殖する為の母体となる美姫が居なくなるでしょ?」
「あっ……もしかして……」
「気が付いたようだね。そう高級性奴隷で有る限り、お得意様が相応の金額を出せば売らざるを得ない。
だってそうでしょ? お客としては莫大な金額を払っているのに、自分達には超一流の美姫でなく、二流や三流の高級性奴隷しか売らない、売ってくれないとしたらどうだい? お客の不満は高まるばかりだろうね……」
相手は他国の王族や貴族だ。
関係を悪化させない為、又、気持ちよく大金を払って貰う為には、彼等の要望は可能な限り叶えなければならない。
「ならその超一流の美姫達は高級性奴隷にしなければ良い。だからこの国は超一流の美姫達は敢えて高級性奴隷にしないで女官にしている。そう彼女達は高級性奴隷ではないから売れない、売らなくていい。他国の家臣を高級性奴隷として売れなんて言えないだろ?」
「そうか……この国に一定以上の優秀な者をキープしておくための制度なのか!」
「そうだよ。この国の優秀な、眉目秀麗な美姫を他国に流出させないための制度でもあるんだ」
「けど……そうなると男子は僅か30%しか生き残れない、騎士見習いにする意味は? 70%も優秀な者を捨てていることになるだろ?」
「男子はさ、母体と違って種馬は、その位の人数でも十分なんだよ。寧ろその位厳選した方が、より優秀な者が多く次世代として生まれる可能性が高いと思われている。
だからだよ。魔物の退治をしながら、より厳選した種馬を残す。その為の騎士見習い制度さ」
「はぁ、何処までいっても俺達は商品なんだな……けどロアナ達みたいな高級性奴隷がいる……どう考えてもロアナやリムルさんやララさんは超一流だと思うけど?」
若く超一流のイヨ達と比べて、あの歳で見劣りがしない、超一流以外ありえない。
「彼女達はおそらく大貴族専用の他国へ売ることが禁じられている高級性奴隷だよ。この国には色々秘密を抱えた高級性奴隷が居るんだよ。人体実験とか今更な国だからね。様々な実験を施されて生まれてくる子供がいる。
そうして生まれた高級性奴隷は国家機密だからね。他国が買いたくても買えない。多分そう言った高級性奴隷だよ」
商品ではなく、新商品を開発する為の実験体……その場合も他国には売れない。
「人体実験……今更なのか?」
「この国は美しい者を生みだす為には何でもやる。その為の労は惜しまないし、それは全ての倫理観に優先する……ねえイチゴ、僕達だってその結果だよ?」
騎士見習い達は、ロアナ達、高級性奴隷の子供だ。
それは実験の成果と言い換えても良い。
「彼女達が人体実験の結果だとするなら、その子供である僕達は如何なんだろうね?
イチゴ、君の絶倫は……それは本当に自然なものなのかな?」
「…………」
「俺もニトの見解は間違いじゃねえと思う。お前の絶倫っぷりは少しオカシイ。どう考えても自然とは思えねえ。それに他にも心当たりがあるだろ?」
心当たりは有る。っというか目の前に心当たりが居る。
「俺だってそうだ、筋力……身体能力が他の奴等に比べて高すぎる。ニトの素早さもその知力も施設の他の奴等に比べて高すぎだ」
「ちょっと待てハチ、お前らは確かにそうだ……分かる。けど俺は絶倫ってそれだけ?
俺って絶倫だけ強化実験されてるって事か? あんまりだろう……」
「いやイチゴ、君は全部が高スペックだよ? その中でも特に異常なのがその絶倫っぷりってだけで」
「おかしいだろ? 性欲が異常で女に見境なく襲い掛かるわけじゃねえ。なのにイザやるとなると絶倫」
イチゴは異常性欲者では無い。普段は女性に対して紳士だ。
「ここの給仕をしてくれてる女の子に襲い掛かってねえだろ? それに施設の女性職員に襲い掛かったわけでもねえ。
性欲の抑制は出来てるんだ……なのにあの絶倫大魔王ぶりは異常だ」
「そうなのかな? あれ? そうなのか?」
「ねえイチゴ、君は普段はどうしてたんだい?」
「どう? 別に何も?」
「……」
「やっぱりお前は何処か変だイチゴ」
「そうだね、イチゴ、君は都合が良く出来すぎてる」
「はぁ……もうね、何なんだろうね俺達って……」
「何なんだろうね……」
「「はぁ……」」




