第33話一休み②
こんな調子でメグミは常に『ガンガン行こうぜ!』状態だ。
普通の見習い冒険者であればそれに付いて行けない。
体力的にも精神的にも耐えられない。だがノリコは平然とそれについて行っていた。
ノリコの精神力は強い、一度や二度自信を打ち砕かれようとへこたれる事が無かった。
本来ならそれは美点で有り長所だ。だが異常なメグミに付き合えてしまうノリコは、メグミと同様に、そう同類として避けられてしまっていた。
またメグミの与えた『錘月』もその一因だ。それまで武器が耐え切れ無い為、全力の出せなかったノリコに、全力を出しても平気な武器を与えた。
メグミのシゴキとその武器によって、他の見習い冒険者との間に隔絶した差が生まれてしまい、それ故に避けられた。
「メグミ先輩達も避けられてるんですか? カグヤ達はまあ仕方ないですけど、何故でしょうね?」
「お前ら男だけじゃなくて女相手でもこの調子だろ? 少しは相手を慮った言い方を覚えた方が良いぜ?
俺でもお前らと話してると精神に鑢掛けされてる気分だからな、気の弱い奴なら一発でアウトだろ?」
「あんたにそんな繊細な精神が有るの? 意外だわ」
「タツオさんってもっとタフだと思ってましたわ……それにその言い方だとメグミちゃんだけでなく私やお姉さままで口が悪いみたいに聞こえますよ?」
「それはサアヤちゃんが少し穿った見方をし過ぎよ。そんなこと事タツオくんは言ってないと思うわよ?」
「何だろうな、男が俺だけだからか? さっきから集中攻撃されてる気がするんだが?」
「女ばかりのパーティに加わったのはアンタでしょ? この程度も想像して無かったの? これだから脳筋は……」
「けどお姉さんもメグミちゃん達が避けられる理由が何となくわかるわ、三人掛で遠慮なく相手に言いたいことを言ったら、多分普通の子じゃあ耐えられないのでしょうね……
全く遠慮のないド直球で口が悪いメグミちゃん。
的確な正論だけに相手に逃げ道を与えないサアヤちゃん。
大人しめな物言いなのに相手に反論を許さないノリコちゃん。
うん、貴方達はもう少し相手に対して譲歩を覚えるべきだとお姉さんは思うわ」
「ううっそんな! 的確に指摘してるんだから良いじゃありませんか!」
「そうなの? あれ? そんな……反論を許してないかしら?」
「知ったこっちゃないわね、言いたいことは言うわ! 反論だろうが何だろうが意見が有れば遠慮せずに言うべきなのよ!
冒険者ってのは命がけの職業なのよ? 死んだ後じゃあ思ってたことも言えないわ。
連携をスムーズに取る為にも、普段から言いたいことを言い合って一定の合意を形成しておかないとダメでしょ?
戦闘中に意見を言い合うわけにはいかないでしょ?
今だってそう! こうして反省会を開いているのもその為よ?
次の戦闘が今よりも楽だと誰が言えるの? ギリギリの戦いになった際に、仲間が何を考えて行動しているのか把握しているのといないのとじゃあ、連携のスムーズさが違うでしょ」
「そうですよね? 普段から本音でコミュニケーションしておくのは良い事ですわ」
「ディスカッションは大事よね。ディベートし合いながら合意を形成しておけばイザという時に、相手の考えが分かるから、指示なんてしなくても動けるわ」
「まあそれは俺も同意見だけどな、アキヒロさん達も良く意見を言い合ってるし反省会は開いてる。けどなお前らは物の言い方に遠慮がなさ過ぎると俺は思うがな?」
「そうね程度の問題だと思うわ。徐々に慣れて行けばこれでも良いのでしょうけど、いきなりこれだと大抵の人は面食らってしまうわね……まあお姉さんはこの位遠慮がない方が気楽で良いけどね」
「カグヤはキツイ言い方されても構いませんわ、寧ろメグミ先輩に責められるとゾクゾクしますわ」
「カグヤ、アンタはちょっと黙ってなさい」
「ああぁ、もっと!」
「黙れ!」
メグミに睨まれてもカグヤは一向に怯まない、それどころか上気した顔で見つめ返している。
メグミの視線を独占できるのが嬉しいらしい……
「……メグミちゃんとカグヤちゃんはちょっと横に置いておきましょうね」
そんな二人を見てアカリが話題の変更を促す。
「ふむ、ま、あっちはあっちでやってもらおう。で? 何の話だった? なんだろうな女の話ってのはどうしてこう話題がコロコロ変わるんだろうな? 何の話してたか忘れちまう」
「タツオくんがメグミちゃんに友人として認められてるって話でしょ? うん『友情』は大事よね、お姉さん的にはとても良いわ」
そう『友情』で有る限りアカリには何も問題が無いのだ。寧ろ都合が良い……少なくともメグミからは友情以上の情は全く感じられない。
「そうですよ、タツオさんはもっと自信を持って良いですわ。メグミちゃんが警戒を解くなんて余程ですわ」
「くぅ、その件はもういい。その前に何か……メグミの優先事項の話だったか?」
『友情』を強調されて何故か精神にダメージを負っているタツオは慌てて話題を変える。
「そうでしたわ、メグミちゃんの優先事項ですわ」
「美少女や美幼女だったか? なんだそりゃ?」
「まあメグミちゃんですから……ただメグミちゃんが言った最優先事項はその美少女や美幼女の安全や笑顔が最優先って事ですからね? 襲いたい獲物の優先順位の事では有りませんよ」
「それは何となくわかるが……それが今回のクエストの最優先? ってのはなんだ?」
「メグミちゃんは言葉が足りませんけど、今回のフルーツ狩りも孤児院の主に美幼女の為ですわ。
それが無ければノリコお姉さまがいくら頼んでも、メグミちゃんは何のかんのと口で丸め込んで、この蒸し暑い中ボランティアなんてしませんわ。
そうですね言い直します、今回のクエストのメグミちゃんの最優先事項は美幼女の喜ぶ顔で、次にその美幼女達とこのクエストを通して仲良くなる事、その次がお姉さまのご機嫌とりくらいでしょうか?」
「流石メグミ先輩歪み無いですわ!」
「ねえカグヤちゃん、それって誉めるところなの?」
「え? 褒めてるんですかそれ?」
「? メグミ先輩が睨んでいるのでコメントは控えますわ」
「うーーん、けどそれって結局自分の欲望なんじゃ無いの?」
「どうでしょうか? メグミちゃんの目的はそうかも知れませんが、この目的に結果を求めていないのがメグミちゃんですからね」
「えっとなにそれ? 目的なのに結果を求めていない??」
「スイーツの嫌いな女子は居ませんわ、ですからメグミちゃんの好きな美幼女が喜ぶのは確定でしょ? でもその結果メグミちゃんがその美幼女に好かれるかどうか、これは分かりません。
けどメグミちゃんはそれでも、例え好かれなくても後悔はしないって事です。メグミちゃんは常に美幼女や美少女に下心を持って色々仕掛けてますが、その結果がどうであれ全て受け入れるんです。この点だけは本当に感心しますわ」
「本当に心の底から相手の喜ぶ顔が見たいだけなのよね。下心が無ければベストなんだろうけど、メグミちゃんにそれを求めるのは無理なのよね……」
「なあ? サアヤの今の説明だとメグミの言ってる明日のオヤツのケーキがどうとかが説明できねえ気がするが、それはどうなんだ?」
「あれはメグミちゃんの照れ隠しを兼ねた言い訳なのよ。余り真に受けてはダメ。ただ半分位は本音も入ってるわね」
「うぅ三人が以心伝心過ぎてカグヤ嫉妬してしまいますわ。不味いですアカリ先輩! カグヤの入り込むスキマが有りません!」
「頑張ってカグヤちゃん! お姉さん応援してるわよ!」
「なんの応援よ! けどノリネエもサアヤもコッチに来てからの付き合いなのに、やたらと私の扱いに慣れてない?
最近ちょっとやり難いわ、初心で可愛かったあの頃は戻ってこないのね、ちょっと残念」
「慣れないとメグミちゃんの相手は出来ませんわ!」
「そうよね……散々酷い目にあったものね」
「よくそれでお前ら今だに仲良く付き合ってるな?」
「慣れれば結構平気ですわ」
「基本悪気は無いのよ、チョット欲望に忠実なだけなのよね」
「不味いわよカグヤちゃん、この二人もうメグミちゃんが調教済みだわ」
「ああぁ、メグミ先輩ぃカグヤも調教してください!」
「うっさいわね! 黙って聞いてれば言いたい放題言って!
あんた達は反省中でしょ! 少しはしおらしくしてなさい!」
「黙って聞いてたか?」
「うるさいわよタツオ! それにあんたも少し反省しなさい!
何敵が多くて困ってるのに試し斬りして楽しんでんのよ!」
「? なんのことだ? ……ああ武器を色々変えていた事か?」
「そうよ! それ以外に何が有るって言うのよ!」
「まあ色々試しては居たけどよ、楽しんでいた訳じゃあ無いぜ?」
「へぇ、言い訳が有るって言うの? ふぅん、良いわ聞こうじゃない」
「言い訳って何だよ! まあいい……か?
最初は『裁』で狩ってたんだけどな、数が多いだろ? だったら両刃の剣を振り回した方が範囲殲滅の効率が良いかと思ってな『律』に変えたんだ。
けどよ『ソルジャーアント』の野郎逃げやがるだろ? 追いかけて仕留めるには小回り割りが効いた方が良いかと今度は『信』に変えたんだ。
でもなお前に調整してもらってから『信』の切れ味がスゲエんだ。『信』だと余裕有り過ぎてな、なら丁度良い雑魚だと思って『雛』に経験でも積ませるかと『雛』に変えた。まっ油断した隙に『律』を持って行かれそうになって焦ったけどな」
「ふむふむ、なるほどね」
「おっ? わかってくれたか?」
「まんま試し斬りね」
「……お前俺の話を聞いてたか?」
「聞いてたわよ? 良いタツオ、確かに『信』までなら効率を求めてってあんたの説明も分からなくは無いわ。
けど『雛』は違うわね。『雛』を出した時点で、効率よりも試し切り、『雛』を育て始めたって事でしょ?」
「うっ、まあ確かにそうだが、でも今回は『雛』で十分な場面だったろ? どっちにしろ一撃じゃねえか」
「でも『雛』だと思いっきり振れなかったでしょ? 『信』なら纏めて数匹斬り裂ける場面でも折れるのが不安で一匹づつ斬ってたわ」
「お前あの状況で良く周りを把握してるな? もしかして全員の戦いぶりを把握してたのか?」
「メグミちゃんは視界が広いんですよ、普段から戦いながら戦場全体を俯瞰してみてますわ。
だから今回もパーティーのリーダーはノリコお姉さまですけど、戦闘指揮はメグミちゃんと役割を分けたんです。
戦闘におけるメグミちゃんの指揮は間違いがないですからね」
「それでか……けど良いだろその位、『雛』にはちょうどいい相手だろ? 早く育てて進化させてやりたいんだよ」
「それ位一人の時でも出来るでしょ? 地下一階とか場所さえ選べば、試し斬りにソロでも来れる階層よ? その時に育てなさいよ。
第一あんたが『蛍』を使ってればもっと早く済んだでしょ? 何で『蛍』を使わないのよ?」
「『蛍』か? ここの魔物には過ぎた武器だろ? 使うまでもねえと思うがな?」
「はぁ? 使っても無いのになんでそこまで分かるのよ!」
「いやお前んちの庭で試し振りはしただろ? あれで十分わかったさ。
あれはヤバいな、ビックリするくらい手に馴染む、もう何年も使い込んだみたいに手にしっくり来やがる。
それに刀身長や握りの太さが、まるで俺の要望を聞いた見てえにピッタリだぜ?
特に『裁』や『律』の刀身長は伝えてねえし、『裁』や『律』は今日初めて見せただろ?
何でだ? 要望を聞かれたわけでもねえのに、なんで俺の要望ピッタリに出来上がってんだ?
前回会った時はアキヒロさんから借りた剣だったろ? 普段使ってる剣も見せてねえのに何で分かるんだ?」
「そう言えば不思議ですわね、ねえメグミ先輩、そもそもタツオ先輩の注文の剣が何でタツオ先輩の要望を聞く前に出来てるんですか?」
「要望? ああそれね、それはほら、ノブヒコさんが詳しく教えてくれたし、アキヒロさん達もアドバイスしてくれたのよ。だから私はそれに合わせて造っただけよ?」
「ちょっと待て、それって何時の話だ? 俺は何も聞いてねえぜ?」
どうやらタツオはタツオのパーティメンバーがメグミ達の家を訪れた事を知らなかったらしい。
「多分あんたが剣を打つのに缶詰になってる間でしょ? だからあんたに知らせようが無かったんじゃない? あんたのパーティの人達がこの間尋ねてきたのよ」
「そうなのか?」
「そうよ、最初にノブヒコさんが尋ねてきたわ。あの人凄いわよね、よくタツオの事を把握してるわ。
それに女ばかりの家に男だけで訪れない気配り、そしてセンスの良い手土産とか、一部の隙も無い……流石だわ。
ただあの女の子達って彼女なの? 2人も連れて来てたけど……あの2人と付き合ってるの? よく修羅場にならないわよね?」
「一緒に来た女の子は2人か? あれ? ……4人居なかったのか?」
「えっ?! 4人も居るの?!」
「ノブヒコから俺が紹介されたのは4人だな、それに修羅場か? まあノブヒコに限ってそれはねえだろ。相手の女共もお互い仲が良い見てえだしな」
「なっ、ノブヒコさんってああ見えてハーレム系の主人公なの? なんて羨ましい!」
「メグミちゃん何を羨ましがってるのよ! けどそうなの? とてもシッカリしてる人の様に見えたけど……」
「実際しっかりしてるぜ? それに浮気野郎って訳でもねえぜ? あれで一人一人大事にしてる見てえだしな。
まっ普通には出来ねえ芸当だが……ノブヒコだしな。
それに付き合ってる女共も一人一人自立してるってことだし、都合に合わせてお互いにバランスよく付き合ってんだろ」
「普通にならハーレムクソ野朗で一番嫌いなタイプなのに、何でかそこまで嫌な感じじゃ無いのよね?」
「嫌味が無いというか、自惚れ? ナルシストな所がないからじゃないかしら?
話をしていても女の子を口説く感じが一切ないでしょ?
単にフレンドリーで後輩思いの先輩なのよね」
「実際ノブヒコさんがあんたのパーティの中だと一番女の子の扱いになれてるのよね。
男女の区別無く話し方が変わらないし、彼女さん? にも普通に女友達の様に接してたわ。
それに女の子を4人も侍らせているような嫌らしさを何故か感じないのよね。
ガツガツした所が全くないわ」
「あのお姉さん達も普通だったし……不思議な関係ね?」
お互いに大人な付き合いをしているのだろう。メグミにとって羨ましい限りの関係である。
「優しいお兄さんって感じでしたわ、それに彼女が多いと何か問題ですの?」
「アレ? サアヤは浮気容認派だったっけ?」
「浮気はダメですわ。けどノブヒコさんの場合はアレは彼女と言ってますけど女友達では?
愛よりも友情とか友愛を感じたのですけど?」
「いやサアヤ、女友達ならタツオにもそう紹介するでしょ?
やる事はやってるから彼女なのよ」
「メグミちゃん不潔よ! それにサアヤちゃんにはまだ早いわ」
「やる事? 何ですかやる事って? えっ聞くな? 聞いたらダメなんですかタツオさん?
まあいいですわ……けどノブヒコさんの手土産のケーキは素晴らしかったですわ! あんなに綺麗なケーキの詰め合わせは見たことが有りません! それに『ママ』もビックリするくらい見た目だけでなく美味しさも別格でしたわ」
サアヤはノリコ達が何を気にしているのか理解できない様だ。そこで自分の分かる話題に話を持って行った。
「アレには確かに驚いたわね。異世界にも、いえ異世界だからかかしら? あんな素晴らしい出来栄えのケーキは東京でも食べたことが無いわ。間違いなくパティシエの作だと思うわ」
「そうねノリネエ好みのフリフリのデザインだったものね。
けど確かにケーキのデザインとしてはノリネエのデザインもあってるのよね」
「もしかしたら……いいえもしかしなくてもお姉さまにはお菓子作りの才能が有るのかも知れませんわ。お姉さまのデザインセンスは正にお菓子のデザインとして最適かも知れません」
「お菓子? そう合ってるの? 今度『ママ』に教えてもらおうかしら?」
「メグミ先輩、ノリコ先輩ってよくあんな言われ方して怒りませんよね? 何でですか? あの言い方だとスイーツなデザインセンスって馬鹿にされてる様にも受け取れますけど……」
「ポジティブだからよ。悪意を持って馬鹿にしない限り、ノリネエは人の意見を常にポジティブに受け取ってくれるわ。だから大丈夫なのよ」
「心が広いのね。けどねメグミちゃん、ノリコちゃんは平気でも他の人は違うのだから気を付けなきゃダメよ」
「無理ね! 私にそんな器用な真似が出来ると思ってるの?」
「……」
あんまりなメグミの言い様にアカリは絶句している。
「アカリさん、メグミちゃんにそんなこと言っても無理ですわ。
もしメグミちゃんに人並みのデリカシーが有れば、他の見習い冒険者から避けられたりはしません」
「ああ、でもカグヤはそんなデリカシーの無い先輩も大好きですわ! もっと遠慮なくなじってください」
「うんカグヤ、あんたは少し黙ろうか?」
「ああっもっと!」
「カグヤは放置しましょう。で、話題を戻すけど、こっちの世界のパティシエって日本の技術と異世界のドワーフなんかの技術が組み合わさって、更に魔法まで使ってるからか凄まじい技量よね。あれは味も見た目も最高だったわ!」
「放置して良いんですか? 益々喜んでますけど……えっ? 触れてはダメ?
……本当に見事でしたわね、あの箱のマーク、たしか山の手で最近話題のパティシエのお店ですわ。噂だけは聞いてましたがあれ程とは……ただパティシエじゃなくてパティシエールらしいですわよ?」
「そうなの? 女の子が作ってるんだ……どんな子なんだろ? 可愛い子かな? 今度みんなで買いに行こうか?」
「メグミ先輩、何で女の子ってわかった途端にそんなに興味津々なんですか! カグヤにも興味を持ってください!」
「あんた放置プレーで喜んでたんじゃ無いの? 何で会話に加わって来てるのよ?」
「メグミ先輩酷いですぅ! 会話不許可は放置プレーじゃなくて無視じゃないですか!」
「無視してないでしょ? カグヤが喜んでいるから心を鬼にして放置してたのよ」
「嘘ですわ! カグヤの相手が面倒になったんですかメグミ先輩! 扱いが段々と雑になってますぅ!」
「ふっ違うわカグヤ! 釣った魚には餌をやらないって言うでしょ?」
「カグヤは先輩に釣られちゃいましたか? では既にステディな関係ですのね♪」
「話は最後まで聞きなさい! 釣った魚にさえ餌をあげる必要が無いのよ、自分から網に飛び込むどころかまな板の上に乗っかってくる魚に何が必要なの?
いつでも食べれる魚より、まだ見ぬ幻の大魚を釣り上げることを夢見るのが釣り人の性よわかるでしょ?」
「えっっと? よくわかりませんわ?」
「カグヤよりもそのパティシエールちゃんに今は興味があるって事よ」
「なっ! なんでですか! カグヤの方が美味しいですよ! 先ずはカグヤを食べてください!
それにあの噂のお店ですよね? あの店のケーキは最近は入手困難な品ですわよ? 予約販売もしているみたいですけど、その予約も半年先まで埋まってるとか、ですからどうせお店に行っても会えませんわ。ねっ先輩、だから先ずはカグヤをどうにかして下さい」
「カグヤちゃんが健気過ぎてお姉さん涙が出て来るわ。って冗談はさておき、私もあのお店のケーキは、カグヤちゃんのお母様に頂いて一度食べたきりね。気に入って買いに行ったんだけど、残念な事に既に売り切れてて買えなかったわ。聞いたら予約販売以外の商品は一瞬で売り切れるそうよ」
「よくそれでノブヒコさん入手出来たわね? しかもそんな貴重品を手土産でサラッと持ってくるなんて……けどそんな出来る人で、こんなに人の事を思い遣る人が女の子4人と付き合って居るのはどうなのかしら?」
「こだわるわねノリネエ、前にも言ったけど愛は一つじゃ無いのよ。本人達がそれで満足してるなら他人がとやかく言う事じゃ無いわ」
「そうなの? でもやっぱり不誠実な感じがするんだけど……タツオくんはどう思う?」
「さっきも言ったが、ノブヒコは浮気者とか不誠実とかって印象じゃあねえな。
まあ俺にはあんな器用な真似は無理だが、良いんじゃねえか?
メグミの言ってるように本人達がそれで満足なら良いだろ」
「タツオくんも何人も複数の女の子と付き合いたいの?」
「いやだから俺には無理だぜ?」
「無理じゃ無かったら付き合いんだ?」
「ウゥッ」
「ノリネエ、やりたい盛りの年齢のタツオを追い詰めたらダメよ。男はね付き合いたいんじゃ無いのよ、やりたいのよわかるでしょ?」
そのメグミの身も蓋も無い意見に、ノリコはギョッとした怯えた目でタツオを見直す。
「ちょっと待てメグミ! ノリコさんの視線がドンドン冷たくなっていってるからちょっと待て!!
違う! 違うからな! 俺はちゃんと好きな奴と付き合いたいと思ってるからな!」
「やりたいとは思っていないって事?」
「メグミ! お前はさっきから女がなんて事言ってやがるんだ!
少しくらい慎みは無えのか?」
「そうねお姉さんも感心しないわ。今のは流石に下品すぎるわね」
「メグミ先輩今のは流石にカグヤもドン引きです」
「ねえメグミちゃん、やりたいって何を……」
「サアヤはちょっと黙ってようね、サアヤが知らなくてもいい事よ。うん、今のはちょっと調子に乗り過ぎたわ……サアヤに変な事を教えると私がティタ様に怒られるんだったわ」
「メグミちゃん、あれなのよね? やりたいって……」
「おっとコッチもネンネだったわ、ノリネエも興味持たなくていいから、コッチもヤヨイ様やアイ様に怒られるわ」
「メグミちゃん、周りはこんなに純粋なのに、何で貴方はそんなに下品なの?」
「だってノリネエとかサアヤだけだとこっちが下ネタ振ってもキョトンとしてるだけなのよ!
下ネタに対して反応があるのが嬉しくてついそっちの話題に流れちゃうのよ!」
「下ネタの話題が振れなくてストレス溜めるってお前素がどんだけ下品なんだ?」
「何処までも下品よ! 悪い!」
「悪いわよ! 反省しなさい! お姉さんもカマトト振る心算はないけど、下ネタにも限度が有るのよ?
ノリコちゃんは兎も角、サアヤちゃんの前でする話題では無いわね」
「アカリ先輩、その位で……話題を替えませんか? 何となく意味を察してサアヤちゃんは顔が真っ赤ですし、ノリコ先輩もパニクってます」
「そう、それは残念ね。もうちょっと下ネタトークがしたかったのに……まあノリネエもサアヤも容量オーバーね」
「下ネタトークは今度お姉さんとカグヤちゃんで聞いてあげるから今は話題を変えましょうねメグミちゃん
「分かってるわよ……けどそうよ、だからこそ今日はフルーツを取りまくるのよ! 『ママ』がアレに刺激されてメラメラとお菓子作りに燃えてるわ。今ならアレを超える、最高のスイーツが食べられるわ」
「ちょっと待て、なんでまた唐突にケーキの話に変わってるんだ? ノブヒコの話だったろ?」
「いいえタツオさん、『蛍』の話ですわ」
「うっ、そうだったぜ、で? ノブヒコが色々要望を伝えたのか?」
「そうよ? 刀身長や握りの太さなんかを色々教えてくれたわ。太刀が良いだろうって言ってたのもノブヒコさんだっけ? アキヒロさんだったっけ?」
「お二人ともそう仰ってましたわよ? タツオさんの次の武器は太刀が丁度良いだろうって」
「そうね、今の武器と重ならないし、タツオくんの目指す戦い方には太刀が一番向いていると思うと仰ってたわ」
「そうねそうだったわ、でね、二人の意見を取り入れながら『蛍』を微修正しながら一緒に設計したんだったわ」
「自分で設計したんだよな? 二人の意見を聞きながら設計したんだろ? 何で不確かなんだ?」
「二人とも男性ですよタツオさん。メグミちゃんが男性と何を設計したかとか覚えてるは筈がないじゃないですか」
「まあ失礼な! 設計した事は覚えてるわよ! だた誰の意見だったかとか誰の要望だったかが思い出せないだけよ」
「いやそれでもダメだろ? そこまでか? そこまで男に割くソリースが少ないのか?」
「タツオくん、メグミちゃんには誰と一緒の設計だったかよりも、設計の内容の方が重要なのよ。
だから何方だったか覚えてないだけよ。設計したこと自体は覚えてるでしょ?」
「いや……まあ良いか、ノブヒコだけじゃなくてアキヒロさんもお前んちに尋ねて行ったのか?」
「そうよ、確か……手土産は和菓子だったわ! こっちも味も見た目も最高だったわ!」
「お前さっきから手土産の話しかしてねえぞ? アキヒロさんは何の用だったんだ? ノブヒコもアキヒロさんも依頼してた剣の話だけか?」
「印象に強く残ってるのが手土産だったのよ! 本当に凄い和菓子だったんだから!」
「メグミちゃん、タツオくんが言いたいのはそう言う事じゃないわよ?
あとそうね、お二人だけじゃなくてあの……三人の先輩方も三人で一緒に訪ねていらしたわ。
皆さんに共通するのは自分達はオークの合同討伐演習に参加するので、タツオくんが尋ねてきたらよろしくって事だったわね」
「そうですわ、ノブヒコさんは『タツオはまだ此方で親しい冒険者が少ないからね、剣を打ち終わって缶詰から解放されて、僕達の不在が分かると、多分ここに来るんじゃないかな? その時はよろしくね』と仰ってましたわ。
アキヒロさんも『まあ多分缶詰でストレスを溜めているだろうし、発散するのに付き合ってやって貰えないか?』と、三人組の先輩も口々に『タツオはあれで気を使う、俺達が居ない、他に親しい冒険者も居ないとなるとな』
『危険がある以上、万が一を考えてソロで迷宮に潜ったりはしないだろう、低階層では暴れても物足りないだろうし、そうなると君達を頼ってくる可能性が高いだろうな』
『野良でパーティに加わるにしても、今回の合同演習で男子はほぼ街に残っていないからな、他の女の子のパーティに加わるよりは君達の所に来る可能性が高いと俺も思う』そう仰ってましたよ?」
「あいつ等そんな事を頼む位なら俺を置いていくなよ! 畜生が!」
「タツオって本当に大事にされてるのね? あの三人組も見た目はあんなななのに、良い先輩なのね……手土産のフルーツの盛り合わせも美味しかったわ。あんな高そうな果物は普段買わないから本当に美味しかったわ」
「お前はやっぱり手土産なのか! なんで手土産の内容はシッカリ覚えているのにその他は覚えてないんだ?」
「まあ確かにメグミちゃんは極端ですけど、本当にどの手土産も良い物でしたわ」
「そうね、ケーキも凄かったけど、和菓子も素晴らしかったわね。こちらの職人さんは技量が凄いのよね……あれ程の和菓子もそうそうないわね」
「あれもこの街で有名な和菓子屋さんの物なんですよ。他国の王侯貴族がワザワザ買いに来るほどの出来ですわ。この街でもお茶会が良く開かれているのですけど、その席でこのお店の和菓子が良く出てきますわ」
「お茶? お茶席まで有るの?」
「日本の幕末? でしたっけ? 明治初期の頃から日本の方々が召喚されていますからね。
その時代の方々が色々と広めているので、こちらでも日本の伝統的な習い事は大抵学べますよ?
主なのはお茶にお花に日本舞踊、習字にソロバンですかね? 何処まで日本で学ばれているモノと一緒かは分かりませんが、召還されて来た方で日本で習われていた方が此方でも習い始めて色々補完し合っているみたいですから、ほぼ同一のモノが習える筈ですわ」
「大きなお茶会と言えばこの春にもあったんですよ、『桜茶会』でしたっけ? カグヤやアカリ先輩もお手伝いしたんですよ」
「へえ、あんた達、お茶とか習ってるんだ? 凄いわね……もしかして和服とか着るの?」
「ええ、もちろん正式なお茶会では和服でお手伝いをするわ。お爺様が席を設けているから、私やカグヤちゃんはそのお手伝いだけどね。毎回ほぼ強制的に駆り出されるのでもう着付けもすっかり慣れたわ」
「春は小さなお茶時を含めたら多いですからね、後は秋に多いですわ、やはり野点じゃありませんけど、大きなお庭のある場所が会場に選ばれるので、そこが綺麗な季節が選ばれやすいですわね」
「そうなのね、和服……何だか懐かしい気がするわね。異世界なのにお茶会まで有るのね。一度行ってみたいわね」
「ノリネエお茶の作法とか分かるの? アメリカ育ちでしょ?」
「日本に戻ってから御婆様に教わって、お茶席も何回か出たのよ?」
「ノリネエって和服は苦労しそうよね……体形が完全に欧米人だものね……胸はタオルで? それとも晒し? まあノリネエサイズになると両方かしら?」
「うぅぅ、そうなのよね着物は綺麗なんだけど、胸が……けど洋服でも良いでしょ? 私はお祖母様から普段は洋服で習ってたわよ?」
「ねえアカリさんはどうしてるの? アカリさんも相当よね?」
「最近は便利なブラも有るのよ? 和服専用だけど、こう胸が苦しくないように上下に詰め物が有ってそれでなだらかにするのよ。
けど……ノリコちゃん位まで大きいサイズだとちょっと苦労しそうよね。
普通にお茶席を楽しむだけなら洋服で良いんじゃないかしら? 清楚な格好なら別に洋服でも構わないのよ?」
「ノリコ先輩は背も高いですからね、レンタルで着物を借りるにしても、サイズが無いでしょうし……作るとなると結構なお値段がしますよ?」
「そうですわね、お姉さまの背丈では御婆様のお着物をお貸しするわけにもいきませんし……洋服の方が違和感が無いと思いますわ」
「? サアヤも着物に詳しいわね? って御婆様のお着物ってティタ様が着物を着るの?」
「あれ? メグミちゃん達はもしかして知らないの? ティタ様はお茶とお花の師匠もやってるのよ、大きなお茶会では毎回席を設けてらっしゃるわよ?
サアヤちゃんも毎回お手伝いで呼ばれてますもの、最近ではすっかりお茶会のアイドルなのよ?」
「ふむ、そうねサアヤは和服似合いそうね。けどアイドル? マスコットっぽいけど……」
「今どこを見て言いましたか! メグミちゃん! 何処を見ながら言ったんです! 正直に答えなさい!」
「サアヤ、貧乳は希少価値よ、良いモノだわ!」
「きーーーーーっ! お姉さま、メグミちゃんが酷いんです!」
「羨ましいわ、そうよねサアヤちゃんは着物似合いそうよね……」
「お姉さま? ……お金に余裕が出来たら一着仕立てましょう。御婆様の昔から馴染みの呉服屋さんが有るので、そこでしたらきっとお姉さまに合う着物を仕立ててくださいますわ」
「こっちの着物の値段とか知らないけど相当でしょ? 私が散財しちゃったから今現金が無いのよね……
けどノリネエの和服姿……良いわね、とっても良いわ!
そうだこれから夏になるんだし、夜店の出るお祭りも増えるでしょ?
浴衣とかどう? あれならそこまで高くないし……お祭りには偶に浴衣の人が居たわ。そうよエリカ達も着てたわね。
浴衣ならそれほど胸を気にしなくても良いわよ? 着物は秋までに何とかお金を貯めて仕立てるとして、先ずは浴衣よ!」
「浴衣? そうねそれも素敵ね! 浴衣、どんな柄が良いかしら?」
「うんうん、今度生地を選びに行こうね。けどサアヤが着物か、それにティタ様も……エルフなのに純和風って、でも……こうなんだろ姿が想像できるだけに違和感が無いのが凄いわね、雰囲気が清純な感じだからかしら? ……和風エルフか、良いわねこっちも」
「ティタ様とサアヤちゃんが揃うと凄いのよ、その一角だけ花が咲いたような感じ。うちのお爺様も『ふむ、あのクラスになると、楚々とした落ち着いた雰囲気と格好でも、華があるのう』と褒めてらしたわ」
「けどちょっぴり悔しいですわ、サアヤちゃんが来るまでは、カグヤとアカリ先輩がお茶席のアイドルでしたのに! 皆さん可愛い可愛いってサアヤちゃんに流れて行ったんですよ」
「あんた達二人は可愛いってより色っぽいでしょ? それなりに需要が有るんじゃないの?」
「流石にサアヤちゃん達には敵わないわ。ティタ様だけの時はまだ何とか対抗出来てたんだけど、二人そろっちゃうとね。白金の髪の毛なのに結い上げると意外と和服に合うのよね……」
「あの着物のチョイスがもうね卑怯なんですよ! 渋い色無地の着物でしっくり決めているんですけど、それが白金の髪の毛の色をより一層引き立てて、肌の白さを浮き上がらせて、本当に花なんですよね……緑の茎や葉との対比で花の鮮やかさが際立つのと同様の効果があるんですわ……」
「本人たちがそのままでとても綺麗だから、他を全て品よく渋く抑えているのよね。お茶席には侘び寂びを好む方が多いからより一層ね。
お二人とも着物のチョイスもそうだけど、お道具のチョイスが色々渋いのよね……お爺様は『日本人よりも侘び寂びが良く分かっておる』って感心されていたわ」
侘び寂びの分かるエルフの少女、それがサアヤだ。
「けど何だろう、ファンタジー感はぶち壊しよね? エルフでしょ? 妖精なんでしょ?」
「そんな事を言われましても、お爺様の趣味が純和風、御婆様もすっかりそちらに感化されてますからね。
最初はお爺様の趣味に合わせておられたのでしょうけど、今ではすっかり本人がどっぶり嵌り込んでますから。
で、そんな御婆様に指南されるとどうしても御婆様の趣味に寄って行くでしょ? 仕方ありませんわ」
「色無地って事は留袖なのよね? 綺麗な染付の振袖とかは着たくないの? サアヤ位の年頃の娘なら普通振袖じゃないの?」
「お茶席に振袖は相応しくないって仰る先生も居るけど、そうね、サアヤちゃん位の年なら華が有って振袖も良いかもね」
「お手伝いで駆り出されているのですから、振袖は邪魔ですわ。綺麗な染付の着物も柄が季節ものが多いので揃えるのが大変ですし、一つ紋の色無地が一番無難でしょ?」
「サアヤは実家がお金持ちでしょ? ティタ様もお金持ちでしょうに? 季節ごとに揃えれば良いじゃない?」
「御婆様は春と秋以外はお茶席に出ませんから……お師匠をしているのでお稽古はやってるのですけど、夏とかは浴衣でやったりともうね自由なんです。多分日本では許されないんでしょうけど『お茶は楽しむものでしょ? 暑いのを我慢してまでやるものじゃないわ』と……」
「あれっ? 侘び寂び何処に行ったのよ?!」
「侘び寂びは引き算の美学ですわ、しかし我慢を強いるものでは無いと言うのがお爺様や御婆様の持論です。ですから色々と自由にやってますわ」
「そうなのよね、本格的にやってる人以外、冬は兎も角、夏はやってないのよね。私達も駆り出されるのは春と秋だけだものね」
「お茶会と言っても大半の住人とっては和服を着て参加するお祭りですから……カグヤも夏のお茶会は遠慮したいですわ」
「ま……まあ、楽しいのが一番よね」
「ねえメグミちゃん、あのクマさん柄とかないのかしら?」
「はっ? ああっ、浴衣の柄? 無難に菖蒲とかにしておきなさい! キャラクター物の柄が許されるのは十代前半までよ!
クマって『ダラクマ』でしょ? ダメに決まってるでしょ!」
「ええぇ、何でぇ、可愛いわよ? 可愛いわよね?」
「ノリコ先輩っ?? えっ? ノリコ先輩ってそう言った趣味なんですか?」
「意外だわ、そんなに大人っぽいのに……」
「ノリネエは少女趣味よ、見た目はこんなだけど中身は小学生なのよ……困った事にね『見た目は大人、中身は子供』それが絶世の美人のノリネエの正体よ」
「メグミ先輩達って皆さん残念美人さん揃いですのね」
「なっ! 私は違いますわ! 何処が残念ですか!」
「サアヤちゃんはちょっと趣味が渋いけどそうね、残念と言うほどでもないわ、何故残念なのカグヤちゃん?」
「この見た目で腐女子ですよ? 残念以外の何もでも有りませんわ」
「あれ? カグヤが何でその事を知ってるの?」
「有名ですよ? 漫画屋さんのお得意さんとして結構知れ渡ってますわ。BL本を全部、しかも大量に買っていくので半端ないコレクターとしてその筋ではちょっとした有名人ですわ」
「サアヤ……あんた何冊買ってるのよ!?」
「エルフの都に送る分が有るんです! 私自身は一冊しか買ってませんわ!」
「でも一冊は必ずコレクションしてるのね、なるほど残念ね」
「納得しないでくださいアカリさん! そんなっ! 何故!!」
「だから腐ってるからでしょ? いい加減サアヤも諦めなさい。人の事を残念とか言ってるから自分も残念になるのよ」
「ぅうう、納得いきませんわ……」
「ねえメグミちゃん、サアヤちゃん、何で私が残念って言われているのにスルーなの?」
「ノリネエは周りが気を付けていれば残念にはならないから気にしなくて良いわ」
「そうです! お姉さまはバレなければ良いだけなので大丈夫です!」
「ん? そうなの? あれ? それってどうなの?」
「気にしちゃダメよノリネエ。私が付いてる限りノリネエに残念な格好はさせないから安心して!」
「メグミちゃんって人の格好は気にするのに自分の格好には無頓着なのね?」
「カグヤはこんなメグミ先輩も好きですわ! それにどうせイザとなれば服は脱ぎますから、ええ、大丈夫ですぅ」
「何が大丈夫なのよ! それにイザって時は永遠に来ないわ!」
「はぁはぁ……メグミ先輩ぃ、もっと、もっとです!!」
「チッ!! 逆効果とか本当にカグヤはやり難いわ!」
「なあ、また話が逸れてねえか? 反省会はもう終了か?」
「そうだったわね、うーーんまあ良いわ、タツオは勿体ぶらずに『蛍』を使いなさいよ? あんたそんな成りして貧乏性なの?」
「んなわけねえだろ! 順番があんだよ、先ずは修理から戻ってきた『裁』や『律』を使ってやらねえとあいつ等に悪いだろ。
それが筋ってもんだぜ、それに変化の大きかった『信』も確かめたいし、『雛』は初の実戦だぜ?
『蛍』は出来が良いのが分かってるからな、ここは辛抱してもらって後に回って貰ったんだよ」
「話の筋は通ってますよメグミちゃん。それにタツオさんもメグミちゃんにだけは貧乏性とか言われたくないと思いますよ?」
「どう言う意味よ!!」
「そのまんまの意味です。メグミちゃん程貧乏性な人はそうは居ませんよ?」
「そうね、またそんなボロボロの服を着て、ダメよメグミちゃん。新しいの買ったでしょ?」
「まだ着れるわ! ちゃんと繕ってるでしょ? 何がダメなのよ?」
「けどメグミちゃん、そのレザーアーマーも大分傷んで来てますし、せめて服だけでももう少し良いモノを着ないと、こう……遠目だと幽鬼の様に感じますわよ?」
「そう? 傷んでるかしら? けど修繕してるから防御力に変化はない筈よ?」
「いえメグミちゃん、見た目が……ボロッちいですわ」
「使ってるんだもの多少は傷むでしょ? 飾ってるんじゃないのよ?」
「えーーとメグミ先輩、言い難いのですが、そのレザーアーマーは機能上は兎も角、見た目的には寿命ですわ」
「そうね、元は結構凝ったデザインのレザーアーマーだったのかもしれないけど、もう……普通は着ないわね。山賊でも余り着ないレベルで傷んでいるわね」
「そんな馬鹿な! だって買ってまだ3ヵ月経ってないのよ? これ元は25万円よ? それじゃあ一月12.5万円!? 割に合わないわよ! それに機能に問題ないんだからまだ着れるわ!」
「えっまだ2ヵ月? たった2ヵ月でそんなになるの? んんっ、確かに手入れは良くしてるし、修繕も完璧だけど……普通そこまで傷むものかしら? 鎧はそんなに傷んでるのにメグミちゃん自身は無傷なのよね?」
「メグミちゃんの戦闘スタイルは超接近戦ですからね、しかも本当に薄皮一枚で攻撃を躱しなら一方的に攻撃するでしょ?
確かに皮膚には届いてませんが、服や鎧には相手の攻撃が掠ってるんですよ。
だから直ぐに痛むんです。もっと余裕をもって躱してほしいのですけど、メグミちゃんは……」
「十分安全マージンは取ってるわよ! だからこれ以上は無駄ね。確かに掠ってるかもしれないけど敵の攻撃が引っ掛かったりはしてないでしょ?
ちゃんと大丈夫な所に当ててるんだから問題ないわ」
「とまあこんな調子で、いくら言っても言う事を聞いてくれません」
「なあメグミ、お前槍も持ってたろ? あれで少し離れて攻撃したら良いんじゃねえか? 距離さえとればそこまで防具が傷む事もねえだろ? それに結構槍も使えてたじゃねえか?」
「あれ? タツオの前で槍を使ったことあったっけ?」
「前にこの階層で試し斬りしてたのを見掛けたぜ? あの黒い槍は売り払ってないんだろ?」
「なにあんた見かけたんなら声位掛けなさいよ!」
「結構離れてたからな、それにおまえ試し斬りに夢中だったじゃねえか、こっちが近くで狩ってても全く眼中になかったろ?」
「まあこっちも気が付いてなかったけど、そう『黒緋』を見たのね、けどね私は槍は得意じゃないのよ。いざって時の為に持っては来てるけど、出来れば使いたくは無いわね」
「けど……なあせめて刀とか少しリーチの有る武器にしたらどうだ? そもそも『灼熱の太刀』をあれだけ振り回せるんだったら、太刀だって使えるんだろ?」
「『灼熱の太刀』? ああ、『灼熱剣』ね。あれは精霊の剣だから軽いのよ。普通の金属であの大きさの太刀は……私の腕力じゃあ振り回せないわね。
あんたは良いわよ、あんなクソ重い剣でも振り回せるんだから、けどねっ! 私じゃあ太刀は振り回したくても無理なのよ」
「けどよ、恩恵で強化されてるんだから打ち刀位は平気だろ?」
「ふっ、そう分からない? 私の腕力で振り回せる重量の打ち刀じゃあ脆いのよ! 耐久性が無さ過ぎだわ。『火蜂』はね、重量と切れ味、そして耐久性をトコトン突き詰めた私専用のショートソードよ。あれ以上重くても脆くてもダメ、アレが私に振り回せる目一杯なのよ」
「そうなのか? だがあの黒い槍……『黒緋』だったか? あれでもザクザク斬り裂いてたろ? 何が不満なんだ?」
「遅いのよ! あれじゃあ振りが遅すぎるわ! あれじゃあダメよ」
「タツオさんメグミちゃんは要求するレベルが常人とは違うんです。私達もあれで十分だと思うんですけど、メグミちゃんにはあれでは不満なんですよ」
「どれだけ要求レベルが高いんだ? それでもこの辺の雑魚相手ならそこまで必要ねえだろ? せめて雑魚は槍でも良いんじゃねえか?」
「だからタツオはダメなのよ! 良い? 例え雑魚だろうと案山子だろうと、その先に強敵を想像して倒しなさい! そうじゃなきゃ練習ににもならないでしょ?
他の皆もそうよ、倒し方が雑過ぎるわ! 相手が雑魚だからこそ、どうやって倒すべきか、どこが脆いのか、相手の動きはどうか、何処を攻撃すればドロップアイテムが傷つかないのか、色々考える余裕が有る筈よ!
それをしないで漫然と敵を倒すだなんて時間とお金の無駄ね、現にドロップアイテムが獲得できないで、労力に対しての儲けが可成り目減りしてるでしょ」
「だかな、今回はあの大群相手だぜ? 雑魚とはいえ数が数だ、ある程度は仕方ねえだろ?」
「数なんて関係ないわよ、雑魚なんでしょ? こっちの身に危険は殆どないんだから、それこそ倒し方を工夫すべきよ!」
「確かにメグミちゃんの倒した『グラインダーパイン』はドロップアイテムが無傷ね。あの数の『グラインダーパイン』を全部ドロップアイテムを考慮して倒したの?」
「当然でしょ? 折角の『カットパイン』よ、無駄になんてしないわ」
「ね? この通りメグミちゃんは貧乏性なんです。普段からドロップアイテムを傷つけると小言が多いんですよ」
「そうなのよ、ちょっとでも傷が入ってると怒られるのよね」
「買取金額が違ってくるんだから当然でしょ! この間の『コボルトロード』の太刀とかちょっと傷が入っただけで大幅減額よ!
そうよアレがドロップするって分かってたら傷を付けずに倒したのに! 本当にもったいない事をしたわ」
「あれ相手にドロップアイテムの心配だと? それだけ余裕だったって事か? イヤになるなこの戦闘狂は……」
「誰が戦闘狂よ! あんたさっきから貧乏性だの戦闘狂だの喧嘩売ってるの! 買うわよ! その喧嘩買ってやろうじゃない!」
「買わないで! ちょっとお互い口が悪いだけでしょ」
「大丈夫だ、ノリコさん、喧嘩なんて売ってねえから、買いたくても商品がねえよ」
「くぅタツオ後で覚えてなさい! 自分だけ良い子ちゃんぶって!」
「まあまあ、落ち着いてくださいメグミちゃん。それにあれは素材になったから良いじゃありませんか? 第一あの大きさの太刀とか誰も装備出来ませんわ。
例え出来てもただの魔鋼製の剣ですし、精霊すら宿ってませんからこの街の冒険者の武器にはなりません。
そう考えれば元々素材になる運命だったんです、価値は変わって無いと思いますけど?」
「でも調べたら、『コボルトロード』の太刀は希少価値が有るから好事家が高値で買ってくれる可能性があったみたいなのよ? そうなれば素材以上の値段が付いた筈だわ」
「はぁ……お前はやっぱり貧乏性だよ、なんでそんなに金にがめついんだ? その割にぱっと散財したり……意味が分からねえ」
「メグミちゃんは手に入るお金は全て手に入れたいってタイプです。ただ、お金に執着が有ると言うより必要な資金を貯めるために、必要に迫られてといった意味合いが強いですわね」
「そうね、だから使い方も豪快なのよね。もう少し計画的に貯金して欲しいのだけど、有れば直ぐ色々な素材や装置を買ってきちゃうのよね」
「最近は師匠にも色々装置を借りてまでやってましたからね。お金がいくらあっても足りない状態ですわ。まあだから多少お金にがめついのは勘弁してあげてください」
「お前何をやってたんだ? あの地下の研究室だろ?」
「良い事よ、ほぼ完成してるからね、今度機会があったら研究の成果を見せてあげるわ。楽しみに待ってる事ね」
「まあいいか、それより反省会ももう終わりだろ? 水分補給をお前らもした方が良いぜ?」
水筒を取り出しスポーツ飲料を飲みながらタツオがそう話を締める。
「それもそうね、それに何か口に入れた方が良いわね。栄養補給は重要よ。そうね何か……クッキーが有ったかしら?」
「それなら良いモノが有るわよ、『カットパイン』を幾つか確保しておいたのよ、これを冷やして食べましょ」
「何時の間に? お前もしかして戦いながらドロップアイテム拾ってたのか?」
「そうよ? 当たり前でしょ? 『グラインダーパイン』ってドロップアイテムが落ちてても平気で踏むのよ?
なら潰れる前に拾って確保するのは当たり前よ」
「ふむ、けどまあお前の貧乏性も役に立つって事だな、確かにこの暑さだ、冷たい食べ物は有難い」
「そうですねエネルギーやビタミンも補給できるし水分も多いですわ。それに食物繊維が豊富なので小腹も膨れますし、『カットパイン』は丁度良いですわね」
「誰が貧乏性よ!! そんな事を言うタツオにはあげないわよ!」
「ほらほら、喧嘩しないの! サアヤちゃんお願いできる?」
「分かりましたわお姉さま、『冷却』で少し冷やしますね」
メグミが収納魔法から拾っておいたパインの入った薄皮の袋をサアヤに3個手渡す、オヤツ替わりにはちょうど良い分量だろう。
それを眺めながらタツオが、
「なあ、ドロップアイテムの収集はアイツらに任せて良いのか? 少し手伝った方が良くないか?」
「大丈夫よ、あの子達に任せておけば何も問題は無いわ」
「問題はねえんだろうけど、数が数だろ? けど、そうだなお前らのペットは優秀だな、まあアキヒロさん達のペットも優秀だけどよ。
流石にドロップアイテムの収集から転送まで熟せるほどじゃあないな」
そう今回メグミ達のペットにはドロップアイテムの回収をお願いしてる。プリンがパーティーの中心でドロップアイテムの管理をし、ソックスとラルクが魔結晶とドロップアイテムを口に咥えてプリンの所まで運ぶ。
ラルクがタツオとアカリの周辺には決して近寄らない為、ソックスはその方面を含めて大活躍中だ。
「まあウチは賢い子ばかりだもの、任せて安心ね」
「プリンちゃんが『転送魔法』が使える様になりましたからね。今回のクエストで貸し出されている専用の魔道具が扱えるので何も問題ありませんわ」
そう、集めたアイテムはプリンが一旦体内に取り込み、そのまま魔道具の魔法で転送している。
今回この『大地母神』主催のフルーツ採取クエストに当たって、『大地母神』神殿より『アイテム転送魔法球』の貸し出しが行われ、迷宮から直接『大地母神』神殿の貯蔵用、冷蔵・冷凍庫前に採取アイテムが転送できるシステムになっていた。
収納魔法の容量にも限界があり、一々置きに戻っていたのでは効率が悪いとの判断らしい。
一体どれだけの量を集める気か知らないが、年間を通じて安定して孤児院で食せるだけの量の確保と、余れば売ってその資金を孤児院の運営資金に充てるとの事である。
「しかし、魔物のペットってあんなに成長が早いものなのか? ついこの間見た時は中型犬位だったろ? もう大型犬よりも大きいじゃねえか」
ソックスとラルクはここ2週間で一段と大きくなっていた、既に大型犬と比べても少し大きく見える位の大きさになっている。
「さあ? どうなのサアヤ?」
「そうですね、一般的に魔物の成長スピードは普通の動物に比べて早いですわね。
なにせ魔物は周りが敵だらけですから速く大きく強く成る必要が有りますわ。草食動物が生まれてすぐに歩けるのと同じで必要に迫られてと言った側面が大きいですわね。
ただ……それにしてもこの子達の成長は早すぎる気がします。
まあお姉さまとメグミちゃんのペットですからね。飼い主に影響されやすいのも魔物のペットの特徴ですから、お二人の影響が大きのかもしれませんわね」
「ソックスもそうだけど、ラルクは少し魔結晶を食べさせ過ぎたのかしら? ノリネエが甘やかして一杯食べさせるから……もう転がった方が移動が速そうなおデブちゃんだわ」
「まあ、良いじゃない! 可愛いでしょ? 痩せこけているよりも、よっぽど良いわよ! 別に健康被害が有るわけじゃないんだから、少し位太っていても問題ないわ」
「少し? いやアレは少しどころじゃないわよ? けどソックスもそうなのよね、何でぽっちゃり何だろ? あんなに走り回ってるのに……」
ソックスは今もメグミ達が休憩している横でご機嫌で走り回っている。走り回れるのが嬉しいのか、メグミの役に立っているのが嬉しいのか、その両方か分からないが、尻尾を全力で振ってご機嫌だ。
「種族的な特徴だと思いますよ? 『黒星狼』はあんな体形なのだと本に書いてありました」
「そうなの? 子犬特有の特徴だと思っていたけど……成体になってもあのまんまなのね……まあ可愛いからいいか!」
ソックスは普通の犬に比べて手足が太い、メグミは子犬の間の特徴かと思っていたが、体が大きくなった今も変わらない。
このマメシバの子犬の様な特徴が大型犬よりも大きく成った今でも変わらないのだ。遠目に見ると今でも子犬のように見えるが、実際にはとても大きい。
「最終的には北極熊より大きく育つみたいだし、その位手足が太くないと体が支えられないからってことかしらね? クロウさん所の鳥馬のウッちゃんも足がとても太かったわ、それと同じなのかもしれないわね」
ただその体型の所為で大きさが一緒の犬に比べて体積は軽く倍はありそうだ、体重も既に100キロ近いのではないだろうか? 拾った時の様に、メグミの腕に抱く事はもうない、したくても重すぎて出来ないのだ。
「まあ確かに可愛いのかもしれないが、あいつ等見てると遠近感が狂うな。遠目で子犬だと思ってると、近寄るとでけえし……アレだな顔がまだ無邪気と言うか子犬まんまなんだよな、あの大きさで」
「先輩達って珍しいペットを飼ってますよね、『黒星狼』のソックスちゃんに『一角猪』のラルクちゃんですか……カグヤ両方とも初めて見ましたわ」
「そうね、狼系のペットは色々居るし、結構飼ってる人が多いけど、『黒星狼』は見たことが無いわね。
それにノリコちゃんの『一角猪』は聖獣でしょ? 本当に珍しいわ、聖獣なんて『ユニコーン』でさえ飼ってる人は滅多にいないのに、『一角猪』なんて図鑑で見た位ね」
「聖獣ねえ、アイ様やヤヨイ様もペットで飼ってたわよね? 確か……『フェニックス』だって言い張ってるヒヨコと『九尾』だって言い張ってる子狐!」
「ねえメグミちゃん、言い張ってるんじゃなくて本当にマルちゃんとタマちゃんは『フェニックス』に『九尾』なのよ?」
「そうは言っても見た目がね、マルちゃんなんてただのちょっとおっきなヒヨコよ? 『ラッシュチキン』のヒヨコと大差ないわよ?
大体マルちゃんはノリネエと一緒でアイ様が甘やかすから本当にまん丸なのよね、アレの何処が『フェニックス』なのよ?
それにタマちゃんは尻尾が3本でしょ? それで『九尾』って言われてもねぇ……」
「しかし内包魔力量からしても、その身にまとった神聖力からみても聖獣で有ることは間違いないですわ。まあ見た目はあんなですけど、まだ産まれたばかりの雛に子狐ですから、仕方ありませんわ」
「けど二人とも……こういっちゃなんだけど結構な年でしょ? 今更ペットを飼い始めたの? めっちゃ可愛がってたけど」
ヤヨイは良くタマちゃんをメグミ達の講義に連れてきていた。大人しい子なので寒い時期は襟巻よろしく首に巻いていたのだ。
タマちゃん自体がその状態が気に入っているのか大体のその状態で眠っていた。
聖獣の例に漏れず飼い主のヤヨイに大変懐いていて、スキンシップが出来て甘えられるのが良いらしい。白く、尻尾が3本であること以外は普通の子狐なので首に巻くととても暖かい。
メグミも一度試しに巻かせてもらったがフワフワでモコモコの尻尾がとても気持ちが良かった。
流石に暖かくなった最近は膝の上に抱っこしているが……タマちゃんは首元が定位置だと思っているのか油断してると巻きついてきてヤヨイは暑くて苦労している。
「あの子達は二匹目のペットだそうよ、最初のペットの子達は大きくなりすぎて地上では飼えなくなったんですって、今は地下に居るって仰ってたわ」
「ああ、そうなんだ、二匹目なのね、ってあの二人もう完全に男性と結婚する気ないわね!」
二匹目の聖獣を飼い始めている、聖獣が居る限り結婚が不可能であるなら、もう完全に結婚する気がないと宣言しているようなものであろう。
「最初はアイ様が『九尾』、ヤヨイ様が『フェニックス』を飼ってらしたみたいだけど、その子達に子供が生まれたから今度はアイ様『フェニックス』、ヤヨイ様が『九尾』と交換して飼い始めたんですって」
「本当に仲が良いわねあの二人は、けど聖獣も子供を産むのね。じゃあラルクも……先ずはお嫁さん探しからか、あの子の場合」
「あら? ラルクちゃんってオスなの?」
アカリが問いかける。アカリの周辺にはラルクが決して近寄らない為、性別の判断が付かなかったのだろう。
「どう考えてもオスでしょ? あの性獣っぷりよ? そうだアカリさんは兎も角カグヤは被害に遭わなかったの?」
そうメグミは確認済み、ちゃんと付いていた。ラルクは間違いなくオスだ。
「被害ですか? 覚えが有りませんわ」
「被害ってなんだ? 性獣?」
「何故私は兎も角なのかしら? ちょっとお姉さんに教えてくれない?」
「アカリさんには近寄って行かないでしょ? 被害に遭い様が無いわ。けどそう言えばカグヤの近くには寄るけどじゃれ付いて行かないわね? なんでだろ?」
「香水の所為じゃないでしょうか? 『一角猪』は鼻が凄く良いんですよ。だから僅かな香水の匂いに反応してじゃれ付かないのでは? お二人とも何かちょっとつけてますよね?」
「ええまあ、けどほんの少しですよ?」
「大人の女性のマナーだって先輩たちが勧めるのよね……付けてないと『弛んでるわ!!』って怒られるから……」
「けどソックスはカグヤの所にもじゃれていってたわよ? ソックスだって相当鼻が良い筈だけど」
「あの子は人懐っこいですからね、メグミちゃんが親しくしているから安全な人物だって判断してじゃれて行ってるんだと思いますわ」
「ソックスちゃんは私の所にもじゃれてきたわよ。大きいのに素直でお利口さんで可愛いわね」
「アカリさん、ラルクだって可愛いのよ? ちょっと人見知りが激しいけど、慣れれば大丈夫よ」
「そうかも知れないわね、けど正直ラルクちゃんにじゃれ付かれても受け止められる自信が無いわ……」
「ソックスちゃんでさえ結構な迫力ですからね、ちょっと油断したら押し倒されそうですわ」
「あんたら細いからな、まあラルクだったか、アレはな……何百キロ体重が有るんだ? 猪だって言うから猪に見えるが、丸い何か別の魔物だっていわれたらそう見える位まん丸だぜ? 子供に絵をかかせたら、先ず丸い円を描く位丸だ」
「ラルクは本当にノリネエが甘やかすから、どんどん丸く成って行ったのよね」
「けど猪って豚さんでしょ? 豚さんならあんな感じじゃないの?」
「いやあそこまで丸い豚は見たことがねえぞ?」
「ラルクちゃんに比べたら豚の方がスリムですよ?」
「ノリコちゃん本物の豚って見たことあるの? っていうか猪よね? あんなに丸い猪は普通いないわよ? 図鑑に載っていた『一角猪』と全く姿が違うわよ? 図鑑の『一角猪』は角の生えた白い猪だったけど……ラルクちゃんは角の生えた白い風船の様よ?」
「えっ!! あれっ? けど豚さんって丸いでしょ? そうよね?」
「ノリネエ本物の豚も猪もみたことがないのね? だからあの体形になっても大丈夫って言ってたのね……あれはどう考えても太り過ぎ、あれでまだ病気になって無いのが不思議なくらいよ?」
「でもあんなに元気に走ってるわよ? 太ってたらあんなに走れないでしょ?」
確かに目の前で白い丸い大きなボールがドシドシと走り回っている。その巨体からは想像も出来ない程に機敏ではある。だがその巨体が仇となって小回りは効かない。
そのためラルクのフォローにソックスが走り回ってカバーしているのが現状だ。
「けどもう家の中では飼えない大きさよ、ソックスはまだ何とか飼えるけど、ラルクはもう完全に無理。この間も廊下に体がつっかえて大変だったでしょ? あの子は流石に太り過ぎだってば」
「そうですね、今だともうドアがくぐれないから家の中には入れられませんわね。お庭で遊ぶ分には良いですけど」
「家に入れないって今は夜はどうしてるんだ? 庭で飼ってるのか?」
「夜間は農場で畑の見張り番のアルバイトをしているのよ。バイトしてれば厩舎も借りれるからね。
昼間はウチのお庭で遊そばせてるけど、大体昼寝してるわねラルクは」
「ソックスちゃんもラルクも大きくなってお世話も大変なのよね。特にラルクは大きいでしょ? 白くて綺麗な毛並みが自慢なんだけどお手入れが結構大変なのよ、暇を見つけてブラッシングしたりしてるけど、家に入れないから、お風呂にも入れないのよ。
今はお風呂からお湯をホースで引っ張ってきて庭で洗ってるけど、冬はどうしたらいいのかしら?」
この街のペットの魔物は大体、体が大きくなると夜間、農場の畑の見張り番のアルバイトをするようになる。
ペットの魔物は流石に魔物だけあって体が大きい、どいつもこいつも成長すると矢鱈と大きい、その為そんなバイトがある。人家で飼える大きさではなくなる為だ。
農場としても人手の少ない夜間に畑の侵入してくる魔物を退治でき、ウィンウィンの関係で助かっているらしい。
「厩舎にペット用の大きなお風呂が有るらしいですわ。有料らしいですけどそこで皆さん洗ってるって言ってましたよ」
「そうなんだ、だったら大丈夫じゃないノリネエ」
「けど最近ラルクったらお風呂あんまり喜ばないのよね……昔は毎日だって一緒に入りたがったのに」
「そりゃ一緒に入れないからでしょ? あの淫獣は本当に歪みないからね。一緒に裸でお風呂に入って貰えないと分かった途端ぐずり出したのよ」
多分今でも水着や裸に近い恰好で洗ってやれば喜んで毎日だってお風呂に入るだろう、しかしいくら自分の家の庭とは言え、裸は論外としても水着も躊躇われる。
だからメグミ達はジャージを着て洗っているのだが、ラルクはその恰好が甚く不満らしい。
「それにアルバイトだってすっごい抵抗したじゃない」
「お姉さまと一緒にお風呂に入れないのや一緒に寝られないのが嫌だったんでしょうね。
ウチは結構広めの間口や廊下の家ですけど、それでもラルクちゃんはつっかえますからね。流石にあの太さでは家の中で一緒に住むのはもう無理ですね」
「一人じゃ寂しいかと、ソックスを泣く泣く一緒に付けてあげたのに不満たらたらなのよね」
「ノリコさんは、あの巨体と一緒に寝てたのか? 危なくないのかそれ?」
「そうなのよ、ラルクが寝返りでもうったら圧死確定よ? ダメだって言ってもラルクもノリネエも聞かないのよ」
「ラルクは寝相が良いから平気よ! それにあの子何故か私の下に潜ろうとするから下敷きになることはないわ」
「アレよね? 草原でプリンちゃんが枕になってから自分も枕になろうと躍起になってたのよね? けどあの大きさで枕はねぇ」
「そうなの? 本を読むときなんかにクッション替わりに背もたれにしてたら何故か喜んでたけど、アレって枕に成りたかったの?」
「多分ね、けどいい加減ベットが壊れそうな重さだし……今二百キロくらい?」
「その位だったかしら?」
「本当に大きいよな、ラルクもだがソックスももう子供だったら背中に乗れるんじゃねえか?」
「乗れるわよ? もう乗れそうだったからこの間試したら乗れたわ。
まだ私が乗るとポニーに大人が乗ってるような……こう苛めてるみたいだったから直ぐに降りたんだけど乗れたわ。まあソックスはそれでもご機嫌だったけどね。
でね、試しにサアヤを乗せたら嬉しそうに庭を走り回ってね面白かったわ」
「ううぅ、あれは酷い目に遭いましたわ! 降ろしてほしいのにソックスちゃんは嬉しそうに走り回るし、喋ったら舌を噛みそうだし、必死に耐えるしか有りませんでした……それを見てメグミちゃんは大爆笑! 絶対に許しませんわ!」
「いやまあ楽しそうだったから笑っただけよ? 別に悪意はないわ、あの時もそういったでしょ?」
「くぅぅ疑わしいですわ! それにお姉さままで……助けて下さいませんでしたわ!」
「ごめんなさい、何だかとっても微笑ましい光景だったのよ。ソックスちゃんはご機嫌だし、サアヤちゃんも何も言わないから楽しんでいるのかと思ったの」
「悲鳴をあげてましたよね?」
「あの時は喜んで歓声を上げているものだとばかり……悲鳴だとは思わなかったのよ……」
「私はサアヤが怖がってたの分かってたけどね、こうなんだろ? 普段大人ぶってるのにあの程度で青い顔して悲鳴あげてるのがね……」
「やっぱり!! あの時は気が付かなかったって言ってましたわ、やっぱり私が困ってるのを見て笑ってたんですね!」
「ノリネエが言ってた通り微笑ましい光景だったのも事実よ? それに庭だし落ちても平気よ、スピードも大したこと無いんだから。
それにパニックになって忘れてたのかもしれないけど、ちょっと合図すればソックスなら止まったわよ?」
「そんな余裕が無かったんです! 振り落とされないように必死でしがみ付いてたんですよ、どこにそんな余裕が有りますか!」
「だから落ちれば良かったのよ、あの位じゃケガなんてしないわ。何もアクションを起こさないからソックスがまだ走って欲しいんだって勘違いするのよ」
「そうは言っても……そこまで考えられませんよ!」
「けどちゃんとソックスに止まるように指示してあげたでしょ? 泣きそうになってたから……」
「泣きそうになる前に指示してくださいっ! もうっっ!! けどアレですわ、一つ分かった事が有りますわ。ソックスちゃんは騎乗には向いてません、ああも揺れたら乗り物酔い確定です」
「そうなの? 『ライドラ』をその内飼おうかと思って話をしてたんだけど、もう一寸大きく成ればソックスに乗れそうだから、そっちは断ったのよね……早まったかしら?」
「えっ? 『ライドラ』を注文してたんですか?」
「そうよ? 前から言ってるでしょ欲しいって? 子供が生まれそうだって師匠が言ってたから、なら生まれた子を一匹頂戴ってお願いしてたの♪」
「子供から育てる気だったんですか?? 気の長い話ですわね……」
「別に必要に迫られて飼うわけじゃないからね。騎乗できなくても『ママ』の買い物の荷物持ち位は出来るでしょ?
ゆっくり育てればいいのよ、それに子供は余り高くないのよ」
「それはまあ騎乗できませんからね、安いのでしょうけど……」
「メグミ先輩、ライドラってお肉を結構一杯食べるんですよ? エサ代がそれなりに掛かりますけど大丈夫なんですか?
ソックスちゃんとラルクちゃんだけでも相当でしょ?」
「だから断ったのよ、この子たちどんどん大きくなるでしょ? 最近は餌代も馬鹿にならなくなってきたわ。特にラルクはねすっごいのよ食べる量が! 底なしよ。
しかもグルメなのよ生意気なことに、『ラッシュチキン』のお肉ばかりあげてたら嫌がるのよ……全く贅沢なんだから! それで『ローリングクローラー』と交互にあげてたらこれも飽きたのか嫌がり始めてね……全く困ったものだわ」
「まあラルクちゃんは雑食なので何でも食べるので良いですけどね。割と野菜もイヤイヤながら食べますわ」
「あの子嫌がりながらも決して残さないのよね……あの食い意地は流石だわ。
けどこの間試しに狩った『レッドブル』のお肉は本当に美味しそうに食べてたわね。お陰で私たちが食べるビーフが減ったわ」
「あのこ甘いものも好きよ。『ママ』のパンがお気に入りなのか蜂蜜を付けてあげると喜んで食べるわ」
「あっ!! ノリネエったら忘れたの甘いものは禁止って言ってるでしょ! なにツマミ食いさせてるのよ!
ダイエットさせるって言ったでしょ! 野菜を中心に肉を少し、これで我慢させるのよ!」
「だってウルウルとした目で見つめてくるのよ、可哀そうだわ、少し位良いじゃない」
「少し? 少しねえ……何斤あげたのよ、正直に言いなさい!」
「何回かに分けて10斤ほどよ、たまには良いでしょ」
「それで蜂蜜があんなに減ってたのね、結構ストックしてた筈なのに殆ど空になってたからおかしいと思ってたのよ」
「お姉さま、パンを上げるのは構いませんけど、蜂蜜を付けすぎですわ……だから最近一段とラルクちゃんが太ったんですのね」
「ラルクは糖尿一直線ね、ダメねこのままじゃあ、本格的にダイエットさせるべきかしら?」
「どうするんですか?」
「畑の見張り番だと運動量が足りないんだわ、ちょっと荷物運びでもさせようかしら? 南の『フィッシャーマンズコート』との交易の荷運び位ならもうできるんじゃない? 80キロほどでしょ?
道中はツマミ食いも余り出来ないだろうし、良いダイエットになると思うわ」
「ラルクちゃんに荷運びですか? しかしその距離はまだ無理では?」
「メグミちゃんラルクはまだ子供なのよ、お仕事なんてまだ早いわ! それにどうやって荷物を運ぶの?」
畑の見張り番のアルバイトはノリコにとっては仕事ではない。
「ね? ラルク広い遊び場よ、思いっきり走れるわ♪
それに魔物は食べても良いんだって。好きなだけ食べれるわよ? 『ラッシュチキン』も『ローリングクローラー』も野菜系の魔物だって食べれるのよ」
そう言って嫌がるラルクを説得した。そうラルクは当初アルバイトにとても抵抗したのだ。しかしノリコがそう言って懇々と説得し、渋々アルバイトに承諾したのだ。
だからノリコにとって畑の見張り番のアルバイトは単に厩舎を借りる為の建前でしかない。
「荷車を引かせたら良いんじゃない? 仕事が目的じゃなくてダイエットが主目的だからね。あの子達賢いからお願いしたら自分たちだけで往復できるわよ」
「あの子達? ソックスちゃんも?」
「そうよ、お目付け役にソックスも付けるわ。そうだ、プリンちゃんにも付いて行ってもらおうか、お姉さんが見張ってれば道草も食べないでしょ」
プリンはソックスとラルクにお姉さんとして慕われているらしい。性別の無いプリンが何故お姉さんなのか? 良く分からないがサアヤが言うには、
「プリンちゃんはお姉さんなんですよ。性別は確かにありませんけど、こう何と言いますか、口調がお姉さんなんです。
後は性格ですね、ああ見えてプリンちゃんはしっかり者ですからね。二人の面倒をよく見ているみたいですわ」
とのことだ、何がどう見えてしっかり者なのか、そもそも口調がお姉さん? がメグミにはサッパリだがソックスとラルクが懐いているのは間違いない。
子供のソックスとラルクと違い、プリンはもう大人だ。良くソックスやラルクの背中に乗っているのも、お姉さんとして二人を監督するためらしい。
「まあ確かにプリンちゃんが居れば安心ですけど、ペット達だけでは彼方の街についてから困りませんか?」
「最初に話を付けて置けば大丈夫でしょ? プリンちゃんは地図も読めるし、受け取りにサインしてもらって、帰りの荷物を向こうで頼んで積んでもらってまた帰ってくれば良いだけじゃない。お使いと一緒よ」
「お前ペットにお使いって、言葉が喋れないだろ? 無茶だと思うがな」
「メグミ先輩、そこまでしなくてもこうしてアイテム収集で運動してるのですから大丈夫なのでは?」
「そうね流石にペットとはいえ、魔物だけに単独行動させるのは問題よ? それに『フィッシャーマンズコート』との交易路は地域内だから比較的安全だけど、他の魔物が居ないわけじゃあないわ。
荷車を引いていたら満足に動けないでしょ? 危険だと思うわ」
「そう? まだ無理か……良いアイデアだと思ったんだけど」
「とりあえず騎乗してこの街の近所を走ったら良いんじゃねえか? ソックスは兎も角、ラルクならお前でも乗れるだろ?」
「ソックスはあれよ専用の鞍を付けて持ち手を付ければ乗り心地は兎も角、多分乗れるわ。
それにそうねラルクも専用の鞍でも付ければ乗れるかもね。ただ前に鞍を付けずに試してみたけど、ラルクも乗り心地が良くないのよね。
こう丸すぎて股を可成り開かないとダメでしょ? 股で挟めないから安定しないのよね……だからこっちも騎乗には向いていないのかもね……でも鞍を工夫すればいけるかしら? 揺れはそれほどでもなかったわ」
「騎乗? そうねラルクは乗って欲しそうだったわね」
「あの淫獣は単にノリネエが股を開いて乗ってくれるのが嬉しいだけでしょ?」
「??それが何で嬉しいの?」
「良いノリネエ、あの子絶対鞍を付けたがらないわよ? もうね、この間試して確信したわ……あの子本当に歪みないわ」
「メグミちゃんはラルクを誤解してるわ! あの子あんなに良い子なのに!」
「ノリネエ、よく考えて、あの子未だにノリネエにベッタリで主に胸とか御尻に鼻づらを摺り寄せて甘えてるけど、体の小さい頃は微笑ましくてもこの大きさでやられるとね『歪みねえ性獣っぷりだけど、マジどこの淫獣ですか?』と尋ねたくなるわよ?
ノリネエは未だにウリ坊の頃と変わりなく接しているけどね、周りからどう見えているのか少しは気にした方が良いわよ?」
「確かにアレはもう止めた方が良いですわ、こうラルクちゃんがお姉さまを襲っている様に見えますもの。ラルクちゃんもお姉さまもそんな心算は無いのかもしれませんが、少なくても人前では控えた方が良いと思いますわ」
「そんなっ、ラルクはまだ子供なのよ? 生まれてまだ3か月ちょっとで甘えたい盛りなの、スキンシップに飢えてるのよ。冷たくしたらラルクが可哀そうでしょ」
「あれでまだ子供なのかって3か月!! たった3か月であの大きさかよ……どこまで大きく成るんだ? その『一角猪』だったかは?」
「大きさ的にはソックスと同程度だったっけ? 象より少し小さい位じゃない?」
「けど……どうでしょうか? あの子達、平均的な『黒星狼』や『一角猪』よりも大きいと思いますわ。
色々調べてみましたが資料の記録よりも成長が早いと言いますか、大きいですから」
「ん? どう言う事だ?」
「成体になった際に、普通の『黒星狼』や『一角猪』よりも大きくなると言う事です。
成長が早いだけと言う可能性も有りますが、過去の記録との比較になりますが、このペースで大きくなった場合、成体になった際は体長は5メートルを超えて来ることが確実かと……」
「えっ……それって北極熊どころか象並みよね?」
「北極熊や象と言うのはこちらの世界に居ませんから、召喚者からの情報で似たような種で比較しますが、『クマデベア』と呼ばれる小型の熊の魔物が体長4メートル、体重が1トン。
『パイクモス』と呼ばれる比較的小型のマンモスが体長5.5メートル、体重10トンだそうですわ」
「体長に差がそれほどないのに体重の差が大きいわね?」
「何方も魔物化して肉食ですが、元々肉食獣の熊は元々草食獣のマンモスとは身体の構造が違います。
その為体重に差が出ているのだと思われますわ。
肉食獣は獲物を狩る為に素早く動く必要が有りますから内臓がコンパクトで皮下脂肪も少な目です。
一方草食獣は消化し難い草を食べる為内臓が発達して皮下脂肪も多く、その巨体で肉食獣に対抗する為、身体が大きくなる傾向に有ります。
この特徴を魔物化しても引き継いでいる為の差でしょうね」
「なあそれで小型なのか?」
「小型ですよ? 迷宮の下層に最大でどの位大きな熊やマンモスが居るのか最下層まで到達した人が居ませんからわかりません。
しかし現在判明しているだけで体長15メートルを超える『デススター』と呼ばれる熊の魔物や体長30メートルを超える『ランドモス』と呼ばれるマンモスの魔物がいるそうですから、この程度では小型でしょうね」
「ウゲェ、なんだそれ化け物過ぎるだろ」
「デカイ奴は取り敢えずいいわ。要するにその『クマデベア』よりも大きくなるって事でしょ?
『黒星狼』は肉食獣でしょうから『パイクモス』よりは軽いとしても、ソックスがこの調子で大きくなると5トンくらい? もう少し軽い? あの子体形がポッチャリだから重そうよね……
『一角猪』は肉食獣ってよりも雑食だけどラルクだからね、平気で15トンくらいになりそうよね……餌代で破産しそうな勢いね」
「まあどっちもまだまだ子供ですし、食べられる魔物を自分達で狩って食べますから、そこまで心配しなくても良いと思いますけどね」
「ペット飼うのも大変だな、世話の手間も掛かるし、馬鹿でかくなるからスゲー食うし餌代もバカにならねえ。
俺は余り大きくならないペットを探すかな?」
「けどタツオ、迷宮で一緒に狩りするなら弱くて小さいペットより、大きくて強いペットの方が良いわよ?」
「程度があるだろっ! 体重が余裕でトン超えとかどうする気だ?
お前ら将来もちゃんとアイツら飼えるのか?」
「平気よ、サアヤが言ってたでしょ、ただ普通に飼って餌をあげてたら餌代で破産するけど、何せ迷宮には餌が一杯有るんだから迷宮に入って狩りをしてれば飢えたりはしないわ。
それにそれだけ大きくなれば戦力としても期待出来るから狩りが楽になるでしょ」
「けどそうね、今はあの子達がドロップアイテムを拾ってくれて助かってるけど、将来大きくなったら無理よね?
その内役割が逆転するのかしら?」
「ドロップアイテム拾いは本来冒険者の役割です。
そうですね、戦闘がひと段落した段階でパーティーメンバー全員で手分けして拾うのが一般的です。
それに戦闘能力に劣る格下の冒険者を同行して、戦い方を見せて経験を積ませるなどの名目でサポーターとしてドロップアイテム拾いで雇ったり、同じギルドの格下冒険者の教育で同様の役割をさせる事も有りますね。
後は戦いは苦手ですが回避に特化した方でドロップアイテム拾いなどサポート専門で冒険者をしている方も居ますからそういった方を雇う場合もありますわ」
「えっ!? じゃあペットにドロップアイテム拾いをさせるのは珍しいの?」
「珍しくは無いですよ、ペットを飼っている冒険者は良くペットにドロップアイテムを拾わせて居ますわ。
ただやはりペットの戦闘能力が高い場合や大きなペットの場合はペットに警戒させてその間に冒険者がドロップアイテム拾いをする事が多いですね」
「メグミ先輩、ペットは一人一体と決まっているわけでは有りませんわ。戦闘向きのペットの他にドロップアイテム拾い専門にペットを飼っている方も居ますよ」
「そうね猿系の魔物が良くドロップアイテム拾い専門で飼われる傾向にあるわね。
『スナッチモンキー』なんかが一般的かしら? この大魔王迷宮の地下4階に多く居る魔物で幼生体も多く発見されて居るから二体目のペットとして飼って居る方も多いわね」
「あの手癖の悪い猿野郎か? うーーんアレはなぁ」
「あんまり可愛く無いわね、同じ地下4階の猿でも『エスケープエイプ』が良いわ、可愛いし」
「アレは小さ過ぎねえか? 肩に乗せている奴を偶に見掛けるが、愛玩用だろ? 危なっかしくてな……迷宮で連れ歩くのはどうなんだ?」
「そんな事は無いわよタツオくん。『エスケープエイプ』は回避特化の魔物よ。
攻撃を当てる事は冒険者にとっても魔物にとっても困難なの。
だから『エスケープエイプ』をドロップアイテム拾いに飼って居る冒険者も多いわ。
ただやはり体格が小さいから大きなドロップアイテムを拾う事が出来ないでしょ?
だから『スナッチモンキー』の方が飼って居る人が多いだけよ」
「地下4階……カグヤは『猿山』は余り好きでは無いですわ。
アソコのお猿さんは凶暴だったり手癖が悪かったりとタチが悪いんですもの」
「まあ魔物ですからね、メグミちゃんが好きな『エスケープエイプ』くらいですわね可愛いのは」
「逃げ回るだけですものね、果物や木ノ実やキノコを食べたり、魔物なのに魔物らしくないわ。
それに確かに可愛いのよね目がクリッとしてて、仕草も愛嬌が有あって愛らしいわ」
「アレでも魔物なので、肉も食べますわお姉さま。
ただ攻撃力が殆ど無いので普段は草食なだけですわね。
冒険者が討ち漏らした瀕死の魔物に集団で食い付いて居る姿が稀に目撃されています」
「まあっ! 可愛いのに怖いのね」
「ただペットとしては女の子に人気ですわ。ペットの子は見た目通り大人しくて可愛い子が多いですから、戦力にはなりませんが愛玩用兼ドロップアイテム拾いで飼われて居るようです」
「アカリさんやカグヤはペットは飼って無いの?」
「まだ見習いなので今は飼ってませんわ。けど家には両親の飼っているペットが居るので、お世話には慣れてますわよ。
そうですね見習いを卒業したら何か自分のペットを飼いたいと思ってます」
「ウチもお爺様やお婆様の飼って居るペットが居てお世話はしているけど、自分のペットは飼って無いわね。
そうだっ! ねえタツオくん今度お姉さんと一緒にペット紹介所に行って見ない?
何か良いペットが居るかも知れないわよ?」
「ペットか……俺も何か飼いたいんだがまだ見習いだしな、幼生体でも拾わねえ限り、ペットを飼うのは卒業してからしようと思ってるんだ」
「そうなの? でもあんた見習いとは思えない位しっかり稼いでいるわよね? ペットくらい養えるでしょ?」
「色々目移りしてな、どの系統のペットにするか決められねえんだ。
アキヒロさん達のペットが優秀だからな、攻撃型は育ってねえから足手まといかもしれねえし、かと言って魔道スライムはもう居るし、更に運搬用も既に居るとなるとな……ドロップアイテム拾い専門で俺が『エスケープエイプ』飼っても似合わねえだろうし……どうしたもんだか」
「そうかしら? 可愛いペットも似合うとお姉さんは思うわよ?
そうね、今だって肩に『風香』ちゃん乗せているけどよく似合ってるわよ、違和感が無いわ」
「そうですね、タツオさんって意外と肩に可愛いペットを乗せいても違和感が無いですね」
「座り心地は良いわよタツオ」
「ほら『風香』のお墨付きが出ましたよ」
「椅子として褒められてんのか俺は?」
「ノリコ」
「何『雫』? どうしたの?」
「ノリコも最高よ」
「そう? ウフフ、なら私も『雫』のお墨付きね♪」
「お姉さま、皆さん、『カットパイン』が切れましたよ。
食べましょう」
サアヤは薄皮ごと魔法で冷やしたパインをサッと薄皮に切れ込みを入れ、短剣で器用に切り分けると皆の前に差し出した。薄皮が丁度お皿代わりになって都合が良い。皆それぞれに手を伸ばして冷えたパインを摘まむ。
「ちょうどいい冷たさだな、マジでこの世界の果物は美味ぇ! 生き返るぜ」
「んふふ! 私ってえらい? 敬っても良いわよタツオ!」
「メグミじゃなくて、パインを褒めたんだよ」
「ここは気を効かせてパインをとって置いた私を褒めるところよ、これだからタツオは!
けどまあ確かにこの異世界の魔物産のフルーツは皆美味しいわね、こう味に余りばらつきがないのが良いのよね」
「そうよね、普通の果物だと美味しかったり、余り美味しくなかったり色々なのに、魔物産の果物は全部美味しいのよね」
「そうですわね、まあ畑や果樹園で取れるような、丸っと一つの果物でないので単純に比較はできませんが、受肉具合で大きさにばらつきは有りますけど、甘さや味はほぼ一定ですわね」
「畑や果樹園で取れる普通の果物は酸っぱいのや渋いのが偶にありますよね。ただカグヤは少し酸っぱかったり、こう若い感じの硬めのも好きなので魔物産は逆に熟し具合が選べないのが少し不満ですわ」
「カグヤちゃんは本当に酸っぱい果物好きよね。グレープフルーツどころか、レモンをそのまま食べてたりするものね」
「何カグヤ妊婦なの? 何時妊娠したのよ?」
「何ですかそれ! ただ酸っぱい物好きなだけですわ! それにまだメグミ先輩と愛し合っていませんから赤ちゃんなんてできませんわ!」
「待て! お前らそもそも女同士だろ!」
「あらタツオ先輩知らないんですか? 噂ですけど昔密かに研究された技術が有って、女同士でも子供が出来るらしいですわよ?」
「マジでか!! そりゃスゲエな」
「あれ? 前に聞いた話だとその研究者って捕まって、その研究も禁止されてるんでしょ?」
「ヤヨイ様からだったかしら? そんな風に聞いたわね」
「確かに研究資料や研究結果は極秘よ。だけどね、余り大きな声では言えない事だけど、その技術そのものが失われたわけではないのよ。
その研究者も捕まっているだけで研究自体は冒険者組合の管理で続けられているそうよ。どうやら非人道的な人体実験が行われていないだけ見たいね」
「けど捕まってるんでしょ? しかも極秘なら一般人には関係ないんでしょ?」
「蛇の道は蛇と言いますか、こう裏では密かに女性同士でどうしても子供が欲しいカップルにのみ、その技術が提供されているらしいですわ」
「裏? 裏組織が有るって言うの? この地域ってそういった裏組織はすぐに潰しにかかるイメージだけど?」
「いえ、裏と言っても裏組織では有りませんわ、提供しているのも冒険者組合らしいですわよ? 裏と言っても公言していないだけと言った意味ですわ」
「なにそれ?」
「メグミちゃん、こう密かに審査が有ってね、間違いなく責任をもって生まれた子供を育てられるカップルにだけ、そう言った話が持ち掛けられるって事よ。それに公言しないようにって『誓約』が有るらしいから、あくまで噂話よ」
「けどあんた達が知ってるって事は結構広まってるって事よね?」
「そもそも秘密何てどこからでも洩れるモノ、それすら織り込み済みの悩めるカップルへの救済措置ですわね。だからメグミ先輩、心配しなくても良いですわ! 可愛い赤ちゃんを育てましょうね♪」
「むぅ、あんた達が知ってるのにヤヨイ様が知らないなんてことが有るのかしら?」
「そうね、それは考えにくいわね」
「知ってて敢えて教えてくれなかったのでは? あの時はメグミちゃんが居ましたし、知ったらメグミちゃん絶対アイ様やヤヨイ様の赤ちゃんを欲しがったでしょうから……」
「ああ、それで、その可能性は高いわね」
「あのメグミ先輩?」
「何でメグミがお前らの師匠の赤ちゃんを欲しがったんだ? そもそも赤ちゃんが欲しいって、人の子供はペットじゃねえぞ?」
「ああ違うのよタツオくん、メグミちゃんはね、忙しいアイ様やヤヨイ様が育てられないなら、それにその子が女同士の間の子供だって差別されないように密かに育てるのなら、自分が里親になってその赤ちゃんを育てるって、そう言ったのよ」
「けど赤ちゃんだろ? ガサツなこいつに赤ちゃんなんて育てられるのか?」
「何だとタツオ! 良い度胸じゃない!」
「コラッメグミちゃん! そう言ったところがガサツって言われる原因よ、落ち着きなさい。
それにタツオくん、メグミちゃんはね、こう見えて赤ちゃんの扱いに慣れてるのよ。だから育てられるし、良いお母さんになると思うわ」
「躾だ特訓だと無茶しそうですけど、基本メグミちゃんは小さな子にはベタ甘ですからね。
それにソックスちゃんを見てれば分かりますよね? とっても懐いているでしょ? メグミちゃんは人前だと結構厳しいですけど、裏だとお姉さま以上に甘いですからね。
あのラルクちゃんでさえああ見えてメグミちゃんに懐いてるんですよ? お姉さまは確かに裏で色々与えてますけど、メグミちゃんも、ソックスちゃんにオヤツを上げるときに必ずラルクちゃんやプリンちゃんにまでオヤツをあげてますからね」
「何の話かしら? 覚えが無いわね!」
「メグミちゃんその後ろに隠している『カットパイン』はなんですか? 密かに冷やしてますけど追加で食べる気ですか?」
「足りなくなったら出そうと思っただけよ!」
「6人で食べる分には三個で量は十分すぎる位足りてますよ? それに……追加で三個ですか?」
「水分補給の為よ! 蒸し暑いんだから仕方ないでしょ!」
「お前本当に甘々だな? ダイエットさせるんじゃなかったのか? どうせ一個づつ食わせる気だろ?」
「うるさいわね、今日は暑いから特別よ! 脱水になって倒れられたらあんたが担いで運ぶの? ソックスでも大変だけど、ラルクとか運べるのアンタ!」
「ハイハイもう言わねえよ。それにまあアレだけ動いてるんだもう大分ダイエットになってるだろ?」
「甘いわねタツオ、甘々だわ!」
「お前にだけは言われたくねえよ!」
「ふん、まあ見てなさい、ラルク!!! ラルク!!! あんたさっきから何してるの! ちょっとこっちを向きなさい! ほら早く!」
メグミに呼ばれたラルクの巨体がビクリと震える。だがメグミ達の方に顔を向けない、そのままプルプルと震えていた。
「どうしたのメグミちゃん大きな声を出して、ラルクがどうかしたの?」
「ノリネエ、ラルクを見て何か気が付かない?」
「なにか?? 何かしら?」
「お姉さま、ラルクちゃん先程から私の倒した『ジャイアントビー』のドロップアイテムを拾ってますわね」
「そうね? それがどうかしたの?」
「プリンちゃんの所とあまり往復してませんわね」
「そうなの? 気が付かなかったわ…………まさか!」
「そのまさかよ、まあね、サアヤが破いて零れてる『蜂蜜』を食べるのは許してあげる、聞こえてるラルク? 返事をしなさい」
だがラルクは依然、プルプル震えるだけでメグミの方を決して見ない。
「けどねラルク、破れてない、ちゃんとした『蜂蜜』まで食べたらダメでしょ? それに回収出来てる『花粉団子』の数が随分少ないわね」
「ねえメグミちゃん、間違いないの? それって本当にそうなの?」
「ノリネエ、私はね、最初にカグヤの倒した『リッパーアイリスの蜜』の残骸をラルクが食べてたところからずっと監視してたのよ?
間違いないわね、破れてる『蜂蜜』を8個、破れてない『蜂蜜』を既に3個食べてるわ、残ってる『蜂蜜』はもう1個だけよ。
『花粉団子』にいたっては32個も食べてるわ」
「ラルク!! ダメでしょ! なんで我慢できないの!」
「まあまあ、お姉さま、破れていた『蜂蜜』は構いませんわ、それに『リッパーアイリスの蜜』も破れてましたからね」
「そうよ、破れていたのは構わないのよ、丁度いいオヤツ替わりでしょ? 『リッパーアイリスの蜜』の残骸はソックスも2つ程食べてたし、それにまあ『花粉団子』も思わずでしょうけど3つ程食べちゃってたわ」
「お前そこまで見てたのか?」
「何となくね、可愛いから動きを追っちゃってたのよね。でラルクだけどね、まあ最初の一個目の『蜂蜜』は見逃してあげようかなと、運んでてつい噛んじゃってって感じだったし、2個目もね思わずって感じで我慢できなかったのかなと……けどねラルク、3個目はバレないと確信して食べたわね?」
「ラルク、良いからこっちに来なさい! そこでそうしているのは卑怯よ!」
「お姉さま、プリンちゃんが、ラルクちゃん朝ご飯の量が少し足りなくてずっとお腹が減っていたって、許してあげて欲しいって言ってますわ」
「けどそれとこれとは、それに何時もどおりちゃんと朝ご飯はあげたわよ?」
「昨晩、魔物が余り畑に現れなかったみたいで、そっちでの食事が足りなかったみたいですわ」
「それでソックスまでつまみ食いをしてたのね」
「仕方ありませんわ、お腹一杯になるまで朝ご飯が食べれなかったんですから、ね? お姉さま」
「この子達また大きく成ったから朝ご飯の分量が足りないのかしらね? 少し増やすかな?」
「そうなの? 仕方ないのね? けど黙って食べたらダメよね? そうでしょラルク、なんでちゃんと言えないの?」
「確かにそれが問題よね、ソックスも足りなかったらちゃんと言いなさい! もうっ、アレねサアヤには悪いけど畑の監視のアルバイト、プリンちゃんにも監視と報告係でついて行ってもらおうか? プリンちゃんに報告してもらって朝ご飯の分量を調節する方が良いかもね」
「最近ダイエット、ダイエットって厳しいからラルクちゃんもお腹が減ったって言えなかったんだと思いますわ、そうプリンちゃんも言ってます」
「少しダイエットを急ぎ過ぎたって事? むうぅ、徐々にって事かしら?」
「メグミちゃんはそれで良いのね? そうね、今回は私も反省すべきね。ラルク、私も怒鳴って悪かったわ、もう怒って無いからこっちに来なさい」
「ソックスもプリンちゃんもおいで、オヤツがあるから水分補給も兼ねて食べなさい。水分は足りてるの?」
少し項垂れてメグミ達の前に並ぶラルクとソックス、オドオドと上目使いなのは悪い事をしたことが分かってるのだろう。
「うんちゃんと反省してるようね? なにが駄目だったか分かってる? 今度からちゃんと報告してから食べるのよ? 良いわね?」
「クゥン……」
「……」
「うん、分かったら良いわ、じゃあ食べなさい、こっちに水も置いておくからちゃんと飲むのよ?」
「ワン!」
「……!」
「お前ら甘いのか厳しいのか……」
「そうですわね、けど確かに先輩達なら良いお母さんになれそうですわね、一人じゃなくて三人ってところが良いのかもしれませんわ」
「バランスね、お互いがお互いを補い合って良い感じにバランスが取れてるのね」
「まあ魔物も矢鱈と多かったし、ドロップアイテムも多いし、こいつらも大変だよな」
「つまみ食いはダメだけどね、まあ反省してるし良いわ。ラルクやソックスが食べた分は私が払うから清算の時に引いてくれれば良いわ」
「メグミちゃん、ラルクの分は私が払うわ」
「分かっていて食べさせたのは私だからね、最初の一個で注意して止めて、ちゃんと理由を聞いてご飯をあげれば良かったのよ。それが出来てない以上私の責任よ」
「でも!」
「でもは無しよ、戦闘指揮官は私なんだからペットの指示も私の役目、そう決めたでしょ?」
「お姉さま、ここは引いてください。メグミちゃんは絶対引き下がりませんよ。これ以上は不毛なだけです」
「ペットが食べた分は気にしなくていい、アイテム回収の報酬だ。それで良いだろ?」
「そうね、ペットだからって無報酬で働くのも何か変よね?」
「カグヤも構いませんよ? タツオ先輩の意見に賛成ですわ」
「けどケジメが有るでしょ?」
「今は同じパーティで仲間だろ? 細けえ事気にしてんじゃねえよ。それに反省会は終わりだろ? お前らもしっかり食べろ、暑いからな、しっかり糖分や水分、ミネラル補給しねえとぶっ倒れるぜ」
「ふん、言われなくったて食べるわよ、けどあんたほんとに良く食べるわね?」
「仕方ねえだろ、ガタイがデカいんだ。基本的にお前とは食べる分量が違うんだ。 ……何だったら余計に食べた料金払うがどうする?」
「意趣返しのつもり? 良いわよそれ位、どうせ余る位あったんだから! それに仲間なんでしょ?」
「ほんとに口の減らねえ女だな、……って、え? なんだアカリさん?」
見るとアカリが手に持ったパインをタツオの口元に持って行っていた。
「怒ちゃだめよタツオ君、ほら、お姉さんが食べさせてあげる、はい、あーーん」
「はっ? え? えぇぇ?」
「素直に食べなさいタツオ、女に恥をかかせるつもり? 往生際が悪いわよ」
「グゥッ、覚えてろよ!」
メグミに言われて顔を真っ赤にしながら口を開けるタツオ。それを見たカグヤがバッとメグミの隣に移動してきて、
「ねえメグミ先輩ぃ、ほら私のもぉ、ねえ、ほらぁ、あーーん」
そう言ってメグミの口元にパインを差し出して来る。
(戦闘中のオホホッは如何した? 口調がまるで違うわよカグヤ!)
メグミはそう思いながら咄嗟に逃げ出そうと腰を浮かせると、
「往生際が悪りぃぜ! メグミぃ」
タツオが「ざまぁ」といったニヤケ顔でそう言ってくる。
(クッ、タツオめ後で覚えてろよ!!)
「あーーん、ねえぇほら、あーん」
援軍を得て気をよくしたカグヤが畳みかけてくる。こうなるとメグミも諦めざるおえない。
「あーーん」
「ねぇ、先輩、美味しい? ねぇ美味しい」
「ん、美味しいわ、ありがとカグヤ」
メグミもカグヤが嫌いなわけではない、顔は好みなのだ。ただ少し苦手なだけだ。
「んふっ♪ ではもう一つ……ってもうありませんわ! 残念ですうぅ」
「悪い、少し喰い過ぎちまったか?」
「一番運動量が多かったのがタツオくんだもの仕方ないわよ。気にしないで」
「魔物が多かったものね、何なんだろ流石にちょっと多すぎだった気がするわ……私達だから余裕だったけど、普通の見習い冒険者には少しきつ過ぎない? 事前情報にそんな注意有ったかしら?」
「有りましたよ? メグミちゃんこのルートが湖に最短だってことしか見てなかったでしょ?」
「……あったの? おっかしいわね見落とした? この先に湖が有るって事とこのルートが不人気だってことしか書いてなかったような?」
「その裏に何でこのルートが不人気なのか書いてたんですけど? 裏面だったから見逃したんですね……」
「そうなの? 完全に見落としてたわ」
「まあ、仕方ありませんわね。その情報にはこのルートは湖へは最短ですけど『ジャイアントビー』や『ソルジャーアント』の巣が有るかもしれないと書いてましたよ。更に追加情報として、これらの魔物の群れの数が多いから、不人気過ぎて、更に別の魔物が多く沸いていて更に不人気なルートになっていると有りましたわ」
「だからお勧めのルートが大回りだったのね? この先のフルーツの群生地の情報は結構読み込んだけど、途中のルートとか読み飛ばしてたわ、反省してるわ」
「急がば回れなのね……けどまあ急ごしらえのパーティだったし、お互いの実力を確かめるには丁度良かったんじゃないかしら?」
「それもそうね、お姉さんもメグミちゃん達がここまで強いとは思ってなかったわ。噂には聞いてたけどタツオくんを含めて噂以上よね」
「皆さん化け物ですわ、カグヤついて行けるか心配ですわ」
「あんたがそれを言うの? ってかこのパーティ下手したら……いや下手しなくても攻撃力過剰よね?
それに神官が三人もいて回復役も多い……その代わりに斥候役が皆無なのが痛いわね」
「構わねえだろ? 物理攻撃力も魔法攻撃力も単体、範囲共に対応できて、回復役が十分だろ? 地下1階の敵なんざ雑魚だぜ?
このままガンガン磨り潰せるんだから斥候は必要ねえだろ?」
「倒せるか倒せないかじゃないわ、その殲滅に掛かる時間が勿体ないのよ! 今回だって例えルート選択が間違っていたのだとしても斥候が居て魔物の配置を確認できてたら別ルートへの変更だって出来てたわ。
事前情報頼りになる現状が問題なのよ! あんたの思考は少し脳筋過ぎよ」
「『風香』に少し先行偵察をさせましょうか? この子なら下手な斥候よりも索敵能力が高いですわ」
「攻撃魔法の補助はどうするの?」
「『氷菓』を呼びますわ、環境が環境ですから『風香』ほどでは有りませんけど十分だと思います」
「暑いからね……『氷菓』に頼めば少しは涼しく出来る?」
「『氷菓』の周囲は涼しいでしょうけど、範囲を広げると消費が激しくなります。我慢してくださいメグミちゃん」
「ん? それって『氷菓』の近くにいるサアヤは涼しいって事?」
「……」
「サアヤ、サアヤは私の隣ね、大丈夫、サアヤに襲い掛かる魔物は私が蹴散らしてあげるわ」
「メグミちゃんは前衛で先頭でしょ? 自分で決めましたよね?」
「うぅっ!」
「前衛はメグミちゃんとタツオさん、中衛に私とお姉さま、その後ろでペットを守って、殿の後衛がアカリさんとカグヤちゃん。
そう決めたのはメグミちゃんですよ? 敵に合わせて臨機応変に配置は変わりますけど、ルートを進む隊列はこう決めた筈ですわ」
「むさいタツオよりもサアヤが隣が良いわ!」
「お前はサアヤに前衛をやらせるつもりか?」
「サアヤなら地下1階なら余裕で前衛が熟せるわよ」
「何処まで自分の欲望に忠実なんだ! 涼しいってだけでそこまでやるか普通!」
「「「「……」」」」
「分かったわよ! みんな無言で睨まないでよ! 当初の隊列で良いわよもう!!」
「当たり前だ! 逆切れしてんじゃねえ!」
「そろそろ良いかしら? 折角だから今後の予定を確認するわね」
「そうね休憩も大分できたし、ドロップアイテム拾いも終わってるし、良いんじゃない?」
「では始めるわ。先ずはこのまま湖の休憩所のルームまで移動します。
そこで休憩所周辺に魔物が居たらそのまま狩って安全を確保、いなければお昼まで周辺を探索して見つけた魔物を少し狩りましょう。
その後は一度休憩所に戻って、そこでお昼を食べましょう。
お昼と休憩を挟んで、午後からは、奥の『クラッカーベリー』の群生地で狩って、休憩を少し挟んでその奥の『アップルラビット』の群生地まで行きましょう。
思った以上に蒸し暑いわ、各自水分補給を適時するように注意してね」
「ん、それで問題ないと思うわ。群生地に先客が居ても、あの辺りの群生地は幾つかあるから、どれか残ってる筈よ。空いてるところを見つけて狩り尽くすわよ!」
ノリコの話にメグミが同意すると皆同様に頷く………その時!
「キャアアアアアアーーー!!」
遠く湖の方から女性の悲鳴が響いてくる。




