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異世界迷宮物語 ~剣聖少女はハーレムを夢見る~  作者: 綾女
二章 大魔王迷宮 その1
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第32話『恩恵』②

 話が大分逸れたが、『グラインダーパイン』の落とす『カットパイン』は、味も間違いなくパイナップルで、今回のフルーツ採取の目的にも合致している。

 今回襲いかかって来た魔物の中では唯一の目的と合致した魔物である。

 

 ただメグミは、フルーツのケーキ類にはベリー系やアップル系、後はオレンジ系だろうと思っている。

 今回のフルーツ狩りでの目的地選定の際も、メグミの好みのケーキのトッピングになるフルーツで押し通した位だ。


「パイナップルは美味しいけど味が濃いのよね。シフォンケーキのトッピングとして一緒に焼いたりしても良いけど、苺なんかを追加でトッピングすると苺の味が負けて死ぬし、他の果物と味が喧嘩するのが難点よね」


「フルーツポンチやフルーツみつ豆は合うわよ?」


「アレはジュースやシロップが凄く甘いし果物もそれに漬けられて全体的に甘いわ。パイナップルの味の濃さが気にならなくなるのよ。

 それに寒天のサッパリ感が良いのかもしれないわね」


「メグミ先輩の言う通り、そう言えばケーキ類にはパイナップルってあんまり使ってませんね?」


「カグヤちゃん、パイナップルは繊維が硬いしフォークで切りにくいでしょ、だから余りケーキで使用されていないのよ。

 メグミちゃんの言ってる見たいにシロップ漬けを入れて一緒に焼く位ね、そうすれば柔らかくなるし」


「けど小さく切れば、他のフルーツ見たいにフレッシュフルーツとしてトッピングに 使えませんか?」


「無理にパイナップルを使う必要ないでしょ?

 それぞれ美味しい食べ方が有ると思うわ。パイナップルはフルーツポンチに回せば良いのよ」


「で? メグミちゃんは今回の第一目標は『クラッカーベリー』だと、そう言いたい訳ですね?」


「季節的にも丁度苺が美味しい季節でしょ?

 苺のショートケーキは定番よ。これだけは絶対外せないわ!」


「まあ私も好きですから良いですけどね」


「それで第二目標は『アップルラビット』なのね?」


「『ママ』のアップルパイは絶品よ。こっちも外せないわ」


「先輩、カグヤはオレンジやキュウイフルーツも好きなんですけど、この事前情報だと『オレンジレンジ』や『キュウイバード』は場所が違いますね」


「確かにそれも欲しいけど、今日は諦めるわ、暫く地下一階のフルーツ狩りは続くみたいだし、そっちはまた今度ね」


「グレープ系も欲しいわね、『シャインマスクカット』も群生地が遠いわ……広過ぎるのよね地下一階は……」


「マスクと言えば『レオメロン』は? 残念コッチも遠いわね」


「『レオメロン』は他に比べて強いから、不人気なんじゃ無いですか?」


「あの上品な甘さが良いのよ、分かって無いわねカグヤは!」


「いえ先輩、カグヤは強い魔物だから不人気じゃないかと言っただけですぅ美味しいのは知ってますよ」


「地下一階程度で強いも弱いも無いわよ、ちょっとベテランならあの程度は余裕でしょ」


「良く一緒に居る『ウリボウ』が面倒なんですよね。

 そうで無くてもライオンの様な『レオメロン』が結構機敏に動きながら近接攻撃を仕掛けて来てウザいのに、『ウリボウ』が種をマシンガンの様に後ろから撃ってくるでしょ、地味に痛いのでウザいんですよ」


「アレは射線を気を付ければ平気よ『レオメロン』を盾にする様に位置どりするのよ、そうすれば撃って来ないわ」


「単純物理射撃ですからね『ウリボウ』は、面倒さで言えば今日の第一目標の『クラッカーベリー』と一緒に居る『ブルーアイズ』の方が上ですわ」


「確か魔法攻撃なのよねアレ? けどこっちも抵抗出来れば大した事は無いでしょ」


「魔法攻撃自体は抵抗でかなりダメージが軽減出来ますけど、付加効果の硬直が厄介なんですわ。

 アレの一瞬の硬直でさえ完全に抵抗出来るのは見習い冒険者ではメグミちゃんやお姉さま位では無いですか?」


「カグヤやアカリさんは平気じゃ無いの? 二人共能力値相当高いよね? 魔法抵抗力も高いんでしょう?」


「メグミちゃん、『ブルーアイズ』のあの硬直は光の明滅による一種の暗示なのよ。

 だから魔法抵抗力だけでは抵抗出来ないのよ」


「カグヤも無理ですね、避けようにも光なので避けようが無いのが本当に厄介ですわ。

 目を背ける訳にもいきませんし……アレに抵抗出来るとかお二人共どうなってますの?」


「どうって言われてもねえ、最初からピカピカ光ってるだけの雑魚よ? ノリネエは如何?」


「そうねブルーベリーは好きよ。ジャムとかも美味しいわ。

 ヨーグルトに良く合うのよ」


「この通り敵として認識してないわ」


「えっ! 今のノリコ先輩の答えはスルーですか?」


「メグミちゃんのあの質問で、ノリコちゃんのこの返答、それに対するメグミちゃんの認識の仕方が意味不明過ぎるのだけど?」


「ノリネエはね、頭の中で一杯考えてるのよ。

 で言葉として口から出てくるのはその間の考えをすっ飛ばして結論だけなの。

 大体何時もこんな調子だから慣れなさい」


「アレ? 私何か変だった?」


「イエ、お姉さまは何時も通りでしたわ。まだ二人がお姉さまの思考スピードに追いついていないだけですわ」


「「……」」


「もう仕方ないわね、ちょっと解説してあげるわ。

 ノリネエはね『クラッカーベリー』の名前が出た段階で、『ブルーアイズ』に関しては、ただピカピカ光って無抵抗にブルーベリーを落とすボーナスモンスターって認識なのよ。

 皆んなが光が厄介だとか暗示だから防げないとか言ってるのが不思議でしょうがない訳よ。

 でちょっと考えたけど自分では理解出来ないから、その段階で思考はドロップアイテムのブルーベリーに飛んでいるのよ。

 この話題の元の会話のケーキに合うフルーツって所に更に思考が飛んで、ブルーベリーもケーキのトッピングに合うわねっ! とか思っているうちに、けど子供の健康を考えるとケーキばっかりはダメだわ、そうね健康を考えたらヨーグルトだわ! ヨーグルトにもブルーベリーは合うわ、素敵!

 とまあこの辺まで思考が飛んでいるのよ。そこに私が意見を求めたから、あんな答えが返ってくるの」


「メグミちゃんってエスパーなの?」


「正解なんだっ!! 凄いですねメグミ先輩!」


「慣れよ、ノリネエとの会話は喋っている言葉だけ理解してたんじゃあ成り立たないわ。

 けどね思考パターンは善良でメルヘンチックな乙女なんだから、洞察するのは簡単よ。

 他所の人が居る時は割と普通に会話出来るけど、身内だけの時はもっと酷いわよ」


「私やメグミちゃんがガンガン言いたい事を言っているからお姉さまが会話に中々入って来れないんですよね。

 けどお姉さまは喋って居なくても会話に加わって居るんです。

 それどころか会話から飛躍した思考まで展開してますわ。

 ですから偶に発言すると前後の脈絡が無いように感じられます、けどメグミちゃんの言っている通り補完するのは容易ですわ」


「アレね、この二人の所為で、ますますノリコちゃんの会話が他の人には意味不明になっていってるんだわ。

 ノリコちゃん気を付けなさい、他の人はこの二人見たいに言葉の裏を洞察して補完はしてくれないから」


「偶にノリコ先輩の発言が意味不明なのはそんな裏があったんですね。カグヤ勉強になりました」


「えぇぇそんなに変? 意味不明なの?」



 この先にある湖の奥には『クラッカーベリー』と言う苺を落とす魔物と、『ブルーアイズ』と言うブルーベリーを落とす魔物の群生地があり、今の当面の目的地もそこだ。

 更にそのまま奥に進めば、『アップルラビット』というこちらも薄皮に包まれた林檎の果肉を落とす魔物もいる。

今日はそこら辺で狩る予定なのだが……先ほどから足止めを食っている。


(あぁもうっ!! このままじゃあ明日のオヤツのケーキが!)


 メグミの予定では、明日のオヤツは今日取得したフルーツで豪勢にトッピングしたケーキの予定なのだ。

 出掛ける時に『ママ』にその予定を伝えて、材料の買出しも既に頼んでいた。


(トッピングの無いケーキなんて嫌よ! パイナップルのショートケーキってどうなの?)


 今日取得したフルーツ系のドロップアイテムは大半は寄付予定だが全て寄付する必要は無い、自分達で食べるくらいの量は残して手元に置いておく事は許可が出ている。


 それも合って他の神殿の女性神官も多数参加しているのだ。


 女の子は甘いデザートには目が無い、自分達もフルーツが沢山食べれて、且つ功徳も稼げ、更に冒険者組合の協力で貢献も稼げるクエスト扱いとなっていた。

 男子冒険者が留守で暇を持て余していた女性冒険者には渡りに船のイベントだったのだ。


 だが地下一階各地でメグミ達と同様足止めされているパーティが数多く居た。

 この季節、この階層は一年で一番魔物が多いのだ。


(これヤヨイ様は思いついたって言ってるけど絶対嘘よ!

 魔物が多く発生してるのに暑くて狩に入る冒険者が少ないから、無理矢理イベント作って狩らせる気なんだわ。

 冒険者組合の協力ってこれ逆でしょ! 冒険者組合にヤヨイ様やアイ様が協力したのね!

 今年成功したら毎年の恒例行事に絶対するわねコレは……大義名分の子供の為ってのがマズイ……ノリネエは絶対毎年参加するに決まってるわ)


 この段階で、大人達の計画の半分をメグミは正確にに見抜いて居た。



 相変わらずメグミは両手のショートソードでウンザリしながら『グラインダーパイン』を切り殺していた。


 そう、一つ言い忘れたが、メグミは『二刀流』のスキルを取得できていた。


 タクヤが『練習すれば二刀流のスキルが取得出来るかも』そう師匠に教えられたと言っていたのを思い出し。


「雑魚で相手の数が多い時には両手で刻んだ方が単純計算で倍倒せるわね?」


「それは幾ら何でも単純計算過ぎませんか?」


「まあ物は試しよ、練習して見るわ」


 そんな単純な動機で練習してみたら取れてしまった……割とあっさりと。


「結構簡単に取れたけど、差が良く分からないわね?

 二刀流の有り無しで何が変わったのかしら?」


「本人が分からないんですか?」


「微妙にショートソードが軽く感じる気がしないでも無いって所?

 単に練習した成果って可能性もあるし微妙ね」


「メグミちゃんの場合は元から器用だもの、最初から結構普通に二刀流出来てたから変化が少ないのかしら?」


「良く分からないわね、それにあっさり取得出来たし……タクヤはなんで取れないの?」


「『二刀流』の前提となる『職能』が取得出来ていないとかじゃあ無いですか? まあ単純に不器用過ぎて取得出来ていない可能性も高いですが……」


「アレはねぇ、確かに色々足りないけど、決定的に器用さが足りないわね」


「確かめたいのならサアヤちゃんも『二刀流』を練習して見たら? サアヤちゃん器用だし取れるんじゃない?」


「お姉さま、私では筋力が足りませんわ。ナイフの二刀流位でしたら行けるかも知れませんが、それでは攻撃力が大幅に下がってしまいます。

 そうでなくても色々覚えて練習しなければいけませんから、利点が少な過ぎるので優先順位は低いですね」


「ノリネエが取ったら? ダブルハンマーってのも面白いわよ?」


「普通のハンマーの二刀流? 私は殆ど『錘月』だから『撃照』は使って無いのよね……」


「だからこそ二刀流なら使わざるをえ無いでしょ?

 折角作ったのにあの使用頻度は勿体無いわよ」


「メグミちゃんの『黒緋』だってあまり使って無いでしょ?」


「甘いわねノリネエ! 『黒緋』はちょっと高い木になってる果物とか、高い位置に生えてる薬草を刈るのに役にたってるもの!」


「それって本来の使い方じゃ無いわよね?」


「使い方は人それぞれでしょ、使わないよりはマシよ!」


 「ううぅ『撃照』は打撃部が球面だから釘も打てないのよね……」


「お姉さまそんな使い方で張り合わないで下さい。サブウェポンですから使わない方が良いに決まってるんです。

 ただいざという時のために練習だけはしておきましょう」


「サアヤはその点バランス良く使ってるわね。『絶華』も『可音』も」


「まあ役割が全く違いますからね、近接戦闘用の『絶華』に魔法攻撃用の『可音』ですから。

 所でメグミちゃん、二刀流をマスターしたなら武器はどうするんですか?

 練習にはショートソード型を刃引きしたのを二刀使ってましたけど、『火蜂』意外に二刀流用のショートソードを二刀打つんですか?」


「ん? 『火蜂』はそのまま使うわよ? もう一刀『火蜂』と似たのを打ったわ」


「ってもう造ったんですか? けど『火蜂』は両手で使えるように、柄が長いでしょ? このままじゃあ使い難く無いですか?」


「柄が長いのは特に問題ないわ、邪魔になるかと思ったけど、鍔に近い所を持ったり柄頭付近を持ったりと持つ場所を変えると刀身長に変化がつけれるの。対人戦闘だとこの刀身長の変化で間合を勘違いさせる事ができるわ、そうね駆け引きが出来るのよ、悪くないわ」


「メグミちゃん相手にそこまでさせるような敵とは戦いたくありませんわね」


「ねえメグミちゃん、新しく打ったのを見せて、どんな感じなの?」


「良いわよ、コレよ名前は『火紺』、少しミスリルを使って見たんだけど、そのせいかな? 色が『火蜂』と大分違うわ」


「へぇコレが新しい『火紺』ちゃんか、形は『火蜂』ちゃんに似てるのね、まさに双子剣ね。けど色が確かに違うわね、グレー系の『火蜂』ちゃんと違って青味がかっているのね」


「混ぜたのはミスリルなんですよね? 何故白系じゃなくて青味がかっているんですか?」


「他にも少し混ぜたのよ、切削工具なんかにコバルトが使われてるでしょ?

 手に入ったからちょっと試しに少し混ぜたんだけどその所為かな?

 けどコバルト自身は青く無いのよね……何かと化合しちゃったのかしらね?」


「面白い変化ですわね、青い金属とは珍しいですわ」


「けど綺麗だわ、『火紺』ちゃんって紺色から?」


「そこまで濃い青じゃ無いけどね、薄っすらと魔力で刀身が光ってるのが、こうガスの青い炎に近い色じゃない?

 でまあ青系の色で名付けて見たの」


「メグミちゃんって面白い名前を付けますけど、大体見た目からですね?」


「『黒緋』ちゃんも黒い刀身に緋色の魔法球からなのよね?」


「そうよ、見た目から付けた方が分かりやすくて良いでしょ?

 ノリネエの『撃照』や『錘月』なんて普通に読め無いわよ?

 『打ち出の小槌』を捩って『撃照』で、見た目が錘の付いた月みたいだって『錘月』……捻り過ぎじゃない?」


「えぇ、可愛いでしょ? 意味もあるけど響きが良いでしょ? 『うって』に『つむつき』って可愛い響きじゃない」


「まあサアヤの厨二臭いのよりはマシ? かな?」


「なっ!! 何処がですか!!」


「『絶』ってついてる時点で厨二なのよ? 知らなかったの? 『カノン』もそれっぽいし……」


「ううぅ、けど『火蜂』は? これって厨二じゃないんですか?」


「『精霊剣』灼熱の太刀で炎の一刺しから『火のハチ』で『火蜂』よ、普通でしょ?」


「……『絶華』……カッコいい名前だと思いましたのに……」


「カッコいいわよ? カッコいいから厨二なのよ。厨二って言われたくなければ普通に付けなさい」


「でもメグミちゃん『黒緋』は若干厨二臭いですわ!」


「見た目からだからね? 割とカッコいい名前になったかも知れないけど、見たまんまだしねぇ?」


「くぅ、悔しいですわ! 今度何か名前を付けるときは絶対に厨二なんて言わせませんわ!」


「『プリン』は良かったわよ?」


「そうねプリンちゃんは良い名前よね」


「ふっ、ふんっ、今更褒めたって無駄です! 厨二扱いされた過去は消えませんわ!」


「まあ、厨二臭かろうが良いじゃない、そう名前を付けたんだから、後悔したら『絶華』が可哀そうよ?」


「メグミちゃんって本当にっ!! まあ良いですわ、そう言えば『黒緋』ちゃんの魔法球は良い出来ですよね、あれ珍しくメグミちゃんが造ったんですよね?」


「『黒緋』の魔法球は材料が良いからね。

 これっておじいちゃん師匠に貰ったんだっけ? 練習に使えって貰った……? アレ何だっけ名称忘れちゃったわ」


「『焔狐玉』ですよ。割とお高いガーネット系の宝玉ですわ」


「そうそう、それだわ。珍しくサアヤの魔法球じゃなくて私の造った魔法球なのよね。

 割と良く出来たから使ってあげたいけど、槍って苦手なのよね……」


「前に使ってた時は結構使えてましたけど、アレで苦手なんですか?」


「どうしても振りが遅いのよ、まあ本来槍は突き刺すのでしょうけど、突きは動きが直線だから軌道を読まれやすいじゃない?」


「メグミちゃんの踏み込みの速度で突かれると殆どの人が避けようが無いと思いますけど?」


「私なら避けれるわ、なら他にも避けれる人が必ずいる!

 だから穂先を長めにして斬る事も出来るようにしてみたけど、振るには柄が長過ぎてね振りが遅いわ」


「アレでですか? 長さが有る所為か穂先が速過ぎて音速をこえて、空気を斬り裂いて真空波が発生してましたよね?」


「アレじゃあダメよ、幾ら穂先が速くても手元を見れば軌道を見切られるわ。

 雑魚なら通用しても同格以上の相手には通用しないわ」


「……メグミちゃんは要求が高過ぎなのよね」


「まあいずれ『棒術』を組み合わせて練習して見るわ、中衛に回った時には役に立つと思うし」



 しかし、実際に今メグミが学んでいるのは『剣舞』だ。

 索敵・探査系のスキルを教わるために盗賊ギルドに通い。盗賊系の『武技』もついでに学んだ際に、二刀流専門の剣術として『剣舞』の存在を知ったのだ。


「これ面白いわ、『剣道』とまるで違う、こう全身を駆使して戦う感じが面白いわ」


「本来は宴会などの余興だったそうですわ、それを開祖の『剣舞神』が剣術の域にまで高めたのだそうです」


「変則的な動きと言うかクルクル舞うような動き、そうね剣道よりも円の動きが多いのね。

 両手両脚フルに使って相手の機先を制して攻撃する、『剣舞』って攻撃のバリエーションが本当に広いのね」


「確かにそうですねお姉さま、相手と触れ合う程の超接近戦から、脚の蹴り技での相手の体勢を崩したりと面白いですわ」


「相手に身体を添わせる事によって、相手の動きを規制しているのよ。

 合気道に近い技を剣術に取り入れてるのね。

 接近する事で相手の攻撃を防ぎながら、一方で自分は好き放題攻撃するまさに攻防一体ね。

 この『剣舞』の凄い所はね、これ投げ技や剣の柄での打撃技まであるのよ、まさに変幻自在だわ」


「それに両手の剣が自在に連動してるのね、目にも止まらぬ連続攻撃……見た目は舞の様に優雅なのに、実際に相対するとまるで違うわね。

 その動き全てが攻撃に繋がっていく……苛烈な迄に超攻撃的な剣術ね『剣舞』って」


「けどアレですね、『剣舞』の師匠の動きは艶っぽいのに、メグミちゃんのは艶っぽさのカケラも有りませんわ……」


「何故かしら? 身体は良く撓ってるし、メグミちゃん身体も柔らかいのに艶っぽさよりも鋭さを感じるわ」


「無駄と言いますか、タメや腰のクネりが無いからでしょうか?」


「腰のスナップは良く効いているのにね……」


「うるさいわね! 艶っぽさや色っぽさはなくても良いのよ! 私が学びたいのは剣術としての『剣舞』よ。

 舞としての『剣舞』じゃ無いわ!」


「けどそれでは得られる『恩恵』が少なくないですか? 『剣舞』の最大の利点はその関連スキルの多さですわ……まあ大体色物系ですが……それでもその効果は確かです。効果が強いものが多いんですよ?」


「二刀流で複数の雑魚敵を殲滅するのに参考に学んでるだけよ。強い単体相手は今までの剣道の方がいいわ。

 『剣舞』を極めたい訳じゃあ無いもの、まあ攻撃の幅も広がってるし、今までの剣術に剣舞も融合させていくわ」


 この異世界の『神』は人に魔物に対抗する手段として『加護』と『恩恵』を与えている。

 この『恩恵』は、『職能』『スキル』『特殊魔法』から構成される。


 『職能』は『戦士』『魔法使い』等が代表的なもので、条件を満たすことにより『職能』を取得し、その『職能』の『恩恵』を受けることが出来るといったものである。


「『職能』ねえ、色々獲得できてるけど、これってなんなの? 修行や練習して能力が上がっただけじゃあ無いの?」


「大まかに言えばその理解で間違いでは無いですわ。そうですね修行や練習に対するご褒美、ほんのちょっとしたオマケ、ボーナスの様なものですわね」


「ん? それって殆ど『職能』自体に意味は無いって事?」


「効果の分かり難い、能力の向上が少ない『職能』が大半なんです。

 中にはその『職能』を得るだけで大幅に能力が向上したり、様々な特典のある場合も有りますが、主に『職能』を得るメリットは『スキル』など特殊な技が取得出来たり、『特殊魔法』が使えたりと、付随している『恩恵』を得る為ですわ」


「『恩恵』ねえ、まあ魔物に対抗するのに神様も手を貸してくれてるって奴なのかしらね?」


「それもあやふやなんですよね、『加護』と違って『恩恵』は神様から与えられると言うより、世界その物から与えられている超常の力って側面が強いですわ。

 まあ中には神様から与えられている聖属性の『職能』も有るのですが、一般的な『職能』は練習や修行によって得た能力を確定させると言いますか、能力に『職能』と言う名前を与えてその効果を高めている側面が強いですわ」


「サアヤちゃん、『加護』も神様を通して別の何かの力を引き出しているのよ、ヤヨイ様やアイ様がそう仰ってたわ。

 魔力みたいに人が直接力を引き出すのが難しいから神様を通してその力を引き出してるの。

 『加護』を行使する術を『神聖魔法』って言うでしょ?

 奇跡では有るのだけど、その奇跡にも魔法の様な回路や魔方陣の様な物があるのよ、それにヤヨイ様やアイ様位になると神様を通さなくても直接その力を引き出せる見たい」


「成る程、それが上位聖職者の使う『加護融合魔法』ですね。以前書物で読みましたわ。一部の上位聖職者しか使えない高等魔法ですわ」


「そうね確かそんな名前だったわ、神と同調する事で神に近しい存在になって行く、その事によってその力、『神聖力』とも『法力』とも言われているけど、宗派によって言い方が違うだけで同じ物ね、コレを引き出せる様になるのよ」


「そういった意味では『精霊魔法』も似た様なものですわね。精霊を通して精霊界から精霊力を引き出して利用するのが『精霊魔法』です。

 此方も一緒ですわ、上級者は精霊界から直接、精霊力を引き出せる見たいですわ」


「へぇ、面白いわね……結局のところ、力の出所や名称、魔法陣や魔法回路の仕組みは違うけど、似た様なものなのね?」


「そうですわね、確かに似た様なものですわね。要するにこの世界に存在する様々な力を引き出して利用する、その為の技術ですわ」


「ならその『職能』に付いてくる能力向上や、そうね『スキル』や特殊魔法ももしかして似た様なものなのかもね。

 獲得の為の前提条件はそれ自体が魔法で言う所の触媒で、練習や努力の過程でその魔法式の様な物を組み上げているのかしら?」


「『職能』に関しては難しいですわね、神々でさえその全容を把握していないと言われていますから」


「把握もしてないって……『恩恵』って名称だけど、それだと詐欺じゃない? それだと別に神さまが与えたって訳じゃあないんでしょ?」


「神さまが与えた物では無いのかも知れませんが人が自身の力で成している物ではないので『恩恵』でも良いんじゃないでしょうか?」


「そうね自然が人に与えた『恩恵』よね。それで良いんじゃないメグミちゃん」


「なんなんだろうねこの世界の仕組みって、魔物が居たり魔法がある時点で元の世界とは違うのに、なんで魔法の無い世界から来た私達にも魔法が使えるの?

 そもそも物理法則は似てるのに魔法なんて物理法則無視した様な物が存在してどうやって世界の仕組みを成立させてるんだろ?」


「またメグミちゃんの悪いクセが始まりましたわ……真理の探求はもう少し余裕が出来てからで良いですわ。

 先ずはその仕組みを最大限活用して自らの力を向上させる、それから探求しても遅くないと思いますわ」


「メグミちゃん焦ってもどうせ直ぐに答えなんて見つからないわよ。

 それよりも先ず研究や実験をする為の足場固めが肝心よ。

 真理はじっくりと探求しましょう」


「別に真理が探求したい訳じゃあ無いわよ、ただ不思議でしょ?

 色々調べているのにそこら辺の考察、研究はまだまだ……というか殆ど見つからないのよね」


「ん? まだ研究途中なんじゃ無いの?」


「ノリネエは素直過ぎね。私は意図的にこの辺の研究結果を隠しているんじゃ無いかと疑ってるわ。

 私達みたいな見習いでさえ不思議に思う様な事よ? 召喚された先達が研究していないなんて事は有り得ないわ。

 けどその事に関する研究資料が冒険者組合の図書館にも無いのよ。こうも資料が見つからないと誰かが意図して隠しているとしか思えないわね」


「私達見習いが閲覧出来るのは一般的な図書だけですから、その辺の資料は秘匿度が高いので仕方有りませんわ」


「何やっぱり隠しているの? なんでよ?」


「魔法技術やシステムの原理にも関係してくる分野なので、軍事的にも秘匿度が高いんです。

 その原理を利用して危険な魔法の開発や、法に触れる様な非人道的な研究が出来たりします。

 他国の心無い人達にそんな情報が渡らない様に管理するのは当然ですわ」


「ここの冒険者組合って惚けている様でその辺締めるところは締めてるのよね……」


「この地域の技術や奥義は常に他国に狙われてますからね。

 長年に渡って裏で色々抗争してますから……表面上は此方の世界に来たばかりの召喚者が安心する様にお気楽な風ですが、『暗部』なんて呼ばれている部隊が存在してますから、裏では相当キナ臭いですよ」


「滅びる寸前まで追い詰められても、人同士の争いって無くならないのね……」


「魔族にご馳走を振る舞えるくらい負の感情が豊かなのが人間よ、今更だわ」


「確かにそうですわね、魔物と戦っているのに人同士の争いも無くなりませんわね」


「まあ良いわ、人同士の争いなんて冒険者組合の『暗部』だっけそっちに任せておけば良いのよ。

 それよりも『職能』って攻略本じゃあ無いけどこう取得ガイドみたいなのは無いの?」


「メジャーで比較的誰でも取得出来る『職能』にはそんなのも有りますよ。

 ただ効果が微妙だったりするので、それを元に『職能』の取得を目指すよりは、自分の得意な分野や興味のある分野を勉強や練習して自然に取得した方が良いって言われてますね」


「メジャーなのは? って事はメジャーじゃ無い『職能』は効果が高い物も多いのね?」


「メジャーで無いものは取得条件が良く分かっていなかったり、危険だったり、非人道的だったりするので、取得条件そのものが秘密にされているものが多いですわ。

 そもそも神でさえ取得条件を把握していない『職能』も多いですから」


「取得条件すら把握出来ていないのにその『職能』自体は存在してる事がわかるのね? これも不思議よね?」


「『ステータスアーカイブ』に登録されてますからね。『ステータス魔法』で調べれば、職能名だけは直ぐに判明しますから」


「その『ステータスアーカイブ』ってのも何なのよ?」


「『アーカイブ』全ての智の根源とも言われている情報の集合体だと言われているモノの一部ですわね。

 主にステータス関連の情報にアクセス出来ますわ」


「ふざけた仕組みよね、何処かにそんなモノが存在してるのよね?」


「メグミちゃん、元いた世界でも『アカシックレコード』だったかしら?

 世界記憶みたいなモノが存在してるって説があったじゃない? 似た様なものなんじゃないかしら?」


「そうですね召喚者の人達はそんなモノだと今の所、結論している様ですね。

 この世界には魔法が有りますからね、それにアクセス出来ただけで、それ自体は何処の世界でも存在しているのだろうと、それに対してアクセスする術の有無の差だと書いてましたわ」


「世界って何なのかしらね? その世界を構築する基本的なシステムなのかしら? 原理の根源? それに『アーカイブ』もそのシステムのログ見たいなモノなのかしらね?」


「物理法則やこの世の原理の根幹を規定しているシステムか……確かそうなのかもしれないわねけど、一度登録された名称の変更が出来ないのは不便過ぎるわ。

 あれ何とかならないの? 登録は魔法的に出来るのよね? なら変更も魔法的に出来るんじゃ無いの?」


「名称の変更はそう簡単では無いんですよ。登録された事によって、それを見た人々がそれはそういった名称だと認識してしまいます。

 名称の変更にはこの人々の認識を変える必要が有ります。

 既にその名称で認識されているものを変更するのは容易では有りませんわ」


「認識ね、だから登録して直ぐや忘れ去られている様な『職能』は名称変更が可能なのね」


「一度『アーカイブ』に登録した名称は消えませんが、その名称が現在ではこう変わったと、人々の認識の変更が記録されます。

 その変更履歴を辿って、最新の名称を『ステータス魔法』が表示するってだけですけどね」


「そうなのね、まっ、以前のアレみたいにノリネエが大騒ぎしなければなんでも良いわ」


 『職能』の名称は最初にその『職能』を発見した者が適当に『ステータスアーカイブ』に登録していたりして、結構酷い名称の物が多数散見される。


「まぁっ! 大騒ぎって、私ショックだったんだからね! メグミちゃん!」


「アレって『色魔』の『職能』の事ですか? まあアレは調べが付くまでちょっと大変でしたわね」


「たかが『職能』の名称如きであそこ迄落ち込まなくてもね……」


「だってメグミちゃん、『色魔』よ? なんで私が『色魔』なのよ! 私はまだ処女っ……今のは忘れて!」


「別にノリネエが処女な事くらい知ってるわよ? ラルクが懐いてるのよ? 当然でしょ?」


「まあ聖獣を連れている時点で、『私は処女です!』と宣言しながら歩いている様なものですわ、お姉さま」


「ううぅ、何で私には彼氏が出来ないのかしら?」


「ノリネエって彼氏が欲しかったの? 意外だわ……どんなタイプが好みなのよ?」


「……それがね、ちょっと聞いてメグミちゃん、私どんなタイプの人が好きなんだと思う?」


「うんまあノリネエならそんな所よね……いや、それって本人にしか分からないでしょ? 私に聞かれても困るわよ」


「お姉さまはそもそも恋とかしたことが有りますの?」


「それなのよね、メグミちゃんやサアヤちゃんは好きよ。お母様も『ママ』だって大好きよ! けど恋って何なの??

 私好きな人は沢山いるんだけど……恋が分からないの……愛は、愛情は有るのに……よく言われている様な異性を見て胸がときめいた事が無いのよ……恋って何なのよ?」


「ノリネエ、焦る必要は無いわよ、運命の人なんて案外身近にいる者よ?

 そもそも恋なんて気の迷い、性欲に任せて発情してる連中の感じてる脳内麻薬の見せる幻想ね。

 そんなモノは必要ないわ。必要なのは愛よ。

 恋は相手次第で冷めたり別れたりする熱病の一種、精神病の一種よ、全く下らないわ」


「アレっ? メグミちゃんって恋愛否定論者だったんですか? えっだってメグミちゃんは『カナデ』さんが……」


「私は『カナデ』に恋なんてしてないわ、愛しているのよ、愛おしくて堪らないだけよ。

 良いサアヤ、恋は相手が浮気したり死んだり他の人と結婚すれば冷めるんでしょ? 諦めるんでしょ?

 私のは違うわ、相手が何をしていようが、誰と恋愛して何をしていようがどうでも良いのよ、私が愛しているの、伝わらなくても良い、報いが無かろうがどうでも良いのよ。そこに居てくれるだけで良いの、笑ってくれてれば、幸せであってくれればそれでいいのよ……

 ただ愛しているの、愛おしいの、それだけよ」


「そうなのね、そう……愛は深く広く……何となくだけどメグミちゃんの言っている意味が分かる気がするわ。

 そうね、そう言う意味でなら私のタイプの人ってメグミちゃんやサアヤちゃん、それに『ママ』なのかしら?」


「お姉さま、嬉しいですけど、それではただの気の多い人ですわよ?」


「サアヤはまだまだね、相手がどうであれ自分の愛は変わらないでしょ? 同じように相手が何人で有ろうと愛は変わらないのよ。

 一人しか愛せない、それが愛? それは恋でしょ、愛じゃないわ」


「うっ、けどメグミちゃんは浮気者ですからね……メグミちゃんその愛は本物なんですか?」


「愛が本物かどうかは自分で自分に問いかけなさい。それは他人には判断できないし、判断して良いモノでもないわ」


「メグミちゃんって偶に大人で真面目な事を言うのよね……」


「ううぅ、何だかメグミちゃんが大人に見えますわ……」


「まあ失礼な! そもそもノリネエが振ってきた話題でしょ、ノリネエやサアヤに恋愛なんて10年早いのよ!

 大体処女じゃなければラルクの飼い主になれるわけないでしょ? ノリネエはラルクを手放すの?」


「はっぅ、そうだったわ、ラルクは私の可愛いラルクだわ、そうね無理に彼氏とか要らないわね」


「そうよ、それにそもそも野郎なんかがノリネエにチョッカイ掛けてきたらシバキ回すわ!

 私のノリネエを取ろうなんざ100万年早いって事を思い知らせないとね!」


「メグミちゃん本音が口から駄々洩れですわ、全く、メグミちゃんは良い事言ってもすぐに自分で台無しにするんですから!

 けどそうですね、私のお姉さまを誰かに渡したりはしませんわ! だからお姉さま安心して下さい」


「二人とも私は何を安心すればいいの? ……はぁ、恋愛って難しいのね」


「ちょっと気になったんだけど、そもそもラルクって寿命はどうなってるの? 聖獣の寿命って何年位なの?」


「さぁ? ハッキリしたことは分からないのだそうです。ただ主よりも長生きなのは確かですわ。

 主の死を見取るのが聖獣の最後の仕事と言われていますから」


「死を見取った後の聖獣はどうするの? また別の主を探すの?」


「いえ、それがはっきりしたことは分からないんです。主が死ぬと聖獣は何時の間にか姿を消すのだそうです。

 一説では、死後の主の魂に寄り添う為に、そのまま聖獣も死んで魂になるのだそうですわ。

 聖獣の愛は……そうですね、メグミちゃんの言ってる愛に近いですね、相手に何も求めず、ただただ愛情を注ぐ、無償の愛……それを主の死後も変わららずにと言った感じなのでしょうね」


「ラルクが? あの子のは無償の愛なの? よく胸とかお尻に触ったり、一緒にお風呂に入ったら興奮しまくりよ? あれの何処が無償なの?」


「ラルクのはスキンシップよ! それにお風呂に入れてあげたらはしゃぐのはソックスちゃんだって一緒じゃない!

 メグミちゃんはラルクを誤解しているわ!」


「けどねノリネエよく考えて、ラルクが居る限り、一生結婚どころか恋愛すらできないわよ? しかも死後までストーキングしてくるのよ?

 重いわ、愛が重すぎでしょ? ペットだから良いようなものの、あれ、実際の男だったらキモ過ぎだと思わない?」


「ううぅ、言い方、言い方だと思うわ……そんなストーキングだなんて、それに恋愛したって良いでしょ? なんでラルクが居ると恋愛できないのよ?」


「ラルクが恋愛なんて許すのかしらね? 純潔を求めるんじゃなくて穢れを嫌うんだっけ? まっ、どっちでも良いけど、下手すると相手を食い殺す勢いで邪魔しそうよねラルクって」


「お姉さま、聖獣に魅入られた乙女は……生涯独身が多いそうですわ。聖獣を連れたまま結婚した例は有りません。

 仮にお姉さまが恋愛をした場合、恋人を取るかラルクを取るか選択を迫られるでしょうね」


「ううぅ……そんなぁ……そんなの選べないわ……」


(私と一緒に居る限り、ノリネエは一生処女よ! ……けど女同士だと処女ってどうなるのかしらね?

 まあ良いわ、その内試す機会も有るでしょうし、お子様なノリネエが怯えないように、ここは慎重に外堀を埋めないとね)


「まあ、何にしてもこんなに初心なノリネエが『色魔』だからね、この世界の『職能』の名称は本当にいい加減よね」


「取得条件に『色魔』の要素が皆無ですからね、単に『色魔』取得者に対する嫉妬なんて……」


 そう例えば『色魔』の『職能』は、この『色魔』取得者に対する嫉妬から名称がつけられている。取得条件を知らないノリコはこの『色魔』を自分が取得していることを知り、ショックで落ち込み塞ぎ込んで自室に籠ってしまった。

 メグミ達が師匠連中に聞きまわり取得条件が判明するまではご飯すら食べに出てこないで可成り惨い状態だった。死んだ母に誇れる自分で在ろうとしているノリコは、自分が『色魔』で有る事が許せなかったらしい。


「けど何で取得者以外の人が名称を登録できるのよ?」


「登録されていない『職能』は『名称不明』で表示されますから、『ステータス鑑定』とかで取得者よりも早く、その『名称不明』の『職能』を発見して登録してしまえば良いんです。

 今回の『色魔』もそうやって先に登録されたようですわ」


「けど登録して直ぐなら変更が可能でしょ? 変更すればよかったのにね、なんでしなかったんだろう?」


「『色魔』の取得条件は『他者に回復・支援魔法を掛け、その相手を自分に惚れさせる、そしてこれを5人以上に達成する』です。

 この取得条件の『惚れさせる』が不味かったみたいですわ。

 『色魔』の登録に際してはちょっとした逸話? 昔話でしょうか? まあどちらでも良いですわ、こんな話が伝わってます」


 ≪昔、自分の好きな男が、ちょっと『辻回復』してくれた美人に惚れてしまった。『何、人の男に色目使ってんのよこの色魔!!』と女性が嫉妬に怒り狂い、その美人が、その時獲得した『恩恵』の『職能』に『色魔』と勝手に命名して登録した。

 この美人も直ぐに変更しようとしたが、その場にいた他の人達は女性の『色魔』の叫びに、既にその『職能』を『色魔』と認識してしまっていた為、変更出来ずに今に至る≫


「とまあこんな話見たいですから、この話でも分かる様に、多数の人に認識されることにより、その名称が確定してしまいます。

 そうなるとその場にいた全ての人達の認識を変更しない限り変更が出来ません。

 しかもこのお話の場合、例え多数の人の認識を変更できてもその嫉妬している女性の認識を変更することは困難ですわ」


「無茶苦茶な話よね、昔からどこでも声の大きい人が無理を押し通すのね……嘆かわしいわ」


「メグミちゃんがそれを言いますか?!」


「なによ? 何か言いたいことが有るのならハッキリ言ってごらんサアヤ。小一時間説教してあげるわよ?」


「うぅ、それが声が大きい人って事じゃあ無いんですか……」


「ふんっ、そんなことはないわ! けどノリネエは『辻回復』を、『畑に現れる魔物退治』のクエストの現場で『功徳』目的でやっていたから取得したのよね。

 油断して怪我する奴が多いのよね、『ラッシュチキン』は弱いって言っても元が鶏、それに闘鶏に使われている軍鶏が大きく成ったような鶏の魔物よ?

 ド素人が余裕で倒せるほど弱くも無いのよね……」


「ヒヨコはあんなに可愛いのに、何で大きく成るとあんなに狂暴になるのかしら?」


「『ラッシュチキン』は縄張り意識が強くて群れないので、大体オスが単体で畑に侵入してきますからね。

 一般的にゴブリンより格下に見られてますが、単体同士で戦った場合、ゴブリンを倒す事が多いそうです。それに『ラッシュチキン』が進化した『スラッシュチキン』はゴブリンをエサとして好んで襲うと言います。畑に現れる害魔物の中では最強クラスですわ。

 爪に嘴と共に鋭いですからね。装備も真面に揃えていない見習いになったばかりの冒険者にとっては強敵でしょうね」


「他の害魔物が弱いからね、あれで余裕ぶっこいて調子にのった奴が『ラッシュチキン』でケガするのよね」


「『ラビットラット』や『ポイズンタランチュラ』『ポイズンスネーク』はあれで魔物なのかと思うほど弱いのよね。『ラビットラット』は弱い麻痺毒があるし、『ポイズンタランチュラ』『ポイズンスネーク』も毒を持ってるから油断してはダメだけど……」


「お姉さま、昆虫系なら『グラスセンチピード』も毒を持ってますわ。けどどれも50センチ程ですからね。『ポイズンスネーク』は普通の毒蛇とほとんど差が有りません、まあ、雑魚ですわ」


「小さいからこそ毒を持ってるんでしょうけどね、にしても毒蛇を雑魚呼ばわりしてサクサク狩るようになるとは日本に居たときには想像もしてなかったわ」


「そうよね、普通毒蛇って言ったら噛まれたら命の危険を伴うものね、こっちでは毒消しの薬草があり得ない程効くから、噛まれてもへっちゃらなのなのよね」


「よく考えたら、あの毒消しの薬草って成分何なのかしらね? 事前に飲んでおくだけで毒が効かないとか普通あり得ないよね?

 神経毒や出血毒なんでしょ? 何を如何したらそんな毒が事前に何か飲んだだけで防げるのよ?」


「メグミちゃん、あれはマジックポーションの一種で、毒に対する耐性を上げているのですわ。

 後から飲む場合も、『加護』の『毒消し』と同じ効果で、体内に侵入しようとする異物を体外に排出、分解します。

 冒険者は色々と耐性が上がっていくので、まあ魔力の籠っていない只の毒程度なら毒耐性が上がって、その内毒消しの薬草がなくても全く平気になりますわ」


「なんだろ、魔物に対抗するために、冒険者が化け物に成って行ってるわよね?」


「お姉さま、一般の生物に対抗できないようでは、魔物には到底敵いません。一般の生物の持っている程度の毒で死ぬようでは冒険者等やってられませんわ」


「本当にこの世界ってどうなってるのよ? けどあれね、そんな話聞いてると、人類が滅びかけたって話も納得ね。

 そんな化け物並みの冒険者を殺せる様な魔物って事でしょ? 迷宮の地下深くの魔物ってどんだけ強いのよ?」


「今の私達では想像も出来ないレベルで化け物揃いって事なんでしょうね」


「はぁ、全くどこまで深く潜ったらそんなワクワクするような魔物が居るんだろ? 雑魚ばっかりで狩り飽きたわ」


「メグミちゃん、今までの魔物だって、攻撃が当たったら死ぬようなのが結構いたでしょ?」


「あれで当たるわけないでしょ? 遅過ぎなのよ! のろまでデカいだけの雑魚なんてちっともワクワクしないわ!」


「もう、そんな事ばかり言って、見ているこっちの心臓に悪いから、余り危険な事はしないでね?」


「お姉さま、多分言っても無駄ですわ。メグミちゃんはちっとも危険だと思ってないんですから……」


「もうっ! 良いのよ私の事は、十分安全マージンは取ってるわ! 大体誰かが戦ったことがある、既によく知られている魔物は倒し方の研究が進んでいるでしょ? 特徴や弱点、攻略方法が判明してるんだから、事前に情報仕入れていれば大したことはないのよ。

 『ラッシュチキン』だってそうよ『威嚇』がビックリするくらいよく効くから、動きを止めて一気に首を刎ねれば良いだけよ。

 そんな情報収集すらしない様な連中だけよアレに苦戦してるのは」


「まあ所詮は単体ですからね、仲間がいれば囲んでタコ殴りが基本ですわ。それに魔法抵抗も低めなので魔法で拘束して殴っても良いですわね、それこそ槍なんかの中距離攻撃をそのまま仕掛ければ一方的に殺せます。

 対処法が分かれば雑魚ですけど、それを知らなければ、そこそこ強敵なんですよ見習いに成りたての冒険者にとっては」


「肉が美味しいし、あの強さにしては破格の報酬だしボーナスモンスターなのよね、基本さえ押さえておけば雑魚だから、儲かる魔物って情報ばかり先行して、攻略情報は余り広まってないのよね……」


「それもそうですわねお姉さまの仰る通り、畑の魔物退治はソロでも受けれるクエストなので、冒険者もソロの場合が多いのが更に『ラッシュチキン』の難易度を上げてますよね。

 まあ数がそれほど居ませんし、何せ畑は広いですからね……パーティで固まって索敵して狩る様な魔物って程でもないのが余計に……けどそうなんですよね、あの『辻回復』でお姉さま、後輩冒険者の方に惚れられてますのね。それで『色魔』の取得条件を満たしてしまったんですわ」


「好かれるのは悪い気はしないけど、その結果が『色魔』は納得いかないわ、釈然としないわね」


「けど『色魔』の『職能』の恩恵は『回復・支援魔法の効果向上』だから回復職には便利な『職能』なのよね。メリットは十分にあったんだから良いんじゃないの?

 まっこれの何処が『色魔』なのかわからないけどね……」


「そう言えばあの後メグミちゃんも『辻回復』頑張ってましたけど、『色魔』は取得出来たんですか?」


「くぅ、うっさいわよサアヤ! どうせ私には無理だったわよ! ノリネエクラスの容姿端麗な美少女以外無理って事なのかしら? 弩畜生が!!」


「メグミちゃん、言葉遣いが汚いですわ! 常々言ってますけど、メグミちゃんは先ず、その恰好を改めない限り無理だと思いますわ」


「まあ良いわよ、どうせ私は回復職じゃあないし……けどこれってノリネエにゾッコン惚れている男性が最低でも5人はいるって事よね?

 ストーカーやその予備軍が5人は居ることになる訳でしょ? 大丈夫なの? 少し心配だわ」


「……確かにそうですわね、けどまあ私やメグミちゃんが居ますから、お姉さまの身の安全は保障しますわ」


「それもそうか、変な野郎が付けて来てたらシバキ倒せばいいのよね」


「メグミちゃん、相手に悪気はないのかも知れないのだから、穏便にお願いね?」


「黙って女の子を付け回す様な野郎は、悪気の有る無しは関係無いのよ。全て害悪よ! 問答の必要性すら感じないわ」


「お姉さまは危機意識が低すぎますね。年頃の男性は狼なんですよ。食べられて後悔したくなければ万全を期すのは女性の常識です。

 親しくなりたいのなら声を掛けて来るべきです。その勇気がないのなら偶にすれ違い姿を拝めるだけで感謝して満足すべきでしょうね。

 黙って後を付け回すなんて、それはこの街では犯罪です。明確な処罰対象となってますから、メグミちゃんが撃退しても何も問題ありませんわ」


「言った自分でも意外なんだけど、この街って本当に性犯罪関係は過激よね? えっ? 違法じゃなくて寧ろ推奨されてるの?」


「この街は女性冒険者の発言権が大きいですからね。性犯罪には厳しいんですよ、ストーカー犯罪も嘗て色々あったようで、それでどんどん厳罰化が進んで、予防処置も推奨されています。

 各種『恩恵』で強化された男性冒険者の腕力は異常ですからね。冒険者の女性でさえ抵抗するには困難が伴います。

 相手が一般人の女性であった場合、抵抗する事さえ不可能です。可能な限り一般市民の皆様に安全に安心して過ごして頂くためには過激にならざる負えませんわ。

 魔物から身を守ってくれる冒険者が、魔物以上に一般市民から恐れられては社会基盤そのものが崩壊します」


「冒険者が魔物を倒せる、魔物以上の化け物になってしまうって事ね。私達も気を付けないとダメね。

 この力は守るための力、他者を傷つける力ではない筈よ。そうよねメグミちゃん」


「何で私にだけ念押しするのよ!! もう全くっ、失礼しちゃうわ。私は女の子には優しいわよ!」


「おじ様達にも無茶しちゃダメよ? 一般市民には当然男性だって含まれているんですからね」


「大丈夫、最初から一般市民の男は眼中にないから、それにあの程度ならノリネエの馬鹿力なら組み伏せられた状態からでも余裕で倒せるわ」


「お姉さまの場合、腕力自体が一般の男性冒険者以上に有りますからね……『恩恵』による腕力の向上の効果も有るのでしょうけど、その細腕でなんでこんなに力が強いんでしょうね? 不思議ですわ」


「元からなのよね? あれじゃないかしら? 筋力のリミッターが外れている人が偶に居るって聞いたことがあるわ。ノリネエは多分それね」


「腱や骨を守るために本来の筋力の3割程度しか力が出せてないって言う、あのリミッターの事ね?

 確かに昔からこの力の所為で怪我は多かったわね……お父様やお爺様も調べてくれたけど、どうもお母様の家系の女性はお母様を含めて皆、このリミッターが弱かったみたいなのよ。

 お父様は、『徐々に鍛えて行けば、そう簡単に体は壊れない、段々とその力に対応して腱や骨が強く成って行っているから。良いねノリコ、怒りの衝動で力を振るうんじゃないよ。それはノリコが一番嫌いな、お母様の一番嫌いな暴力だよ、良いね約束だ』って仰ってたわ」


「……それが『恩恵』で強化されてるんでしょ? ノリネエって人の事を化け物扱いするけど、本人も十分化け物よね?」


「そうなのですね……細腕だからこそ、その力に肉体の強度が耐えられているですね、お姉さまのその特徴では筋肉を増やして腕力を鍛えるわけには行かないんですわね」


「まあノリネエは体が柔らかいし、筋肉も柔軟だから、細い体でもそのバカげた筋力を受け止められるんだわ……いや違うわね、その体の柔らかさはその筋力で筋が伸ばされて、その結果体が柔らかくなっているだわ。

 ノリネエってスポーツ好きだし、その過程で知らないうちに筋が徐々に伸ばされてるんだわ、本人の自覚無しに……まあ痛みは無いみたいだし、ヤヨイ様やアイ様が何も言っていないのだから平気なんでしょうね。

 けどそう考えると背が高いのもその所為かもね、骨がその筋力を受け止められてる様に大きく成った結果の背の高さじゃないかな?」


「でしたら、この無意識のリミッターを弱めることが出来れば私達も背が高くなるんでしょうか?」


「試してみたいけど、危険ね。ノリネエの場合、ノリネエだけってより家系的なモノで徐々に骨格そのものがそれに合わせて進化している可能性があるわ。

 私やサアヤが無理にリミッターを弱めたら、筋を痛めるだけ、下手したら腱が切れるだけね」


「お姉さまはちゃんと筋力のコントロールが出来てますのもね、家系的なモノと幼い時から徐々に慣れて行ったからこそですか、確かに既に体の出来上がりつつある今の私達で試すのは危険ですわね。

 私達は『職能』や『スキル』を獲得して強化していく方が安全かもしれません」


「『スキル』か……調べてみたら『スキル』って取得することにより、更にその技術を高める『恩恵』なのよね?

 『二刀流』の『スキル』を調べてみたんだけど効果は『二刀流での威力・腕力向上』ってことなのよね。

 確かに若干剣が軽くなって、剣を振る速度が上がったように感じられたけど微妙よ? この程度なの『スキル』の効果って?」


「『スキル』の効果そのものが練習してその『職能』に習熟し成長していくと共に増していきますから、最初はその程度なのかもしれませんわよ?」


「そうなの? まあ最初から高望みはダメか……おまけ程度に考えるべきなのかしらね? そう言えば『スキル』の方も取得条件が謎だらけよね? 同じ『職能』を取得しても『スキル』は取得出来たり出来なかったり」


「そうですね……『スキル』は取得条件がある程度『職能』に支配されていること以外は殆ど不明ですわ。

 恐らくは『職能』の組み合わせで取得出来たりできなかったりするのだろうと言われていますけど、それと本人の才能や練習や努力による要素も大きいのでこればっかりは努力と運ですわね」


「メジャーどころは解明しているみたいだけど、この取得条件って、どうやって何時獲得したかはっきりしないから本当に謎よね。

 もう一度確かめるって事が出来ないから、取得者が多ければその傾向から推測できるけど、少ないと取得した本人にさえ獲得条件が分からないのはどうにかならないのかしらね?」


「けどある程度『職能』を合わせて、努力すれば良い分『特殊魔法』よりはマシだと思いますよ。

 こちらは本当に『特殊』過ぎて再現が不可能ですからね」


「本人が魔方陣と魔法回路の核に、触媒になって発動するんだっけ? 『特殊魔法』ね、何故か取得したら使い方が分かるのは便利なんだけど、これ何処から使い方の知識が流れ込んで来てんだろ?」


「先ほど話題にあった『アーカイブ』からだと言われてますね。新しく覚える魔法は魔法組合で付与魔法で魔法式と使い方を直接脳に流し込みますよね?

 あれと原理は一緒だと言われていますね。魔法回路と魔方陣が流れ込んでくるので、後は魔力をコントロールして流し込めば発動しますわ」


「核が自分自身だから所有者しか使えない魔法か、何とか本人の部分を他で代替出来ないのかしら?

 便利なモノや、消費魔力の割に強力なモノが多いから、他の人のモノが使えると便利なんだけどね……」


「中々難しいですわ、本人の代替と言いますけど解析に半端なく時間が掛る、複雑な術式が多いですからね」


「けど何とか解析したいところだわね、サアヤでも無理なの?」


「周辺の魔方陣は時間さえ掛ければ解析できるのですけど、本人がどの様な役割なのかサッパリなので、周辺に有る魔方陣から推測するにしても、周囲の魔法陣は付加的な魔方陣ばかりで肝心の中心構造が完全に隠されているんです。

 本人の中でどのような魔法作用が働いているのか観測する為の機器の開発から始めないと無理ですわ」


「ならその観測機器の開発からね、まあ良いわ、当面の開発目標はほぼ達成してるし、次の開発目標はそれが良いかもね」


「メグミちゃんは本当に諦めませんわね……まあそれでこそメグミちゃんですわね、はぁ……」


「けどメグミちゃん、先ずは今取得している『恩恵』のレベル上げよ、練習すれば効果が上昇するんでしょ?」


「そう言われているわね、効果や威力が強く成るだっけ? 『ステータス魔法』か便利なモノよね」


「『ステータスアーカイブ』にアクセスして、その情報を参照比較して自分の現在のステータスを教えてくれる便利な魔法です。

 『恩恵』の大体の強さも比較してレベルで表示してくれますし、取得済みの『武技』『魔法』『加護』も一覧表示してくれますわ。

 開発者は召喚者の方らしいですわ、どんどん手が加わっているので、最近では各種身体能力の数値なども表示してくれてとても便利なのですけど、個人の秘得情報の塊ですわね」


「必須だって言われたから覚えたけど、まあ確かに必須なのも分かるわね。けどこれって他人のステータスを暴く魔法も有るのよね?」


「『鑑定』系魔法でその手の他人のステータスを暴く魔法が有りますが、他人から掛けられる魔法には必ず魔法抵抗が働きますからね。

 余程の実力差が無い限りはほぼ成功はしませんわ」


「隠し玉や奥の手をこっそり練習してもステータスを暴かれたんんじゃ意味無いものね、そんな魔法を掛けられた事は分かるの?」


「ええ、何か探られそうになった事は直ぐに分かります。誰が掛けたのかでさえハッキリと分かるので、こっそり盗み見る事は不可能ですわ。

 ステータスを覗くという事は、相手の心、精神の中に手を突っ込むようなモノですからね、相手を覗くように自分も相手から丸見えなんですわ」


「そう言えばメグミちゃんって『剣舞』と『二刀流』を取得して色々珍しい恩恵を取得してたわよね?」


「そうね今回新たに獲得できたのは

 『職能』で『剣の舞姫』

 『スキル』で『二刀流』『疾風迅雷』『旋風脚』

 『特殊魔法』で『剣陣乱舞』ね、どれも良いのが取れたわ。

 特に『疾風迅雷』と『剣陣乱舞』は良いわね。使い勝手も効果も申し分ないわ」


「全部超攻撃的な『恩恵』ばかりですわね、折角の剣舞ですのに防御系はおろか、色物系が全くありませんわ」


「だから良いのよ、そっちはノリネエにお任せよ。私は剣道と剣舞の融合を目指すわ」


「もうっ! 私は色物担当じゃないわよ! ……けど『剣の舞姫』は? 色物系の『職能』じゃないかしら? 違うのメグミちゃん?」


「さぁ? 名称は気に入ってるけどそれだけよ?」


「色っぽい効果とかないの?」


「ないわね、単に『剣舞』の奥義? そんなものが分かるだけよ?

 『剣舞』は練習し始めたばかりだけど、その戦い方がわかるのよ。そんな『職能』だったわ。

 けどわかるだけで使いこなせるわけじゃあないのよね」


 だからメグミは今、師匠に付かずに剣道と剣舞の融合を一人で図っていた。

 剣舞について学ぶべき事はすべて学んでいる。その知識だけはその『職能』を得たときに流れ込んできたのだ。

 また『剣の舞姫』は、カナデの徒名である『剣の鬼姫』と一字違いで、そのことがメグミは非常に嬉しく、二刀流と剣舞の修行の原動力となっている。


「それで慌てて『魔鋼製のヒールブーツ』を用意したのね、『剣舞』には足技がたくさんあるものね」


 『剣舞』は両手に装備した『剣』ももちろん使うのだが『蹴り技』も多数使用する。

 そのため今回メグミは新たな足装備として『魔鋼製のヒールブーツ』を用意した。

 これは蹴りの際に武器となることも前提に考えられた防具装備で、鋭く先の尖った爪先に、こちらも鋭いヒール、そして足の前面は魔鋼製の防御と攻撃両方に使える装甲となっている。

 装甲の裏に柔らかいジェルクッションを張って造っており、硬い魔物を蹴っても足が痛くないないようになっている。


「まあね、けどなんでヒールブーツなのかしらね? 知識としてヒールでの攻撃技も有るからだってことは分かってるんだけど、そもそもヒールが有ると少し動きにくいのよね。

 可能な限り足への負担を減らせるように、土踏まずのアーチをしっかりサポートしてヒールがあっても足の裏全体に圧力分散するようにしたけど、それでも若干動きにくいわ」


「そうなのよね、そもそもヒールが戦いに向いていない様に思えるのよね」


「偶にヒールが小さな溝に刺さるのがね……まあ魔鋼製だし折れたりはしないけどね」


「でも本当によく出来てるわねメグミちゃんの造ったこのヒールブーツ、魔鋼製だから履いた感じも硬いのかと思ったら、積層構造で可動部が多いし、中敷きや内張りが柔らかいから見た目からは想像も出来ない程履き心地が良いのよね」


「空気も出入りできるように一部メッシュ構造にしているわ、このメッシュの素材、水棲魔物の素材らしいんだけど、便利な事に外からの水分の侵入は防ぐのに中からは水分を放出できるのよ。おかげで長時間履きっぱなしでも足が蒸れないわ」


「メグミちゃんの造ってくれたのは接地面が少ないヒールブーツなのに何故か滑りにくいのも良いのよね、このソール、素材はなに? どうなってるの?」


「発砲ゴムとガラス繊維の複合素材ね、スタッドレスタイヤなんかに使われてる素材らしいわ。

 師匠に勧められて使ってみたけど、本当に良いわね、ちょっとお値段がお高い素材なのが玉に瑕ね」


「これってソールだけ交換できるの? 結構減りが激しいけど……」


「その辺も大丈夫よ、ソールの予備は十分に確保してるから、減りとか気にせずに使って大丈夫。

 そうね、折角だし、今度サアヤのも造ろうか?」


「うーーん、極力軽く造っているのでしょうけど、私には少し重いですわ。軽量化するには素材の見直しが必要でしょ?

 余り高くなっても困るので素材の値段次第ですかね?」


「サアヤが習ってる武術は『蹴り技』は余りないんでしょ? 蹴り用の装甲は余り要らないだろうし、魔鋼はヒールとか強度の要るところに基材として極一部にだけ使えば大分軽くなるわよ?

 そうね……『大鉄クモ』や『大鉄ムカデ』の装甲が有るわ、アレってカーボンファイバーと金属繊維が両方織り込まれている様な面白い素材で、強度の割に滅茶苦茶軽いから、あれで造ってあげる。手持ちの材料だし、材料は買い足さなくても済むわ」


「ならメグミちゃん、一点要望を良いですか?」


「何? 出来る範囲で要望は叶えるわよ?」


「静穏性を重視したいんですけど可能ですか? 足音を、靴音をさせないようにしたいんです」


「ああ、そうかサアヤが今習ってるのは斥候系だったわね、良いわ、少しソールを厚めにして内部に更に吸音スポンジのようなモノを詰めて見るわ。軽くて静穏ね……面白いのが出来そうよ」


「けどメグミちゃん、サアヤちゃんのもヒールブーツなの? 動きを考えたら、サアヤちゃんのは普通のブーツで良いんじゃないの?」


「そこなのよね悩みどころは……ただこのヒールは結構武器として役に立ちそうなのよね、いざって時に踏みつけるだけで相手を攻撃できるのはやっぱり便利なのよ。

 溝に嵌るのも、別に楔型なら嵌って抜けなくなることもないし……それに第一、ターンと言うか、踏ん張りが落ちる代わりに小回りが効くようになるのよ、カモシカなんかの蹄と同じね。接地面が減る事で軽やかに動けるのよ。

 まだ慣れていないから動きにくいけど、馴れると素早く動けそうじゃない? サアヤは身軽だからね、その長所を更に伸ばしながら足元を固められるわ」


「不安定だからこその素早い動き……けど斥候系ならそれって足音とかの面で不利じゃないかしら?」


「その辺も多分平気よ、私達のは5センチ位だけどサアヤのは3センチ程度にするわ。私達のも本当は7センチ位が良いみたいだけど、ノリネエも私もヒールの有る靴は履きなれてないからね。

 それに7センチの理由が脚を美しく見せてスキルなんかの効果を高めるって理由でしょ? そんな程度の理由で高い必要は無いわ。

 武器としてのヒールと効果の両立なら5センチ、効果が関係ないなら3センチでも十分武器として使えるわ」


「ヒールの高さにそんな理由があったんですね……」


「これってスキルの効果の為なの? なら私はもう少し低い方が良かったかしら? 武器としてだけならサアヤちゃんと同じ3センチでも良いのでしょ?」


「身長の差も有るからね、サアヤの3センチとノリネエの5センチは相対的に見れば差は殆どないわよ?

 それに『剣の舞姫』による『剣舞』の知識だと、この位の高さのヒールブーツってのが安定を犠牲にして、華麗な脚捌きを加速させるってなってるのよね。

 戦闘中は安定性よりも機動性よ! それに使って見て分かったんだけど、結局戦闘中って踵まで地面に付けている時って少ないのよね。

 素早く動こうと爪先立ちに近く成ってるわ。その状態でも踵に体重が分散できるヒールは思ったよりも役に立ってるのよね。

 後は踏ん張った時にヒールがスパイク代わりになってそれも中々ね」


「後半はメグミちゃんの造ったヒールブーツの機能性が高いからだと思うけど、そうなのね、そんなことまで分かるのね、本当に便利なモノよね『職能』って……」


「けどノリネエの獲得した『棒の舞姫』も一緒でしょ?

 多分、その『アーカイブ』からだと思うけど、ノリネエにも『棒舞』の知識が流れ込んできたでしょ?」


「そうよ、私も『棒の舞姫』を取得した途端に知識が流れ込んできたわ。

 不思議よね、なんで習ってもない知識が有るのか……本当に不思議だわ」


「『棒術』の方ではそんなことは無かったのよね? 師匠に聞いたら、『剣の舞姫』も『棒の舞姫』も殆ど取得者の居ないレアな『職能』らしいけど……こっちで『剣術』を学んだ時には私もこんなことは無かったのよね。

 毎回こうだと覚える手間が省けて便利なんだけど、これって何か魔法的に再現できないのかな?

 魔法を覚えさせる付与魔法の応用でできないかしら?」


「メグミちゃん、付与魔法で魔法の魔法式を覚えさせるだけでも、脳に相当負荷が掛かってます。

 今回の『剣舞』や『棒舞』の様な知識を流し込んだら普通は脳が焼ききれますよ?

 今回の『職能』による知識の獲得の場合、実は密かに学び始めた時から徐々に知識を脳に流し込んでいて、『職能』を得た瞬間その枷が外れて、突然知識を得たような感じだと思いますわ」


「何その演出? 大体『職能』が取得できなかったら、その密かに流し込まれた知識はどうするのよ?

 もしかして『職能』が得られていないだけで、学び始めた時から色々な知識が密かに脳に流し込まれているの?」


「いえ、おそらく、お二人には『職能』が得られるだけの前提条件、才能があったんだと思いますわ。学び始めたときには既に『職能』が得られるのはほぼ確定している、そんな人にしか得られない『職能』ではないでしょうか?」


 この魔鋼製ヒールブーツは今回ノリコも装備してきている。『棒舞』も『蹴り技』を駆使して戦う武術だ。


「ってことはノリネエには最初から『棒舞』の才能があったってこと?」


「お姉さまだけでなく、メグミちゃんにも『剣舞』の才能があったんでしょうね」


「けどさサアヤ、『棒舞』ってこれ元は絶対ポールダンスよね?」


「ポールダンス? 『棒舞』の英語読みですか? お姉さまはポールダンスをご存知ですか? アメリカにお住まいだったのでしょ?」


「ごめんなさいサアヤちゃん、私もポールダンスというのは知らないわ。

 棒を使ってダンスするの? そんな踊りは聞いたことが無いわ」


「……まあノリネエは純粋培養のお嬢様だものね、知らないのは仕方ないわ」


「ねえどんな踊りなのメグミちゃん?」


(やっぱり知らないで習い始めたのね……まあこのまま真実は知らないままの方がノリネエの精神衛生上は良さそうよね)


「そうね、綺麗なお姉さんの踊りよ、スポーツとしてもマイナーだけど行われていたみたいよ?

 私も実際に見たことは無いけど、ネットに動画とかが上がってて……それで知ってるだけなのよ」


「へえ、新体操や器械体操みたいなモノなのかしら?」


「似たり寄ったりよ、『棒舞』と違って完全に固定された棒を使って技を魅せる踊りね」


(本当はストリップショーが発祥の若干? いや可成り如何わしい目的の踊りだけど、確か最近ではいい運動になるとか言ってスポーツにもなってたはずだから嘘ではない筈よ)



 この『棒舞』、大地母神の神官が開祖の『棒舞神』で、その為か大地母神の神官内で広まっているようだ。

 しかし、メグミの調べでは、どうもこの開祖はサキュバスで、


(これ絶対ポールダンスを、お店でやってて、それを戦闘に応用しただけだけよね? ポールダンスだけじゃなくて『棒舞』もその発祥が、かなり如何わしいのよね……ノリネエには教えられないけど……)


 ノリコがこの『棒舞』を習い始めたのも先輩神官に勧められたからだそうだが、その先輩神官はサキュバスらしい。

 メグミ達はサキュバスのカグヤと普通に友達として付き合っている為か、大地母神の神官の先輩サキュバス達から非常に気に入られていてよくしてもらっている。


 ノリコは神官長のアイや高司祭のヤヨイのお気に入り、普通それだけ目立てば先輩神官のイビリや虐めの対象になりそうなものなのだが、大地母神の神官はその神様の性格もあるのか、比較的のんびりと、穏やかな人が多い為、その兆候すらない。

 神殿内に孤児院のお世話もしている心優しい『シスター』が多いことも有るが、大地母神の神官として集まってくる人は皆穏やかで、ノリコ曰く。


「一度も嫌な目に遭った事なんて無いわよ? メグミちゃんは心配し過ぎよ。大地母神の神官はね、皆心優しい人が多いのよ。

 アイ様やヤヨイ様の薫陶の賜物かしら?」


「まあ、人が良い人が多いのは分かるけど、一人も意地悪をしてこないってのも珍しいわね?

 大地母神の神官にだって戦闘向きの人もいるんでしょ? アレだけ神官が多いんだし?」


「回復職がほどんどよ、加護の特性も回復職向きだから、女性で戦闘系を志向する人は『炎と戦いの女神』か『光と太陽の神』が多い印象ね。

 魔法系は『月の女神』系が多いし……そうね大地母神の神官で戦闘が得意な方はサキュバスの方が多いかしら?」


 そんな感じで大地母神の神官で、目立つノリコに何かしてきそうなのはサキュバスなのだが、そのサキュバスに気に入られている為、誰一人ノリコに意地悪を働かないのだそうだ。


(なんだろ? 流石にアレだけ依怙贔屓されてれば何か仕掛けてくるのが普通でしょうに? もしかしてサキュバスに気に入られているってのが凄い効いてるのかな?

 サキュバスって見た目とか全くあてに出来ない年齢ってカグヤが言ってたし、結構幹部神官が多いのよね……

 けどなんでカグヤと仲が良いだけでこんなに良くしてくれるの? サキュバスって仲間意識が強いのかしら?)


 メグミは知らないが、サキュバスの歴史は迫害の歴史だ。その種族の性質上、人の最も身近にいる魔族、それゆえに最も人と争ってきたのがサキュバスだ。

 この街では迫害はされていない、しかし、その種族の性質、それだけで嫌悪の対象としている女性が多いのは否めない。

 事実カグヤやアカリはこれまでずっとペアで過ごしてきていた。これは別にこの二人に限らない、既に見習いを卒業したサキュバス達も仲間の冒険者に恵まれず、寂しく見習い時代をソロで過ごした者も多いのだ。

 それだけにサキュバスであることを全く気にしないでカグヤと付き合うメグミ達は先輩サキュバスから全面的な好意を集めるに至っていた。

 そんな彼女達が常に目を光らせているノリコに何かしようとする神官等居る筈も無かった。


 今回ノリコへ『棒舞』を教えたのもその好意故だ。若干面白がっていた面も無きにしも非ずだが、その『棒舞』が何を発祥としているのか気にもしないで真面目に懸命に習うノリコに心打たれて、益々熱心に、エロくなるように教えていたのだ。


 『剣舞』もそうだがその発祥は兎も角、実際にこの『棒舞』結構強いし使える武術だ。


 ノリコの『棒舞』はその手にしたポールハンマーで敵を殴り、そのまま流れるような動きで地面に先端を突き刺し、そこを支点に、片足をポールに絡ませて急旋回、蹴りで魔物を吹き飛ばしながら、位置変更をして、また流れるようにハンマーで攻撃、またそれを支点にして、足を絡ませ方向変換と本当にポールダンスを踊るかのように魔物を倒していく。


 ノリコは魅惑の腰つきでポールに足や手を絡め、時に太ももの間に挟み、艶めかしく絡ませている。


(なんでこれで普通の武術だと思うんだろ? 剣舞よりも更に蠱惑的な武術よ? どう見てもその腰つきはけしからんでしょ? そこで腰をくねらせることに何の意味があるのよ?

 あれね、ノリネエって素直だから真面目に『棒舞』を教え通りに実行してるけど、その腰や肩の動きに性的な、エロイ意味以外何もないのよね……これは真実を知ったらノリネエ泣くわね絶対)


 ただ先ほども言ったようにこの『棒舞』、足技と棒術が組み合わさり、それが流れるように連続するため、見た目の色っぽさからは想像も出来ないほどの攻撃力を生み出している。


(ノリネエ、あなたはどこに向かって行ってるの? ノリネエの意思とは関係なく淫靡な官能の世界に突き進んでいるようにしか見えないけど、ノリネエは気が付いていないみたいなのよね……まあ良いわ、私は嘘は言ってないわ)


 メグミはこんな風に自分の中で折り合いをつけて暫く生暖かい目で見守ることにしている。


(だってこの『棒舞』……体が柔らかくて、胸が大きくて、更に背が高くて、足の長い、そうスタイル抜群のノリネエがやると絵になるのよ。

 もうね見てるだけで幸せよ? 服は脱いでいっていないけど、とってもエロいわ。そうよ、眼が幸せなのよ!)


 そう『棒舞』はノリコに合っているのだ。それそこ攻撃的な意味でも、性的な意味でも非常に相性がいい。メグミの目の保養にもなって一石二鳥で非常に美味しい。サキュバスの師匠達もそのノリコの才能に、エロい才能に惚れこんでいた。


(あのモッサリした大地母神の神官服でこのエロさよ? いっそもう私が改造した神官服着れば良いんじゃないかしら?

 サキュバスのお姉さん達が目を光らせているから、ヤヨイ様が心配してるような事にはならないと思うのよね。

 それに『棒舞』のスキルなんかの効果を倍増させる意味でも、改造神官服の方が百倍良いわ)


「そう言えばノリネエも今回『棒舞』習って、色々恩恵を獲得したのよね?」


「そうよ、私はこの『棒舞』を習って、『職能』はさっきも言ったけど『棒の舞姫』を取得したし、『スキル』で『魅惑舞姫』『幻惑美脚』『妖艶舞踏』『扇情腰尻』と四つもスキルを獲得したわ。

 『特殊魔法』も『桜華舞台』を取得できたし、なかなかの戦闘力アップよ」


「?! 凄いですね、そんなに沢山? お姉さま、効果って分かりますか?」


「そうね調べて分かった範囲だけど、二人にも連携の為に教えておくわね。

 『魅惑舞姫』は相手を魅了して、動きを止める効果があるみたい。

 『幻惑美脚』は『蹴り技』を放つ際に軌道を読ませないで相手に確実に蹴りを当てる効果ね。

 『妖艶舞踏』は『棒舞』によるスキルの効果と攻撃力が更に上がるみたいね。

 『扇情腰尻』は防御系ね、相手の攻撃を躱す、回避の動きが素早くなるわ。

 『桜華舞台』は凄いわよ! 効果? これは暫くは秘密♪ 防御系の特殊魔法よ」


「そうなんですね、名前はアレですが結構役に立ちそうな『恩恵』ばかりですわね、これも『色魔』と同じようなもので効果と名前が一致していないってことでしょうか?」


「そうね、そうなのかも知れないわね、そうよ名前はちょっと……けど効果はまともなのよ」


(いいえノリネエ、効果もアレよ? ……何故これでおかしいと思わないのか不思議だわ……『色魔』の件で名称がアレでも中身は真面だと思ってるのかもしれないけど、恐らく今回のは中身もアウトだわ……

 『魅惑舞姫』ね、相手を魅了して、動きを止めるって、これそのまんまエロ系の魅了よね?

 『幻惑美脚』これも足の動きで相手を魅了して自ら当たりに行くように仕向けているってエロ系の魅了技よ?

 『妖艶舞踏』は『棒舞』の効果が上がるって、エロでの魅了の効果を上げて相手の動きを封じてるだけよね?

 『扇情腰尻』は腰やお尻を振って攻撃躱すって、ノリネエ意味わかってるの?

 『桜華舞台』ねえ、ノリネエったら効果は秘密って……分かるから、コレ名称だけでその効果が丸分かりよ。完全にエロ系でしょ? この舞台ってあの舞台でしょ!)


 ノリコが一段と淫靡な官能の世界に突き進んだことをメグミは確信した。


(『棒舞』ってとんでもないわね。獲得できる『恩恵』を全部エロ系で纏めてくるとか凄すぎるわ。

 けどあれね、このエロ系スキルは魔物相手に通用するの? 魔物にもノリネエのエロさが通用するのかしら?)


 まあそれは『剣舞』も一緒で、メグミが獲得出来ていないだけでエロ系スキルの宝庫だ。

 こちらも体を撓らせ、鞭のように体を使いながら、時に体をくねらせ敵の攻撃を躱し、敵に寄り添うが如く接近し、敵を撫で摩るようにしながら体を切り裂き、誘うような脚付きで蹴り砕くそんな戦い方である。


 男性相手の対人戦闘においては非常に有用なスキルなどが多数存在しているが、メグミは主目的である魔物相手にそれらのスキルが効果があるか疑っていた。

 故にそれらのスキルの取得よりもその戦い方の有用性のみを重視して『剣舞』を学んでいるのだ。


 メグミ達3人はお互いのステータスを見せ合い知っているのだが、メグミのステータスは二人に、


「どこの厨二病ですか? 本当にメグミちゃんはステータスまで出鱈目ですわね……」


「血に飢えた獣? メグミちゃん本当に女の子なの? 男の子のステータスみたいよ?」


そう呆れられた。


「うるさいわね、良いじゃない戦闘系が充実してるでしょ!」


 一方ノリコのステータスは、


「清純と淫乱が同居し過ぎてカオス過ぎる……若干、いや可成り、淫乱が勝ってるわよ?」


「お姉さまはメグミちゃんとは別の意味で出鱈目ですわ……一切性的な行動はとっていないのに、この矢鱈と多いエロ系は何なんでしょうね?」


「ノリネエの色香が滲みだした結果じゃないの? ノリネエってさ、得もいわれぬエロさが有るのよね……なんでだろ? 見た目の所為かな? 本当に絶世の美女なのよね? もう冗談とか抜きで本当に美人なのよ。

 それに加えてこのスタイルの良さ、中身がお子様だとかそんなの関係なくエロいのよ、見た目がエロエロよ」


「エロエロっ?! ぅぅう、そんな、私はエロじゃないわ! ちっともエロじゃないもの! メグミちゃん酷いわ!! エロくないものぉ……」


「わっ、ちょ、泣かないでよノリネエ、ちょと言い過ぎたわ。そうねノリネエ自身はぱっと見は清純な感じよ? うん、それは間違いないわ。

 ……ただね、そのスペックがね……」


「スペックって何よ! 違う! 私ちっともHじゃないもの! エロじゃないわ」


「メグミちゃん、お姉さまはこのステータスを気にしてるんですから、もっとオブラートに包んでください。

 それにお姉さまは綺麗なだけですわ、それを見て男性が劣情を抱いたとしても、それはお姉さまの所為では有りませんわ。

 そんな感情を抱く男性の方に問題があるんです!」


「けどさサアヤ、ノリネエのエロさの主因はその胸よ? この我儘な爆乳があらゆる清純な要素を、全てエロ方向に変換してるのよ。

 この自己主張の激しい胸が有る限り、ノリネエはそこに立ってるだけでエロい妄想を掻き立てるわ」


「そんな胸って、ちょっと大きいだけじゃない……何でそんなに? そんな筈は無いわ!」


「ノリネエってスタイルが良いのよ、スタイルが良いだけでも凄いのに、そこに巨乳が加わるとね、まあ最強なわけよ。

 最強のエロスペックよ? こればっかりは本人がどうこうじゃなくてそのスペック故よね」


「ぅうう、そんなのどうしたら……どうしたらいいのよっ! …………いっそ晒しでも巻こうかしら?」


「苦しいだけよ? 良いじゃないちょっとくらいエロくても、何も害は無いわ。寧ろ私にとってはメリットばかりよ?

 それに万が一野郎が襲い掛かって来ても平気よ。私が命懸けで守るからノリネエはそのままで居ればいいのよ」


「胸が大きくて悩むなんて……羨ましい限りですわ……ねえメグミちゃん、私位の年頃の時ってメグミちゃんはどの位大きかったですか?」


「なんで私にだけ聞くのよ?」


「分かるでしょ! お姉さまは……参考になりませんわ! メグミちゃん、私って小さすぎやしませんか?」


「チッパイは正義よ! 何も恥じる必要は無いわよ?」


「うっ、っやっぱり……」


「サアヤ、ティタ様やサアヤのお母様もね? 分かるでしょ? まあティタ様よりは大きく成るわよ。

 写真だと若干サアヤのお母様の方が大きく見えたし……あれ? サアヤってハーフよりもエルフ寄りのクォーターだっけ?

 だとするとお母様とティタ様の中間くらい?」


「メグミちゃん勘違いしてますけどエルフにだって胸の大きな女性は居ますからね! 御婆様が若干……いや可成り小さめなだけです!」


「私はティタ様位の胸も好きだけどね、華奢なティタ様には、そうよ見た目が少女みたいだから、あの位が全体の雰囲気に良く合ってると思うわ。サアヤだってそうよ、その体形にその位の胸の大きさはちっとも変じゃないわよ?

 寧ろもっと小さくても、全く無くても良いんじゃないかしら?」


「全くないとか男の子じゃないんですから嫌です!! それでも私は大きい方が良いですわ!!」


「ねえメグミちゃん私ってエロいの?」


「えっ、まだ落ち込んでたの? 全くノリネエは気にし過ぎよ、見た目だけよ? 本人がエッチだとは言ってないからね? いい加減落ち込まないで復活して来なさい」


「メグミちゃんってズルいですわ、自分で私達を落としておいて自分で励ますんです。酷い人ですわ!」


「サアヤのは自爆でしょ? 人を悪人みたいに言わないでよ! それに悪人具合でいったらサアヤのステータス……

 これって魔王とかそっち系のステータスなんじゃないの? エグイ名称の『職能』が多いわよ?

 ってかこの辺の職能って不死者が取得するような『職能』なんじゃないの?」


「私は一応殆どハイエルフですから、寿命が有るかでさえ不明ですわ。だから不死者と言えないくも無いでしょ? 問題ありませんわ」


「……ふーーん、まっ、言いたくない事は言わなくても良いわ。ただね、一人で思い悩むのは止めなさい、どうせ碌なことにならないから」


「むぅぅ、別に秘密にしてる訳じゃあ有りませんわ、こうしてステータスだって見せてます。ただちょっと……」


「いいのよ、無理に話さなくても、また話す機会もあるでしょ? それに人に言えない悩みの一つ二つ誰にだってあるものよ、それだけ分かってれば良いわ」


「ねえメグミちゃん、それって言ってる事がちょっと矛盾してないかしら?」


「あれ? 言葉が足りなかった? ふむ? そうね言い直すわ。

 自分だけが何か抱えていて、秘密を持ってるって後ろめたい気になる必要は無いのよ。

 どうせ人間なんてみんな多かれ少なかれ悩みを抱えてるし、秘密も有るからね?」


「ああ、そう言う意味ね、確かにそうね。悩みの無い人なんて居ないものね」


「お姉さまもそんなお悩みが?」


「そうよ、目下最大の悩みはメグミちゃんにエロいって言われないようにするにはどうしたら良いのかって事なんだけどね……」


「無理よ? …………その胸を如何する気よ? 大事な私の宝物よ? 勝手に変なことしたら例えノリネエでも許さないわよ!」


「ぅっく、私の胸よ、私の体なんだから! なんでメグミちゃんの許可がいるのよ? なんでメグミちゃんが許さないのよ!」


「日々お風呂でマッサージとかしながら大事に育ててるのよ! 私の努力を無駄にする気なの!」


「えっ! 逆切れしましたわ……相変わらず理不尽な……お姉さま呆けないでください。メグミちゃんがまた無茶苦茶言ってるだけですから。

 それにメグミちゃんお姉さまのはその辺で十分ですわ。寧ろ私の方を育ててください!」


「馬鹿ねサアヤ、ノリネエの胸は至宝よ? 大きさだけじゃなくて形や張りを保つためにも日々のメンテナンスは欠かせないわ!

 それにね、サアヤのはそれ以上あまり大きくならないように、脂肪を燃やす方向でマッサージしてるわ!」


「私の胸になんてことを!! なんてことをしてるんですか! 胸が大きくならないのはメグミちゃんの所為でしたのね!!」


「ねえメグミちゃん、その胸の小さくなるマッサージって私にも効果あるの?」


「あのねノリネエ、マッサージして血行が良くなるとね、その所為で返って胸が大きくなる人と脂肪の燃焼が促されて小さくなる人、二種類の人がいるのよ。

 まあどちらにしても肌の張りが良くなって、胸の形が綺麗になるから私にとってはメリットだらけなんだけどね。

 ノリネエは大きくなるタイプでサアヤは小さくなるタイプってだけよ?」


「ううぅ、一体如何したら良いの、どうしたら小さく……」


「なっ!! 豊胸マッサージはもしかして逆効果?!」


「二人とも成る様にしかならないから諦めなさい。胸はね、大きさじゃないのよ! 大きくても小さくても等しく愛でればいいのよ」


「自分が丁度いい大きさだからってメグミちゃんズルいですわ」


「メグミちゃんって意外と胸大きいのよね……形も綺麗だし」


「ふふんっ、良いでしょ! やっぱり日々適度に運動するのが良いのよ、それに背は伸びないけど牛乳を飲んでいるのが効いてるのかな?

 こっちに来てから少し胸が大きくなったわ!」


「私も飲んでいるのに何で……やっぱりメグミちゃんはズルいですわ!」


「牛乳……飲むのを控えた方が良いのかしら??」



 サアヤのステータスは当初は若干変な『職能』があるものの、魔法系に優れた構成で比較的真面だったのだが……メグミの思いつく様々な実験に付き合って『恩恵』を取得していくうちに二人と同じく若干カオスな状態になっていた。


 以前この地下1階で『ラバーウィップローズ』を倒した際にも……


「ねえサアヤ、このドロップアイテムの『ラバーウィップ』ってそのまま使えないの?

 あいつらが武器として振り回してるんだから、鞭として使えるんじゃない?」


「え? ああ、使おうと思えば使えますけど、こんな物を使ってなにをする気ですか?」


「何をってそりゃあ武器として使うのよ? 鞭って結構優れた武器なのよ?

 振り回すと先端が撓って凄い速度でしょ? 簡単に先端の速度は音速を超えるのよ。ピュって音がしてるでしょ? これ空気を切り裂いた時の音なのよ。

 槍と違って変幻自在だし軌道が読まれにくいのも良いところね。それに攻撃力だって結構高いわ。

 相手に当たった時の衝撃音を聞いても分かるでしょ、これ先端が当たると容易に皮膚を切り裂く程の攻撃力よ。

 中途半端な位置で攻撃を受けるても防御の裏面に先端が回り込んだりして、結構面白いのよね」


「メグミちゃんって本当に器用ですね、もう鞭を操ってる。へぇ、こんな鞭でも『ソルジャーアント』の甲殻位は簡単に裂けるんですね」


「棘が良い感じよ、それにこいつら脚が細いから鞭の先端を上手い事当てると脚が簡単に取れるわよ」


「メグミちゃん、それ面白そうね、握り手の部分の棘をとれば使えるのね?」


「ノリネエは若干不器用なんだから、ケガしない様に気を付けてね?

 そうそんな感じで良いわ」


「あれ? 上手く行かないわ? え? 腕を振ったら直ぐに引き戻してもう一回振るの? あっ! 出来たっ! 出来たわ♪」


「そうか鞭だと力を籠める必要がないからノリネエでも使いこなせるのね。

 飲み込みは速いのよねノリネエって」


「んふふ、それっ! えいっ! なんだか楽しいわ、初めての武器だし新鮮で良いわね」


「『ソルジャーアント』が丁度いい感じですね。こいつらドロップアイテム集中しているから攻撃が当たりやすいですし、こっちにあまり攻撃してこないから練習台にもってこいですわ」


「普段はウザいだけの魔物だけど、獲物に事欠かないし、良い感じね! ふふんっ、どう? 見て鞭の二刀流!」


「メグミちゃんたら本当に器用ですわね……ああ、もう二人だけズルいですわ、私も鞭でビシバシやりたいです!」


「『ラバーウィップ』はまだまだあるからサアヤもやればいいじゃない。ちょっと耐久性が心配だけど、安い物だし、ゴムの素材としては別に傷んでいても問題ないでしょ? 使い捨て感覚で使えるわねコレ」


 普段は嫌われ者の『ソルジャーアント』だが、練習台には本当に丁度良かった。次々に現れては三人の鞭の攻撃の練習台になってくれるのだ。

 硬すぎもしないし、ちょうど鞭の攻撃が効きやすい魔物だったことがこの時は幸いであり災いであった。


 散々鞭で『ソルジャーアント』を倒しまくった三人が、最後の『ソルジャーアント』を倒し終わって意気揚々と帰宅し、居間でのんびり寛いでいるときにそれは起こった。


「なっ!!! 何ですかこの『Sの女王様』って『職能』は!!」


「えっ! 何? サアヤってば何か面白い『職能』を獲得したの?」


「いまステータスを確認してたら、『Sの女王様』なんて『職能』が……これって絶対先ほどのですわ、メグミちゃんはどうです?」


「ちょっと待って今確認するわ、あっ! 私も獲得してる。なるほど鞭である程度魔物を倒すと獲得できる『職能』なのね。効果は何だろう?」


「ちょっと待ってくださいね、今調べてきますわ」


「って!? 二人ともなんでそんなに落ち着いてるのよ! 『Sの女王様』よ? これってあの……あの意味での女王様でしょ、ううぅ、私イヤよ、こんな『職能』ばっかりなんで増えるの! イヤよイヤイヤ!!」


「そうは言ってもねぇ? もう獲得してるから消そうにも消せないし、それに持ってても困ることは無いし、良いんじゃないの?」


「けど益々私のステータスに色物系が増えたのよ!」


「ノリネエだってノリノリで鞭で魔物をシバイてたじゃない。楽しんだ結果よ。ここは諦めて受け入れなさい」


「そんなぁ……ああ、お母様……赦して」


「この程度で自分の子供を怒ったりはしないと思うわよ? ノリネエのお母様でしょ? どう考えてもノリネエと同系統のノホホン系よ? ノリネエだって自分の娘が意図せずに獲得した『職能』如きで目くじら立てたりしないでしょ?」


「それはまあ、そうかもしれないけど……けどだって!」


「どうしたのノリコ? 大きな声を出して、女の子がはしたないわよ?」


「うっ、『ママ』何でもないわ、何でもないのよ」


「ノリネエがまた色物系の『恩恵』を獲得しただけよ『ママ』、何時ものことよ、それより今日のオヤツは何?」


「今日は卵の良いのが入ったからホットケーキにしてみたわ。ほらっノリコも落ち込んでないで食べなさい」


「もうっ、酷いわメグミちゃん、なんであっさりバラしちゃうのよ! それになんだかオヤツの方が私よりも大事みたいだわ……」


「ノリネエ、ホットケーキは出来立てが美味しいのよ?」


「あっ! オヤツ! ホットケーキですわ♪ 美味しそう!」


「サアヤ、どう何か分かった?」


「ええ、『Sの女王様』について書いてある書物が見つかりましたわ。

 どうやら鞭系の武器で魔物を15匹以上連続して倒すと取得するようですわ。

 効果は鞭系武器の威力上昇と調教の際の効果倍増だそうです」


「へえ、それで取得できたのね、けど調教? M男なんて調教したくはないわね」


「違いますよメグミちゃん。ここでいう調教は『獣使い』が行使する魔物を従える為の『調教』スキルの事ですわ。

 一時的に魔物を使役できるスキルが『調教』です。その『調教』の効果が上がって成功率が高くなって『調教』がやり易くなるみたいですわ」


「一時的に? ペットとは別なの?」


「そうですわ、普通のペットは幼生体から飼いならす必要がありますけど、この『調教』スキルを使うと迷宮の発生型の魔物も一時的に使役可能になります。

 あくまでもスキルの効果が続いている間だけですけどね」


「それにしたって最初から効果が倍増とか凄いわね? 一気に倍なの?」


「そうみたいですわ、『獣使い』を目指す者には必須の『職能』みたいですわ、この『職能』があっても同格の魔物の『調教』の成功率は低いらしいので……『獣使い』も中々大変みたいですね」


「そうなんだ、『獣使い』の師匠も苦労してるのね……それでも同格の魔物を従えることができるって結構すごくない? 格下相手なら成功率も上がるのよね。

 なら雑魚狩りは楽そうよね。近寄ってくる雑魚を片っ端から『調教』してそいつらに魔物の相手をさせればいいんでしょ?」


「魔物の『調教』には『支配力』が関係してきます。魔物のペット飼う場合もそうですが、この『支配力』は中々増えませんからね。

 普通の冒険者のペットが1匹なのもこの『支配力』が一般の冒険者ですとそれで限界だからですわ。

 『獣使い』はこの『支配力』を向上させていく職業なのですけど、それでもペットを含めた従わせることの出来る魔物は5・6匹、多い方でも10匹程度といわれています。

 幾らでも調教できるわけではないんですよ」


「『支配力』ねえ、それって何なの? ペットって強くなっていくわよね? それでも必要な『支配力』は普通変わらないんでしょ?

 ペットの強さと関係なく、個体数のみに関係する力なの?」


「『支配力』はそうですね……一般的にいうなら魔物を従わせるカリスマ。その人の持つ魅力でしょうか?

 強さとは別の意味で魔物を従わせる力ですわ。

 そもそも魔物のペットと人との関係は、主としての冒険者とペットとしての魔物、双方の間の信頼関係と、自らを従わせるのに相応しい主であるという資質が必要なんです。

 『獣使い』はこの包容力といいますか、相手を従わせる資質が高いんです。

 そして魔物のペットとのコミュニケーションの取り方が上手いんでしょうね。複数の魔物のペットの相手をしても信頼関係を築けます。

 魔物のペットは常にこの信頼関係を確認しています。頻繁にスキンシップを図るのも、この信頼関係に問題がないことを確認していると言われています。

 このコミュニケーションをとれる限界を『支配力』といっているのですわ」


「じゃあこの『Sの女王様』はその『支配力』を増やすってことなの?」


「そういう事みたいですわね」


「なんだ、色物系な名称だけど中身は普通なのね……」


「お姉さま、『Sの女王様』ですよ? 増える『支配力』は『女王様』の様な圧倒的な気品と威圧感によるモノだそうです。しかも『S』ですからね……」


「どう考えても色物よね、サディスティックに魔物を鞭でシバイて従わせる『職能』よ? 色物以外の何物でもないわ」


「ぅうう、そんなぁ……」



 そんなことを思い出しながら、メグミは今も隣で棘付き鎖鉄球で『ラバーウィップローズ』を粉砕しているカグヤを見る。


「オホホッ! ワタクシに鞭を向けるなど、身の程を知らないのかしら、この雑草が風情がっ! その程度の鞭がワタクシに届くと思って?

 オホホッ、ワタクシが鞭の使い方を教えて差し上げますわ、オーーーホホホッ!!」


(どこが鞭だ!! いやカグヤ! あんたのそれは鞭じゃないでしょ? 鞭じゃないよね?

 あれ? 大分類だとアレでも鞭に含まれるのかしら?)


 目の前で今まさに棘付き鉄球に粉砕されながら吹き飛んでいく『ラバーウィップローズ』を眺めながら。


(にしてもアレね、これが鞭だろうとそうでなかろうと、カグヤは間違いなく『Sの女王様』を取得してるわね……)

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