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第30話おかえりなさい

 ゴロウたちにペースを合わせてのんびりと歩いて一時間程、街の城壁付近に帰り着いた時には辺りはすっかり暗くなり夜が訪れていた。


 タツオとはあの鉱山前の広場で別れた。

 アキヒロ達は中級冒険者やおじいさんたちと一緒に、鉱山地下2階と3階の魔物の討伐・見回りに当たるらしく、ケガの治ったタツオもそれに参加するらしい。


「あんた怪我が治ったばかりで大丈夫なの? それに魔物の討伐なら私も参加したいわね」


「ごめんねメグミちゃん、タツオはさ、ほら僕たちが一緒だから特別に参加が認められているけど、今回の緊急クエストには見習いどころか、本来なら『鋼鉄』以下の冒険者は参加出来ないんだよ」


「君達三人なら実力的には何も問題はないのだろうが、こればっかりはな」


 参加したがっているメグミをノブヒコとアキヒロがそれぞれに止める。

 アキヒロ達もメグミの実力は今日の一件で十分把握しているが、それはそれだ、例外ばかり認めていたら収拾がつかなくなる。ある程度の線引きが必要なのだろう。

 それに今日はゴロウ達も一緒だ。メグミ達は兎も角ゴロウ達では足手まといにしかならない。


「それに『コボルトソルジャー』や『コボルトナイト』の狩り残しが居ないかの確認だからな、地下3階まで全てのルームを確認して回るから、結構時間がかかるぜ?

 この時間からだからな、終わるころには門限過ぎてるだろ? 確か9時だったか? 門限は。

 そこからヘルイチに徒歩で帰って居たんじゃあ街につく頃には日付が変わってるんじゃねえか?」


 タツオが今回のクエストの概要と拘束時間の長さを指摘する。

 この門限は『ママ』とメグミ達の間で取り決めた門限でもあるが、一般の見習い女性冒険者が入寮している、女性見習い冒険者寮の門限でもある。

 というより、寮の門限にメグミ達が合わせたのだ。

 『ママ』は午後6時を強硬に主張したのだが、それでは、移動、換金、報酬の受け取り等の冒険後の処理の時間を考慮すると、実質の活動時間が極端に短くなってしまう、3人で何とか説得して一般的な見習い冒険者寮の門限に合わせてもらったのだ。

 ただし、この門限に一秒でも遅れると、ペナルティとして午後6時の門限にそれから一か月間なる条件付きだ。



 女性、特に見習い冒険者は夜間の活動をほぼ強制的に冒険者組合から制限されている。


 これは夜間の方が強い魔物が多く、危険な魔物のいるエリアに夜間、経験の浅い見習い冒険者が入り込むのを防ぐ目的もあるが、それよりも防犯の意味合いが強い。

 未熟な見習い冒険者は、犯罪組織、他国の非合法組織に狙われやすい。


 何故ならある程度熟練した黒銀クラス以上の冒険者を攫うことは、例えそれが訓練を受けた他国の精鋭工作員であっても難しいからだ。


 それほどこの地域と他国とでは個人の戦闘力に差があるのだ。


 しかし、だからと言って弱い見習い冒険者を攫って役に立つのか? といった疑問もわくが、なにせこの街の冒険者は将来有望な召喚者が多い、他国としてはそんな将来有望な勇者の卵を強引な手段を用いてでも手に入れたいのだ。


 実際にメグミ達は結構な頻度で他国の組織に狙われている。だがメグミ達の場合、本人がそれを物ともせずに追跡を振り切ったり、家に侵入しようとする不審者を『ママ』が容赦なく殲滅したりと、本人たちが知らぬうちに撃退しているから知らないだけなのである。

 しかし、メグミ達のように自分たちで撃退しているのは極めて特殊な例外であり。

 普通の見習い冒険者にこのような真似は困難なため、冒険者組合は用心し過ぎてし過ぎることは無いを合言葉に見習い冒険者を保護しているのだ。


 一方、男性の見習い冒険者には特に門限が設けられていない。

 何故なら男性の場合、門限を設けても破る者が続出し、門限の意味がなかった為だ。

 違反者の続出に早々に門限で縛ることを諦め、いっそそれを利用する方向に舵を切ったのだ。

 女性が攫われるよりはマシ、そう思ったのかは定かでないが男性を囮代わりにして、そういった組織を炙り出す方針なのだそうだ。


「まあ男子の場合はね、誘拐組織によっぽど変なのが居ない限り、貞操的に安全だからね。

 なに必ず助け出すからね、男子の場合、貞操というか精神的に無事なら何も問題ないさ。

 それにね男子は多少怖い目に遭った方がいい位だ、丁度いい薬になる。誘拐組織も潰せて一石二鳥だね!

 ハァッ……まったく男子は無謀でヤンチャなのが多くて困っちゃうよ……」


 とはアツヒトの談だ。

 幾ら困った連中だとしても危険な囮にするのはどうかと思うが、幾ら諭しても忠告に従わない、本当に仕方なくなのだそうだ。


「そうは言っても、本当に変なのが居た例はないの? 軍隊とか男所帯でしょ? なんとなくそんなのが多いイメージなんだけど?

 誘拐してる連中って潜入工作員、いわば軍の特殊部隊でしょ?

 ならそいつらだけが例外だとは思えないわ、そうでしょ?」


 これは何もメグミの偏見というわけでなく、実際に軍隊にはそんな趣味の者が多いらしい、男性の比率が高い為、必然的にという面もある。

 一定人数に数パーセントでそういった趣味の人間が居るとして、母数が多ければ必然的に人数も増えるということらしい。


「……潜入工作員だからね、他国だって馬鹿じゃない、そんな余り身動きの取れない状況に変な奴を送り込んだりしないよ。

 そんなのが居て攫ってきた子に手を出すような状態だと、他の一般の工作員の士気が下がるだろ?

 人質というか捕虜というかそっちに手を出すだけならともかく、万が一仲間である自分たちまでその欲望のはけ口にされたら堪らないからね。

 それに本来、将来役に立つであろう見習い冒険者を攫うために危険を冒してるんだ。

 彼らだって、人もお金も時間も使って苦労して他国に潜入して、存在がバレる危険を冒して見習い冒険者を攫う。それだけのコストをかけた獲物を台無しに、それを傷物にしようとする、しかも同性を襲うような問題児が送り込まれてきたら、僕だったら本国の正気を疑うね」


 別段そういった趣味の人々を差別するわけではないが、軍隊は言わば暴力組織だ、普段から鍛えているだけ有って、暴力的な手段に出られると抵抗するのが難しいという事情がある。

 またそういった暴力組織で有るからこそ、乱暴な手段に出る者が比較的多い傾向にあるといった事情もあり、ノーマルな一般工作員からは煙たい存在になりやすいとのことだ。


「言い訳は良いわ、今までに居なかったのか? 聞きたいのはそれだけよ」


 一瞬言いよどんだアツヒトを見逃す程メグミは甘くなかった。


「……何事にも例外は有るんだよ、上司がクソだとその下についてる部下は不幸だよね」


 別段攫われた男性が襲われようが何されようが気にもならないメグミだが、同性を襲う工作員、そちらに興味があったのだ。

 サアヤが興味津々に聞いているのはその趣味から理解できるが、何故メグミがそれに興味を示すのか、それが一同には少し疑問だった……


「居たんだ……」


「居たのね」


「それでその方はどうなったのですか? どうなったんですか! やっちゃたんですか! やられちゃったんですねっ!」


「ちょっと落ち着いてサアヤちゃん! 大丈夫、大丈夫だったから! 未遂だったから! うん多少トラウマが出来たかもしれないけど未遂だったから!」


「なんだ……」


「ねえサアヤちゃん、無事だったのに何で少し残念そうなの?」


「だってお姉さま! そこはほら、わかりませんか? それで目覚めちゃったりとかだったら!! ね?」


「ね? っと満面の笑みで言われても反応に困るわ、サアヤちゃん、本当にちょっと落ち着いた方がいいわよ?」


 ノリコがサアヤを宥めて居ると、それまで大人しかったメグミが、


「ねえ、逆に綺麗なお姉さんを使った、ハニートラップ的な工作員は居ないの? 脳筋の男共ならホイホイついていきそうなんだけど?」


何気ない風を装って聞いてくる、しかしその目がぎらついている。

 悪い予感を感じつつもアツヒトはそれに答える。


「そっちも居るね、本当に困ったことに実際にホイホイされる子も居てね。

 しかもこの場合、本人の意思でついて行ってるから、取り戻そうにも、救いに行ったら逆に追い返されたりするんだよ」


「居るんだ!!」


「なんでメグミちゃん喜んでるの?」


「お姉さまっ、メグミちゃんの本当の狙いはこっちですわ! 同性を襲う工作員!

 これってその同性が男性とは限らないってことですよ!」


「まってサアヤちゃん、狙いって言ってもその人達は男性をその……誘惑するんでしょ?

 メグミちゃんは女性よ関係ないでしょ? それに何でその人たちを狙うの?

 変なこと言うわね?」


「あれ? そういえば……けどメグミちゃんこの様子は……気の所為?

 それよりも、ねえアツヒトさん、その場合どうやってこちら側に引き戻すんですか?

 召喚するのだって結構な手間と魔力が掛かっているのですよね、それに見習い冒険者として育てるのだって資本がかかって居ると思うのですけど?

 戦力的にも有望な男性見習い冒険者をホイホイ持って行かれて平気なのですか?」


「ん? まあ大丈夫だよ、なにせこっちには相手に無い手札が揃ってるからね。

 ハニートラップを仕掛けてくる娘はそりゃあ美人が多いけど、所詮は人としては可愛い程度、召喚されたての初心な男子はそれでもホイホイ引っかかるけど、こっちにはねぇ。

 サアヤちゃんを見たらわかるだろうけど、この世界の他種族、エルフやサキュバスはね、人族とはちょっと美女としてのレベルが違う。

 特にサキュバスはね、ちょっとやそっとの人族の美人じゃあ相手にならないよ。

 色々なサービスも含めて初心な男子には効果覿面なんだよね」


「? 確かにサアヤちゃん達エルフはビックリするくらい綺麗だけど、けどそれは相手だって一緒じゃないんですか? 他の国にだってエルフは居るのでしょ?」


「お姉さま、この地域以外に人族と一緒に暮らしているエルフは居ませんわ、昔色々あったので他国に有るエルフの森は人族の国とは断交しているんです。

 中立の獣人族の国やその他の種族の国とは交流がありますが人族とは完全に断交してます」


「あら? そうなの?」


「ええ、それに獣人族の特に美形な種族も人族の国とは断交しているところが多いですね。

 そもそもこの地域にしか住んでいない獣人族の種族も多いんです。

 それに先ほどアツヒトさんが言ってたサキュバスもこの地域にしか住んで居ません。

 強力なサキュバスが偶に他の地域に出張する例はありますけど、サキュバスはすべてこの地域に集まっています」


「サキュバスはこの地域だけにしか住んでいないの?

 けどサキュバスって結構強力な魔族なんでしょ?

 どこででもやっていけそうなのに、なんでこの地域に引きこもってるの?」


「別段引きこもっているわけじゃあないのでしょうけど、特に好戦的な種族じゃありませんからね。

 他国では邪悪な魔族として討伐対象になっていたりしますから、争いを嫌ってこの地域に移り住んできたのですわ。

 この地域では別に正体を伏せてひっそり隠れ住むなんてことしないでいいですからね」


「サアヤちゃんが説明してくれた通り、人族の国は人族しか住んでいないことが多いんだよ、若干獣人族やドワーフなんかの別の種族が居ることもあるけど珍しい部類だね。

 だから他国のハニートラップを仕掛けてくる娘たちも人族に限られてる。

 確かに人族にだってノリコちゃんの様な絶世の美女も居ないではないのだろうけど、そんな美女を危険な他国への潜入工作員として送り込まないだろ?」


「どうしてそこまで? なぜそこまで人族は他種族に嫌われているの? この地域だと普通に人族も他の種族も交流があるわ、普通に接してますよね?」


 アツヒトの絶世の美女発言を華麗にスルーしてノリコが疑問を投げかける。


「まあ昔色々あったんだよ、その時にこの地域は他種族の味方で、他の国々は他種族に酷いことをした、ってことだね」


「まあ他国の事情とか今はどうでもいいわ、それよりも今重要なのは他国のハニートラップを仕掛けてくる娘よ。

 人族だろうが何だろうが種族なんて如何でもいいのよ!

 ハニートラップを仕掛けられる程度に美人ってことでしょ?」


「うん、まあ美人が多いね、そうじゃなきゃ男が釣れないからね」


「それは良いことを聞いたわ! ねえそのお姉さんはあれでしょ? 工作員なわけだから、敵なのよね?」


「……まあ敵対勢力で有ることには違いないかな?」


「ならそのお姉さんたちを捕まえて好きにしていいのね? そうよね!!」


「……あっ!! そうかメグミちゃんが矢鱈と食いつくからおかしいと思ってたけどそう言う事か!!」


「んふふっ、美人のお姉さんを好き放題に出来るなんて夢のようだわ! 早速狩りに行くわよ!」


「ダメだよ! ダメだからね? 他国の工作員が仕掛けてきた場合に反撃するのは構わない。

 けどね、こちらから仕掛けるのは許可できない!

 そもそも潜んでいる工作員を無関係な一般市民とどうやって区別する気なんだい?

 それにこの地域の捜査権は5街会議で許可された人達にしか認められていないよ?」


「そんなの冴えない男共に声かけている美人を尾行すれば直ぐに尻尾を出すわよ。

 居場所さえ掴んだら後はこっちのモノよ!

 サクサク襲撃して美人なお姉さんゲットよ!」


「えっ!! ゲットってメグミちゃん???」


「ちょ、メグミちゃん何をする気なのかな? 捜査権もそうだけど逮捕権も尋問権も一般の冒険者には認められていないからね?

 不審な人物を見かけたら冒険者組合に通報してくれるだけで良い!」


「ふっ、甘いわねアツヒトさん! 襲われたら撃退して良いのよね?

 なら襲われたことにして、いいえ違うわね、襲われればいいのよ!

 鴨葱じゃあないけどその美人さんの潜んでいる拠点の周辺をウロウロしてれば相手から仕掛けてくるでしょ!

 ハニートラップ要員とは言っても拠点には他のメンバーだっているだろうし、男だけ攫おうとしてるわけじゃないでしょ? 絶対に釣れるわ!!」


「ダメよメグミちゃん! 危ないことはしてはダメよ! 相手が自分の手におえなかったらどうするの! 女の子なのよ! 大人数で襲われでもしたら……絶対にダメ!」


「メグミちゃん、そもそもお姉さんをゲットしてどうする気ですか?」


「そんなの決まってるでしょ? いい事よ!

 相手は敵なのよ? 捕まえて尋問に見せかけて色々やっても合法! 合法なのよ!

 出来るだけ強情な方が攻め涯が有るわね!

 まあ例えべらべら喋ったところで、そこはほら、もっと色々知っているだろって態でそのまま……ね♪」


 メグミは若干Sだった。


「ね♪ ってメグミちゃんっ!!

 同意するわけないよね? 分かってるよね? ねっ! メグミちゃん冗談だよね?」


「はぁ~、何を考えているのかと思ったら……」


「ねえ、これって合法なの? えっ? 合法なんですか?」


「違法だよっ! 違法すぎて真っ黒だよ!

 絶対にダメだからね! 相手の人権を完全に無視してるじゃないか!

 そんなことが合法なわけないだろ!!」


「はっ、何を良い子ちゃんぶってるのよアツヒトさん、私、色々知ってるんだからね?

 自分たちだけはOKで、私はダメだなんてそんなの認めないわ!」


「えっ? ちょメグミちゃん? あの……なにを知っているのかな? なんで?」


「私の情報網を甘く見ないことね!」


 酔っぱらいの二人組はお酒を奢ると、本当に、本当に色々な情報を駄々洩らしてくれるのだ。


「くぅ、誰だ、誰が漏らしてるんだ! けどダメだよメグミちゃん! これは僕たちの仕事だ。

 君が汚れ仕事に関わることは無いんだ!」


「自衛の為です、仕方なかったんです!!」


「いや真面目な顔して言っても認めないからね? 勝手にやるのも禁止!」


「チッ、そういや、攫われても必ず助けるって言ってたけど、どうやって?

 相手だって馬鹿じゃないでしょ? 簡単に救出できるとは思えないんだけど?」


 形勢不利と見たメグミはサクサク話題を変える。だが決してアツヒト達の話しに納得したわけでは無かった。


 メグミとて別段綺麗なお姉さんだけが目的ではない。


 最近周囲でウロチョロしている他国の工作員らしき連中がソロソロ本気で鬱陶しかったのだ。

 メグミだけ狙われるなら冒険者組合の作戦に協力して囮役を続けても良かったのだが、ノリコやサアヤも同様に、と言うか3人纏めて攫う気配を感じて方針を変換した。


(私だけなら何とでもなるけど、ノリネエやサアヤは数で押されると少し不安よね。

 私だけじゃあ護りきれないかも知れないわ。

 この位脅しておけば流石に冒険者組合も囮作戦を諦めて対処するでしょ。

 まあそれでも動かなかったらそれまでね。コッチも本気で対処するだけの事!)


「ん? アレ今回は割と素直だね?

 ……まあいいか、攫われた人の居場所は直ぐに分かるんだよ。

 見習い冒険者になった時に色々登録したよね? アレで居場所も分かるようになってるんだ」


「メグミちゃん、前に税金を納め無い他国から来た冒険者見習いのお話をしたでしょ?

 アレと一緒ですわ。

 冒険者に登録していれば『探索』の魔法で直ぐに位置が特定できるのですわ」


「相手だって馬鹿じゃ無いんでしょ?

 妨害魔法とか使って『探索』を阻止するんじゃ無いの?」


「出力の問題ですよ、相手が幾ら妨害してもこの地域の『探索』の方が遥かに出力が上なんです。

 いざとなったらこちらには魔族の方が居ますからね。

 他国の術者が対抗するのは不可能でしょうね」


「そうなの? 最近では他国でも召喚が行われているのよね?

 なら魔族の協力が得られているんでしょう?

 相手だって対抗出来ると思うけど……

 いや待って! そもそも召喚出来るなら何でこの地域の冒険者を攫って自国の冒険者にしようとしてんのよ。

 手間暇掛けて、危険を冒してこの地域の冒険者を攫う必要がどこにあるの?」


「他国で召喚が行われているのは極一部の国だけです。

 そもそも魔族も一枚岩では有りません。

 自分達を殺せる勇者候補を召喚する事に大半の魔王は反対だったと聞いてます」


「その通り! 流石サアヤちゃんは博識だね!

 それにね大半の魔族は迷宮に、地下に籠る今の状態にすら納得していない。

 そうしないと人が滅んんで自分達のご飯が無くなってしまう、その理由と必要性を理解しているから嫌々ながら従っているだけなんだよ」


「ですから召喚自体が長らくこの地域でしか行われて来なかったんです。

 それに腐ってもこの地域は大魔王とそれに近い4人の魔王が統べる迷宮の有る地。

 その配下の魔族の質が、強さが他とは比べ物にならないんです。

 最近他国で召喚が行われだしたのも、この地域との格差に焦ったその国の魔王が自ら召喚を行なっているそうですからね。

 召喚に必要な魔力はそれ程膨大なんです。

 それに仮にも魔王ですから召喚以外の雑用など引き受けてはくれません。

 召喚自体必要に迫られて仕方なくと言った感じらしいですからね。

 ですからこの地域の『探索』の妨害なんて他国の術者では不可能ですわ」


「他の国に召喚者が少ない理由は分かったわ、『探索』に対抗出来ない理由も分かった。

 けどそもそもこの地域の召喚者を攫う理由がまだわからないわ。

 嫌々ながらも魔王が協力して日本人以外にも結構な人数が召喚されているのよね?

 ならわざわざ危険を冒してこの地域の召喚者を攫う必要がないでしょ?

 大体召喚者じゃ無くても優秀な人材はこの世界にだって結構居るじゃない?」


「確かにそうよね、この地域の見習い冒険者も半分くらいは召喚者だけど、それは言換えれば半分以上はこの世界で生まれ育った人、彼らも決して私達に劣っていないわ。

 寧ろ優秀な人も多いわよね?

 だって人族以外の他種族なんて基本スペックからして人間離れしてるわ」


「そうでしたわね、お姉さま達は他国の現状が殆ど理解出来ていなかったんでしたわ」


「他国の現状?」


「そう他国の現状です。良いですか育ってきた環境、これが人の人格形成にいかに重大な影響を及ぼすのか、この点を留意して聴いてください。


 他国では人々は城壁若しくは砦の様な物を築いてその中で生活しています。と言うかその中でないと生活出来ません。

 それは獣人族やエルフも同様です。

 集落や街はそれによって強固に守られています。


 しかも、この地域では地上の魔物は殆ど雑魚扱いですが、他国ではオークにすら苦労しているのが実情です。


 何故か?


 確かにこの地域と他ではその技術力の差もあります。けどもっと深刻なのは、そんな環境で育った人々の心です。

 砦や城壁と言ってもその規模や質は色々有るんです。決して安全な訳では無いんですよ。

 魔物に怯え、その襲撃を度々受けてきた人々の心には魔物への恐怖心が心の奥底にまで刻まれているんです。


 良いですか? この地域の人達が異常なんですよ。


 オークは大半の男性よりも大きな魔物なんです。力だってその体格に比して強いんです。

 そんなオークに襲われて家族を、知り合いを殺されたり、攫われた経験のある人にとってオークは非常に恐ろしい魔物なんです。

 そんなオークに対抗出来るのはごく一部の鍛え上げられた戦士位です」


「最近は変化して来ているけどね、それでも冒険者になりたい若者の数は他国では非常に少ない。

 徴兵が有ったりして兵士になる者は大勢居るけど、兵士の仕事は街の防衛だ。

 碌に戦闘訓練も受けていない、技術もない彼らは街の外に出て魔物と戦う事はしない。

 いや違うな出来ないんだ。そのための力がない。精々城壁の上から近寄って来た魔物に矢を射掛けるくらいしか出来ない。

 冒険者になって魔物を狩るような若者は本当に少ないんだよ。

 其れこそ極一部の才能ある腕自慢が無謀に勇者を夢見て冒険者なる位で、大半の若者はその恐怖心から比較的安全な兵士なる事すら嫌がるんだよ」


「この地域にはこんなに冒険者志望の若い人が溢れてるのに不思議だわ、そこまで他国の人と才能に差はないでしょ?」


「それが生まれ育った環境の差なんですよ。

 この地域では当たり前の様に定期的にオークの討伐遠征をしています。

 しかも狩り過ぎない様に狩る数を調整しながら狩っているのが現状です。

 ゴブリンに至っては訓練用の木偶人形扱いです。

 街の周囲に現れた魔物は先を争う様に狩られているこの地域で育った若者は、他国の若者のほど魔物に対する恐怖心が有りません。

 だからこそ冒険者志望の若者が多いんです。

 冒険者達が当たり前に魔物を狩っているんです。

 自分達だって当然出来ると思ってます。

 そして実際に出来る事を知っています。

 近所に住んでいたお兄さんお姉さん、身近な年上の先輩方が冒険者になって魔物を狩ってお金持ちになって行っているのを知っているんです。

 この環境の差は大きいですよ。其れこそ良い環境スパイラルが生まれているのがこの地域なんです」


「そしてそのスパイラルを起こしたのが、召喚者で有る事を他国は知っているんだよ。

 別段僕達も隠していないからね。

 だから他国は召喚者が欲しい!

 欲しくて欲しくてたまらないんだよ!

 それにね魔物相手は怖い、けどね人間相手は?

 そう人間相手の権謀術数は彼らも手慣れたものでね。

 魔物相手よりも余程抵抗が無いんだ。

 魔族が召喚している国も、この地域の技術が欲しい、欲しくて欲しくてたまらない。

 召喚者の頭数だってもっともっと欲しい。

 けど現状幾ら欲しくても手元には居ない。

 けどね、居るじゃないか、あそこにはあんなに大勢居るじゃないか!

 なら奪ってしまえ! そうだ奪えば良い!


 とまあ他国の貴族連中はそう考えたわけだ。

 失敗しようが無謀だろうが彼らには関係ない。

 なにせ上から命令するだけで自分達が危険を冒す訳じゃあない。

 彼らは結果だけを望んで、手段なんか考える気もない。

 困ったのはそれを押し付けられた現場だろうね。

 魔物相手にだって勝てないのに、その魔物を楽々狩っているような連中の相手をさせられる。

 自分が同じ立場なら悪夢だね」


「何? 他国の工作員は無理で無謀なのを分かっててやってるの?」


「そうだよ、そしてそれがこの地域の見習い冒険者を攫おうとする理由さ。

 実利で言えばベテラン冒険者が欲しい、けどそれはどう考えても無理だから、自分達でもなんとか出来る見習い冒険者を攫うって言う実にくだらない妥協の産物なんだよ。

 貴族連中は結果を期待している訳で何らかの成果が必要なんだね」


「けどそれすら無理なんでしょ?

 考えて見れば工作員の人達も不幸よね」


「まあ人攫いだけが成果じゃないからね、この地域の技術情報や工業製品を本国に送るのも成果としてカウントされるらしいよ」


「ならそれでいいじゃない? なんで未だに攫おうとしてるの?」


「失敗しようと何だろうと実行しようとした実績が必要なんだよ。

 確かに他のモノも成果としてカウントはされる、けどそれは貴族が命じた成果ではない。

 そうである以上命令を実行しようとした事実が必要なんだね。

 万が一でも成功すれば儲けモノ、失敗しても実行しようとした事実は残る。

 本当にくだらないけどこれが実情らしい」


「本当にくだらないわ」


「けどね、くだらないけど危険がない訳じゃあない。

 特に女の子の場合はね……失敗前提で実行犯も半ばヤケクソだ。

 そんな精神状態の実行犯の目の前に捕らえた可愛い女の子がいる、当然抵抗出来ない状態ね。

 少しくらい美味しい思いもしないとやってられるか!

 ってなるのはまあ仕方がない」


「そんな理由で犯されたんじゃあたまったものじゃないわ!」


「だからこその門限だよ、そんな理由で女の子は特に危険だからね。

 だからメグミちゃん危険な事をしちゃダメだからね! 僕は誤魔化されないよ!

 本当にダメ! コッチで処理するから自分でなんとかしようとしないでくれ! お願いだから」


「チェ、折角お姉さんを好き勝手に出来るチャンスなのに!」


「出来ないから! しちゃダメだから! クソッ、安心できない……少し監視を強化しないとダメかな?」


 そんなこんなでメグミ達の門限は『ママ』だけでなく冒険者組合からも厳しく監視されている。



「クッ、そうか門限があったんだった、『ママ』のご飯も食べたいし、今回はあきらめるしかないのかしら?

 けどあんた達はご飯どうするの? そんなに遅くなったらお腹減りすぎてハンガーノックで動けなくならないの?」


 食事の心配が一番に出てくるあたり、メグミは食い意地が張っている。しかし、お腹が空き過ぎると低血糖でハンガーノックになる。これはメグミでなくても万人共通の生理現象だ。

 むしろこれだけガタイの良い男子がそろっている、一回の食事量も相当だろう、その分、女子よりも更にハンガーノックの可能性は高いと言える。メグミの指摘も強ち間違いではない。


「鉱山事務所の購買は24時間営業なんだよ、知らないのか? って知らないか、門限が9時じゃあな。

 でな購買のおばちゃんが緊急クエスト参加者におにぎりやらサンドイッチやら配布してくれるらしいから、とりあえずは平気だな」


 どうやらクエストの依頼主で有る鉱山事務所が気を効かせたようだ。

 鉱山事務所の購買の食料品ならメグミなら一個で夕食が済む位の分量があるので確かに平気だろう。昼間に食べたアイスクリームもそうだが、ここの購買の食料品は肉体労働の冒険者に合わせて分量が多いのだ。

 ただ今回の参加者への食料品配布は、見習い、初級冒険者の大半が地下2階と3階の閉鎖に伴い、街に引き上げたため、夜に販売予定だった品が大量に余ったことよる、廃棄食料品を出さない為であり、善意から気を効かせた訳ではなさそうだ。

 それに明日以降も閉鎖が解かれるまでは食料品の販売の落ち込みが予想されている。それらの食料品も傷みやすい物は余らせて腐らせるより、報酬として配布して消費して貰おうという裏事情もあるのだ。

 転んでもタダでは起きない辺りが実にこの地域の冒険者組合らしい。


「まあ本格的な食事は街に帰ってからになるがな」


 大柄で筋骨隆々なマサオにはこの購買の食料品の分量でも物足りないらしい、だがそれはマサオだけではないようで、周りの男共に加え、先ほど話に加わってきた別パーティのリーダーらしき板金鎧の戦士も頷いている。

 改めて周りの男共を見渡したメグミは納得する。


(あれね、タツオがめちゃくちゃ大きいから、だから目立たないけど、アキヒロさん達も十分大柄なのよね、みんな180cm超えてるよね?

 ノブヒコさんは細身でスタイル良いから余り大きく見えないけど実は175cm位あるのよね…… 周りが大き過ぎて小柄に感じてるだけで……少し小柄に見えるシノブさんでも170cm超えてるわよね?? コッチは逆に筋骨隆々過ぎて小さく見えないけど……

 そりゃこれだけゴツイ男共には幾ら大きくてもおにぎり一つ程度じゃ足りないか……)


「そんなに遅くに食事できる場所とかあるの? 街の食堂とかとっくに閉まってるでしょ?」


 メグミの知っているメインストリート沿いの飲食店は大体夕食時までしか営業していない。


「ああ、その点も心配ないよメグミちゃん。

 僕たちは『転移魔法』で街に帰るからね、クエストが終わったらそれこそ一瞬で街に帰れる。

 それに繁華街の飲み屋は朝まで営業してるからね」


 そうノブヒコが教えてくれる、飲み屋は開店時間が遅い代わりに朝まで営業しているらしい。

 他の飲食店が店仕舞いを始める頃に開店して、他の飲食店が開店しだした頃に店を閉めるスタイルが取られているようだ。


「冒険者の中には夜中専門で活動している連中もいるからな、夜行性の魔物とかもいるだろ?

 それを専門に狩ってる奴らもいる。

 だからそいつら向けに結構遅くまで営業している店もあるんだ。まあそれも繁華街、飲み屋街の中にあるからな……見習いの女性冒険者にはあまり縁がないのかもしれないが食事に関しては問題ない」


 そしてアキヒロが更に補足情報を付け足す。お酒を専門に出す飲み屋とは別に、食事に重点を当てたお店も有るようだ。


「そんなものなのね、繁華街は結構遅くまで賑わってる感じだったけどそんなに遅くまでやってるんだ」


 繁華街があることはメグミも知っていたが、未成年でさらに金欠気味なメグミには縁遠い場所だ。

 そもそもメグミ達は自宅以外で飲食すら殆どしない、昼食でさえ『ママ』お手製のお弁当持参。

 買い食いをするような金銭的な余裕がメグミ達にはないのだ。

 これは何もメグミ達だけの話ではなく、金銭的に余裕のない見習い冒険者の女性は大体自炊している。

 見習い男性冒険者も別段金銭的に余裕があるわけではないのだが、女性に比べ料理ができる男性自体が少ない、自炊している者は稀だ。 


 そんなことを思い出しながら歩いているとヘルイチ地上街の城門が見えてきた。

 

『ヘルイチ地上街』


『大魔王迷宮』の入り口が南に向かって口を広げる断崖が街の背後に聳え立つ、その巨大な迷宮の入り口は、高さ150メートル、幅は100メートルを誇る。

 かつて迷宮から魔物が溢れた折りに大きく拡張されてしまったのだそうだ。

 そしてその入り口を許容する断崖は落差300メートルに達する。

 その大きな入り口を頂点に南に続くなだらかな丘陵、そこに作られた城壁に囲まれた街、それがヘルイチ地上街だ。


 街の北側の断崖、この断崖の上は広大な高台になっており『ヘルイチ高地』と呼ばれている。高台の上は緑豊かな森林となっており、その森林は遥か遠く北に聳え立つ『嘆きの北壁』山脈まで続いている。

 この『ヘルイチ高地』は森林資源も豊富だが、その地下に各種金属、宝石などの豊富な地下資源を埋蔵していることがが調査で判明している。

 『大魔王迷宮』で産出される資源はこの地下資源を元にしているのではないか? と予想されているそうだ。

 また、メグミ達が今日潜っていた『黒鉄鉱山』も、ヘルイチ地上街から続く断崖、それを4キロほど東側に移動した先きに『ヘルイチ高地』に向かって北向きに掘られている鉱山だ。

 広大な『ヘルイチ高地』に対して、迷宮も鉱山もまだまだほんの一角を掘り出しているに過ぎず、総埋蔵量は計り知れない。


 また街の南には広大で肥沃な平野が続いる、嘗ての魔物の徘徊する地獄の様な土地も、人々の絶え間ない努力の結果今では見渡す限りの田園となり広がっている。

 元々荒れ果ててはいたが『ヘルイチ高地』から流れ落ちる栄養素豊かな土壌のお陰で、土自体は良質で、開墾された今では豊かな実りをもたらし、農業が盛んだ。


 街の西には『嘆きの北壁』山脈を水源とする『ヘルライン大河』が『ヘルイチ高地』から流れ落ちる、高低差300mの大瀑布『アビスフォール』があり、『アビスフォール』を経由した『ヘルライン大河』は遥か南の大海洋まで続いている。

 この豊富な水資源は用水路で田園に引き込まれて灌漑に利用されている。少し勾配が有るため、ある程度の流れが確保された用水路には彼方此方に水車が設置され収穫された作物の洗浄、また穀物の粉ひきに活用されている。


 この豊富な水資源はヘルイチ地上街でも利用されており、断崖の上、『ヘルイチ高地』に作られた浄水施設から街の家々に上水道が引かれている。

 ヘルイチ地上街では更に下水道も整備されており、街の地下には広大な下水路が張り巡らされている。

 『ヘルライン大河』の水はそちらでも活用されており、そちらには浄水前の大河の水が引き込まれ、下水の流れを確保している。

 城壁の外の南西には全周20キロに及ぶ大きな下水処理用の溜池が作られていおり、そこでは『ゼリースライム』が大活躍して水を浄化している。

 ここで一端浄化処理をしてから『ヘルライン大河』に戻しているそうだ。


 ただ最近では溜池から街の地下の下水路の方にまで『ゼリースライム』が蔓延っていて、溜池に流れ着く頃には汚水が浄化されて、この溜池の水は下手な湖よりも水質が綺麗だ。


 これに目を付けて『ヘルイチ地上街』では川魚の養殖を始めたが売れ行きは余り芳しくないそうだ。

 やはり幾ら綺麗でも元汚水で養殖された魚を食べるのに此方の世界の人々は抵抗があるらしい。

 それにすぐ横に『ヘルライン大河』があり、魔物等が居て危険とは言え、そこでも川魚が取れる為、何も態々元汚水で養殖した魚を食べる必要もないとして嫌煙されている。

 そもそもこの街の周辺地域では内陸と言うこともあり、魚料理より肉料理が好まれる傾向があり、そのことも一因らしい。

 そんな理由もあり、当初の見込みほどは儲かっていないようだが、ただ養殖だけあって供給が安定しており、一定数は売れているようで採算は成り立っている。そのため養殖事業は今も継続されている。



「こっちの人達って結構繊細なのね、あの溜池ちっとも臭くないし、十分綺麗じゃない? 川の水だって上流で何してるか分かったものじゃないのに、浄化後の水で養殖された魚なら気にせずに食べればいいのにね」


「日本の川の水よりは遥かに澄んでるものね、それに結構美味しいわ、マス科の魚なのかしら? フライにしてもソテーにしても美味しいし、小骨がないのがいいわね」


「うぅ、私は少し抵抗がありますわ、確かに味は良いのでしょうけど……」


 そう安く安定供給されている養殖された魚は、メグミ達の様な、召喚された日本人、特に見習い冒険者が主に消費していた。

 なにせ安く、貧乏な見習い冒険者の懐にやさしい。それにマスに似た食感と見た目のこの魚は、日本人にとっては食べ慣れた感があり馴染みやすい。

 また肉料理が多い内陸のヘルイチ地上街にあって丁度良い、食のアクセントになっている。

 淡白な白身の魚なのだが、それだけにどんな料理にでも合う。

 煮ても焼いても揚げても食べられる為、お刺身以外のすべての料理で楽しまれている。

 特に寄生虫などもいない為、お刺身で食べても構わないのだが、若干その元汚水で養殖された点に抵抗があるのと、お刺身で食べるには淡白すぎて向いていない事もあり、お刺身では食べられていない。


「こっちの下水って汚水だけじゃなくて、詰まったりしないように川の水も引き込んで流してるじゃない? 下水自体が想像してたより臭わないわ。

 それに『ゼリースライム』は確かに優秀よ、溜池に流れ着く頃にはほぼ浄化されてるじゃない。何がダメなのか理解に苦しむわ」


「それはですね、理由があるんですよ。

 そもそもこちらの人達は川の水を浄化して水道、飲み水にする習慣がないんです。

 井戸水や雨水を煮沸消毒して飲料水にするか、それこそ『浄化』の魔法を使って飲料水に変えていたんです。

 召喚者の人達が水道を普及させたお陰で、水道水を飲むのには抵抗が無くなりつつありますが、それでも各家庭で浄化の魔道具を使って浄化してから水道水を飲む方が大半ですわ。

 私たちの家だってそうなんですよ、一端浄化装置で濾過された水が家の中に配水されているんです。

 この街自体全体的にそんな感じなので幾ら綺麗だからと元汚水で育てた魚には抵抗がある人が大半なんですよ……」


「私はそっちの方が意外だったわ、言っちゃあなんだけど、こっちの開拓村とかどっちかっていえば未開の地の村なわけじゃない? そんな所に住んでいる人達ってもっとワイルド、タフでラフなんだと思ってたわ。

 ヘルイチ地上街は今はまあ都会ではあるのでしょうけど、この街自体歴史がそれほど有るわけじゃないでしょ?

 ここって元々は荒れ果てた荒野じゃない? 100年程度の歴史で住人がそこまで潔癖症になるものなの?」


「メグミちゃん、だからこそなんですよ、そもそもこの世界には下水路がなかったんです。開拓村なんか今でもそうですけど下水路がありません。

 各家庭からでた汚水は各家庭に引き込まれた用水路に流して、そのまま川に垂れ流しなんです。

 だからこちらの世界の人達にとって川の水は汚い水なんですよ。

 上流の山間の川は兎も角、街や村付近の川の水は飲んではダメな汚水、病気に成ったり、お腹を壊して、腹痛に成りたくなければ、井戸水や雨水を消毒・浄化して飲むのが常識なんです。

 だからこそ、幾ら浄化されて綺麗になったといっても下水で育てた魚を食べるのに抵抗がある人達が多いんですわ。

 あそこで養殖された魚を食べているのはほぼ召喚者の人達だけです」


 最近は『ゼリースライム』が普及したこともあって、開拓村でも汚水を浄化処理した後に川に流すようにしているようだが、それも『五街地域』に限られた話で他の国々では今も変わらず垂れ流しが常識だ。


「病気にならない為の生活の知恵、生活習慣にかかわる常識か……それが邪魔をしているのね?

 ふむ、長年慣れ親しんだ常識・習慣はそう簡単に変わらないってことか。

 けど不思議ね、こっちの世界にも堆肥はあるんでしょ? 畑で使う堆肥は平気なのに、浄化処理された下水はダメなの? 雑菌で言えば堆肥の方がはるかに多そうなのに?」


「? 堆肥ですか? 堆肥は確かにありますけど、それとこの話が……もしかして日本では人糞を堆肥として利用しているんですか!」


「今は廃れているけど、昔はそうだったみたいよ? あれ? こっちの世界にはないの?」


「まあ此方の世界でも昔は家畜の糞を堆肥として使用していた例もあるようですが、先ほども言いましたが川に流すのが一般的でしたからあまり堆肥として利用はされていなかったようですわ。

 それにゴブリンを含めて魔物の死骸がたくさんありますからね、そちらを堆肥として利用するのが此方では一般的ですね」


「……何だろう、いやまあ確かに一杯魔物が居るから、それを退治すると結構な数の死骸が出るわよね。それは分かるわ、その後の処理をどうしてるんだろうとは思ってたけど、そうなんだ、まあ埋めれば自然に堆肥なっていくんだろうけどねぇ……」


「有効活用ではあるのでしょうけど、反応に困るわね。まあどちらも分解されて作物の栄養素になっているのでしょうから、直接食べているわけではないから構わないのでしょうけど……人型の魔物を堆肥にするのには抵抗があるわね」


「私にはそちらの方が不思議ですわ、あんなに沢山の死骸を堆肥にする以外で日本ではどう処理してるのですか?

 ゴブリンなんかは幾らでも増えますし、ほかの魔物も……埋めて堆肥にする以外の処分方法が思いつきませんわ」


「うん、まあ、日本には、元居た世界には魔物が居なかったからね、確かに人糞を堆肥にしなくても、他に堆肥の当てがあるならそっちを使うのは分からないではないわね」


「ああ、そうでしたわね、そちらの世界には魔物が居ないんでしたね。

 けど此方の世界でも死骸を使った堆肥は時間と手間の関係で廃れてきてますわ。

 最近では『ゼリースライム』から取れる堆肥を使う方が一般的ですね」


「『ゼリースライム』から取れる堆肥?」


「そうですわ、『ゼリースライム』は取り込んだ物質を分解して、自分に必要な栄養素以外を種類ごとに固めて排出する特性があります。

 この排出された物が大体堆肥になりますね。まあ取り込んだ物質にもよるので堆肥に成るものばかりではありませんけど、街の周辺にいる『ゼリースライム』から取れるものは大体堆肥になります。

 とても作物の実りが良くなって重宝されていますわ」


「ねえサアヤ、それって『ゼリースライム』の糞じゃないの? なに? 散々嫌がっておきながら、『ゼリースライム』の糞なら平気なの?」


「糞じゃありませんわ、そういった個体に固めて排出された物です。

 『堆肥玉』と言われて子供達がお小遣い稼ぎに良く集めてますわ。見かけませんでしたか?

 それで集めた『肥料玉』は水車があるじゃないですか? あそこで細かく砕いてそれを畑に撒くんです」


「ああ、ガキ供が集めてる、あの偶に転がってる黒いやつね? あれ『ゼリースライム』の糞だったの!」


「だから糞じゃありません! 雑菌もいませんし、堆肥として必要な栄養素の詰まった個体です。

 『魔道スライム』が鉄鉱石を取り込んで鉄玉に変えるでしょ? あれと似たようなものですわ!」


「まあまあ、サアヤちゃん、落ち着いて。

 けどそうなのね、最近は魔物の死骸も一端『ゼリースライム』に分解させて、『堆肥玉』に加工されているのね?」


「そうですわ、畑に魔物の死骸を埋めても堆肥として分解されるまで時間がかかりますけど、『ゼリースライム』を使って『堆肥玉』に加工すれば直ぐに堆肥として利用できますからね。

 これのおかげで収穫高が劇的に向上したそうですわ」


「本当に便利なのね『ゼリースライム』は、けどそれだけ利用してれば『ゼリースライム』が物凄く増殖しそうなんだけど……大丈夫なの?」


「そこらへんも平気みたいですわ、なにせ弱いですから。

 死骸やら汚水やら色々分解して増殖した『ゼリースライム』は、ほぼ放し飼い状態でそこら中にいますよね?

 街中に入り込んだのは『鳥馬』や『ライドラ』なんかがおやつ代わりに摘まんでいますし、森の中に入り込んだ『ゼリースライム』は他の魔物の餌になって食べられているようです、すでにバランスが取れた状態で食物連鎖が成立しているのか、増えすぎることもないようですね」


「けど下水路に入り込んだ『ゼリースライム』はどうなるの? ある日ひょっこりおトイレからこんにちはとかイヤよね?」


「おトイレとか民家から下水に通じている排水路には、ところどころに結界が張られているので、下水路から民家に『ゼリースライム』が上がってくることはありませんわ。

 常時下水路の増えすぎた魔物退治のクエストが有るみたいですけど、『ゼリースライム』退治というより、『ジャイアントラット』や『クローチ』退治が主目的ですわね」


「下水路の魔物退治? ……可能な限り遠慮したいわね。 それに『クローチ』って名前だけで悪い予感しかしないわ」


「どう考えてもアレよね? 絶対アレだわ……私も出来れば遠慮したいわね」


「アレ? ダメですか? 見習い冒険者には定番のクエストみたいですわよ?

 『ゼリースライム』のお陰であまり臭くも、汚くもないみたいなので割と人気のクエストですのに」


「けど下水路でしょ? なんで人気なのか不思議だわ」


「水道料金と一緒に下水料金を支払ってるじゃないですか? あの料金はほとんどがこのクエストに充てる為の費用として徴収されているんです。

 そのおかげで難易度の割に結構クエストの報酬が高いのでその点が受けているみたいですね。

 出てくる魔物も弱いので割と楽に倒せるみたいですよ。少し魔物の数が多いみたいですが、まあ増えすぎたからこそクエストが発生するのでこの辺は仕方ありませんわね」


「その増えすぎた魔物がさっき言ってたやつなのね?」


「そうですわ、下水路で『ゼリースライム』を食べて増殖した魔物達ですね。

 『ジャイアントラット』はその名の通り大きなネズミです。

 大きさはまちまちですが大物と言われている個体でも1メートルほどだそうです。

 噛みついてくるくらいで大した攻撃力が無いので初心者にはうってつけですわね。

 そこそこ素早いみたいですが、防御力も大したことはありませんから、まあ見習い冒険者の武器でも十分戦えます」


 『ジャイアントラット』は特に価値のある素材が取れる魔物ではない、下水にいるネズミの毛皮に需要は無く、同じ理由でその肉にも需要がない。

 ただし増えすぎて下水路から溢れると、食料貯蔵庫が襲われたり、民家の食料が狙われたりと、厄介な害魔物として嫌われている。

 それでも魔物では有るため、小さいながら魔結晶が取れ、討伐報酬とクエスト報酬を合わせれば、そこそこ儲かる魔物である。


「そして『クローチ』は素早く動き回る黒い昆虫型の魔物なのだそうです。こちらは更に一回り小さくて大きなものでも80センチくらいだそうですわ。

 攻撃といっても体当たりしてくるくらいで本当に雑魚ですわね。

 ただその表皮が滑りやすいものだそうで固くはないのだそうですけど、なかなかに攻撃しづらいのだそうです。あと結構しぶといらしいですわ」


 『クローチ』、こちらも価値のある素材は取れない魔物だ。

 『ジャイアントラット』も繁殖力が旺盛な魔物なのだが、『クローチ』はそれを上回る勢いで増える魔物で、『1匹見かけたら10匹はいると思え』と言われる程数が多い。

 『ジャイアントラット』と同じく増えすぎて下水路から溢れると、あらゆるものを食べる旺盛な食欲で害をなし、別名『黒い悪魔』と呼ばれ厄介がられている害魔物である。

 こちらも討伐報酬も魔結晶も安い物であるが、数を倒せばそれなりの金額となり、クエスト報酬と合わせればそこそこ儲かる魔物として人気だ。


「うん間違いなく奴だわ、絶対に奴よ!! 嫌よ! 絶対にそのクエストは受けないわよ!」


「体当たり……アレが体当たりしてくるの? よく他のみんなは平気でそのクエストを受けるわね……」


「お姉さま達もですか? メグミちゃんまで珍しい……そうなんですよね、なぜか召喚者、特に女性には人気がないらしくて、このクエストを受けている冒険者の大半が、こちらの世界の冒険者みたいなんですよ……

 そんなに嫌なのですか? 楽に儲かるクエストなんですよ? まあ下水路ですからちょっと汚いですけど、クエストの報酬として終わったら『浄化』や『洗浄』・『消臭』もしてくださるそうなのでその点も平気ですわ」


「その『クローチ』、体当たりしてくるってことは飛ぶでしょ? 間違いなく飛ぶわ!」


「そうですね、短距離ですがその羽で飛べるみたいです。

 しかし飛行能力は余り脅威になっていない様ですよ?

 どちらかといえば天井とか壁面とかどこでも動き回れるその移動力、飛ぶことよりもその移動力の方が嫌がられているみたいですわ。

 その場所を選ばない移動力を活かして、天井、頭上からとびかかってくるのは少し厄介みたいですが、それでも大した攻撃力じゃありませんから私達なら撃退は余裕だと思いますけど?」


「サアヤちゃんその話はもう止めましょう、ね? お願いだからっ!」


「?? まあお姉さまがそこまでお嫌でしたら構いませんわよ、私も無理に受けたいクエストではありませんから」


 この異世界では黒い悪魔『G』は、台所付近に出没する、あの小さな昆虫ではなく、森林や下水路で繁殖する大きな昆虫型の魔物とのことだ。

 故にこの世界の人々には他の魔物と一緒で只の魔物、家の中で、日常で出くわした事がないだけに忌避感が薄い。

 この世界の『G』でも、家庭内で出くわせば流石にこの世界の人々にも忌避感が生まれると思うのだが、それはないらしい。

 流石にこの大きさの魔物が屋内に侵入するのを許すほどこの世界の人々は甘くない。結界等を張って屋内への魔物の侵入を妨げている関係上、結果的に『G』の侵入も防がれている。

 その為『G』は厄介がられてはいても、忌避感そのものは薄いらしい。



 『黒鉄鉱山』はヘルイチ地上街の北東に位置しているのだが、現在メグミ達が帰り着いた城門は『南の大城門』。

 ヘルイチ地上街の最外周城壁には『南の大城門』以外に城門が無く、街から外に出るにも、外から中に入るにも徒歩では『南の大城門』以外に出入り口が無い。

 北東から街に帰り着いても、一度街の南側に回り込まねばならず、とても不便だ。

 しかし、この世界では街の城門は敵、魔物の侵入口にもなる為、必要最低限しか設けないのが常識なのだそうだ。

 一応小さな城門も東西にあるのだが、一般には解放されおらず、強固な扉によって閉ざされ、衛兵代わりの冒険者によって管理・監視されている。


 『南の大城門』はその名の通り大きな城門で、大型の地竜が楽にすれ違えるように真ん中に支柱を挟んで片側20メートル幅、支柱を含めた両側の合計幅が45メートル、高さは30メートルもある巨大なものだ。

 そしてその門の上にさらに櫓が築かれており、櫓の天辺までの高さは地上55メートルに達する。城壁の高さが10メートル程なのでこの辺りでは一際目立つ高層建築物だ。

 これはこの『南の大城門』が観測、偵察の為の物見櫓と、地上における灯台、街への目印を兼ねているためである。

 余り夜間移動する者は居ないのだが、全く居ない訳では無い。

 やむ終えない事情で夜間移動する者にとって街の灯りは方向を見失わない為、又街に近寄って行っている安心感をもたらす重要なものなのだそうだ。

 城壁に囲まれ民家の灯りが街の外に漏れない為、城門に灯りを灯し地上の灯台とする事はこの世界では常識だという。


 この城門は左側通行が徹底されており、支柱を挟んで東が街から出る人々が利用し、西側が街に入る人々に利用されている。

 北東から回り込んできたメグミ達は一度東側から出てくる人々の列を横切る必要があるのだが、この時間に街から出ていく人は少なく、容易に横切ることができた。

 お昼時の混雑時などには城門前に係員がでて信号機代わりに交通整理をしている。

 しかし今は田園で農作業帰りの人々や、行商人、メグミ達のように街の外で仕事をしてきた冒険者などが西側に並び街の中に入るための列をなしている。

 一方、東側の出て行く人が少なく、メグミ達の様に容易に横切れる為交通整理の係員の姿は無い。


 ヘルイチ地上街はこのあたりの『五街地域』の中心都市で、一番栄えているのだが、それでも日本に比べると夜の街は明かりに乏しい。

 日本で例えるなら首都、東京の様な街なのだが、そこは人々の生活習慣の違う異世界、24時間眠らない東京の街のようにはいかない。


 この世界の一般の人々は日が昇ると起き出し、日が沈むと眠る。昔ながらの生活をする者が未だに大多数を占めている。


 何故ならヘルイチ地上街で最も多い住人は農業従事者だからだ。


 迷宮を中心に広がった街だけに、迷宮を攻略する、冒険者やその関係者が一番多そうなものであるが、違うのだそうだ。

 嘗ては確かに冒険者やその関係の仕事をする住人が大半だったそうだが、積極的に移民を受け入れてきた関係で就業別人口比が逆転して久しいそうだ。

 特に農業従事者が多い理由は、目の前に広がる平野を開拓し、田園として開墾したことと、やはり移民の大半が農業に関わる仕事をしていた者が多いためのなのだそうだ。


 ここで農民ではなく農業従事者と呼ぶのには理由がある。

 それはこの地域の農業は他の国々と大きく異なっているためだ。


 そう、この地域の農業が他の国々と違う点は、個人農家が居らず、全て農業法人による大規模農業となっている、この点にある。

 極一部で小規模な畑もあるにはあるのだが、個人で消費するだけの趣味の家庭菜園の域を出ないらしい。


 この他地域との相違点は、この地域が昔から人々が助け合いながら開墾、また協力して魔物の侵入を防ぎ、撃退してきたと言う経緯による。

 この『大魔王迷宮』のお膝元、魔物の多い荒れた土地では、開墾するにも、また開墾した農地を維持するにも個人の力ではどうにもならなかったのだ。


 発展著しい現在に於いてもこの制度が維持されているのは、現在に於いてもこの地域の魔物の発生率が他地域に比べ極端に高い事、そしてまた移民の人々にも、元手の必要が無く、設備投資をする必要も無く、野良仕事を斡旋できる、これらの理由から現在でもその制度がとられているらしい。


 ただ野良仕事と言っても、大規模農業だけに資金力も豊富で、大型の重機代わりのゴーレム等を活用し耕運から種蒔きに刈り取りを行い。

 柵代わりに魔物除けの結界を展開、案山子代わりにこれまたゴーレムが活用されたりと、大幅に魔道技術が取り入れられ省力化が計られている。

 その為他の国々の様に農業が重労働ではなくなっている点も移民者から受けが良いらしい。


 その所為か、畑の魔物退治は見習い冒険者のクエストにもなっている為か、広大な田園では農業従事者よりも冒険者の方が目立つくらいだ。


 この地域の農業従事者の仕事はゴーレムへの指示出しやそのメンテナンス。

 各種作業道具の手配や準備、作付け計画や農作物の育成状況の監視などである。

 単純な作業のほとんどをゴーレムが肩代わりしているため、重労働ではないが、繊細な野菜の収穫、作物の病気の対策、害虫の予防の対策など、肉体労働が全くなくなったわけでない。

 しかしそれでも、他の地域の農家の作業とは比べ物にならないほど肉体労働は少なく。

 それらの仕事内容が一般的な農民と言うよりは農業に従事したサラリーマンに近い、その為この地域では農業従事者と呼ばれている。


 これらの特徴のあるこの地域の大規模農業は、社会主義国の大規模農業に似ている。

 だがその中身は全く違い、区画毎に、個人やグループの裁量に任せて競争が生まれるように配慮されている。

 農業法人も複数有り其々に競い合い、個人の努力やアイデア次第でその収入も違うのだそうだ。

 それが大規模農業でありながら競争を生み、より農業を活発化させている。


 また作物の品種改良を含め、盛んに研究開発もされており、他地域に比べ、作物の味や品質が格段に優れてきている。

 これらの作物を加工した食品、また作物その物も他地域に輸出されており、他地域では高級食材として珍重されているそうだ。


 より多く、よりおいしい野菜や穀物を収穫すればその分個人の収入も増える。

 その為、噂が広まり、この地域への移民希望は後を絶たない。同じ雇われ農業従事者でも自分の国で小作人や農奴として働くより遥かに楽に、そして豊かに暮らせる、と評判になっているらしい。

 現在では街の周辺はほぼ開墾し尽くし、少し郊外に開拓村を作ってそちらでも開墾を進めている。

 移民者の多くが開拓村での開墾を希望するらしい。

 大規模農業とは言え自分達で開墾した農地の優先権は開墾した者に有り様々な恩恵が得られる為なのだそうだ。


 そんな訳もあって農業従事者の多いこのヘルイチ地上街では日が沈めば、大半の人々が眠りにつく。

 夜間の畑の見廻りなどの仕事もあるが、交代制で少人数が夜勤に付いたり、冒険者にアウトソーシングしたりしている為、夜間働いている人は少ない。

 かなり魔導化の進んだヘルイチ地上街周辺でも、農作物を育てるのはお日様の光である事に変わりはない。お日様が沈めば人々の仕事も終わる。後は明日に備えて眠るのが一般的なヘルイチ地上街の住人のスタイルだ。


 これでも最近は魔結晶をエネルギー源に魔光石を光らせる照明が普及して、人々は大分、夜型になったらしい。

 だがそれでもやはり昔ながらの生活習慣は中々変えられないのか、一般の住民の住む住宅街などは、夜の訪れとともに暗く寝静まる。

 

 だが召喚者、そう、日本人にとってはまだまだ宵の口、そして召喚者の多い冒険者は夜昼構わずに活動する。

 そのため街を囲む城壁にある『南の大城門』は24時間、緊急時以外は開け放たれ、煌々と魔光石の明かりが灯っている。


 城門には衛兵代わりの、警備の冒険者が魔物の侵入を警戒して城門上の櫓で警備にあたっているが、その下、城門では特に検問などは行われていない。

 冒険者組合の職員が城門両端にある小屋に詰めてはいるが、これは徴税や検問の為ではなく、街の統合案内所で、街に不慣れな他の地域や街の旅行者や行商人に道案内をするため。


 何故ならここヘルイチ地上街を含めた五街地域では関税、通行税がない。街への入場税など、ほかの国では一般的な税の徴収がない為だ。


 迷宮から産出される資源を加工、盛んに地域外に輸出しているこの地域は、細かな税を徴収しなくても財政的に余裕があり、また交易を活発化させ産業の振興を図った方が結果的に税収も増えるとの判断らしい。

 余計な徴収の手間とその為の人員を割かなくても済み、また城門の通行がスムーズになる為、待ち時間のロスも防げて商人たちを含め概ね好評だそうだが……


 順調に城門内に吸い込まれる人々の列に並びながらメグミは、


「街に侵入して来る犯罪者や不審者に対して無警戒過ぎない? 大丈夫なのこれで?」


余りもノーチェックな様子を心配する。


「その辺は心配ありませんわ、この門自体が大きな魔道装置ですから、犯罪者、そうですねこの辺りには余りいませんが山賊や野盗の類は、見分けられて、結界に阻まれて街の中、城壁内に侵入出来ないようになってますから」


「そうなのね、だから誰もチェックしていないのね。けどその装置は何を基準に見分けているのかしら? 便利なのでしょうけどその辺が分からないと不安だわ。

 外でその犯罪者の方たちと戦って、万が一相手を殺してしまった場合とか、その所為で街に入れなくなったりしないのかしら?」


「だよね? 何が基準なのかしらね? ノリネエの言うような殺人とかの経験を見分けているの? それとも単に見た目かしら? けど見た目なら山賊っぽいだけで街に入れなくなったら困るでしょうに?」


「『南の大城門』はその建築物自体が『裁きの門』と言われている加護系の魔法陣を形成しています。『裁きの門』は、その心にある罪悪感と言いますか、カルマ、業を検出して発動する設置型の術式らしいですわ」


「業? それって罪を犯したって自覚のこと? けど、それだと本人に悪いことをしているって自覚がなければ素通りじゃないの?」


「確かに、それもそうですわね、事実、メグミちゃんも素通りですものね?」


「そういえばそうね、まったく反応してないわね……」


「……なんだろう、どうしてそこでサアヤの口から私の名前が出て、それにノリネエが納得しているのか小一時間問い詰めたいわね!」


「だってメグミちゃんは普段の行いが、ほぼ犯罪っていうか、周りが問題にしてないから見逃されているだけで、女の子でなければとっくに捕まってますわよ?」


「けどまあ、山賊や野盗の様な、重犯罪ではないのだし……周りの皆さんが理解のある方ばかりでよかったわね、ね? メグミちゃん」


「ぐっっ……何よ二人して!! 私の何が悪いってのよ? 何にも悪いことはしてないわよ!」


「あっ、ごめん、ちょっと言い過ぎたわ、謝るから、だから落ち着いてメグミちゃん、ほらゴロウ君たちが引いてるでしょ」


「まあ『裁きの門』は重犯罪者対策で、明らかな犯罪者以外は大体素通りです、ちょっと揶揄っただけです。興奮しないでメグミちゃん」


「むぅぅぅ! けどそれじゃあ最初に言った通り意味ないんじゃないの?」


「メグミちゃん、忘れているのかもしれませんが、この世界には『転移魔法』がありますからね? 城門で幾ら厳しく取り締まったところで『転移魔法』で幾らでも街に入れます、入り口対策したところで無駄なのですわ」


「他国のスパイや犯罪組織も『転移魔法』があるから侵入し放題なのね?」


「『転移魔法』を阻害する結界がありますから、いざという時には『転移魔法』を阻害することもできるのですけど、いざという時には、大体周りの街からの支援・応援を呼び込むために『転移魔法』の阻害は出来ませんから、そちらもあまり意味はありませんわね」


「んっ? じゃあどうやって治安を維持してるのよ?」


「そんなの街中に、それこそそこら中に冒険者が居るんですよこの地域は、犯罪者が暴れてもすぐに取り押さえられて捕まりますわ。

 この街の冒険者は自警団の役割も兼ねてますからね、中級冒険者には治安維持のための逮捕権なども与えられています。

 ですから半端な犯罪者が街中で無法を犯す余地はありませんわ」


「そうなの? まあ確かに治安は良いわね……けどその冒険者にだって素行の悪いのはいるでしょ? それはどうするの? 繁華街なんかにヤンキーっぽいのが居たわよ?」


「冒険者同士は相互にというか、冒険者組合が中心になって取り締まっていますからね、少し素行が悪いだけで犯罪を犯していない方達が屯してたりはしますが、あの方達も暴れたりすれば直ぐに捕まりますわ。

 だからああして屯しているだけで特に害はありません」


「そうなの? 治安対策はなんとなくわかったわ、けど益々この『裁きの門』の存在価値がないわよね? 何の為なのかしらね?」


「メグミちゃん、この街は『大魔王迷宮』を中心に作られた街です、それを忘れていませんか?

 この城壁は、確かに街の外から来る犯罪者や魔物を街に侵入させない為でもありますけど、もっと重要な役割がありますわ」


「……そうか、わかったわサアヤちゃん、城壁を含めてこれは迷宮の魔物が溢れた際の檻なのね? ここで魔物が外に溢れるのを食い止める、その為の物なんだわ」


「ああ、そう言った理由なのね、街中にも区画毎に城壁があるじゃない? あれって徐々にこの街が大きくなった痕跡、名残りだと思ってたけど、そうかいざって時には街中の城門も全部閉じて魔物を閉じ込めるために残しているのね?」


「正解です。この街の城壁や結界は確かに、街の外の魔物の対策でもありますけど、その役割の中心は迷宮内の魔物を閉じ込める為の檻なんです。

 魔物に比べれば野盗や山賊程度、大したことはありませんわ。

 もし腕自慢、強いのであればそんなことをしなくても冒険者になった方がよほど楽に稼げますからね。

 この世界の無法者は冒険者になって魔物と戦うことさえできない臆病者、自分よりも弱い一般人を集団で襲っているだけの雑魚ですからね。

 たとえ街中に入り込まれても構わないんですわ」


「無法者の地位ってどこでも大して高くはないんだろうけど、ここまで恐れられていない無法者ってのも珍しいわね」


「そうなのかもしれませんわね、けどまあ本来、平和であれば無法者になるような方達の大半、乱暴なというか血気盛んな方達は程んど冒険者になるので……その所為で力を持て余した方達が居ないんですわ。

 喜んでいいのか悲しんでいいのかわかりませんけどね……」


 そんなことを話している間にメグミ達は城門を潜りメインストリートへとやってきていた。


 この世界ではヘルイチ地上街でさえメインストリートは魔光石による街灯が整備されて明るく照らし出しているが、一筋通りを外れるとそこには街灯すらない。


 話を聞いただけだと暗くて無用心で不便そうだが実際はそこまで無用心でも不便でもない。

 この世界は大きな白い月と小さな青い月の月明かりが有り、また星の光でさえ日本に比べれば遥かに明るい為、晴れてさえいれば夜出歩くのに特に明かりが必要ないからだ。

 特に今夜は2つの月が空に浮かんでおり、その月光が燦燦と夜道に降り注いでいて割と明るい。

 薄暗いが真っ暗闇では無く、自分の周囲の人の顔がハッキリ認識できて人の区別がつく程度には明るいのだ。


 メグミが空を見上げると、空が澄み渡っていることもあり月が綺麗だった。

 この世界の月は小さな青い月でさえ元の世界の5・6倍の大きさだ、白い月はその青い月の3倍程の大きさ、月が天にあるだけで普段より数倍明るい。


(明日か明後日くらいには満月になりそうね、また何人か召喚されてくるのかしら?)


 月を見上げながらメグミはそんなことをぼんやり考えていた。


 メグミ達はメインストリートを進み、今日の成果を換金するため冒険者組合を目指す。

 冒険者組合事務所はメインストリートを進み、『大魔王迷宮』の入り口の正面西側にある。

 その為、小高い丘陵となっているなだらかな坂道を登っていかなくてはならない。


「もうちょっと城門近くに換金部門だけでいいから出張所が欲しいわよね」


「少しこの坂を登るのが面倒なんですよね……けどまあ家に向かっては下り坂になるのでこの後家に帰るのは楽で良いのですけどね」


「別に坂は良いんだけど大回りになるでしょ? 時間の無駄じゃない。

 利便性を考えたら城門近くにも欲しいわ」


「そうだったわね、メグミちゃんの場合この坂道を何時もランニングと称して走り回ってるから、この程度は苦にならないのね」


「称してるんじゃないわ、立派なランニングよ!」


「……まあそれは置いといて、冒険者組合事務所はメインとなる『大魔王迷宮』への利便性を優先してますからね。

 迷宮の入り口付近にあるのは仕方ありませんわ。

 それに24時間営業でしょ? 流石に2か所に設けると人件費が馬鹿にならないのではないでしょうか?」


 この街の冒険者組合は冒険者の為、また緊急の事態に備えて、交替制で24時間営業しており、換金業務等も何時でも受け付けてくれる。


「そういえば24時間営業だったわね、それなら見習い冒険者位しか利用しない城門付近に出す訳にも行かないのもわかるけど、不便なのには変わりがないわ。

 そうだ! 城門の出張所は営業時間をきめて、夜間閉めるようにすればいいんじゃないの?

 けどそうね、考えたら職員の人達は大変よね24時間営業とか……隔週交代なのかしら?」


「まあ人件費の問題も有りますがもう一つ理由があって、見習い冒険者の足腰を、この坂道を登らせて鍛えているのだそうですよ」


「ハァ? なにも態々こんな事で鍛えなくても良いんじゃ無いの?」


「いやこれにも事情あるみたいで、ほら運動の苦手な人って自分から運動しないじゃ無いですか?

 召喚者の人ってインドア系の人も多いのでこんな事でも強制的に運動させる一助になればとの思惑があるそうですわ」


 本来魔物退治を目的として召喚される日本人は、勇者候補、戦闘向きな者が選ばれて召喚されている筈なのである。

 確かに勇者候補らしく、召喚された日本人はスポーツで鍛えていた者も多い、しかし何故かスポーツとは無縁のインドア系、文科系の召喚者も多いのだ。

 統計するとアウトドアスポーツ系の者と、インドア系の者の召喚割合はほぼ半々だという。

 このインドア系の者を強制的に鍛えるために一日に一回は坂道を登って冒険者組合事務所に赴かせるように、『南の大城門』付近に出張所を作らないのだそうだ。


「偉い人の考えることはわけがわからないわね、そもそもなんで戦闘に不向きなインドア系を召喚しているよ?

 魔物退治が主目的でしょ?

 そんな人達を召喚しても、召喚された本人も、召喚した方もお互いに不幸になるだけだと思うけど?」


「まあ。メグミちゃんは典型的な勇者候補、戦闘向きで召喚されたのだと思います、けどそれだけではないでしょ?

 メグミちゃんだって体格的には本来戦闘向きではありません。

 まあそれを補って余りある他の戦闘向きの才能が有りますけど、戦闘的な要素だけではないですよね? メグミちゃんには鍛冶の才能があったでしょ?


 お姉さまは万能ですけど、だからこそ戦闘に特化しているわけではありませんよね。それどころか神官の適正に非常に優れてます。


 召喚者の皆さんは同じようにインドア系の人達にもそれぞれ特徴がある方が多いんですよ。何かに特化して優れた才能を持つ方が多いんです。


 お姉さまと同じように神官の適正にとても優れたインドア系、文科系の女性も多いですし、また同じように魔法の才能にとても優れた方も居るんです。

 研究職の方面で活躍している方もいますし、一概にインドア系、文科系の方が冒険者に向いてないわけでもないんですよ」


「冒険者の仕事は幅が広いですものね、なんて言うのかしら? 便利屋さん? 何でも屋さん? 色々な依頼が張り出されているものね」


「はぁ、まあ、探索系や収集系の仕事も多いし、確かにそうなのかもしれないけど、それにしたって、稼ごうと思うとやっぱりフィールドワーク、野外に出ないとダメでしょ?」


「だからこそ最低限の備えとして、ある程度は体を強制的に鍛え上げられるんですよ。

 見習いの初期は最低限のこの世界の常識・知識を詰め込まれたら大体野外演習ばっかりだったでしょ?

 足腰さえ鍛えていれば、最悪逃げることだけは出来ますからね。

 インドア系、文科系で知能が高ければ、魔法の素養が有るので、魔法で足りない体力や腕力の底上げすることもできるでしょ?

 ある程度動けさえすればフィールドワークも何とかなりますからね。

 それで経験を積んで生活費さえ蓄えれば研究方面に進む道だって見えてきます」


「なるほどね、まあ脳筋ばっかりじゃあ魔法戦闘力が足らなくなって、範囲殲滅力が低くなるし、後衛の拡充の為にも必要ってことね」


「バランスなのよね、前衛が多いと前線は確かに安定はするけど、魔物の数が多い時に押し返す、爆発力? のような火力が足らなくて殲滅力が不足するし。

 逆に後衛ばかりだと前線が不安定で、魔物の相手を後衛もしないとダメになって十分な火力が出せないのよね。

 魔法にしろ加護にしろ発動させるには集中力が必要だものね」


「熟練者は戦いながら魔法や加護を使うそうですよ。

 けどメグミちゃんは今でも結構戦いながら使ってますよね?」


「そうね、威力は低めだけど、敵の注意を引き付けるのに丁度いいのよ。

 『威嚇』はね、便利だけどちょっと効果範囲が狭いのが欠点よね。

 あれって声の大きさじゃないのよね……声の届く範囲に効果があるのかと思ってたら、単に気を放って注意を引いているのよ。

 実は声を出さなくても『威嚇』使えるなんて、これ知った時にはなんだか詐欺に遭った気分だったわ」


「『挑発』系なら『開戦の叫び』は声に乗せて気を放つので、声の大きさも関係しますよ?」


「あれはね、思った以上に喉を痛めるのよ。

 低めの声でちょっと特殊な発声法を使うから、女性向じゃないのよね。

 それこそ『挑発』は特定の相手の注意だけ引けるけど、これも射程がいまいち短いのよ。

 『威嚇』との違いは、周囲に気を放って複数の注意を引き付けるか、単体相手に集中して気をぶつけて気を引き付けるかの差じゃない?

 どちらにしても射程に大差がないのよ。

 その点、少し離れた敵の注意を引き付けるのに『氷の矢』や『風の刃』は丁度良いわ」


「メグミちゃんのは威力を押さえた代わりに、発生を速めているんですよね?」


「そうよ、あの魔法で敵を倒すつもりがないからね……動きながら威力の高い魔法を使うには、まだまだ魔法の腕が足りないからね。

 威力上昇系とかを省いて魔法陣を単純化して発動を速めているの。移動しながらでも攻撃魔法が使えるようにしてみたんだけど、細かい制御が効かないから直射のみで集弾も甘いのよね。

 まあ敵の注意を引くのにはそこそこ使えるわ。

 もう少し魔法制御を訓練すれば戦闘中にももっと高威力の魔法が使えるのかしらね?」


「どうでしょうか? 高威力の魔法は如何しても魔法陣が複雑になりますからね……魔法制御を訓練すれば魔法式の完成は早くはなるのでしょうけど、細かな制御をしながら魔法を使うにはやはりそれに集中しないとダメなのではないですか?」


「こう少し位燃費が悪くても良いから単純な魔法式で高威力な魔法は無いのかしらね?」


「いっそ魔道具の方が良いのかもしれないわよメグミちゃん、単機能で一つの魔法に絞った魔道具にすれば、魔法陣と魔法回路はそこに有るのだし、後は魔力を注ぎ込めば発動するでしょ?」


「それも一つのアイデアね、だけどねノリネエ、魔法は相手が抵抗したら効果が消えるわ。

 攻撃魔法の場合、相手に与えるダメージが0になることだってあるのよ。

 魔道具だと相手の抵抗に合わせて干渉力を強化して相手の抵抗を突破するのが無理なのよね。

 魔道具は魔法陣が固定されるでしょ? 細かいパラメーターの調整が効かないのよ……」


「一長一短ありますね、けど『氷の矢』の様な魔法なら威力上昇の効果や、氷結効果等の付加的な魔法の効果は抵抗されますが、氷の氷柱そのものの物理的な攻撃は例え相手が抵抗に成功してもそのまま残りますよ。

 これなら魔道具でも使えませんか?」


「氷の氷柱だけだとちょっと堅めの鎧ではじかれる程度の攻撃力よ?

 注意を引くだけなら今のままでも問題ないし、魔道具を持ち歩く分返ってデメリットが増えてるわ。

 相手にダメージが通るだけの威力が欲しいのよ!

 それじゃあ鎧を着ていない人間相手ならダメージが通るかもしれないけど、魔物は下手な鎧よりもその毛皮なんかが防御力高いじゃない? 全くダメージが通らないんじゃないかしら?

 魔物に物理的なダメージを与えるならせめて鉄砲の銃弾位の威力が欲しいわね。

 そうかそうなると射出速度を速めないとダメ……ちょっと考えてみるわ」


「物理的にダメージを与える魔法なら『石飛礫』も有りますよ。

 こちらは追加効果が無い分、物理的なダメージは『氷の矢』よりも優れています」


「『石飛礫』? 余り聞かない魔法ね」


「そこら辺の土を集めて、それを圧縮硬化、石にして高速で打ち出す魔法です。

 この圧縮行程と硬化の行程に思いのほか魔力を消費するので燃費が余り良く有りません、それで不人気なんですわ」


「土を石になるまで圧縮してるの?

 凄いわね、有機物とかどう処理してるんだろ?」


「錬金行程も有りますから有機物は分解されているのでしょうね。

 それにこの圧縮は凄まじい圧力らしくて、この石の弾丸は見た目以上に重いです。それだけに威力も高いですね」


「へえ、圧縮して重量を増しているんだ!

 面白い魔法、面白い着眼点だわ」


「なあメグミの姉御、さっきから聞いてると当然の様に話してるけど、あんた達、魔法の改造どころか魔道具まで作ったりしてるのか?」


「そうよ? そもそも魔道具は今日あんた達にも造ってあげたでしょ?」


「?」


「エッ?」


「なんの……こ……とってもしかして今日下賜して頂いた『虎徹』?」


「そうよ、この地域の剣は魔剣・魔法剣よ。

 魔法を付与して魔法式を刻んだ魔道具の一種。

 それを造ってるんだから当然魔道具だって造れるわ。

 鍛冶だけできてたんんじゃあこの街では鍛冶師にはなれないのよ。

 錬金術も付与魔法も使えないと鍛冶師とは呼ばれないわ」


「私は錬金術と付与魔法が得意ですが、鍛冶もメグミちゃん程で無いけど出来ますわ。

 お姉さまも一緒です、それにお姉さまは聖属性の付与系統と言う非常に難易度が高い特殊な付与魔法が出来ます。

 メグミちゃんは鍛冶師なので当然全て出来ます。

 私達は大抵3人で其々の長所を活かして作業分担して剣や魔道具を造りますけどね」


「タクヤ君、もうちょっと補足するとね、サアヤちゃんが使える、出来ると言っているのは、見様見真似でやって効果が現れる、って事じゃあ無いのよ。

 仕組みや原理を理解して自分達で一から造れるって事なの。

 魔法式を組み立てる事が出来る、魔方陣が描けるって事なのよ。

 魔法のアレンジはね、使い手が其々に違うのだから普通それに合わせて調整するのが当然なの。

 魔法組合で教えて貰える魔法式は万人向けに扱い易い様になって居るのよ。

 使い慣れている人にとっては無駄な部分が多いし、抑えられている部分も多いのよ。

 効率的に魔法を使いたいなら原理を、仕組みを理解して自分なりにアレンジするの、そうすれば上達も早いわ」


「アレンジ? そんなに簡単に出来るのか?」


「簡単じゃあ無いわよ。試して失敗して修正して又試す。

 自分の納得が行くまでこの繰り返しよ。

 けどね失敗も無駄じゃあ無いわ、経験よ。

 実際に自分で試して実感して初めて分かる事が多いのよ。

 聴いただけ、教えて貰っただけじゃあ、その効果なんかの説明はその教えてくれた人の感想でしかないの。

 その人には大したことのない効果で無駄な事でも私にとっては重要な事は幾らでもあるわ。

 可能な事は全て試してそれを知る。

 これを繰り返せばその内、試さなくても大体の魔法式は組める様になってくるわ。

 っま! 最終的には試して確認するけどね」


「簡単に言ってるけど凄い事なんじゃないのかなぁ?」


「魔法の才能がインドア系で特に理系の子に有る理由の一つよ。

 仕組みを理解してトライアンドエラーを繰り返して魔法式を組み立てる作業は脳筋向きじゃないからね。

 魔法を不思議な力だと思っているのかも知れないけど、魔法に偶然なんてないわ、全て必然なの。

 あんた達も頑張って勉強なさい」


「うへぇ考えただけで吐き気がしてきた。

 オレ理数系ダメなんだよね。

 こうロマンが無いだろ」


「ロマンか……けど色々アレンジ出来たら楽しそうだな。

 苦労しそうだけど勉強してみるか?」


「えええぇリーダー苦労どころじゃない気しかしないぜ?」


「苦労って言っても24時間頑張ってる冒険者組合の職員ほどじゃないでしょ。

 私達見習いは昼間だけ勉強してるかクエストこなしてれば良いんだから楽なものよ」

 

「ええええぇ……」


「メグミちゃん、先程は訂正する前に話題が移ったから指摘出来ませんでしたが、職員さん達は特に昼勤と夜勤を交互に交代して勤務しているのではないみたいですわよ。

 夜間勤務が好きな方が夜間を受け持っているので、普通の勤務の職員さんは早出と遅出があるくらいで、特に夜勤交代勤務は無いのだそうです。

 早出や遅出も本人の希望が優先されるみたいですわ」


(確かにナッちゃんやアッちゃんは夜勤とかしてる風では無いわね?

 他の受付のお姉さん達も夜勤で一週間見かけないとかないわ)


「それで成り立つの? 夜間勤務とか大変そうなのに? 夜勤の人から不満が出ないの?」


「夜間は流石に訪れる冒険者の人数が少ないですからね、全ての窓口を開いているわけではありませんから、少人数でも対応可能らしいですわ。

 それに獣人族等の職員さんの中には夜行性の種族の方もいるので、昼間の勤務に向かない方も居るのですわ。

 だからその辺は上手く回っているようですわ」


「ああ、そうか、そうなのね。この世界には人以外の種族の人達も大勢いるものね、そんな人たちに昼間の勤務を強いる方が大変なのね」


「そうですわ、田園の方も夜間はペットの魔物等も警戒に当たっていますが、そういった人族以外の農業従事者の方が夜勤で働いていて、色々ペットに指示したりお世話に当たっているようですわ」


「夜勤の人も働き者だけど魔物のペットも働き者よね、昼間は私達、冒険者の手伝いをして、夜は畑の見回り、本当に何時休んでるのかしら?

 ラルクが頑張りすぎて体調を崩さないか心配だわ」


「ノリネエ、ラルクは心配ないわよ、あの子よく立ったまま寝てるわよ?

 まあ座っても立っても、あの短い脚のせいであんまり区別がつかないけどね」


「なっ! 酷い! 確かに脚は長く無いけど区別くらいつきます!!」


 ノリコの抗議をサラッとスルーしてメグミは話を続ける。


「けどそう言われるてみると……ねえサアヤ、魔物のペットって寝ないの? ソックスが寝ているの私見たことがないんだけど?」


 ラルクは聖獣、魔物ではない。ラルクが寝ているからと言っても魔物のソックスが寝ているとは限らない。


「魔物のペットも寝てはいるみたいですよ、ただ魔物というか野生動物でしょ?

 野生動物は油断して熟睡することは余り無いみたいですよ。

 例え寝ても眠りは浅いみたいです、普通の魔物は周り中敵だらけで安心して眠れる場所がありませんからね。

 ゆっくりのんびり寝ている人間や、犬猫が特殊なのですわ。

 あとソックスちゃんは心配ありませんわ、メグミちゃんが居ないと寝てたりしてますから」


「ソックスちゃんてメグミちゃんが帰ってきたり、近くに寄ってくると、途端に飛び起きるのよね、だからメグミちゃんはソックスちゃんが寝ているところを見たことがないのよ。

 え? ああ、怯えてるわけじゃないと思うわよ。

 だってあんなに嬉しそうに尻尾を振ってるもの、きっとメグミちゃんに遊んでほしくて仕方がないのね」


「メグミちゃんってやたらとペットに好かれてますよね。ソックスちゃんだけじゃなくて、私のプリンちゃんもメグミちゃんの事好きみたいですわ。

 お姉さまにも懐いてますけど、メグミちゃんは別格に好かれてます。

 あの子があんなに大人しく体を触らせるのは珍しいですわ」


「そうね、ラルクも若干怯えているけど嫌ってはないのよね。アイ様やヤヨイ様の言うことも余り素直に聞く子じゃないのに、メグミちゃんの命令には素直に応じてるのよね。

 怯えて逆らえないだけ? 多分違うわ、ラルクは気に入らない人の命令には自分が殺されても従わないと思うわよ。あの子意外と頑固だもの」


「今日だってアキヒロさん達のペットの灰色狼と直ぐに仲良くなってましたよね? アキヒロさん達が地味に驚いてましたよ?」


「野生動物は群れのボス、上の奴には逆らわないだろ?

 ソレなんじゃねえか?」


「ハァ? ノリネエが言ってるでしょ怯えて無いのよ?

 なんでボスなのよ! 可憐な乙女を捕まえて何言ってくれてるのかしら?」


「でも群れのボスってのは可能性の有る話ですわ」


「サアヤまで何言い出すの?!」


「魔物のペットは本能でメグミちゃんの強さを感じている可能性が高いですわ。

 メグミちゃんには絶対勝てない、けど自分達に害意を抱いている敵でもない。

 それを理解してメグミちゃんに本能的に従っている、十分に考えられますわね」


「ちょ、ちっ違うわ! ソックスは懐いているだけだもの!

 ボスじゃないわお母さんよ!」


「メグミちゃんそれってどちらにせよ上位者に従っている事に違いが無いわよ?

 けどそうねメグミちゃんって意外と母性を感じるからお母さんってのは有るのかもしれないわね。

 ソックスちゃんもラルクもまだ子供ですものね」


「ノリコ様それではアキヒロさん達の……」


「ちょっとタクヤさんは黙って!

 お姉さまが良い感じに纏めたのですから蒸し返してはダメです!

 メグミちゃんあれで意外と乙女なので拗ねると面倒なんですよ」


 メグミ達がそんなに事を言いながら夜道を歩いていると冒険者組合事務所が見えてくる。

 この事務所周辺は冒険者相手の商店や飲食店が軒を連ねているため、他が暗い街中で一際煌々と明るい。


 冒険者組合事務所は、こんな時間であっても人の出入りが激しい。


 冒険者の街、ヘルイチ地上街の象徴のような建物だけに周囲の建物を圧倒する威容を誇る。

 地上5階、地下2階建のこの建物は各階の天井も高く、屋根の上までの高さは35メートルに達している。

 ちょっとしたビルの様な高さだ。

 中世ヨーロッパ風の2階建、3階建の建物が多い街なかで一際高い。

 立っている位置も丘陵の頂点に近いため、その屋根は街中から見る事が出来る。

 その屋根の上には鐘楼があり、朝6時から夕方6時まで刻を告げる鐘が1時間毎に響く。

 夜間は安眠の妨害になる為、鐘を鳴らしていないのだそうだ。


 今はもう午後7時半、既に今日の鐘は鳴り終わって居るが、冒険者組合事務所周辺はそんな時刻を感じさせない程の賑わいだ。


 大きな冒険者組合事務所は、いくつもある扉が全て開け放たれ、そのすべてから冒険者や職員が絶え間なく出入りしている。


 メグミ達も人込みを縫って進み、東側の換金窓口の前にきた。

 このヘルイチ地上街の換金窓口は一般向けが建物の東側にあり、西側には大物用の窓口がある。

 また解体処理が必要な魔物は建物の裏手、西に解体用の体育館の様な施設がありそこで素材に解体処理されている。

 手数料はかかるが大きな魔物が受肉していた場合、この施設に転送して解体処理してもらうのが一般的なのだそうだ。

 これらの窓口で買い取られた素材は一端建物の地下1階と2階の倉庫に収められ、各種商人ギルドなどに売却されている。


 直接商店などに買い取りを持ちかけることもできるが、その為には、質を見極める目と相場を知る必要がある。

 冒険者組合の買取価格は、一般市場価格の半値と決まっているが、価値の見極めと買取交渉等の手間を一手に引き受けて半値ならばそれほど損はないというのがメグミの感想だ。

 買い取った素材は一定の儲けを上乗せして商人に売却され、それを商人は自分の儲けを上乗せして売っている。それが一般の市場価格となるのだ。


 冒険者組合の買取は、専門の職員が『鑑定』をしながら行い、不正は決してしないのが自慢だ。

 複数の職員がお互いに監視しながら『鑑定』を行っており、決して一人の職員に金額を決定させない。

 それだけの公正性が担保された上で、市場価格の動静を反映しながら買取価格が決まるのだ。


 不当な安値で買いたたかれることのないこの換金窓口での買取はむしろ半値ならば十分すぎる高値に近い。

 そして商人にとっても質の担保された冒険者組合での仕入れはクズを掴まされることがないため歓迎されていた。


 よほどの特殊な事情のない限りは冒険者の獲得した素材はこの窓口にて現金化されている。


 換金窓口はここ東側の一般用は15個もあるのだが、全てに順番待ちの人の列が出来ていた。

 朝から大魔王迷宮等に籠った冒険者が、仕事を終えて換金に来るタイミングと丁度重なったらしい。


(まあ朝から迷宮に籠ったら、女の子の門限と合わせてタイミング的にこの位の時間なのよね、あの渋滞が無ければもう少し空いてたんだろうけど……まっ仕方ないわね)


 比較的順番待ちの人数が少ない列に並んでメグミ達も順番を待つ、するとサアヤが、前に並んだパーティーのメンバーに話しかけられていた。

 みればサアヤと同じ、エルフの冒険者で比較的若く見える。まあエルフは皆若いのだが、雰囲気が見た目以上に幼い感じがする。


(あら? サアヤの知り合いのエルフかしら?)


「サアヤ様、今日もクエストですか?」


「ええ、今日は黒鉄鉱山に行ってきました。貴方は?」


「私たちは下水路の方に魔物退治に行ってきました、少々苦労しましたが、その甲斐あって、『パール』を仕留めることが出来ましたよ」


 嬉しそうに報告しているエルフの若者、その声を聴く限り男性の様だ。


(エルフって性別の区別がつきにくいのよね、どっちも華奢なのよ、けど男か……どうでもいいわね)


 性別が男と知って、メグミは早々にそのエルフの若者に興味を無くした。

 だがそのエルフの若者とサアヤの話は続く。


「まあっ『パール』を? 取り巻きに苦労したんじゃないんですか?」


「確かに『オニキス』には苦労させられましたが、皆で頑張って倒しましたよ。

 成果の方も中々です。今日の買取には期待が持てますよ。

 実は『ジュエル』も見かけたのですが、移動中だったようで凄い速さで取り巻きの『ゴールド』と『シルバー』と共に下水路の奥に消えていきました。

 あれが発生しているとなると、暫くは下水路が冒険者で賑やかになるかもしれませんね」


「『ジュエル』ですか? どなたか魔結晶を回収し忘れたのでしょうか?」


「そうですね、自然に発生した可能性もありますが、既にあれだけの取り巻きが居るとなると、欲をかいた冒険者が回収をミスした可能性が有りますね」


「なあサアヤちゃん、その『パール』や『オニキス』それにその『ジュエル』だっけ? その宝石の様な名前は何なんだ?」


 ゴロウが興味を持ったのか話に加わっていく。


「ああ、それは『クローチ』の上位種ですわ。

 下水路の魔物も当然そこで育って、経験を積んで進化するんです。

 『パール』は全身が白く発光している『クローチ』で非常に優美な姿をしているそうですわ」


「あら? アルビノなのかしら?」


 更にノリコがその話に加わる。


「いいえお姉さま、アルビノとは違って白いだけでなく発光しているのが特徴です。ただのアルビノは『ホワイト』と言われていて、まあ少し珍しいだけの雑魚ですわ」


「『パール』は発光しているので薄暗い下水路でよく目立ちます。一目で違いが判りますよ」


「あらそうなの? けどそれだと下水路では目立ちすぎて不利よね? 『パール』はその不利を覆せるほど強いのかしら?」


「そうだよね? 『クローチ』はその黒い見た目で闇に紛れて居るのも厄介な理由だろ? 目立ってはなあ?」


 ノリコの疑問に、ゴロウも首を傾げている。


「『パール』自身は少し普通の『クローチ』よりも強い位ですわ。問題はこれの取り巻きです」


「取り巻き? ああ、それが『オニキス』?」


「そうです、流石サアヤ様お連れの方だ、察しが良い。

 『オニキス』は『クローチ』よりも更に黒い、漆黒の個体です。

 こいつらは大きいうえに素早く、攻撃力が一般の『クローチ』とは比べ物になりません。

 それが『パール』を囮に、周りに潜んでいるんですよ。

 『パール』を見かけた場合は、『パール』よりもその周辺、『オニキス』を警戒してください。

 大抵十数匹まとまっているので、初心者の内は『パール』を見かけたら逃げた方が無難です」


「けどそんな『パール』を倒したのね? 凄いわね!」


 ノリコの美貌はエルフ相手にも通じるレベルなのか、エルフの若者の頬がうっすらと赤くなる、褒められて照れているのだろう。


 若者の周りのパーティーメンバーも若干自慢げだ。


 よく見ればバランスのいいパーティで、戦士系の前衛が3人、全て男性で人族の戦士が2人、1人は極端に背が低く、横に広い、ドワーフの戦士だ。

 人族の戦士は小型の盾を装備し、短めのブロードソード装備、ドワーフの戦士は小型の斧を2丁装備している。


 そして獣人、黒猫族と思われる少女、黒い耳と尻尾が特徴の愛らしい少女だ。おそらく斥候なのだろう、鈎爪の様な物が付いた小手を装備し、腰にはダガーを4本も装備している。


(猫耳少女!! 猫耳は良いものだわ!! 私たちのパーティメンバーにもぜひ欲しい! 絶対欲しい!!)


 エルフの若者は中衛と遊撃だろうか? 短めの槍と、細身の取り回しのよさそうな短剣を装備している。


 白き月の女神の神官服をきたこちらも獣人だろうか羊の様な角の生えた金髪の少女と、こちらは蒼き月の女神の神官だろう、人族の男性がいる。

 この二人が回復役の後衛であろう。

 二人とも腰にメイスを装備しており、男性の物は少し大きい。

 そして手にはロッドを装備している。先端の尖った形状は刺突用だろう。

 中衛もこなしているのだろうか、そのロッドが手に馴染んでいてひ弱さがない。


(あの羊の様な角は何の種族なんだろう? 大人しそうな柔らかな雰囲気の子ね? クリクリの巻き毛が可愛いわ。羊系の獣人かしら? いろんな種族が居るのね)


 後で知ったが彼女は黄金羊族という、この地域にしか住んでいない少数民族の少女だった。

 とても温厚な種族で、接近戦は不得意な種族らしいのだが、神官の適正があり、加護の力の強い種族なのだそうだ。


 そして……


(あれ? 耳が長いわ、エルフ? いや肌が黒い? え? ダークエルフ? なのかしら?)


 黒い肌をローブで隠した先ほどからじっと黙り込んでいる男性、ダークエルフらしき彼は火力担当の後衛だろう。

 こちらも短剣を腰に装備して、その手には魔法補助用のスタッフを装備している。

 ただこのスタッフ、打撃にも使用しているのか、魔法球をガードするように覆いが付いている。


(なんで男なのよ!! 女性のダークエルフが良かったわ! けど同じエルフなのにダークエルフの方が肉感的というかゴツイのね。

 これは女性のダークエルフにも期待が持てそうね)


 皆年は若いが、それなりに経験を積んだパーティらしく、その装備にスキがない。

 どうやら『鋼鉄』のパーティらしい。


「でその『ジュエル』が現れるとなんで下水路が冒険者で賑やかになるんだ?」


「そうね、その『ジュエル』も『クローチ』の上位種なの?」


「ええ、そうです。『ジュエル』は下水路に現れる魔物の中では最上級、ボスと言っていいでしょうね。『ジャイアントラット』の上位種、『スパークラット』と並ぶ、下水路のボスの一匹ですわ」


「『ジャイアントラット』にも上位種が居るのか?」


「当然ですわ、『クローチ』だけが進化するわけではありませんからね。

 『レッドアイ』と言われる、目が赤く光る上位種に、『パープル』と呼ばれる大きな個体、それに『スパークラット』と呼ばれる、帯電して蒼く光り輝く下水路の最上級魔物のラットが居ます」


「『ジュエル』も取り巻きの『ゴールド』や『シルバー』を引き連れてるけど、今度はその取り巻きよりも『ジュエル』その物が非常に強力なんだ。こいつら取り巻きを含めて魔法まで使って来るからね。

 ただ『ジュエル』はその名前の通り、非常に綺麗な個体でね、倒して売ればとても儲かるんだ。

 本当に全身宝石みたいなものでね、装飾品の素材としてとても珍重されていて希少価値も高い。

 だからこいつが発生すると一攫千金を夢見た冒険者が下水路に殺到するんだ。

 取り巻きの『ゴールド』や『シルバー』でさえ結構な値段で売れるからね」


「……『G』を装飾品にするのか!?」


「『G』? 召喚者は偶に『クローチ』をそう呼ぶけど、なんなんだ? それにそんなに不思議かな? とても綺麗なんだぜ?」


「うーーーん先入観ってのは中々ね、こればっかりは日本から召喚された私達には如何にもならないわね」


「そうなんですか? まあいいですわ。そうだ、ついでに説明しておきましょうか? 今回はまだ発生してないようですが『スパークラット』も?」


「そうね参考に聞いて置こうかしら?」


「何の参考よ? 絶対に下水路にはいかないわよ!」


「まあまあ、折角だし、ねっ、メグミちゃん」


「むぅぅぅ」


「『スパークラット』はその名の通り電撃を放つネズミです。大きさは2メートル程であまり大きくはないのですが、その身に纏う電撃が非常に強力です。

 この電撃は普段は身にまとって防御に使用し、その身に敵を近寄らせません。

 それに魔法の『雷撃』のように相手に放つこともでき、更に同じように貫通するため、直線が多く遮蔽物のない下水路では凶悪な威力を誇ります。

 それに場所が水が大量にある下水路というのも不味いですね。

 電撃の通電範囲が広いんです。この環境と相まって下水路では凄まじい強さを誇ります。

 この魔物が発生すると、この電撃で周り中の魔物を敵味方関係なく殺し尽くして、その魔結晶を吸収していきます。そして益々手が付けられない魔物に成長するんです。

 ただこの『スパークラット』も『電雷光石』という珍しい宝玉をその身に宿していて、それが非常に高値で売れます。

 またその毛皮もとても高価な買取価格です。

 電撃耐性も備えているらしく、綺麗なその見た目と相まって価値が高いですね。

 これらの理由から、こちらも発生すると下水路に冒険者が殺到することになります」


「下水路の魔物でしょ? 初心者が行き会ったら大変ね?」


「まあ発生直後はそこまで電撃も連発出来ないので、逃げることはできますわ。

 その電撃のせいか、本人が多少痺れているのか足があまり早くないのだそうです。

 ですから早めの駆除が肝心ですね」


「で今はその『ジュエル』が発生したのか?」


「そうだよ、もう発見報告も済ませたし、明日には討伐クエストが張り出されると思うよ、まあ発見報告の報酬ももらえたし、今日は本当にラッキーだったよ」


「ねえ、メグミちゃん、あの……」


「絶対に行かない!! イヤ! 絶対にノー!!」


「ごめんねサアヤちゃん、私も今回はメグミちゃんに賛成よ」


「まあ無理強いはしませんわ」


「ところで魔結晶の回収し忘れって言ってたじゃない? それだけでそんな強力な魔物が発生するの? 下水路の魔物の魔結晶は小さいわよね?

 数個食べた位でそこまで進化するのかしら?」


「ああ、其れはですね、下水路の魔物は受肉しているものが多いんでよ。

 だからそこらへんに居る『ゼリースライム』を使って解体させるんです。

 手作業で魔結晶を取り出すのも手間ですからね。

 そうだ、ねえ貴方たち、回収した魔結晶を少し見せてもらっていいかしら?」


「構いませんよ、サアヤ様の頼みなら!

 これが回収した魔結晶です」


 そう言ってエルフの若者が差し出した魔結晶は拳大よりも少し小さい位、『コボルトナイト』のモノに近い大きさが有る。


「え? なんだその大きさ! え? 下水路の魔物って雑魚だろ? そんな奴がそんな大きさの魔結晶を持ってるのか? これが『パール』って奴か?」


 タクヤがそれに驚きの声を上げる。


「いやこれは『パール』のモノじゃないよ。『クローチ』や『ジャイアントラット』の魔結晶を纏めたものだよ」


「え??? 魔結晶を纏める?」


「そうですよ、これが『ゼリースライム』の特徴、吸収したものを纏めて結晶化する力です」


「いや待ってサアヤちゃん、其れだと『ゼリースライム』が凶悪な魔物に進化しちゃうんじゃないの?」


「それは大丈夫です。『ゼリースライム』には制限が設けられていますからね。

 人工的に作られた『ゼリースライム』は強くならない様に魔結晶を吸収できないようになっているんです。

 限りなく弱くがコンセプトですからね。

 ですから『ゼリースライム』は体内に吸収した複数の小さな魔結晶を不要物としてまとめて結晶化し、大きな魔結晶にして吐き出すんですわ」


「じゃあ私たちが倒したコボルトの魔結晶も『ゼリースライム』で加工すれば大きな魔結晶に出来るの?」


「わざわざ『ゼリースライム』を使わなくてもプリンちゃんが居るじゃないですか? プリンちゃんにお願いすれば大きな魔結晶にしてもらえますよ?」


「なんで大きな魔結晶にしないの? その方が高く売れるんじゃない?」


「この方法は討伐報酬が低い、魔結晶の小さい下水路ならではの方法ですわ。

 討伐報酬は魔結晶を判定して支払われますよね?

 纏めてしまうと討伐報酬の区別が付かなくなってしまいます。

 ですから討伐報酬がある程度の値段のコボルトの魔結晶を纏めてしまうとかえって報酬金額が下がりますから纏めてはいけませんわ。

 『クローチ』や『ジャイアントラット』の討伐報酬は両方100円以下ですから纏めて魔結晶の大きさでおおよその討伐数を割り出して支払ってもらっているんです。

 その方が計算の面倒がないですからね。

 この下水路の魔結晶なら恐らく百数十匹分の魔結晶でしょうね。

 魔結晶の買取単価は7万円位で、討伐報酬は1万円程度ではないでしょうか?」


「それだけ倒してもそんな値段なの?」


「クエスト報酬が別途出ますからね、下水路のクエスト報酬はその討伐数に応じて支払われますから、この魔結晶でも買取単価と同額程度のクエスト報酬が出ると思いますよ」


「ああそっちが有るのか」


「今回はこの大きさの魔結晶が3個と『パール』と『オニキス』のモノが有るからね、それに『パール』や『オニキス』も素材として売れるんだ。

 その他の報酬だけで45万、『パール』なんかの報酬を入れたら多分80万くらいかな?

 朝から頑張った甲斐があったよ、一人当たり10万円くらいの報酬だね」


「思った以上に下水路って儲かるのね?」


「まあね、下水路はその匂いさえ少し我慢すれば儲かるクエストなんだよ」


「でも嫌! 絶対に行かない!」


「まだ何も言ってませんよ!」


「でもサアヤちゃん、その回収し忘れってもしかしてこの大きさの魔結晶を回収し忘れたっていうの?」


「そうですわ、『ゼリースライム』に解体させている最中に別の魔物の群れに遭遇して戦闘とかそんな状況で、魔結晶を回収し忘れているうちに、『ゼリースライム』が排出したその魔結晶を他の魔物に食べられてしまうんです。

 『ゼリースライム』と違って、他の魔物には制限がありませんからね。

 この大きさの魔結晶を食べたんです。それはもう一気に進化するでしょうね」


「けどさサアヤ、『ジュエル』も『スパークラット』も儲かるんでしょ?

 わざと発生させて儲けたら良いんじゃないの?」


 メグミのその案が周囲にざわめきを生む。

 それに気が付いたサアヤが、


「全く悪いことは直ぐに思いつきますねメグミちゃんは!

 そこまで進化するためには最低でもこの大きさの魔結晶が必要になります。

 この大きさの魔結晶なら吸収するための時間が必要ですから直ぐにその場で進化はしません。

 それに進化しようとする魔物は安全に進化するために直ぐに逃げてしまいます。

 ですから自分たちの報酬を食べられてしまうだけで儲けはありませんわ。

 他のパーティがその魔物を倒してしまったら丸損ですわね。

 そんな分の悪い賭けをするんですか?」


なるべく穏便にメグミにその案を引っ込めるように諭す。

 しかし、


「そんなの簡単でしょ? 何だって逃げられやすい下水路の現地で試すのよ?

 魔結晶を与える魔物を逃げられないような場所に予め捕らえて、そうね隙間のない地下施設に閉じ込めておけばいいのよ。

 そこで魔結晶を与えて、進化してから倒すのよ! 丸儲けだわ!」


メグミは最悪の発想に至ってしまう。この方法を思いつかないように諭したつもりのサアヤであったがその思惑は外れてしまう。


「メグミちゃん声が大きいですわ!!

 ダメです。魔物を街中に入れるのには特別な許可が居るんです、捕らえるなんてトンでもありませんわ!!

 それに魔物を実験に使用することも禁じられています。

 メグミちゃんの様な事を考えた人が昔居て、それで実際にそれを実行したそうです。予想外の進化をして大惨事になったそうですわ。

 以来その方法は法で固く禁じられていますから! 絶対にやっちゃだめですわよ!」


 そうメグミの思いついた方法それは嘗て悲劇を生んだため違法とされているのだ。


「予想外の進化? 興味深いわね」


「興味を持たないで!! ダメったらダメです!」


「ちょっと待って『ジュエル』や『スパークラット』はボスモンスターだけあってベテランパーティが相手するような魔物だよ?

 『黒銀』でも複数パーティで挑むような魔物なんだから、そもそも見習いの君たちがそんな実験をしても倒せないよ?

 幾らサアヤ様が居ても難しいんじゃないかな?」


 説得に苦戦しているサアヤを慮ったのか、エルフの若者がそう言ってメグミを諭す。

 しかし、メグミにそれは逆効果だ。


「いや、お願い、煽らないでください、ちょっとメグミちゃんは特殊なんです。

 多分『ジュエル』や『スパークラット』程度なら倒してしまいますから。

 だから煽らないで!」


「え?!」


 エルフの若者は目が点だ、今日だって、追いかけて『ジュエル』を狩らなかったのは、自分たちだけでは勝てないからだ。

 それを自らの使えるべき主と定めるサアヤが、倒せると、見習い冒険者である彼女達が倒せると宣言するのだ。

 それに追い打ちをかけるように、ゴロウたちが、


「まあメグミの姉御なら余裕だろ?」


「瞬殺する未来しか見えないな」


「一口かませてくれないだろうか?」


儲け話に協力する風を見せる、どうやらサアヤの言った違法ということを軽く見ているようだ。


「あなた達も黙りなさい! メグミちゃん、私は協力しませんよ!

 それにメグミちゃんだって『クローチ』は嫌でしょ?」


 何やら必死なサアヤと周りのざわめきと雰囲気に危険なものを感じてノリコもメグミを制止しようとサアヤの援護に入る。


「けど楽して大儲けよ? 魅力的じゃない?」


 メグミは平常運転だった……周りのざわめきや雰囲気など気にしない。

 そんな繊細な神経の持ち合わせがないのだ。


「メグミちゃん、窓口のお兄さんがこっちを睨んでますから!

 あっ、受付嬢のお姉さんが謝ってくれてますよ、メグミちゃんも謝って!

 大丈夫です! 絶対にそんなことはしませんから、ええ、しっかり見張ってます! ほらメグミちゃんも謝って! いいから謝って!!」


「いやよ! まだ何もしてないじゃない! いいこと思いついたと思ったから言っただけじゃない! なんで謝らなきゃいけないの! 納得いかないわ!」



 サアヤとノリコが平謝りに謝罪し、不満顔のメグミが口をへの字に曲げて決して謝罪しようとしない中、受付嬢のお姉さんの尽力でようやく騒ぎは収まった。


「メグミちゃん! おイタはしちゃだめよ? 今回は法律を知らなかったんだから仕方ないけど、もう分かったでしょ?

 だからダメ、分かりましたね?」


 とても背の低い受付嬢のお姉さんが下からメグミにお説教している。


「私は何も悪いことはしてないわ!」


「そうね、悪いことを思いついただけよね。けどね危険なのよ、だから実行してはダメよ? それだけわかったらそれでいいから? ね、わかった?」


 受付嬢のお姉さんはこれだけ迷惑をかけられても謝罪を求めていない、そうちっとも謝罪を求めていなかった。


「わかったわよ、しないわよ!」


「ん、いい子ね、じゃあね私はもう行くから、大人しく並んで待ってるのよ?

 あんまり騒いだらダメですからね?」


 背伸びをしてメグミの頭を撫でた受付嬢のお姉さんはそのまま去っていった。


「良い方でしたね、偶に見かけるお姉さんですよね、小さいのにしっかりしてますわ」


「サアヤちゃん、どう見てもあの方私達よりも年上よ? 見た目は年下だけど、雰囲気が大人だわ」


「わかってますよ、お姉さんです。えっと、合法ロリでしたっけ?」


 メグミの好きそうな話題を振ってみるサアヤだが、メグミの反応がない。


「メグミちゃん、落ち込む位ならお姉さんにお礼を言ってきては?」


「メグミちゃんって強情ですけど、人の善意には敏感なんですよね……でも今日は流石にもう帰宅したのでは? 帰る途中でたまたまこの騒ぎに気が付いて駆けつけてくれた感じでしたよ?」


「なら明日、お礼にいけばいいでしょ? 大丈夫よ『ママ』にアップルパイを焼いてもらいましょ?

 きっとあの方も喜んでくださると思うわよ?」


 暫く今度は大人しく並んで待っていると、メグミ達の番となった。


 換金窓口の小さな小窓から外のメグミ達に部屋に入るように指示がある。

 小窓の横には扉があり、メグミ達はそこから格子に囲まれた小部屋に入っていく。

 この格子に囲まれた部屋は密室で不正が行われないようにと設置されたもので、外からもまた隣の部屋からも室内が見えるようになっている。

 他の冒険者の換金の様子がどこからでも監視できるようになっているのだ。

 その5メートル四方の小部屋には、鑑定買取の職員が2名、手に買取用紙を挟んだボードをもって待ち構えている。


「ではこちらに今日の成果を並べください。魔結晶はこちらの机に、それ以外は彼方の机に、重量物は床のこの台の上に並べてくださいね」


 職員の指示に従ってサアヤが収納魔法から今日の成果を並べていく。

 『コボルトロード』の大きな大剣を床の台の上に載せたときには周り中から歓声が上がる。

 前の騒ぎでメグミ達は注目されていたのだ。

 メグミも気を取り直して、机の上に『コボルトナイト』の青龍刀や『コボルトロード』の爪、そして綺麗な赤い宝玉、そして大きな魔結晶を次々と台の上に並べていく。


 その度にため息とも驚愕ともつかない声が上がるが、一番最後に取り出した、『コボルトロード』の魔結晶に今日一番の歓声が上がる。


 頭よりも大きな魔結晶だ、その魔物の格が一目で分かったのだろう。


 冒険者の収入は主に魔結晶の買取と魔物の討伐報酬になる、下水路のようにクエストが設定されていればそれが加算される方式だ。

 この討伐報酬とは魔物を倒すことにより支払われる報酬である、この世界の各国家が資金を出し合い、各冒険組合経由で冒険者に支払われる魔物の討伐報酬であり、魔物度に金額が設定されている。

 これは各国が協議してして設定された為、冒険者組合では変更のしようのない金額だ。

 魔物によってはそれぞれ個々の魔物の強さにばらつきがあるがそれは考慮されない。

 あくまでもその種類によって支払われる報酬だ。

 ただし上位種や亜種の区別はされていて、その種類によって金額は跳ね上がる。

 これは魔結晶の買取とセットで支払われており、このセットで支払われる報酬が冒険者の魔物討伐によるメイン収入となる。

 魔結晶は魔物それぞれに特徴があるそうで、魔結晶を鑑定するだけでその種類や強さが分かるのだそうだ。


 細かな強さの違いによる差額は、この魔結晶の買取金額で調整されている。

 強い魔物は同じ種類の魔物でもその大きさに違いがあるのだそうだ。

 ただこちらにも変動幅に上限がある、幾ら金額を上げたくても損をするわけにはいかない為だ。


 そして魔結晶は自宅などでその家電魔道具の動力として使用する為、討伐報酬確認後、売らずに返却してもらうことも可能である。

 ただし、一度討伐報酬が確認された魔結晶は専用の魔道具によって処置が施されるため、直ぐに見分けがつき、同じ魔結晶でもう一度討伐報酬を受けとる不正は出来ないようになっている。


 本日の一般の魔物の換金結果は以下となる。


・地下1階のコボルトの魔結晶(単価700円)と討伐報酬(一匹200円)

 42匹の討伐となっている為。合計:¥37800円


 討伐報酬が少ないのはコボルトがあまり積極的に人里を襲うことがないためである。

 鉱山に巣くう迷惑な魔物では有るのだが、ゴブリン等に比べるとその脅威度がさがるため、その金額は低く設定されている。


・その爪、これは武器作製で5個使用しており。

 残り3個で単価4500円の為、合計:¥13500円


 アイテムの買取単価はそれなりだ、市場価格の半値、今後も鍛冶で使用する為、鑑定だけしてその金額でメグミが買い取る予定だ。

 ちなみに魔結晶の買取と同時に依頼している為、その他の品物の鑑定は買取の有無にかかわらず無料になる。魔物を討伐してほしい冒険者組合からのサービスなのだそうだ。


・地下2階のコボルトの魔結晶(単価1400円)と討伐報酬(一匹600円)

 30匹の討伐となっている為。合計:¥60000円


 流石に地下1階のコボルトよりは高く設定されている。同じコボルトだとメグミは思うのだが、コボルトの場合、その生息場所で細かく亜種に分かれているそうだ。確かに身長が全く違う為、そう言ったものなのかと納得している。

 正式名称は『地下2階のコボルト』でそのまんまなのだが、一々細かい名前を付けるほどの違いはないためそれで良いのだそうだ。


・地下2階のクリスタルジェリーの魔結晶(単価1300円)

 と討伐報酬(一匹600円)6匹の討伐となっている為。

 合計:¥11400円


 こちらも『地下2階のクリスタルジェリー』が正式名称で、階層ごとに亜種に分かれているのだそうだ。

 その強さの割に討伐報酬が高めだが、痺れ攻撃は、抵抗値が低い見習いにとっては厄介な攻撃らしく、痺れている間に、コボルトに攻撃されるなど、複数の魔物を相手にした際の危険度を考慮して高めに設定されているとのことだ。


・その魔紫水晶(単価4000円)で7個の為、合計¥28000円


 こちらも魔法球の素材として使う為、鑑定後に買取予定だ。

 クリスタルジェリーはその魔紫水晶と合わせて考えればボーナスモンスターだ。


・地下2階で採掘した魔鉄の鉄球は採掘時間が短かったため量が少なく。

 買取価格は¥18000円

・また午前の鉄玉の買取価格¥20000円


 採掘が主目的であったがやはり色々あって採掘時間が短かったのが色々響いている。

 何もなければ魔鉄の鉄玉だけで10万円以上の収入を見込んでいた。

 

 此処でゴロウ達がコボルトソルジャーとコボルトナイト等のメグミ達だけで倒した魔物の報酬は要らないと主張する、一緒に居たのだから受け取るように言うが受け取ろうとしない。


「なんでよ? 遠慮しても良いことないわよ?」


「けどなメグミの姉御、俺たちは今日、剣を造ってもらっている。

 その上で、自分達が倒すのに全く関わっていない魔物の報酬を受け取るのは流石に気が引けるぜ」


「そうだな、今日の報酬はこの剣の値段を値引いてくれたことだけで十分すぎる」


「わが愛刀『虎徹』との出会いこそ最高の報酬! これ以上望むものはない!」


 どうやらその剣にを造ってもらったことに相当感謝しているようなのでここは彼らの意気を買うことにした。


 その為一端清算となる。

 合計金額¥189600円

 一人当たり¥31600円

 一日当たりの収入として、この報酬が多いと感じるか少ないと感じるは、人によって違うだろうが、メグミは少ないと感じている。


(この金額を考えると下水路って相当儲かるのね、まあ数が多いのだろうけど、あれで一人当たり1日10万円か……でも『G』はイヤ!!)


 消耗品、食費等持ち出しが結構ある。装備のメンテナンス費用だってタダではない。更に命までかけてこの報酬である。


 装備品の整備期間等考えたら毎日迷宮に行けるわけではない。その期間をさしい引いて一か月の収入が幾らになるのか考え、組合費、家賃・食費等考えれば、命がけの肉体労働の報酬としては割に合わないと感じる。


 まあメグミ達は見習いなので今は組合費は免除されているが、それも後2か月足らずで御仕舞になる。


 今日は色々あって採掘も討伐も少なめではあったがそれにしてもである……

 そのうち上の狩場に行けば報酬も増えるのだろうが、しかし命の危険も増える。


(冒険者ってあんまり余り割のいい仕事じゃないわよね。何とかもっと楽に大儲けできないのかしら?

 ボスモンスターの養殖はダメだっていうし、はっぁぁぁ~何か儲かる割のいい魔物っていないのかしらね?)


 これがメグミの正直な感想である。


 しかし……ここからの換金はメグミにも予想外であった。


・コボルトソルジャーの魔結晶(単価10000円)

 と討伐報酬(一匹5000円)5匹の討伐となっている為。

 合計:¥75000円


(何かしら? 金額の跳ね上がり方が半端じゃないわ、あんな雑魚がこの値段? あの程度なら狩りまくれば大儲けできそう?)


 メグミは雑魚扱いだが、その手の武器、魔鋼で出来たククリナイフの殺傷能力はその金額に見合うだけの高さを誇っているのだ。

 オーガと並ぶと称されるその攻撃力に対して、この討伐報酬金額は低いといわれているがメグミはそのことを知らない。


・コボルトナイトの魔結晶(単価10万円)と討伐報酬(一匹60000円)

 1匹の討伐となっている為、合計:16万円


 こちらもメグミにとっては予想外に高額であったが、魔結晶に比べて低く設定されている討伐報酬からも、その強さの割に討伐報酬が低く、割に合わない魔物とされている。


・その青龍刀はやはりレアドロップで、

 更に質の良い魔鋼10キロで出来ており、買取価格¥60万円


 こちらは単純に運がよかったらしい、『コボルトナイト』を10匹狩っても何も落とさないことが多い中、一匹でレアドロップの青龍刀を引き当てたのだ。


 そして『王』の報酬はその金額も桁が違った。

・コボルトロードの魔結晶(単価130万円)とその討伐報酬(一匹100万円)

 合計:230万円


 確かに高値なのだがこちらもその強さの割に討伐報酬が低く設定されていた。

 鉱山の地下に籠って地上に上がってこない為、危険度が不当に低く設定されているのだ。

 鉱山地下10階に滅多に討伐遠征が行われないのもこのためだ。

 取り巻きを引き連れた『コボルトロード』の討伐報酬はこの10倍でも安いとされている。


・その爪は大きく質も良いことから単価20万円、

 8個で合計買取価格160万円


 爪は素材として大きさでその価値が大きく左右され、また質の方も厳しく判定されるためこの値段だ。

 『コボルトロード』の爪自体、滅多に取れるものではないのだが、効果はその他のコボルトの爪と大差がない為、この金額とされた。

 このほんの少しの差に価値を見出すことのできる、鍛冶のエキスパートがその場に居なかったことが買取金額を低くしていた。


・大剣は激レアドロップで更に最高品質の魔鋼100キロで出来ており。

 買取価格¥800万円


 こちらもただでさえ討伐数の少ない『コボルトロード』の更にレアドロップ品。もっと高値がついても良いはずであるが、巨大かつ重すぎて装備として使える人間が居ないこと、またメグミとの戦闘で傷がついていることから、観賞用としての価値も減額されてこの値段となった。

 一般に大剣と呼ばれている剣の重さは5キロ程度、タツオの使う馬鹿でかい大剣でも40キロほどだ。

 100キロもの大剣はそもそも剣ですらないというのが査定額に響いて、ほぼ素材としての価値だけの査定額となった結果だ。


・そして赤い宝玉は『コボルトの瞳』と言う、

 超激レアドロップの宝石で一個1千万円、2個で合計2千万円


 こちらの宝玉は今までにドロップ実績が組合に残っていなかった。

 『アーカイブ』に登録されていたことによりその名称は判明したが、この宝玉の価値が判明しなかったのだ。

 結果、宝玉としての特性などすべてが判明しなかったことにより、その内包される魔力を計測して付けられた取り敢えずの金額が上記だ。


 それでもメグミ達は一気に小金持ちになっていた。


(タツオになんて説明しよう……こんな金額分の剣なんて造れないわよ!)


 自分の造る剣の本当の値段を知らされていないメグミは頭を抱えた。


 しかし驚いているのはメグミだけではなかった。


 ゴロウ達は目が点になっているし、ノリコとサアヤも唖然としてギルド職員の説明を聞いていた。

 ゴロウ達は実際に『コボルトロード』を見ていない為、凄い魔物をメグミが倒したと、先輩冒険者が言っていたのを聞いていただけである。

 ある程度高額なのだろうとは思っていたが想像以上の金額に理解が追い付いていなかった。

 またお姫様とお嬢様、金銭感覚のない2人は、良く分からないまま貧乏生活を送り、少額の報酬で喜んでいたこともあり、その大金に実感がわかないのだ。


 そんな一同に買取係りの職員は爪、大剣、宝石は売らずにとって置くように勧めてくれる。

 買取価格は、一般市場価格の半額が基本であり、いざ必要になった時に簡単に買い戻せる金額ではない為、将来製作で必要になる事に備えて売らずに持って置くようにとの事だ。


 そんな説明を受けながらメグミは、


(毎日コボルトロード沸いて出てこないかしら?、これ狩り続けたら大金持ちよね? 楽して儲かる夢の生活!!!)


 と思っていた。


 普段コボルトロードがいる地下10階は取り巻きの魔物が一杯いてとてもパーティ単体で攻略できる魔物ではなく。

 例え複数のパーティが協力しても、その攻略は難易度が高い。

 特にその取り巻きの中の『コボルトジェネラル』と呼ばれる魔物の兇悪さは半端ではなく。大抵の場合コボルトロードの元に辿り着けないで撤退する。


 メグミが本人は心の中で思っていただけのつもりの先の感想が、思わず口から洩れていたらしく、職員が慌てて説明してくれる。


 先の一件もあり、メグミが噂の相当にやばいルーキーで有ることを知った職員が制止の為に忠告してくれたのだ。


 地下2階に単体で現れた今回が本当に運が良かったのだ。



(中々楽には稼がせてくれないわね! ハードモードすぎるわよ! この異世界は!!)



 メグミ達は買取係の職員の忠告に従い、不要なものだけを売り払い討伐報酬と共に受け取る。


 ……314万5千円……見習い冒険者には十分過ぎる金額である。



 流石に気が引けたのでゴロウ達に今度何か食事を奢ると約束して、冒険者組合事務所でその日は解散となった。

 今日これから食事に行っても良かったのだが、今メグミ達は『ママ』の作る食事が食べたかったのだ。


「もう『ママ』のご飯の為にお腹が出来てるわ! それにゆっくり食事とかして門限に遅れたら目も当てられないし!」


「『ママ』に連絡を入れてないから、きっと食事を作って待ってるわ。

 これで今から食事は外でするなんて言ったら……ダメ、ダメよ、そんなのとても伝えられないわ」


「二人とも落ち着いて、ゴロウさん達も今度で良いって言ってくれているのだし、今日はそのお言葉に甘えましょう?」


「そうだぜメグミの姉御、ノリコ様、俺たちも今日は自分たちで楽しんで来るから今度でいいよ、俺たちの馴染みの店には女の子はなかなか連れていけないからな」


「味は良いんだけどね、ちょっと親父さんの癖が強いんだよね」


「濃いからなあ、それに親父さんにノリコ様を引き合わせたら親父さんの心臓が止まるかもしれない」


「へえ、面白い店屋を知っているのね?」


「まあね、貧乏な俺たちに安く腹いっぱい食わせてくれる奇特な店さ」


「結構常連客が多いんだぜ? 『黒銀』の冒険者なんかも偶にくるんだ。

 あの黙って余分にお金を置いていくのがカッコいいんだよな」


「昔世話になったお礼だって、つりはいらねえ、またなってのも良いよな!」


「俺たちも何時かそんなセリフ言ってみたいな」


 どうやらゴロウ達のお腹もその親父さんの店の食事用に出来ていたようだ。


 メグミ達はまた今度と言ってその場で別れたのだ。


 メグミ達の家に帰る足取りは軽い、そう懐は温かい、鉱山で集めるべき素材は揃った、そりゃあもうスキップしたい気分である……スキップしていた、うん、まあ、いつの間にかね。


 家が見えてくると、いい匂いが漂ってくる……ああ、今日のメニューはシチューに何かの肉料理、香ばしいパンの匂いもしてくる。


くうぅ~


 その香りを嗅いだ3人のお腹が同時に鳴る。

 少し顔を赤く染めながらお互いに顔を見合わせて笑う。

 そしてメグミは笑顔で家の扉を開ける。


「ただいま、『ママ』お腹減った! ご飯何?」

「ただいま、『ママ』とてもいい匂いがするわ」

「ただいま、先に手を洗ってきますわね『ママ』」


『ママ』は満面の笑みで3人を出迎え。


「おかえりなさい」

一章完結です

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