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第29話剣術指南②

「助かったぜ、礼を言わせてくれ、ノリコさん、『雫』ありがとう」


 タツオがノリコに頭を下げている。


「元気になってよかったわ、『雫』有難う、もういいわ」


「ん、ノリコ、またね」


 『雫』が手を振りながら光の粒子となって消える。


「ノリネエの『雫』も『命の蜜』は『紅緒』の『灼熱剣』とっどっこい位、燃費が悪いからね、余り使わないのよ、良かったわね、タツオ」


「そうなのか、そりゃ無理させたな、悪りぃ、ノリコさん」


「気にしないで、タツオ君、それに今日はこれで後は帰るだけだし大丈夫よ」


「そうか、全く今日は女に助けられてばっかりで、全く締まらねえな、情けねえ」


「まあ無理をした罰よ、タツオ、自業自得!!」


「ふんっ、ほっといてくれ! 女の尻の後ろに男が隠れられるか!

 ……なあメグミ、恥ついでに聞くんだけどよ、俺はこれからどうやったらもっと強くなれる? なんだか剣士・戦士ギルドの師匠に聞くより、おまえに聞く方が強く成れそうな、良さそうに思えるんだ、教えてくれねえか?」


「メグミの姉御、俺も聞きたいです」

「教えてくれ! メグミの姉御、恩は返すから」

「是非、ご教授下され、メグミの姉御」


 タツオに加えて、ゴロウ達まで身を乗り出してきた。


「姉御って何よ……マジで〆るわよあんた達……まあ良いわ、教えてあげる! あんた達も聞きなさい。タツオ、あんた力を込めて剣を振るのを止めなさい、剣ってのは『速く』振るものよ」


「どう言うことだ? 力を込めるなってなんだ? 『速く』振れって……力込めて『速く』振るのはダメなのか?」


「タツオ、力を込めると『速く』は振れないのよ、そうね実際やった方が分かりやすいかもね? あんた達脳筋だし……

 タツオ、何も持たず手を振りなさい、最初は『速く』だけ意識して、次に拳を力一杯握りしめて振りなさい」


「こうか?」


ヒュンッ 

ブンッ


「ん?? 確かに拳を思いっきり握って腕全体に力がこもると、少し遅いな」


「力むとね筋肉が強張って、動きは鈍くなる、当然の結果よ。良い? タツオ、剣はねスッポ抜けない程度に軽く握るの、そして『速く』振る。それで敵に当たる直前に力を込めるの、そして当たったら即、力を抜いて次の動作に『速く』移るのよ。

 今回のコボルトロードとやった時、あんたタックルが避けれなかったわよね。それはね、力を込めたままになってるから、振り終わりに次の動作にスムーズに移れないからよ。

 良い、タツオ、攻撃する前に次にどう動くか決めなさい、そして次の動作に『速く』動くためには、その時、体に力が入っていたらダメなのよ。攻撃の瞬間だけ力を込めて、すぐ次の動作に移る、これを流れるように繰り返せれば強くなれるわ。」


「なあ……簡単に、当たる瞬間だけ力を込めろって言うけど、それスゲエ難しくねえか?」


 タツオも素手なら出来るが武器を握っているのだ。力の加減が苦手なタツオには可成り難しい。


「当たり前でしょ? 練習しなさい。あんたたち男はね、腕力自体が強いから、私よりもよっぽど良いのよ。

 私の場合、これだけじゃあ足りないから、当たる瞬間に腰の捻りと手首のスナップを効かせて、腕の振りすら(しな)りを加えてるわ。当たる瞬間に力込めるだけなら楽なもんよ、力はコントロールしてこそ生きるのよ」


「タツオさん、メグミちゃんはちょっとアレなので、この後半は無視して良いですよ、常人にはそうできるものではないです。

 けど、剣を軽く持って『速く』振るのと、当たる直前に力を込めるのは私もノリコお姉さまも今修行中ですし、まだ(つたな)くても効果があるので、練習した方が良いですわ」


「サアヤ、アレってなによ! 失礼ね、まあタツオは腕力もあるし体格にも恵まれているから、サアヤの言う通り、それが出来るだけで大分違うと思うわ。

 あんたは糞度胸はあるから腰は入ってるし、踏み込みもまあまあよね。

 あとは足捌き体捌きをもっと流れるように動きなさい、一つ一つの動作が途切れてるわよ?

 それに視界を広く、敵だけでなく周囲まで見るようにして自分を俯瞰して動けるようになれば強くなれるわ」


「……そうだな、そこま出来たら、そりゃ強いよな、まああれだ、直ぐは無理でも頑張ってみるわ」


「そうよタツオ、頑張りなさい、ああ、後反りのある剣を使う時は体裁きも加えて流れるように剣を滑らせ……」


「メグミちゃん!! そこまでよ!

 ゴロウ君たちは、だいぶ前からついてこれて無いわ。それにタツオ君も一辺には無理よ、一歩ずつ進めましょうね」


「……分かったわよ、何よ折角だから色々と……」


「まああれだわ、メグミが『バケモノ』だってことは良く分かったわ、俺も追いつけるように頑張ってみるさ、はあぁ、高けぇ壁だなぁおい」


「なっ……教えてくれっていうから、一生懸命教えてあげたのに、女の子に『バケモノ』ですって! ねえ、ノリネエ、サアヤ、タツオが(ひど)いこと言うのよ」


「う、うん、まあそのタツオ君の言うことも、その……否定できないかなぁ……」


「メグミちゃんは、剣に関しては……その可成り異常でしてよ? タツオさんの言い方もありますけど。全否定は出来かねますわ」


「あれ? え? みんな酷くない? え? 私泣くよ、そろそろ泣いていいかな?」


 するとちょっと離れた位置から吹き出したような笑い声が聞こえる。そちらを見れば地下2階で会ったアキヒロ達と共に救援に駆け付けたパーティの板金鎧の男だった。その男が、


「ああ、悪い、盗み聞きする心算は無かったんだが、こんな場所だ、聞こえてな。

 それに、どこかで見たことがあると思っていたが、あんた『羅刹』の『田中 恵』だな? あの『剣の鬼姫』『新堂 奏』を倒した、あいつと同じ『バケモノ』だろ?

 面を付けてねえ素顔を見るのは初めてだけど、その体格とその名前間違いないだろ?」


「あなた……カナデを知ってるの?」


「知ってるよ、同じ学校だったからな、まあ俺は高校であいつは中学だったがな」


「そう……ところで『羅刹』とか『剣の鬼姫』とか何?」


「何だ知らないのか?! 本人だろ? まあ良いか説明してやるよ。

 俺な、これでも剣道の高校日本一だったんだぜ? え? 知らない? 興味ない?


 ……くっ、まあ俺のことはこの際置いといてだ! そんな俺が中学生一年生のしかも女子に、手も足も出なくて負けた、信じられるか? えっ当たり前?


 ……それが『新堂 奏』、『剣の神』に愛された『剣の鬼』さ、でもあいつ綺麗だろ? で、ついた徒名が『剣の鬼』に『姫』を足して『剣の鬼姫』さ。


 無敵だと思ってたね、誰も勝てないんだ、異常だったよあの強さは。高校生の俺が、あいつと対戦すると怖いんだ。ブルっちまう。勝てる見込みが、スキが一切ないんだ。

 なのにな、その『剣の鬼姫』が負けたって噂が流れてな。みんな信じられなかったね、あり得ないだろ?

 まぐれだろって噂してたら、それを聞いた新堂がブチ切れてね。


『私はメグミに地元で何回も負けている、まぐれなんてありえない!! そして次は絶対に私が勝つっ!!』


 ってね、それがまた噂になってね、それであんたに付いた徒名が『羅刹』、鬼を食う『羅刹』ってね、剣道の世界では有名な徒名だったんだが本人が知らなかったのか」


「なんでカナデには『姫』がついて私には何もつかないのよ、納得いかないわ!!

 ……それに『羅刹』とか女の子に付ける徒名じゃないでしょ。日本の剣道会ってどうなってるの? 頭腐ってんじゃない?」


「俺も気になって、あんたらの試合見に行ったぜ? 成人部門の剣道日本一も一緒に見てたが、あんたら二人の試合見て、なんだあの『バケモノ』共はって言ってたぜ?

 俺も全く同感だったね、あんたら二人は他と隔絶した世界で戦ってたよ。

 今日の一件も最初信じられなかったけど、あんたが『田中 恵』なら納得だ。そりゃ、コボルトロードじゃ勝てないだろうよ」


「やっぱりメグミちゃん、日本でもそうだったのね」


「メグミちゃんって日本でもアレだったんですわね、ノリコお姉さま」


「メグミ、おまえ、日本でも『バケモノ』だったのか?」


「「「姉御、マジ半端ねえ」」」


 メグミは本当に泣けてきた。これでも花も恥じらう乙女なのだ。色々惨くて問題もあるが、まだ16歳の乙女に向かって周り中が『化け物』呼ばわりだ。


「酷い、みんな酷すぎるわ、もう知らない……」


 膝に顔を埋めて泣いていると、ノリコが、


「ほら、メグミちゃん、泣かないで帰りましょう、『ママ』がご飯作って待ってるわよ」


「そうですわ、メグミちゃんお腹すきましたでしょ、早く帰ってご飯にしましょう」


 メグミのお腹がクゥと鳴った……


「ふんっ、どうせ私は乙女の感傷よりも食い気よ。ノリネエ、サアヤ、あんたたち酷いこと言ったんだから、お詫びに晩御飯のおかず少し寄こしなさいよ」


「まあそうね、ごめんね、メグミちゃん、それで許してもらえるなら私は良いわよ」


「私も構いませんわ、ごめんなさい、メグミちゃん」


「だったら、さっさと帰るわよ、おうちに帰って『ママ』のご飯だ!!」


 そういってメグミは立ち上がり、家に向かって歩き出した。

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