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第25話精霊

 メグミは『王』が、魔素に分解しだすのを確認して直ぐに、『灼熱剣』を解除する。そして『収納魔法』にて、虎の子の『精神力回復ポーション』を取り出し、それを煽るように飲む。


(くっそー、相変わらず『紅緒』の『灼熱剣』は燃費極悪ね、一気に精神力が持っていかれるわ……今後の改善点ね)


 精神力が少なくなりすぎて、少しクラクラしていた頭が、ポーションの効果でシャッキリ覚醒する。


(ふーーッ、人心地ついたわ)


「これは、お前さんがやったのか?」


 ふと声が掛かる、声の方を見れば、『J-7』ルームからの入り口の通路に、アキヒロ達と見知らぬ別パーティらしき5人組、更には詰め所のおじいさん連中の一人と思わしき老人が一人、佇んでこちらを見ていた。


(これは……ジャックポッドが連続してコボルトソルジャーが思ったよりも多く沸いたのかしら? 地下3階方面の詰め所方面にも何匹か流れたのかな?

 うーーん、けど逃げた冒険者が偶々地下3階方面の詰め所に逃げ込んだだけって線もあるわね。


 まあどちらでも良いわ、何らかの変化が有って状況を察して、それで詰め所のお爺さんが対処に乗り出したってところかしら?

 運が良いのか悪いのか、そこにベテランっぽい冒険者が居合わせたから協力させているのね。


 その一行にこちらから地下三階方面の詰め所に向かっていたアキヒロさん達が、どこかで鉢合わせして合流、そこで『王』のあの五月蠅い咆哮を聞いて慌てて駆け付けたって所かな?)


 そんな風に当たりを付けながら、メグミは答える。


「ええ、みんなと協力して倒しました」


「お前さん達がのう……信じられんが目の前にその証拠がある、魂消(たまげ)たわ、お前さんこれが何か理解しておるのか?」


 流石に大きいだけあって、まだ半分も魔素に分解されない、その『王』だった物を見ながら、


「さあ?」


「さあ? ってお前さん随分と気楽じゃのう?」


「魔物は魔物でしょ? もしかして倒しちゃ不味い珍しい魔物とか?」


「そんなことはないがのう、本当にこれが何かも理解もしないで倒してしもうたのか?」


 お爺さんは長く伸ばした髭をシゴキながらそう尋ねて来る。


「まあこれが襲ってきた以上、何だろうと関係ないわね、この程度の魔物に黙って殺されるなんて御免被りたいわ。

 だからこれが例え何であろうと責任は取らないわよ?」


「流石はハヤテに切りかかった小娘じゃのう、これがこの程度呼ばわりとはのう……

 はっ、まあ良かろうよ責任など問うてはおらんの、寧ろこの場の連中の命を救ったんじゃ感謝すべきじゃな、よくやったぞ」


 お爺さんがメグミを褒めるが、メグミはそのお爺さんの言葉の中に見逃せない単語が有った。


「ん? ハヤテ? …………あの人のお尻を撫でた糞ジジイか!! あの爺さんどこに行ったの! 今度有ったら、次こそ叩き切ってやろうと思ってるのに会えないわ!」


 殺気を迸らせながらメグミは激怒する、そうメグミのお尻を撫でた、詰め所にいた元上級冒険者のお爺さん、それがハヤテだった。

 メグミの姿が掻き消える様に見えなくなったと思った次の瞬間、お爺さんの横に立つメグミは剣の柄に手を掛けて、お爺さんに詰問する。


「何処にいるの隠し立てすると容赦しないわよ」


「ほぅ、ふむ、ハヤテはお前さんに自慢の髭を切り落とされてから地下7階の詰め所の当番に替わったわ。

 ふむ、ハヤテに攻撃を当てる見習い冒険者なぞホラ話じゃと思うとったが、なるほどの、こりゃその尻に触れただけで勇者の職能が獲得できるわけじゃの」


「何それ? けどそう、あの爺さん地下7階に居るのね……そう地下7階ね……」


 メグミは今すぐにでも駆け出して、地下7階まで本気でそのハヤテお爺さんを切り殺しに行きそうな勢いだ。


「ぐっ、ダメじゃ! 地下5階から下は見習いは立ち入り禁止じゃ、例えお前さんが何であろうがこれは変わらんぞ!!

 全く、ハヤテもあの年で勇者になってものう……もう生い先短いんじゃ勘弁してやらんか?」


 お爺さんはヤレヤレと呆れながら、メグミを宥めに掛かるが、


「絶対に赦さないわ、髭だけじゃあ気が済まないわね! 頭の毛も丸刈りにしてやるわ! 

 そうよあの爺さん……いや爺さん達なのかしら? 私のお尻に触れるかどうか賭けていたって聞いたわ、そうよね?」


メグミにギロリと睨まれて、慌てて視線を逸らす。


「……いや、まあ、その……なんじゃ、ちょっとした娯楽じゃ、気にするでない」


 誤魔化そうともごもごと歯切れの悪い言い訳をするお爺さんに対して、


「なにお爺さん、アンタもその口なの? ねえ? そのお髭、鬱陶しいでしょ? ちょっとサッパリする?」


メグミは躊躇うことなく剣を抜き放ってその切っ先を向ける。


「賭けは終わった! 終わったでの! 刃物を人に向けるものでは無い、落ち着かんか! 年寄りはいたわるものじゃ」


「スケベジジイに人権は無いわ!」


「待たんか、ワシはまだ何もしとらんぞ! せめて何かやってからにせんか! このままだとワシは切られ損じゃろう!」


「なあコウスケ爺さん、まだ何もしてねえとか言うと、これから何かする心算かと突っ込まれるぜ?」


 別パーティのリーダーであろうか? 全身板金鎧を着こみ、マントを羽織ったガタイの良い戦士がそんなアドバイスをお爺さんに送る。メグミとお爺さんのやり取りが面白いのか笑って居る。


「その通りね、アンタ良い事言うわね! 何をする気なのよ! さあキリキリ吐きなさい!」


「はぁ……ソロソロ爺さんを離してやってくれ、本当に何もしてねえんだから、恐れがあるってだけで人を罰するのはどうかと俺は思うぜ?」


 日に焼けた浅黒い肌に鋭い目つき、しかし口調は優しそうな青年が更にフォローに入る。


「そうだねえ、推定無罪どころか現在は無罪だものね」


 こちらは少女のような少年が状況を楽しむように笑顔で援護射撃、


「まあ枯れちまったら人間お終いだろ? 実害がないなら良いじゃねえか少し位スケベでも」


 こちらは肩幅の広い戦士風の青年だ、頬に大きめの傷が有るが古傷だろうか、最近できた物の様には見えない。

 メンバーが口々にお爺さんの髭の助命を嘆願する。


「ふんっ、まあ良いわ、仕方ないわね今日の所は見逃してあげるわ! 感謝なさい!」


「ふいぃ、助かった、折角伸ばした髭が危機一髪じゃわい」


「その髭、そんなに良いか? 俺もウザいと思うけど? 

 ところでじいさん、これはなんだ? 俺たちは地下9階まで行ったことがあるけど、こんなデカブツ見たことがないな」


 眼鏡の青年が老人に尋ねる。


「髭は良かろう? ダメか? ダンディズムの分からん奴らじゃのう……ふむ、これは『コボルトロード』であろうよ、これだけの巨体のコボルトは他におらん。

 普段は最下層の地下10階に、取り巻きと共といて、滅多に見ることは出来ん、わしも実物を見るのは2度目だのう。なんだってこんな浅い階層にこんな奴が沸いとるんじゃ……」


「これが『コボルトロード』か……」


 そろそろ下半身辺りまで半分以上分解した、その『コボルトロード』だった物から、魔結晶がボトリッ っと重々しい音をさせて地面に転がる。

 そして続けて ボトリッ ボトリッ っと2個何か地面に転がった、赤い拳大の宝石の様なそれ、


「ん?! なにこれ? レアドロップかな?」


 メグミはそれを手に取り光に翳す、透き通った赤い宝石、綺麗なそれは内部に曇りもない。


「何かわかんないけど綺麗! 透き通ってる! うふっ! まっラッキーってことで」


 『収納魔法』で拾った魔結晶と共にしまう。

 先程から矢鱈と大人しいと思ったら、アキヒロ達は未だに呆けたように立っている。


(自分達が出発した後でこいつが沸いて後悔してるのかしら? まあ仕方ないでしょ? 救援・探索任務が有ったんだし。

 レア魔物の巡りあわせは運よ、悪く思わないで欲しいわね)


 メグミは自分に『コボルトロード』と言う獲物を取られて、アキヒロ達が後悔してると思い込んでいる。


 だがアキヒロ達は、自分達が居なくなった後で『コボルトロード』が沸いて見習い冒険者達を危険な目に遭わせたことを後悔しているのだ。


(何か……何か見逃していたのか? これだけの魔物だ、何か、何か兆候があった筈だ…………コボルトナイトか? そうかアレが沸いたのはこの部屋だけ……クソッ、油断した!!)


 アキヒロは激しく後悔していたが、だがこれは不可抗力だ、アキヒロ達に落ち度はない。

 コボルトナイトがこの部屋だけに沸いたことはコウスケ爺さん達と合流してから知った情報、事前に知らなかったのだ、すべてを把握している訳ではない以上、あの場で救援・探索任務を優先させたことを誰が非難できるだろう。


 ノブヒコとヒトシは怪我をして未だにへたり込んでいるタツオの元に駆け寄り、手当を始めようとするが、


「俺は良い、もう歩ける位には回復した、他の奴らを頼む、直ぐに撤退だろ?」


「しかしな、タツオ、顔色が悪い、まだ痛むのだろう?」


 ヒトシが心配して治療しようとする。


「ちょっとドジっちまっただけだ、大げさにしてくれるなよ、分かるだろ? 情けなくて死にたくなる……」


「ヒトシ、タツオは良いよ、最悪僕が手を貸すさ、それよりもタツオの言う通り、ここは直ぐに撤退した方が良い、他の怪我人の手当優先だよ」


 一方未だに激しく落ちこむアキヒロを、


「あの状況、アレだけの情報しかなかったんだ。この場を離れた、お前の判断は間違いではないさ。

 他にもコボルトナイトが沸いていた可能性はあったんだ、気にするな!」


 マサオが励まし、


「事実、コボルトソルジャーに襲われていた連中を助けたんだ。あの連中は俺達が救援に行かなければ危なかった。

 俺達は神様じゃない、全てを一人で救おうとするな、人間には限度がある」


シノブが宥める。


「しかし、タツオに怪我をさせている……俺は……まだまだだ!」


(あれ? 何だろ? 獲物を取られて落ち込んでるわけじゃないのね、全くクソ真面目ねアキヒロさんって……

 まあ良いわ……はぁぁ、これで撤退なのね……全然戦い足りないわ、本気で7階までこっそり遊びに行ってこようかしら? あのクソジジイ逃げられると思わない事ね)



 メグミのお尻を撫でたハヤテ爺さんは、一瞬で剣を抜き放ち、髭を綺麗に切り落としたメグミから大きく距離を取り、そのまま転移魔法で逃げ出していた。


「あの娘、ちょっと尻を撫でただけで、本気で首を狩りにきおったわ、全く躊躇いが無い……一瞬でも避けるのが遅れて居たら今頃髭でなく首が落ちて居たのう、どうなっとるんじゃ最近の若い連中は……」


 地下7階の詰め所まで逃げてきたハヤテ爺さんが胸を撫でおろす。そんなハヤテ爺さんの様子にコウスケ爺さんは、


「見習いじゃろ? 話を盛り過ぎじゃろハヤテ」


 親友の大げさな振る舞いに、その手には乗るものかと切り返すのだが、


「バカを言うなよ、尻を撫でただけで勇者の職能が付くような娘じゃぞ、あの年であの腕、しかも少女……化け物じゃのう」


 ハヤテ爺さんは更に大ボラを吹いた、そうコウスケ爺さんは思ったのだ。


「なっ!! 勇者じゃと!! お主勇者になったのか!! わはは、こりゃいい、勇者か!!」


 だからそのホラ話に乗って笑う。


「笑い事では無いわ! この年で勇者になってものう……取り合えず、ほとぼりが冷めるまでワシは逃げる! 『縮地』で逃げたワシに追いついてくるような娘じゃ、危なくて昼寝も出来ん」


 自分の話を信じようとしないコウスケ爺さんに少し不機嫌に成りつつ、顎の髭に手を伸ばすがそこに既に髭はない、スカッと空振りする手に益々不機嫌になる。


「じゃが当番はどうする気じゃ? 3階の詰め所の当番じゃろうが」


 そんなハヤテ爺さんに、此方は上機嫌でコウスケ爺さんが尋ねる。そう今もここに居て良い筈がない、まあ人の多い地下3階の詰め所には他にも何人か詰めている。一人位抜けても業務に支障はないが……


「ぐっ……コウスケ地下7階と当番を替わってくれんか?」


 ハヤテ爺さんは本気で頼み込む。


「ふむ、一回奢りじゃ、それで手を打ってやろう」


 そんなハヤテ爺さんに、コウスケ爺さんは気楽にそう答える。


「お主、長い付き合いじゃろ!」


 ハヤテ爺さんはそんなコウスケ爺さんに噛みつくが、


「だからじゃ、今回の賭け、お主の勝ちじゃろう? 掛け金が入るんじゃ、何じゃ一回くらい奢らんか!」


 キョトンとしたハヤテ爺さんは、


「……おぅ、忘れたっとわ、そうじゃった、今回はワシの勝ちじゃったの」


本気でその事を失念して居た様だ。


「元上級冒険者のワシらのお触りを躱しまくる鉄壁の乙女の尻を触れたんじゃろ? 巨乳の姉ちゃんやエルフの嬢ちゃんのお尻までガードしまくる、あの噂の嬢ちゃんの尻じゃ! 流石は瞬光のハヤテ! 大したもんじゃな、掛け金、繰り越しで可成り溜っていたんじゃろ?」


 そう言ってハヤテ爺さんを持ち上げる、そうハヤテ爺さんは元二つ名持ち上級冒険者、老いたとはいえ、その速さに見習い冒険者が対抗できる筈がないのだ。


「そうじゃが……今後はあの娘を賭けの対象にしない方がいいかもしれんのう」


 だがハヤテ爺さんの顔は晴れない、重苦しい雰囲気のままだ。


「何じゃ? お主だけ触ってそれで御仕舞か?」


 コウスケ爺さんは勝ち逃げは許さないぞっとハヤテ爺さんを睨む。


「なあコウスケ、これは冗談でも何でもなく、本気で勇者の職能が付いとるんじゃ……命懸けの賭け事をする年じゃなかろう? 他の奴らにもそう伝えてくれ」


 暫し言葉を失う。


「…………冗談では無かったのか?」



(今行ったらノリネエや『ママ』の説教が長そうよね……まあ良いわ、チャンスはまだまだあるでしょうし、あれだけ元気なんだからあのクソジジイもそう簡単にくたばったりしないわ)


 何とか自分を押さえて、アキヒロ達に手だけ挙げて挨拶し、ノリコ達の方に戻ろうと振り返ると、そこには『コボルトロード』の巨大な大剣と、柄辺りの地面には大きな黒い爪が分解されずに転がっている。


「ノリネエやったわ!!! 大剣に爪までドロップしてる、それに赤い宝石と、大きな魔結晶までドロップしてたわ!!

 明日の夕飯はご馳走よ!! 『ママ』に御願いしなきゃ♪」


 先程までの不機嫌が一気に霧散して、超ご機嫌となったメグミは、そちらに駆けよる。

 その周辺では無事助かったことを喜ぶ他のパーティと、寝ころんだまま上半身を起こすタツオ、それをしゃがんで背中に手を回して支えるノリコ、傍らで周囲を警戒しつつこちらを見るサアヤとノブヒコが居た。


「メグミちゃん、あなたって……先ずそこなの? まあ良いわ、『コボルトロード』だったのね、討伐成功おめでとう、無事で何よりだわ」


 ノリコが出迎えた、


「メグミちゃん、流石ですわ、おめでとうございます」


 サアヤも祝福してくれる。


「くそっ、マジで俺は噛ませ犬かよ、もうちょっとやれると思ったんだがな、メグミ、次だ、次こそはこんな無様な姿は晒さねえぇ」


 心底悔しがっているタツオに、


「だから相性があるのよ、タツオ。

 パワーファイターのあんたが、更に上のパワーファイターのアレに一矢報いたんだから、大したもんよ。

 それにあんたの武器は借り物で、しかもそれ、普段使ってる獲物より短いでしょ?

 間合いが微妙に足りてなかったわよ」


「グッ! 間合い足りてなかったか……まあ良い、次だ。

 ところで、ちょっと聞きてえんだが、なあ、あの白い太刀あれはなんだ?」


「『灼熱剣』て『精霊魔法』よ、一寸特殊らしいけどね、いいでしょ!! 私の隠し玉の一つよ」


「『精霊魔法』なのかあれは……初めて見たな」


「タツオ君、メグミちゃんのアレはマネしない方が良いわよ、そもそも『精霊魔法』は後衛職が『魔力』を使わずに、『精神力』で攻撃魔法を放つ為のものよ。

 前衛職は『加護』で身を守ったり、強化するから、『精神力』に余裕がないでしょ? あまり『精霊魔法』は使わない方が良いわ。


 前衛職の人は使ったとしても、戦闘補助に、拘束魔法、妨害魔法、弱体化魔法を使う、『精霊』と契約する人が大半ね。

 『剣』として『精霊』と契約してるのはメグミちゃん位なものよ。

 『精霊』は普通そう何体も契約できないのだから、よく考えて『契約』する『精霊』を選びなさいね」


「そうですよ、タツオさん、それにメグミちゃんのアレは燃費極悪ですよ」


「うっ……みんな酷い言い様ね、私の『紅緒』は、可愛いし、役に立つもん。タツオも考えてみたら? 私はお勧めよ、切れ味は保証するわ」


「う……ん、ま、考えてみるよ、それとあの高周波はなんだ?」


「『振動剣』の魔法ね、超音波カッターみたいな原理で切れ味が増すわ、日本の人が開発した魔法なんだけど……こっちは普通の剣で使うことはお勧めしないわね」


「何故だ?」


「高周波ブレードって言って刀身を激しく微振動させるのだけど、普通の刀身でやると、銅とかで造った、張り付けている魔力回路が剥がされそうになって、剣へのダメージが酷いのよ。

 私は『灼熱剣』で生成している刀身にだけ『振動剣』を掛けているから、ショートソード本体にはダメージがないけど。

 普通の剣でやると剣の『精霊』に嫌われるわね」


「いや……メグミちゃん、あれ『紅緒』ちゃんも嫌ってますわよ」


「え……マジ? ちょっと『紅緒』」


 慌てて『着火』で左手に火を灯し、『紅緒』を呼び出す。炎が膨らんで現れた『紅緒』は、


「なあに? メグミ? 今日は忙しいわね、精神力は大丈夫なの?」


「ねえ『紅緒』ちょっと尋ねるんだけど、あんた『振動剣』嫌いなの?」


「当然でしょう? 人か折角『灼熱剣』になって、刀身の形状を維持しているのに、邪魔するように、ビィーーンって振動させるのよ、迷惑以外の何物でもないわ、その所為で刀身維持の力が余計に掛かってるのよ」


「そうなの? ……でも切れ味考えたら外せないのよね」


「メグミが私のご主人様として、もっと力を付けてくれれば、あんな物なくても全てを焼き切ってあげるわよ」


「うっ……頑張ります、にしてもなんでサアヤがこのこと知ってるの?」


「私の『風香』と『氷菓』が、『紅緒』ちゃんから愚痴を聞いていて、それで知ってるんですわ」


「ちょっと! 私に直接言いなさいよ『紅緒』!」


「はぁあ? いっつも『灼熱剣』の後、精神力ギリギリで解除されて、文句言う暇がないのよ!! 呼び出されたら直ぐ『灼熱剣』だし、どこで文句言えばいいのよ!!」


「うっ……ごめん、今度からもうちょっと余裕もって呼び出すわ、でもあんた燃費悪いからこっちも……」


「なに? 私が悪いって言うの? いくらご主人様でも、それは許せないわよ! 自分が望んだんでしょ、使いこなせるように修行なさい」


「なあ……ちょっといいか?『精霊』ってどれもこうなのか?」


「ああ、タツオ君は『精霊』と付き合いがないのね、まあ『紅緒』ちゃんは『炎の精霊』だから多少気が荒いところもあるけど、『精霊』は大体こんなものよ。

 うちに居る『家と家事の精霊』も、門限とか厳しいし、生活習慣とか礼儀作法とか、色々注意されるわ。基本お喋りで、口うるさいものよ『精霊』は、女性の『精霊』が私たちの周りに多い所為もあるのだけど」


「けどノリコお姉さまの、『雫』はとっても物静かで大人しいですわ、やはり、その属性にもかかわってくるんでしょうね」


 メグミと『紅緒』は後ろで、ごめんごめんっと謝るメグミに、『紅緒』が「本当にわかったの?」っと未だに何かやっている。


「まあ、『精霊』は分かった。俺も何か検討してみるわ。それともう一点気になってるんだが、俺が吹っ飛ばされる前と、地面に激突する時、なにか魔方陣の様なものが砕けた、あれはなんの魔法だ?」


「サアヤちゃんの『魔法障壁』ね、一定量のダメージを肩代わりしてくれるわ。あの時は良く2回目間に合ったわねサアヤちゃん」


「あの時は予め掛けてあった『魔法障壁』が砕けたので、とっさにもう一度掛けたんですけど、気休め程度にしかなりませんでしたわ……」


「いや、助かったぜ、あれがなけりゃもっと重傷だった、有難うよ、サアヤ。そうか『魔法障壁』か今度習ってみるか」


「あーーお前さん方、そろそろ良いかの?」


 見るとコウスケお爺さんが横に来ていた。


「皆無事のようだし、治療も歩ける程度まで済ませておる。

 このまま1階側の詰め所まで移動して、その後地上に移動じゃ、あんな魔物がでとる、地下2階も閉鎖じゃの。

 もしかしたら今回の件は、落盤で閉鎖されたルームが影響しとるかもしれん、開封を含めて、一度鉱山管理事務所と冒険者ギルドで協議じゃな。

 ん、分かったら皆移動じゃ」


 周りのパーティも皆立ち上がり、タツオもノブヒコ等に支えられて立ち上がる。メグミは、


「サアヤ、この馬鹿でっかい大剣、『収納魔法』で何とかなるかな?」


そう言ってサアヤに頼む。持ち運ぶのは可成り厳しい大きさと重さだ。


「……やってみます、魔力を多めに込めれば何とか……ん、何とか入りました」


(サアヤでも苦労するって、この大剣一体何キロあるのよ?)


 収納魔法はその収納するモノの体積と重さで消費魔力が決まる。亜空間にアイテムを収納する空間を作り出すのだが、空間の広さと亜空間への位置固定が体積と重量で違ってくるためだ。


 メグミは自分で落ちている爪も拾いながら、タツオに声を掛ける。


「タツオ、今度鑑定して、後で分け前を渡すわ、1/4で良いわよね?」


「こっちは気にすんなぁ、余計情けなくなる」


「まあ、そういわないで、一緒に倒したんだから受け取りなさい」


「タツオ、素直に受け取っといた方がいいんじゃないかな? それとも分け前の代わりに、何時か武器でも作ってもらうとか?」


 ノブヒコが助け船を出す。


(ふむ……太刀かグレートソードね、これからタツオが使うなら長めの野太刀かしら? 偶にはそんなのを打って見ても良いかもね)


「そうね、タツオが折れた『剣』と仲直り出来たら、一本あんたの『剣』を打っても良いわよ」


「あぁ、だったらそっちで頼まぁ、ぜってえ許してもらうから、その時は頼む」


「ほれほれ! 若いの、いちゃついとらんでサッサと移動せんか」


「はーーい」

「あいよ……って誰がいちゃついてんだ、ふざけんなよ、じじいぃ!!」


 メグミ達が喧しくルームを後にする。

 メグミ達の居なくなった広いルームは魔素を大量に消費し、魔物も発生していない為、静寂に包まれる。


 すると、ルームの大きな太い柱が不意に消え失せ、その中から人影が立ち上がる。

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