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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅳ章 M計画
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第092話 落伍者(2)


 あの言葉から一週間が経った。


『そうでしょ? モトヤ』


 ハンス……いや、モトヤは地べたに座り、いつもの壁にもたれかかりながら20mほど先の木陰で佇むヤードラット聖人を眺めていた。ヤードラット聖人の態度はいつもと変わりなかった。彼女はいつもただ青空を見つめ、何かを考えている様子だった。この青空をみつめ何を考えているのだろうか、とモトヤは思った。青空……、いや偽物の青空。

 そういえば、全てが偽物だったとモトヤは思った。

 偽物の太陽。偽物の小川。偽物の風。何もかものが偽物で作られた世界。唯一本物なのは、人の命だけだった。あいつは何者なのか、何を考えているのか、何も分からなかった。最後に残した言葉だけが唯一の手掛かりだった。


『今度は、あなたから私に話しかけてみて』


 その言葉がどんな意味を含んだ言葉だったのか、モトヤは未だに分からなかった。


《モトヤ》という言葉を彼女の口から聞いた時……最初は、見つかってしまった、と思った。次にオリジンに反逆者として突き出されるのだと思い、足が震えた。だが、すぐに思った、ずっと死の覚悟を固めることが出来るよう努力していたのに、オリジンに突き出され処刑されるのを今更怖がるのかと。自分の揺れ動く心が滑稽に思えた。いっそオリジンに捕まれば自動的に処刑してくれるのだから、かえって覚悟が固まるのではないかとも思った。

 そんな気持ちのまま、モトヤは何もせず待った。

 そうして一週間が経った。モトヤは、未だに壁にもたれかかりながら無為な日々を過ごしているだけだった。なにもなかった。危惧していたような出来事は……なにも……。

 オリジンはモトヤを捕まえにこず、モトヤは、こうしていつものように地べたに座る日々を送っていた。


 大きな疑問だけが残った。


 M&Jのモトヤをオリジンに突き出せば、いくらか金を稼げることは間違いない。何故それをしないのだろうか? それを恐れてこちらはリネームカードで名前まで変化させ、発見を恐れているのに……。これはどういうことなのか? ヤードラット聖人に対する疑問……、いや……好奇心が湧いた。どうせ死ぬのであれば、数十mほど歩き、あの女にまつわる疑問を解消してから死んだほうがスッキリする気がした。


 モトヤは重い腰をあげた。この街に来てから食糧を購入する以外の目的ではじめて立ち上がったかもしれない。モトヤは一歩一歩土を踏みしめ、木陰で佇むヤードラット聖人の下まで歩いた。


「よう、ヤードラット聖人。話に来たぜ」


 このモトヤの言葉にヤードラット聖人は微笑むと、あっちで話さない? と言い、街の外れを指さした。モトヤは黙って頷いた。二人は街の外れまで並んで歩いた。その間、お互い一言も喋らなかった。この街、ライナルエリアの《バスティア》はかなり高くなった丘の上に築かれた街だった。街の外れはちょっとした崖になっており、そこからライナルエリアを一望できた。恐らくこの街を設計したキャッスルワールドの開発者はここをオシャレな街に作ったつもりだったのかもしれないが、今や浮浪者の溜まり場と化していた。ヤードラット聖人は崖の近くまでくると、くるぶしほどの高さの草が生い茂る芝の上に座った。モトヤは、その隣に座り、ヤードラット聖人を見た。糸のような細い目とそばかすが見えた。モトヤは口を開いた。


「駆け引きする気はないと最初に言っておく。これから俺はお前に簡単な質問をするが、もしも、お前が嘘を言ったとしても俺はそれを真実だと思いこむ事にする。だから、好きに答えろ。では質問するぞ。……お前は何者だ? 何故リネームカードで変えた筈の俺の元の名前を知っている? お前の目的は何だ?」


 この質問にヤードラット聖人は鼻で笑った。その態度が気になり、思わず、何だ? と声をかけた。すると、この女は屈託なく“こう”答えた。


「んふふ、久々に頭使ったでしょ?」

「はぁ?」

「いいことよ、頭を使う事は」


 まるで質問に答えないヤードラット聖人に対し少しイラついた。モトヤのその態度を見てか、一呼吸置いたあとに女は質問に答え始めた。


「お前は何者だ? って質問だけど、私はヤードラット聖人という名前よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。誰かの意向で動いてるわけでもないし、スパイみたいな活動をしてるわけでもないわ。え~っと、名前の由来は超有名漫画からかな。で、次はどうして私があなたの元の名前を知っていたか教えろってことね。……ふぅ。実は私達は面識があるのよ、随分前だけど」


 ――なに?


 意外な言葉だった。モトヤはもう一度ヤードラット聖人の顔を見た。全く覚えていなかった。この女と自分は何処で会ったのだろうか……。


「その顔は全く覚えてないって感じの顔ね。まぁ確かに結構前だし、少し話を交わしただけだしね。それにあたなが忘れてて私が覚えているのにも理由があるわ。あの夜はそれほど凄まじい夜だったから。あなたが私の露店で買い物をして……、何日か経った日の夜、始まりの街で戦闘があった。

 覚えてるわよね。竜虎旅団同士の戦闘。

 もう10ヶ月ぐらい前になるのかしら……、私はドアの隙間から見ていたの。

 え~っとそうね。順を追って説明するわね。

 あなたはかつて竜虎旅団というクランに所属していた。ここまではいいわね? で、あなた達竜虎旅団は意識してなかったかもしれないけど、竜虎旅団は何かあると決まって始まりの街のロビーで会議をしていたわよね? あのロビーの出入り口は常に解放されていて私達ロビーの外で商売する商人にも声が聞えていたの。竜虎旅団は、それこそ当時にしては規模が大きなクランで私達はこのクランがどう動くのか注視していた記憶があるわ。で、私は注意深く観察し、ある人物の思想に共鳴したの。

 エルメス。未だに覚えてるわ、彼女の思想とその訴え。平和への訴え。

 もしも、この世界で皆が手と手を取り合い、争いをせずにいられたら……。最初の2日間くらいは無理やりカラ元気で乗り切った感じだったけど。やはり、彼女の思想が私の救いだった。そして、これだけ大きなクランに居る人物がそれを唱えたことが大きいと当時は思っていたの。もしかして、本当にそういう世界がくるかもしれないって。他力本願だったけど、やはり、そういう世界の到来を私は願ったわ。でも、あの日……、あの日から世界は変わってしまった。あの夜の日、家に戻ろうとしていた私の後ろで足音が聞えて、振りかえったわ。すると、10人くらいの塊が夜の道を駆けているのが分かったわ。そして、そこにエルメスがいるのがすぐに分かったの。私は声をかけようと思って一歩足を踏み出したわ。すると、どこかから風切り音が聞こえて、エルメスの首が吹き飛ばされた……。あんなに無慈悲に、無残に……。

 私、恐くて声すら出せなかったの。あまりのパニックで息が止まったようになって。

 それで、とにかく後ろの自分の家に隠れたわ。すぐに多くの人の足音と金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。私、死ぬほど怖かったけど少しだけドアをあけたの。ひょっとしてこっちまで誰かが殺しに来るんじゃないかって恐ろしくて、外の様子を確認せずにはいられなかったの。で、そこから外の様子を覗いたわけ。すると、こないだ露店で買い物をしたあんたと誰かが戦っている姿が見えた。怖かった。あの人が戦っている……って思ったわ。紫のターバンとポンチョを身にまとった男。

 つまり、モトヤ、あなたがね。

 つい数日前に話を交わした人が今、生と死のはざまにいる……。その時“こう”思ったわ。《世界は変わったのだ》と。もうこの世界は手と手を取り合い許しあえる世界じゃなくなったのだ、と。

 そして、結果はあんたの勝ち。あんたと戦っていた男は地面に転がり、生と死が分かれた。

 あんたと二刀流の男がそこから居なくなった翌日、紫のターバンとポンチョを被った男に竜虎旅団のリーダーが殺されたのだと知った。《リーダー殺しのモトヤ》それが、騒ぎがあった翌日から広がったあなたのあだ名だったの。

 私はその名前を覚えたわ。モトヤ。リーダー殺しのモトヤ。

 そして、結構経った頃かしら? 《M&J》というクランがミシャラク城を占領したことが分かった。ずっと《源氏》が占領していたのにね。そして、そこのリーダーがモトヤという名前だと知ったわ。あの時の人だと直感で分かった。

 無事だったんだって思ったわ。それからはあなたの情報を集めた。戦上手らしい。思ったより腹黒いヤツらしい。まだ、高校生らしい。確かに私と話をした時は高校生だな~って感じはしたけど。そして、M&Jがオリジンの占領するバルダー城まで獲得したのだと知った。僅か数時間程度だったらしいけど。その後、あなたが死んだと聞いたわ。だけど……いた。ここに。五体満足で。私は顔を知っていたから……すぐに分かった。そして、思ったわ。よかった。本当によかったって。まだ、私の命運は尽きてはいなかったって」


 そう言うとヤードラット聖人はこちらをジッと見つめた。モトヤは呟くような小さな声で訊いた。


「お前は俺に何をさせたいんだ?」


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