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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅳ章 M計画
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第087話 ファントム(2)


 ミハイルにはそもそもファントムの動きの意味が分からなかった。

 奴等は街の住人を全滅させる。どのような意味があるかは分からないが、とにかく全滅させる。しかし、不思議な事に城を奪いに来たりはしない。このゲームは城を奪い合うゲームのハズだ。極端に言えばそれだけが唯一の生き残る道であるはずなのに、ファントムはそれには全く興味を示さなかった。

 そんなことをして何の利益になるというのだ。ミハイルは何度もそう思った。


 奴等は従来のセオリーをことごとく無視した。

 まず、十分な武力をもっているにも関わらず、どこの街にも根拠地を置かないところだ。キサラギエリアの全ての街を調べてみたが、ファントムと思わしき奴等はいなかった。普通のクランならまず活動資金を得たいと思う。そのためには街の占領が手っ取り早い手段ではあった。だが、奴等はその手段を選ばなかった。

 だから、根拠地がはっきりせず、奴等はどこかから現れどこに去っていくのかさっぱり分からなかった。

 第二のセオリー無視はやはり城を狙わないところだった。

 ファントムはまるで老中の説明など聞いていなかったかのように、街への攻撃を繰り返した。ミハイルにはその狂気にとりつかれた奴等の行動の意味がさっぱり理解できなかった。


 ミハイルが分かっていることといえば、その異常な行動をおこすクランが実際にいて、そのクランによってオリジンが右往左往しているということぐらいだった。


 ファントムという名前だって別に正式なクラン名というわけではない。皆がなんとなく奴等の行動と、一瞬でいなくなる不可解さをもじって「幽霊(ファントム)」と呼び始めただけなのだ。


 横から野太い声が聞えた。


「我々オリジンが右に行っては、奴等は左に行き、我々が左に行っては、奴等は右に行く、それの繰り返しですな、これは」


 そう、ラズーが自嘲気味に笑ったのは、ミナズキの街がファントムにやられたという知らせを聞いたあとだった。ミハイルは、自身の副官であるラズーの軽口をたしなめると、一旦キサラギ城に戻り即席の会議をはじめた。重苦しい雰囲気にピッタリの重い色調のテーブルで、二人は向かい合って座った。まず、アゴ髭をたっぷり蓄えたラズーが口を開いた。


「最低でも、1つの街に1人以上は《ファントム》のスパイがいますな」


 そうだろうな、とミハイルも思った。逃げ足の速いファントムに対応する為、ある程度街をしぼり、そこに隠れファントムを待ち伏せする作戦をとった。これが2週間前の話。しかし、この作戦を採用した2回はからぶりに終わった。最悪なのは、1回目で待ち伏せに使ったミナズキの街がファントムの2回目のターゲットに選ばれたことだった。ニアミス。そうともとれたが、常識的に考えてファントムがターゲットの街を選ぶ際には、それぞれの街に潜むスパイが暗躍していると考えるのが普通だった。そして、ミハイルが動いた事は思わぬマイナスの効果をオリジンにもたらしていた。ミハイルとしては待ち伏せる事でファントムを引き込み、殲滅する思惑を持っていたのだが、キサラギエリアの街々はそれをオリジンによる警備と錯覚した。つまり、この認識の差異により、警備してもらえた街とそうじゃない街、というものが出来てしまった。このせいで警備してもらえなかった街からはオリジンからの独立を叫びだす街まで現れる始末だった。ミハイルは言った。


「ファントムはあきらかにオリジンの施政地域を狙ってきている。ならファントムに殺されるよりは独立を選ぶ……、そんな所だろうな」

「マオ様はなんと?」

「ファントムの案件は引き続き私に任せるのだそうだ。ただ、独立を唱える街に対してはファントムと同じ手法をとってくれ……、と言ってきた」


 同じ手法……。ミハイルは、分かっていてもその先を口に出したくなかった。そのせいか、思わず舌打ちをしてしまった。このミハイルの舌打ちを聞いたラズーは自嘲気味に言った。


「流石マオ様だ。むごい事をさらりと要求なさる。これでキサラギエリアの人々はオリジンに従って殺されるか、オリジンに逆らって殺されるかしか無くなったわけですね」

「くっそったれが」


 ミハイルは一言洩らした。言い終ったあと、不思議な違和感がミハイルを包んだ。同じ手法……、はともかく、何か緩すぎる、そう感じたのだ。もちろんファントムと同じ手法にせよという手段は過激だ。そうじゃない。今回はあまりにもマオからの縛りが緩いのだ。なぜこんなにも「私」に判断を委ねてくれるのだろうか、とミハイルは思った。

 白老が死んだ後、オリジンの宰相の職に就いたのはマオだった。マオは白老の不在を思わせない仕事ぶりを見せた。その働きぶりからオリジンはまだまだ健在であるとの印象を誰もが持った。以前と変わった事は白老時代よりも規律やチェックが細かくなった事だった。以前は大幅に認められていた城主の自治の範囲が狭くなり、何事もマオを通す様になった。マオは村々の税収まで調べる徹底ぶりで、城主が適切に税金を運用しているか調べる為の制度まで創設した。マオの介入は監査だけに終わらない。基本的にはどんなことにも口を出した。そういう意味で全ての城とエリアを実質的に管理してるのはマオ自身であると言っても過言ではなかった。そんなマオが今回のファントムの案件に関してはほぼダンマリを決め込んでいた。出した命令といえば『ファントムに関してはミハイルに任せる』これだけなのだ。これはどうしたことなのだろうとミハイルは思った。ミハイルはこの疑問に対するラズーの見解を求めた。


「確かに……、不思議ですね……。あれだけ口を出すマオ様が……」


 そういうと両者は何も言わず向かい合った。両者ともある疑問が頭に浮かんだ。


 ――マオは何かファントムと繋がりがあるのだろうか?


 ラズーが視線を逸らすと、ミハイルは立ち上がった。ラズーは咄嗟に聞いた。


「ミハイル様どこへ?」

「マオに会いに行ってくる。直接な」

「しかし、ヤブ蛇になる可能性だってありますぞ」

「だったらどうだって言うんだ。関係ないならないでいいさ」

「もしも、あれば?」

「……」


 ミハイルは答えなかった。斬る。そう言いたかったが、その時の己の心に殉じようと思った。ミハイルは窓から空を見た。外はいつの間にか雨になっていた。突如降って湧いた疑問のように、雨が大地に降り注いでいた。


 ミハイルはこの疑問をただ黙って洗い流そうとは思わなかった。


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