第085話 夢遊病
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。なろう中心の連載から公募中心のサイクルに移ってきたので、どうも上手く更新できませんでした。これからストック分をチョロチョロっと吐き出していこうかな、と思います。何卒これからもキャッスルワールドをよろしくお願いします<m(__)m>
老人が口を開く。
「こりゃ《夢遊病》だな。え? 夜中に動きまわるアレかって? まぁそれに近いからそう呼ばれているだけなんだがな。具体的な原因と何故そんなことになったかについては諸説あるみたいだ。一般的に言われてるのは、このキャッスルワールドの現実に耐えられなくなり新たな人格を作りだすせいなのだそうだよ。本当かどうかは知らんがね。ああそうだ、新たな人格だ。何だその顔は……。嘘臭い? 知るか! ワシだってそこまで詳しくないのだからこれ以上聞くな。ほら帰った帰った! …………分かった。そんな悲しい顔するな。ふぅ……。よく分からんが、要するに2つ以上の人格がそれぞれ思考するとキャッスルワールドにおける体はどちらの指令を受け取っていいか分からずに“このように沈黙し、動かなくなる”という事らしい。そして、ふとした瞬間にだけ夢遊病患者のようにフラフラ行動する。だからついた病名が……《夢遊病》」
筋骨隆々とした大男は老人との話を止め、老人の住むテントから出た。それと同時にゴーグルをかけ、フードを深く頭に被った。砂が舞っているのだ。大男の両手には金髪の少女が大事そうに抱えられていた。男はテントの傍の砂の上に座っていた褐色の肌の女に声をかけた。
「姐さん。病名がわかりましたよ」
褐色の肌の女は、そうかい、というと大男の方ににじり寄って来て、抱きかかえられた金髪の少女を見つめた。それから、メンバーに号令した。
「集結!」
褐色の肌の女の号令に従い、テントを囲むようにしていた人々が一斉に褐色の肌の女の下に集った。
「アタイ達はこれからデカルトに戻る。警戒態勢をとりながら進みな」
女の命令にあわせ、前後左右どこからでもかかって来ても良い様にフォーメーションが組まれる。これはM&Jでも訓練していた行軍時の最も基本的な布陣だった。
大男の腕に揺られ、金髪の少女は思考する。とりとめもない思考を。
――今日ってどんな日だったかな? えっと、そうだ。もうすぐお父さんの誕生日だったかな? 営業の仕事をしてるらしいけど、営業って何をするものなのかな? まぁそれは置いといて……、誕生日プレゼントは何がいいのかな? どんなものだと喜んでくれるのかな? やっぱりネクタイとかかな? スーツにはネクタイって相場が決まってるもんね。それともボールペンとかがいいのかな? 本当はいつも欲しがってる最新式の立体映像パネルつきタブレットとかがいいのかもしれないけど、あんなの私の小遣いじゃ買えそうもないし。やっぱりお母さんに相談した方がいいのかな? お母さん! あれ? お母さん!! ……買い物かな? 今日は西友のヴァーゲンがある日だって言ってたよね。今日? あれ? きっと今日だった気がする。昨日だったかな? よく分からないや。そういえばお母さんはいつからいないのかな? もうずっと会ってない感じがする。何でだろう? あれ? そういえば今日って何日だっけ? もうずっと学校にも行ってない気がする。早くお勉強しなきゃいけないのに。私はどこにいるんだろう。この瞳に映る砂嵐はなんだろう? 私をダッコしている大きな男の人は誰なんだろう? そういえばなぜ私は金色の髪をしてるんだろう? 私の髪の色は黒なのに。全然分からない。お父さんはどこだろう? お母さんはどこだろう? 私……どこにいるんだろう?
褐色の肌の女が話しかけてきた。
「なぁアリス……あんたは強い女だろ? アタイが認める数少ない女……。あんた……、あの日何を見たんだい? モトヤは帰って来ず。あんただけが帰ってきた。みんな死んだ、その言葉を繰り返してたよな、半分無くなった顔で……。あの日何がおこったんだい?」
――あの日? モトヤ? 何を言ってるんだろう? っていうかアリスって私の名前じゃないし。私の名前は【ゆい】なのに……。このお姉さんの顔……悲しそう……。泣かないでお姉さん。アリス? そういえば……アリスってどこかで聞いた事がある気がする。なんだっけ? 誰の名前だっけ?
金髪の少女アリスは答えない。遠くを見ながら僅かに口を震わすだけだ。褐色の肌の女フィオナは暗い顔をしながら歩く。もう時間は残されていない。キャッスルワールド終了まであと3ヶ月をきったのだ。




