第076話 策士(6)
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「独房を出る度に元部下達にキャンディを配ってるらしいな」
「欲しいっていうものをあげてるだけよ。何か悪かったかしら?」
モトヤとマオは王の間にいた。部屋の隅にある丸いテーブルの横の椅子にマオは座り、モトヤは王座に座っていた。ガラス張りの窓からは朝日が射しこみ、それが毛皮のコートを着ているマオを照らしていた。強い日差しを避ける為かマオは手を広げおでこにつけ影をつくり、目に光が入らない工夫をしていた。モトヤはこの姿を見ながら思った、人間だ……と。
暗闇の中に潜むマオは、どこか不気味で、不思議な雰囲気を醸し出す人物だった。だがどうだろう……。日の光が当たる所で見ると、ただの人でしかなかった。マオの口からささやかな疑問が漏れた。
「今日は独房まで来ずに、この《王の間》に私を招いてくれたみたいだけど?」
モトヤは少しはにかむと、軽く頷く感じでいった。
「そうだな。うん。たまには日のあたる場所で作戦会議もいいだろう?」
「ふふふ」
「何がおかしい」
「誠意を誠意と感じてくれる人は好きよ。どうも私が何かをすると裏の意味を探りたがる人が多くてね、かえって関係が拗れたりと色々と上手くいかない事が多いの……。だからシンプルな人は好きよ」
そう言ったマオからはむしろ儚さと人間臭さを感じた。策士ゆえに向き合わなければならない現実もあるのだろう。モトヤは、気を取り直し、口をあけた。
「とりあえず、作戦の次の段階……最終段階についてだ。これについて聞きたいことがある」
「どうぞ」
「お前の最初の説明では、あとは爆破するだけ……、と言っていた気がするが」
「ふふふ、そんなに説明を省いたかしら?」
「ああ、省いた」
モトヤはそう言うと、王座から立ちあがりマオの座る丸テーブルまで歩き、アイテム欄から取り出した地図を広げた。
「白老を殺し、バルダー城を手に入れる為にはいくつかの要素が重ならなければいけない筈だ」
マオはテーブルに広げられた地図を見る。モトヤは持っていた二つの人形のうち眼鏡のマークが書きこまれた人形を地図の上に置いた。
「まず、トールマン……」
そして、もう一つの頭が白で塗られた「白髪」の人形も置く。
「そして白老……。この2人が同時にバルダー城にいなくてはいけない」
「そのとおりよ」
「だが肝心なトールマンも白老の場所も俺達には分からない。どうやってこの条件を揃えるつもりだ?」
マオはテーブルに置かれた眼鏡の人形を手に取った。
「まずトールマンの居場所は分かっているわ……。トールマンがいるのはキサラギ城、そこで普段は“内方”の勤務についているわ」
「内方?」
「分かりづらい名称よね? 誰がつけたのだか……。まぁつまりキサラギ城内部の事に関する仕事ね。城の中のベッドメイキング、全員分の食事を作ったり、城内部にある地下牢の警備をしたりと……、そういう城の内部だけに関する業務をそう呼んでいるのよオリジンでは」
「ん~と……、つまり、集まった税の計算とか?」
「それは内方の任務ではないわ、城の外側の話でしょ? 食糧の管理もそうだけど、外部が絡んでくるような任務はそれぞれ部門別に役職があるの」
「食糧の管理も外部の任務なのか?」
このモトヤの素朴な疑問にマオは笑った。
「M&Jでは違うのかしら? オリジンはモンスターを捕獲したり、畑を耕すといった作業に従事する人がいるわ、それぞれ事情にあった食糧の管理が必要よ。例えばモンスターの肉は殺してからでは管理が難しいの……理由は分かるわよね?」
「腐るからだろ? 冷蔵庫なんて無いしな」
「そう……それはアイテム欄に入れても一緒、常温で放置しているようなものなのよ……。ではどうするか分かるかしら? 実は牧場を作りそこで管理しているの。で、ここからが面白いのだけどモンスターから食肉にする過程が分かるかしら?」
「……」
モトヤはマハーバリで得た潤沢な資金を元に食糧に関しては外部に依存していた。複数の食糧クランと提携し、日に2度食事を届けてもらっていた。届けると言っても城の内部に入れさせるわけではないが……。モトヤは顔を二度よこに振った、そして声に出す。
「いや、食糧に関する話しは横に置いておこう。話しが逸れた……問題はバルダー城に2人をどう集めるか……だ」
マオは掴んでいた眼鏡の人形を地図上に描かれたバルダー城の上に置く。
「トールマンに関しては簡単にできる。彼は私の派閥に属する人間よ? 多少の無理は効くわ……問題は白老ね。リーダー、このあいだ私が白老に出した手紙に返事はあったかしら?」
「ああ」
2週間ほど前、マオは一通の手紙を白老に出した。マオは、この手紙の返事を待っていた。
モトヤは、アイテム欄から白老からの返事が書かれた手紙を取り出した。マオは、モトヤからそれを受取ろうと手を伸ばす。だが、モトヤはその手紙をマオに渡す寸前に手首を返し、再びアイテム欄に戻した。
マオはモトヤの行動の意味を測りかねたのか、ジッとモトヤの目を見た。
僅かに緊張感を伴った空気が二人を包んだ。
「これはどういうことかしら? てっきり私にその手紙をくれるものだと思ったのだけど?」
モトヤは、大きく一息ついた。
「少し慎重にいかせてくれ、受取人と差出人がマオと白老だ……。万が一ということもあるかもしれない」
「万が一……とは? 万が一私がM&Jを裏切っている可能性があるかもしれない、と言っているのかしら?」
「……」
「私が書いた内容はあなたもチェックした筈よ」
「分かっている」
するとマオは含み笑いを見せ、何度か頷いた。
「ふふふ、つまりこういう事かしら? その手紙にはリーダーが分からない何らかの隠語でも散りばめられており、白老と極秘で情報交換することが可能かもしれない……と?」
「まぁそういう事だ」
モトヤがあっさり認めると、マオはテーブルに転がっている白髪の人形を掴んだ。
「慎重な人は好きよ。でも、そう思うなら手っ取り早いのは私の腕に巻かれたこの赤いバンドを使用することね。それで私の言ってる事が本当か嘘か分かるわ」
モトヤはマオの腕に巻かれた赤いバンドを見た。嘘発見器の役割を果たすバンドだ。確かにこれを使うのが最も早道だ。しかし、あと2回しか使うことができない……となると使うのはこの場面なのだろうか? モトヤは顎に手をあて考えた。
その様子を見ていたマオは笑いだした。
「ふふふ、ちょっと意地悪をしちゃったかしら。ふぅ~……これは私が白老に仕掛けた罠よリーダー……。手紙を見てくれるかしら? 私は見なくていいから」
モトヤは言われるがまま手紙を再びアイテム欄から取り出した。
「郵便の仕組みは御存知かしら? ふふふ、クランごとに違うという話も聞くけど。オリジンが使っているモンスター郵便には“ある特徴”があるわ」
ここまで喋るとマオは身を乗り出しモトヤの持つ手紙のある一ヶ所を指さした。
「見てほしいのはここよ、ここ」
モトヤは指された箇所を見た。そこにはハンコの様なものが並んでいた。いくつかの街の名前がそこにはあった。
「出した手紙は、まず一度エリアごとに存在する“エリア郵便局”という所に集まるわ。そのハンコはそこで押されるの、左からね。次に同一エリアであれば一番近い郵便局に届けられ、エリアをまたぐ場合は、またいだ先にある“エリア郵便局”にまず届けられるわ。どちらにしろ、郵便局を経るたびにハンコが増えてゆく。ここまでは確実に手紙が届いていた事を示すという意味でね」
「……」
「分からないかしら? つまり、一番左端のハンコはどのエリアから手紙を出しているか分かる仕組みになっているの」
モトヤは左端のハンコに書かれた街の名前を見た。そこはかつてモトヤ達が追われた街……、そして悪夢が始まった街の名前が書かれていた……。
「……【 始まりの街 】……バルダーエリア……」
モトヤが声を発してから数秒後、マオは掴んでいた白髪の人形を地図上のバルダー城の上にゆっくりと置いた。静かな部屋に“コトン”と、やや高い音が響いた。
「ふふふ、あのおじいちゃんはほぼ城から出ないわ。本人はレベル1の僧侶だしね。もしもバルダーエリアから出された手紙なら十中八九バルダー城から出されたものよ……。しかし――」
マオは、ここで一度口を動かすのを止めると、改めてモトヤを見た。そして軽く笑った。
「ツキがあるわねリーダー。まぁ私も一番新しい土地の統治とあって8割方バルダー城にいる予想はついていたけど……。それにしてもバルダー城にいない可能性も十分に考えられたわ……これは運よ……」
モトヤは王の間の天井を見ながら思い返す、最近良い事が立て続けに起こっている事を……。
ミシャラク城が手に入った。指導者が見つかった。波風たてることなくミシャラク南部の街「コエントラン」と、そこを占領するクランを取り込み300人近くのクランとなることが出来た。
更に……。
モトヤはマオを見た。
――この最強の策士を俺は手に入れたのかもしれない。
胸から熱い思いがこみ上げてきた。
――風だ、今の俺には確実に追い風が吹いている。今だ、今こそが俺がキャッスルワールドを征する時なんだ!!
どの時代、どの時でも英雄が生まれる時は幾多の条件が重なる事が多い。その中で最も大きな要素は運である場合が多々ある。例えば織田信長はこれ以上ないタイミングで武田信玄が死に、北条時宗は台風に助けられ、源頼朝はジッとしていたらいつの間にか他の有力武将達が勝手に倒れていき天下取りのための良いポジションに位置していたいたという事例がある。(鴨にも助けられた)
逆説的に言うならば運は欠かせない要素であった。
マオは笑いながらモトヤに語りかけてきた。
「ふふふ、では作戦の細部をつめましょうか?」
モトヤは頷き話を再開した。既にトールマンの中にある爆弾はいつでも起爆できる状況にあった。




