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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第070話 策士(1)


 クラン《源氏》が消滅し、得体の知れない小クランがミシャラク城を乗っ取った。このニュースはキャッスルワールド中を駆け巡った。ミシャラク城は難攻不落の城である。これはミシャラクエリアに住む者のみならずキャッスルワールドをプレイする者にとって常識的な知識の1つだった。3つのエリアを制覇しているオリジンが敢えてミシャラク城に手を出さなかったのも、この城の防衛力の高さを知っての事だった。ともかく、その城が《M&J》と名乗る聞いたことも無いようなクランによって奪われたのだ。プレイヤーの反応は様々だった。無名のクランが落せた城なら自分達も落せるのではないかと思う者、当然の流れと受け止める者、経済にどういう流れができるか予測する者、そもそも興味が無い者、そして既に城を3つ手に入れているにも関わらず4つ目の城を望む者……。それそれが“自分こそが生き残る”という明確な目的の下に状況を分析していた。


 M&Jがミシャラク城を源氏の手から奪い取ってから既に一週間が過ぎようとしていた。


「おかえりなさいモトヤさん!」


 バサッバサッバサッ。


「どうどう~~上手く静まれよぉ~……よし良い子だ」


 ミシャラク城のバルコニーに大鷲が降り立つ。モトヤはその背中に乗っていた。僧侶ナナはバルコニーに出ると満面の笑みでモトヤを出迎える。モトヤは大鷲の背中から降り、ミシャラク城のバルコニー部分に足をつけた。それと同時に大鷲を自分のステータス画面に戻らせる。


 大鷲はつい最近仲間にしたモンスターだった。恐山にしか生息しないモンスターで、その一匹が運よく仲間になったのだ。


「ただいまナナ。何か報告はあるかい?」

「え~~っと、ちょっと待って下さいね。ああ、そうそう。色々手紙と挨拶の品が届いていますよ」


 モトヤは思わず聞き返す。


「挨拶の品?」

「え~~っと、なんでしょうね? お中元? お歳暮的な何かでしょうか?」


 モトヤは、語尾が疑問だらけのナナの話を聞きながら贈り物の背景に思いを巡らせる。恐らく様子見のつもりなのだろう。彼らにしてみればクラン「M&J」がどういう行動に出るか分からない。なので、とりあえず挨拶だけでもしておこう。そういう思惑なのだろう。


「いいさ、貰える物は貰っておこう。タダより安ものはないっていうじゃない」

「あれ? それ間違ってますよ?」

「え?」


 モトヤとナナは楽しそうに喋りながら王の間に入った。そこには送られてきたお歳暮的な品が並べられていた。それはモトヤの想像を超える量だった。ナナがモトヤの顔を覗きこむ。


「とりあえずどこかに保管しておきますか?」

「ん~そうだな。あ、いや待てよ。ちょっと見てみる」


 モトヤは、その中の1つを手に取り、箱を開ける。中に入っていたのはパンフレットと手書きのメモだった。モトヤは手書きのメモを読む。


『これは我がクラン「山崎組」が手掛けた建築物の数々です。パンフレットを見て何か建てたいな~掘りたいな~と思った場合は山崎組まで来ていただければ。すぐに仕事にとりかかります!!』


「宣伝かよ!!」


 モトヤはパンフレットを放り投げた。

 ナナはそんなモトヤを見て笑う。今度はナナが箱を開けてみた。


「コレ何かな~? んん?」


 ナナが取り出した箱の中には5本の棒と5つのスイッチらしきボタンがあった。中には取扱説明書も。ナナは不思議そうな目をして箱の中から棒を取り出し、猫じゃらしで猫と遊ぶように軽く上下に振った。モトヤは取扱説明書を箱から取り出し、それを読みあげる。


「え~『お近づきの印として今開発中の新兵器を進呈したいと思います。これは私が“吹っ飛び君”と名付けた兵器で、キャッスルワールドにおける痛覚が軽減されている所に着目した兵器です。まずこれを人体のどこかしらの部分に差し込みます。お手元のボタンを見て下さい。それぞれに番号が割り振られています。そこを押すと棒に詰められた火薬に微弱の電流が流れ爆発する仕組みになっています』????」


「え?」


 ナナはあまりにビックリし、振っていた棒を離してしまう。すると棒がピョンと飛び、壁に突き刺さった。爆発すると思ったモトヤとナナは一瞬身をかがめる……が、爆発しない。モトヤとナナは顔を見合わせる。ボタンを押すと爆発する……壁に刺さったヤツで試してみるか。二人ともそう思った。番号を確認し、モトヤとナナは十分に棒から距離を取りボタンを押した。押した。押し……あれ?

 王の間は静かなままだった。もう一度取扱説明書を読む。


『開発中の物ですので、不具合があり爆発しない場合が多々あります。完成品を見たいとは思いませんか? その場合は銀行の□△という口座に入金お願いします。絶対に損はさせません』


「やっぱり宣伝じゃねーか!!」


 モトヤは刺さっていた棒を掴み放り投げた。するとその瞬間、棒が爆発した。モトヤとナナは咄嗟に身をかがめる。部屋の角にあったテーブルの足が吹っ飛んだ。


「あぶねぇ……なにこれ不安定すぎるだろ」


 すると爆発音に反応したのか、扉の外からアリスが飛び込んできた。


「何? どうしたの?」


 モトヤもナナも説明に困る。ただボタンを押すと爆発する棒があり試したとだけ言った。アリスが冷ややかな視線で二人を眺めた。突き刺さるような視線が痛い。モトヤの口が勝手に言い訳をし始めた。


「いや、別に遊んでたわけじゃないし。何かに使えるかもな~って」

「アンタはやることが沢山あるでしょ!! その爆発遊びはどんだけ優先順位が高いの? 1番? 2番?」

「分かった! 分かったから……」


 モトヤは、自分は名ばかりのリーダーなのではないかという想いを抱きつつ、通常業務に戻ろうとする。するとアリスが言い忘れてたという顔でモトヤに告げた。


「牢獄のアンタの彼女が呼んでるわよ」


 モトヤは思った、アリスはいつからこんな意地悪な言い方をするようになったのか……。モトヤは深く溜息をつく。マオが話があるらしい。


「マオがなんて?」

「自分で聞いてみればいいんじゃない? マオの居る独房の鍵もアンタしか持ってないんだし。マハーバリ時代からそうだったじゃない? アンタしか接触できない。まったく何してるんだか分かったもんじゃないわ」


 ムッとした顔のアリスは、そのまま王の間から立ち去って行った。


「ったくなんだよアイツ……いちいち突っかかってきて……」


 ナナはモトヤを見て笑う。


「モトヤさんがマオさんの事を好きなんじゃないかって思ってるんですよ。アリスさんは」


 ――はぁ??


 モトヤは怪訝な顔をした。まだナナは笑っていた。


「だってモトヤさんホラ……アリスさんが絶対にマオさんを殺すべきだって言ってた時に反対したじゃないですか」

「そりゃ、まだ情報引き出せるかもしれないからな」

「それですよ。絶対にマオさんの色気にやられたって思ってるんですよアリスさんは。だって言ってましたよ。男は美人を見ると見境が無いとか、男は女を見る目を全然養えてないとか」


 女は何でも色恋に結び付けようとする。そんな事あるわけないだろ、モトヤはそう思った。しかし、割と冷静だと思っていたアリスまでそんな事を言いだすのだから分からないものだ。そんなことでマオの処分を決めるわけがない。例えマオを好きだったとしてもだ。モトヤは、必要ならばマオに最も苦痛を与える手段を選択し、必要とあれば殺すだろう。アリスぐらいはそんな自分を理解している……。モトヤはそう思っていたが、どうやら違うようだ。モトヤは深い溜息をついた。


「分かった。とりあえずマオに会いにいってくるよ。ああ、そういえば……源氏討伐戦で死んだ5名のクランメンバーの代理を見つける作業は、阿南に任せるからそう伝えておいてくれ」

「わかりました~」


 モトヤはナナの返事を聞くとマオがいる地下牢獄に向かった。マオはマハーバリの地下牢からミシャラク城の地下牢に移送されていた。ミシャラク城の地下牢は、マハーバリとは違い常に1人ないし2人を配置し、見張りと明かりを絶やさずにいた。見張りの男が地下に降りてきたモトヤに挨拶をした。


「あ、モトヤさん。おはようございます」


 モトヤも笑顔で見張り番に挨拶する。


「お勤め御苦労さま。囚人の様子は?」

「特に変わりはなく」

「そうか」


 モトヤはそこで会話を終わらせると地下通路の奥を見た。マオのいる独房がうっすらと見えた。ここには細長い地下通路があり、右には壁が、左には通常囚人用の鉄格子で仕切られた牢獄があった。マオは最も奥にある独房に隔離されている。モトヤは奥の独房に向かって歩いた。マオのいる独房まで約30mくらいだろうか。これを僅か数本の松明で照らしていた。おかげで地下牢は常に薄暗く、陰気な雰囲気を漂わせていた。


 モトヤは独房の前までくる。松明の炎に揺れる自分の影が見えた。ここに来るといつも緊張する。別にマオが美人だから緊張するわけではない。見られている。強烈にそう思うからだ。爬虫類のように神経を研ぎ澄まし、一瞬で相手を丸のみする……マオはそんな視線でモトヤをジットリと見つめるのだ。一瞬の隙も見せる事はできない。マオに会う前にいつもモトヤが思う事だった。


 モトヤは大きく息を吸い込むと持っていた鍵で独房の扉を開ける。すると独房のベットに座る影が見えた。


「来てくれたのねリーダー」


 視線を感じる。扉から漏れる松明の明かりがベッドに座るマオの足だけを見せた。綺麗な足だった。マオの上半身は暗闇に溶け込み、息遣いだけがモトヤの耳に届いた。まるで部屋中の暗闇にマオの目があるような……そんな感覚。モトヤはもう一度大きく息を吸い込むとマオに聞いた。


「俺に用があるらしいな?」


 暗闇の中のマオが僅かに微笑む。


「ふふふ、そう緊張しないで。確かにアリスさんにあなたと直接話がしたいと言ったわ」

「聞こう」

「そう焦らないで、世間話でもしましょう? 例えば、今あたながやっていること」

「答える義理はないな」

「ふふふ、少しくらいいいでしょう? 例えばそうねぇ、道路を作るのは素晴らしい案だと思ったわ」


 モトヤは大きく目を見開いた。何故知っている! と、口から出かけた。ミシャラク城と港町マハーバリを100人で同時に統治する方法をモトヤは考え続けていた。その方法が道を整備することで両都市間の移動を迅速にする方法だった。道を作るクランに依頼し、クランが工事にとりかかったのは4日前。マオが知るハズのない情報だった。驚く目をするモトヤにマオは語りかけた。


「驚く事ではないでしょ? 見張り同士が話しているのを聞いただけよ。でも良い案だわ。たかが100人程度の人数でマハーバリとミシャラク城をどう支配するのか興味があったの。どちらが攻撃されても、もう一方がすぐに駆け付けれるように道路を作ろうとするなんて……なかなか優秀なのね私のリーダーは」


 モトヤは反応する事ができなかった。マオはからかうのを止め、言葉を続けた。


「じゃあ本題を話そうと思うわ。私はそろそろここに囚われるのも飽きてきたの。だから一仕事させてくれないかしら?」


 一仕事? この言葉がどういう意味を持つのかモトヤには分からなかった。


「どういう意味だ? マオ」


 このモトヤの言葉に、微笑む様なマオの吐息が聞こえてきた。


「私を仲間と思えない。そう思ってるわねリーダー? だからあなたに最大のプレゼントをすることで私は自分を仲間と認めてもらう事にしたわ」


 ――最大のプレゼント?


 マオはここで一呼吸置いてから甘い言葉を発する。それはこの上なく甘美な言葉だった。


「バルダー城と白老の命…………これをあなたにプレゼントするわ」


 悪魔が耳元で囁いた。モトヤにはそんな風に聞こえていた。


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