表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
71/118

第067話 ミシャラク城の主(2)

今回の視点人物はクラン《源氏》に所属するジブリールです。この67話から69話まではジブリール視点で物語を見て行きます。毎回めまぐるしく視点が変わって申し訳ありません。


 ミシャラク城を占領するクラン《源氏》に所属するジブリールはM&Jとの会談を終え、帰路についていた。とぼとぼと歩きながら、青白い顔したジブリールは空を見上げる。眼前には鼠色の雲が空を覆い尽くし、日を遮っていた。今にも雨が降りそうな空模様だった。


 ――まるで私の心を映し出したみたいだな……。


 会談場所の『芒ヶ原(すすきがはら)』は、ミシャラクエリアの中央からやや北、マハーバリとミシャラク城の中間にあり、ミシャラク城までは約半日の距離にあった。帰ったらどう報告すべきか、どう身を処すべきか……、ジブリールの頭はぐちゃぐちゃになりながら足を一歩また一歩とミシャラク城へ進めた。


 M&Jとの会談は、食糧支援の為の条件を聞くための会談……のハズであった。だが、この会談はジブリールを誘いだす為の計略のようだった。ここで、このモトヤとジブリールの1対1の会談の本当の目的が明かされた。ジブリールは一時間ほど前のモトヤとの会談を思い出していた。




 一時間前。


 ジブリールはモトヤにつめよった。

『食料支援はしないだと!? ふざけるなよモトヤ!』

『そうは言っていないジブリール。食糧支援をするには条件があると言っただけだ。我々M&Jは、現在“指導者”を有している。クラン《源氏》のリーダー義家以外のクランメンバーは、ミシャラク城を占領したまま俺のクラン《M&J》に入団してほしい。有意義な提案であるはずだ。このままではゲーム最終日を迎える前に源氏に所属する人々は餓死することになるだろう。俺のクランに入団するならメンバーの食料の一切の面倒をみよう』

『ふざけるな!! これではただの降伏勧告ではないか!!』


 モトヤはジブリールを睨む。


『ここはキャッスルワールドだ。甘えるなよジブリール。ミシャラク城から義家を追放し、ミシャラク城をM&Jに引き渡す。それプラス残りのメンバーはM&Jに入団する。これが食糧支援の条件だ』





 ジブリールは一旦目を瞑り、この一時間前に言われたモトヤの言葉と自分達の現状を考えた。

 クラン《源氏》は、今や食糧問題についてリーダーである義家の《城残留派》とジブリールを筆頭とする《城放棄派》の意見に分かれていた。M&Jから食糧支援の話が出た時、両派は意見の対立を忘れ一緒に喜んだ。だが、M&Jとの会談予定日が再三にわたりズレ込んだおかげで、また両派の間で食料問題が過熱していったのだ。


 加熱する両派を「M&Jの食糧支援があれば大丈夫だ」と何度も唱える事で義家とジブリールはお互いに自分の派閥の勝手な行動を抑え込んでいた。義家もジブリールもM&Jの食糧支援に全ての望みを託していたのだ。ジブリールも会談を行う直前までは、これで問題が解決すると思いこんでいた。だが、その期待は見事に裏切られた。


 ――今更「食糧支援が得られなかった」なんて言ってみろ……。カッツォをはじめとする《放棄派》のほとんどが自主的にクランを脱退してクランが空中分解するぞ。


 ジブリールは手で顔を覆った。M&Jは義家の追放を条件に入れてきた。ジブリールは迷っていた。両派に分かれようとも源氏というクランは、義家とジブリールが何も無い所から作りあげたクランなのだ。何度も死にそうになりながら、鉄と血によって現在の地位を手に入れたのだ。ジブリールはこの世界に来て教わった事があった。それは心の底から信用できる仲間との絆は何にも代えがたいというものだった。幾多のピンチを手と手を取り合い生き抜いてきた義家とジブリールの間にはそれがあった。少なくともジブリールはそういった信頼関係が義家との間にあると思っていた。


 ――だが……、どうすればいいんだ?


 源氏は食料支援を受けなければ、もうどうにもならないところまで来ていた。恐山にいるモンスターさえ捕獲しすぎたのか、めっきりと数を減らしていた。源氏を存続させるためには一度恐山から下りて、健全なクラン運営をしなければならなかった。それを拒んでいたのは義家だった。


 ―― 一度放棄した城はなかなか取り戻せないという理屈は分かる……分かるが、食料をどうにかしなければ今死ぬんだぞ。


 80人を二部隊にわけて一部隊が街へ、残りが城に残るという案が検討された時期もあった。だが結局のところ、兵士が少なすぎると城を守れなくなるという理由でこれも義家に却下されたのだ。


 ――義家が追放される案は、義家自身が承諾しないだろうな。当たり前か。


 ジブリールは振り出しに戻った気がした。義家が城を放棄する案を呑まなければ、M&Jが食糧支援をしてくれるということを言い聞かせて部下を抑え込んでいた分、部下達がお互いに勝手な事をしはじめるのは火を見るより明らかであった。


 ――もしも《放棄派》のメンバーがクランから大量脱退をした場合……、ミシャラク城は簡単に落とされる城に変わるだろうな……。


 ジブリールは足を止め、その場にへたり込んだ。地面に生えた草がジブリールのお尻をヒンヤリ冷ました。食糧支援をしてくれるというクランは他には無い。自給自足は既に限界にきている……。食糧が賄えない以上、放棄派の大量離脱は避けがたい。進退極まったのだ。どう考えてもクラン《源氏》の存続は不可能だった。

 頬と額に冷たい粒が当たった事に気付いた。ジブリールは再び空を見上げた。いつの間にか僅かに雨が降っていた。


 ――本当に私の心のようだ……。泣きたいよ……私も……。


 すると、正面方向からカラカラと車輪が回る様な音がした。ジブリールは音のする方を見た。すると遠くの方から馬車がこちらに向かってくるのが見えた。馬車はだんだんと近づき、やがてジブリールの前まで来ると動きを止めた。困惑するジブリールだったが、中から姿を現した人物を見てホッとした。それは、同じクラン《源氏》に所属する《城放棄派》のカッツォだった。カッツォは、自慢の太い腕をジブリールに向けて差し伸べてきた。


「ジブリールさん乗ってください。おい! ニーチャン! ミシャラク城に引き返してくれ!」

「あいよ~」


 ジブリールは、カッツォに手を携えられ馬車に乗り込むと、向かい合う長椅子の一方にへたり込んだ。カッツォはその向かい側に座った。そして、ジブリールに顔を近づけ聞いてきた。


「会談の内容を聞かせて下さい」


 ジブリールは、疲れた顔をしながらカッツォにその全てを喋った。このどうにもならない現状を打破する為に知恵を貸してほしかったからだ。全てを聞き終ったカッツォは一言洩らした。


「やはり、そうなったか……」


 ――やはり?


ジブリールは、驚き上体を起こしてカッツォに聞いた。


「やはりとは何だ? 予想していたのか?」

「ジブリールさん考えてもみてください、敵のクランがただの人助けで動きますか? 同盟の話にしたって未来の約束なんてどれくらい信用できます? 敵がこのくらいの難癖をつけてくるくらいは予想していましたよ。しかし、良かったじゃないですが抜群の解決策が見つかって」


 ジブリールは驚きカッツォに顔を近づけた。


「解決策だと!?」


 ジブリールは、訳が分からなかった。自分は先ほどまであらゆる可能性を考え進退極まったと思っていたのに、この目の前の男は簡単に解決策を見つけ出したというのだ。


「どんな解決策があるんだ! 教えてくれカッツォ!」


 するとカッツォは不思議な顔をしながらこう答えた。


「いえ……あの……義家様をミシャラク城から追放し、M&Jに入団すればよいのでは? だって、城を放棄する際の最大の問題点は、城を放棄することで他のクランに城を奪われることでした。言うまでも無く、現実へ帰還できる可能性がかなり低くなるからです。ですが、ジブリールさんの話なら、ただクランを鞍替えするだけで城を維持したまま食料問題を解決できます。素晴らしいじゃないですか! そのために必要な事が、ただ義家様を追放すればいいだけなんですよ? こんなに良い条件ないですよ」


 話し終えたカッツォの顔を見てジブリールは愕然とした。カッツォは晴れ晴れとした顔をしていた。カッツォにとって義家とはどうでもよい存在だったらしい。ジブリールは、カッツォに尋ねた。


「義家様をどうするつもりだ?」

「どうするって……そりゃあ追放しますよ。もし拒むなら殺すしかありません。だって、それがM&Jの条件なんですよね? ならやるしかないですよ」

「おまえな!!」


 ジブリールはつい感情的になり怒鳴ってしまった。カッツォの目に鋭い光が宿る。


「ジブリールさん……まさかとは思いますが、M&Jの要求を呑まないつもりですか? ジブリールさんは義家様とクラン立ち上げからの付き合いだそうですが、クラン全員の命よりも友情を選ぶつもりですか?」


 ――こいつ!!


 ジブリールは拳を握りしめた。


≪お前こそ自分が助かりたいだけではないか!!≫


 ジブリールのこの思いは声にはならなかった。一瞬だけ……ある可能性が頭をよぎったからだ。馬車の中ではカッツォの同意を求める声が続いていた。


「どうなんです?」


 ジブリールはやもうえず返答した。


「もちろんクラン全員の命が大切だ」


 これをカッツォは義家追放への賛同と解釈した。


「やはりジブリールさんだ! ()ではなく(こう)を重んじる人だ! 素晴らしい! いやホッとしましたよ。もしも……いや止めましょう。めでたい! めでたい!」


 向かいで喜ぶカッツォを尻目にジブリールは視線を床に落した。酷い顔をしていた。


 ――もしも……、その続きは……ひょっとしてこう言いたかったのか? カッツォ。


『もしも……、俺の言う案に賛同しないのであれば、あなたも殺しますよ。ジブリールさん』


 自分と関係ない“クラン全員の命”という大義までとりだし自分の命に執着するカッツォを見て、ジブリールはこれが人というものか……、と思った。


 ――ここで会った人々は、元々赤の他人。ならば……、大事な人などいない……。そう思っているのか……カッツォ……。


 当然ながらカッツォは答えない。ジブリールの心の声は届かないからだ。ジブリールは思った。このゲームは本当に糞みたいな最低なゲームだと。今日どんなに大切でも、明日いらないと判断されれば容赦なく切り捨てられるのだ。このゲームの最悪な所は、それでも人と助け合わなければいけないという所だ。一人で戦うことなど不可能だし、一人で城を占領することも不可能なのだ。信じるという言葉がこれほど重い世界はないだろう。裏切り裏切られ、人の汚い部分を見せられるのに、信じあわなければゲームのクリアなど絶対にできないのだから。


 ここで、ジブリールの思考が途切れるような質問をカッツォがした。


「そういえばジブリールさん……どうしてM&Jに指導者がいるって分かったんです? モトヤってヤツの職業が指導者だったのですか?」


 ジブリールは息を整え疑問に答えた。


「いや、モトヤはレベル3の魔物使いだった。会談の途中に“証拠を見せる”ということで“アストラ”という男が会談に現れた。そいつの職業名には確かに“指導者”と書いてあった」


「なるほど……、なら大丈夫か」


 キャッスルワールドでは相手を見ると『名前・職業名・レベル』という3つが本人の頭上に表記されている状態になっている。それに加えてHPバーが緑色の太い線で表示されており、ダメージを喰らうと緑色の太い線が短くなる。その緑色の線の具合によってHPの残量がどの程度あるかを示す。そういうシステムになっていた。この表示を見て相手の強さを推し量るのだ。カッツォが顎に手をあて疑問を口にする。


「たとえば指導者が偽物という可能性はないでしょうか? ほら、あのレベルやら名前の表示を変える魔法がありましたよね……。職業名まで変えれるかというのはうろ覚えなのですが……」


 ジブリールは眉をひそめた。


 ――偽物?


 指導者が偽物の場合……具体的にはどうなるのだろうか? そもそも何故嘘をつく必要があるのか?


「どうして偽物だと思ったんだ?」


 ジブリールの質問にカッツォは頭をかきながら思いついた事を喋った。


「例えばですね……、指導者がいると偽れば我々はM&Jのクランに入ることができません」

「それで……M&Jになんの利益があるんだ?」

「え? それは……」


 カッツォは口ごもった。ジブリールはその先を想像した。もしもM&Jの言うとおりに義家だけを追放したとしてもクラン《源氏》の状況にそれほど変わりはないのだ。M&Jの指導者がもし偽物だとしたら……、M&Jの登録枠は100人のままということになる。その状態ならば当然ジブリール達はM&Jに加入することが出来ずにクラン《源氏》を維持することになる。となれば、モトヤ達は源氏の持つミシャラク城を実力で奪取するしかない。そんなことをしてM&Jに何の利益があるというのだろう? それとも義家というリーダーがいない源氏をそれほど弱いとでも思っているのだろうか? ジブリールは今思った事をカッツォに伝えた。


「カッツォ心配するな、私は確かにプレイヤーに表示されている“指導者”という文字を見た。それに義家様だけを追放の条件にいれたことを考えても指導者の表示が偽りである可能性はかなり低い。仮にM&Jが指導者を手に入れているという情報が偽りだったとしよう。となれば最大でクラン人数が100人のM&Jは我々を受け入れる事ができない。我々をクランに登録しないかぎり、M&Jをミシャラク城の中に招き入れる事などない。そうなればM&Jは城の外で立ち往生だ。攻めかかって来ても簡単に倒すことができる。我々がミシャラク城に立て篭もる限りどんな手を使って攻めてこようとも無敵だ。たとえ義家様なしだったとしてもな」


 カッツォは、ジブリールの説明を聞きしきりに頭を上下に振る。


「さすがジブリールさん。状況的に言えば確かに指導者がいると偽ったとしても、M&Jには何の利益もありませんね……、となると本物の可能性が高いですね」

「そう思うだろ?」

「はい! さすが俺達のジブリールさんですよ」


 ジブリールは、カッツォの言葉を聞きながらいつの間にか義家のいない状態を簡単に想像できている自分に気がついた。


 ――さっきは義家様を追放することにためらいの感情を持っていた癖に……、たった数分の間で気持ちが傾きはじめたのか……。


 ジブリールは、この世界に来てから義家と長い時間を共に過ごしてきた。しかし、心中する気などさらさらなかった。あれだけ義家の事を深く信頼してきたハズなのに、カッツォが自分の生命を脅かしにかかっている、という可能性を知っただけでジブリールの中の義家の命の優先順位が下がったのだ。恐らくカッツォだけではなく、城放棄派のほとんどの人々はカッツォと同じ意見に違いないと直感したからだ。この決断に従わなかった次点でジブリールは用済みになり、恐らく殺される。人に対してやさしい気持ちを持てるのは自分の生命が保証されていればこそなのだろう。ジブリールは、自分の命を危険に晒してまで義家を守る気はなかった。


「そういえばM&Jが約束を守らない可能性もありますよね?」


 カッツォが再びジブリールに聞いた。ジブリールは迷いなく答えた。


「M&Jの要求通り義家様を追放したのに、その後M&Jが約束を守らないのであれば、義家様を追放しただけになってしまう……。だが、状況はあまり変わらないだろ? 依然ミシャラク城は難攻不落の城のまま我等の手にあることになるのだから」


 カッツォは、このジブリールの発言にニヤリと笑い頷いた。この発言は完全に義家との決別を意味していたからだ。


 日本には“担ぐ”という言葉がある。これは“物を持ち上げ肩にのせ支える”という状態を指す言葉だ。これを“自分たちの組織や集団の代表者の地位に据えて押し立てる”という意味で使う場合もある。カッツォ達《城放棄派》は、今まで担いできた御輿である義家を下ろし、この瞬間からジブリールを担ぐことに決めた。


 組織に不満があり、その不満が慢性的に解決されない場合。往々にして組織に所属する人間は自分達の願いをかなえる人物を“担ぐ”場合がある。


 この瞬間から、ミシャラク城には二人の主が存在する事になった。この事実をまだ義家は知らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ