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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第059話 オリジン編 最強のスキル

今回はバルダー城を占領するクラン「キューウェル」のリーダーハリーの視点です。



 クラン「キューウェル」のリーダーである無精ひげの生えた角刈りの男「ハリー」は、バルダー城の4つある塔の一角でうっすらと遠いところに見えるオリジンの軍勢を眺めていた。偵察によるとその軍勢の数はおよそ200人ほどで指揮官は「ミハイル」という赤髪の男らしい。


 ハリーは自分の顎に手をあて無精ひげを触りながら虚ろな目で2ヶ月前の宴を振り返る。するとキサラギ城の宴でやけに正論を吐く赤髪の男がいたことを思いだした。


 ――あいつか。


 ハリーは“面白くない”と言いたげな憮然とした表情をして城内の兵に目を配る。どの兵士も慌ただしく戦闘の準備をしていた。何故こんなことになったのか……それともそう仕向けられたのか……ハリーには分からなかった。分からなかったのだが、一つだけしっかりと分かっていることがある。それは、これからハリー率いる「キューウェル」は同盟関係を結んでいたハズのオリジンと戦わなければならないということだった。


 ――オリジンのクソッタレ共め!



 ハリーのクラン「キューウェル」は、元々キサラギエリアで活動する親オリジンの傭兵クランの1つだった。そのせいか、今から2ヶ月程前にオリジンの白老の提案で『小クラン同士の連合軍を作りバルダー城を奪い取らないか?』という話がハリーの下に舞い込んできた。


 ハリーをはじめとする小クランを率いる者達のほとんどは、城を占領するにはかなり規模が小さいクランだったので、この白老の提案を“現実に戻る為の大きなチャンスが来た!”という捉え方をした。だが、いかんせん最終的に城を占領しなければ意味が無い。そうじゃなければ無駄に兵を消耗するだけである。


 そこで白老が提案してきた更なるアイデアとはバルダー城側との戦いの際に“最もバルダー城側のプレイヤーを殺した数が多かったクラン”にバルダー城の権利を渡すというものだった。この権利を保証するのはオリジンである。いわばオリジンの名の下にバルダー城を賭けた殺人ゲームが行われたのだ。戦いは熾烈を極めたが、結局ハリー達の小クラン連合が勝利し、そこでバルダー城を防衛する鷹の団・ジロンダン・ボコットケモンスターの3クランのプレイヤーを最も多く殺したクランが「キューウェル」だったのだ。そして当初決められた約束通り、“最も多く殺したクラン”である「キューウェル」がバルダー城を占領することになった。その際にキューウェルは、オリジン側と書面で“ある約束”を交わした。いや結ばされたと言った方がいいのか……。


 1、これからゲーム終了時までは、オリジンとキューウェルは同盟関係にあり、決して敵味方に分かれない事。

 2、キューウェルは、オリジンが物資を必要とした時、その要請に応える事。

 3、上の二つの約束が守られない場合、同盟関係は破棄されるものとみなす。


 この3カ条の約束は対等な約束とは言えなかった。だが、軍事力ではオリジンの方が遥かに勝る為にキューウェル側としてはこのような約束を結ばざるを得なかったのである。



 そしてキューウェルがバルダー城を治めはじめて2週間が経った頃ぐらいから、オリジン側がにわかに「2」の要求をし始めた。


 ある時は戦費に必要なゴールドを借りたいとキューウェル側に要求し、ある時は必要な石材をキサラギエリアに運んでほしいと要求するなど、段々とオリジン側のキューウェルへの要求が激しくなっていったのだ。そして“キューウェルとしてはこれ以上オリジン側の要求が肥大化するなら、その要求に答えられない”……という旨をオリジンに伝えると、その行為が「3」にあたるという理由でオリジンはバルダー城にキューウェルを征伐するべく軍隊を派遣したのだ。そして現在に至るというわけである。


 ハリーの立場としては“納得いかない”と声を大にして言いたい気分であった。


 だが目の前の軍隊を見て少しホッとしているところもあった。

 なにせハリーが眺めている軍隊はたったの200人なのだ。この規模であればハリー率いるキューウェルに所属する100人だけで対応可能かもしれなかった。既に一ヶ月以上の期間を経てバルダー城の補修は完璧に済んでいた。破壊された跳ね橋も、中に散乱していた岩も元通りで、今なら大軍を迎え撃てるとハリーは思っていた。だが同時に不安でもあった。いくら攻城戦を経験したとはいえ城を防御する戦いは初めてなのだ。正直なところハリーは城の上から弓や魔法を降らせる以外にこれといった方法を思いつく事ができない。要するに不安なのだ。自信がないのだ。もしもこのままオリジンがまた同盟関係に戻ってくれるならそれが一番良いと思っていたのだ。


「ハリー様! 使者が戻って来ました!」

「よし! 俺のところまで通せ!!」


 ハリーは戦いを回避する為に一縷の望みを持ってミハイルの率いるオリジン軍に使者を送った。その使者が帰って来たのだ。その使者は帰ってくるなり開口一番「申し訳ありませんでしたハリー様!」と言った。


 その使者は、ミハイルが書いたらしき手紙を携えていた。ハリーは、その使者から手紙を奪い取ると声を出して読み始めた。


「え~なになに? 『君には申し訳ないと思っている。君はあのバルダー城を攻撃する為に集められたキサラギ城の宴の席に来てはいけなかったのだ。君が安らかに死ねるよう祈っている』……だと?」


 ハリーがミハイルに向けて書いた手紙は“オリジンとまた同盟関係を結びたい”という内容の手紙だった。その返答の手紙がこれなのだ。それは同盟関係の復活など全く考えていないというオリジン側の意思のように思えた。それに、この手紙はまるで――


「まるで――もう勝った気でいやがる」


 手紙を携え戻ってきた使者の前で段々とハリーの顔つきが険しくなっていった。これまでにない侮辱を受けたような気分だったからだ。


「おもしれぇ!! そんな簡単にこのキューウェルに勝てると思ってるならやってやろうじゃねーか!!」


 ハリーは、まるで酔っ払いの親父が勢いで叫ぶようにバルダー城の各隊に号令を告げると、キューウェル全体を臨戦態勢に移らせた。


 ここでハリーは、(かね)てから考えていた作戦を行う為にモンスター郵便にある伝言を託した。それはミシャラク城を支配するクラン【源氏】に当てたメッセージで、援軍の要請であった。


 横で見ている配下の兵などは、このハリーのこの援軍を呼ぶという行動に疑問を抱いていた。今更手紙などを出してもこの戦争には間に合わないことは明白だからだ。無論それはハリーも知っている。


 だが、ハリーに言わせるとそんなことは問題では無かった。そんなことよりも、この手紙には“ある重要な意味”があった。更にいうと重要なのは手紙の中身ではなく“モンスターが手紙をどこかに運んでゆく行動”にあった。


 これは通常であれば、外部と連絡する方法に見えるのだ。


 つまり、ハリーは『バルダー城から南に向かって手紙を携えたモンスターが飛び立つところ』をミハイルに見せたかったのだ。


 これを見てミハイルはどう思うだろう?


 ハリーは、ミハイルが思い描いている図を想像した。


 ミハイルの頭の中にはもしかするとキューウェルが他のクランと示し合わせてオリジンの軍勢をハサミ討ちにする作戦が展開してるように見るかもしれないし、そうじゃなかったとしても“何らかの合図を外部に送っている”と見せるだけでミハイルはビビって兵を引き上げるかもしれない。これらは多分にハリーの願望の入った予測ではあるが、この実益を兼ねた【ハッタリ作戦】が成功すれば、とりあえずオリジンの軍を引かせる事が出来るかもしれないとハリーは思っていた。


「お?」


 その時、ハリーの目は奇跡を捉えた。オリジンの軍隊が突然行軍をやめたのだ。


 ――やったか?


 ハリーの顔に少しばかりの笑みがこぼれる。だが、すぐに冷静になった。

 ハリーは、もう一度頭を横に振りこれからのオリジンの行動を顎に所々生えている無精ひげを触りながら予想した。


 ――もしも、賢い指揮官なら周囲に伏兵がいないか偵察するかもしれんな。


 もちろんハリーにはそんな示し合わせた行動をする伏兵は存在しない。ここはミハイルの指揮官としての力量次第だった。丹念に一つ一つ調べるような用心深い指揮官ならハリーのハッタリ作戦がバレて、いよいよ戦うしか選択肢がなくなるが、もし安全策を何より優先に考える指揮官なら兵を引くかもしれなかった。だが、何も考えない指揮官ならそのまま突っ込んでくるかもしれず、その行動をハリーは見極めなければならなかった。


 ――どう動く……オリジン。


 ハリーは、塔から身を乗り出しオリジンの軍隊をジッと眺めるが、オリジンは不思議なほど動かなかった。特に斥候を出した気配もない。ただその場にジッとしているのである。


 ハリーは、このオリジンの選択の意図がよく分からなかった。そもそもまるで既にキューウェルに勝ったかのような手紙を送り届けキューウェル側を刺激したということは、戦闘を開始するという合図に他ならなかったハズだ……ハズなのだが……どうも遠くにジッと留まっているオリジンの軍隊からは覇気の様なものが感じられなかった。本当にキューウェルと戦う気があるのだろうか……。


 ハリーは、自分の手の中でクシャクシャになっている。手紙をもう一度広げ、目を通した。


『君には申し訳ないと思っている。君はあのバルダー城を攻撃する為に集められたキサラギ城の宴の席に来てはいけなかったのだ。君が安らかに死ねるよう祈っている』


 どうみても宣戦布告としか思えないような文に見える。だが、ハリーはあることに気付く。全体的にミハイルがハリーに宛てた文はどこか覇気がないのだ。例えばハリーの再びの同盟締結の要請について、完全な断交する意思があるのならばもっと思い切った挑発の文面でも良かったと思うのだ。


 この文面はただただハリーの死を哀れんでいるような文面にハリーは思えた。


 ――何故こんな文面にしたんだ?


 ここでハリーはあることに気付く、この文章はそもそも小クラン連合の一員としてバルダー城の攻撃に加わるべきでは無かった……という文面なのだ。特にその後のことは何も書かれていない。まるでキサラギ城の宴に来たからハリーは死んだのだと言いたげなのだ。


 ハリーは、キサラギ城での宴を思い出した。鷹の団他のクランが守備するバルダー城に対し攻撃を仕掛ける()に小クランのリーダーはキサラギ城に一同に集まり宴が開かれたのだが、酒などを仲良く飲み、お互いの意思を確認し、それで終わった。非常に短い宴だった。2時間程度だろうか? 特徴的だったのが、宴の主催者であるオリジン側は「我々はもてなす側なので」という理由で宴の飲み物や食べ物に一切箸をつけなかったことだ。誰一人として食べたり飲んだりはしなかった。おかげでテーブルに並ぶ豪華な料理と豪華な飲み物をハリ―はたらふく飲んで食べれたわけだが。あの宴にくること自体が間違いだったとはどういうことなのか。


 文面にはバルダー城を占領したらか死ぬとは書いていないのだ、宴に参加したから死ぬと書いてあるのだ。


 ――これには何か意味があるのか?


 ハリーがそう思った直後“それ”はおきた。

 ハリーの腹が突然光りだしたのだ。


 ――なんだ? なんだ?


 周囲のキューウェル兵もそんなハリーを驚愕の目で見つめる。その間にもハリーの腹は少しずつ膨れていくのだ。別に浮き上がるとかそういう現象はおこっていない。ただハリーの腹が発光現象を伴い膨らんでいくのだ。


「なんだ? これはなんだ??」


 ハリーは、堪え切れず情けない声をだす。そして気づく。膨らんでいくのは腹だけではなく、手も足も頭もありとあらゆるところが発光現象を伴い膨らんでいっているのだ。


「ハリー様!! これは何ですか!?」

「ハリー様!! 大丈夫ですか!!」


 ハリーの耳にキューウェル兵の声が聞こえてくるが、ハリーの頭はこの発光現象の原因が何故か分かるような気がした。


『君には申し訳ないと思っている。君はあのバルダー城を攻撃する為に集められたキサラギ城の宴の席に来てはいけなかったのだ。君が安らかに死ねるよう祈っている』


 キサラギ城の宴で何か仕込まれたのだ。ハリーの体内に。恐らく食べ物か飲み物。ハリーは思った。オリジンの人々はもてなす側と言いつつ何も食べたり飲んだりしなかった。アレなのだ。ミハイルはそのことを知っていたのだ。だからこそ、この文面だったのだ。


 ハリーは、濃厚に自分の死を感じ取った。これから何秒後かは分からないが、自分は死ぬのだ。いや……オリジンは最初からあそこに集めた小クラン連合のリーダーを殺すつもりで集めたのだ。


 ――あの時点で俺は死んでいたのか……。


 それがハリーの思考の最後だった。

 ハリーは弾け飛んだ。それと同時にハリーの中にある強烈な光が周囲に突き刺さっていく。強烈な光は半径500mの範囲にいたプレイヤーをその光で残らず溶かした。



 バルダー城はその形をそのまま残し、プレイヤーだけが消えた。










 バルダー城がよく見える何も無い原っぱの上で、ミハイルはオリジンの軍隊と共にバルダー城が光る様を眺めていた。


「……済んだみたいだな……」


 ミハイルは、バルダー城が光ってから数分経った後にバルダー城に向けて自分の指揮するオリジンの軍隊を動かした。そして、バルダー城の跳ね橋の前で止まると、配下の一人を城の内側から跳ね橋をおろさせる為に城壁にハシゴをかけ城内に侵入させた。ほどなくして跳ね橋は内側から開けられ、ミハイルをはじめとするオリジンの軍は、ゆっくりとバルダー城の城内に入って行った。



 そこには誰もいなかった。


 ついさっきまで100人近くの人がごった返していた場所だとは思えないくらいの静けさだった。



 僅かに一人だけ“痕跡”を見つける事ができた。


 ミハイルはその前まで足を進める。

 バルダー城の城壁の内側の壁にベッタリ張りついたのだろう黒く焦げた肉体はまるで影のように城壁に残っていた。


「原爆だな……まるで」


 ミハイルはそう口にした。ミハイルの傍らにはこの人生スキル【強烈な悪魔の光(ニュークリアウェポン)】の所有者であるトルーマンが傍らにいた。強烈な悪魔の光(ニュークリアウェポン)は、建物や草木などのMAPには影響を与えない。プレイヤーのみが対象である。ひとたび人生スキルの起爆スイッチが押されると、宿主の体で一カ月かけて成長した爆弾から強烈な光が照らしだされ、その悪魔の光の力によって半径500m以内にいるプレイヤーを残らず溶かすのだ。


 もちろん影も形も残らない。そういう意味では影だけでも残ったプレイヤーは運が良い方なのかもしれない。ミハイルは影になったプレイヤーに手を合わせ呟いた。


「こんなに気分が悪くなる勝利は初めてだ……」


 そう言い残すと、バルダー城の本城に向かってゆっくり歩き出した。もう誰もいない本城に向かって。


 そこでミハイルはこの策を提言した時のマオの顔を思い出す。どこか猫にも似た顔のマオはこう言ったのだ。


「もしも、小クランの連中がバルダー城側に勝ったとしても、またバルダー城を簡単に獲れるように保険を用意するべきよ。そうでしょ白老様? ミハイルもそう思うわよね? ただライナルとキサラギの安定の為だけに戦うなんてつまらないわ、保険をかけるべきよ。実はつい最近“最強の人生スキル”の持ち主を見つけたの。発動条件は厳しいけど、まかせてほしいわ。ふふふ、上手く行けば一兵も損ねる事なく楽にバルダー城を私達の物にできるわよ」


 ミハイルはバルダー城の本城にある王座に腰かけると溜息交じりに言葉を吐きだした。


「マオはこの威力を知っていたのだ……いや……私も知っていた……だが、これほどとは……白老様が言っていたことはコレだったのか……」


 ミハイルは出立前に白老が言っていた事を思い出す。


『マオの捻りだす策は恐ろしく暗く深く残虐じゃ』


 ミハイルは背筋が凍る思いがした。

 しばらくして頭を横に振った。キューウェル側にしてみたらミハイルも十分悪魔なのだから。



 こうして、バルダー城はオリジンの手に渡った。



 これで早くもオリジンは、ゲームクリアの為の3つの城を所有したことになる。


前回のバルダー城攻撃に加わったハリー以外の小クランのリーダー達は今回の爆発とは無縁のままキサラギエリアで親オリジンクランのリーダーとして普通に暮らしています。

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