第058話 オリジン編 ミハイルの登場
実は割と誤解されやすい設定があります。2章終盤でオリジン率いる小クラン連合が鷹の団他が占領するバルダー城に戦いを仕掛け、これに勝利しました。その後、バルダー城はオリジンが占領したと誤解している人がいるかと思います。バルダー城は最も多く敵を殺した小クラン連合の中の1クラン「キューウェル」が占領している状態となっています。
キサラギ城の王の間と呼ばれる部屋でオリジンの宰相である白老は様々な策を思考していた。白老は自身の白髪の髪をかきあげた。その中の一本の白髪が、ふと視界に映る。
「ふふっ」
白老は静かに笑った。現実世界でも白髪である為に思わず現実に戻ったような気になったのだ。だが当然ながら現実に戻ったわけではない。まだ3ヶ月経っただけである。残り9ヶ月であと1つ城を奪い、占領維持しなければならないのだ。
「なに……もうすぐじゃ」
白老は、近くの衛兵を手招きしキサラギ城内にいる「ある男」を呼んだ。
8月11日現在、クラン「オリジン」は二つの城とエリアを治めていた。ライナルエリアとキサラギエリアである、これらの統治は現在のところ上手く行っていた。少なくとも白老はそう思っていた。上手くいっている要因はいくつかある。まず、エリア内の敵対勢力を一時的にでもほぼ壊滅状態に追い込んだ事によって、自然とエリア内の残ったプレイヤー達がオリジンの統治に賛同するようになったことだ。これは心からの賛同というよりも晒し首の効果が大きかったようである。
『オリジンに逆らうと皆こうなる』
そう思った人々はかなりいたらしく、オリジンに対する敵対行動はかなり沈静化した。
これは白老が予測してたこととはいえ、予測よりもスムーズに運んだ部分かもしれない。とにかくオリジンが城を獲得しているキサラギ・ライナルの両エリア内にはオリジンに敵対する具体的な武力クランという存在がほぼいなくなった。
次に白老が行ったのは見せしめとセットである。 【 法 】 の施行である。
キサラギエリアとライナルエリアには現在、法律がある。統治する為の法律と言ってもよい。まず、オリジンの統治に賛同するクランにはオリジンに友好的な人々という意味の胸につける“親オリジン用バッチ”が配られる。基本的に個人だろうがクランだろうが親オリジンであるなら、ほぼ全員に配られる。そのための審査というものがある。それは一般的にどうやって測られるのかと言うと、オリジンに納める金の量とクランリーダーの思想チェックと過去の行動からだ。オリジンにはその為の専用の部署というものがある。
ではバッジを配られない……つまり親オリジンでは無い個人やクランはどうなるのか? もちろん反オリジンであるという烙印を押され武力の行使対象になり、最悪の場合は殺され晒し首となる。もしもバッジをつけてないクランや人物が親オリジンの人物ともめ事を起こした場合には無条件にオリジンはバッジをつけた方の味方をすることになった。また親オリジン同士でもめ事が合った場合はオリジンのしかるべき部署にて調停を行う事になっている。
この状況は商人達にしてみれば“ある種の秩序の提供”に近かった。商人にとって最も必要な事は(商売内容にもよるが)人が多くいることと、秩序があることである。商人は戦う事を想定していない“弱いプレイヤー達”が多いので基本的には強盗や殺人などのターゲットになりやすい。時には用心棒ですら迫りくる脅威から守りきれない時がある。用心棒といっても自分より強いプレイヤーが敵ならば命惜しさに逃げ出すからである。そういう意味でキャッスルワールドにおける商人の安全保障は常に不安定だったと言ってもよかった。だがこのキサラギ・ライナルエリアではよほどの馬鹿でないかぎりオリジンの作った秩序を脅かす存在というものは現れないのだ。
秩序の安定。これに魅力を感じる商人たちは次々とキサラギエリアとライナルエリアを目指した。
最後に白老はとっておきの制度をつくった。
白老は長らく城の過半数を所有するクランしか現実に戻る事ができないというルールに打ち勝つ方法を考えていた。つまり、それは裏を返せば城の過半数を所有している以外のほぼ全てのクランが『最終的には城の過半数を獲得しているクランの城を全力で奪いに来る』……と読んでいたのである。(もちろん商売人以外)白老は常々、その現象を恐れていた。オリジンがいくら兵多しといえどもそれらの有象無象が手を組めばひとたまりもないと思っていたからである。
そして、白老はついにキャッスルワールドの宿命的なルールを“ある程度無効にする制度”というものを思いついた。
それは『クランメンバーを定期的に入れ替える』という画期的な制度だった。
仕組みはシンプルで、月ごとに決定された人数がオリジンに加入し、その人数分だけオリジンからプレイヤーが放出されるのだ。これはどれだけオリジンに尽くしたかという基準により採点される。一ヶ月で最もその成績の悪かった者から強制的に放出され、オリジンに貢献度が高い親オリジンのクランや個人から新たに加入するような制度にしたのだ。
もちろん、職業「隊長」などによってクラン最大登録数が増えた場合も親オリジンのクランや個人に優先的にオリジンに加入するチャンスが与えられた。
この制度の狙いは何か……最大クランであるオリジンに加入できるかもしれない……という可能性と希望を様々な人々に持たせることで、オリジンに対し友好的に行動することが“得である”とプレイヤーの意識に刷り込ませる為である。
事実、制度布告後オリジン相手に戦って勝とうと思うクランやプレイヤーは大幅に減った。特にオリジンがあと一歩でキャッスルワールドのクリア条件である「城の過半数を獲得する」を満たしそうなクランである為に、この効き目は大きかった。
驚くべき事に、白老はこれらの社会制度をほぼ一人で生みだしたのだ。
コンコン。
白老のいる王の間のドアが鳴る。どうやら「あの男」が到着したようだ。
「お呼びでしょうか先生」
その男の声は正義感に満ち溢れたような、いやに凛々しい声だった。
「うむ。ミハイル入りなさい」
その男――ミハイルは、深々と礼をしながら王の間に入って来た。赤い髪にこげ茶色のガウンを羽織ったミハイルは数秒ほど礼を続けると頭をあげた。白老に対する深い忠誠心を表しているのである。白老もこれに満足し「掛けなさい」といい、自分の目の前の椅子を指さした。
「失礼します」ミハイルのそういう声を聞き、深々と椅子に腰を掛ける様子を見ていた白老は、ミハイルが椅子に座ったと同時に本題に入った。
「例の“マオの作戦”を実行しようとワシは思う……期間的にそろそろじゃろ?」
ミハイルは何度か細かく顎を上下させ「たしかにその通りですね」と言った。
白老は、目の前のミハイルの目を見た。深く清んだような瞳……。この世界で白老がはじめて自分には無い才能を持った者と認めた人物である。ミハイルにはシオンと自分にはない才能があった……戦場の指揮者という才能が。
「ではミハイル。兵200を率いてバルダー城へ向かってくれ……今はえ~何といったかの」
「クランの名前ですか? “キューウェル”ですよ先生」
「ああ、そうじゃった……やることは分かっておるの?」
白老がこういうとややミハイルは不満な顔をし、答えた。
「マオは何故あんな事を思いつく事ができるのか……。それに、今度は何でもシオン様以外のキャッスルワールドに存在する指導者を皆殺しにするという提案をしたとか……あの女……私は好きになれません。」
「いくさに対し高潔であるからなミハイルは……逆にマオは卑しいと思えるくらい手段を問わない、じゃがゆえにマオの捻りだす策は恐ろしく暗く深く残虐で奇想天外じゃ。トルーマンの人生スキルを発見した時のあのマオの弾けるような笑顔は陽気であればあるほどその分恐いの……、じゃがミハイルとマオはワシの可愛い弟子じゃ。これからは2人でオリジンを背負う覚悟を持ちなさい。ミハイルは戦でマオは策でオリジンに貢献するんじゃ」
「はっ、承知いたしました。では兵200を率いトルーマンと共にバルダー城へ向かいます」
白老は「うむ」と短く返事をすると、ミハイルはその3秒後には礼を済ませ王の間から退室していた。既に白老はミハイルが率いやすいように外に兵200を準備させている。
白老は王の間から窓の外を見た。
兵士200が綺麗に整列している。その整列している様からミハイルがオリジンの兵士達に非常に敬意を持たれている事が分かる。
実は白老とシオンがバルダー城に攻め込んでいる間、最も重要なキサラギ城の防衛の任務を果たしたのがミハイルだった。ミハイルは、元は傭兵クランを率いていた人物だったのだが、白老がわざわざ出向き説得しオリジンに招き入れたのだ。
「個の強さでは誰もシオンに勝つ事はできん。それと同時に軍隊を率いさせたなら誰もミハイルに勝つことなどできんのだ」
白老は、自分は幸運だと思った。
軍隊を扱う天才であるミハイルと謀略を扱う天才であるマオを同時に手に入れる事ができたのだから。
「さぁ二つのエリアもようやく安定してきたとこじゃし、三つ目の城を手に入れるか……バルダー城を……」
オリジンが再び動き出した。




