第057話 モトヤの計画
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模擬戦を終えたモトヤ達一行は、その日はそのまま帰路についた。
モトヤやアリスはベネディクト街にあるM&Jのコテージに戻ってきた。アリスは、全員がコテージに帰って来たのを確認すると踊る声で喋り始めた。
「アンタもやれば出来るじゃないの」
これにモトヤがやや枯れた声で答えた。
「ああ、そうだな……。これからリーダー室に入るから誰も近づけさせないでくれ」
コテージの中には、ある狭い一室があった。モトヤはそこを「リーダー室」と名付け、モトヤ専用の部屋にしていた。じっくり一人で考えたい時にここを使うのだ。
「ごゆっくり」
アリスの声を背に受けモトヤはリーダー室へと入った。すぐに扉を閉めた。気づかれたくなかったのだ。モトヤは息切れし、尋常じゃない量の汗を垂れ流していた。緊張が切れた瞬間にモトヤの中のあらゆる体の機能が一斉に狂いはじめたのだ。モトヤはドアにもたれかかったまま、ずり落ちるように尻もちをついた。
――危なかった……。
モトヤは、無意識のうちに下唇を噛んだ。人々から見た模擬戦はどの試合もモトヤの圧勝に見えた。だが、モトヤはそう思っていなかった。手持ちの策の中のどれかが当たってくれた。ただ、それだけだった。紙一重だった。モトヤはそう思っていた。ここで万が一にも敗れれば全ての計画が狂う。それだけは絶対に避けたかった。モトヤは深呼吸をするとゆっくり頷き、口を開いた。
「なにはともあれ、とりあえず計画の第一段階は成功だな。日本陸軍とミロクスターを取り込んだ」
モトヤは、ゆっくりとした動きでアイテム欄から何重にも重なった紙をとりだし、床に並べていった。あぐらをかき、その中の一枚を手に取り眺めた。紙にはモトヤの因縁とも呼べるクランの名が書かれていた。
――やがてはこのクランを潰す……。俺の創りあげた軍隊で……。
紙にはクラン「オリジン」にまつわる情報がビッシリと書き込まれていた。この紙だけでは無い、モトヤの持つ資料の半分はオリジンの情報で埋まっていた。ジュンを殺したクラン……。モトヤの中のオリジンはそういう認識だった。
モトヤの目的は2つあった。1つはM&J……『モトヤとジュン』の旗の下にジュンの魂と共に現実に帰還する事。もう1つは、クラン「オリジン」をキャッスルワールドから葬り去る事だった。オリジンを必ず潰す。モトヤはそう誓ったのだ。その為にも強力な軍隊が必要だった。
――白老……シオン……。この糞共を葬りさるためにはもっともっと強力な軍隊を手に入れなければならない……。いやこいつらだけではない。
モトヤは持っていた紙を床におき、その紙に重ねるように別の紙を置く。
オリジンが統括する小クラン連合がジュンの居るバルダー城を攻めた時とほぼ同時に行われた戦争があった。オリジンがバルダー城に出払った隙を見計らい、オリジンの敵対勢力がキサラギ城とライナル城に一気に攻めよせたのだ。この時、この敵対勢力を見事に撃退したオリジンの将軍がいた。紙を見るモトヤの目に力が入る。
――オリジンの新たな才能……ミハイル……。
記録にある3度の戦いで指揮官として全軍を統括し、いずれも大勝するという離れ業をやってのけたプレイヤーだ。その戦闘方法は変幻自在、神出鬼没。戦闘の記録をする情報屋も、しばしばこの男の作戦に騙された。
――軍隊を率いる才能……。戦略的に最も重要な戦いを一手に任せられた所を見ても、軍隊を指揮するという点においてオリジンの中で最も信頼されているプレイヤーなのかもしれない。
紙には別の名も書いてあった。
――マオ……。
この女の具体的な戦歴は何一つ分からない。だがオリジンを調べるうちにミハイルと同じ頻度で名前が出てくる事が多かった謎の女……。恐ろしく賢いという情報もあった。
――恐らく、内政方面で活躍しているプレイヤーなのかもしれない。
モトヤにはその程度の想像しかできなかった。ただ分かっている事はオリジン内においては、ミハイルよりもむしろマオの方が確固とした地位を築きつつあるということであった。
――全てのクラン運営を担っているのは白老。シオンはお飾りのトップに過ぎない。ほとんどの命令が白老から出ている。だがマオだけは、白老に従いつつも独立色の強い派閥を形成しつつある……。
モトヤはマオ関連の情報をかき集めてくれたでん助を疑っているわけではないが、マオの派閥が独立色を強める意味をはかりかねていた。
――オリジンの中には白老を支持する勢力と、そうじゃない勢力がいるのかもしれない……。となるとこのマオという女はオリジンを切り崩す為に重要な人物になってくるかもしれないぞ……。だが、いずれにしれも今のままではオリジンと戦って勝つなど夢のまた夢……。
モトヤは、まずこのミシャラクエリアにM&Jの強力な地盤を築きあげなければならないと思っていた。オリジンに対抗できるエリアを作りあげる。それがオリジンに対抗する為の最初の準備だった。その為には莫大な資金と難攻不落の城「ミシャラク城」を手に入れることが必要だった。
モトヤは、まず莫大な資金を得る方法として人口の沢山いる街をまるごと支配するのが最も良い方法だと考えた。そして条件に該当する街を見つけた。
――港町マハーバリ。
マハーバリは、イズマ湖に面するミシャラクエリアの港町だ。交通の要所としてイズマ湖の流通が発達した時期から人々が多く暮らすようになり、ミシャラクエリアでは一番の人口を誇る街となった。ここを手に入れ、莫大な資金を獲得し、ミシャラク城を攻略する為の足がかりとする。それがモトヤの計画だった。
足がかりといっても、ボヤけた目標ではなく確固とした理由でモトヤはマハーバリを欲した。モトヤはアイテム欄から手紙を取り出した。既に穴があくほどこの手紙を熟読していた。
これはミシャラク城を占領するクラン「源氏」に所属するリーダー義家からの手紙であった。この手紙にはM&Jに対して食糧支援を求める内容が綴られていた。これと同じ内容の手紙が既に他のクランでも確認されていた。手紙は相手を選ばず無差別的かつダメ元で配られた感すらあった。
モトヤは、手紙食糧支援を訴えるこの手紙こそがミシャラク城奪取の為の最重要アイテムだと認識していた。M&Jは大規模な食糧支援を行える……、パートナーになれるクラン……、そう義家に思い込ませる事がモトヤの考えた作戦には必要不可欠だった。モトヤはドアにもたれかかったままの自分の体を起こし、手紙の中身をジッと眺めた。じっとり油に濡れた手が、手紙に僅かな湿り気をもたらす。全く迷いは無い……と言えば嘘になるだろう。モトヤは、この世界に来てから命を狙われる事があっても自分から狙ったことなどなかった。ましてや大勢の人間を死に追いやるという経験をしたことなど一度もなかった。
=振りかかった火の粉は払う=
恐らくこれがモトヤの基本スタンスだった……。ジュンが死ぬまでは……。だが2つの目的を果たす為には変わらなければいけなかった。甲南高校に通う和泉智也ではダメなのだ。キャッスルワールドを震撼させる男「モトヤ」にならなければ……。
――卑怯者の作戦。人道に外れた作戦。
ミシャラク城を奪取する為にモトヤが考えた作戦はそれに近いものがあった。その作戦を考えついた自分の魂が穢れていると思わなくはない。
だが、『鬼になる』そう決めたのだ。
自分もオリジンのような悪魔みたいな奴等になるかもしれない。だが例え悪魔になっても、鬼になってもジュンの魂を現実に連れ帰るのだ。
モトヤは大きく目を見開いた。
「待っていろよオリジン……すぐにミシャラクエリアをM&Jのモノにしてお前たちを狩りに行くぞ。待ってろよ、待ってろよ」
モトヤは拳を強く握った。決意なんていう陳腐な言葉は必要ない。やるのだ。実行するしか道はないのだ。
流れ出る汗の量はモトヤの覚悟に比例して尚も大量に流れ出ていた。




