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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第056話 模擬戦(5)



 阿南とモトヤは向かい合って『ナギ』盆地の中央にある何も無い草原の上に立っていた。もちろん二人の後ろにはそれぞれBチームとAチームが控えている。


「モトヤ殿、もう一度ルールの確認をするか?」

「いや大丈夫だ」


 そういうとお互いが後ろを向き指定の位置まで戻る。この草原に阿南は石灰で線をつけた。それ以上下がってはいけないという線だ。それと共に周り込み禁止という理由で側面にも線が引かれた。この線を踏み越えれば、その時点で負けというルールだ。


 縦幅50m・横幅15mほどのバスケコートを一回りほど広くした戦場は、戦場と言うにはあまりにも狭かった。この戦場に比べたらサッカーコートの方がよほど広く感じるだろう。


 この戦場の狭さに流石のアリスもビックリしたようだった。


「阿南は何を考えてるの? こんなもの逆に戦場とは呼べないわよ」


 このバスケコートほどの戦場を見て、おおよそアリスと違う感想を持つ者は少なかったのではないだろうか? それほどこの戦場は狭かった。


 阿南は自軍に帰って行ったモトヤを眺める。モトヤは何やらAチームの連中に指示を送っているみたいだった。阿南は話している内容が気になり聞き耳をたてようとするが、その時にちょうど頭にそり込みを入れた特攻服の男「畑中」が阿南に近づいてきた。畑中は阿南の前に来るなり、やや不満顔で口を開いた。


「阿南さん……これって露骨すぎやしないですか?」


 畑中の表情からは“こんな戦い方で勝っても嬉しくない”という感情が溢れ出ていた。阿南はそんな畑中を諭すように話し始めた。


「畑中、まず優先されるべきは何である?」

「無論、勝利であります」

「うむ。そういうことだ」

「しかし、それでは…………いえ、なんでもありません」


 畑中はそう言うと、Bチームの隊列に戻っていった。阿南は隊列に戻る畑中の背中を見つめながら、その想いを噛みしめた。畑中は恐らくこう言いたかったのだろう。


『しかし、それでは先ほどのモトヤと同じではありませんか!』


 阿南も自分が卑怯と思わなくはない。しかし、そうであったとしても見極める必要があるのだ。ここでキンタマが縮みあがり前線で指揮をできないような人物がリーダーになることだけは絶対にあってはならないのだ。それぐらいならば自分がリーダーになる。阿南はそう思っていた。

 阿南が見たところフィオナにはそういった「勇気」はあるように感じた。だが、発言や行動を見ても「知性」があるようにはとても思えなかった。そして、モトヤからは逆の印象を抱いていた。知性は十分にあるのだが……勇気がない。阿南は自分を分析した時に、自分はそのどちらも備えていると感じていた。勇気があり知性もある。その阿南が最後に測ろうとしたのはモトヤの「勇気」だった。観客席で見ていた第二戦目の戦いを阿南は思い返す。もしも、自分がこの地形を徹底的に調べたとして、果たしてあのような作戦を思いついたのだろうか? それは分からなかったが、少なくともあんな一方的な展開になることは無かっただろうことは簡単に予想がついた。そのぐらいモトヤの知性は凄まじいのだ。これに勇気があるかどうか……それだけが問題だった。


「あのぅ……そろそろ第三戦目よろしいですか?」


 僧侶ナナの声で阿南は思考を中断する。


「吾輩はいいぞ」

「俺もOKだ」


 阿南とモトヤの発した声が勝負を裁定する僧侶ナナの耳に届いたらしく、ナナはしきりにコクンコクンと頷いた。僧侶ナナが居る場所は、アソト山ではない。バスケットコートほどの極めて狭い範囲の中で第三戦目が行われるので、観客席はアソト山ではなく、この狭い戦場から20mほどしか離れてない草むらが観客席となった。そこにナナをはじめとする、アリスやでん助やフィオナがいた。


 阿南は、Bチームのやや後方の戦場全体を見渡せる位置にいた。前衛には前衛部隊の隊長の畑中が自慢の赤い刀を光らせ、今か今かと戦闘開始の合図を待っていた。阿南は向かい合うモトヤのAチームを見た。すると、そこには理解不能な光景が広がっていた。全員何も持っていないのだ。剣も弓も盾も持っていない。これで何をするというのか……。


 阿南は、モトヤが何を考えているのか訳が分からなかった。

 ただ分かったのはAチームの連中がちょうど横幅15mの白線の内側を埋め尽くすように、綺麗に23人がBチームに向かって横に並んでいる事だった。そして不思議な事に並んだ23人の1人1人の間隔が恐ろしく狭いのだ。まるでこれからAチームの全員で組体操でもするのかと思えるほどに肩と肩が触れ合うくらいの距離に23人は密集していた。


 阿南は更に奥を見る。すると、この23人の後ろにはまた23人が前列に貼りつくようにピッタリ構えており、何と言えばいいのか……気持ち悪いくらいに「一塊の集団」になっていた。この様に思わず阿南は呟いた。


「あれで何ができるのだ。逆に身動きがとれんだろ」


 次に阿南は自軍を眺める。

 Bチームの前衛部隊は、お互いを攻撃しないために、それなりの()()()を設けていた。おかげでこのバスケコートほど広さに前衛部隊がおさまらないぐらいになっているのだが、阿南はこのくらいの広さを持った方が伸び伸びと戦えるという持論を持っていた。事実このゲームは自軍同士でも同士討ち(いわゆるフレンドリーファイア)が可能なゲームなのだ。となると剣や斧を振りまわす輩が多い以上こういう配置にせざるを得ないのだ。


 そう考えていると、前で戦闘準備をしていた畑中が後ろの阿南に顔を向けた。


「阿南さん、敵は武器を持ってない。突っ込んでいいですか!?」


 阿南も同じ事を思っていたのだが、少し思いとどまる。何やら罠の臭いがするのだ。


「待て畑中、どうも何かおかしい。この状態で武器を装備しないのは直前に装備して我々をハメる策の臭いがする」


 畑中は、顔を曇らせ「了解しました」といい再び前を向いた。

 阿南はどちらにせよ自信がある。人生スキル【攻撃的精神(どんどんいけ)】があるのだ。どう転んだとしても正面戦闘であれば簡単に負けやしない。


 その時、僧侶ナナの声が阿南の耳に届いてきた。


「用意!!」


 Bチーム全員に力が入る。そしてついに戦闘開始の合図が告げられた。


「はじめ!!」



 そう僧侶ナナが叫び終った直後にモトヤは大声でAチームに号令した。


「装備!! 構え!!」


 すると前列23人と後列23人が全く同じ長さの槍をアイテム欄から出し、構えてきた。後列の部隊も前列の部隊が槍を出している所に重ね合わせるように槍を前に構え、後ろの部隊も攻撃に参加できるようになっていた。


 しかし、その槍が……長い。4m以上……いや5mはあるのではないだろうか? そのような槍が阿南率いるBチームに向かってアリの這い出る隙間も無く並んでいるのである。


「15歩前へ!! 右足から!!」


 モトヤの声が戦場に鳴り響く。

 するとAチームの前列23人後列23人がピッタリ呼吸を合わせたようにBチームに向かってゆっくり歩いて来た。


 巨大な剣山がこちらを向き、迫ってくるような……そんな感じがした。


 阿南は思った。あれに正面戦闘を挑んでも大丈夫なのか? と。槍であれだけカッチリした隊を組む以上、横からの攻撃には全く対処不可能であるハズだ……。とも思ったが……正面戦闘を提案したのは阿南であり、更にいえば白線を引いて戦場を小さく絞り、正面戦闘以外はさせない戦場を作ったのも阿南なのだ。となると最早これに正面戦闘を挑むほかなかった。阿南は意を決し叫んだ。


「かかれええええええ!!!」


 この阿南の号令と共にBチームの前衛はハリネズミの様なAチームに向かって走ってゆく。そして阿南はすぐさま人生スキル【攻撃的精神(どんどんいけ)】を叫んだ。連続するように叫んだ。するとBチームの全体がうっすらと光り、どんどん攻撃力が上昇していく。阿南の当初の予定ではこれでAチームを圧倒できるハズだった。


 両チームが激突した。


「ぐあああああああ」

「やべええええ」

「なんだこりゃああ」


 相手にならないと言った方がいいのだろうか……、Bチームの誰もがAチームのハリネズミに全く歯が立たなかった。


 まず、Aチームの兵士に攻撃する為には長い槍を()わさなければならないのだが、前列23人の長い槍を()わした所に待っていたのは後列23人の槍だった。先ほども説明したが、後列の部隊も前列の部隊が槍を出している所に重ね合わせるように槍を構えている。これは、前列の長い槍が()わされることを予め想定して、後列にも槍を構えさせ、前列の槍を()わし侵入してきた敵を倒せるような布陣になっているのだ。


 この2段構えの布陣に阿南のBチームは何の備えもなく飛び込んだのだ。

 Bチームの断末魔とおぼしき声が狭い戦場に響き渡る。


「ちゅくしょおおお」

「くそったれえええ」


 Bチームの前衛の頭の上に×印がどんどんと表示されてゆく。


 この事態に畑中は何か指示をくれと言わんばかりに後ろの阿南に向かって振り向いたのだが、阿南はこの状況に思考が麻痺しつつあった。


「なんでこうなる?」


 阿南は昔見たアレキサンダー大王などが出てくる映画などを思い出していた。確かこんな風に槍を構えているような奴等がいたような……。


 阿南の耳に不意に畑中の声が聞こえてくる。


「阿南さん!!」



 阿南は前を見た。畑中の頭の上には×印があった。

 前線が崩壊する。そう思い、阿南はBチームの全軍に号令した。


「全軍引け!!」


 だがBチームの面々はこの阿南の指示に戸惑いを隠せない。退却すべき後ろなど数十m程度しかないのだ。退却もクソもないだろう。


 その時、僧侶ナナのやわらかな声がバスケットコートほどの広さの戦場に響いた。


「それまでですぅ!! やめ! 終わり! Aチームの勝ちです」



 戦闘開始から5分も経っていなかった。

 モトヤ率いるAチームの圧勝だった。



 この結果に、阿南はその場に腰が抜けたように座り込み呆気にとられていた。自分が最も得意とする正面戦闘をモトヤをハメる形で仕掛けたつもりが、ボロボロに負けているのだ。これ以上の恥辱は無い。そんな阿南の気も知らずモトヤはニコニコした顔で阿南の方に歩いてきて声をかけてくる。


「やあ、阿南さん。俺の圧勝だったな」


 阿南はジロリとモトヤを見た。なんとも満足げな顔をモトヤは浮かべていた。勇気を試すつもりが逆に試されてしまった。阿南はそんな気がした。


「モトヤ殿……分かっていたのか? 戦場がこんなに狭くなる事を……。あらかじめそういう対策をたてたとしか思えないような……そんな剣山みたいな……ハリネズミみたいな……そんな槍の群れだった……」


 モトヤはこの阿南の質問には答えずに、自分のとった陣形の話をしはじめた。


「これはファランクスという陣形で、日本じゃ槍衾なんて呼ばれ方がされてるモノなんだってさ。まぁ上手く再現できたかは分かんないけどね」


 阿南はそれでも辛抱強くモトヤの答えを待った。自分の思考は読まれていたのか、それとも気がつかないうちに誘導されていのか……それが気になったからだ。モトヤはこの阿南の表情を見て笑った。


「狭い土地で待ち伏せる正面戦闘の準備はあらかじめしてきたんだ。だたそれだけだよ。さっきも言っただろ……この日の為に備えたんだ。武具を揃える金も含めてね。たまたまそのうちの一つが当たっただけさ」


 阿南の心は最早認めざるを得なかった。

 差……圧倒的な差を。今回の戦いでモトヤの「勇気」を測れたかというと…かなり疑問符がつかざるを得ない。だが、それを補って余りある圧倒的な知性……。この男の計画について行く事こそが最も自分達が生き残る確率が高い道に違いない……。これを認識したとき、阿南の決意は固まった。


「うむ……。吾輩はリーダー候補から降りることにする」


 阿南のこの発言にBチームの……とりわけクラン「日本陸軍」に所属する人々がザワついた。するとその中の一人畑中が阿南に駆け寄って来た。


「阿南さん!!」

「言うな畑中!! 吾輩はもう決めたのだ。我等のリーダーはモトヤ殿を置いて他にない!! 日本陸軍は皆投票ではモトヤ殿にいれてほしい……それが吾輩の意思だ……」


 何故か力強い口調で言う阿南に対しそれでも畑中は食い下がった。


「しかし!!」

「いいか畑中。先ほどの戦いが“もしも実戦”なら吾輩はお前たちを皆殺しにしていたのだぞ……。吾輩達の最大の願いはなんだ? 現実に帰ることだ。吾輩はモトヤ殿ならば……この才ならば……その願いを達成できるのではないかと感じたのだ!!」


 阿南の目は希望に満ちていた。阿南とて傭兵クランを率いてはいるが、正直に言えばどうやって現実に帰ればいいのか困っていたのだ。そこに舞い込んだクラン同士の合併の話……そして常軌を逸するほどのモトヤの戦術的才能。阿南はキャッスルワールドに来てから初めて希望を感じた。


「あーホント取り込み中で悪いんだけどさ……、アタイもリーダー候補から降りるわ」


 そこには自慢の青い髪をいじくりまわしているフィオナがいた。


「よくよく考えると、リーダーってやることが多いし面倒なんだよね。このクソガキの小賢しい作戦で楽に勝てるならそれが一番いいかなってさ。あとクラン運営とかやってくれんだろ? アタイはアレが地味に面倒だったんだよね。もー全員分の食費とか知らねーよって感じでさ。だから……クソガキ……お前がやりなよ、リーダー」


 このリーダー候補の3人のうち2人が降りるという展開に観客席から笑い声が聞こえてきた。


「ひひひ、はははははは」


 それは一人優雅に折り畳み椅子に座っていたでん助の笑い声だった。


「おめでとうモトヤさん……誰もリーダー候補がいないのならば、もうあなたがリーダーなのでしょう? おめでとう」




 モトヤは、とりあえずでん助からの祝福を受けると苦笑いし、手に持っていた本を閉じた。この本にはモトヤの書いた字で『ナギ』で行われる戦闘シュミレーションが100以上想定されており、その為に必要な武具一覧と戦術表が書いてあった。今回の戦いではその中のほんの2例を使ったに過ぎなかった。


 モトヤが使った「戦術」というものは、恐らくこの「キャッスルワールド」の1年ほどの歴史において、最も早く使われたものかもしれない。それほどまでに、この世界ではまだまだゲームの延長上としてキャッスルワールドを見ている人々が数多いた。


 プレイヤーが代わる代わる攻撃をする「スイッチ」を主体とした戦法。

 回復魔法と組み合わせての盾役、攻撃役などを分ける戦法。


 戦闘を小規模なモノとして捉えた場合、確かにこれらは有効な戦術かもしれなかったが……大規模になってくると、より現実に近い戦術が形成されるようになったのは当然の流れなのかもしれない。






 盆地である『ナギ』の地にモトヤの声が響いた。


「では、あらためて自己紹介をさせてもらう。俺が君達のリーダーのモトヤだ」




 2060年8月10日。 この日、少年はついに自分の軍隊を手に入れた。



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