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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅰ章 キャッスルワールドへようこそ
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第004話 キャッスルワールドへようこそ(4)




『ではゲームスタート』



 そう真壁が告げると、甲高いボクシングのゴングのような音が鳴る。


 モトヤは恐る恐るあたりを見回した。それは他のプレイヤーも同様で、周囲をジロジロと観察しているようだった。不思議なことに、皆動かず、ピリピリした空気の中、ロビーは奇妙に静まり返っていた。モトヤの心臓が早鐘を打つように鳴っている。皆、誰かがおこすファーストアクションが気になっているようだった。


 沈黙は想像をかきたてる。それも嫌な方に……

 だって、さきほどの説明によれば、このゲームは人を殺せば殺すほど有利になるゲームなのだから……



 すると、ロビーの出入り口付近に立っていた一人の男が殺伐としたロビーに別れを告げるように、突如ロビーの外に向かって走りだした。



 モトヤはその男の動きを目で追う。

 だが、それと同時に気付いく。

 モトヤの右斜め前方の女性が自分からソロリソロリと距離をとりはじめていた。まるで警戒心で毛を逆立てている猫のように。

 次の瞬間、その女性と目が合う。

 何とも言えない奇妙な間のあとに、その女性はポケットに手を伸ばした。



 ――武器か?



 モトヤは叫び声をあげそうな口をおさえ、一歩、また一歩と後ろへ下がった。

 だが、女性から距離をとろうと後ずさりしたせいで、また別の男に近づいてしまう。


「うわぁあああ! 君はなんだ! 僕を攻撃するつもりなのか!?」と男は悲鳴に似た声をあげた。



 ――え!?



 自分の行動がそう解釈されると思っていなかったモトヤは、精一杯手と首を横に振りながら敵意が無い事をアピールする。


「違う! 誤解だ!! 俺はあなたを攻撃するつもりなんてない!」

「誤解って、何が誤解なんだ? 現に近づいてきたじゃないか! 僕と戦おうっていうのか?」


 誤解ほど怖いものはない。


 ――まずい! まずいぞ! 何とかしてこの男の誤解を解かないと。


 真壁がゲームスタートと言ってからまだ5分ほどしか経過してないが既にロビー付近にはただならぬ気配が充満していた。



 その時である。ロビーに突然の断末魔が鳴り響いた。



「ぎゃああああああああ」


 それはちょうどモトヤとは反対方向のロビーの東側付近から聞こえてきた声だった。

 ロビーに居たほぼ全員が声のする方に一斉に顔を向ける。すると、まるで連鎖反応でも起こったように悲鳴が数珠つなぎに聞こえてきた。

 モトヤも急いでそちらに顔を向ける。すると、その視線の先には――“包丁を手にして立っている女”と“倒れている男”が見えた。


 あれは殺されたのか? たぶんそうだ。もう最初の死者が出たのか? こんなに早く?


 モトヤの心臓の鼓動はもはや破裂しそうなぐらいに早く鳴っていた。



 やばい、やばい、やばいぞ。ここから速く逃げないと!



「おい!」とモトヤは傍らにいるジュンに声をかける。「いくぞ! ジュン!」


「あ?」


「あ? じゃねーよ! いくぞ! ここから逃げるんだ、早くしねーと――」と言いかけた時に大きな声が耳に入り込んできた。




「すいませーーーん!! 皆さんちょっといいですか?」




 ロビーに居た人々は一斉にその大声を発した人物を凝視する。

 その人物は初期キャラにしてはかなり濃い感じのキャラメイクをされた上から下まで青一色の男だった。



「すいません、提案があります。ここにいる人達で組みませんか?」



 そのまま青い男は喋り続ける。



「見た感じ、皆さん疑心暗鬼になっていますよね? 僕もそうです。でもここでバラバラになると“城”とやらを攻略するにも守るにも大変不利です。そうなると僕等は皆死にます。そうなるのを回避する為に皆さんで組みませんか?」



 このロビーには現在150人ほどの人々がいた。

 即興で考えたにしては至極まっとうな提案に聞こえる。


 ただ気になる事が一つ……。

 彼のネームが「ホラフキン」なのである。基本的にこのゲームは他人名ネームとHP残量とレベルの表示だけは見えるようになっていた。


 恐らく彼はいい人なのかもしれないが、あのネームが気になってしょうがない、何か嘘があるんじゃないか……なんて気にもなってくる。


 彼の話を聞いてる人も、そこが若干気になるみたいだ。


「ジュン……どう思う?」


「いいんじゃないの? どっちでも」


 このジュンの気のない返事にモトヤは苛立つ。

 当のジュンはというと相変わらずふわっとした顔つきをしたままで、左手で空中をいじくっている。恐らく何かを調べているのかもしれないが、むしろその精神的な逞しさに羨ましさすら感じた。


「ジュンは恐くねーのかよ」

「何が」

「いや、この状況がだよ」

「……もちろん恐いさ。さっきまで最高にビビってた……。こんなにビビったのはいつ以来かな? 中学の時の剣道の全国決勝で2対2で大将の俺の勝敗で優勝か準優勝か決まっちゃう時以来の心臓のドキドキだよ」

「……じゃあなんで?」

「いや……説明聞きながら思ったんだよ。一応、一年間の猶予はあるんだなって」


 モトヤは心底思う、あの説明を聞きながらそんな事を思えるのはジュンくらいなのではないかと。そしてとぼけた声を出しながらジュンがモトヤに聞いた。


「そういえば、あの青いヤツの誘いだっけ? モトヤはどうした方がいいと思うんだ?」


 そう改めて言われると、どうする方がいいんだろうと思えてきた。今の状態で二人がフラフラするよりは、一度固まった方がいい気がしないでもない。

 モトヤはバラバラでいることのメリットとデメリットと固まった時のメリットとデメリットを考えた。


 もしも、この二人しかいない状態なら、大人数に囲まれたらもうアウトだろうな……メリットは……自由に行動できるって感じか……。

 モトヤは思った。これがもしも死の危険ない普通のファンタジーRPGなのであれば迷わず二人で冒険に出かけるだろうと、だがこれは死の危険のつきまとうゲームなのだ……危険は冒せない。となると選択肢は一つしかないように思えた。


「よし、こいつの話に乗ってみようぜジュン。とりあえず2人だけで居るよりはいいかもしれん、敵もこんだけの集団が相手なら尻込みするだろ」


「よっし、モトヤがそういうなら、そうしようか!」



 こうして「モトヤ」と「ジュン」は「ホラフキン」を名乗る男の誘いに応じた。




「では皆さん私が今【 竜虎旅団 】というクランを作成しましたので、手元のオプションからクラン加入申請をしてください」



 モトヤ達はホラフキンの指示通りに竜虎旅団にクラン加入申請を出し、ホラフキンはそれを次々と受理していった。だがこのような作業を横目にロビーを去る人も多かった。

 結果的に半分くらいの人達がここを去り、もう半分は彼の仲間になった。



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