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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第055話 模擬戦(4)



 ずんぐりむっくりした体に旧日本陸軍の軍服を着用している阿南は、観客席であるアソト山の中腹でモトヤを待っていた。その顔つきは険しく、ピリピリした空気をまとっていた。既に帰ってきているAチームの面々は阿南の放つ負のオーラを不思議に思ってか遠巻きに様子を窺っているようだった。


「お!!」


 阿南は大きな声を出し、ある一点を眺めた。観客席にいた皆もその声につられるように阿南の視線の先に集中する。そこにはアリスやでん助と談笑しながらBチームと共にアソト山の観客席にようやく到着したモトヤがいた。


 阿南はモトヤを発見するやいなや『ナギ』全体に響き渡るのではないかと思うくらいの声の大きさでモトヤに怒鳴りつけた。


「これはどういうことだ! モトヤ殿!!」


 この場にいるモトヤと阿南以外の全員がなぜ阿南が怒っているか分からないようだった。当のモトヤと言えばダンマリしたまま何も答えない。阿南はモトヤを睨んだまま、再度モトヤを怒鳴りつけた。


「モトヤ殿! 吾輩達を騙したな!?」


 この“騙した”というフレーズに引きずられるように、この場にいる全員がモトヤの方をみた。モトヤはとぼけた声で一言洩らした。


「騙す?」


 このモトヤの態度に阿南は更に激高した。


「騙したであろう? この『ナギ』の戦場を模擬戦の場所に指定したのはモトヤ殿だ!! そして西側の渓谷の右の山に架っていた吊り橋! あんな物も恐らく最初はなかったのだろう。だがこの模擬戦に勝つ為にモトヤ殿がワザワザつけたものと吾輩はみた。ならばここはモトヤ殿が“己が勝つ為に作りあげたフィールド”ではないか! こんな場所で戦うなどフェアでも何でもない!! 吾輩達はここに着いた瞬間からモトヤ殿が練り上げた壮大な策略にハマっていたわけだからな」


 モトヤは一つ溜息をつき、逆に阿南に対し厳しい言葉を放つ。


「阿南さん冗談だろ? 『ナギ』を戦場に指定したのは昨日、今日決めたわけじゃなく5日前には決まっていた話じゃないか。ならば、この5日を使い普通は戦場の下見をしないか? 使えそうな地形はないか、どこのあたりにモンスターが生息してるか、一つ一つつぶさに見て策を捻りだすのが普通じゃないか? 少なくとも俺はそういった下準備が必要だと感じたし、それを実行した。阿南さんはただそれを怠っただけじゃないか」


 阿南は「ふざけるな!」と言いかけた。当然だろう、ハメられたという気持ちが中々その理屈を納得させないのだ。それに戦場が全て把握されているならこのまま戦っても勝ち目など無い、阿南はそう思った。それを感じとったのかモトヤが声をかけた。


「じゃあ、どうすれば阿南さんは納得する?」


 ここで阿南がはじめて口をニヤリとさせながらモトヤに顔を近づけた。


「吾輩は正面戦闘を望む。吾輩に言わせれば、最後には必ずこの形になる。少なくとも吾輩はキャッスルワールドにてそういうことが多かった。吾輩はここで脆くも崩れ去るような指揮官は不要であると考える」


 阿南は傭兵クラン「日本陸軍」を率い今日まで戦ってきた。この言葉は彼の奥底からでる経験をもとにした言葉なのだろう。この言葉に意外にもクラン「ミロクスター」の面々も深く頷いていた。阿南のモトヤにはない戦闘経験からしぼりだした言葉が両クランメンバーの心に深く響いたのかもしれない。


 確かにキャッスルワールドはPKプレイヤーキルの禁止区間というモノが存在しない。誰でもいつでも好きな時に殺し殺される世界なのだ。つまり何時何処で戦闘になるかというのは誰にも分からないのだ。その時でも咄嗟に周りにいる兵士を統率し危機から救うのが指揮官の役目である、そう考える人々は多かった。事実、阿南もフィオナもそういう修羅場を何度もくぐってきた猛者なのだ。


 阿南の目が強い光を帯びてモトヤに訴えかける。


 “どうだ小僧。お前にはそういう戦闘はできないだろ?”


 モトヤは、軽く天を仰いだ。


 この様子を見た阿南は、満足そうにほくそ笑む。

 阿南もまた事前に調べたことがあった。それはモトヤの戦闘能力だ。レベル3の魔物使い。職業といいレベルといい、とても自ら活路を切り開くような戦いが出来そうな能力の持ち主ではないだろうという見立てがまずあった。客観的に考えてモトヤの戦闘能力はこの集まった軍隊の中でもかなり下の方だろう。となると、乱戦や正面戦闘というのはかなり苦手な戦い方なのではないのだろうか? 阿南はそう予想していた。

 Aチーム、Bチームの面々もまた同じことを思っていた。モトヤは小賢しい……だが、活路を切り開くような戦いはできないだろうと……。誰もがモトヤはこの勝負を断ると思っていた……のだが、予想に反しモトヤの力のこもった声が阿南の耳に届いた。


「いいだろう。正面戦闘がお望みなら、受けてたとう。ただし――条件がある」


 モトヤの条件と言う言葉に阿南は多少顔を曇らせた……だが、少し考える。条件をつける事によってモトヤはこちら(阿南)側から正面戦闘を断らせたいのかもしれない。もしも、そういう狙いがあるのならば条件を飲み正面戦闘に持ちこんだ方がこちら(阿南)にとって得であると思えた。少し迷う。だが条件を聞く事にした。


「聞こう」


 この阿南の返事を受けてモトヤは条件の話を喋りはじめた。


「今から1時間ほどこれから率いる予定のAチームと訓練させてほしい。もちろんBチームや阿南さんが見えないところでだ。阿南さんは手足のようにBチーム……『日本陸軍』を操る……となると俺にも最低そのくらいの時間が必要だ」


 やや拍子抜けするような条件。一時間で何ができるというのか……、阿南はそう思った。ズル賢いモトヤの事だから自分の好きな場所で戦うという事を言いだすのではないかと思っていたのだが……どうやら取り越し苦労であったようだ。


「その条件ならば吾輩は承諾しよう。ただし、こちらも条件をつけさせてもらう」


 阿南の発言にモトヤの眉がピクッと動いた。だが阿南は構わず続ける。


「吾輩に戦う場所の指定と新たなルールを作らせてほしい。もちろんお互いが対等な条件になるようにする」


 戦う場所の指定はいわば勝敗を分ける条件と言ってもよかった。普通であればこの様な条件をつけること自体が大それたことなのだが……。



 この条件にモトヤは簡単に首を縦に振った。



 この時、阿南は内心“勝った”と思った。


 阿南の人生スキルは【攻撃的精神(どんどんいけ)】という名のスキルで阿南の人生スキルの発動する声が聞こえた同じクランに所属する人々の攻撃力が1%だけ増加するのだ。そして、このスキルの大きな特徴は“重ねがけ”が可能である、という点だった。


 “重ねがけ”とは何か?


 “重ねがけ”というのは効果が積み重なる事を指す。つまり通常のスキルの場合は一回唱えると効果継続時間が終了するまで同じ時間内に何度スキルを唱えようが効果としては変わらないのだが、阿南の人生スキルは雪が降り積もって行くようにどんどんと効果が重なってゆくのだ。


 まずは通常のスキルの説明からしたいと思う。例えばサイレスという呪文の場合は沈黙効果をつける呪文なのだが、サイレスがかかっている間に再度サイレスを唱えても基本的には同じ効果が続くだけだ。より沈黙が深くなるわけではないし、呼吸が止まるといった更なる効果を引き起こすわけでもない。


 では阿南の人生スキル【攻撃的精神(どんどんいけ)】の場合は何がおきるのか?


 まず、ここに攻撃力が「100」の男が居たとする。この男に【攻撃的精神(どんどんいけ)】の効果を及ぼした場合。攻撃力が「101」となる。通常あればこれで終わりなのだが、阿南のスキルの場合、もう一度【攻撃的精神(どんどんいけ)】を発動させると攻撃力が「101」ではなく「102」となるのだ。つまり元の攻撃力である100の1%分だけ、どんどん効果が積み重なってゆくのだ。


攻撃的精神(どんどんいけ)】の効果時間は10分だ。この10分の間に何度も効果を重ねていけば、とてつもなく恐ろしい攻撃力をもった集団ができあがるのだ。実は模擬戦・第一戦目の時に、ある瞬間からフィオナのAチームが壊滅的な打撃をうけたのだが、それはBチームを率いる阿南の人生スキルによるところが大きかった。戦いの中盤あたりから阿南は【攻撃的精神(どんどんいけ)】を連続して使う事によって最大1・5倍近くまで自軍の攻撃力を引き上げ、Aチームを壊滅状態にまで追いやったのだ。


 第一戦目において阿南率いるBチームと戦っていたAチームは、きっと戦いの中でどんどん強くなってゆくBチームに対し得体の知れない恐ろしさを味わっていたに違いない。つまりこのスキルは、ある拮抗した状況を“そのままの形を保ったまま”でも劇的に変化させる特性をもっていた。


 つまり、この上なく正面戦闘との相性が良いスキルだったのだ。


 このスキルの存在を知らないからこそモトヤは正面戦闘を簡単に承諾したのだと阿南は思った。最も正面戦闘が行われた第一戦目は阿南にも落ち度があった。この【攻撃的精神(どんどんいけ)】をいつ使うかという事を考え過ぎたのだ。そのせいもあり戦いの中盤に入るまでスキルを使用せず、Bチームは先に軍の過半数を失ったのである。


 だがこの第一戦目で阿南は「Aチーム」の存在がどういうモノであるかという本質を掴みつつあった。


 Aチーム……いやクラン「ミロクスター」とは、フィオナが先頭に立ち剣を振るう事で後の有象無象もそれに引きずられるように奮戦する……といった具合の、いわば原始的な戦い方をするクランであると阿南は気づいたのだ。


 “フィオナがいなければ、Aチームの戦闘能力は半減する”


 つまり、力が半減するならAチームを率いるモトヤとの正面戦闘で勝てないわけがないと阿南は思った。阿南は再度この条件の戦闘でよいかモトヤに念を押す。


「モトヤ殿、後から話が違うと言わぬであろうな?」

「そんな事言うわけないでしょ。まぁいいや、とにかく今は時間が惜しいんだ」


 モトヤはそう言うと、これから率いる事になるAチームの面々をつれて深い山の中に消えていった。




 これより一時間後に模擬戦・第三戦目が行われる。


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