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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第052話 模擬戦(1)


 2060年8月10日。


 雲ひとつない快晴の空。今日のミシャラクエリアの天候設定はどうやら「晴れ」であるらしい。

 モトヤ達「M&J」は、ミシャラクエリアにある高層ビルのように高くそびえ立つ山々「ドーラ山脈」の麓に広がる「ナギ」と呼ばれる場所にいた。「ナギ」は、北のドーラ山脈の他に東・西・南と小高い山に四方を囲まれたいわゆる“盆地”と呼ばれる地形で、天下分け目の戦いが行われた関ヶ原の地形に酷似していた。


 ここにはモトヤ達のクラン「M&J」の他に「日本陸軍」というクランと「ミロクスター」というクランが来ていた。いや真実を言えば、モトヤの「M&J」は10分ほど待ち合わせの場所に遅刻し、今から数秒前にようやくこの場に辿りついたのであった。



「これはモトヤ殿……、こんな日に遅刻とは豪胆な性格をしていますな」


 モトヤを出迎えたのは、ずんぐりむっくりの体に旧日本陸軍の軍服を着用し口髭を生やした【 阿南(あなみ) 】という男で、クラン「日本陸軍」のリーダーを務めていた。この阿南(あなみ)が穏便に出迎えたのに対し、もう1人のクランリーダーの女は遅刻したモトヤを口汚く罵った。


「ったく遅すぎんだよ!! アタイをいつまで待たせるつもりだったんだい!! お前なんていつでも殺せるんだぞクソガキが」


 後から声を出したのは、迷彩色のバンダナに青い髪をした褐色の肌の【 フィオナ 】という女でクラン「ミロクスター」のリーダーを務めていた。


 モトヤは遅れた事を二人に詫びると、すぐに両軍全体へ礼を言うのと同時に主催者として、ここに大勢を集めた趣旨を語り始めた。


「今日は集まってもらい、まずはありがとうと言いたい。では早速だけれども、ここに皆を集めた理由を説明したい。もう、それぞれのクランリーダーからも聞いているかもしれないが、今日から我々は一つのクランとして行動をする。その為に皆には来てもらった。そして、この後クランのリーダーを決める選挙をしたいと思う。候補者は3人、俺・阿南・そしてフィオナ……この3人からリーダーを選んでもらう。投票の方法は、手もとの用紙に3人いずれかの名前を記入して投票ボックスに入れる方法でやらせてもらう。だが、誰に投票していいか分からないという人が大半だと思う。そこでリーダーを選ぶ際の判断材料を皆に提供したいと思う」


 ここでモトヤは僧侶ナナを自分の傍に呼び寄せ、全軍に向かって再び喋りだした。


「彼女の名前はナナ。彼女の人生スキルは“模擬戦”というスキルだ。まず、このスキルの中身を説明したいと思う。彼女の人生スキルの効果によって、彼女が人生スキルを発動している間に彼女と握手した人間は、模擬戦の為のチームであるAチームかBチームかに任意で振り分けられる。そして、ここが肝なのだがAチームとBチームに所属している人々は両チーム間で戦ったとしてもHPが半分以下に減らない、そのかわりにHPが半分にまで減るとOUTという文字が本人の視界に現れ×マークが本人の頭上1mあたりに現れる。この×マークは誰の視界からでも見る事ができる」


 ここでモトヤは一呼吸置くと再び話の続きを喋る。


「こんなに長々と何を言っているかという事だが、これから皆さんには模擬戦を行ってもらう。皆さんを指揮するのは俺・阿南・フィオナのリーダー候補の3人だ。これが皆に提供したい判断材料だ。誰が最もリーダーに相応しい人物なのかを、軍の指揮を通じて皆に選んでほしいんだ。皆さんは二つのチームに分かれてこれから3回戦う。1試合目はフィアナ率いるAチームと阿南が率いるBチーム。2試合目はフィオナが率いるAチームと俺が率いるBチーム。3試合目は俺が率いるAチームと阿南が率いるBチーム。組み合わせはこんな感じだ。この戦いの後に投票をしたいと思う。だれがリーダーになったとしても我々の目的は同じだ。5つある城のうちの過半数以上を奪い、現実に帰還する。我々はこの手段で現実に帰る切符を勝ち取る。とにかく皆は最もリーダーに相応しいと思う人物を決めて投票してくれ、自分の命を預けるに足る人物をだ。俺からは以上です」


 両クランメンバーは恐らく事前に話の内容をリーダーから聞いていたのであろう。モトヤの演説後も特にざわつく様子はなかった。その中で頭にそり込みをいれた「畑中」という男が手をあげる。


「はい、そこの昔のヤンキーみたいな人……なんでしょう?」


 頭にそり込みをいれ、全身を特攻服に身を包んだ男「畑中」は立ち上がってモトヤに質問した。


「昔のヤンキーだぁ? クソ。ああ、なんだったっけ? え~あ、そうそう。つまり、戦闘の指揮をしてみて一番指揮の上手かったヤツがリーダーになるべきだってアンタは言ってんのか?」


 モトヤは何度か頷きながらこれに答える。


「そうだ。これから俺達が突き進む道は戦いの道だ。ならばそれに最も長けた者がリーダーになるべきだ。まぁこれは俺の考えだが……。少なくともリーダーの判断で俺達はこれから生きるかもしれないし死ぬかもしれない、なら自分が命を預ける相手くらい自分で選びたいだろ」


「まぁ確かに……」


 畑中はモトヤの言葉に納得がいったらしく、立つのをやめてその場に座った。


「アタイからもいいか?」


 次に手をあげたのは主催者側にいたミロクスターのリーダーフィオナだった。フィオナはモトヤの了承を待たずに喋り始めた。


「アタイはまずルールを確認したいんだよね。例えばHPが半分になって×の表示が出たヤツはどうなるんだよ?」


 モトヤは東の山“アソト山”を指さす。


「もちろん、×が出たヤツはそれ以上戦闘に加わる事はできないし、やったら反則だ。また×が出てる奴に攻撃を加えることも反則とする。で×が頭の上に出たヤツは速やかに戦いを見守る観客席である“東のアソト山のでっぱりのある中腹のあたり”に行ってもらう。俺達もそろそろそこに向かう予定だけどね」


 フィオナは“分かった”とも何とも言わずに次の質問をする。


「勝敗は? どうやって決める? 最後の一人になるまで戦うのか?」


 モトヤは首を左右に振った。


「本当の戦闘で最後の一人になるまで戦うというのはありえない。率いているチームの半数に×マークがついた時点で試合終了だ。もしも半数に×マークがつかなかったとしても1時間で試合は終了だ」


 ここでフィオナはニヤつく。


「よっしゃあ。でも条件がある。アタイが率いるチームはアタイの鍛え上げたミロクスターのメンバーにしてくれ。いいな?」


 ここで阿南も負けじとこの話に加わる。


「ならば吾輩も同じだ。吾輩流の戦いが染み込んでいるのは間違いなく我が『日本陸軍』だ。吾輩が指揮するときは『日本陸軍』を使わせてもらいたい」


 ここで今までモトヤの後ろでずっと動かず目を瞑っていたアリスがモトヤを見た。ここにいる人間の内訳は「M&J」が7人。「日本陸軍」が47人。「ミロクスター」が46人の計100人だ。つまり両クランリーダーが指揮する時に自分の育て上げた軍隊を指揮するというのならモトヤは常に息の合った軍隊を相手に戦うということになる。これはモトヤに一方的に不利な条件だった。だがモトヤはこれをいとも簡単に承諾した。


「もちろん構わない。好きにしろ。俺は残った方の軍隊を使い、お前達に勝つ。ああ、それとアリス……今回お前は休みだ。お前はちょっとバランスブレイカーだからな」


 アリスにはモトヤのことが全く分からなかった。モトヤのこの自信は一体どこからくるというのか?


「もう質問は終わりだな? じゃあ第一試合をはじめたいと思う。試合終了時点でどちらが勝ったかを大きな旗で知らせる。赤い旗ならAチームの勝ち。白い旗ならBチームの勝ち。さあ、ルールが分かったのなら、自分がどっちのチームに入るのかをナナに言って、どんどんナナと握手してくれ」


 モトヤの声を皮切りにどっと僧侶ナナの前に人混みが押し寄せ、ナナに握手を迫る。そして「ミロクスター」のメンバーのほとんどがAチームに固まり「日本陸軍」のメンバーはBチームに固まった。



「じゃあ用意はいいなお二人さん」


 モトヤの声にそれぞれのリーダーであるフィオナと阿南が反応する。


「アタイはOKさ」

「吾輩も問題ない」


 ここでモトヤが両手を鳴らす。


「よし! じゃあ今から配置についてくれ!!」


 モトヤが言葉を発するとそれとほぼ同時に「ナギ」の中のどこかに両軍は散って行った。両軍の配置が終わった段階でそれぞれのチームに配った青い旗をたなびかせる決まりになっている。それを見てナナが虹色の開戦の大きな旗を揺らすのだ。モトヤとアリスとナナも、それを確認しなければならない為に観客席である東のアソト山に急いで向かった。


 そのアソト山の中腹にある即席の観客席には坊主頭に眼鏡の男が待っていた。この男を見てアリスは苦い顔をモトヤに向けた。


「ねぇモトヤ聞いてないんだけど」

「あれ? 言ってなかったけ? でん助がくるって」


 アリスは、どうもでん助が苦手だ、というよりもハッキリと嫌いだ。知識をひけらかす様な喋り方といい、人を小馬鹿にした様な態度といい、こいつが喋ってるだけで不快になると思っていた。それに、でん助はまた何かを確かめるようにアリスの姿をジロジロ眺めてくるのだ。アリスは、このでん助の行為に不可解さと言い知れぬ気持ち悪さを感じながらも、ただ黙ってその視線に耐えた。どうしてこんな戦闘のイロハも知らない奴をモトヤは高く評価するのか……アリスはそもそもそこが理解できなかった。だがでん助はというと、そのアリスの不快な表情を無視し、近くまで来たモトヤに語りかけた。


「どうもモトヤさん。やはり模擬戦のスキルを“こう”使ったみたいですね」

「よう、でん助。まぁ想像通りという話さ」


 でん助は、一人用の折り畳み椅子を広げそこに自分だけが座ると、2つのクランの事をモトヤに聞いて来た。


「『日本陸軍』と『ミロクスター』ですか……どうしてこの2つのクランを選んだのです?」


 この質問にモトヤは数秒間沈黙した。そして、その後に答えた。


「でん助、お前の想像とは違うよ。普通さ、たまたまこの2クランと交渉できたからさ」


 でん助は、大きく口から息を吸い鼻から息を吐きだした。

 僧侶ナナは、この意味ありげな会話を話す二人をキョロキョロ交互に見ながら、両軍から青い旗が掲げられるのを待った。


 だがこの時、アリスだけはでん助の言わんとしてるところの意味が分かった。つまり、でん助は“こう”言いたかったのだ。


『お手頃なクランなら簡単に全体を掌握できる。そういう狙いがあるから、この何も考えていなさそうな2人が率いるクランに声をかけたのではないのですか? 最初から2人を殺すつもりで。この模擬戦という茶番では誰が勝ってもよい。その後100人で行動するようになってからリーダー候補の2人を始末すれば自動的にリーダーの椅子は勝手に転がりこんでくるのだから。そうでしょう? モトヤさん』


 アリスはでん助のゲスな考えに吐き気がしそうだった。どいつもこいつもゲスばっかり。だがふと思う、何故モトヤは『お前の想像とは違うよ』という言い方をしたのか……。もしかすると、モトヤも同じような事を密かに思っていたのではないのだろうか?


 アリスはモトヤを見る。モトヤはアリスの視線に気がつかない。その時、僧侶ナナが叫んだ。


「あ! 青い旗が二つ見えました!!」


 モトヤはニンマリ笑うとナナに声をかける。


「よしナナ、虹色の旗を振ってやれ」


「はい!!」


 ナナは虹色の旗を握ると「ふん」と踏ん張ったきり、なかなか旗が上がらないことに苦労していた。時折足をバタつかせ、旗の柄の部分の持つ位置を変え、何とか旗を振ろうとしていた。アリスはモトヤに「アンタが振ってあげたら?」と言おうとしたが、モトヤはナナの一挙手一投足をニコニコ笑いながら、何か微笑ましいモノを見ている様な態度を続けた。こいつ……。と、アリスは思うが、しかし、アリスもその動作に目を奪われる。恐らくモトヤとは違った意味で……。ナナの動作は可愛らしかった。一生懸命頑張る姿も、あれこれ思考錯誤する態度も、その小さな容姿も、何もかもが可愛らしかった。羨ましい……アリスはそう思った。男を虜にするのは自分では無くこういうタイプなのかもしれないと思った。もしも、私がこういうタイプならドムは振り向いてくれたのかしら。アリスは頭を横に振った。既にドムは死んでいる。やるべきことが私にはあるのだ。だが、もしも私がこんな女の子であれば……私はもっと……近くに……。そう声が出掛けた時、ナナの悲壮な声がアリスの耳に飛び込んだ。


「旗ぁ……重いぃ!!」


 この言葉に、この場にいる全員が笑った。モトヤは席を立つとナナと一緒に虹色の旗を持ち、地面に立てた。不意に風が吹き、旗が大きく揺らめく。


 模擬戦・第一戦目がはじまった。


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