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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第051話 クラン作り

女性の僧侶を「尼僧」と呼びますが、このゲームではそのまま女性でも「僧侶」と呼ばせてもらう事にします。



「モトヤ……起きて……」


「う……うん?」


「モトヤ……」


 女性の優しい声がモトヤの耳に届く、そんな声をもっと聞いてみたいと思いながらも、その声はどんどんと声色を変質させてゆく、いや声色だけでなく言動さえも変化してゆく。


「起きて……いいかげん起きないと朝食抜きよモトヤ」


 女性の声は続く。


「これが最後よ。早起きはリーダーの基本よ。これ以上他のメンバー達にだらしないところを見せてどうするつもり? 今のところモトヤが命令できるのは私とナナだけなのに、いい加減にして」


 言動を変化させていく女性の声にモトヤは耐えきれなくなり、ついにベットから起きる決断をする。


 ガバッ


 モトヤは、勢い良くベッドの上の布団を飛ばし、声を発していた女性――アリスの方を見た。アリスは半ば呆れているような表情をしていた。それを見ていると次はアリスの作りだす何とも言えないその表情に耐えきれなくなり、モトヤは何故か敬語を使って朝の挨拶をしてしまう。


「お、おはようございます。アリス」


 このモトヤの言動にアリスは溜息交じりで答えた。


「……言っておくけど、私はアナタのお母さんじゃないの……早起きくらいちゃんとしなさいよ」


 こう言われてしまってはぐうの音も出ない。


「は、はい……」


 モトヤは寝ぼけまなこを擦りながら布団から出る。アリスはモトヤが起きたことを確認すると皆の待つ食卓に一人で先に行ってしまった。


 モトヤは服を着替えると寝室の扉をあけ、皆の座る食卓の一角に座った。目の前には具材の怪しげなスープとスプーンが用意されており、モトヤはスプーン使わずに皿を持ちあげ盛大に音をたてながらスープを飲む。


 ズズズズズズズ。


 モトヤのあまりの下品な音に食卓を囲むクランメンバー全員の視線がモトヤに集まった。数秒遅れてモトヤはその視線に気付く。


「な、なんだよ……ただスープ飲んでるだけだろ」


 この状態でモトヤが抗弁しても、最早言い訳にしか聞こえない。威厳に満ちた存在……アリスの中でクランリーダーとはそういう存在だった。だが、それとはあまりにもかけ離れているモトヤの姿に、アリスはモトヤがクランをまとめて行く力がないのならクランを脱退することもやもうえないと考えはじめていた。数日前の迫力はどこにいったのか……。

 脱退しようと考えはじめた理由は他にもある、この間の独断専行である。いけ好かない坊主眼鏡(※でん助のこと)から全財産と全情報を手に入れるのが目的だったハズなのに、モトヤは勝手に計画の変更を行った。アリスは以前ドムをリーダーとするクラン「ストリーム」の幹部だっただけに、ドムの行動をつぶさに見てきた。ドムは大事なことは合議で決め、その決定をリーダーという身分を使い勝手に覆したりはしなかった。そして、その立ち振る舞いは威厳に満ちていた。それがリーダーだった。それがリーダーのハズだった。


 そのドムとのあまりの違いに我慢がならない……これがアリスの本音だった。


 果たしてモトヤにはこのゲームをクリアする為の明確なヴィジョンはあるのか、そもそもモトヤは何が強みの男なのか……。この男について行って生き残れるのか。


 =少なくともここ数週間で、モトヤの器を見極める=


 アリスは密かにそう思いはじめていた。そして十分な器を示す事ができなければ、そのまま出て行くつもりだった。


 ズズズズズズズ


 マヌケにもまた音をたてスープを飲み始めるモトヤをアリス達は冷ややかな目線で眺める。だがその中で唯一人、尊敬のまなざしでモトヤを見つめる赤い髪飾りに白のローブを身にまとった女性――僧侶ナナがいた。ナナはミシャラクエリアにある「ベネディクト」という街でつい先日まで料理クランの一員として働いていた。というよりも、何度他のクランをたらいまわしにされたのだろうか? というほどに、どこに行っても「使えないヤツ」というレッテルを貼られたプレイヤーだった。時にはそのあまりのドジッ子加減から「経験値にした方がマシ」という理由で殺されそうになったこともあった。そんな事もあり、ナナはこの世界で全く生き残れる気がしなかった。1年後には確実に死ぬが、その前に死ぬのではないか? 常日頃からそのような不安な気持ちを抱えナナはこの世界を生きていた。


 そんな時である。M&Jというクランが街の隅でクランに放り出されSPが尽きるところだったナナを拾ったのだ。何でも聞くとナナを仲間にするためにはるばるバルダーエリアからやってきたという。


 ナナは神に感謝した。それにリーダーのモトヤは何でも気さくに話しかけてくれる人物で、今までの高圧的な態度のリーダー達とはナナに対する態度が雲泥の差だった。そのこともあって、まだクランに入って間もないナナだが、この空間に今までに感じた事のない程の安らぎを覚えていた。


 ここでスープを飲み終わったモトヤが不意に喋り始めた。


「よし、じゃあこれからの行動を説明したいと思う」


 モトヤのこの行動に食卓の一角に座るパプアがケチをつける。


「だから……僕等のリーダーはアリスでモトヤじゃないよ」


 モトヤはとぼけた顔をしながらパプアに言葉を返した。


「だから、アリスとナナに説明してるんだ」


 物は言いようで、確かにモトヤは全員に向かって喋るとは一言も言ってない。だがこの行動は明らかに食卓に居る全員に向かって喋る行為だった。またもやモトヤのルール無視。パプアはその行為を咎めようとするが、咎めだけ時間の無駄だと思い結局聞く事にした。



「俺達は今、ミシャラクエリアのベネディクトという街にいる」


 モトヤは立ち上がると、先日買った黒板を食卓の横の壁にかけそこにチョークで書きこむ事によって話を円滑に進めようとする。



「とりあえず今やっていることから整理しようと思う……アリス、日々の食料の調達はどうしている?」


 モトヤからの指摘を受けてアリスが口を開く。


「そこから言わなきゃならないの? まぁいいけど……ナナへの説明も兼ねてるしね。え~モンスターを倒し、素材を手に入れて、それを素材屋かNPCに売って、そこで得た金を食料を売るクランの所に持っていって日々の食料の調達をしているわ。NPCの経営するレストランは恐ろしく値段が高いからよ……そういう意味でも料理を作って売るクランを利用した方がいいってわけ」


「OK、ありがとうアリス……。まぁつまり我々は日々を生きるだけでも精一杯であるということを確認したかった。ではこれを打開するためにはどうすればよいか?」


 モトヤは黒板にチョークでデカデカと文字を書いた。


「金だ。俺達には金が必要だ」


 アリスは何を今更……という気にさせられた。元々そのためにでん助を襲うという話になったのだ。これでは議論のまき直しではないか。アリスの気も知らずにモトヤは続ける。


「で、俺は複数の方法を考えたんだけど……そのどの方法も100人近い人数が必要だ。ということで我々はまず100人近いクランを作ろうと思う」


「はぁ?」

「え? ちょっと」

「意味分からんのだが……」



 食卓がざわつく中、アリスはモトヤの目を見てゆっくりと口を開いた。


「モトヤ、プランはあるの?」


 モトヤの顔が途端にニヤける。


「もちろんだとも。ナナ、アレをもってきてくれ」

「はぁい」


 僧侶ナナは元気よく返事をすると、自分のアイテム欄からある紙を取り出しモトヤに渡した。モトヤはそれを受け取ると食卓に広げ、また話の続きを喋りだした。


「ナナが持ってきてくれた“この紙”には、情報屋から受け取ったミシャラクエリアの戦闘クランの一覧が記載されている。ここに記載されてあるクランの中からちょうど良い人数のクラン2つと手を組み100人のクランを作る」


 アリスは溜息をつき、その後にモトヤの計画の甘さを指摘する。


「なんで、彼らが30とか20とか、その人数で行動してるか考えたことある? それはつまり街などで商売をしてるプレイヤーを護衛して“金を稼ぐ”クランだからよ。彼等は本質的には城に攻撃し占領しようとするクランではなく、商売をするクランと言ってもいいわ。つまり5つの城を賭けて戦ってやろうなんて意志は無いと思うわ」


 これにモトヤはすかさず反論した。


「いやそうとは限らない、基本的にキャッスルワールドにはSPで腹が減って死ぬという問題がある。だからどんな戦闘クランだろうと日銭をかせいで料理を食べなければいけない。だからこそ商人を護衛したり、逆に商人を襲おうとする戦闘クランが出てくる。つまり何を言いたいかというと、彼等も金を稼ぐ為だけに生きているわけではないわけだ」


 ここでモトヤがナナから貰った紙に書かれたゴールド表記を指さした。


「これは価格変動こそあるものの、一応護衛料金の相場というものだ」


 アリスはこんなものを見た事がなかった。それをモトヤは口に出して読む。


「24時間で1件あたり100~150ゴールド。じゃあ聞くが、俺達の1日の1人あたりの食費はどんなもんだ?」


 アリスはモンスターを狩る係なので相場がよく分からない。なのでアリスはパプアの方を向く、このクランでの食料の買い付けはパプアの役目だ。


「僕ですかアリスさん? え~と大体1食で70ゴールドくらいですかね。大体1日2食を食べてるので140ゴールドくらいかな」


 パプアの言葉にアリスは顔を曇らせる。段々とモトヤの言いたい事が分かって来たのだ。パプアの言葉が終わるとモトヤは話の続きをする。


「次にここなんだが……それぞれのクラン人数の横に数字がある。これは護衛している商人の人数だ。この“スパロー”という20人のクランが護衛しているのは約25件の商店だ。商人と言い換えてもいいかもしれないが、他のクランも大体がクラン人数と護衛する商店に比例している数になっている」


 アリスは頭の中で計算をする。25×150=3750。これが一日に稼ぐゴールド。これを20人で割る。3750÷20=187.5。なので187ゴールド。1日の食費は140ゴールドとして187-140=47。1日の純粋な利益が47ゴールド……。アリスは目を瞑り細かく何度か顎を上下に動かし頷いた。


「分かってくれたみたいだなアリス。彼等は金を稼ぐどころじゃない。こんな金の稼ぎ方じゃ金持ちランキングの100位以内なんて到底入れやしない。彼等はSPの値が下がらないように日々を生きて行くのに精一杯なのさ。そして、隙あらば城に攻撃してやろうと思いながら街で商人を護衛したりして、武力を維持しながら大望を夢見てるんだ。な? アリス。こいつらなら交渉の余地があると思わないか?」


 アリスはもう反論しなかった。モトヤの言うとおりだからだ。

 モトヤはアリスが黙るのをみると、それをクラン全体の了承と受け取った。


「ではこの計画で前に進めようと思う」



 モトヤはクラン巨大化の第一歩を踏み出した。


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