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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅲ章 クラン作り
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第050話 駆け引き


 モトヤは、アリスと共にボコタの街のメイン通りにある一番大きな店……でん助の店の前に来ていた。でん助は既に情報を武器にそれなりの財をなし、キャッスルワールドでも指折りの情報屋として名を轟かせていた。


「じゃあ行くぞ、アリス」


 モトヤのこの言葉にアリスは唾を飲み込んだ。アリスは自分のアイテム欄が(カラ)であることを確認すると、次にMP表示を見た。MPはちょうど人生スキルを一回だけ唱える事ができる量しかない。これでよい。

 アリスは静かに頷く。準備は整った。


 モトヤはアリスの頷きを確認するとでん助の店「でん助の情報堂」の扉を開ける。すると扉につけてある鈴がカランカランと鳴り店の奥から商売人特有の甲高い声が聞こえた。


「やあモトヤさん久しぶり」


 ボウズ頭に眼鏡の風貌のでん助は店の奥から姿を現すとモトヤを出迎えるために玄関先までわざわざやってきた。チビとノッポの牢獄で握手を交わして以来の再会であった。


「やぁでん助、久しぶり」


 モトヤもわざわざ出迎えてくれたでん助に礼をする。するとでん助は、モトヤの後ろをじっと見つめ質問した。


「後ろの方は?」

「ああ、アリスと言って俺の連れだよ」

「ほう……どうもはじめまして、でん助です」


 でん助の礼に合わせるようにアリスが軽く会釈をすると、でん助は上から下まで舐めまわすようにアリスの全身を眺めた。きっとアリスの風貌を覚えているのだろう。情報屋とはそういう所がある。でん助は一通りアリスの風貌を見終えると応接用の椅子とテーブルを指さし、モトヤにそこで話をするように促した。


「ではこちらにどうぞ」


 モトヤは促されるままに店の奥の方にある応接用の椅子とテーブルに向かってゆっくり歩き世間話をする。


「そういえば、あの時は世話になったな」

「ああ、牢獄にモトヤさんが囚われていた時ですか? あれはジュンさんから依頼がありましてね。もちろんたんまりと金はいただきました。そうだジュンさんといえば、モトヤさんの友人でしたものね。まさかあんな死に方をするとは……。まさにキャッスルワールドここに極まるという感じですね」


 このでん助の不謹慎な言い回しにモトヤは一瞬眉をひそめたが、すぐにまた元の顔に戻った。いや戻したと言った方がいいのか……。

 モトヤがちょうど応接用のテーブルとイスがある場所まで辿りつくと、先回りしていたでん助がモトヤが座る為に椅子を引いてくれた。

 モトヤはアリスに玄関口あたりで待機してくれという指示を出すと、でん助の引いてくれた椅子に深々と腰をおろした。その様子を見て、でん助も反対側の席に着く。椅子に座ったモトヤはまずテーブルの下で膝を組むとジュンの話題の続きを喋った。


「ああ、ジュンは死んだよ……無残にね……。晒し首っていうのか……ああいうの……。あのクソッタレ共め」


 モトヤは喋りながら鋭い殺気のようなものを発していた。既にジュンが殺されてから一ヶ月が経過しようとしているが未だに友人の死を消化できない所があり、ジュンの事を思い出しては、その度に様々な感情がこみあげる状態だった。その様子を見ていたでん助は、とにかく話を前に進める為にモトヤの言葉を半ば無視し用件を聞いた。


「まぁキャッスルワールドではよくある出来事ですよ……。で、モトヤさん今日の御用はなんでしょう?」


 数秒の沈黙が両者の間を流れた。そしておもむろにモトヤが口を開く。


「あるスキルが実在するかどうかを聞きたいんだ。実は小耳にはさんだ噂があってね。なんでも模擬戦を行う事ができる人生スキルというのがあるらしいと……」


「ほう……」


「まぁまずは知りたいのが、そのような人生スキルが実在するのか、あるいは単なるデマなのか。もしもそのような人生スキルの使い手がいるならば、その人物が今生きているのか死んでいるのか……その辺りの事をひょっとして情報のプロのでん助なら知ってるかもしれないと思ってね」


 モトヤは話し終ると、でん助の目をみた。でん助はモトヤの方は見ずにモトヤから見て右下の方向に目を落し空中をなぞるように左手を動かしていた。恐らくそれに該当する情報をオプションの中にあるメモ帳から探しているのかもしれない。でん助はこの行為を続けながらモトヤに質問した。


「ふむ……なるほど。で、知ってどうするつもりです?」


「え? さぁどうだろうな?」


 モトヤがでん助の質問をはぐらかし続ける間にもでん助は自身の左手を動かし続けた。そして、その左手は急に動きを止めた。どうやらでん助は目当ての情報に辿りついたらしい。


「ふふふ……模擬戦を行うという人生スキルが本当にあるかどうか、という情報に関しては無料でいいですよ」


 モトヤは無料で良いというでん助の申し出が何を狙っているのか分からなかったが、とにかくその申し出を受ける事にした。


「……そうしてくれるとありがたい。で? どうなんだ?」


 でん助は再び左手を少し動かすと確かめるようにオプションの中のメモ帳を見つめる。


「……模擬戦を行う人生スキルを保有する人物はいます。デマではないですよ。そしてまだ生きているようです。少なくとも手元の情報には死んだとは書いてないですね」


 モトヤは小さくガッツポーズをした。この人物がいない場合の事も想定していたが、もしもその人物を仲間にできたのならモトヤのとっておきの計画を実行できた。そして、その全てを見透かしたようにでん助が語りかけてきた。


「その人物の居場所を知りたいんでしょモトヤさん。なら、まず1000ゴールドほどいただきましょうか」


「……高いな」


 モトヤは思っている事をつい口にだしてしまった。しかし、人探しに1000ゴールドとはなかなかに割高だ。だがその価値はある。そして、それさえも見透かしたようにでん助は笑いなら言葉を返した。


「むしろ安いくらいですよ。このスキルを適切に生かそうとするならば……ですが」


 ――こいつ。


 モトヤはここである事に気付いた。……それは“でん助”の価値。普通の情報屋であれば、情報だけに価値を求めるが、その先をあまり考えない。でん助は得た情報から様々な事象を推測する能力も併せ持っていた。


 モトヤは扉の方にいるアリスを眺める。アリスは今か今かとモトヤの合図を待っていた。合図? 何の? ……モトヤは最初にここを訪れた時からある計画を実行するつもりでここに来ていた。その計画とは、アリスの人生スキル【魂の交換(ソウルチェンジ)】を使い、でん助から全ての情報と全財産を奪い取る……というものだった。アリスの人生スキルの特性を生かした計画だった。


 アリスの用意は既に整っていた。それで何度もモトヤに目配せするのだが、モトヤからの合図は一向にこない。モトヤは一体何を考えているのか……アリスはそう思った。

 モトヤにもアリスの思考は伝わっていた。焦るアリスの顔が何度もモトヤの視界の端に映っていたからだ。だが、ここでモトヤは【でん助】と【でん助が持つ情報と財産】を秤に賭けなければならなくなったように感じていた。もしも、ここででん助から全てを奪い取るとでん助との友好関係は終わる。でん助の持つ情報は欲しいが、それを元にした助言はもっと欲しいのだ。


 ――決めた。


 モトヤは決心を固めた。それは当初の計画とは逆の行動だった。


「なぁ、ちょっと急かもしれないが……いいか?」


「はい?」


 でん助は多少目をパチクリさせたが、モトヤは構わず言葉を続けた。


「でん助、俺のクランに入らないか? 俺と一緒にキャッスルワールドを征してほしい」


 再び両者の間に沈黙が流れる。だがこの事に一番驚いていたのはアリスだった。聞かされていた計画とまるで違う話をモトヤが切りだしているのだから。


「モトヤさんのクランに私が入るのですか?」


「そうだ」


「申し訳ありませんが……今のところまったく入ろうとは思いませんね」


 でん助の反応は鈍かった。それもそうだろう、既にでん助は財産を築くことでのクリアを目指しており、その道で成功していると言えた。そんなでん助がモトヤのクランに入るメリットがどこにあるというのか。


 モトヤもそんなでん助の反応は織り込み済みであり、ある条件を出すことで魅力的な申し出に見せる工夫をした。それは戦闘クランに所属する者としては破格の待遇と言える条件だった。


「もちろん俺のクランと共に行動しろとは言わない……ここで今まで通り商売していいさ、というかこの職業を続けてくれ」


 このモトヤの奇妙な申し出にでん助は思わず聞いてしまう。


「……それでモトヤさんに何の利益が?」


「さあな」


「……」


 でん助は少し目を瞑りモトヤの狙いを考えた。先ほどの“キャッスルワールドを征する”という言葉からするとモトヤが目指すのは金を稼ぐクランではなく、文字通りキャッスルワールドを征する為に5つある城を占領しようという戦闘クランなのだろう。でん助はここで一つ気になった質問をする。


「今のモトヤさんのクランに所属している人数はどのくらいいるんです?」


「6人だ」


 現在のところ絶望的な数字と言ってよいだろう。このキャッスルワールドの世界はただでさえ後発グループが損をするように出来ている。でん助はモトヤのクランに入るかどうかはともかくとして、とてもモトヤのクランがキャッスルワールドを征するようには思えなかった。となるとこれ以上話を聞く事はでん助にとっては大いなる無駄だった。


「モトヤさん……その話はもう結構ですので。もしも模擬戦の人生スキルを持つ人物の情報を知りたいのであれば1000ゴールドを」


 モトヤはでん助のさしだした手を払いのけて、でん助に迫る。


「どういう条件なら納得する?」


 でん助はしばらく天井を見る。こうなればもうある程度の無理を言うしかないだろうとでん助は思った。それが無謀だとモトヤが思うのであれば引き下がるだろうし、もしもやり遂げたならでん助にとって大いなる利益がある。これは保険だ。万が一商売でこけたとしても強力なクランに所属できたなら、現実へ帰れる確率がより高くなる。


「分かりましたモトヤさん。2ヶ月で300人のクランのリーダーになり、見事組織を運営してみてください。私はそのお手伝いになるような情報を少しですがさしあげましょう。そして少なくとも2ヶ月の間に一つ城を奪い、占領維持してください。それができなければ、この話は無しです」


 とても6人のクランリーダーに突きつける条件ではない。だがこの条件にモトヤはニッコリ笑った。


「約束したからな! 300人のクランリーダーになるのと、1つ城を奪う! これで間違いないな?」


 でん助は軽く頷きうっすらと微笑んだ。その微笑みはまるで“やれるものならやってみろ”と言わんばかりの微笑み……いや冷笑と言えばいいのか。とにかくそのような、人を小馬鹿にしたような表情だった。


「ではこれで本題に移れますね? 1000ゴールドを」


 この発言からも、でん助にとってモトヤのクランに入ることの優先度の低さが分かる。だが一応の目処はついたという事でモトヤは大人しく1000ゴールドを差し出した。


「ありがとうございます。ではこちらが模擬戦の人生スキルを保有する“僧侶ナナ”の居場所の情報になります。さぁ分かるでしょ? 手を出して下さい」


 モトヤは小さく何度かあごを上下させて頷き、でん助に向かって手を差し出す。

 でん助はモトヤの手を握り締めるとモトヤのメモ帳に情報を書き込む事ができる人生スキル【伝える手(メッセンジャー)】を発動させた。


 でん助の握りしめた手は例によって光りはじめる。モトヤも、もうこの発光現象には慣れてしまった。


 発光現象が終わるとモトヤは手を引っ込めメモ帳を確認する。


「ミシャラクエリアか……」


 幸いなことにお目当ての僧侶はバルダーエリアの南隣のエリア「ミシャラクエリア」にいるらしい。モトヤはその詳しい情報を確認すると店から出る為に席を立つ。でん助もそれを見送くる為にモトヤの後についていく。モトヤは店の出入り口付近まで行き扉を開けた。そして不意に振り返る。


「でん助、約束を忘れるなよ?」


 でん助はやや苦笑いをしながらゆっくり頷いた。


「では、またのご来店を」



 でん助の情報堂の扉がしまり、モトヤとアリスはモトヤの借りている宿舎に戻っていく。その道の途中でアリスはモトヤに聞いた。


「何ではじめの予定通りに動かなかったの?」


 はじめの予定。アリスの人生スキルを使い、でん助から情報と財産の全てを奪い取るという作戦である。モトヤはこのアリスの質問にこう答えた。


「キャッスルワールドを征する為だ。辞書には参考書が必要だ……、俺は参考書を手に入れた方が最終的に勝てると踏んだんだ」


 この言葉を聞き、アリスは何も答えずに前を見た。モトヤの答えに納得したのか、それとも気にくわなかったのか……そのどちらの態度ともとれた。だが知識を元にした助言――それは喉から手が出るほど今のモトヤが欲しいモノだった。モトヤは大量の情報がつまった辞書をいきなり使いこなせる自信などなかった。適切な助言こそがやがて大きな武器となるはずだと信じたのだ。


 それに一応の非戦闘地帯で強盗のような行為をすることにそれなりの抵抗感があったことも確かだ。だが、そもそもこの作戦を採用した自体にモトヤの本質が少しづつ変化している兆しが現れていた。


 現実との接点であるジュンを失った影響なのだろうか? それとも環境に染まって来た影響なのか……。


 人は長くいるとその環境に慣れてしまうものらしい。代表的なのは看護婦や医師で死を何度も間近にみることで少しづつ動じなくなっていくのだそうだ。


 人とはそういう生き物なのだ。


 そして、モトヤもまた例外ではなかった。


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