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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第046話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(16)

 この戦いの行方はたった二人の男に委ねられたと言ってもよかった。


 会計士を殺せば鷹の団、ジロンダン、ボコットケモンスターのバルダー城防衛側の勝利。逆に会計士を守りきればオリジンを中心とするバルダー城攻撃側の勝利。

 その会計士といえば既に死んだブリントの不思議な銀紙(キャンディキャンディ)によってシオンの胸ポケットの中にいた。つまりジュンにとれる選択肢は一つしかなかった。



 ――シオンを殺す。



 それこそがジュンに残された選択だった。シオンもそれを知っている。だから敢えて胸ポケットに会計士を入れたのだ。



 ジュンはある事を言いかけるが、やはり止める。その言葉に大した意味などないからだ。ならば戦いをはじめる事こそがジュンのやるべきことだった。



 杉原淳二は母子家庭の子だった。母一人、子一人。しかしそのせいもあってか淳二は母親をあまり見た事がなかった。どこにいって何をしているのか。淳二はそういった事は分からない。男を作ろうが何をしようが淳二は自分はあまり関係ないと考えていた。何故なら淳二には友人がいたからだ。子供は子供同士のコミュニケーションの時間が長い。淳二の価値観を育てたのは母親ではなく気の合う友人達だった。


 高校時代に淳二はこれまで続けていた剣道を突然やめた。顧問の先生も母親も説得したが淳二はガンとして聞き入れなかった。淳二は友人と一緒に馬鹿をやる時間がほしかった。淳二は今いる友人が永遠ではないことを知っていた。どこで知ったのか、高校生のくせに大人の格好で行くバーで聞いたのか、10も年上の女性と付き合った時に聞いたのか、それは定かではない。だがとにかく杉原淳二は今の友人達とはやがて別れる運命であることを知っていた。


 杉原淳二は刹那的だろうが、自分の価値観を育んでくれた友人たちと心ゆくまで馬鹿をやりたかった。それが無意味で無駄なことと知りつつも、淳二はそれを大切にしたかった。特に和泉智也は淳二にとって面白い存在だった。大体、場面にそぐわないような突拍子もないことを言いだすのはいつも和泉智也ことモトヤなのだ。ある日、自分から童貞であると言いだし赤面したあげく周囲の人間皆に怒りだしたのは淳二達の間では伝説的な出来事になっている。ある日青い顔をしている原因を尋ねたら、なんと中学二年になるのにお漏らしした事を告白したことがあった。


「きひひひははははは!! なんだそりゃモトヤ!!」

「馬鹿言うなよ!! 言ったらぶっ殺すからなマジぶっ殺すからな!!」

「分かった! 分かった! 絶対言わない安心しろ」

「頼むぜジュン……俺もそれ知られたらもう本当に生きていけないわ」

「分かった分かった……。おーーーーーい! みんなーーーーモトヤがなーーー」

「ジュン!! テメェぶっ殺す!! マジぶっ殺す!!」


 モトヤのおかげで淳二は毎日楽しかった。淳二はもっとこの時間が続けばいいのにと思った。大学に進学する気のなかった杉原淳二にとって高校生活は最後のモラトリアムの期間だった。だから思い切りやった。二人で無免許運転もしたことがあったし、打ち上げ花火の倉庫に忍び込んで玉を一発くすねたこともあった。特に二人でハマるゲームは楽しかった。いつも馬鹿な事をやるモトヤといると淳二はいつも楽しかった。


 そうやって淳二は絆を感じたかったのかもしれない。なるべく長い時間。




「さぁ()ろうか二刀使い」



 シオンの声はジュンをリアルに引き戻した。

 甘美な過去に戻りたければ今を生き抜くしかないのだ。ジュンは気を引き締め再度シオンを見た。


 シオンの構えはまるで背中をがら空きにした極端な居合のような構えだった。いや、居合とも違う。居合は鞘に刀を納めるがシオンは刀身をむき出しにしたままで更に刀を片手で構えているのだ。ここまで来ると最早意味が分からない。



 ジュンは剣道によって作られた男だ。剣道とは面と籠手と胴を攻撃するために極限まで合理化されたスポーツと言い換えても良い。つまり剣道出身者ゆえにこのシオンの不合理な構えが理解できなかった。


 ジュンは更にシオンの格好を見た。


 シオンは黒い簡易的な鎧以外には何もつけていない。これは剣を扱う者にとってみればほぼ丸裸であるのと同じだ。剣術には甲冑剣術というものがある。これは鎧の継ぎ目を狙う事に特化した剣術なのだが、シオンに関してはどこを斬ったとしてもダメージを与える事ができる装備だった。



 構えは素人、装備は貧弱。合理的に解釈すればシオンは弱いことになる。



 だがジュンは先ほどシオンの速さと跳躍を見ていた。



 ――こいつの不合理を弱さと見るな。



 ジュンはガラ空きの背中に右手に持つ「雷神」を入れたくなるのを我慢した。ジュンの勘が告げていたのだ。=そこに攻撃するな!=と。


 このジュンの躊躇う様子を見ていた為かシオンがジュンに声をかけた。



「ん? こないのか二刀使い? ならばこっちから行くぞ」



 シオンは背中がガラ空きな状態から更に低く構えるとジュンの左側に向かって恐るべき跳躍を見せた。その跳躍スピードは五輪の書(ダブルソードマスター)を使う事によって微かに見る事ができる程度のものだった。そのぐらい速かった。


 繰り返すが五輪の書(ダブルソードマスター)は1秒後の未来の残像が見えるスキルだ。残像は一歩ごとにスピードを増しジュンの頭に対し「右手のみでの突き」を繰り出すシオンを映しだした。


 このシオンに頭を串刺しにされる未来が見えたジュンは首を寝かせ「突き」を回避する行動をとる。その直後ジュンの頭をシオンの日本刀がかすった。


 ――あぶねぇ!!


 コンマ1秒ほどジュンの回避が遅ければ恐らく頭を串団子のように串刺しにされていただろう。

 だが「片手での突き」は腕を伸ばしきる為に次へ繋がる動作がしづらい攻撃なのだ。ジュンの戦闘経験から言えばこれは明確なシオンの隙だった。


 ――よし! 攻撃だ!


 ジュンはシオンの右腕が伸びている間にその腕を斬り落そうと右手に持つ「雷神」で攻撃しようとするが、その刹那、ありえない残像が目に飛び込んできた。


 それは先ほど避けたハズの「突き」の攻撃が瞬時に「払い」に変化しジュンの首目がけて襲いかかって来たのだ。


 ジュンはほとんど本能的に左手に持つ「一度きりの刃」で、シオンの「払い」を受け止めた。



 ジュンに二度の攻撃を止められたシオンは反撃を避けるためにバックステップを踏み元の位置に戻ってゆく。だがこの二度の攻撃を受け止められた事はシオンにとってもちょっとした驚きだったらしく、また言葉を洩らした。



「ふむ……いいぞ二刀使い。褒めてやる。まさか僕の二段攻撃を避けるとは思わなかった……」



 二つ。この僅か二つの攻撃でジュンの心は千々(ちぢ)に乱れていた。



 ――“五輪の書(ダブルソードマスター)”がなければ殺されていた!



 シオンのレベルは現在18。ジュンのレベルはというと3時間前の戦いでレベルは11にまで上昇していた。


 だがそういったレベルの違いだけではなく、シンプルに実力が違うのだ。そもそもこんな風に剣が動くのか? とジュンは思っていた。



 ステップの変化なしの片手による「突き」からの「払い」



 普通はこんな動作など不可能なのだ。

 突きとは攻撃の終わりが腕を伸ばしきる、ゆえにその状態からの横に払うという動作は不可能に近かった。いや、可能かもしれないがそれは伸びた腕から縮める動作の時に少々横に払えるといった程度のモノで到底「攻撃」と呼ぶには程遠いモノのハズなのだ。もしも本当に攻撃をするというならバックステップを踏みながらの話でノーステップでしかも片手という事を考えるとありえない動作に近かった。だが目の前の男は間違いなく今それをやってのけたのだ。


 ジュンは自分の人生においてこれほど奇怪な剣術を見た事はなかった。これはつまり予測が利かないという事である。予測が利かないということは未来の事実を伝える五輪の書(ダブルソードマスター)の効果が切れた途端に、シオンの攻撃を一切防げないことを意味していた。



 ジュンはハッキリと“五輪の書(ダブルソードマスター)”の終了時間を頭に入れているわけではない。だが恐らくハンググライダーが飛翔した直後から使っているので長くて4分、短くて3分程度だろうと思った。



 ――最高でも4分後までにコイツを殺さなければ俺は確実に殺されるわけだ。



 覚悟を決める時間だった。

 たとえ四肢をもがれようが攻撃するしか死を逃れる手立てはないのだ。


 だが見えない。ジュンにはこの男を攻略する手段が見えないのだ。それもこれも、どの動きもジュンの常識範囲外の動きだからだ。ただ強いだけなら対策はたてられるが、こいつの攻撃はそもそもおかしいのだ。基本が無いとでもいうべきか、まともな剣術ではないのだ。


 しかし、攻撃する以外にどんな道があるのか……いやないのだ。数分後に手遅れになる前に。目の前の相手を殺すしかジュンの生き残る道はないのだ。


 ジュンは構えをやや攻撃型に変化させる。



 この構えの変化にシオンも気づいた。



「ようやく()る気になったか二刀使い」



 ジュンは自分の芯の部分が震えているのが分かった。ジュンは時々野生の勘の様なモノが働き幾度となくピンチを切り抜けてきた。その勘はいつもジュンを助け続けてきた。その勘が告げているのだ。=もう逃げろ、戦うな= と。ジュンの勘はバルダー城内にいる全ての仲間を見殺しにしてこのまま逃げろと告げていた。


 ――やっと仲間になれたんだ。皆と。このまま放って逃げれるわけがないだろ。俺が逃げたら皆はどうなる?


 =死ぬな……ほぼ確実に死ぬ。だがそれがお前とどんな関係がある? ここは逃げろ、バルダー城内にいる人間の事は忘れろ=


 ――俺はコイツを倒して皆を救うんだ!


 =死ぬぜ? 板東や時太郎がそんな価値があるとでもいうのか? お前が命をかける価値が? ないね。お前が唯一大事なのはモトヤだけだ=


 ――何度も言わせるな! 俺はコイツを倒して皆を救う!


 =おいおい、こいつらはタダの肉の塊だぜ? 無価値だ。だから今まで躊躇いなく斬れたんだろ? 板東や時太郎やその他大勢だって同じさ無価値な肉の塊だ。思い出せ。城に居る奴等は全部無意味で無価値な存在だ=


 ――違う!!


 =まぁどっちにしろそろそろ決断しないとな、どうやらシオンは待ってくれないみたいだぞ、ホレ前見ろ前=


 ジュンが前を見ると既にシオンは眼前に迫って来ていた。そのシオンがジュンに語りかける。


「戦いの最中に考え事か?」



 シオンの攻撃は鋭かった。ジュンはその攻撃をどれも寸前の所で防ぐ。恐らく“五輪の書(ダブルソードマスター)”が無ければ一秒もたなかっただろう。シオンが攻撃する合間にジュンも斬りかかるが、どの攻撃も面白い程に空を斬った。その実力差は歴然だった。



 シオンは一度バックステップで元の位置まで戻ると例によってまた背中が隙だらけの低い構えを見せた。ジュンにはチャンスに思えた。斬り合いの最中のシオンは隙などまるでないのだが、このおかしな構えをしている間だけは隙だらけなのだ。



 =行くな! 攻撃に行くな! 背中を攻撃すれば死ぬぞ=


 またもジュンの中の本能がジュンの行動を咎めようとする。だが、この構えを逃せば次はいつチャンスが来るか分からなかった。


 ――前へ行け!! 残りの時間はもう少ないぞ!!


 =やめろ!!=


 ――俺はコイツを倒して皆を救うんだ!!! もうお前は黙れ!! 俺は新たに出来た友人たちを見捨てない!! それが杉原淳二だ!!


 理性と本能。せめぎ合う二つの心であったが、ジュンはついに決断を下した。


「うぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 ジュンはシオンのガラ空きの背中に右手にもつ「雷神」を打ちこんだ。ついに理性が勝ったのだ。この攻撃はシオンを倒し、バルダー城にいる皆を救うための攻撃だった。


 だがジュンは攻撃直後に“あること”に気付いた。



 ジュンの左足の“すねから先の部分”が無いのだ。


 ――左足がない! 左足がないぞ??


 そしてシオンの背中に打ちこんだハズの攻撃は空を斬っていた。


 ジュンは何がおこったか分からない。



 ――!!



 その直後五輪の書(ダブルソードマスター)の作りだす1秒未来の残像がジュンの体をちょうど竹を割ったみたいに真っ二つに切り裂く姿が見えた。その残像は股間のあたりから頭までちょうど一直線に切り裂くような残像だった。



「ぐあああああああ」


 ジュンは残った右足を踏ん張り力の限り後ろに飛んだ。真っ二つになる未来から逃れる為だ。


 するとちょうどシオンの刀が空を斬る所が見えた。



 ジュン達の戦っていた“こんもりした丘”は若干の坂になっており、後ろに飛んだジュンはそのまま後ろに転がりちょうど、最初にハンググライダーで降り立った地点まで転がって行った。


 ジュンはすぐさま前を向く。するとシオンがゆっくりとこちらに向かってきていた。


 ジュンはシオンの会心の一撃を避けることに成功したのだが、勝負は既についたと言っても良かった。剣術の基本は足である。踏みこんで相手の懐に入るのも、逃げるのも、重心移動させるのも、剣のありとあらゆる動きが足によって成り立っている。足が無くなる事は腕が無くなるよりも不幸なことだった。


 つまり左足が無くなった時点でジュンの勝機は万が一にもあり得るハズがなかった。


 本能が正しかったのだ。


 勝利を確信したシオンは無表情のまま口を開く。



「痛みがなく左足が斬れてビックリしたろ。あれは騎士の職業スキルで「麻酔斬り」って技だ。痛みっていうのは何のためにあるか知っているのか二刀使い? 体に危険を知らせる為だ。つまり痛覚っていうのは生きるためには貴重なモノなんだ」


 シオンは手に持っている日本刀をもう片方の手で柄の部分を指ではじきながら近づいてくる。


「しかし、聞いていたよりもあまり強くなかったな……。僕が背中を見せていた意図が分からなかったみたいだしね……。ああやって背中を見せると十中八九敵は僕の背中を攻撃しようとする。それを僕は前にダッシュして()わし、足を斬る。足を斬った時点で勝負はつくからね。僕が低く構えた時点でその意図を察しなきゃなね。まぁそんなに悪くはなかったよ。安心して死にな」



 既にジュンは足を斬られていて逃げる事すらできない。



 ――くそ!! くそ!! 俺は死なねぇ!! 死ぬもんか!!



 シオンは既にジュンの目の前にいた。ジュンは最後の抵抗を試みる。


 ジュンは上半身だけおこして右手の「雷神」でシオンに斬りつける……だがシオンに「雷神」ごと弾き飛ばされる。「雷神」は4mほど離れた草むらの上に落ちた。


「雷神」を弾き飛ばされたジュンは咄嗟に落ちていた“ひのきのぼう”を拾い上げた。


 シオンは“ひのきのぼう”を拾い上げ防御しようとするジュンを哀れに思った。“ひのきのぼう”の耐久値は誰もが知る最低レベルで、シオンの持っている日本刀「和泉守兼定」の攻撃をもってすれば「ポキ」という乾いた音をたてて折れる以外の選択肢はなかったからだ。まるでA4用紙で銃弾を防ぐみたいなものだ。



 この時ジュンは左手に持つ「一度きりの刃」でシオンの日本刀を持つ右腕を狙っていた。そのことにシオンは気づいていたが敢えて無視した。それよりも速くジュンの脳天をブチ割る事が確実だからだ。なにせシオンの攻撃を阻むものはジュンが右手に持つ“ひのきのぼう”以外にないからだ。


「さらばだ!! 二刀使い!!」


 シオンは「和泉守兼定」をジュンの脳天に振り落とした。

 二人の時間はまるでスローモーションのように流れる。


 そして……ジュンの頭は真っ二つになった……ハズだった。



「なぁにい!?」



 それはまさしくありえない光景だった。シオンの「和泉守兼定」をジュンの「ひのきのぼう」が受け止めているのだ。


 シオンはこの現象の意味が分からなかった。「ひのきのぼう」程度の耐久値で「和泉守兼定」の攻撃を受け止めることなど出来る筈が無いのだから。


 “そんな馬鹿な”とシオンが叫びかけたその時、更なる不幸がシオンを襲う。


 ズバン!!


 肉と骨を絶つ音がこんもりした丘に流れた。

 ジュンの「一度きりの刃」がシオンの右腕を切断したのだ。



 この“ひのきのぼう”こそがジュンの二つ買った必殺のもう一つの武器だった。



『ああ、おっちゃん、これとこれを売ってほしいんだ』


『え? これとこれですかい? でもこりゃあ……“一度きりの刃”と“ひのきのぼう”じゃねぇですか……あんた鷹の団の近接戦闘部隊の隊長さんだろ? こんなもん買ってどうするつもりです?』


『いいから売ってくれよ、ほらこれで金は足りるだろ?』


『へぇ……旦那がそれでいいならこっちは何も問題ないですけどね。返品は困りますよ?』


『分かってる分かってるって!!』



 ジュンは以前始まりの街で買い物をした時に「一度きりの刃」を最強の武器として買う一方「ひのきのぼう」に関しては“絶対に敵が油断する武器”として買ったのだ。


 すでに本作で何度か述べているが“五輪の書(ダブルソードマスター)”の特性は1秒先の未来が残像となって見えることと、装備している武器の耐久度が最高値まで上がることだ。それはもちろん装備すればどの武器も同じだ。


 それが例え“ひのきのぼう”であってもだ。だがそれを知らないほとんどの相手にとってはただの貧弱なもろい“ひのきのぼう”に過ぎないだろう。そしてもしも自分が攻撃しようと思う相手が“ひのきのぼう”で守るとしたらお構いなしに斬りつけるだろう。


 ジュンはそれを狙っていた。


 最上級クラスの武器を最弱のひのきのぼうで守れるとは誰も思わないからだ。







「ぐあああああああ」


 シオンの叫び声がこんもりした丘に鳴り響く。シオンの右腕が切断されたからだ。


 シオンがまず考えた事はこの場からの離脱だった。これ以上のジュンの攻撃を受け続ける事は危険と判断したのだ。シオンはとりあえずそのために両足を踏ん張りダッシュで逃げようとするが、一瞬遅かった。その時には既にジュンの左手にもつ「一度きりの刃」でシオンの足のアキレス腱の部分を斬り裂いていたからだ。


「ぐああああ!! くそおおおお!!」



 ――逃がさん! ここでシオンを逃がしたら死ぬのは俺だ。今ここで! シオンを殺すんだ!!


 ジュンは“ひのきのぼう”を投げ捨てると右手と右足で芋虫のように這って前進し左手に持つ「一度きりの刃」でシオンの頭を狙った。既にシオンは武器を装備していない、シオンの日本刀は切断された右腕が握りしめているからだ。



「死ね! シオン!!」



 両者の時間がスローモーションのように流れる。

 ジュンが左手に持つ「一度きりの刃」の狙いを頭に定め、腕を縮ませ、今まさにシオンの頭を攻撃しようとした、その瞬間――


 ジュパ。


 若干の痛みと共にジュンの左胸から剣のようなモノが飛びだした。



 ――あ? 剣が? どうして?



 ジュンが振り返るとそこには見慣れない一人の兵士がいた。兵士は剣をもっており、その剣はジュンの背中を突き刺していた。



 ――し、心臓をやられたのか?



 剣は左胸から飛び出ていた。心臓をやられたのだ。弱点を攻撃されたのだ。


 最早助かる道はなかった。右上に見えるHPメーターがみるみると減っていき、ついには無くなった。



「お、おい……ウソだろ……」



 ジュンは1対1を意識しすぎていた。ここが城外で敵の本陣だということを忘れていた。突然の兵士の接近に気付かなかったのだ。“五輪の書(ダブルソードマスター)”はあくまでもジュンの視界に映る範囲の未来しか見せない。ジュンは最後の最後でミスを犯したのだ。



 ――視界が……どんどん暗くなっていく……。



 ジュンは自分の死を悟る。キャッスルワールドの最初にそう老中の真壁から説明されていたからだ。


 ――待ってくれ……待ってくれ!! 俺は……俺は……。



『ああ……必ず生きて帰ろう……俺とジュンならやれる。やれるはずだ』



 ――モトヤ……俺は……。



『だな! 無敵の二人の名を轟かせてやろうぜ! 甲南高校を日本一有名な高校にしてやるんだ! 異名もほしいな……俺なら二刀流のジュンとか! モトヤは……なんだろうな? 魔物使いのモトヤとか?』


『なんで俺だけ職業名くっつけただけなんだよ! もっとカッコイイ異名にしてくれよ』



 ――お前と二人で……生きて帰りたかっ……。




 ――…………。




 …………。









 モトヤがバルダー城に着いたのはこの1日後のことだった。


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