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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第045話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(15)


 バルダー城から飛び立ったハンググライダーは約70m付近までほぼ垂直に上昇すると、そこから1kmほど北にあるオリジンの本陣を目指す。


 ジュンとホークマンはまずハンググライダーのコントロールバーと呼ばれる部分を握りしめ機体を安定させた。それが終わるとジュンは前を見た。



 ――うお!!!



 70mからの景色というのは絶景である。しかも風が肌にあたり景色が移り変わる快感は一度知ってしまえば抜けだせない快楽性を帯びている。



 ――平時に飛んでみたかった。



 ジュンは強くそう思った。ジュンは現実の世界も含めて空から大地や空を見るという経験をしたことがない。と同時にこの空の遊泳のような体験こそが自分が求めていた遊びであると実感していた。



 ――俺はゲームなんかじゃなくこういうモノにハマれば良かったんだ。ん? そういやこれもゲームだったな。



 ジュンが自分の思考の面白さにクスッと笑いかけた直後、バルダー城から飛び立ったジュン達の乗るハンググライダー目がけて大量の矢がまるで鮭が滝を昇るように向かって来た。ジュンはこの邪魔者を速やかに取り除く必要があった。


五輪の書(ダブルソードマスター)


 ジュンはもっていた“ひのきのぼう”で自分に飛んできた矢をはじく。五輪の書(ダブルソードマスター)はたった5分間しか使えない技だ。だが1分ほどで着くなら4分は戦えるとの計算がジュンにはあった。


 ――勝負は恐らく一瞬で決まる。4分もいらん。


 ハンググライダーは500人の敵の上空という危険地帯を抜け、徐々に白老とシオンと会計士が待つ丘に近づいて行った。


 ジュンの下から敵の声が聞こえる。


「ありゃハンググライダーじゃねーか?」

「どうしてハンググライダーが?」


 予想通り最初の500人ほどいるバルダー城の手前の一帯を過ぎれば後はまばらに敵がいるだけでちっともこちらに攻撃してこない連中ばかりだった。あとは会計士に逃げられないことだけがジュン達の関心事だった。ホークマンは狩人で目が良い特性を持っている。その能力で陣幕のあたりを監視しているハズだった。


 ジュンはホークマンの方を向くとホークマンの顔は苦痛で歪んでいた。少し後ろに目を移すとホークマンの体にそれなりの本数の矢が刺さっていた事に気がついた。ホークマンは痛みをギリギリで堪えているといった表情をしていた。


「ホークマン!!」


「クソッタレ……よく分かんねーがこの矢……やけに痛みやがる。たぶん矢の先に何か塗ってある……」


 キャッスルワールドは五感を刺激するゲームとはいえ痛覚に関する感度はやや鈍い設定になっている。なので少々矢を受けたくらいで痛みなどそんなに無いはずなのだ。だがこのホークマンの刺さっている矢はどうやら特別製みたいで相当痛みがあるみたいだ。


「耐えろ! ホークマン! 耐えろ!」


 ジュンは懸命に声をかけるが、その声はホークマンには届かなかった。すでにホークマンは気絶状態にあったからだ。ジュンはホークマンの代わりにコントロールバーを握る。操作の仕方など分からないが勘でやるしかない。ホークマンは腰に付けたハンググライダーの本体と直結しているバンドによってハンググライダーから振り落とされずにすんでいた。そのホークマンの体にしがみついていたブリントはこの想定外の事態にジュンに声をかける。


「ジュン! どうするの?」


 想定外のプランなどジュンにあるハズがない。だが幸いな事に花火の打ち上げセットはジュンのアイテム欄に入ったままだ。ホークマン抜きでも作戦の実行は可能だった。


「仕方ねーだろ2人でやるしかない! だが安心したのはコイツが気絶したままでも人生スキルは消えないってところだ。ハンググライダーは健在だしな。俺達はこのまま敵の本陣を引き続き目指し、着いたら素早く会計士を見つけ出して殺す。ブリントはかたっぱしから不思議な銀紙(キャンディキャンディ)で敵を包んでくれ。できればトドメもさすんだ」


 不思議な銀紙(キャンディキャンディ)に包まれた人やモンスターは極端にパラメータが低くなり、ほぼ踏む潰すだけで殺せるようになる。トドメをさせというジュンの言葉はようするに“踏み潰せ”と言っていたのだ。


「分かった! でもホークマン様をどうすればいい?」


「確かホークマンから人生スキル発動棒をもらってたよなブリント。着地と同時にあれでホークマンを刺してくれ、本陣を奇襲しに行くのにこっちの大将がやられちゃ洒落にならん。ホークマンはこのままどっかに飛んで行ってもらう。回収はあとでいくらでもできる」


「OK! じゃあホークマン様には着地と同時に人生スキル発動棒で飛んで行ってもらうわ」


 ジュンは頷く。気絶したホークマンは敵の的になるだけでジュン達には足手まといにしかならなかった。更に殺されると鷹の団はクランごと消滅する事になる。このままどこかに行ってもらったほうがチームにとっては都合が良かった。だがやはり3人での奇襲が2人になるのはかなり痛かった。


 ――敵の本陣についたら最初の数秒で全てが決まる。ミスは許されない。


 ジュンとブリントは安全装置である腰のベルトを外した。あと少しで敵の本陣に到着するからだ。すると珍しくブリントの方から話しかけてきた。


「アタシ気に入らなかったのアンタが……簡単にホークマン様の信頼を得たから」

「……」

「今だって気に入らないわ。でもアンタのおかげでバルダー城は持ちこたえたわ……気に入らないけど……そう助けられたのよアンタに命をね……。だからこの戦いが終わればアンタとは初めて仲間になれそう。そうよねジュン?」


 ジュンはブリントの言葉を聞きながら、ブリントの心の声を聞いた気がした。そして直前にそんな事を言いだした真意も分かったような気がした。怖いのだブリントは。恐ろしいのだ。彼女は恐らくこの作戦から生きて帰れないと思っている。だからこんなに未来に希望を持ちたがる言葉を呟くのだ。ジュンに希望を見せてほしいのだ。仲間で良かったと思いたいのだ。


 仲間ならばそれに応えなければならなかった。


「さっさと終わらせてバルダー城に帰ろう。今日は俺とブリントが仲間になった記念日になるな」


 このジュンの言葉にブリントは軽く笑うと前を向く。

 ジュンは自分には既に新たな仲間がいるのだと悟った。ブリントが板東が時太郎がホークマンが……そしてヴァシリーが……。ジュンはヴァシリーの一瞬の言葉からヴァシリ―の心理を読みとっていた。ヴァシリーは全てを裏切りながらまだ仲間を捨て切れていないのだ。ヴァシリーはまた仲間になるハズだ。ジュンは強くそう思った。


 そしてこの新たな仲間にモトヤを加えキャッスルワールドを生き延びるのだ。

 ジュンの手に力がみなぎる。



 ――やってやるさ。やれないハズはない。俺は“二刀流のジュン”だぜモトヤ。



 陣幕に包まれた敵の本陣が眼前に迫る。ジュンはブリントの顔を見た。ブリントもジュンの顔を見る。会計士を殺し生き延びる。二人の想いは共通していた。



「よし降りろ!!」


 ジュンの合図で二人はこんもりした丘の手前に降り立った。


 ジュンは足元に“ひのきのぼう”を落し、ブリントは何も言わず素早く人生スキル発動棒をホークマンに向かって投げつけた。するとハンググライダーは再び40mほど上昇し、そのまま北に進んでいった。

 その行方を眺めていたブリントに不意に陣幕の中から敵兵が現れ斬りかかってくる。

 驚いた人間は頭で分かっているのに体が動かないといった場面に遭遇することがある、この時のブリントがちょうどそのような状態で敵の攻撃に身動き一つとれなかった。


 ブリントが死を覚悟したその瞬間、ジュンの剣「雷神」が正確に敵兵の頭を貫いた。いつの間にかジュンは右手に「雷神」左手に「一度きりの刃」を装備し戦闘態勢に入っていた。


「ブリント行くぞ」


 ジュンは短くブリントに言葉をかけると5mほど走り素早く陣幕を斬った。すると陣幕はハラリと垂れ落ち本陣の中が露わになる。


 ジュンは思考を上回るモノを知っていた。それは速さだ。連続して想定していない事象がおこると人の脳は思考を止める。本陣に構えている頭脳明晰の面々を仕留める最適な手段は思考を上回る圧倒的な速さだった。


 陣幕が地面に落ちきる前にジュンは敵の人数を確認する。



 ――10人!!


 そしてネームの確認。


 ――白老、インス、シオン、来島、会計士……会計士!! 見つけた!! 見つけたぞ!!


 後は全員を不思議な銀紙(キャンディキャンディ)で包み殺すだけだった。



「ブリント!! 全員に不思議な銀紙(キャンディキャンディ)を!!」



 ジュンが言いかけたその時、ブリントは既に手に持っていた不思議な銀紙(キャンディキャンディ)を10人全てに目がけて飛ばしていた。


 間髪いれずとは正にこのような行動を指すのだろう。その行動は素早く、相手に思考の時間を許さなかった。それにブリントのスキルはある意味特別だった。何故なら“ファーストボーナス”という特典がスキルに付与されていたからだ。ブリントの人生スキル“不思議な銀紙(キャンディキャンディ)”はキャッスルワールドにおいて最も早く発現した人生スキルだった。開発者の安城は人生スキルが最も早く発現した人にのみ“少しばかり強力なスキル”が発現されるように設定していた。銀紙で包んで身動きをとれなくさせ、更に相手を踏み潰すだけで殺せるくらい弱くするスキル。恐らくこれほど強力なスキルは他にないのではないだろうか? このスキルが思考の間もなく襲ってくるのだ。襲われた方はたまったものではないだろう。


 予想通りブリントの素早い攻撃に敵は反応できず、どんどん銀紙の中に吸い込まれ両端をねじったような形状にみるみる変化してゆく。



「なんだこれは!!」

「ぎゃあああ体が小さくなる!!」



 陣幕の中に入り思考の中断をしていた白老も他の人々と同じで膝のあたりに銀紙が付着し、ほとんどなすすべなく銀紙にくるまれて小さくなっていった。このような展開は白老にとっては予想外であった。


 時間にして僅か3秒程度の出来事だった……。本陣に残っていた10人はそのほとんどが銀紙にくるまれた状態になった。白老も、会計士もである。




 ――よし!


 ジュンがそう思った直後。

 ブリントが飛ばした不思議な銀紙(キャンディキャンディ)の内の一つが突如として綺麗に半分に分かれた。それが「分かれた」のではなく「斬られた」とジュンが認識した時には、既にブリントに向かって影は動き出していた。



 ジュンはキャッスルワールドに来てから何度も死線をかいくぐってきた。ホラフキン達に強襲された時、バルダー城を攻略した時。多くの人間と戦い、そして殺してきた。もう数えることすら出来ない。しかし、いま見ている影の動きは今まで戦ったどの人間達よりも速かった。いや、もはや「人間」という枠組みすら越えた一種の化物のようにジュンには思えた。


 そのためだろうか、その影がブリントに一直線に向かうことを五輪の書(ダブルソードマスター)で見えていたはずなのに、ジュンの身体は自らの意志に反して一瞬ブレーキをかけたのだ。


 =動くな、死ぬぞ=


 ジュンの本能は濃厚にこの影と戦う事を恐れていた。だがブリントの近接戦闘能力は皆無に等しい、この化物がブリントに近づけばどうなるかは火を見るより明らかであった。


 ――どうした!! 俺の身体!!!


 ジュンはあらん限りの大声で少女の名を叫んだ。


 「ブリントオオオオオオ!!!!!!」


 ジュンがやっと「雷神」を手に持ち動き出した時、その影……黒一色の男がブリントの前に立ちふさがり、手にしていた日本刀でブリントの左胸を突き刺す姿が見えた。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 ジュンは黒一色の男の首筋に向けて「雷神」を振り切る。

 だがその黒一色の男はブリントの左胸から刀を引き抜くと信じられない事にジュンの攻撃をまるでマトリクスの弾丸を避ける動作のように素早く()わし、同時にバックステップを踏み、元居た位置まで戻ったのだ。


 ジュンはすぐさま二刀を黒一色の男の方に構え、地面に横たわるブリントに声をかけた。


「ブリント! 回復アイテムだ! 回復アイテムを使え!!」


 ブリントからの返事は無い。

 ジュンは黒一色の男から目が離せないため、草むらに横たわるブリントが草の陰に隠れ見えなかった。


「おい! 返事をしろ!!」



 黒一色の男はこのジュンの行動を見て首を左右に振った。


 ――あ?



 首を左右に振り終ると黒一色の男は下あごをブリントの横たわる草むらの方につきだしジュンに語りかけた。


「その女は既に殺した。お前も見たのだろ? 僕の刃がそこの女の心臓を貫くのを……ならば語りかけるのは偽善というものだ。そういうのはもういいだろう。ここは現実世界では無い、偽善は必要ない」



 ジュンはこれほど心がこもっていない声を聞いた事がなかった。


 ――偽善は必要ない……だと?? あ? 何言ってやがる。



 黒一色の男はほぼ無表情で自分の仲間たちが銀紙に包まれている様を確認する。



「その女を殺せば元に戻ると思ったが、影響は残るらしいな……この銀紙の効果が続くのは5分か? 10分か? まぁいい……お前達の狙いは分かっている。会計士を殺しに来たんだろ二刀使い。お前達がこんな所にくる理由なんてそれくらいしかないだろうからな」


 そう言うと黒一色の男は無表情な顔のまま白老と会計士と思われる二つのキャンディの形をした銀紙を拾い上げ自分の胸ポケットに入れた。


「お前の噂は実は白老から聞いていてな……前々から殺すのを楽しみにしていた。だがまさかお前の方から出向いてくれるとは……助かったよ二刀使い」



 黒一色の男が長々と喋る間、ジュンはその男をずっと見ていた。すると自然に男のネームが目に入る。



「てめぇがオリジンのリーダー“シオン”か」



 ジュンの言葉を聞きき多少口元を変化させたシオンは日本刀を構えた。ジュンが知る限りどの剣道の構えにも該当しない構えだった。


 ジュンは目の前の相手が全てを賭けないと倒せない対象であることを悟り、1対1の相手の為に特別に編み出した二刀流の構えを披露する。



 二人の目が合った。



 キャッスルワールドにおいて最も強い二人が対峙した瞬間だった。


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