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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第044話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(14)



 ジュンとブリントとホークマンがハンググライダーに乗る40分程前に時間は戻る。




 バルダー城の外壁北側壁上でジュンとホークマンと時太郎と板東はオリジンの600人の謎に迫り会計士を殺せば目の前の敵の軍隊がすぐさま崩壊することを知った。となるとこの後に必要なのが如何に会計士を殺すかという事だった。時太郎の双眼鏡による調査のおかげで会計士は白老やシオンや他の軍隊と一緒に1kmほど北にある“こんもりした丘”の陣幕の中にいることは既に分かっていた。


「会計士を殺せばいいんだな? でもどうする? その為の策はあるのか?」


 元来ジュンはシンプルな性格だ。ジュンが今一番聞きたい事はつまりそれだった。だが誰がどう考えても分かる事実がいくつかあった。それは……会計士は恐らくこの戦いの間は本陣から出てこないであろうことだった。唯一、城の外にいて敵の兵士を攻撃できるのが人質クラン達であったはずなのだが、彼等はすでに白老に懐柔され、その軍門に下っていた。つまりもう城の外を攻撃する手段がないのだ。


 何とも馬鹿らしい話であるが、跳ね橋を消したことと扉を石で塞いだことでバルダー城は防御施設としては完璧に機能するのだが、いざ城外へ打って出ようと思っても、打ってでる事ができない城になってしまったのだ。となると後は会計士に直接バルダー城へ来てもらうしかないわけだが……恐らく天地が引っくり返ってもそんな事がありえないであろうことは容易に想像がついた。

 唯一の手段は逆にこちらからハシゴを城壁に架け城外へ降りてゆき、正面の500人の軍隊を突破することだけだったのだが。少数の側の軍隊がわざわざ堀を渡り野戦を挑むなんてよほど頭のおかしな人間か戦術的知識の乏しい人間じゃなければなければそんな選択などしないだろう。そんな選択をするぐらいなら城門にある石をどかせた方が100倍マシな戦術といえる。


 ジュンはジレンマに似た感情を味わっていた。目の前にあるのに手が届かない。答案用紙に書く答えが分かり切っているのに鉛筆が無いというような。あと一歩なのだ、あと一歩なにか良いアイデアさえあれば何とかなりそうなのだ。沢山の犠牲者を出しながら、ようやく倒すべき敵が分かったのだ。ここで諦める事はできない。


 ――奇跡……。何か奇跡のような……方法はないのか?


 ここでジュンは気づく。さっきまで雄弁であったはずのホークマンが“会計士をどう殺せば良いか”という話題になった途端、不自然なくらい沈黙していたのだ。通常であれば答えが分からないから沈黙しているだろうと推測するが、今のジュンは勘が良い。そもそもホークマンこそが“会計士”という答えまで皆を誘導したのだ。それなに“全くアイデアがない”という事はないだろう。何かあるハズだ。


「おい、ホークマン何か言えよ……あるんだろ? 策が」


 時太郎と板東はホークマンの方を向く。

 ホークマンはバツが悪いのか、そっぱを向いた。この行動だけ見てもジュンにとっては随分怪しい行動に映った。だがジュンの視線に耐えきれなくなったのか……ホークマンは大きな溜息をつく。そしてそのあと神妙な面持ちで口を開く。


「策ね……あることはある……。だがもはや策って言えるレベルのもんじゃねーけどな」


 ホークマンの口調からジュンはこれが練り上げられたような策ではなく、むしろかなり無謀かつ強引な類の策だと悟った。だがジュンは聞くべきだと思った。もう既にこのまま行けばかなりの確率で全員死ぬという未来しかないことを承知している為である。


「いいから言ってみろよホークマン」


「チッ!」


 ホークマンは舌打ちした後に、作戦の概要を語り出した。


「敵がもしバルダー城へ次攻撃するとなれば、全軍をあげて正攻法で攻撃することになるだろうな。奴等が手をこまねいている所を見てもこの予想は合っているハズだ。じゃあ全軍がこっちにくるなら……敵の本陣は手薄になる……その本陣まで“飛んでいって”会計士を殺る」


 ジュンも板東も時太郎も“はぁ?”という顔つきになった。


 ――こいつは今“飛ぶ”と言ったのだろうか? “飛ぶ”ってなんだおい……何かの比喩だろうか?


 ジュン達が呆けた目でホークマンを見つめているせいで、ホークマンにその意図が伝わったようだ。ホークマン自身も論より証拠と言わんばかりに“飛ぶ”という言葉の真相を披露した。


「こ、これは……」


 驚愕の瞳でホークマンを見つめるジュン達に向かい、ホークマンが説明する。


「これが俺の人生スキル“鷹の切経緒千切り(ホークグライダー)”だ」


 先ほどまで何もなかったホークマンの後ろには鷹の模様の入った緑のハンググライダーが出現していた。


「まぁ見ての通りのただのハンググライダーだ。一か所違っているのは左腕についたこの腕時計っぽいモノだな。ここにはメモリがあって飛び始めの高さを決められる……らしい」


 ジュンは今ホークマンが喋った単語の中で気になる単語が二つあった。まずは“飛び始め”という単語である。ホークマンは理解しているようだがこっちにはさっぱり伝わってこない。


「あのさ“飛び始め”ってなんだよ……こっちが分かっている前提で喋るんじゃねーよ」


 ジュンがホークマンの説明の不備を指摘すると。ホークマンは舌打ちをしたあとに“メンドクセェなぁ”という態度丸出しで喋り始めた。


「だから……なんて言やぁいいのかな……。この飛び始めの高さを決めるっていう機能は……このハンググライダーが垂直に上昇して地上50mから飛びたいなら、その高さから飛ぶ事をこの腕時計みたいなもんでセットできるって機能なんだ」


 ホークマンは左手の手首辺りについた腕時計のようなモノを皆にかざし、もっと近い所から腕時計を見るように手招きした。


「ほら見ろよ。ここに10とか20って表記があるだろ? これはこのメモリを20って所に合わせたままハンググライダーにある発進ボタンを押すと、今いる地点からハンググライダーが垂直に20m飛びあがって、そこから飛行を始める事ができるってヤツだ。あ~ん例えばだな……今いるこのバルダー城の城壁の高さは30mだから、20mというメモリに合わせ発信ボタンを押すと……地上から50mの地点までハンググライダーが上昇して、そして飛行するという事になる……今度は分かったか?」


 ジュンや時太郎は首を縦に振る。板東は特にリアクションはなかったが、ホークマンはそれで説明を完了した。


 ――まぁ分からなくはない。だがもっと大事なのはこっちの単語だ。


 ジュンは気になる二つ目の単語を口にだした。


「さっき“らしい”って言ったな? “らしい”ってことは使った事はないのか?」


 ホークマンはバツが悪そうに頷く……が、ジュンは更に聞いた。


「一度もか?」


 このジュンの攻め立てるような口調にホークマンがキレた。


「うるせーな! 仕方ねーだろ! こんなスキル使う機会が来るとは思ってなかったんだよ! とりあえずこんな作戦しかねーぞ! これでもやるか??」


 ジュンは板東と時太郎の顔を見る。皆の意思は既に決まっていたようだ。


「他に案がないなら、やるしかないだろ」


 このジュンの一言で。ハンググライダーで相手の本陣を急襲する【会計士殺し作戦】が行われる事に決まった。ホークマンはまず作戦の最重要部分である会計士の死をどうやって相手に知らせるかという方法を考える。基本的に会計士を殺しても500人ほどいる敵兵がそれを信じなければ意味がないのだ。


「同じ色の花火をあげる。これは賭けだが、会計士を殺したら敵の本陣で緑色の即席の花火をあげる……確かあったよな前に職人に作らせた簡易打ち上げ花火が、なあ板東?」


 板東は激しく首を縦にふる。それを確認するとホークマンは再び話し続けた。

「会計士を殺した後に素早く花火をあげる。そして城に残った連中はその花火が見えたなら同じ花火をバルダー城でもあげろ。その後に敵兵に対して会計士を殺した旨を伝えろ。俺達は会計士の首を掲げ大声で会計士を殺した事を告げながらバルダー城まで戻ってくる」


 この言葉を聞きながらジュンは激しい不安に襲われる。


「そ、それ本当に効果があるのか?」


「言ったろ賭けだって! だが敵からしてみりゃ自分達の本陣とバルダー城から同じ花火が上がるっていうのはかなりインパクトあるぜ。少なくともこの花火を打ち上げてるのは自分達の側ではないという事は分かるだろうからな。となるとある程度は動揺するハズだ……そこに賭けるしかない」


 このホークマンの言葉に珍しくジュンはまっとうなアイデアを思いつく。


「じゃあ敵の本陣についたら会計士を殺さなくても花火を打ち上げればいいんじゃね?」


 花火が動揺を誘うならわざわざ本人を殺さなくても解決できる。ジュンはそう言いたかったみたいだが、それは二つの側面で不可能だった。


「この簡易打ち上げ花火は打ち上げ台をセットするのに最低でも1分程度はかかる……それを敵が待ってくれるなら可能だけどな。あとどのみち敵が動揺して攻撃が止まるのは数分程度だろう。その間に俺達が会計士を殺した確かな証拠……つまり“首”を持っていかない限り完全に攻撃がやむ事は無い」


「それで攻撃がやむのか? 本陣に突っ込んだ俺達自身への攻撃も含めてだ」


「奴等だって馬鹿じゃない。本陣が襲われた知らせは敵の500人の軍隊を駆け巡るだろう。すると敵の各クランは事の真偽を確かめたがるもんさ……恐らく、すぐにでも何人かのスパイを本陣に送り込んだりするだろう。そこで本陣が襲われ会計士が死んだという情報を入手して各クランリーダーの所に持ち帰ってくれれば、これ以上無駄な争いはしないで済む。むしろその瞬間に戦いは真に終わると言っていい、なにせ会計士の死後の争いほど無駄なものはないからだ」


 ホークマンもこの予想はかなり希望的観測が含まれると思ったが、でもそれ以上の方法が思いつけなかった。もっと時間的余裕があるのであれば他の手段もありえたかもしれなかったが、これが現時点で出せる最高の案だった。


「対案はあるか?」


 皆首を横にふった。

 そして次にブリントを呼び段取りの話に進む。


「おーブリント来たか」


 ジュンが声をかけたのを無視してブリントはホークマンの横にちょこんと座った。ホークマンは【会計士殺し作戦】の概要をブリントに説明すると次に人員の話に移った。



「俺、ジュン……そしてブリントの3人で行くべきだ。ブリントの不思議な銀紙(キャンディキャンディ)なら敵を素早く捕獲できる。ジュンはブリントの支援だ」


 ホークマンはブリントの方を向く。


「できるか? ブリント」


 縦長の白い帽子をがトレードマークのブリントはその帽子を縦に揺らした。


「できますホークマン様……でも、もうMPが無くて不思議な銀紙(キャンディキャンディ)を生成できません」


「そう言うと思ってコレ用意しといた。MPを全回復できる“マジックポーション”だ。もうこの一個だけだけどな。不足があるならこっちの“人生スキル発動棒”で補え」


 ホークマンはブリントに人生スキル発動棒とマジックポーションを手渡した。

 ジュンはその間にも打ち上げ花火台やら何やらをアイテム欄に注ぎ込んだ。そうこうするうちにハンググライダーの限界重量ギリギリになった。この後はどのアイテムを持っていくか、それとも置いて行くかの取捨選択である。なるべく無駄なモノは無くしたい。


「ちょっとジュン! それ手に何持ってるのよ」


 ブリントはジュンが手に持っている“ひのきのぼう”に気付いた。最も安い武器ですぐ折れる事が特徴の意味のない武器だ。


「これか? まじないだ」


 ジュンの理解不能な答えにブリントは怒った。


「あんたねぇ! ハンググライダーに重要制限があるせいで、さっきから重量を考えて乗せることができるアイテムの取捨選択してるのに、どうしてそんなギリギリの中であんたのオカルト精神を優先させなきゃならないのよ! ふざけてんの?」


 そこにホークマンが横からブリントを諭す。


「まぁいいじゃねーかブリント……“ひのきのぼう”なんて大した重さじゃねーし」


 ジュンに対し鼻息が荒いブリントはそのホークマンの言葉を聞いて矛を収めた。


「ホークマン様が言うなら……」


 どうもブリントはホークマンに対しては従順だ。この差はどこから来るのだろうとジュンは思っていると、見張りの任務についていた3クラン連合の兵士がホークマンの方に向かって大声で叫んだ。


「敵に動きがありました!! 500人全軍が大きく左右に展開し始めました!!」


「始まったか……そして、やはり正攻法でくるか」


 ホークマンはニヤリと笑いジュンを見る。ジュンもこの展開に微かに微笑んだ。オリジンがおよそ初めて想定内の動きをしてきたからだ。正攻法で来るならば必ず予定通りに行けるハズ。

 ホークマンはジュンとブリントを呼び寄せるとバルダー城本城の屋根に上り始めた。ここからハンググライダーを飛ばすというのだ。


「お前らも早く来い。あとの事は時太郎に頼んでおいた」


 ホークマンはバルダー城本城の屋根に上がると人生スキル“鷹の切経緒千切り(ホークグライダー)”を唱えた。するとホークマンの体内から出てきた光の鷹がどんどん大きくなりハンググライダーに変身する。ジュンとブリントがやっと屋根にあがった所でホークマンは二人を見てこれからの事を説明した。


「敵が城にとりつき始めたと同時にここから出発する。恐らくこの飛行で最も危険なのが最初だ。つまり500人程いる敵兵の弓こそが問題だ。大盾は重量オーバーで持って行けない……となると最初の数秒は北側に待ち構える敵兵の格好の的になる」


 ホークマンのこのセリフはつまり最初の数秒でこの3人が全員死ぬ可能性があるという事を言っていた。


「なにか避ける方法は無いのか?」


 当然ながらジュンはホークマンに対策を聞いた。だがそれに対するホークマンの答えは実にそっけなかった。


「矢が届かない高さから飛ぶって手もあるが……最初の飛び始めの高さが高すぎると1km先に着地するためには旋回しなきゃならん、そんなものこの電撃作戦じゃ死ねって言ってるようなもんだ。だから会計士を殺すには最初の高さはある程度は低めに設定して、まっすぐいってサッと降りれるようにする。城壁の高さが30mだから、もう40m高く設定して……70mの高さからスタートしよう。あと1km程度の距離だと恐らく1分たたずに到着する……お前等覚悟はできてるか?」


 城外では鬨の声が聞こえ始めており、城内でも多くの味方の兵が慌ただしく壁上で守りの準備をしていた。その中で3人の周りだけは静寂に包まれていた。覚悟という言葉と1分で着くという現実……。覚悟というのはもちろん“死の覚悟”という言葉の意味を伴っている。ジュンもブリントもホークマンも次に発する言葉が最後になるかもしれないと思った。


「まぁ見直したぜホークマン」


「はぁ?」


 ジュンの思わぬ言葉にホークマンは素っ頓狂(すっとんきょう)な声をあげる。だがジュンはそんなホークマンをニヤリと笑いながら言葉を続ける。


「お前が最初に言いずらそうにしてたのってイザとなったらこれでトンズラかますつもりだったんだろ? だがお前は自分個人ではなくチームという選択をとった」


 ホークマンは大きな溜息の後に、ジュンに言葉を返した。


「別に俺にとって利益が大きい方に賭けただけだ。ここで城を失ったらまた一からやり直しだからな。俺が最終的に生き残るための最善の判断だと思っただけだ。まぁ後はオリジンが気に喰わないってところかな。気に喰わないヤツ等は殺したいって思うタイプだからな、知ってるだろ? ジュン」


 なかなかのブラックジョークだが。もう笑っている暇はないみたいだ。ジュンが使える

五輪の書(ダブルソードマスター)は残り1回分のみ。5分間で全てを完結させなければならない。会計士も白老もシオンも全て……。ブリントは不思議な銀紙(キャンディキャンディ)を既にそこそこの数を生成して手に持っていた。


 “戦場の音”がジュンの耳に聞こえてきた。怒鳴り声や叫び声、悲鳴や矢の飛ぶ“ヒュン”という高音もその耳には聞こえてきた。戦闘が始まったという事だ。この音は合図の音だった。俺達が飛び立つ死か勝利しかない旅への。


「じゃあ行くぜ、ジュン、ブリント! 最後の作戦。【会計士殺し作戦】を開始する!!」


 ホークマンとジュンとブリントはハンググライダーから振り落とされない為のバンドを腰に装着し飛ぶための準備を整える。

 ジュンは前を見た。

 そこには滑走路ともいうべき屋根がある。その前には北側の城壁と、そして……空。

 ホークマンはカウントを開始する。


「3、2、1」


 ――やってやるさ!


「ゼロ!!」


 ホークマンとジュンはハンググライダーのダウンチューブと呼ばれる横棒を握りしめ一緒に屋根を走る。ブリントはホークマンの背中にしがみつきおんぶされた子供のように揺られている。


「よし! しっかり掴まれよ! 飛ぶぞ!!!」



 ホークマンは手元にあるボタンを押す、するとハンググライダーがほぼ垂直に飛びあがってゆく。


 目指すは1km先の敵本陣。


 死か勝利か。

 賽は投げられた。


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