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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第039話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(9)


 ギィィィィバタン!!!


 バルダー城の跳ね橋が軋むような音をたて地面と激突した。跳ね橋が下りたのだ。


 それはバルダー城を守備する3クラン連合の人々にとって天変地異とも言える現象だった。城壁の内側から操作しなければ下りる事のない跳ね橋が、突如下りたのだ。大軍を目の前に跳ね橋を下ろし、城の内部へ導くなど自殺行為以外の何物でもないのだが……、跳ね橋は下りてしまったのだ。ヴァシリーの手によって。そのヴァシリーは肩を押え城外に逃げるように出ていった。


 戦闘開始から城門前の跳ね橋のあるところの堀の対岸にいた鉄の塊の男は、跳ね橋が下りたと同時に転がるように跳ね橋の上に乗り上げた。跳ね橋はミシッっと音をたて、重さによって固定された。これが、男の戦争における唯一の仕事だった。


 男の使っている人生スキルは鋼鉄男(アストロボーイ)というスキルで、防御力が最高の値になるのだが同時に自身の重さが2トン近くまで重くなり身動きがとれなくなる、という類のモノだった。男が跳ね橋に乗ったことによって、跳ね橋は上げようとしても上がらない状態になった。つまり、3クラン連合はバルダー城の城門が開きっぱなしのまま戦う事を余儀なくされたのだ。


 その跳ね橋の上を何十というオリジンの兵が渡り、どんどんバルダー城の内部へと突入していく。


 もう、勝負は決まったようなものだった。




「チェックメイトじゃな……」


 バルダー城の北側から1kmほど離れたこんもりした丘の上で白老が機嫌よく指をならした。城門の開いた城など最早防御装置として何の意味もない事を知っているからだ。


 これはヴァシリーを調略によって味方に引き入れた白老の戦果と言っても過言では無かった。


『君のことは何でも知っておるよ……全てね……。レビテンスのことは残念だったね……でも大丈夫じゃ。私はね、君の願望を叶えてあげるために来たんじゃよ』


 白老はバルダー城の攻略に乗り出すと決まってから、バルダー城を占領する鷹の団、ジロンダン、ボコットケモンスターの中のアキレス腱を探していた。その為にバルダー城を占領するクランメンバーに関する情報を方々から集めていた。


「二刀流の剣士ジュン……かぁ」


 既に白老はベストコンボイとの戦闘で綺羅星のように輝く新星を発見していた。ジュンである。ジュンの活躍により鷹の団はジロンダンやボコットケモンスターよりも大分被害が少ない状況で城を奪取したと白老の耳に伝わっていた。白老は人物造形が深い、強い光の近くには必ず闇というものが存在することを知っていた。


「なるほど……ジュンに恋人を殺された女か……。使えるかもしれんなぁ」


 ジュンの近くにはヴァシリーという闇があった。そして情報収集するうちにヴァシリーの恨みや怒りは相当大きい事に気付いて来た。ヴァシリーの倫理観の確かさも白老にとっては大きな魅力だった。倫理観を持つ人間に対しては理よりも情で説得する方が確かなのである。


「この女は崩せるぞ……間違いない」


 そしてあの夜に至るのだ。


『もう一度言うがね。私はね、君の願望を叶えてあげるために来たんじゃよ』


 ヴァシリーは筒の中から発せられるしわがれた老人の声に答えた。


『私の願望?』


『そうヴァシリー……君の願望じゃ……殺したいんじゃろ? ジュンを……』


『!!』


 ヴァシリーは自分の奥底にある複雑な感情を言い当てられ何も言えなかった。


 この夜から白老とヴァシリーは筒を通して何度も通信し合い信頼を深めた。信頼を深めたというよりは洗脳にかかったと表現する方がいいかもしれない。ヴァシリーは白老と通信するうちに人殺しをするジュン、人質をとるホークマンという悪を倒すことこそが自分の義務なのではないかと思えてきたのだ。


『ヴァシリー、第二第三のレビテンスを出さない為に、もう皆に悲しい思いをさせない為に、ここで悪を葬らなければならんのじゃ……やってくれるね?』


『……でも』


『君がやらねば誰がやるというんじゃ? 大丈夫、君はただその切欠を作ってくれるだけでいいんじゃ。あとは私に任せればいい』


『…………はい』


 通信は日に5~6度にも昇る時もあり、ヴァシリーは大事な秘密を惜しげもなく白老に話すようになってしまっていた。


『ではホークマンは人質クランという者達を率いているんだね?』


『……そうです。大きな赤い旗を突撃したい方向にたてる事によって彼らがオリジンの背後に突撃する……と聞いています』


 白老はまずはホークマンの作戦を“非人道的な最低な作戦だ”と言い自分を倫理観がある人物であると見せ、その後の指示をした。


『ヴァシリー……君は大きな赤い旗が城にたった時を見計らいひっそりと持ち場をぬけて跳ね橋を下げるのじゃ……。もう悪を倒すにはそれしかないんじゃ。悪に正義のレビテンスの心を思い知らせなければならないんじゃ。戦争が早く決着がつけばそれだけ死人は少なくて済む。私は3クラン連合の人々も救いたいんじゃ。皆で共に生き残るには悪を倒さなければ……悪を倒すには跳ね橋を下ろすしかないんじゃ』


『でも……でも……』


『大丈夫じゃ……降伏してくる者に対しては絶対に殺しはせん。約束しよう』


 白老は我ながら短期間でよくもここまでヴァシリーを洗脳できたものだと自分の能力に改めて自信を深めた。白老は何故か人を安心させる優しい声をだせる老人だった。その言葉で人を誘惑し誘導し奈落の底に突き落とすのだ。もちろん白老は城内にいる人間を全員殺すつもりだった。元々ヴァシリーとの約束など何一つ守るつもりはなかった。ただ跳ね橋を下ろさせたかっただけなのだ。白老の中でヴァシリーとは跳ね橋を下ろさせるまでの使い捨ての駒という位置づけだった。なので跳ね橋を下ろした“あと”の指示は何もしていなかった。どうせその戦闘中に死ぬと思ったからだ。


 白老は思考をもはやその生死すらどうでもよいヴァシリーからバルダー城の方に変え戦況を語った。


「奴等の跳ね橋は城門と一体になっている。城門の空いた城で守るなんぞ、ビニールの無い骨組の部分だけの傘で雨をしのごうとするようなもの……もはや城内は平地で戦っているのと同じじゃ、つまり数の多い方が勝つ。圧倒的にな」


 白老の言葉にシオンは黙ったままだ。だが白老はそれでも敢えてシオンに語りかける。


「全くホークマンという男は愚かですなシオン様。調略は(いくさ)の基本、裏切りそうな敵であれば味方につけるというのが道理というもの。部下の情報を管理できない者は“リーダーの器”ではない……ということじゃな。シオン様も御油断なさらぬよう。まぁ、これで(いくさ)は終わりじゃ……後はこちらが相手を殺すだけなのだから」


 終わり。戦争の終わり。一方的なオリジンの勝利での戦争の終わり。それはつまり、城内に残る人々の生殺与奪はオリジンに全て委ねられることを意味していた。キャッスルワールドにおいて経験値は人からしか得られない、となると城内に残る人々の運命は火を見るより明らかであった。


 跳ね橋が下りたことを知るとバルダー城の城内にいる人々の戦意はこれまでにないぐらい下がった。城門が開きっぱなしの城というものがどういうものか皆知っていたからだ。もう負けたということを受け入れるしかなかった。バルダー城という防御装置を背負ってこそ600人という大軍を擁するオリジンと互角に戦う事ができたのだが、最早それは望めないのだ。


「ぎゃああああああ」

「ヤバイヤバイヤバイ!!」

「死ぬぅぅぅうう!!!」


 バルダー城の内部はパニックをおこした3クラン連合の人々で溢れかえった。もうこの状況にホークマンでさえも膝を折るしかなかった。


「完全に……してやられた……まんまとハメられちまった……」



 終わった、終わったのだ。

 跳ね橋が下り城門が開きっぱなしである以上、これから先は真正面から600人を相手に戦わなければならないのだ。3クラン連合の合計が200人である以上約3倍の兵力を持つ相手と正面から戦って勝つというのはサッカーでいうと4人で12人のチームに勝てと言っているようなものなのだ。



 誰もがこの戦争に決着がついたと思った。

 ホークマンも板東も時太郎もブリントも鷹の団の団員もジロンダンのメンバーも、ボコットケモンスターのメンバーも全員がそう思った。


 全員がそう思ったハズだった。




「まだだ!! まだこれからだ!!」



 悲鳴だらけのバルダー城であるにも関わらず、その男の声はよく通った。



「諦めてどうする!! 座して死を待つつもりか!! ただ黙って死ぬのか!! もしも死ぬと思うのならば抗え(あらがえ)!! 逆らえ!! 俺はただでは死なんぞ!! 俺は生きる!! 生きたいと願うヤツは俺についてこおおおおおいいい!!!!!!!!」


 男はそう叫び終ると右手と左手にそれぞれ別の剣を持ち敵の大軍に向かって一人飛び込んでいった。


五輪の書(ダブルソードマスター)



 そこで繰り広げられた光景はまさしくこの世のものとは思えない光景だった。二刀流のその男をオリジンの兵は誰も殺すことが出来ないのだ。男は全ての攻撃を()わし並みいる敵をまるで豆腐を箸で斬り裂くように刻んでいくのだ。


 鬼神……たった一人で大軍と戦う男の姿はまるで鬼神と呼ぶに相応しいものだった。



 その男の姿は戦意を無くしかけた人々の心に火をつけた。


 まだ終わっていないのだ。まだやれるのだ。まだ自分達は生きるべきなのだ! 死んでなるものか!!!


 バルダー城内の3クラン連合の人々に再び闘志が蘇る。


 毎秒ごとに常識を跳ね返し続ける男の姿に3クラン連合の人々は未来を見たのだ。


 ホークマンが叫んだ!!


「全員城門に向かって突撃しろおおおおおお!!!!!!  男を!! その男を!! ジュンを!!!  ジュンを絶対に死なせるなああああああ!!!!!!」


 叫んだと同時にホークマンは城門側にいる敵に向かってトマホークを投げつけた。


 フォンフォンフォンフォンフォン


「ぐああああああ」

「ぎゃあああああ」


 死守。死守するしかないのだ。今全てを犠牲にしたとしても城外まで敵を押し返すしかないのだ。


 その時ジュンの叫び声がホークマンの耳に届く。


「ホーークマン!!!!!!! テメェはその小狡い(こずるい)頭を使ってこの状況を何とかする手を考えやがれ!!! あと5分以内に何とかしろ!! それまで俺はここを持たせる!!」


 ホークマンはそのジュンの言葉を5分しか持たないと解釈した。その5分こそがホークマンに許された最後の5分間なのだ。ホークマンの頭はこれより全力回転することになる。


 そしてその5分間、ジュンは舞った。


 ジュンの“五輪の書(ダブルソードマスター)”は1秒先の未来が見えるスキルだ。僅かに1秒。しかしこの1秒がジュンの生死を分けていた。目に映る1秒先の残像を見ながらジュンはそれに最も相応しい答えを出し続けた。


 ――鏡の型


 ――出だしが甘い! 先の先!!


 オリジンの兵は焦っていた。たった一人。たった一人の目の前の二刀流の剣士を殺す事はおろか“かする”事すらできのだから。


「何故だ! 何故だ! こいつ何なんだあああ!!!!」


 オリジン兵はジュンの頭を吹き飛ばそうと思い切り斧を振りかぶった。だが、思い切り振りかぶる動作などジュンにとっては首を差し出す行為に等しかった。


 ――首いける!


 ジュンは左の手に持つ【一度きりの刃】を使い最小限の動作で敵の首を絶つ。

 次の1秒後には何故だと叫んでいたオリジン兵の首が空中に飛んでいた。


 オリジン兵は勝てると思い突入したバルダー城の城内でこれまでにない恐怖を味わっていた。理解不能の動きをし続ける二刀流の男と相対しなければならない恐怖を。


 ジュンにはこの日の為の買った特別な武器が二つあった。そのうちの一つを今ジュンは使用していた。


【一度きりの刃】


 消耗品扱いされる安い武器だ。“一度きりの刃”は耐久値が低く、二三度相手の武器と接触するだけで刀身がポキッっと折れるほど脆い武器なのだが恐ろしい程に攻撃力が高く分厚い鎧を着込んでも鎧ごと体を真っ二つにできるというかなり極端な代物だった。だがジュンは人生スキル“五輪の書(ダブルソードマスター)”の説明を見た時にこの“一度きりの刃”こそが最強の武器になると確信した。


 五輪の書(ダブルソードマスター)の特性は二つ。一つ目は1秒先の未来が見える事。もう一つは装備している武器の耐久度が最高値まで上がることだった。つまり一度きりの刃はジュンが“五輪の書(ダブルソードマスター)”を使っている間に限っては“耐久力が高く何度切っても折れない一度きりの刃”に変わりこのキャッスルワールドで最強の武器と化すのだ。


 ジュンの最大MPは30ポイント。五輪の書(ダブルソードマスター)の消費MPは10ポイント。スキル効果時間は5分。


 つまり、ジュンが全力で戦える限界時間は15分だった。あと少しで最初の5分が終わろうとしていた。


 ――まずい! もうすぐで5分だ! 早くしろホークマン!! ずる賢さだけがテメェの取り柄だろうが!! 早く何とかしやがれ!!


 その時、五輪の書(ダブルソードマスター)の効果が切れた。


 ――しまった!!


 途端に1秒先の残像が見えなくなりジュンは岐路に立たされる。一度きりの刃も使えない。右手に握る剣「雷神」だけで対処しなければならないのだ。


「ク、クソ!!」


 ジュンが死を覚悟したその瞬間、目の前のジュンを攻撃しようとしていた男が銀紙のようなものに包まれてどんどんと小さくなってゆく。


 ――これは! 不思議な銀紙(キャンディキャンディ)!!


 ジュンが咄嗟に振りむくと、そこに居たのは縦長の白い帽子を被った少女ブリントと、ホークマンの檄によってジュンを助ける為に来た3クラン連合の兵士達だった。ジュンは彼女達に五輪の書(ダブルソードマスター)を唱える時間を稼ぐように命令した。


「みんな10秒持たせてくれ!!」


 ジュンの命令口調にカチンときたブリントがジュンに向かって叫ぶ!


「うるさいわね! アタシに命令しないでよ!! 早く自分の仕事をして!! アタシはアタシでちゃんとやるわ!!」


 ジュンはブリントの言う事に微笑み、人生スキル五輪の書(ダブルソードマスター)を唱える。


五輪の書(ダブルソードマスター)!!」


 するとジュンの体全体が段々と金色のオーラで覆われていった。


 ――これであと5分戦える! ……だがこんなもの気休め程度にしかならない。ホークマン!! まだなのか? 持たんぞこっちは!!


 跳ね橋が下り、敵がバルダー城に入り放題な以上ジュンの戦いは根本的な解決にはなっていなかった。この状態を打開するには何か劇的なアイデアが必要だった。何か破壊的なアイデアが……。


 戦いの行方は極悪非道、狡猾さと残忍さだけが取り柄の男ホークマンに委ねられた。


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