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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第035話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(5)


挿絵(By みてみん)



「あん? オリジンの動きが止まっただと?」

「はい」


 この日ライナル方面から来たオリジンはボコタの街の近くの草原で1日近く軍を休めていることが分かった。この情報をバルダー城の王座の間でホークマンに報告したのはオリジンの動向を観察する偵察係の“時太郎”であった。ホークマンはこの報せを聞いて、この行軍が止まった理由をあれこれと推測する。


「う~~ん、こりゃあ……」


 ホークマンが王座の肘かけに体重を乗せ考えていると時太郎がホークマンの考えの先を言い当てるように進言した。


「恐らく後続のキサラギ方面から来るオリジンの軍を待っているものと思われます」


「あーうっせー分かってんだよ!!」


 時太郎は元々他のクランで木こりの職人をしていたのだが、ある日バルダー城攻撃前のジロンダンに誘われ現在に至っていた。情報分析に優れる所があるのと現実の世界で読唇術の講師をしていたというだけあって、独特な雰囲気を醸し出す人物であった。


「恐らくあとは食料調達でしょうか? ボコタの街からここのバルダー城までもう街はないですから」


 時太郎はホークマンの“うっせー”という言葉をまるで無視するかのように喋り続ける。

 ホークマンはこの時太郎という人物が苦手だった。元々僅かな期間でジロンダンの幹部に昇りつめた人物だとは聞いていたが、このキチキチした物言いがホークマンにとっては殴ってやりたいほど腹が立つ対象だったのだ。しかしホークマンは現在実質的に3クランのリーダーなのだ。腹がったというおかしな理由で人など殴れない。

 だがそんな事よりもホークマンは時太郎に尋ねなければならない事があった。それはキサラギ・ライナルエリアにいる与作などの各クランがキサラギ城、ライナル城に攻撃を仕掛けたという報告が入っていたからだ。この報告はオリジンにも当然届いているハズであり、それを聞いたオリジンが自分の城に向けて兵を戻したかどうかという報告をホークマンは時太郎に尋ねなければならなかったのだ。


「それよりもな時太郎、オリジンの兵の数に変化はないか? ライナル方面のオリジンの軍とキサラギ方面から来るオリジンの軍のどちらもだ。自分のエリアに戻っていくといった動きは見せていないか?」


「その質問、他の偵察係にも毎日しているそうですね? オリジンの軍はまったく自分のエリアに戻る素振りを見せていません。オリジンの兵数は相変わらずそのままですよ。ライナル方面の軍200人とキサラギ方面の軍400人の計600人です」


 ホークマンはイライラし歯を見せ自分の座っている王座をかかとで蹴った。


「クソ!! 何故だ!! どうしてこちらに向かってくるオリジンの数が減らない?? もう自分達の城が襲われている事は伝わっているハズだろ? 何故なんだ」


 ホークマンがそういうと、時太郎は「そうそう、そういえば……」とまた喋り始めた。


「そういえば……陣中に白老の姿を発見しました」

「なに!! 白老が来ているのか?」

「はい……それと私の見間違いかもしれませんが白老は双子か何かなのでしょうか?」

「ああ??」


「私は視力0.3で非常に視力が悪いのですが……どうも白老の姿が二重に見えてしまって……いやまぁそんな気がしただけなんですけどね」


 ホークマンは現実の視力がこの仮想現実に影響されないことを知っていたのだが敢えて無視した。


「疲れているんだろ! もう下がれ」

「はっ」


 王座の間から時太郎が消えるとホークマンは独り王座から立ち上がり王座の間をゆっくりと歩き出しブツブツと独り言を呟く。


「こりゃ……【キサラギ・ライナル作戦】は失敗ってことになるのかな?」


【キサラギ・ライナル作戦】は別にキサラギ、ライナルエリアに住む各クランの連中にオリジンの城を奪わせる作戦ではない。キサラギ・ライナルエリアの各クランがオリジンの城を攻めるという情報を聞いたオリジンがバルダー城へ向かうのを止め自分の城に引き返すことを狙った作戦であった。


 だが、毎日報告を聞いても、オリジンの軍はさっぱり自分の城に引き返す動きをとらなかった。これは完全にホークマンの予想と違う行動だった。


「ったくよクソッタレ……あいつらアホなんじゃねーか? 自分の城を守れよ!! 何でそんなリスクを払ってまでバルダー城に向かって進軍するんだ?」


 オリジンの判断はホークマンには完全に理解不能の判断だった。オリジンの現在のクラン最大人数は300人であることはほぼ間違いない。となると、キサラギ城とライナル城には限りなく少ない兵しか残してきていない計算になる。だが、オリジンは自分の城などまるでどうでもいいといわんばかりでひたすら600人という大軍でバルダー城に向かって行軍をしているのだ。


 ホークマンはあらかじめオリジンが攻めてくると想定し3つの作戦をたてていた。


 一つ目の作戦は【キサラギ・ライナル作戦】前述したように、オリジンの軍をオリジンが治める各クランの野心を焚きつけ、その各エリアの城を攻めさせることでバルダーエリアからオリジンの軍を引き返させる作戦だ。この作戦で少なくとも向かってくる軍の半分程度を減らせるとホークマンは睨んでいた。


 二つ目の作戦は【バルダー城強化作戦】これは別に対オリジン用というだけではないが、もしも敵が攻めよせてくるならば野戦には打って出ず最初から城のみで防衛しようという腹積もりであった。その為に城の周りに堀を張り巡らせる事によってバルダー城の防御力を強化したのだ。


 三つ目の作戦は【人質作戦】バルダーエリアの戦闘系クランのリーダーの妻及び彼女をつかまえ人質にして彼等を意のままに操り、バルダー城に攻めよせてきたオリジンの軍を背後から襲い一気に殲滅させるという作戦であった。


 もしも一つ目の【キサラギ・ライナル作戦】が完璧に成功していたら、オリジンと戦争せずに済んだかもしれなかったのだが、最早“後の祭り”であった。この作戦はすでに失敗したとホークマン自身は認めなければいけなかった。


 ――分かってるさ……【キサラギ・ライナル作戦】は失敗したんだ、クソ! だがまだあと二つ作戦は残っているそ。


 ホークマンは気を取り直し、状況をまず確認する。


「あー、あー声に出した方がいいな……とりあえず当初の計画はご破算になったわけだ……オリジンの軍の600人はそのままこのバルダー城まで来る」


 ホークマンは王座の間の脇に設置してあるテーブルの前に来て、そこに広げてある地図を眺める。地図には赤く塗られた凸のマークの形をした積み木が置いてあり、それをボコタの街の所まで移動させた。


「後続のキサラギ方面の軍は大体あと1日でボコタの街に到着するだろうな……ここで200人と400人が合わさり600人になるわけだ」


 バタン


 その時ノックもせずに王座の間の扉が開けられた。こんな事をするのはジュンぐらいしかいない。ホークマンがそう思い振りかえるとそこにいたのはやはりジュンだった。ジュンは王座の間に入るなり開口一番にこう叫んだ。


「ライナル方面から来たオリジンの200人がボコタの街の近くで休んでいるというのは本当か??」


「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」


「今からでもこの200人を叩きに行くべきだ!! 200人なら叩ける!!」


 ホークマンは溜息をつくしかない。そもそも専守防衛こそホークマンの計画なのだ。その為に堀を掘り、そこに水を流し、城門も跳ね橋式の城門に変えたのだ。工事は一日前に終了し、迎撃態勢はすでに整っていた。敵を城に引きつけてこそ勝利が見えるのにこの馬鹿は何を言っているんだという気持ちにホークマンはさせられた。


「ジュン! 俺は城で迎え撃つって前に言ったよな? だから城を強化したともよ」


「言った……だがこれはチャンスだぞ!!」


 ジュンは地図の置いてあるテーブルの前まで来て赤い凸マークを指さす。


「ホークマンもう一回言うがこれは絶好の機会だぞ! 人質クランでボコタの街と始まりの街にいるのはどれくらいだ?」


「まぁざっと70~80人くらいかな」


「じゃあ俺達と合わせて300人だぞ!! 十分に勝てる!!」


 自説を曲げないジュンに対し、ホークマンのイライラは募っていった。


「あのなぁ! 野戦はどうなるか分かんねーんだよ。勝てるかもしれねーがたった200人にボコボコにやられるかもしれねぇ。野戦ってやつは本当にどうなるか分かんねーんだ」


 ホークマンは野戦の怖さを知っていた。いわゆる野戦とはノーガードの打ち合いみたいなものなのだ。ホークマンはこの一ヶ月半数度の野戦を経験していたが、モトヤとの戦いを始め野戦は何がおこるか予想がつきづらい。ゆえにその不確実性に全てを掛ける気には到底ならなかった。そんなことをしなくてもホークマンには城に籠城し、人質クランが背後から襲いかかるという必勝の策があるのだから。


「だからダメだ。野戦はダメ。600人なるのはもう仕方ねぇ。分かった上で城で迎え撃つ!!」


「でもよ」


 それでも食い下がるジュンに対しホークマンは一喝した。


「俺がリーダーだ!! 俺の決定は絶対だ!! いいな!? 籠城だ! これは決定事項だ!!」


 こう言われてしまってはジュンとしてはもう立つ瀬が無い。最早ホークマンの案に納得するしかなかった。


「……分かったよ」


 ジュンは不満顔であったがホークマンの作戦の理屈も分かる為、ここは引いた。


 ジュンが王座の間から退室すると、ホークマンはまた自分の物となった王座に座り、肘かけに体重をかけひっそりと呟く。



「大丈夫さ……大丈夫のハズだ」




 この一日後、オリジンはボコタの街近くの草原にてキサラギ方面から来たオリジンの軍と合流し600人の軍隊となった。軍の先頭を行くのはオリジンのリーダーシオン、そして、その片腕の白老。


 オリジンの600人は一路バルダー城へ向かう。



 決戦の時は迫っていた。


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