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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第034話 和泉智也と橘ゆい


 モトヤは今船に乗ってイズマ湖の上にいる。港町ベールからバルダーエリアの港町ジウブフに行く為だ。船主を雇うにはそれなりの費用が必要だった。しかし、背に腹は代えられない。何としてもバルダー城に行かなければならないのだ。聞けばオリジンはバルダー城に向かっている最中でまだ戦闘には至っていないという。であるのなら戦闘開始前に間に合うかもしれなかった。モトヤの乗っている船は二人乗りのカヌーのような非常に原始的な作りになっており浅瀬の部分を棒で押す事によって進む構造だそうだ……。いわゆる“渡し船”的構造なのである。これで馬鹿デカイ湖を岸沿いに横断しようというのだからなかなかに無茶な話であるが、バルダーエリア行きをしぶる船主ばかりの中このひょうきんな爺さんだけはモトヤのバルダー行きに付き添ってくれていた。


「揺れねぇですかいお客さん?」


 船主の言葉にモトヤは薄く反応した。


「……ああ、大丈夫」


 モトヤはさきほどまでの出来事を何度も思い返していた。


『モトヤ……全然わかってないのよアイツ等の恐ろしさを……。勝てっこない……勝てっこないわ……』

『そんな所に行けば死んじゃうかもしれないじゃないか……。死んじゃったら元も子もないよ……』


 彼等の言い分をモトヤは分かっている。が、理解する事と心で納得する事は別次元の問題だった。


 ――分かっている……。けど俺は……、ジュンと一緒にクリアしなきゃダメなんだ……。



 船が少し風で揺れる中、モトヤは東の空を見た。東の空は暗かった。闇が居る。モトヤの直感がそう告げていた。そしてその濃厚で邪悪な気配が空の色まで黒く染めたように感じたのだ。


 ――オリジン……。


 モトヤは闇と戦う友を思った。自分の半身を。決して砕けぬその男はこの闇を跳ね返す力があるとモトヤは信じたかった。信じたかったのだ。


 ――俺が行くまで何とか耐えてくれよ。


 モトヤは自分が行って何かが変わるとは思っていなかったが、それでも行かなければならなかった。二人で共に生き残る。それだけがモトヤの望みだからだ。





 5時間前。




 モトヤ達元囚人一行は、とりあえず今後の方針を決める為に急きょ借りた港町ベールの宿泊施設の一室に集まっていた。その部屋にアリスの怒鳴り声が鳴り響く。


「モトヤ! あんた正気なの!? さっきも言ったけど、バルダー城にオリジンの軍勢が近づいているのよ」


 バルダー城にオリジンというキャッスルワールドで最強のクランが近づいている――モトヤがそう聞いたのは数時間前だった。

 本来であればすぐにでも船に飛び乗りバルダーエリアまで行きたかったのだが、モトヤ達は一応パーティーであるため、皆の意向も聞かなければならなかった。予想通り他のメンバーは危険な所に行くのは反対だった。無論アリスもだ。皆、城持ちクランに所属できるならばクリアできる可能性がある……、ということでモトヤについて来たのだが、戦争に巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。という人が多かった。だが、モトヤだけは強硬にバルダー城に行く事を提案し続けた。


「分かってる! だから尚更行かなきゃならないんだ」

「いいえ、全然分かってないわ。あんたはオリジンを知らないからそんなに平然と行くという決断を下せるんだわ」


 議論は紛糾していた……。というよりもモトヤが一方的にわめいているだけなのだが、モトヤの頭の中には行かないという選択肢はない。ゆえに議論は平行線を辿っていた。


「オリジンがなんだっていうんだ! 撃退できるかもしれないだろ? それに皆だって城持ちクランに入れるかもしれないから俺について行きたいって言ってたじゃん」


 このモトヤの一言に元囚人の仲間の一人であるパプアが口を開く。


「その……言いづらいんだけどね……。皆、城持ちクランに入れるかもって聞いたらそりゃ嬉しいし、ついて行きたくなるけどさ。でも、これから戦争が始まるんだろ? そんな所に行けば死んじゃうかもしれないじゃないか……。死んじゃったら元も子もないよ……」


 元囚人一同はパプアの言葉に首を縦に動かす。これに畳みかけるようにアリスがモトヤに言った。


「いい? とにかくパーティーとしての結論は出たわ。これからどこに行くか分からないけど、バルダー城には行かないわよ!」


 モトヤは鼻から息を吐き下を向いた後、意を決し、思っていることを言葉に出す為に顔をあげた。終わりの言葉だ。


「分かった。じゃあ俺はパーティーから抜ける」

「モトヤ!!」

「分かってくれ!! 友達がいるんだ! 俺の親友が!! ただ黙って見てろっていうのか? もし、戦うなら俺も一緒に戦う。それに最強のクランって言ってもまだ城を2つ占領しただけの“すこーーーし強いクラン”ってだけだろ。勝機はあるはずだ!」


 アリスは首を左右に振りながら思い切り溜息をついた。


「モトヤ……、あなたは全然わかってないのわ、アイツ等の恐ろしさを……。勝てっこない……勝てっこないのよ……」


 “勝てっこない”と繰り返すアリスの言葉は体験談から出たような重々しさを伴った。


 ――アリスはひょっとしてオリジンと戦った事があるんじゃないか? さっきだってオリジンを知らないから……、とか言ってたよな?


 モトヤは思い切って聞いてみることにした。どちらにせよモトヤは既に行くと決めていた。奴等と戦うのに何か参考になるかもしれない。


「なぁアリス……。アリスはオリジンと戦った事があるんじゃないか? もし、あるなら奴等がどう強いか教えてほしい」


 アリスは、モトヤの指摘に一旦は口ごもる……。が、30秒ほどの重たい沈黙のあとにようやく口を開いた。


「確かに戦った事はあるわ……。前のクランに所属していた時ね……。でも、私なんて手も足も出なかったわ……。もう強いとか、そういうことじゃないのよ」

「どういう意味だ?」

「どういえばいいのか……。気づいた時には彼等の術中にハメられていたの……。その時には、もう、どうしようもなくなっていたの……」


 具体性を得ないアリスの返事に段々とモトヤは苛立ちを募らせてゆく。


「だからアリス! それはどういう意味なんだ?」

「私にだって分からなかったのよ……何がおこっていたのか……。全てドムの計画通りに進んでいると思っていたの……。だけど、私たちはいつの間にか負けていたわ。とにかく一つ分かっている事があるわ。オリジンの白老が戦を仕掛けたという事は100%勝てる自信があるからなのよ。あのジジイにとって“戦い”というのは結末まで知っている小説の映画版を見るような行為なの……。ただの確認作業でしかないの、つまりもう勝てないの。もう勝ちは決まったのよ」


 アリスは目の前に置かれた水を飲み、目を瞑った。モトヤはそんなアリスの表情を眺めていた。その表情は何といえばいいのか……、ただただ苦痛を感じているような表情だった。


 アリスほどの女をこうもヒステリックな女に作り変えてしまうそのオリジンとやらはどんなクランなのかモトヤは想像してみた。全てがおぼろげなアリスの言葉のせいで具体的なイメージができない。いくら何でも戦う前から勝ちが決まる事など普通はありえないからだ。やってみなければ分からないことなど沢山ある。モトヤはそう思いアリスを見た。このモトヤの目を見てアリスもそれを察したのか、あるアイテムをモトヤに差し出した。


「どうしても行くというのなら……、これを」


 アリスがモトヤに差し出したのはコンタクトレンズのようなアイテムだった。


「これは?」

「“ジルドレイの盲点”というアイテムよ。このアイテムは対になっていて私もこれを装備するわ。すると対になっている“ジルドレイの盲点”を装備する者同士だけはどんなに離れていてもお互いが赤い線によって結ばれることになるの」


 モトヤは試しにこのコンタクトレンズみたいなものを左目にはめてみた。アリスも左目にはめてみる。するとモトヤとアリスの間の床に赤い一直線のレーザー光線のようなものが二人にだけ見えた。このレーザー光線はちょうどふたりを直線で結ぶように伸びていた。


「この床に見えるレーザー光線は俺達にだけ見えるのか?」

「そう私とモトヤにだけね。この赤いレーザー光線はどこまでも伸びて行くわ、どんなに離れていてもね。私とモトヤをずっと直線で結ぶ。だから必然的にどこかに居たとしてもこの光線を辿れば絶対にお互いに辿りつくわ。ただ気をつけてこのアイテムは消費アイテムだからどちらかがコンタクトを取り外した瞬間にレーザーは消えるわ」

「分かった。とにかく、このレーザー光線の先にアリスがいるんだな?」

「そういうことになるわね」


 モトヤはアリスに感謝したかった。これで一旦離れ離れになっても必ず戻ってこれると確信したからだ。


「必ず……、帰ってくるよ」


 アリスが曇った表情をした。


「やっぱりどうしても行く気なの?」

「当たり前だ。俺は約束したんだジュンと一緒にクリアするって……。そして、皆も……、一緒にゲームクリアして現実に帰ろう。俺はここに戻ってくるよ、絶対にね。もしも、バルダー城が安全だった場合でも一度ここに帰ってくるつもりだ。皆を連れにね、約束するよ」


 もう、アリスも納得するしかなかった。

 モトヤは、何故アリスがこんなに引きとめるかは分からなかったがアリスは自分の恐れの気持ちに気付いていた。アリスがかつてリアナだった頃、アリスには頼れる仲間がいた。鎌使いのドム、騎士ジェット、僧侶ナイメリア、職人ヒロト、狩人の梶原、……頼れる歴戦の仲間たちは皆死んだのだ。全員死んだのだ。残されたのはもうアリス(リアナ)だけだった。


 ……もう仲間を失いたくない。


 これがアリスの偽らざる本音だった。アリスが人一倍牢獄の囚人たちと接点を持とうとしなかったのもこれが原因だった。もう一度失うのが恐かったのだ。手に入れてしまえばどうしても自分の心に触れてしまうのだ。


「最後に約束してモトヤ、絶対に死なないで……、いいわね?」

「分かった」


 モトヤは短く言葉を切ると、そのまま宿舎を出て行った。

 モトヤが出て行くと思い切り溜息をついたアリスはベッドに寝転がった。


 ここでパプアが見当違いの一言をアリスに言った。


「ねぇ……、ひょっとしてアリスってモトヤの事が好きなの?」

「はぁ?」


 そんなことなど一瞬たりとも頭によぎった事の無かったアリスはパプアに“呆れた”という表情をしながら喋った。


「そんなわけないじゃない……。さぁ、もうみんな早く寝ましょう」


 アリスは皆を強引にベッドに寝かせ部屋のランプを消すと、モトヤの事を思った。パプアが変な事をいうせいで何かを意識してしまったのかもしれない。


 恋愛感情ではない。アリスは自分にそう言い聞かせる。もしも、そんな感情を持ってしまったとしたら……、その人が居なくなった時にどれだけの辛さに耐えればいいのか想像がつかない。



 アリスは呪文のように小さく言葉を唱える。


「……私は生き残る……。生きて雨宮アリスに会う」



 アリスは自分に忘れてはいけないのだと言い聞かす。その為には何も感じる事のない戦闘マシーンのようにならなければいけないのだとも。アリスは自信がなかったのだ。いつ16歳の自分に戻ってしまうか……。アリスはこれまで自己暗示をかけることによって16歳の自分をある意味切り離してきた。元々のアリス……いや“橘ゆい”はただの平凡な女子高生だったからだ。


 “橘ゆい”は顔が多少美人なところ以外これといった取り柄が無く。能力面においてもパーソナリティーにおいても、どこにでもいる女子高生の一人だった。当然、恐怖に対する感覚も人並みでお化け屋敷程度で「きゃーきゃー」騒ぐ“至って平均的”な女子高生だった。そんな女子高生がいつ自分が死んでもおかしくない死のゲームに囚われてしまったのだ。“橘ゆい”はパニックをおこしそうな自分を寸前のところで抑え、自分に暗示をかける方法を思いつく。


「他の誰かになりきる……。恐怖はその子が引き受けてくれる」


 橘ゆいは自分に一つの暗示をかけた。


「戦っているのは“橘ゆい”ではない“リアナ”なのだ」と


 つまりアリスは自分の心に暗示をかけることで16歳の女子高生“橘ゆい”の心を抑え込み漆黒の魔術師リアナ(アリス)になりきるのだ。そうすることで恐怖心が消え、戦う事のできる女へと変貌するのだ。


 だが時々……、ドムが死んでから……突然涙が止まらなくなったり、突然右手が震えだすような事が増えた。原因は分かっていた。アリスはどこかでドムに依存していたのだ。きっとドムならば現実世界に戻してくれると、今は辛いかもしれないけど絶対に現実に戻れるのだと。だがドムが死んで精神の依存先が無くなった事によって、より深い暗示をかけなければ16歳の橘ゆいとアリスを切り離せなくなっていた。その証拠に“異変”は体に現れた。


 突如、右手が震えだす。アリスはそれをすぐさま左手で抑え込む。また“橘ゆい”が恐怖に負け暴れ出したのだ。



「私は強いの……、私は絶対に約束を守るの……。私は漆黒の魔術師アリス」



 アリスは自分の言葉で更なる暗示をかける。最早これしか震える手を元に戻す方法がないのだ。ドムとの約束を守ろうとすればするほどアリスの心は鋭く脆く弱いモノになっていった。


 アリスの心はいつ壊れても不思議ではなかった。


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