第033話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(4)
ジュンは奥の間でホークマンとの会話を終え城外に出ると、次に自分の人生スキルを検証する為に誰かちょうどいい相手を探す。一秒先の世界が見えるという何とも微妙な人生スキルの効果はジュン自身測りかねている所があった為だ。しかもそのスキルが実戦で使えるレベルのスキルかも知らなければならなかった。
「これは本気で斬りに来てくれないとハッキリ言って効果を試せないな……誰か俺を本気で斬ろうするヤツはいないかな……」
――あ、そういえば“アイツ”がいたな……。
「で……、あたしに何の用なワケ?」
ジュンはヴァシリーを城の剣術稽古場に連れ出していた。
「いやぁ、ヴァシリーに稽古の相手になってもらいたくてね」
「絶対に嫌……。あんたなんかと同じ空気を吸うのも嫌なのに」
――ずいぶんと嫌われたもんだな……。
ジュンは、気を取り直してヴァシリーがいかにも喜びそうな条件をだした。
「俺が持つのはこの鉄の棒だ。ヴァシリーは普通に剣で攻撃してくれ。その際に俺を本気で殺しにきてほしい……。もし、ここで俺が死んでも恨む事はしないよ」
「本当?」
「ああウソは言わない。ただし、こっちは二刀流だから鉄の棒2つ使わせてもらうけどね」
「……OK、やってあげるわ。ただし、死んでも恨まないでよ」
――このスキルの特性は二つ。1秒後の世界が見えることと、装備している武器の耐久度が最高値まで上がること。だからたとえ鉄の棒でも耐久値が最高値まであがるから大丈夫のハズだ。
ジュンは人生スキルの名を口ずさむ。
「五輪の書」
すると、ジュンの体全体が段々と金色のオーラで覆われていく。その様子を見ていたヴァシリーは思わず叫んだ。ジュンから何かしらのスキルを使うとは聞いていなかった為である。
「ちょっと! なによソレ!」
「いいからかかってこいよ」
「いいわ、せいぜい後悔なさい!!」
ヴァシリーはジュンが鉄の棒を構えないうちに突剣で突いてくるが、ジュンはそれをほぼ無駄が無い最小限の動きで難なくよけてゆく。
「ジュン!! 死ね!!」
ヴァシリーは連続攻撃をジュンに浴びせようと素早い突きの動作を繰り返す。ヴァシリーの装備している武器は軽く、突く動作が特徴のレイピアタイプの武器で連撃に向いていた。ダメージは少ないが小回りが利く事とその突きの速さによって確実に当てるタイプの武器だ。つまり数ある剣の種類の中では何よりも“攻撃を当てる”という事に特化しているタイプの武器で“攻撃が当たらない”という事はまずないのだ。だがどうだろう、そのヴァシリーの攻撃は一向にジュンに当たらなかった。
ヴァシリーは驚きの表情を隠せない。
手首のかえしと肘の伸縮から何度も生みだされるヴァシリーの突剣の攻撃をジュンはまるで何事もなく躱わしてゆくのだ。それはヴァシリーにとって味わったこともない状況だった。
一方ジュンは五輪の書の効果を肌で感じていた。
――このスキル……強いぞ!! 実戦で使えるかどうか悩んでいたけど……そんなレベルじゃない。このスキルは最強かもしれないぞ!!
何度も説明したがジュンは中高の剣道の世界でかなり上のレベルまで到達した人物だ。剣道には「先」という言葉と「後」という言葉がある。「先」は相手の機先を制するという意味であり「後」は相手の動きを待つという意味だ。これらは三段階に分けられ剣を覚える上でかかせない動き方になっている。
1つ目が「先々の先」相手の表情などから心の動きを察知して思考が切り替わると思った時にこちらが先に攻撃する動作。
2つ目が「先の先」相手が攻撃しようと思って剣先が少しあがったり、攻撃動作をしようとしはじめたところにすかさず攻撃する動作。
3つ目が「後の先」相手が技を発動させた後にそれに合わせてカウンター攻撃をする動作。
基本的にはこの3つの動きから成り立っている。この3つどれにも言える事だがつまり“予測”こそが剣の道において最も重要な要素なのだ。相手の筋肉の動き、足の運び、息遣い、表情、あらゆるヒントから次の動きを予測し、それに対し最適な攻撃を繰り出す。ジュンはそういう予測の能力を磨きあげることで剣の道を磨いてきた。だがこのスキルは1秒先の解答をジュンに与えているのだ、それはコンマ何秒の情報を削りながら戦っていたジュンにとって永遠ともとれる時間の猶予を得たことと同じであった。
今、ジュンはあえて攻撃せずに躱わす動作に専念しているが、試しに攻撃をしてみた。
――まず後の先!
ヴァシリーが突きを繰り出したがジュンはそれを躱わし一歩前に出て腹のあたりを横に殴った。
「きゃああ!」
ヴァシリーはやや後ろに吹っ飛んだ。ジュンは一応手加減をしていたが、それでもそれなりのダメージはあるみたいだ。
「まだ! まだよ!」
――よし! 次は先の先!!
ヴァシリーは剣を構えた後に攻撃しようと一歩足を踏み出すと、ジュンの鉄の棒がヴァシリーの剣を構えた手首を素早く打ちすえた。
「きゃあああ」
ヴァシリーが叫んだと同時にレイピアを握っていた手は開かれ、レイピアは地面に転がり落ちた。これが真剣の勝負なら剣を落した時点でヴァシリーの命はないだろう。
――凄い! このスキルがあれば1対1なら誰にだって負けないぞ!
ジュンが自分のスキルに絶対の自信を深めていく間、ヴァシリーもこのジュンの絶対的な強さにある思いを抱いていた。
強い、強すぎる、いや強すぎるなんてもんじゃないわ。こいつは剣の鬼。あたしが10年修業したところでこいつにはかないっこないわ……。これじゃ仇なんて永遠に討てっこない……レビテンス……やっぱり、私は……。
膝をついてうなだれるヴァシリーを見てジュンも鉄の棒をアイテム欄に戻した。これ以上の訓練はどうやらできそうにないからだ。うなだれるヴァシリーを見てジュンはできれば背中を手で叩き励ましてやりたかったがそれは恐らくヴァシリーの望むところでは無いだろう。だから声だけ掛けて訓練を終わる事にした。
「ありがとうヴァシリー! 色々な事が分かった! 本当にありがとう稽古に付き合ってくれて」
「……」
やはりヴァシリーは下を向いたままだった。ジュンは自分が居ない方がいいだろうと思い、その場を後にし始まりの街へと向かった。実はさっきの戦いの中でジュンはとんでもないアイデアを思いついたのだ。
「へい、らっしゃい」
歩く事ほぼまる1日、ジュンはやっとの思いで始まりの街の武器屋についた。
「ああ、おっちゃん、これとこれを売ってほしいんだ」
「え? これとこれですかい? でもこりゃあ……」
「いいから売ってくれよ、ほらこれで金は足りるだろ?」
「へぇ……旦那がそれでいいならこっちは何も問題ないですけどね。返品は困りますよ?」
「分かってる分かってるって!!」
ジュンが手にしているモノは二つの武器……ジュンはこれを自分の「必殺」にしようと思っていた。正確には五輪の書使用時に使えば必殺とも言える威力を発揮するものであった。
「どんな達人相手だってこれならば……」
ジュンは人生スキル“五輪の書”を使えるスキルだと判断し念入りに戦闘準備に入る……来る決戦の日の為に……。
オリジン到着まで……あと6日。




