第030話 ジュン編 第二次バルダー城の戦い(1)
2章は大きく分けて前半と後半があり、今回から後半が始まります。
モトヤがアリスと老人の会話を盗み聞きする、4日ほど前に話は戻る。
バルダー城、本城の会議の間にバルダー城を占領している3クランのリーダーとそれぞれの側近2人づつの9名での話し合いが行われていた。鷹の団からの出席者はホークマンとジュン、それに対象を銀紙で包む能力を持つブリントだった。
ジュンはこの会議室に来たのは初めてだった。普段、鷹の団が生活しているのはバルダー城の4つあるうちの2つの塔の中なのでジロンダンが占領する本城には滅多に足を踏み入れないのだ。これは余計な軋轢を避ける為ではあるのだが……。やはり、自分達が普段暮らす塔よりも数段良い物が揃っていると実感していた。ソファはふかふかだし、スキマ風もない。おまけに足下には絨毯が敷いてある。ブリントが後ろの方で何やらごそごそしていた。ブリントもこの本城を楽しんでいるみたいだった。
最初にまずジロンダンのリーダー“アッシュボルト”が口を開いた。
「既に知っている者もいるかもしれないが、キサラギ城とライナル城からここ、バルダー城に向かってクラン“オリジン”が進軍している」
ボコットケモンスターのリーダー光宙は驚愕の顔をし、逆にホークマンは澄ましたままだった。光宙は取り乱し気味にアッシュボルトに尋ねた。
「兵の人数はどれくらいヨ?」
アッシュボルトは何かしらの文字が書きなぐってある紙を取り出し、険しい顔で光宙に告げた。
「ライナルから200人、キサラギからは400人の合計600人がこちらに向かっているそうだ」
――はぁ?
ジュンは大きく目を見開いた。ジュンの目の前でも数字を聞いた光宙が発狂していた。
「おかしいじゃないノ! おかしいヨ!! だってオリジンのリーダーの職業が指導者という話は聞いたヨ、指導者ならクラン上限数を100人じゃなくて300人にすることができるって。でも向かってきている人数が600人なら数が合わないじゃないのヨ」
ホークマンが溜息をつき頬杖をし、静かに喋り出す。
「こりゃ、まず決めるべきかもな。戦うか……、逃げるかを……」
ホークマンの言葉にアッシュボルトが激高した。
「馬鹿な! 逃げると言うのか!? せっかく手に入れた城だぞ! 口惜しくはないのか!?」
「別に戦うか逃げるかという選択の提示をしただけだ……。俺はどっちに対してもプランを持っているがね。くくく」
ホークマンは、いつもの怪しげな笑みを見せる。何か企んでいるのでは? と一瞬ジュンは思うが、こいつの場合、怪しくない時の方が珍しい。ジュンは自嘲気味に笑う。少し話を聞いてみようと思った。
ホークマンは軽く咳払いをし、話を進める。
「まず、逃げる場合だが……。俺達はこのまま固まってミシャラクエリアとバルダーエリアの境目にあるドーラ山脈の中に入る。ここは険しい山脈なうえに高所をとった方が圧倒的に有利だ。城でもなんでもない攻撃対象に対し気合入ってここを攻めるアホはいないだろ……。まぁ、つまり俺達の命は確実に助かるってわけだ。短期的にはな」
「引っかかる言い方するネ。短期ってなにヨ。短期って」
「くくく、分かんねーか? この世界に数あるクランと同じになるってことさ……。つまり、俺達はまた前の状態に戻るわけだ……。俺達は城を手に入れ、指導者を見つける……、その一点に置いて利害が一致していた……。このまま野に下れば結束は間違いなく乱れるだろうな」
ジュンはホークマンの話し方にミスリードがある気がした。野に下ろうとも指導者の職業を持ってる人物さえ見つけ出せば一つのクランになれるのだから結束は崩れない確率の方が大きい。もちろん見つけ出すことがでれきればの話だが……。だがそれを除いても3クラン合同でいる事の方がメリットが大きかった。そう簡単に結束が崩れるとは思えない
……ジュンは直感した……。
――こいつ……まさか……。
ホークマンは人差し指をたて流暢に話を続ける。
「で、次に戦う場合だが……。既にキサラギエリアとライナルエリアにすくう有象無象のクランには連絡はしてある……、お前たちのエリアの城がカラになるぞってな。実はここの城を奪ったばかりの頃から各エリアの城を保有していないクランリーダー達と親交があってなぁ。“もしもオリジンがバルダーエリアに向けて軍を出撃させたらなら、それぞれのエリアにある城を攻撃してくれ”という風に話はつけてある」
アッシュボルトと光宙をはじめ、この部屋にいる人全ての注目がホークマンに集まる。その視線が心地よいのかホークマンは更に笑みをこぼしながら喋った。
「600人……確かに大軍だ……。だがこれだけの兵を動員したという事は城に残っている戦力は限りなくゼロに近いハズだ……。こんな時に後方の城を襲われてみろ。奴等あわくって元の場所に戻っていくに決まってるぜ。まぁ少なくとも戦力の2~3割はこれで削れるはずだ。……そして極めつけはコレだ!! おい! ブリント! 例の奥さん方を連れてこい!」
ホークマンの命令を受け、ブリントは首を縦にふると扉の外に出て、10人程の鎖に繋がれた女性達を連れてきた。これに対しアッシュボルトや光宙や無論ジュンも驚く。光宙が甲高い声をあげた。
「ホークマン! これはなんなのヨ」
ホークマンはまたもニヤケながらこれに答える。
「これかぁ? くくく、これは妻だ……もちろん俺の妻じゃない。バルダーエリアに本拠地を構える戦闘系クランリーダー達の妻や恋人達だ。まぁつまり人質だな。こいつらを使ってバルダーエリア内にいる戦闘系クランにも今回の戦闘に参加してもらう。なんせ自分の大切な人が人質にとられたんだ、この戦いに参加するだろうさ」
――なんだって?? 人質??
「くくく、人間つーのは寂しい生き物でよぉ……キャッスルワールドのような死と隣合わせの空間じゃ……つい女を作っちまうのさ……女だって同じさ……いつ死ぬかもしれない恐怖に負け男を作っちまう。そうやってお互いの不安を解消するわけだ……マヌケな野郎共だぜ、それが自分達の最大のアキレス腱になることすら予想できねぇんだからな。各クランリーダー達は自分の愛する人のことが心配で心配で俺達を裏切るようなことはしないだろうさ。もしも裏切るなら、裏切ったクランリーダーの女を処刑し首を城門に掲げてやるまでだ。まぁ奴等に関してはすでに指示してある……。オリジンがこのバルダー城にとりついたのを見計らい背後から攻撃を仕掛けろってな……。これで城内の俺達と連動した攻撃が可能だ……つまりハサミ討ちってわけだ!!」
ホークマンはここまで、まくし立てるように喋ったわけだが、このホークマンのプランにアッシュボルトと光宙が激しい怒りを見せた。
「ホークマン!! 貴様正気か?? 貴様には騎士道精神はないのか? 己がやっていることを恥ずかしいとは思わんか??」
「ミー達を悪の集団に勝手に変えないでヨ!! ユーのせいでミー達、完全に悪者ヨ!!」
ホークマンが若干うつむいた……このタイミングでホークマンの後ろに戻っていたブリントが何かを耳打ちする。それを聞くとホークマンは肩を震わす。一瞬泣いているのかと想像した者もいたが、この男はそんなタマではない。堪え切れないといった感じの笑いをしていたのだ。そして顔をあげ最早遠慮はいらないとばかりに大きく笑いだす。
「くくく、ははは!! 騎士道? 悪者? おいおいよしてくれよ。俺達はキャッスルワールドの中にいるんだぜ? 強いものが勝ち弱いものが死ぬ。ただそれだけだ。あーーーっと、それと戦うにしろ逃げるにしろこのプランを使う為の条件が一つだけあった。こいつを満たさないとこのプランを使えないんだった……」
アッシュボルトと光宙は呆けた顔でホークマンを見つめた。ホークマンも二人を見つめ、そして二人に尋ねる。
「なんだと思う? その条件って」
「さあネ、わからないヨ」
「知らんな……」
ホークマンは人差し指を立て、その後に力いっぱい拳を握りしめた。
「こういう条件だ」
ホークマンが言葉を発した後にアッシュボルトと光宙のそれぞれの側近二人が同時にアッシュボルトと光宙の首と心臓を攻撃した。この光景を見てジュンは驚く、咄嗟にとなりのブリントの顔を見るが平然とした顔をしていた。恐らくこの事を聞かされていたのだろう。
室内に先ほどつれてきた10人弱のクランリーダーの妻達が一斉に叫び声をあげた。
「ひゃあああああああああ」
「うそ! うそでしょ?」
光宙の首は胴体から離れ、アッシュボルトは何とか首の攻撃を免れるが心臓のあたりを一突きされていた……。
アッシュボルトは血に汚れた絨毯の上にうつ伏せになりながら必死に上体をあげてホークマンの方を向こうとしていた。
「何故だ……ホークマン……何故だ……」
ホークマンは乾いた声でこういった。
「アッシュボルト、バルダー城を占領していた俺達の弱点が分かるか? それは組織がバラバラだったことだ。俺達3つのクランは常にまとまりがなく、何か行動する時も3クランがバラバラに動く……。これじゃ今回の戦いには勝てねぇ。戦いに勝つためには組織のトップは1人でなくてはならない……。既にお前達を殺す件については、ジロンダンもボコットケモンスターの団員達も納得していることだ。よっぽどお前等じゃ頼りなかったんだろうな」
アッシュボルトは“信じられない”といった顔つきをした。ホークマンは自分の席から立ち上がり、ゆっくりとアッシュボルトに近づいて、そしてしゃがんだ。
「あ、そうだ……一つだけいいことを教えてやる。もうお前はクランのリーダーじゃないんだ。ジロンダンとボコットケモンスターのリーダーは既に受け継がれている。初耳だろ? クランリーダーが受け継がれる操作を確かめたことがあるか? 実は面白い方法があるんだ。1つ目は多分お前も知っていると思うが、クランリーダーがクランメンバーの中から次のリーダーを選ぶって方式だ。クランリーダーを受け継ぐ方法はこれだけだと思っただろ? 実は違うんだ。2つ目の方法というものが存在するんだ。これがあまり知られていないんだが……クランリーダー以外のクランメンバーが全員一致で不信任のボタンを押す、すると次に投票ボタンが表示され、その投票で一番多かったヤツが次のクランリーダーになるんだ。前リーダーは新しいクランリーダーが決まった時点で、ただのクランメンバーになるのさ。お前も光宙も既にただのクランメンバーだったんだよ。くくく、だから俺は安心してお前たちを殺せるわけだ、それによってジロンダンもボコットケモンスターもクランとして残るわけだしな」
「く、くそ……外道め……いつのまに俺の配下を味方に引き入れやがった……」
「おいおい、いつの間にって時間をかけて味方に引き入れたのさ、3週間くらい時間をかけて徐々に徐々になぁ」
アッシュボルトは驚きを隠せない……その言葉が本当ならバルダー城を攻めるもっと前からジロンダンの部下達やボコットケモンスターの部下達は口説かれていたことになる。
ホークマンはアッシュボルトの耳に自分の口を近づけ呟いた。
「そもそもなんで俺がお前達と一緒にバルダー城を攻めたいと提案したと思ったんだ? バルダーエリアの中の数ある戦闘クランから何度もしつこくお前達にだけ共同作戦を提案したのは何故だと思った?」
この瞬間、アッシュボルトは全てを理解した。ホークマンは最初から自分と光宙を殺すつもりで近づいてきたのだと。何度もしつこく交渉したのは恐らくその時には既に部下のほとんどをホークマンが懐柔済みであったからなのだと。
ホークマンはアッシュボルトの目を見てゆっくり頷き、そしてトドメをさした。
「安心して眠れアッシュボルト……俺がお前のクランメンバーも守ってやる。くくく」
こうしてジロンダンのアッシュボルトとボコットケモンスターの光宙は死んだ。それぞれのクランリーダーに就任した新しいリーダー達はホークマンへの忠誠を誓い、バラバラだった3クランは1つにまとまった。これはホークマンが事前に根回ししていた結果だった。
ここにきてバルダー城を占領する3クラン“205人”の指揮系統が一本化したのだった。これはオリジンと戦う上で大きな前進だった。
「くくく、だって仕方ないだろ? マヌケなリーダーより有能なリーダーを皆は望むものなのさ」




