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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第027話 ジュン編 スパイ(2)



 鷹の団の連絡係をやっていた長い髪の兵士「板東」は、スパイ活動を続けているテンに会う為にキサラギ城の城下町にあたるムツキの街中の人通りの多い路地裏の腐った木の前に来ていた。ここは鷹の団で決めた連絡係とスパイが落ち合う場所であり板東はテンとここで会うハズだった。


「遅いな……」


 連絡係とスパイが待ち合わせる場合は時間厳守が原則だ。何故ならスパイがもしも敵に囚われた場合、次のターゲットとして待ち合わせ場所を狙われる確率が高く、捕まれば芋づる式に発見される恐れがあるためだ。もう、予定の時刻を9分ほど過ぎていた。


「……遅いだろ」


 板東が小言を言っていると、約束の時間から10分ほど遅れてやっとテンがその場にやってきた……。だが、何か様子が変だ。板東はまず、そのことを尋ねた。


「どうした?」


 テンの唇は震えていた。顔も青白く目の下にはクマが出来ている。板東は気になり更に顔を覗きこもうとするが、その前にテンが呟いた。


「チャオズが……、チャオズが消えた」


 消えたというのはどういう事態を指すのが板東にはイマイチ分からなかった。それは板東が“転移(トランジション)”というスキルを使えるせいもあるかもしれない。板東は目の前の人間を消えたようにどこかの場所に飛ばす事ができるのだ。


「消えたというのはどういうことだ? その場で消えたのか? それとも行方不明になったという意味か?」


 この板東のセリフにテンは苛立つ。


「行方不明ということだ」


「で、いつからチャオズがいないんだ?」


「もう4日も前だ……。あの日は【キサラギ・ライナル作戦】を各クランリーダーに伝える為にヤヨイ街に一日だけ外泊した……。そこでヤヨイ街の連中は自分達だけでキサラギ城を攻めると言いだしたもんだから、まぁ話をまとめる為には仕方ないかなと思ってその約束をした。それで他の街のクランの集まりには行けないという断りの手紙をキサラギエリアの各クランに出して……え~それからすぐに帰った……。その時にはもう既にチャオズはいなくなっていた……」


「そうか……」


「……」


 板東は、テンを観察する。テンは、まるでこの世の終わりかと思うような表情をしていた。テンにとってチャオズはそれほど大事な仲間だったらしい。しかし、ある疑問が板東の前にチラつく、テンとチャオズは以前違うクランにいたのだが半ば無理やり鷹の団に入団させられた。そういう意味ではチャオズがクラン脱退申請をして逃亡を企てたとしても不思議はなかった。


「え~~とさ、チャオズがクラン脱退手続きをして逃亡したって可能性って無いのか?」


 板東のこの一言にテンが怒り顔を近づけた。だがこの場所で目立つわけにはいかない板東はまずテンの軽率な行為を咎めた。


「おい、目立つぞ……普通にしてろよ」


 この板東の言葉を聞きテンはまた元のポジションに戻るが恨みのこもった低い声で板東に反論した。


「いいか板東君、君はずっと鷹の団だろ? 僕は前のクラン【りっちゃんと一緒】に居る時からチャオズとはずっと一緒なんだ。チャオズが僕を置いて逃亡するなんてありえない! 僕には分かるんだ」


「そうか……で、どうする? 任務をやめてバルダー城に戻るって手もあるけど?」


 テンは板東の方に向かってすごんだ。


「そんな事できるわけないだろ! チャオズがオリジンに捕まったかもしれないのに、僕はチャオズを置いてここを離れることなんてできない」


「別にオリジンに捕まったとは限らないだろ……まぁいいや、分かった。次に会うのは5日後の昼の12時にこの腐った木の前だから忘れるなよ。じゃあこれまでの活動をまとめたノートをくれ」


 テンは催促されたノートを無言で板東に差し出した。


「じゃあ僕は行くよ。チャオズを探さなきゃならないからね」


 テンは板東にそう告げると、ムツキの街の人混みに消えて行った。板東はその姿を見送るとすぐにムツキの街から逃げるようにキサラギエリアとバルダーエリアの境目にある掘っ立て小屋に帰っていく。帰ってゆくと言ってもその道程は長い。板東が連絡係の拠点として建てた掘っ立て小屋まで約30km程度の距離があるのだ。そこまで約1日中歩き続けることで、やっと掘っ立て小屋に戻る事ができる。


「さて……ノートでも見ながら帰るか……」


 板東は少しばかりムツキの街から離れると呑気にテンのノートを取り出す。


「どれどれ?」


 テンとチャオズのノートはどれも有力な情報が書いてあるようには見えなかった。


「今日のキサラギエリアは晴れだった? ふざけやがって日記かよ」


 板東はノートをパラパラとめくりながら何か使える情報がないか探す。


『オリジンは訓練場所を決めているようで“設楽原”と言われる場所でいつも軍事訓練をしている』


『キサラギ城の南西には森が広がっており、以前この城を占領していたクラン“ストリーム”のリーダーのドムは最終的にここに逃げ込んで殺されたらしい。同行していたと思われる漆黒の魔術師リアナは依然行方不明のまま』


『キサラギ城はバルダー城とは違い城下町を持つ城で、オリジンは基本的にこの城下町に住むクランも監視下においているようだ』


『キサラギ城は四方を外壁に囲まれたバルダー城と瓜二つの設計になっているようだ。城の構造の基本は同じであとは自分で創意工夫をして城を発展させろという事だろうか? キャッスルワールドの開発者に聞かなければ分からないが木を切ったり石を切ったり土を掘ったりする“職人”という職業はその為にいると思われる』


 どの情報もそれなりに調べはしたのかもしれないが、当たり障りのない情報のようだった。


「まぁ~当たり外れはあるからなぁ」


 板東はノートの半分程度まで目を通すと後は小屋に着いてからじっくり読もうと思いノートをアイテム欄に入れ、掘っ立て小屋をめざし歩く。


 日が暮れ、ランプ無しでは視界が利きづらくなってきた頃、板東はようやく自分の拠点の掘っ立て小屋についた。実に10時間以上も歩いたことになる。


「ふぅ~いくら情報の為とはいえ何度もこの道を往復するかと思うと気が滅入るわ……」


 板東は小屋の扉をあけ、ランプをテーブルの上に置くとベッドの上に寝転がった。今日はもう寝ても良かったのだが何となくテンのノートの続きが気になりアイテム欄からテンのノートを取り出した。


「あいつも一応は情報クランの出身だからな。何か有力な情報があるかもしれないよな」


 板東は暗闇の中ランプの明かりでノートを読み進めた。


『クラン“オリジン”のリーダーはシオンという名前の男。だがあらゆる作戦を立案、実行しているのは白老(はくろう)と言われる老人らしい』


『白老は元オリジンのクランリーダーであるが“指導者”という職業になることができたシオンをリーダーに据えて最大クラン登録人数を大幅に増やし軍団規模を大きくしたようだ。この事が今のオリジンの躍進を生んでいるものと思われる』


『シオンは全身黒一色の服装をしている白髪の男性で日本刀を振りまわす近接戦闘を得意とするタイプらしい。恐ろしく強いという噂はムツキの街ではよく聞く』


『この目で見た事はないがオリジンは“攻城兵器”というものを使うクランらしい』


 あまりテンの情報に期待していなかった板東だが僅かな期間でよくこれだけ調べたなと感心していた。中にはすでに板東が知っている情報も含まれていたが、それにしても見事なものだと感心せざる得ない。


「ん?」


 板東は不意にノートの右下隅にあった文章が目に飛び込んできた。


『オリジンの次の標的はバルダー城らしい。その為の作戦の要になる人生スキルを持つ“会計士”という男を近頃オリジンに入団させたらしい』


「なに?」


 板東はそこを繰り返し読んだ。


『オリジンの次の標的はバルダー城らしい』


 板東は固まった。これ以上の衝撃があるだろうか? 鷹の団、ジロンダン、ボコットケモンスターの3クラン連合の占領するバルダー城が現在キャッスルワールドで2つの城を持つ最強のクランに目をつけられたのだ。板東は遅かれ早かれオリジンと戦う事になるとは思っていたがこんなに早くなのかという気持ちにさせられた。


「テンは何でこんな大事なことを会った時に言ってこなかったんだ……」


 これが緊急性を要する用件であると認識できなかったテンへの不満はあるがそれでも板東は最善策をとるためにある行動をとる決心をした。

 板東はランプを持ち、この情報を伝える為バルダー城へ帰る決心をする。この情報をホークマンに見せなければとんでもないことになりそうな気がしたのだ。まだ空は暗く視界が利きづらいままだが仕方がなかった。



「オリジンが攻めてくる……オリジンが攻めてくるぞ……」



 板東はランプを片手にまた歩き出した。

 大切な情報を携えて。


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