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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅰ章 キャッスルワールドへようこそ
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第001話 キャッスルワールドへようこそ(1)




【 和泉智也(いずみ ともや) 】は都内の甲南高校に通う高校2年生で、部活動などは一切していない。あんな苦痛と労力を伴うものはエネルギーの無駄、と言ってはばからない合理主義者であり、また楽しいことしか長続きしない快楽主義者でもあったからだ。ただ、そんな高校に行って帰るだけの智也にもささやかな楽しみがある。


 それが「友達」と「ゲーム」だった。


 智也には中学校の頃から付き合いのある【 杉原淳二(すぎはら じゅんじ) 】という友人がいる。こいつは、中学の時は剣道の有段者だったくせに、高校に上がると同時にその全てを放り投げ、世の中に溢れるゲームにハマり出した。

 なので、智也は、杉原淳二の買うゲームを一緒に購入し、二人で攻略しあったり、チームを組んで遊ぶことが多かった


 おっと、説明を忘れていたが、今は西暦2060年で社会制度上劇的な変化があった。

 自衛官の一人である安田万次郎という人物が自衛隊の一部隊を率いてクーデターをおこし、既存の日本国政府を打ち倒したのだ。これにより日本に軍事政権が発足し、その軍事政権の長である安田万次郎は、明治維新以前の日本における最上級の支配称号である【 征夷大将軍 】を名乗り武力を持って日本国を支配した。


 だが、それで人々の暮らしが変わったかと言うとそうでも無かった。


 既存の行政機関のほとんどは日本政府から安田将軍傘下に入る事を抵抗なく受け入れ、以前と同じままの制度を敷いた。庶民の側からすると《何の違いがあったのだろうか?》という程度の違いしか感じられない程に既存の政府と酷似した政権運営をした。


 唯一、これまでと大きく違うのが【 超立法 】という新しい制度を作ったことだった。

 超立法とは、将軍の権限で議会の承認を得ないで法律を制定させることができるという法律で、この法による裁判権は裁判所に属せず、行政機関である幕府に属するというモノだ。


 ただ、この超立法を行使した例は少ない。


 今のところ超立法が制定されたのがここ10年で僅かに5件。


・動物の飼い主の行動規則ならび順守法

・最低賃金の物価に応じた引き上げ法

・外国人観光の為の忍者の里、伊賀及び甲賀補助金法

・アイヌ人文化振興法

・自然エネルギーの家庭発電推奨法


 メディアは当初、安田征夷大将軍が軍権を握った時期にはヒトラーだのなんだの連日連夜大騒ぎした。超立法の存在を知った時はそれよりも更に騒いだ。しかし、実際に超立法で出される法案がメディアの肩透かしを喰うようなモノばかりで、月日が流れてゆく間にこの超立法についてメディアも市民も、もう誰も関心を失っていた。


 そのせいか、超立法《本能闘争における改善および改良法》という法律が官報を通じ布告されても、どこのメディアも大して報道はなされなかった。



「これ! 見ろよモトヤ!!」


 モトヤというのは和泉智也のあだ名だ。

 昔、そんな歌舞伎俳優だかプロレスラーだか総理大臣だかがいたらしい。


「ちょっとおい、ジュン」


 智也はあたりを見回す。ここはコンビニの中なのだ。

 杉原淳二の声のボリュームに反応するように店員がこちらを睨んでいた。


 ――畜生、すごい……ハズい……。


 しかし、淳二はお構いなしだ。


「やっとでるのかよ! キャッスルワールド!!」

「お、おいジュン! もっと声のボリュームをだな」

「これが興奮せずにいられるかよ! 開発費が300億円近くで開発期間が10年くらいかかったファンタジーVRMMORPGの大作だぜ! それによ」

「わかったわかった」


 そういうと、智也はゲーム雑誌をもってコンビニのレジに行きお会計を済ませ、淳二の襟首を掴みコンビニの外に引っ張りだした。この扱いに淳二はぐちぐち文句を垂れた。


「ったくモトヤはメンタル弱いんだよ。たかがコンビニの店員の視線だろ? もっと堂々としてろよ」

「そこはメンタルって分野じゃねーんだよ」


 全くこいつは……、と思いながらも智也は買ったばかりのゲーム雑誌を取り出し、広げた。二人で読もうと思って広げたのだが――


「あ、俺、今日寄る所があるからさ、じゃあなモトヤ! また明日な」と言い残し、淳二はどこかに行ってしまった。


 ――おいおい、このゲーム雑誌、お前の為に買ったようなものなんですけど?


 智也は軽いイラつきを覚えたが、とりあえずこっちもやることがないので帰る事にした。地下鉄を乗り継ぎ、自宅に戻り、自室のドアを開けた。智也は、重力に引っ張られるように背中からベッドに飛び込んだ。貧相なベッドが、ギィー、という情けない声をあげた。その瞳に天井に描かれた染み模様が映り、次いで杉原淳二の“あの言葉”を思った。


『これが興奮せずにいられるかよ! 開発費が300億円近くで開発期間が10年くらいかかったファンタジーVRMMORPGの大作だぜ!』


 ゲームに関しては淳二の方が詳しい。最近、大型ゲームセンターに設置されたVRゲーム機に関しても淳二の評価どおりの所があった。


「そんなにすげーゲームなのかなぁ……」


 智也はベッドに寝そべったまま、手を伸ばし、床に放り投げたままのカバンを胸元にもってきた。そして、カバンの口から先ほど買ったゲーム雑誌をとりだし『キャッスルワールド』の特集ページを開いた。ベット脇のライトが雑誌を照らす。どうやら開発者のインタビューらしかった。


 インタビューは、このVRゲームのクオリティやバグが一切ないほど繰り返しデバック(ゲームにおけるバグ取り作業の事)したという話、ゲーム開発における組織の再編の話をするなど多岐にわたっていた。なかには銀行から資金調達するために自社所有の数々の不動産を売却した話もでてきた。


「すげー意欲だな。というか、リスクとりすぎだろ……。まるで――」



 ――このゲームを作る為だけに会社を作ったみたいな……。



 実はこの会社、夢だ夢だと言われてきたVR(仮想現実)技術開発を作り上げた企業の一つで、世界で初めてゲームセンター用VRゲーム機【 マイマイ 】というモノを世に送り出した会社なのだ。


 この時代、視覚のみの家庭用VRゲーム機というものも存在するが、一般大衆にウケたのはゲームセンターに置いてある、視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚などの五感を刺激するVRゲーム機【 マイマイ 】だった。何故この五感を刺激するVRゲーム機が家庭用ゲーム機になれなかったかについては、いくつかの理由があった。


【 マイマイ 】はカプセルホテルや酸素カプセルのような容器に特殊なジェルを満たしたもので、そこに裸で入ることによってVR感覚を体験できるというモノである。この特殊なジェルは通電性が高く、同時に複数の事を行う機能がついているモノなのだが、非常に管理が難しく、ちゃんと管理できる施設が必要であった。

 また、マイマイに入りながら栄養補給も排泄もできるという事は良い事なのだが、これらの機能を100%発揮させる為には外部にもまた別の装置が必要であった。

 つまり、マイマイを運用させるためには、これらの維持費のコストがかかり、更に単価が高いという事で五感を刺激するVR技術を家庭用に普及されるのはまだまだ先と言われていた。


 ゲームセンターでのマイマイの使用料金はというと、一つ一つが漫画喫茶のような個室にあるので時間単位で金をとられることになるが一度会員になってしまえば月々の定額利用料で何時間も何十時間も使用可能だ。

 このサービスにより西暦2060年現在では人口の約6割程がVR機能体験があるというデータもある。


 VR機能の中身の話になるが、もうそれはもう一つの現実と言っても過言ではないくらいだ。手や足を動かす要領でゲーム内の自分を動かすことが出来、風や臭い、味や重さや質感といったものまで再現できるように作られていた。


 この再現具合に多くの業種が反応した。不動産産業、食品産業、アダルトビデオ産業、そして世界中のゲーム開発のデベロッパーが多額の資金をかけてソフト作りに取り組んだ。


 そこに、満を持して登場したのが今回のVRMMORPG『キャッスルワールド』なのだ。


 このゲームの特徴といえばまずはクオリティであった。鉄の質感、肌の質感、石の質感といったころまで再現され、火の熱さ、氷の刺すような冷たさ、水の揺らぎとひんやりとした冷たさ、風をきる気持ちよさまで再現しているのだという。


 これらの圧倒的なクオリティにゲーマーの好きそうな中世ファンタジーの剣と魔法の世界を乗せたのだ。



 仮想現実に入りこんな世界を体感したい人は恐らく沢山いるだろう。





「楽しみなゲームが出てきたなぁ」





 そして、ゲームセンターでのキャッスルワールドの始動日当日。あれから雑誌を穴があくほど読んだ和泉智也と杉原淳二は学校をズル休みし、ゲームセンターに行き、このファンタジーVRMMORPGに参加したのだった。


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