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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第026話 ジュン編 スパイ(1)



「テンさん!!」


「チャオズ、静かにしてくれ……。一応表向き僕等は普通の冒険者なのだから……」


「テンさん、もう少しで見えてきますよ。キサラギ城と、その城下町ムツキが」


「キサラギ(如月)にムツキ(睦月)か……。このキサラギエリアは和風な名前が多いのかな?」


 テンとチャオズは、元は【りっちゃんと一緒】のクランメンバーの一員であったのだが、ホークマンに捕まり鷹の団の一員になるか死ぬかという選択肢を突き付けられ、ジュンと同じく【鷹の団】の一員になっていた。もちろん、それは生き延びる為でもあるし、バルダー城という城を得た今となってはむしろ鷹の団の一員になったほうが得だという考えもあったからだ。やはり、どう考えても最終的に生き延びるには城を持っているクランに所属していなければ生き延びられないのだ。

 この二人が現在何をしているのかというと、ホークマンの命令で最もバルダー城を攻撃する可能性のあるクラン“オリジン”を探る為にオリジンが治める街のスパイ活動に来たのだ。バレやしないかと最初は心配していたのだが、どこの街でも原則出入りは自由な都市は多い、特にキサラギエリアはちょうどほぼ全エリアの中央部分に当たる為に人の出入りが多かった。なので極端に下手なことをしなければスパイ活動もほぼ問題なく思えた。


「テンさん! スパイって言っても何をするんでしょうね?」


「だから静かにしてくれチャオズ……。え~、まぁだからりっちゃんさんの所でやっていたことと同じさ、情報を調べてノートに書く……それだけだよ。定期的に連絡係の人が僕達のノートをとりに来てくれるらしいし、気楽にいこうよ」


「はいテンさん!」


 テンとチャオズは適当な宿舎を見つけ、そこで寝泊まりすることに決めた。


「今日は何も分かりませんでしたねテンさん」


「う~ん……まぁ仕方ないよ……。でも、何がヒントになるかだなんて分からないからね。りっちゃんさんも言ってたけど、思わぬ事がヒントになるかもしれないし、とりあえず何でも書いとけばいいんじゃないかな?」


「なるほど! そうですよね! じゃあ……今日のキサラギエリアは晴れだった……と」


 テンは、チャオズの日記みたいな行為に対し冷たい視線を送った後に明日色々な町を回らなければならない理由をチャオズに告げようとする。


「そうだチャオズ【キサラギ・ライナル作戦】の事はホークマン様から聞いているかな?」


「いえ聞いていませんけど」


「そっか……これはホークマン様の勘も含まった作戦なんだけどね。今度オリジンが動く時にバルダー城を攻める確率が高いんだってさ。地図を見る分には確かにオリジンの治めるキサラギエリアとライナルエリアに西と北からサンドイッチされている土地がバルダーエリアだからね。その可能性は高い……と言えなくはない……。で、バルダー城を攻める以上大軍で攻める可能性があるんだってさ。そこでこの【キサラギ・ライナル作戦】が必要になるというわけさ」


「どんな作戦なんです?」


「作戦の中身かい? そりゃ秘密だよ」


「え~~~テンさん! そこまで言ったなら教えて下さいよ~~」


「いやぁ、実はいま作戦の触りだけ言ったのには理由があって、僕はこれから“この作戦”の為に3~4日ほどキサラギエリアの各街をまわり様々なクランを説得しなきゃいけないからなんだ。で、チャオズはここに残ってオリジンの情報収集をしてほしいのさ」


「じゃあ明日から別行動ってことですか?」


「そういうこと」


「え~~テンさんとのスパイ大作戦を楽しみにしてたのに~~」


 駄々をこねるチャオズがテンにとってはすこし嬉しい、何だかんだ【りっちゃんと一緒】から同じ仲間だからだ。


「僕だって楽しみにしてたさ。でも仕方ないだろ任務なんだし、じゃあそろそろ蝋燭消すよ! お休み~」


「ちょ! ちょっとテンさん!!」


 こうして二人は眠りにつき、スパイ活動初日を終えた。後のスパイ活動はチャオズに任せ、とりあえずテンは【キサラギ・ライナル作戦】の為に各街を回る段取りを決めた。翌朝二人はそれぞれ別の仕事を行う。


「じゃあチャオズ! 行ってくるよ!」


「何日間かのお別れだねテンさん! それまでにスパイ活動頑張っておくよ!」


「こ、こらチャオズ静かに! ……とりあえず行ってくるよ」



 テンはムツキの街から、ヤヨイの街に向かう事にする。この街にはバルダーエリア出発前にからヤヨイ街に住むクランリーダーに集まってもらうよう手紙で段取りを決めておいたのだ。同じようにあと数個の街でも日付と場所を指定してこちらからテンが赴く手筈になっていた。だがテンはいくつか心配な事があった。まずクランリーダー招集の手紙はちゃんと各クランに届いているかという事とオリジンにこの動きを察知されないかという事だ。


 ――もしもオリジンに待ち構えられていたら、その時点で僕等は一網打尽にされる……。大丈夫、考え過ぎだ……そんなことなんてないさ。


 そんな不安を抱きつつも、テンはヤヨイの集合場所へ急いだ。




「おお、遅かったじゃねーか鷹の団さん……待ちくたびれたぜ」


 テンはムツキの街から5時間後にヤヨイの街の「熊五郎」という酒場に到着した。2階はシークレットスペースになっており特別な会議をする時のスペースとして提供されていた。出迎えもそこそこにテンは「熊五郎」の皆が待機する2階に向かった。そこには10人ほどの各クランリーダーがいた。皆、お酒を飲みながら楽しく会話しているようであった。テンはまず遅れたことを皆に詫びた。


「ああ、すみません皆さんわざわざ集まってもらっているのに」


「いいんだよ、皆酒飲みながらチビチビやってたし! なぁ?」


 この掛け声に各クランのクランリーダー達が反応する。


「おう!」「そうだそうだ」「別に気にするなよ鷹の団のあんちゃん」


 とりあえずテン(鷹の団)が遅れた事に対してヤヨイ街のリーダー達が腹を立てている様子は無かったので、安心してテンは話をきりだした。


「じゃあ早速ですいませんが本題に入らせていただきます」


 テンがこう言うと、今までどんちゃん騒ぎだった場が静まって一斉に皆テンの方を向く。テンの方を向く各リーダー達の顔は真剣そのものだ。


「我が団長ホークマンがキサラギエリアの各クランの皆さんにやってもらいたいことは一つだけです。とてもシンプルな要請です。それは“オリジン”がバルダーエリアに向けて軍を出撃させたならば、その隙にキサラギ城を攻めてもらいたいのです。できれば皆さんが連合して……」


 テンの話にこの場に居た皆が顔を見合わせる。その中の一人の「与作」という男がテンに質問をする。テンもそれに応じた。


「その内容に間違いはねぇべか?」


「ええ、間違いありません」


「つまりオリジンが城から出払ってる間に、オリジンの占領している城のキサラギ城に攻め込んでくれっちゅう話だべ?」


「ええ、その通りです」


「いや、いいさそれで。奴等の兵数が少ない時に攻めれば、たすかに(確かに)キサラギエリアの各クランにとってみればそれだけ有利になるべよ……。でもよぉ……それってアンタんとこのクランの何か得になるのけ?」


 ――え?


 そう言われると、それが具体的にどういう得になるかという事をテンはホークマンから聞かされていなかった。なので、その場でテンが思いついた事を言ってみた。


「あの……我が団長はオリジンが……複数の城を占領しているのは大変よろしくない状況だと言っていました。奴らに複数の城を占領されるくらいならば別のクランに城を獲ってほしいとも言っていました」


「……ふ~ん……なるほどなぁ」


 テンのホラ話に与作をはじめ、各クランリーダーは納得の顔を示した。これはつまり【キサラギ・ライナル作戦】に対しキサラギエリアのヤヨイ周辺に住むリーダーは納得してくれたという事であった。


「じゃあ皆さんはこの作戦に賛成してくれるのですね?」


「ああ、オラは依存ねぇけど皆はどうだ?」


「ああ、むしろいい話じゃねーか」

「まぁこいつらと組むとはまだ決まったわけじゃねーけどな」


 するとここで与作が思い出したように喋り出した。


「そういやぁオリジンの連中が最近兵員さ募集してるって聞いたべ」


 初耳の情報にテンは喰いつく。


「本当ですか?」


「んだ。まちがいねぇべ。兵員募集してるってことは(いくさ)が近いってことだべ」


 ――これはいい情報を聞いたぞ!!


 テンはこの情報をノートに書き記すと、とりあえずヤヨイ街のクランが【キサラギ・ライナル作戦】に承諾してくれたことを手紙にしたためた。


「あ、そうだべ、言い忘れてたことがあっただ。この話はヤヨイ街のクランだけで行うとホークマンにそう伝えてくれ」


 ――え?


「だってそうだべ? これ以上人数が増えたらオラ達はどうやって城を攻め落としたあと城を分ければいいだ?」


 ――あ!! そ、それもそうだ……。


 人間自分の利益ばかり見ていては相手の利益が見えなくなる時がある。彼等は彼等で城を奪った後の自分の利益まで計算するのだ。ホークマンはそこを見逃していた。テンもこう言われては首を縦に振る他ない。


「わ、分かりました。ではヤヨイ街の皆さま方だけで是非城を攻めとって下さい、この話は他のクランには一切いたしません」


 テンの言葉に与作をはじめ、ヤヨイ街の皆が歓喜する!


「やったーーーーオラ達はもうすぐで城持ちクランだあああああ」

「やったぜえええええええ」


 テンはその中で唯一人、普通の表情をしていた「道誉(どうよ)」という男に近づいて喋りかけた。


道誉(どうよ)さんも良かったですね。もうすぐで城持ちクランのメンバーになれるかもしれないんですよ」


 道誉(どうよ)はそのまましかめっ面を崩さず「で、あろうの」と言った。どこの方言だ? とテンが頭を回転させようとすると。道誉(どうよ)は「腹具合が悪い今日はもう帰ろうかの」といい、そのまま「熊五郎」を後にした。テンは不思議な人もいるものだと思い、その行動を放っておいた。


 その後、テンは与作をはじめとするクラン達には以後情報屋を介した手紙で直接鷹の団のホークマンとやり取りすることに同意してもらい、とりあえず予約してあったヤヨイの宿舎で眠る事にした。


 翌朝、テンは各クランリーダーに別れを告げると、その後の予定が無くなったので、他の街のクランリーダーに集まりを止める旨を記した手紙を情報屋に託し、そのまま元の城下町ムツキに帰っていった。正直テンはどこかほっとしていた。チャオズを何日間も目を離したままにするのは、少し怖かったからだ。あの不用意な性格で何かしら災いを犯すかもしれないと思ったからだ。


 ヤヨイの街を出た数時間後、テンはムツキの街に到着した。

 早速、宿舎に帰ったのだが、そこにチャオズの姿はなかった。


「外で情報でも集めてるのか? 随分熱心だなチャオズ……」


 テンはとりあえず自分だけでもゆっくりしようと部屋でくつろぎ、宿舎の食事を食べる……。いつまでも帰らないチャオズを心配しつつ。






 だが、その日、チャオズはとうとう宿舎に帰ってくる事は無かった。


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