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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅰ章 キャッスルワールドへようこそ
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第017話 モンスター(3)



 モトヤとジュンが林の中を進んでゆく。

 何で今日の狩りにジュンがいるかというとモトヤがジュンを説得したのだ。今日は勝算ありという事を何度もジュンに話したら根負けしたらしく、しぶしぶついてきたのだ。


「本当に罠になんてかかるんだろうな? そんなガラクタで」


 ジュンはモトヤが後生大事に抱えているモトヤスペシャルを侮辱する。この侮辱に対しモトヤは早口をまくしたてながら激しく反論する。


「ふざけんなお前! これスゲー道具なんだよ! ガラクタとか言うんじゃねぇ! ビビるぞお前、ビビるからな?」


 モトヤはそうジュンに言うと次に罠の設置場所についてノートを見る。


「ふむふむ……ケモノ道に設置せよ! かぁ……。 ケモノ道ね。 え~と……。 ケモノ道かぁ……ケモノ道?」


 ケモノ道というのは、その名の通り、けものの道のことだ。

 中型から大型の哺乳類は森や林を移動する時にそれなりにコースを決めて移動している。これは中型から大型になってしまうがゆえに生じている問題の為だ。つまりそのぐらい動物の体が大きいと森や林に存在する障害物によって行く手を阻まれてしまうという状態が発生し、その問題を解消するために障害物が少ない経路を通行しようとするのだ。これが同時多発的に行われると、より障害物が少ない経路に対し大型中型哺乳類が集中するようになる。するとその動物が集中した経路はどうなるのか? 

 草木は左右に分けられ、土はめくりあがり「道」となるのだ。これが「ケモノ道」である。


 モトヤは一応ケモノ道というものがどういうモノかを知っていた。おそらくNHKでよく放送する動物番組を好んで見ていたからだろう。そのおかげでケモノ道における草木や土がどういう状態になっているかも知っていた。ただ、それは現実世界での話だ。この世界には果たしてケモノ道なんていうものは存在するのだろうか?


 モトヤは注意深くあたりをみる。とくに草が左右に割れていないかなという事を見ようとする。そんなジッと草の状態ばかりを見るモトヤに対しジュンがしびれを切らしたように声をかける。


「おい、モトヤまだかよ」


 モトヤはこのジュンの我慢の無さに苛立つが、ケモノ道を探しだす事に集中する。


 だが本当にケモノ道なんて存在するのだろうか? ただのゲームに……。


 モトヤは首を左右に振ると己の内側から響いてくる否定の声に耳を塞ごうと努力する。そして今の自分を肯定できるような材料を探す。


 思い出せ。そもそもハンター白書のマーフさんはこの罠のことを『私達がモンスターの狩りで使う為に必要なものなんだ』と言っていた。つまり実際にこの罠はキャッスルワールドに存在するモンスターに使われているというわけだ。現実の世界ではなくキャッスルワールドで。なら狩りの方法も同じはずだ。ケモノ道を見つけ、そこに罠を設置する。つまりケモノ道も必ず存在するハズなんだ。


 モトヤは基本的にキャッスルワールドが嫌いだ。だがこのゲームを評価している所がある。それはこのゲームのクオリティだ。五感に働きかけるだけでなく、あらゆるクオリティが洗練されているからだ。床や壁に使う素材一つとっても素材ごとに触った感触や硬さが違う。これらのクオリティをモンスターにも感じるのだ。


 ホラフキンとの戦いの最中にバウントハントの1匹が戦いの半ばで離脱したことがあった。元々はホラフキンが適度にダメージを与えた事が切欠(きっかけ)だが、これは別の可能性も示唆していた。モンスターは一匹一匹が種族の特性や行動パターンを踏まえつつも独自に思考しキャッスルワールド内を生きているのではないかという可能性だ。あの時のバウントハントは5匹で襲いかかって来たわけだが戦力的に一方的に不利と思える局面になると自主的に離脱したのだ。普通モンスターは死ぬまで向かってくるのがゲームのセオリーであるはずだが、あのバウントハントはセオリーから逸脱する行動をした。


 もしもモンスターの一匹一匹にそれぞれ思考があるならば、大型の哺乳類系のモンスターはある程度実物の動物と似た動きをするのではないだろうか?

 かなり大胆な仮説だがそれほど的を外したモノとは思えない。特に“通り道”の問題に関しては現実もキャッスルワールドも同じで、森や林というのは大型で地面を走るタイプのモンスターにとっては障害物というのを避ける傾向があるのではないだろうか? もしもそれを避けようと思考をするのであればやはり比較的通りやすい道を多数のモンスターが通行することになり、そこがケモノ道になるのではないだろうか?


 モトヤの説は仮説だらけで何一つ実証がない。もし一つ実証があるならば、それはマーフがこの世界で同じ方法でモンスターを倒しているという話だけだ。これも基本的には話だけで実際に狩りの様子を見たわけではない。


 だからモトヤは信じるしかない。この方法が正しいのだと。


「ん? これは……?」


 そこは草木が左右に分かれ、土がめくり上がっていた。ケモノ道の特徴と一致する。もう少し土をよく見てみる。土にはモンスターのヒズメの足跡(あしあと)と思われるモノが多数あり小さいが糞らしきコロコロとしたモノも落ちていた。


「あった……あったぞ! ケモノ道!!」


 素直にモトヤは感動した。

 本当にゲームのモンスターがケモノ道を作っているのである。これにはモトヤも唸るしかない。普通はモンスターなんて独立した一個一個のデータであって、環境データには影響を及ぼさないのが普通なのだ。それにどこのゲームのモンスターがケモノ道を作りながら移動するというのか……。


 これがあるということは……モンスターは時間ごとに何もないところから突然現れるわけではなく……このゲームの中で本当に生きているんだ……。すごい。


 モトヤはこの感動に2~3時間浸っていたい気がした。


「モトヤ! ケモノ道見つけたのか? 見つけたなら早く罠を設置しろよ」


 ジュンの方はというとケモノ道を見つけるのにモトヤほどの感動覚えていなかったようだ。当然といえば当然なのだが。モトヤはそれが少し悔しい。


 モトヤは早速罠を設置する為の作業を開始する。市場で買った小型のスコップで直径10cm、深さ20cmほどの穴を掘り、そこに用意したモトヤスペシャル(罠)を設置し、葉っぱなどをかけることによって罠を見えにくくする。


 罠にかかれば間違いなくヒモは一瞬にして足を絡めとることは間違いなかった。そこに関しては、昨日何度も木の棒を使い罠が作動するかどうか確かめた。あとは罠にモンスターがかかるかどうかだった。


「で、モトヤ。この後どうするんだ?」

「……待つ」

「それだけ?」

「うん」


 ジュンがしかめっ面をした。明らかに“俺お前に言われて来たけど、俺が来る意味なんて何かあったのか?”という顔をしていた。

 だがモトヤはこう思う。むしろ罠を設置する過程を見せたかったんだと。


「じゃあジュン一旦コテージに戻るか」

「本当に俺なんのために来たんだよ」

「だけどちょっと楽しみになっただろ? あの罠が本当に作動してるかどうか」


 そこに関してはジュンも確かに気になった。現実の世界なら罠を使って捉える事はある程度有効だが……ここはなんといっても仮想世界であって現実ではない。

 モンスターに罠という発想がジュンはゲーマーであるゆえになかなか思いつかなかった。ゲームのモンスターは正面から戦って退治するからだ。


 そしてコテージに一旦戻り、休むこと3時間。休み終わったモトヤとジュンは再び罠のある場所に戻った。


「お! 見ろよジュン!」

「マジかよモトヤ……今回は恐れ入ったわ」


 そこにいたのは前の戦いで逃がした鹿にユニコーンのような角が生えた一角獣だった。

 その一角獣の後ろ足を見ると確かにモトヤの罠にハマっている。辺りの土の様子をみると、罠から逃げ出そうと相当あがいた様子がうかがえた。だが今はそれほど懸命にもがいてはいないようだ……罠から出ようとすることの無意味さを悟ったのだろうか。


「よし、じゃあコイツを棍棒(こんぼう)でぶったたきまくるぞジュン!」

「OK、モトヤ!」

 バコバコバコバコン


「キュイイイイイン」


 モトヤとジュンは無抵抗なモンスターを棍棒(こんぼう)でぶったたきまくった。PTAや動物愛護団体が見ていたら確実に通報されそうな倒し方である。


 バコバコバコバコン


「キュ……キュイイイン……キュ……」


 そうするうちにモンスターは力尽きその場に倒れ込んだ。

 モトヤは棍棒を一度アイテム欄に格納し、今後の展望を話した。


「まぁようやく一体目って感じだな。この罠をあと数個作って、色んなケモノ道に配置して捕えたモンスターを倒しまくる……。そうするうちにモンスターが仲間になるだろ!」


 ジュンも安堵の表情を見せた。

 そのジュンの表情を見てモトヤも嬉しい。やはりなんだかんだ物事の見通しがつくと前向きな気分になれる。時間がかかるかもしれないが、確実にモンスターが仲間になる方法が見つかったのだ。

 モトヤはそうする為の鍵である“モトヤスペシャル”をあと何個作ればいいか考える。


「え~と……。せめてあと二個はほしいな。じゃあその為に必要なゴールドは?」


 モトヤは小学生がやるように指を折って計算をしていると、ジュンがモトヤの後ろを指さす。


「見ろ! モトヤ! 後ろ! 後ろ!」


 ジュンのあまりの叫び声にモトヤは思わず振り返ると、そこにはさっき倒したハズの一角獣が立っていた。通常HPゼロになるとモンスターは死んで動かなくなる。それをモトヤもジュンも何度も見てきた。だがこの一角獣は何故か立ち上がり微動だにせずこちらを見てくるのだ。モトヤの中で“ある確信”が急速に高まっていった。


 ――これはもしや


 数秒後、モトヤの視界のド真ん中にある文字が表示される。



『一角セールがあなたの実力に感服し仲間になりたがっている。一角セールを仲間にしますか?』


『はい』   ←【こちらの選択肢でよろしいですか?】

『いいえ』



 モトヤは思わず鼻孔が開く、そこから大量に息を吸い、そして思いっきり口から吐き出し叫んだ。


「うおおおおおお!! やったあああああ!! もちろん『はい』だよ『はい』に決まってるだろ! やったああああああ!!」


 モトヤは『はい』のカーソルに合わせ決定と表示されたところを押す。

 するとモンスターのHPが再び満タンになりこちらに寄ってきて顔をモトヤの太ももあたりに擦りつけてきた。


「モトヤ、その鹿……仲間になったのか?」


 モトヤは一角セールの頭を手で触りながら答えた。


「ああ、仲間になったぜジュン! 俺のモンスター第1号だぜ!」


「おおおおおおおおおおおおおおマジかモトヤ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおやったぜジュン!!」


 二人はお互いの顔を見合わせて雄叫びをあげた。そして思いっきりハイタッチした。


「いやぁ……今回は完璧にモトヤの作戦がハマったな。まさか罠が有効なRPGが存在するなんて……」


 ジュンは正直驚いていた。モトヤがシコシコと罠を作り始めた時も、無意味な作業だと思ったのだ。理由は既に述べたが、ジュンにとってモンスターとは戦闘になってからどう倒すかというモノであって、地べたに罠を張るという行為はそれから大きく逸脱していたモノだったからだ。ジュンがモトヤに以前言った『普通の倒し方じゃダメなんだろうな』というのもモンスターの特性を見極めて何かしらの弱点を見つけ出し戦闘の場面において必勝の攻略作戦を組みたてろという意味だった。だがモトヤはジュンの想像を上回って来たのだ。そんなモトヤに対しジュンは改めて称賛の言葉を送った。


「ホントすげえよモトヤ、とりあえず今回は……」

「今回はってなんだよ(笑)」


 モトヤもすっかりやり遂げた気分になり、一角セールの足から罠を外す。そしてどうやら仲間になったモンスターは魔物使いのステータス欄の中にある「モンスター」と表示されている部分に格納できるらしいのでやってみた。


「一角セール! 戻れ!」


 一角セールはモトヤの声に反応し。モトヤの目の前まで来ると青い光を放ち消えた。モトヤは「モンスター」と書かれた一覧に目を移すとそこには確かに『一角セール』という表示あるのだ。


 モトヤは何やら嬉しくなり、ジュンの手をとり踊り出した。ジュンもそんなモトヤと一緒に訳の分からないダンスを踊り始めた。二人は手を振り腰を動かし叫び声をあげた。知らない人が見たら確実に目を合わせてもらえなさそうな行動である。しかしここはゲームだという安心感もあって、二人は人目も気にせずやりたい放題ふるまう。


 二人はしばらくその場で騒ぎ続けた。

 そして騒ぎ疲れたのか二人とも地面にへたりこむ。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「おい意気上がってるぞモトヤ」

「はぁ……へへ、ゲーム内でも疲れるもんなんだな……」


 モトヤは呼吸を整える。そしてその後、突然笑い出した。


「ふふふ、ははは」

「なんだモトヤ、気色悪い笑いしやがって」


「いや、嬉しくてさ。俺等学校も同じで毎日つるんでさ、で、こんなデスゲームに巻き込まれちまったが、とにかくジュンとはここでもつるめてる」


「まぁな」


「それがこのクソったれな、デスゲームにおける唯一の救いだな……。俺はここでジュンとつるめなかったらどうなってたんだろう? 恐怖に負けて狂い死にしてたわマジで……」


「モトヤ……」


「うん?」


「一緒に帰ろうぜ! 現実に! 今じゃなく1年後な、で帰ったら高校の皆に話してやろうぜ、ここでの生活や戦いをさ。本を出すのもいいかもな? 売れるぞ! “ジュンとモトヤの英雄譚”ってな! そうすれば俺等は金持ちだぜ!! ウハウハだぜ?」


「淳二……」


「やってやれねぇことはないさ、やってやろうぜ! 絶対に生きて帰るんだ……俺とモトヤの二人で……絶対に!」


「ああ……必ず生きて帰ろう……俺とジュンならやれる。やれるはずだ」


「だな! 無敵の二人の名を轟かせてやろうぜ! 甲南高校を日本一有名な高校にしてやるんだ! 異名もほしいな……俺なら二刀流のジュンとか! モトヤは……なんだろうな? 魔物使いのモトヤとか?」


「なんで俺だけ職業名くっつけただけなんだよ! もっとカッコイイ異名にしてくれ」


 モトヤはジュンの決意を聞き嬉しかった。

 何があったとしてもこの親友だけは自分の半身であると思えた。絶対にこれからも一緒に戦っていけると、死の間際まで味方として共に戦えると。

 ジュンも同じであった。

 たとえ鬼になろうとも二人で現実を目指すと、そのためのどんな障害さえも取り除いてみせると。


 そう二人は決意を新たにした。



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