第016話 モンスター(2)
「竜虎旅団さんは人をお探しと言うことでしたよね」という、でん助の声が自身の開く店の中に静かに響いた。カウンターの対面にいる金髪の男は笑った。
「実はもうそんなクランはねぇんだ。リーダーが死んで運悪く消滅しちまったからなぁ。それで新しい【鷹の団】ってクランを作って心機一転やり直しってことさ。まぁいい。そんなことはいいんだ。それよりもさっき俺の言った情報はここにあるのか? どうなんだ?」
でん助は微笑んだ。
「私は情報屋ですよ。知らないことなどありません。ただし500Gほどいただきます」
「ふふ、なるほどね。ほらよ」と言い、金髪の男は金貨をでん助にむかって山なりに放り投げた。チャリーン、という音が店内に響いた。でん助は床に落ちた金貨を見ずに「確かに受け取りました」と言い、差し出された男の手を掴んだ。でん助の手が激しく輝き、そして、金髪の男が体をくねらせて笑い始めた。
「くくく、ははは! りっちゃんと一緒ねぇ……。あの美少女オッサンの所に逃げ込んでやがったのかモトヤ!」
男はそう言い終えると、笑いながら外への扉に手をかけた。そして、思い出したように振り返り「じゃあな、でん助。また何か欲しい情報があったらここを利用してやるよ」と言い残し、店を去った。
でん助は例の微笑を絶やさずに言った。
「では、またのお越しをお待ちしております。ホークマンさん」
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「どおおおおらああ」
バコン!!
「ヒュイイイン」
モトヤとジュンは昨日でん助から仕入れた情報に基づいて、局部の切断や弱点を攻撃せずに戦っていた。
「さっきから何度も思ったけどよ……。やっぱこの戦い方すげーむずいぞモトヤ」
「んなこと分かってるけど、仕方ねーだろ」
今、モトヤ達の目の前にいるモンスターは鹿のおでこにクジラの仲間のイッカクみたいな角の生えた俗に言う一角獣系のモンスターでヒット&アウェイを繰り返す攻撃をしてくる。こういうタイプは足などを切断するとその場から移動できなくなるので簡単に倒せるが、足が生きた状態だとやっかい極まりない。攻撃範囲に入ったと思って攻撃しても攻撃範囲外に簡単に逃げて行くのだ。
「まるで持久戦だな、くそったれ」
攻撃範囲外に逃げた一角獣の再度の攻撃を想定し、モトヤはりっちゃんから借りた棍棒を構える……。
だが一角獣は予想に反しそのままどこかに消えてしまった。
「おい! マジかよ」
モトヤは思わず叫ぶ。そんなモトヤに向かってジュンは声をかける。
「モトヤ! また逃げられたぞ! こんな風に逃げられたモンスターって今日で何匹目だ?」
モトヤはハッキリとは数えていないが、少なくとも戦いを挑んだモンスターのうちの3分の2程度は逃げられている。
「少なくとも半分以上は逃げられてるな……」
この事態に流石のモトヤも動揺を隠せない。殺す戦いと倒す戦いは全く別なのだ。殺す戦いは相手の長所を消す事ができる。飛ぶ事であったり、走る事であったりと、とにかく体の一部分を欠損させることによって本来そのモンスターが持っているであろう強みを打ち消す事ができるのだ……。
例えば……
羽を持つモンスターに対しては羽を切断し、飛ぶ事をやめさせ
素早い足を持つモンスターに対しては足を切断することによって走る事をやめさせる。
こんな事ができるのだ。
だが、モトヤ達がやっている戦いはそういう戦いではない。相手の長所を欠損させずに仕留めるのだ。つまり長所を残したまま戦って勝つことが必要なのだ。
「クソ」
モトヤは棍棒を地面に放り投げる。それを見たジュンがモトヤに言う。
「なあ、おいモトヤ……こりゃダメだわ……。多分こういう普通の倒し方じゃダメなんだろうな……。俺もいつまでもこんなとこでウダウダやってるのも時間の無駄だし……。自分の技の研鑽してくるわ……」
ジュンはそう言ってそそくさとその場からいなくなった。
――冷たい奴!
ジュンのドライな態度にモトヤは不貞腐れた。だがそれもそのハズである……。ジュンはジュンで自分の技に捧げる時間を無駄にしてまでモトヤのモンスター討伐に付き合ってくれているのだ。見通しの利かないこの状況に嫌気がさしたのだろう。
――まぁ、この有様じゃジュンを責められないか……。
モトヤはしばらくその場にあぐらをかき先ほど逃がしたモンスターの事を考える。
あの“一角獣”は足が速いからなぁ……。どうやってあの足を止めるか、だなぁ。
……待てよ?
モトヤはこの問題を現実世界のただの動物狩りの問題に置き換えて考えてみた。
そもそもハンターってどうやって動物を仕留めてたっけ?
まずは銃だよな。動物といえば銃で獲物を仕留めるのが普通だ。つまり、この世界じゃ弓か? う~ん。弓は扱ったことないしなぁ……。
他には何かないかな?
……。
……あとは罠かな?
動物愛護団体と近隣住民が罠を設置するだかしないだかで揉めてるなんていうニュースを見たことあったなぁ確か……。
そうか! トラバサミのような罠を設置すればいいんじゃね? こう餌でも置いて……バチーンって感じの。うん! それがいい! 早速ボコタの街の市場に行ってみよう。
モトヤはあぐらの姿勢を解いて立ち上がると。一路ボコタの街を目指した。そして街に到着し罠を探そうと市場を物色する……。が、一向にそれらしきものが見つからなかった。
「おいおい何だよ……。罠なんて売ってねーじゃん」
「ん? お客さん。罠を探してるのかい?」
モトヤはその時道具屋「カンパニー」でジロジロと物色してたのだが、その店の女店主に不意に声をかけられたのだ。
「あ、はい……。ここって罠って置いてあるんですか?」
「いや……ウチには置いてないよ。ただ罠を作ってる奴なら知ってる」
「マジっすか? じゃあその人教えてもらえます?」というモトヤの問いに対し、その女店主は右手の手のひらをこちらの方に差し出しゴールドを要求した。
「50Gでいいよ」
全く、このキャッスルワールドって世界は本当にシビアだぜ、とモトヤは思った。金がクリア条件でもあるせいで、細かいところまでゴールドを最速する人間が後を絶たない。だが背に腹は代えられない。モトヤは、渋々50Gを道具屋「カンパニー」の女店主に払った。女店主の妖艶な唇がプルんと動き、口角の片方があがった。
「あの三番目の細い通りを左にまがり5件目の家をノックしな。あらかじめ言っておくけど、別にそこは商売なんてやってないから。そこは【ハンター白書】っていうクランさの本拠地なのさ。そこの中に確か罠を設置する専門の職人がいたはずだ。そいつに罠でも譲ってもらいな」
なにそれ……下手すりゃ俺が狩られるかもしれないじゃん、とモトヤは思った。
しかし、金を払ってしまった以上仕方ない……。
モトヤは50Gを返せとは言えなかった。
プレイヤーキルが街中でも出来るゲームの仕様上、クランの本拠地に一人で尋ねるというのは愚行に等しい。しかし、すでに50G払ってしまった。というモトヤのケチな想いがその愚行をさせてしまう。
三番目の細い通りを左に曲がって……5件目だっけ?
コンコン。
「? はい? どちら様です?」
扉は閉まったまま、中から女の声が聞こえてきた。ドアの真ん中よりやや上の所に覗き穴らしきものがある。恐らくそこからこちらを覗いているのだろう。
モトヤはハッキリ言ってこんなところで戦闘になっても全く勝算なんてものはなかった。なので偽らないことこそが最も安全な手段に思えた。
「あの……通りの道具屋の女店主に聞いてここに来ました。罠を作ってる方がいらっしゃるみたいだという事で……よければ俺に罠を売ってくれませんか? そういう用件で来ました」
数秒の沈黙が流れる。そして女の声から、その返答がきた。
「ダメだ。罠は売りモノじゃない! 私達がモンスターの狩りで使う為に必要なものなんだ。帰れ!」
だが、モトヤは食い下がる。ここで帰ったら50G損をしただけになってしまうからだ。
「分かりました。じゃあせめて道具を見せてください。それならいいでしょ?」
「……」
女の声の主は明らかに戸惑っていた。が……やがて根負けしたみたいに声をだした。
「見せるだけなら……」
そして扉が開く。そこに立っていたのは虎の毛皮をまとった黒髪のナイスバディな女性だった。ネーム表示を見るとそこには「マーフ」と書いてある。
「本当に見るだけだぞ」
「分かってます、分かってます。じゃあ俺はここにいます……部外者に立ちいられるのはクランとしては嫌でしょ? なので持ってきてもらえます? その代わりゴールドは払います」
我ながらなかなか図々しい頼みをしてるものだと思うが、背に腹は代えられない。何としても50G分の元はとるのだ。
予想通り「マーフ」はかなり嫌な顔をしながら罠をとってきてモトヤの目の前にドサッと置いた。クランのためには俺を本拠地に上げない方が重要だと考えたのだろう。
「あんたみたいな人は珍しい。言っとくけど……それ持ち逃げしたら即座に殺す」とマーフは言った。
はいはい、分かってますよ。ワザワザ言わなくたってね。
マーフが持ってきた罠は2つあった。一つはトラバサミみたいなバチーンと金属と金属が閉まるタイプ。もう一つは筒のような物の外に非常に頑丈そうなヒモがつけられており、筒の中を踏むとそのヒモがぎゅっと締り抜けなくなるといった罠だった。
「これは君が作ったの?」
「ええ、まぁね……。うち……親が鹿狩りのハンターをやって生計をたてていたからさ。これは、それを見よう見まねで作ったんだよ」
「へぇ……。このトラバサミでバチンって鹿の足とかを挟むのかな?」
マーフがため息をついた。
「あんた、罠の事なんにも知らないんだね……。このトラバサミはタヌキとか狐とか犬とかそういった動物用なんだ。鹿みたいな足の長いのはこっちの“足くくり”って私は呼んでるけど、こっちを使うのが一般的なの」
へぇ~~
「まぁ……一般的にはケモノ道に配置する感じかな。ケモノ道に配置するタイプで背の低いイノシシみたいのには首に輪っかの罠を張る“首くくり”みたいなのも有効かな」
マジでスゲー詳しいな……。
「ただ、それは本物の動物の場合……。ここにいるのは見たこともない動物ばかりだからね……。ゲームだし仕方ないんだけどさ。まぁだからこれをそのまま使っても効果は無いかもしれないよ?」
モトヤはノートをとりだして、罠のスケッチをはじめた。
「いや、マーフさんありがとう! 確かにどうにもならないかもしれないけど……。基礎さえ分かっていれば応用が利く気がするし、とにかくありがとう!」
マーフはモトヤの言葉に気を良くしたのか、罠ではないアイテムも見せてくれた。
「これは私が使ってる“戻りナイフ”ってヤツ。ナイフの先に毒をぬって相手に投げつける。でも投げたナイフが拾われたら相手の武器になるわけだろ? これはね。その“足くくり”につけてあるヒモをつけて投げたナイフを即座に手元に戻すってヤツなんだ。これで何回でも自分の手元にナイフを引き寄せられる! どうだ! 便利だろ?」
確かに便利そうだ。でも、今は罠のスケッチさせてくれ。
モトヤはマーフに色々質問しながら罠の部品一つ一つを丁寧に書いていった。
「あの……この“足くくり”ってどういう原理でどうやって設置するんです?」
「そこからなの? えーとねぇ……これはまず穴をほって下の筒だけをそこに入れるの、そしてその中にギリギリ入るサイズのそこの浅い床の筒をこの上から乗っけるわけ……で、そっちの浅い床の筒には予めヒモを巻きつけておいて~~」
ふむふむなるほどな……。ふむふむ。
一通り罠の作り方と罠の設置の仕方を理解したモトヤは100Gを払いその場を後にし必要な材料を市場で仕入れ、りっちゃんと一緒のコテージに戻り自作してみる。
「できたぁあああ!! これぞモトヤスペシャル貴様の足をくくってやるぞVer1.0だあああああ!!」
モトヤはこの罠の作成に2日ほどの日数をかけていた。
「モトヤ……エライ気合い入ってるな! いいぞ! 今度のことはちゃんとノートに書けよ!」
りっちゃんは金になると思いニコニコしながら喋るが、モトヤはの頭は“この罠を試してみたい”という想いで一杯だった。
そして、モトヤはまた狩りにでる。今度は新兵器「モトヤスペシャル貴様の足をくくってやるぞVer1.0」を抱えて。




