第012話 スキル
「ふぅぅ結構面白いことになってるじゃないか」
キャッスルワールドの開発者である【 安城ススム 】は紅茶をすすりながらゲームの行方を見守っていた。基本的に老中の真壁は公務で忙しい、なのでキャッスルワールド内の24時間の監視体制に老中は加わる事はできていなかったのだ。その為、自動車の車検のような準公務員行為として監視をそれ以外の営利団体に引き継がせていた。その団体のトップにいるのが開発者の安城であった。安城であれば突発的なトラブルにも対処できるという理由での抜擢だ。そして安城はキャッスルワールド内におこる出来事を100以上のモニターを見ながらクーラーの利いた部屋で紅茶を片手にこの職務を心から楽しんでいた。
「エルメスちゃん気に入ってたのに~生き残れなかったか~」
安城は再び紅茶をすする。
ズズズゥゥ
安城は満たされていた。
当初開発を断念せざる得ないほど資金繰りが困難だったのに「本能闘争における改善および改良法」のゲームに選ばれたことで公的資金を注入され大規模かつクオリティを維持した作品を制作できた……そして更に嬉しいのは、プレイヤーが自分の作ったゲームを命がけでプレイしている所だ。
安城は改めて感心せざる得ない、死が身近にあると人はこんなにも一生懸命プレイするものなのか……と、自分の創造した世界で、人がもがき苦しみ、楽しみ、喜び、そして絶望を感じ死んでゆく。その生き様の一部始終を見れることは開発者としてこの上ない幸福だった。
「私は彼らに人生を与えているのだ、創造主のようにね」
「上機嫌だね、安城君」
安城は驚いて振り向くとそこにはスーツ姿に身を固めた老中の真壁勝がいた。安城は椅子の上で膝を組んでいた体制を止め、椅子から飛び上がり、直立した。
真壁は笑みを浮かべ右手を軽く上下に振った。
“気にするな”というジェスチャーのようだ。
安城は直立不動の姿勢を少し崩し真壁に尋ねた。
「真壁様、公務はよろしいので?」
「安城君、忘れてもらっては困る……これも公務なのだよ。もしもこのプロジェクトが上手くいかなかったとき責任をとるのは誰だと思うのかね?」
安城は90度におじぎした姿勢で平謝りする。
「愚か者の安城はそこまで考えが至りませんでした御容赦下さい」
安城の態度に御満悦な真壁は微笑しながら言葉を続ける。
「良い良い、して私の座る場所はどこかな?」
「はっ、こちらでございます」
そういうと安城は画面がよく見えるVIP席に真壁を案内した。
真壁はそこに移動し深々と座ると対面の席を指しジェスチャーで“君もかけたまえ”と指示してきた。安城は一礼してから対面の席に座った。
安城が座ったと同時に真壁が尋ねてきた。
「安城君、どうだい監視は、何か問題はおきたかね?」
「いえ、何も問題はおこっておりません」
「そうか……いやぁ実は気になる事があってだね」
「……気になる事? ですか?」
安城は少し驚いた目をした。自分が監視している間にそんな事は無かったような気がするからだ。だが真壁は頭のこめかみのあたりを左手の人差し指でボリボリかきながら何かを思い出そうとする。
「なんと言ったかなぁ……え~と……スキル! そうだスキルに関する話だった」
人間とは己の興味関心が無い事は覚えづらいものだ。真壁もその一人なのだろう、簡単なゲーム用語すらおぼつかない感じであった。
「スキルの何をお知りになりたいので?」
「そうだな……うーん……えーと……」
安城はこの質疑応答だけで日が暮れるのではないかと思った。そこで思い切って真壁に提案した。
「あの……私がスキルに関する色々な説明をしますので、真壁様が元々気になるという事が私の話に出てきた時点で私に何かしら言って下さい」
「それは良い案だ……では早速頼む」
この後、安城は真壁にゲーム内で使われるスキルの説明をした。
「スキルは基本的には職業ごとに分かれていまして自分が選択した職業に付随する形で身に付くように設定されています……真壁様は【ロマンシグサガ】というゲームを御存じですか?」
「いや」
「ロマンシングサガには【閃き】という戦闘中にランダムにスキルを覚えるというシステムがありまして、職業に付随するスキルに関しての発現はおおむねこの【閃き】によって本人にもたらされるよう設計しています、もう一つは人生スキルと言いまして、キャッスルワールドにおける目玉はむしろこっちなんです」
「ほう」
「本人がゲーム内で獲得した経験により……これは経験値のことではありません、文字通り経験です、脳のアドレナリンが大量に分泌する瞬間がどのくらいあったのか、ゲーム内でどのように生存してきたのか、はたまたどのような主義を掲げるのか、このような人生の経験と個性に伴い、ある適度なタイミングで本人に付与されます」
「ふむ」
「人生スキルは数万種類あり、恐らくキャッスルワールドのプレイヤー同士が同じスキルを持つ事は極めて稀でしょう、また人生スキルは基本的に複数所有することはできません、一人につき一つだけです」
安城は饒舌なりさらに喋る。
「実はこの人生スキル、私が作っているのは部品だけなんです。本人に発現する人生スキルは基本的に複数の部品が合わさったものとなるので、実際のところ発現したスキルが何になるのか、開発者の私ですら予想がつかないのです」
この時真壁が声をあげた。
「それだ! 思い出した……その話だった」
「はっ、……人生スキルですか?」
安城は少し意外だった。人生スキルの何が関係あるというのか……だがこれとは対照的に真壁の顔は少し強張り椅子の上で前かがみになりながら安城に迫る。
「そうだ……その……予想がつかないスキルになるという話だが、実際どの程度の事が可能なスキルができるのだ?」
「それは先ほど説明したとおり私には予想がつきません」
「例えばだ、このキャッスルワールドのデータごと書きかえるなんていうスキルも発現するかもしれないのか?」
「え?」
「例えば、そんなスキルがあったとする。それならばキャッスルワールドから逃げ出す事も可能ではないのか?」
これは根本的には管理を目的としない安城には無かった発想だった。実際どうなのだろう? どんなスキルが発現しようとも基本的にはある程度周りに影響を及ぼす。例えば現在確認されている人生スキルは“任意の相手を小さな袋に包み捕える”と言ったスキルだが、これならば相手を小さくするというデータの書き換えが含まれているし、包まれている間は、ステータス値が大幅に下がるというのも、データを書きかえに該当するかもしれない。
真壁の言うようなスキルがキャッスルワールドに登場する可能性があるのか……その問いに対する正確な答えは“わからない”であった。
だがここでそんな事を言ったとすれば自分はどうなるのだろう?
このポストから外されるのだろうか?
いや、そんなゲームを設計したという責任をとらされるのではないだろうか?
1分ほどの静寂が応接室に流れる。
その後、安城が口を開く。
「恐らく大丈夫でしょう。基本的にはキャッスルワールドから逃げ出せるシステムに干渉できるような部品をそもそも私は作成してません、ありえない事です」
ここで真壁が満面の笑みを浮かべた。
「ああ、良かったよ……これで私の心労が一つ減った。実はこれは将軍様にそう聞かれたのだった。はははは……ただね……」
真壁が安城の顔のすぐそばの鼻と鼻がこすれ合うくらいの距離まで顔を近づける。
「もしも……不始末があれば……君に責任をとってもらうよ? いいね?」
安城の手足が震えだす……これだけの大掛かりな作戦の責任……それはもう安城の生命以外に決着の付け方はないだろう。
「はっ、分かりました」
「うむ、良し……では私はそろそろ別の公務があるのでね。ここを頼んだよ」
そう言うと真壁はやや冷房の利きすぎたこの監視室を去って行った。
その静寂の数十秒後、監視室に安城の怒鳴り声が響く
「いいか! 10万人の人生スキルの全ての把握を務めろ!! 全てだ!リストを作れ!! もちろん、あいうえお順だ!! いいな?!」
こうして安城は10万人いると言われるプレイヤーの全ての人生スキル解明に努めることとなる。




