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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅰ章 キャッスルワールドへようこそ
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第010話 初陣(3)

 両者の視界にモンスターがちらつく。

 これを見てホラフキンがモトヤに強く語りかけた。


「なんだモトヤ君! 距離をとり続けてるね? 逃げ回ってるだけじゃいつまでたっても僕は死なないよ」


 モトヤは何も答えない。

 ホラフキンは思考する。モトヤはただ距離をとり続けるだけなのか? それとも何か奥の手があるのだろうか? どっちなのか、と。


 ゲーム開始からたった数日しか経っていないが、ホラフキンは実戦の難しさ、というものを感じていた。一般人が思い描く「奥の手を残す」などといった戦闘の駆け引きは、実戦ではほとんど役に立たないことの方が多い。駆け引きをする前に大体の場合勝敗が決まってしまっているからだ。だからこそ、強力な攻撃手段があるならば、迷わず最初に使うべきであり、そうすることこそが生き残るうえで有効な方法といえた。逆説的に言うならば、なにかしらの強い能力を持っているにも関わらず、使わない、という選択は実戦において死に直結する判断なのだ。


 ホラフキンは剣を振り続け、モトヤはホラフキンから距離をとり続けた。

 ホラフキンは思考する。モトヤは奥の手があるのなら、今すぐ使うべきなのだ、と。それこそが最も合理的な手段であり、最善の手である筈である……。モトヤがそうしないのは、どうしてなのだ、とホラフキンが思った所で、いや、と思いなおす。


 そもそも、奥の手など無いのかもしれない。


 モトヤはレベル1の魔物使い。スキルを獲得したなら報告するように伝達しておいたが、それもなし。スキル無しの魔物使いに、何が出来るというのか。

 ホラフキンが袈裟斬りでモトヤに襲いかかるも、モトヤは体を巧みに使い、これも避ける。

 その時である。モトヤの瞳が僅かにホラフキンから視線を外した。

 ホラフキンは不思議に思い、モトヤの視線の先を追う。モトヤの視線の先には、遠くチラチラと見えるモンスターがいた。

 そういうことか、とホラフキンは思い、ほくそえんだ。


「ひょっとして視界にチラついているモンスターを使って僕を脅しているつもりかい? 君を追いかけるということは僕も死を覚悟しなければならない……、そう言いたいのかい?」


 モトヤは何も答えない。ホラフキンは続ける。


「いいことを教えてあげよう。既に知っているだろうが、モンスターは君も攻撃する。だが僕は君よりもレベルが高い。いいかいここ重要だよ? 僕は君よりもレベルが高い。今の僕ならば恐らく一度に1~2匹のモンスターに襲いかかられてたとしても簡単に倒すことができる。だが君はどうかな? 僕のように簡単にモンスターを倒せるかな? 僕の言いたいことは分かったかな? モンスターを引き寄せたとしても僕と相討ちにも持ち込めないよ。モンスターに殺されて死ぬのは君だけだ」


 モトヤはホラフキンを睨む。そして、その後また距離をとった。


「だから甘いんだよ! どうせ何も考えてなくて僕の攻撃から逃げ回っているだけなんだろう?」


 ホラフキンが再びモトヤに襲いかかる。モトヤは地面を蹴り、何とかこれを()わした。


 その時である。40mほど先から狼の群れらしき5頭がこちらに迫ってきた。どうやら彼等の縄張りに入ったようだ。ホラフキンがこのうえなく“悪い顔”をして笑った。


「モンスターがこっちに来るね。僕等の遊びの時間はここで終わりと言うわけだ。レベル1の魔物使いの君が生き残る方法はただ1つ。僕と協力してモンスターを倒す……、それしかない。だがね……、僕はそれを拒否する。更にモンスターは君に引き受けてもらう」


 ホラフキンはそう言い終わるとモトヤの右側を執拗に攻撃した。モトヤはその全てを寸前の所で躱わす。ホラフキンは弓を引くように剣を引くと、モトヤに向けて思い切り突いた。モトヤは、後ろに転がり、そしてすぐさま立ち上がる。

 刹那、モトヤの目は大きく見開かれた。

 モトヤは背後を振り向き、次に正面のホラフキンを睨みつけた。モトヤは、その位置関係に気付いたみたいであった。モトヤの今居る位置はモンスターとホラフキンのちょうど間にいたのであった。まるでサンドイッチの具のようにモトヤはモンスターとホラフキンに挟まれた。



「ウゥガォオオオオオオ!」 

 狼のようなモンスターが切り裂くような唸り声をあげ、二人がいる位置に勢いよく向かってきた。ホラフキンは大きく息を吸い込むと、モトヤに対し優しく語りかけた。


「モトヤ君、君はどれくらいモンスターの性質を知っている? この数日、君はちっともモンスター討伐に参加しなかったね。僕はね、討伐隊を率いてモンスターを倒している途中で当たり前すぎるような“ある法則”に気づいたんだよ。本当に当たり前の法則にね。モンスターはね……、モンスターから見て自分に“より近い方”を攻撃するように出来ているんだ。もちろん例外も存在するがね。あのモンスターは【バウントハント】と言われる狼型のモンスターで、僕が見た戦い全てで“より近い方”を攻撃していたよ」


 モンスターの距離が20mほどに迫り、5匹のモンスターの牙が鋭く光る。


「つまり、僕と君の位置なら、君の位置を攻撃するんだ。“より近い”君の位置をね。まぁ僕の方にも1~2匹流れてくるだろうが、その程度なら問題ない。なにを言いたいか分かるかい? “さよなら”ってことだ。マイマイの中で溺れて死にたまえ!」


 この言葉に対し、モトヤからの返答はなかった。恐らくそれどころではないのだろう。

 このモトヤの様子を見てホラフキンは安堵した。追い詰められ絶望している者は何も喋らないものだ。先ほどエルメスの取り巻き連中もそうだった。途中はあれこれ叫んでいたのだが、結局死の間際になると何も喋らず死んでいった。きっとモトヤもそうなのだろう。目がくぼみ、顔を青白くさせ、そんな“絶望”の表情(かお)を浮かべながら声も出さず死んでいくに違いない。

 ホラフキンはバウントハントがこちらに1~2匹流れてくることを想定して剣を上段に構える。それからモトヤを見た。モトヤはこちらに背中を向けていた。恐らくモンスターを迎え撃つ為だろうが、ホラフキンはこれを残念に思った。

 ホラフキンは、できればモトヤの表情(かお)を見たかった。自分という権力者に楯突いた愚か者が、哀れに死んでゆく様を見たかったのだ。顔は雄弁である。滲み出る表情は時に崇高な芸術さえも凌駕する。この少年は生意気だった。自分のクランに所属する人間は自分の意思からはみ出てはいけないのに、この少年はエルメスと逃げようとした。自分よりも非現実的な願望を訴える女を選んだのだ。

 こんな少年など、ゲーム開始当初に自分が声をかけなければすぐさま死んでいただろう。自分は少年の恩人である筈なのだ。なのにコイツは恩人である自分の顔に泥を塗った。

 許せる筈がなかった。

 決して許してはいけない、と思った。

 自分を裏切る者は、全て絶望しながら死ぬべきだ、とホラフキンは思った。

 だからこそ絶望の表情(かお)を見たかったのだ。

 死んでしまってからその表情を見ればいいという人はこの心理をよく分かっていない人だろう。死に際に見せる一瞬の表情だからこそ価値があるのだ。生に通じる道が絶たれ、希望を全て失った表情だからこそ価値があるのだ。裏切り者はこうあるべきだと心の底から思えるから価値があるのだ。


 その思いが通じたのだろうか? モトヤはモンスターが目の前にいるにも関わらずくるりと反転し、こちらを向いた。ホラフキンは神に感謝したかった。この世界に来ることになって全く自分はついてないと思っていたが、少しぐらいの我ままなら聞いてくれるらしい、と思った。


 そしてホラフキンは2~3後には死ぬであろうモトヤの表情を見た。

 その顔をみてホラフキンは違和感をおぼえる。……なんといえばいいのか、絶望とはこんな表情であっただろうか?

 ホラフキンは先ほど殺してきたエルメスの取り巻き連中の殺される間際の顔を思い出した。皆、死の香りが漂っていた。死の恐怖に怯え、顔をひきつらせ、目をくぼませ、涙を流しながら死んでいった。中には怒り出したのもいたが、とにかくその殆どが“恐怖と絶望”というモノを体現したような表情であった。ホラフキンが先ほど学習した絶望の表情(かお)というのはそういうモノのハズだった……。だが、これは何と言えばいいのか……()、……()であった。

 モトヤの表情はどこか虚ろで、喜びも、絶望も感じない。まるで仏像の無機質な表情のような……。

 ホラフキンはそんなモトヤの表情に首をひねる。

 あまりにも絶望を感じすぎると、人とはこんな表情になるのだろうか?


 そんな素朴な疑問を思い浮かべた瞬間、ソレはおこった。

 

 バウントハントが5匹がすべて、モトヤの脇をすりぬけ、こちらに牙を向けてきたのだ。

 それはまさにホラフキンにとって晴天の霹靂であった。

 脳が現状をうまく飲み込めず、頭が真っ白になった。

 僅かに視線を動かしモトヤの顔を確認する。

 モトヤは微笑んでいた。

 ホラフキンの全身に悪寒が走る。

 訳が分からなかった。

 何で? 何で? 何でだ? おかしい! 馬鹿な! バウントハントは近くのプレイヤーを攻撃するはずだ!! 何故こんな現象がおこる? 何故なんだ!?

 世界が遅く感じられ、バウントハンドの牙とよだれが光る。体中の鳥肌が立ち。ホラフキンは、とにかくこの場から逃れたくて剣を振り回した。

「ぬぉおおおおおおお!」

 切先はバウントハントの額に打ちこまれ、体が真っ二つに割れる。だが、それと同時に他の4頭が両足と両腕に噛みつく。

 ホラフキンがうめき声をあげた。


「ぐああああああああ!」


 声をあげながらホラフキンは何故、という気持ちを打ち消すことができなかった。裏切り者は全員絶望して死ぬべきなのに、どうして今自分の方が苦しんでいるのか。

 訳が分からなかったが、死の恐怖が無理やり闘争心を呼び起こす。


 ――僕は竜虎旅団の団長ホラフキンだ! 僕は現実に帰るべき人間なんだ! 僕はこの世界のクズ共とは違う! 毎回営業成績トップの男なんだ! エリートなんだ!


 噛み付かれた手に力が入り剣を握る。ホラフキンは右腕に噛みつくバウントハンドを無視し、足に噛みつく狼に狙いを定め、そのまま突き刺した。

 血が舞い、足下の獣はすぐさま絶命した。ホラフキンは口角の片方をあげる。


 ――どうだ!! これが僕の力だ!!


 視界の右上のHPメーターがどんどん減っているのが見えた。


 ――この畜生共! データのくせに! ただのゲームのデータくせに僕を殺そうとするのか!


 この時ホラフキンの視界の奥の方で何かが動いたもののホラフキンはそれに構っていられなかった。今すぐにこのモンスター達を殺さなければ自分が死ぬのだ。


 次にホラフキンは倒れ込み、左手首に噛みつく獣を激しく地面に叩きつけた。

「キャンキャンキャン」

 バウントハントは情けない声をあげ、左手首から牙を放し、その場から逃げ出す。それと同時に寝転んだ状態で左足に噛みついていた獣の喉を素早く切り裂いた。大量の血がバウンドハントの首から噴き出し、ホラフキンの顔と体にかかる。残すは右腕にかじりつく一体だけ。


 ――これを殺せば、あとはゆっくりモトヤを殺して、それで終わりだ!!


 だがここでホラフキンにとって予想外のことがおきる。右手に噛みついていたバウントハントが右手をかじるのを止め、ホラフキンの喉笛に喰らいついたのだ。


 ――しまった!


 ホラフキンのHPがみるみる少なくなっていく。


 ――やめろ! 僕こそが生きるのこるべきなんだ! 僕は! 僕は! 死にたくない! 死んでたまるか!!


 ホラフキンは歯を食いしばり喉に喰らいつくバウントハントを刺し殺そうとする。だがその時、ホラフキンはハッキリと視界にモトヤの姿を捉えた。

 ホラフキンは現在寝転んでバウントハントと格闘している状態だ。モトヤはそんなホラフキンの視線上にいた。モトヤは寝転ぶホラフキンの傍で剣を上段に高く掲げ、あとは振り下ろすだけの体勢をしていた。モトヤの瞳が妖しく光った。


 ホラフキンは“やめろ”と言いたかった。しかし、バウントハントに喉を噛みつかれ声が出せない。ホラフキンは涙が止められない。濃厚に自分の未来を感じているからだ。


 ――待て待て待て待てダメだ! ダメだ! 攻撃するんじゃない!! 僕は成功者なんだ!! お前のようなカスの高校生が僕を殺してはダメだ! 頼む!! 殺さないでくれ!! 僕は死にたくない!! 僕は――。


 モトヤは上段から剣を振りおろし、バウントハントごとホラフキンの首を斬り落とした。






「ふぅ」


 モトヤは剣を鞘に納めた。

 そして視線を下に移す。そこには所々モンスターの攻撃によって欠損しているホラフキンの体と……、そして涙を流している首があった。モトヤはそれを眺めながら考える。


 今頃ホラフキンはマイマイの中で溺れ死んでる最中だろうかと……。

 今度は不思議と憐みの気持ちが浮かんでこなかった。

 代わりに浮かんできたのは別の言葉だった。


「文句ならホークマンに言えよ“この事”を知ってて教えなかったホークマンにな」



 モトヤの中である記憶が蘇る。

 他愛もない日常のなかに紛れ込んだ……ある記憶が……、ホークマンとその一派の喋っている会話が……。



『あいつと魔物使いをセットにしてモンスターの前に置けばいいんだよ』

『なんでだよ』

『知らねーのかよ、魔物使いは他の職業と一緒だとモンスターは優先して他の職業の方を攻撃するらしいぜ』



 モトヤはホラフキンに語りかけた。


「魔物使いは他の職業と一緒だとモンスターはそちらを優先して攻撃するんだそうだぜ? 俺はねホラフキン……、それに賭けたんだ……」


 当然ホラフキンの亡骸は何も答えない。もう死んだのだから当然だ。


 モトヤは心のどこかで自分が何か別の人間に変身してしまったのではないだろうかという気がした。戦いが始まり数十分程度しか経ってないのだが……二度とあの頃には戻れないような……。


 古来日本において「初めての戦い」というのは大人になるための数ある儀式の一つだったらしいが……モトヤはその意味が分かる気がした。

 経験してしまうと元には戻れない何かを踏み越えたような……そんな気がしたのだ。


 その頃ちょうどジュンも戦いが終わったみたいだった。そんな疲れ切った様子のジュンにモトヤは声をかけた。


「ジュン、やつらがここに来る前に早く行こう」

「でもモトヤ、レーダーは?」

「大丈夫、もう大丈夫なんだ。行こう」



 モトヤ達はホラフキンの死体をその場に放置し、闇の中の草原を駆けだした。

 すべては生き残る為に。


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