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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅳ章 M計画
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第095話 エヴァ(2)

長らくお待たせして申し訳ありませんでした。本当はゴールデンウィーク中に発表するつもりでしたが、予定より1週間伸びてしまいました。

視点はエヴァです。

 あれは何時だったかしらね。M&Jを壊滅させてから一カ月後くらいの頃かしら。私達……、私とマオ姉の二人はバルダー城の王の間でお酒を飲んでいたの。何のお酒かは分からなかったけれど、とにかくいいのが入ったから、ってそんな理由で飲む事になったの。その場には私とマオ姉しかいなかったし。私達はそれなりに親しかった。二人でガラス細工のグラスに茶色の酒を注いだわ。私もマオ姉も久々に酔った。普段酔う事なんてあまりなかったし、楽しかった。だからかしら、二人ともお喋りになって……、で、確か私からだったんだけど、ミハイルさんのことを聞いたのよ、マオ姉に。ホラ! イケメンじゃない? あの人って。そりゃ現実世界の顔がどんな顔をしてるかなんて知らないし。とびっきり背が低いかもしれない。もしも、会うことなんてあったらガッカリするかも~って思ったわ。でも、私達は今キャッスルワールドの中にいるのであって、現実世界にいるわけじゃない。だから、その中で恋をするなら誰が良いって話になったと思う。たぶんここらへんに関しては私が一方的に話していたんだけど……。で、途中で気づいたわけ。そういえば二人は犬猿の仲なんじゃなかったっけって。え~とね。だから謝ったのマオ姉に。ごめんなさい、気がつかなかったって。そしたらマオ姉が、


『私が嫌うとか嫌わないとかじゃなく、ミハイルはオリジンに必要なのよ。だからいくらでもミハイルの話をするのは構わないわ』


 って言ったの。流石マオ姉大人だな~って感心したわ。でね、続けて言ったの。


『もしも付き合うのならそれでもいいけど、絶対に嫉妬してはダメよ』


 私ってほら結構嫉妬しやすいじゃない? だから、てっきり釘をさされたかと思ったの、他の女がミハイルさんに近づいてきても嫉妬の炎を燃やすなよって。でも違った。


『何言ってるの? 違うわ。ミハイルの才能によ』


 才能? って思ったわ。よくよく訊くと、軍隊を指揮する才能のことをマオ姉は言っているって分かったわ。私は自分の彼氏に猫なで声で近づく女がいたら八つ裂きにするかもしれないし、もしも彼氏がその子を好きになったら大いに嫉妬するかもしれないけど、才能に嫉妬だなんて、ほとんどありえない事だと思ったわ。するとマオ姉が言ったの、ホントマオ姉に似合わない言葉を。


『私は嫉妬してるわ。それに羨ましい、ミハイルがね。男として魅力的だなんて一瞬も頭をかすめた事すらないけど。あいつの才能の在り方にだけは嫉妬するわ。あいつは良い具合の天才だから』


 才能の在り方。良い具合の天才。少し後に分かるのだけど、この場合、才能の所には「在り方」って単語がくっついて、天才には「良い具合」って単語がくっついたわ。でも私はそのいらない言葉を取っ払って「天才」って単語だけが頭に響いたの。だから単純にミハイルさんを褒めたのだと思ったわ。てっきりマオ姉はミハイルさんのことを舐め切っているって思っていたからかなり意外だな~と思ったのを覚えているわ。それに「天才」って言葉は、むしろマオ姉こそ似合いそうじゃない? だから私言ったのよ。天才なのはマオ姉でしょ? って。


『ある意味そうかもしれない』


 そう言ったの。否定しなかったわ。自分も天才って自覚があったのかも。でもマオ姉はそう言った後悲しい表情をしたわ。……。私の言いたい事が分かったのかしら。マオ姉は自分からそのことを話した。天才は、つまり『特異』ってことだって。あとはどんなものが特異になるか。ミハイルさんの場合は現実世界では使えない才能だった。そういう特異さはあったもののつまり、現実世界では普通だった。普通に生まれ、普通に育ち、普通に反抗期がきて、普通に友達ができ、普通に大学に進学し、普通に就職した。キャッスルワールドがミハイルさんの特異をすくいとらなければミハイルさんは極々普通の人間だった。


『でも、私は違う。私は生まれた時から特異だった。私からすれば皆が特異なのだけど、私は一人で地球に降り立った宇宙人みたいなものだった。私は、空が青くて、それを青い空と思えて、心底美しい、と思える人間に憧れたわ』


 最初、意味が分からなかったの。当然ね。済みきった青空が綺麗だなんて、割と誰でも思う事だったから。でも、よくわからない分、本音だと思ったの。そして、それからいろいろ話を聞いたわ。聞いているとね、段々理解できるようになるの。マオ姉が何を憎み、何を蔑み、何に笑い、何に快楽を見出すのか。もちろん共感はできないわ。でも聞けば聞くほど、マオ姉は孤独だったのだと分かったわ。友達がいないとかって意味じゃないの、友達はいたそうよ、しかも様々な人種の。同じ会社の同僚、弁護士、医者、小説家、ホスト、ヤクザ、配管工員、土木作業員、ヒモ男、とにかくこの世のありとあらゆる職業の友達がいるんじゃないのかしらってほど沢山の友達はいるみたいだったわ。でもね。マオ姉は孤独だった。全てにおける感じ方が違った。考え方が違った。何もかもが人と違った。誰にも共感されなかった。そして誰にも共感できなかった。プライベートライアンって知ってる? あの映画の冒頭15分間。一瞬で殺されていく人々を見て感動で涙を流したらしいわ。沢山の銃弾があたりに散らばる中、運だけが己の命を支配する。なんてロマンチックなのかしらって。ちょっと信じられないでしょ? それがマオ姉だったの。だから普通の人と接する時はロジックを優先させて話した。合理的であれば、それほど的外れな事を言わないで済むと思ったかららしいわ。おかげでマオ姉はクールな女性だと思われた。でも違う。ただ違うだけだったの、感じ方が。大学は心理学科のある学校に進んだ。でもね。心を学問として捉えれば捉えるほどロジックは溜まっていくの。だけど肝心の共感部分はなにも育たなくて、誰かに理解してもらいたくてマオ姉は苦しんだ。最後にミラー大尉が動かなくなった所を見て一緒に腹を抱えて笑い転げる友達がほしかった。そして、そのうち、諦めた。自分は理解されない。そういうモノなんだ、って。きっとその時、マオ姉は川を渡り切っちゃったんだろうね。つまり、地球人との対話をやめたのよ。私、マオ姉を見て時々思う事があるの。この人はどうしてここまで残酷なことができるんだろうなって。まぁ私も結構そういうことやるけど。私の比じゃないないっていうか。で、私なりに答えを導き出したの。たぶん、マオ姉にとって人間は地球上に自分一人なの。他の人間は、人間の皮を被ったヒトモドキで、牛や豚みたいなものだった。だから何の躊躇いもなく殺せるし、一切同情しない。だって子供の頃アリの群れを踏みつぶしたことがあるでしょ? 飛びはねたり、足を左右に動かしたり、中にはバケツにたっぷりの水を持ってきて巣穴に流し込む子もいたわね。でもアレで何か感じた? ごめんね~、とか思った? 罪悪感で泣いたりした? ただ、何となく「あ~楽しかった」って思うだけでしょ? きっとマオ姉にとって人の命ってそれと同じぐらいの価値なの。それほど軽いものなの。そしてここが大事なのだけど、実際にマオ姉はアリを踏みつぶす時快感を覚えたということよ。色々な人々を巻き込み、様々な絶望を感じさせ、人を死に至らしめることにマオ姉はこれまで感じた事のない幸福感を覚えた。


 だから、なんていうか、ピッタリとハマっちゃったのよ、この世界に。マオ姉のとろんとした瞳と微笑んでる口元を見てると、この世界を心底楽しんでる感じが伝わってくるの。悲壮感なんてどこかに飛んでっちゃいそうなくらい。まるでお気に入りの洋服を着て、どこかのパーティーに出かける前みたいにウキウキワクワクしていることが分かるのよ。


 それがマオ姉って人なの。怖いでしょ? だからあの人は最強なのよ。





 あっと、もうこんな所まで来たみたいね。さあ見えたわよ。


 あの丘に見える街が《バスティア》よ。


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