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27

 私は死んだのだろうか。


―――――否定。死んでいるならば意思があるわけがない。


 では、私は生きているのだろうか。


―――――肯定。しかし、身体に大きな負傷あり。特に左腕は現在使用不可能。


 けれども、戦うことはできる。


―――――肯定。けれども、勝率は大幅に減。一割にも満たない。


 だが、勝機があることには変わりない。


―――――肯定。同時に疑問。何故そこまでして戦う必要があるのか。


 何故、とは。


―――――この戦い、貴方が勝ったところで何も得るものはないはず。勝利したところで貴方は彼女を本当の意味で手にすることはできない。それは貴方が一番よく分かっているはず。


 …………。


―――――故に提案。もういいではないだろうか。貴方はよくやった。彼女に己の意思を見せることもできた。この戦いを見た者の中で貴方が抱く彼女の想いが本物であることは誰もがわかっているはず。


 …………。


―――――このまま負けることこそが、彼女のためであり、貴方のためでもある。


 言いたいことはそれだけか?


―――――何?


『貴女』が何者なのか、そんなことはどうでもいい。もしかすればこの戦いを本当に仕組んだのは貴女なのかもしれない。あの謎の光も貴女の仕業なのかもしれない。それだけあの少年を勝たせたかったのかもしれない。だが敢えて言わせてもらう……私の戦いの邪魔をするな。


―――――再疑問。何故そうまでして戦う?


 決まっている。私がそう決めたからだ。それをここで曲げる程、私という人間は器用ではない。そして、それを他人に決められる筋合いもない。


―――――確認。それが貴方の答えか。


 そうだとも。


―――――再確認。後悔はしないか。


 するかもしれない。だが、それでも私が決めた道だ。例えその先がどんなものだろうと私は進むだけだ。


―――――……了承。私の役目はあの少年の願いを叶えること。


―――――けれど、その役目を放棄した上で私は貴方の言う道を見てみたい。


―――――故に決断。私はもう貴方の邪魔はしないと約束しよう。


 礼を言う。ありがとう。


―――――返礼。礼を言うのはこちらの方だ。この世界に貴方のような人間がいたことに感謝する。


―――――では行くがいい不器用な人の子よ。己の矜持を貫くがいい。


―――――そしてできることならば、彼に教えてあげて欲しい。


―――――自分が、何のために戦っているのかを。


 *


 決闘場は土煙が蔓延していた。

 ヤマトが放った一撃。それはミハエルだけではなく、周囲をも巻き込んだ一撃だった。彼の周囲の地面はえぐれ、削れている。それだけ先程の一撃の威力が強かったという証拠だ。

 素晴らしい。

 そんな言葉をザルクスは心の中で呟いた。

 自らの衣装が粉塵によって汚れていたが、そんなものは今の彼にはどうでも良かった。

 決闘場を見渡せば、被害は相当なもの。もしかしたら死者もいるかもしれない。

 だが、それがどうしたという?

 こんな事実を見せつけられて、興奮しないわけがないだろうに。

 もしもこれを戦場で放たれればどうなる? 戦況は一気に変化してしまうだろう。そして、これを超える武具などこの世には存在しないはずだ。

 誰かが言っていた。異世界人は神の加護を与えられている。その力は一つの軍にも匹敵する、と。正しくその通りではないか。

 この結果が分かっただけでも今日の決闘は意味があったものだといえよう。

 そして何より。

 反対派閥の一人を倒せたことは大きな収穫である。


「はぁ、はぁ…………勝った」


 ヤマトは息を切らしながら勝利宣言を口にした。

 初めて使った技だったが、その威力は目の前の光景が物語っている。体力の消費は想像以上のものだったが、しかし自分の欲しい結果は出せた。


「マリーッ!!」


 少年は少女がいる方を見ながら叫ぶ。


「帰ろうぜ……俺達の居るべき場所に」


 もはや自分達を邪魔する者も障害もない。観客である貴族もそして混じっている市民も誰も彼もがヤマトが勝利したと確信していた。当然である。あのような一撃を受けてただで済むわけがない。故に誰も彼の言葉に文句はつけられないし、このままマリーを攫ったとしても当事者の親族以外は何もしないだろう。

 そして、そんな周りの雰囲気に笑みを零しながら、ザルクスは遅めの宣言をしようとする。


「勝者、ヤマト・キサラ……」

「愚か者が」


 しかし。

 それを国王であるエサルが難しい表情で口を挟んだ。


「陛下……?」

「嘆かわしいな、ザルクス。立会人であるならば決闘の見極めができんでどうする。それからそこの異世界人。何を終わったかのような顔をしている」

「何を、言って……」

「皆まで言わなければ分からんか?」


 その時である。

 土煙の中から砂利を踏む音が聞こえてきた。

 ヤマトにザルクス、それから周囲にいる全員がその音の方へと視線を向ける。


「決闘はまだ、終わっとらんということだ」


 そこにいたのは血まみれの巨漢。

 だらりと垂れ下がっている左腕からは血が徐々に落ちている。切断はしていないが、それでもボロボロなのは目に見えていた。

 それだけではない。口の傍からも隠しきれないほどの血反吐が見えており、額から流れている血のせいか、右目が閉じていた。

 だが、しかし、けれども。

 そんな状態であってもミハエル・B・ブラッドはその場にて立っていた。


「あんた……」

「どうした、信じられないような顔をして。そんなに私が立っていることが不思議か? まぁ、そんなことはどうでもいいだろう? さぁ、続きを始めるとしよう」


 そういって剣を構えるミハエルにザルクスが待ったをかける。


「ま、待ちたまえ、ミハエル卿。その状態でまだ戦うつもりか……?」

「当然です、ザルクス王子。この決闘の勝敗は相手を戦闘不能にするか、自ら負けを認めるか、はたまたトドメをさすか。そして私はまだ戦えるし、負けを認めるつもりもなく、未だ生きている。ならば決闘は続行でしょう」


 何ら問題はないと言わんばかりな口調にザルクスは思わず目を丸くさせた。

 血だらけの状態で、しかも見るからにして左腕はもはや使い物にならない。体の至るところが負傷している。痛々しいなどという言葉では足りない。足りさなすぎる。

 だというのに、目の前の男はこうして立ち、そして未だ戦うと言っているのだ。

 未だ驚きと納得がいかないような顔をするザルクスだったが、本人がやると言っている以上、止めることはできない。そして彼からしてみればこのまま続けたところで何のデメリットもないと考えたのだろう。

 それが、どれだけ浅はかなことかを知らずに。


「剣を構えろ、ヤマト・キサラギ。我々の戦いはまだ終わってはいない」

「……んで……」


 小さな声はミハエルには届かない。

 それを見越してか、ヤマトはさらに大きな声で言い放つ。


「何で、立てるんだよ。そうまでして俺達の邪魔をしたいのか!! 俺は、俺達はただ元の日常に戻りたいだけなのに……みんながいるあの日常に!!」


 その言葉を聞いてミハエルは想う。

 ああ、ようやくこの少年の本心を聞けたのだ、と。今までとは違う、本来の彼の意思。マリー殿のために戦うという気持ちは嘘ではないだろう。だが、それよりも優っている何か。それを今、彼はさらけ出したのだ。

 そして同時に理解する。

 少年の剣が何故こうまで空っぽなのかを。


「それが君の本当の言葉か……だとするのなら、君は大きな勘違いをしているな」

「な、に……?」

「君は何度も言った。マリー殿のために戦っている、と……だが、今の言葉はなんだ? ただ元の日常戻りたい……それは君自身がそう願っているからではないか?」

「そ、れは……」

「君はマリー殿を助けたいのではない。マリー殿やあの少女達との日常を取り戻そうとしている。それはほかでもない、君が望んでいることだろう?」

「何が……何がいいたい!?」


 怒気が含まるその一言にミハエルは臆することなく答えた。




「結局のところ、君も自分のために戦っているにすぎない、ということだ」




 瞬間。

 剣を握るヤマトの力が強くなる。

 そして一も二もなく、襲いかかった。

 ヤマトの一撃をミハエルは細いレイピアで巧く受け止めた。

 鉄と鉄がせめぎ合う奇妙な音がする中でヤマトは言う。


「訂正、しろ……俺は、自分のためになんて戦ってなんか、いないと!!」

「いいやしない。今の反応でより一層確信した。君はそういう(・・・・)人間なのだろう?」

「っ!!」


 言葉にならない怒りを剣に込めながらヤマトはミハエルの剣を払った。と同時に二人は間合いを取るために背後へと下がった。

 ゆらり、剣を前へと構えるヤマト。

 その姿はまるで幽鬼のように殺気に溢れかえっていた。


「いいぜ、もう分かった。あんたがどんな状態だろうと関係ない。ここで徹底的に、完膚無きまでに、再起不能にしてやるよ!!」

「やれるものならやってみるといい。君の全てを私にぶつけてみせろ!!」


 同時に踏み出し、二つの剣がぶつかり合う。

 そうして決闘の最終章が幕を開いたのだった。

恐らく、月曜日には完結すると思います……多分。

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